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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B21C |
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管理番号 | 1322300 |
異議申立番号 | 異議2016-700708 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-09 |
確定日 | 2016-11-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5867474号発明「電縫溶接部の信頼性に優れた高炭素電縫溶接鋼管の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5867474号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5867474号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成25年9月25日に特許出願され、平成28年1月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人新日鐵住金株式会社により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第5867474号の請求項1ないし7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 素材鋼板を冷間加工により略円筒形状に成形したのち、相対する端面同士を突合せ電縫溶接して電縫溶接鋼管とする電縫溶接鋼管の製造方法において、 前記素材鋼板を、質量%で、 C:0.30?0.60%、Si:0.05?0.50%、Mn:0.30?2.0%、Al:0.50%以下、N:0.0100%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の高炭素鋼板とし、 前記電縫溶接後に、絞り率:0.8%以下の冷間絞り圧延を施したのち、直ちに再加熱しあるいは冷却して再加熱し、850℃以上の温度域で、縮径率:10%以上の熱間縮径圧延を施して、信頼性に優れた電縫溶接部とすることを特徴とする高炭素電縫溶接鋼管の製造方法。 【請求項2】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.2%以下、Mo:1.0%以下、W:1.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高炭素電縫溶接鋼管の製造方法。 【請求項3】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.04%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高炭素電縫溶接鋼管の製造方法。 【請求項4】 前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.0005?0.0050%を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高炭素電縫溶接鋼管の製造方法。 【請求項5】 前記再加熱が、高周波誘導加熱手段による加熱であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の高炭素電縫溶接鋼管の製造方法。 【請求項6】 高炭素電縫鋼管を素材として自動車部品を製造する自動車部品の製造方法であって、前記素材が、請求項1ないし5のいずれかに記載の高炭素電縫溶接鋼管の製造方法を用いて製造された高炭素電縫鋼管であることを特徴とする自動車部品の製造方法。 【請求項7】 前記自動車部品が、フロントフォーク、ラックバー、ドライブシャフト、タイロッド、ステーターシャフト、カムシャフトのうちのいずれかである請求項6に記載の自動車部品の製造方法。」 3.申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として特開2012-246550号公報(以下「刊行物1」という。)、特開昭64-17820号公報(以下「刊行物2」という。)、西村,竹内,村上,讃井,「電縫鋼管の製造工程における降伏応力の変化と残留応力」,鋼構造論文集,社団法人日本鋼構造協会,平成9年3月,第4巻,第13号,p.53-62(以下「刊行物3」という。)、特開2006-289482号公報(以下「刊行物4」という。)、特開平6-179945号公報(以下「刊行物5」という。)を提出し、請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 4.刊行物の記載 (1)刊行物1には、次の発明が記載されている。 「【請求項1】 電縫鋼管の電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、99ppm以下であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管。 【請求項2】 前記電縫鋼管が、質量%で、C:0.03?0.59%、Si:0.10?1.50%、Mn:0.40?2.10%、Al:0.01?0.35%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する電縫鋼管であることを特徴とする請求項1に記載の電縫鋼管。 【請求項3】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001?0.0040%を含有することを特徴とする請求項2に記載の電縫鋼管。 【請求項4】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01?1.09%を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の電縫鋼管。 【請求項5】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01?0.35%、Mo:0.01?0.25%、Ni:0.01?0.20%、B:0.001?0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の電縫鋼管。 【請求項6】 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001?0.06%、V:0.001?0.06%、Ti:0.001?0.08%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の電縫鋼管。 【請求項7】 鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、 前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。 記 foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1) ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%) 【請求項8】 鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、 前記電縫溶接工程後に、前記電縫鋼管を高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720?1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、ついで空冷または水冷する縮径圧延工程を施すことを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。 【請求項9】 鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接して電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、 前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であり、 前記電縫溶接工程後に、前記電縫鋼管に、高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720 ?1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、ついで、空冷または水冷する縮径圧延工程を行うことを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。 記 foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1) ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%) 【請求項10】 前記電縫溶接工程が、前記電縫溶接して電縫溶接部を形成した後に、該電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720?1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を行う電縫溶接部熱処理を含む工程であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の電縫鋼管の製造方法。 【請求項11】 前記電縫溶接部への加熱が、高周波誘導加熱により行う加熱であることを特徴とする請求項10に記載の電縫鋼管の製造方法。 【請求項12】 前記冷却のあとに、焼戻温度:650℃以下の焼戻処理を施すことを特徴とする請求項10または11に記載の電縫鋼管の製造方法。」 (2)刊行物2ないし刊行物5には、電縫鋼管の製造過程において、電縫溶接後に冷間加工をするという技術的事項が記載されている。 5.判断 (1)請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1発明」という。)とを対比すると、次の点で相違する。 ア 相違点1 本件特許発明1においては、Cの含有量が0.30?0.60%であるのに対し、刊行物1発明では、Cの含有量が0.03?0.59%である点。 イ 相違点2 本件特許発明1においては、電縫溶接後に、絞り率:0.8%以下の冷間絞り圧延を施すのに対し、刊行物1発明では、この点が示されていない点。 まず、相違点1について検討する。 数値範囲の上限は、本件特許発明1が0.60%であり、刊行物1発明が0.59%であり、実質的な相違とは認められない。 しかしながら、数値範囲の下限は、本件特許発明1が0.30%であり、刊行物1発明が0.03%であり、本件特許発明1は刊行物1発明に対して下限値をより限定した発明となっている。 すなわち、本件特許発明1の方が、刊行物1発明に対してより数値範囲を限定しており、同一ということはできない。 次に、刊行物1発明において、0.30%以上に限定することが容易であったかどうかについて検討する。 刊行物1の表1にCの成分量が示されているが、Cが0.30?0.60%のものは一つも存在しない。また、刊行物1に接した当業者が、実施例に記載されていないCが0.30?0.60%の範囲で発明を実施しようとする動機付けを見いだすこともできない。 したがって、相違点1は実質的な相違である。 ここで、他の刊行物について検討すると、刊行物5の表1において、No.1,2,8,9の例が、本件特許発明1の素材鋼板の組成を満たすものの、刊行物5は冷間絞りを行っており、本件特許発明1の熱間縮径圧延とは異なり、刊行物5の素材鋼板を刊行物1発明に適用する動機付けも存在しない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし5に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。 この点に関して、異議申立人は異議申立書第17頁第4行において、「両成分組成は同じ」と主張しているが、例えば0?100%と記載した先行技術が、より狭い範囲に数値限定した後願を全て排除できるということにはならないのであるから、係る主張は妥当でない。 (2)請求項2ないし7に係る発明について 請求項2ないし7に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし5に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。 以上のとおり、請求項1ないし7に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし5に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-16 |
出願番号 | 特願2013-197819(P2013-197819) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B21C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 福島 和幸 |
特許庁審判長 |
栗田 雅弘 |
特許庁審判官 |
西村 泰英 平岩 正一 |
登録日 | 2016-01-15 |
登録番号 | 特許第5867474号(P5867474) |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | 電縫溶接部の信頼性に優れた高炭素電縫溶接鋼管の製造方法 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | ▲徳▼永 英男 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 落合 憲一郎 |
代理人 | 福地 律生 |