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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1322302
異議申立番号 異議2016-700750  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-17 
確定日 2016-11-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5864571号発明「カード用シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5864571号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5864571号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成24年4月9日(優先権主張 平成23年6月21日)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月8日に設定登録がされ、平成28年2月17日に特許掲載公報が発行され、平成28年8月17日に特許異議申立人山本美映子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5864571号の請求項1ないし7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)共重合ポリエステル系樹脂と(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂とのポリマーアロイからなるカード用シートであって、
前記ポリマーアロイを構成する前記(A)共重合ポリエステル系樹脂は、(a)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位と(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)、及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)を主とするグリコール単位とからなり、
前記1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)と2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)との割合が、前記(I)/前記(II)=80?50/20?50モル%であり、
前記(A)共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
更に、前記ポリマーアロイを構成する前記(A)共重合ポリエステル系樹脂と前記(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂との割合が、前記(A)共重合ポリエステル系樹脂20?80質量%、前記(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂80?20質量%であり、
前記ポリマーアロイ100質量部に、レーザー光エネルギー吸収体を、0.0001?3質量部含ませてなるカード用シート。
【請求項2】
前記カード用シートの厚みが、50?400μmからなる請求項1に記載のカード用シート。
【請求項3】
前記ポリマーアロイ100質量部に、滑剤として、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、及び脂肪酸金属塩から選ばれる少なくとも1種を、0.01?3質量部含ませてなる樹脂組成物からなる請求項1又は2に記載のカード用シート。
【請求項4】
レーザーマーキング用シートとして用いられる請求項1に記載のカード用シート。
【請求項5】
前記ポリマーアロイ100質量部に、白色系染料及び/又は白色系顔料を、3質量部以上含ませてなる樹脂組成物からなる請求項1?3の何れか一項に記載のカード用シート。
【請求項6】
コア用シートとして用いられる請求項5に記載のカード用シート。
【請求項7】
前記カード用シートの少なくとも片面が、平均表面粗さ(Ra)0.1?10μmのマット加工が施されている請求項1?6の何れか一項に記載のカード用シート。」
(請求項1ないし7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、請求項1ないし3、5に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項3号に該当するから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである、または、請求項1ないし7に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証 米国特許出願公開2007/0106054号明細書(以下、「甲1」という。)
甲第2号証 特開2009-72993号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証 特開2009-279905号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証 米国特許出願公開2005/0170961号明細書(以下、「甲4」という。)
甲第5号証 新版高分子辞典、高分子学会編、朝倉書店、p435、p479、1998年11月25日、初版第1刷(以下、「甲5」という。)

第4 刊行物の記載
1 甲1には、インヘレント粘度と高いガラス転移点との特定の組み合わせを有するシクロブタンジオールを含むポリエステル組成物及びそれから製造される物品に関して、次の事項が記載されている。
また、記載について括弧書きで合議体訳を付した。

(ア)「1 . A polyester composition comprising at least one polyester which comprises:
(a) a dicarboxylic acid component comprising:
i) 70 to 100 mole % of terephthalic acid residues;
ii) 0 to 30 mole % of aromatic dicarboxylic acid residues having up to 20 carbon atoms; and
iii) 0 to 10 mole % of aliphatic dicarboxylic acid residues having up to 16 carbon atoms; and
(b) a glycol component comprising:
i) 25 to 40 mole % of 2,2,4,4-tetramethyl- cyclobutanediol residues; and
ii) 60 to 75 mole % of cyclohexanedimethanol residues,
wherein the total mole % of the dicarboxylic acid component is 100 mole %, and the total mole % of the glycol component is 100 mole %; and
wherein the inherent viscosity of said polyester is from 0.35 to less than 0.70 dL/g as determined in 60/40 (wuwt) phenol/tetrachloroethane at a concentration of 0.25 g/50 ml at 25℃C.; and wherein said polyester has a Tg from 110 to 200℃.
2 . The composition of any of claim 1 wherein the glycol component comprises 30 to 40 mole % of 2,2,4,4-tetramethyl-1,3-cyclobutanediol residues and 60 to 70 mole % of 1,4-cyclohexanedimethanol residues.
79 . A film or sheet comprising a polyester composition according to claim 1 .
86 . A blend comprising:
(a) at least one polyester of claim 1 in an amount from 5 to 95 weight %; and (b) at least one polymeric component in an amount from 5 to 95 weight %.
87 . A blend of claim 86 , wherein the at least one polymeric component is chosen from at least one of the following: nylons; polyesters other than the polyester of claim 1; polyamides; polystyrene; polystyrene copolymers; styrene acrylonitrile copolymers; acrylonitrile butadiene styrene copolymers; poly(methylmethacrylate); acrylic copolymers; poly(ether-imides); polyphenylene oxides, such as poly(2,6-dimethylphenylene oxide); or poly(phenylene oxide)/polystyrene blends; polyphenylene sulfides; polyphenylene sulfide/sulfones; poly(ester-carbonates); polycarbonates; polysulfones; polysulfone ethers; and poly(ether-ketones) of aromatic dihydroxy compounds. 」(特許請求の範囲1、2、79、86、87)
(1 (a)i)テレフタル酸残基70?100モル%;
ii)炭素数20以下の芳香族ジカルボン酸残基0?30モル%;及び
iii)炭素数16以下の脂肪族ジカルボン酸残基0?10モル%
を含むジカルボン酸成分;並びに
(b)i)2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基25?40モル%;及び
ii)シクロヘキサンジメタノール残基60?75モル%
を含むグリコール成分
を含む少なくとも1種のポリエステルを含んでなり(ここで前記ジカルボン酸成分の総モル%は100モル%であり且つ前記グリコール成分の総モル%は100モル%である)、前記ポリエステルのインヘレント粘度が、60/40(wt/wt)フェノール/テトラクロロエタン中で0.25g/50mlの濃度において25℃で測定した場合に、0.35dL/g?0.70dL/g未満であり且つ前記ポリエステルが110?200℃のTgを有するポリエステル組成物。
2 前記グリコール成分が2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基30?40モル%及び1,4-シクロヘキサンジメタノール残基60?70モル%を含む請求項1に記載の組成物。
79 請求項1に記載のポリエステル組成物を含んでなるフィルム又はシート
86 (a)5?95重量%の量の請求項1に記載の少なくとも1種のポリエステル;及び
(b)5?95重量%の量の少なくとも1種のポリマー成分
を含んでなるブレンド。
87 前記の少なくとも1種のポリマー成分がナイロン;請求項1に記載のポリエステル以外の他のポリエステル;ポリアミド;ポリスチレン;ポリスチレンコポリマー;スチレン・アクリロニトリルコポリマー;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー;ポリ(メチルメタクリレート);アクリルコポリマー;ポリ(エーテル-イミド);ポリフェニレンオキシド、例えばポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド);又はポリ(フェニレンオキシド)/ポリスチレンブレンド;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンスルフィド/スルホン;ポリ(エステル-カーボネート);ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリスルホンエーテル;及び芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ(エーテル-ケトン)のうち少なくとも1種から選ばれる請求項86に記載のブレンド。)

(イ)「[0008] It is believed that certain compositions formed from terephthalic acid residues, or an ester thereof, cyclohexanedimethanol residues; and 2,2,4,4-tetramethyl-1,3-cyclobutanediol residues with a certain combination of inherent viscosity and glass transition temperatures are superior to polyesters known in the art and to polycarbonate with respect to one or more of high impact strengths, hydrolytic stability, toughness, chemical resistance, good color and clarity, long crystallization half-times, low ductile to brittle transition temperatures, lower specific gravity and/or thermoformability. These compositions are believed to be similar to polycarbonate in heat resistance and are still processable on the standard industry equipment. 」(段落[0008])
(テレフタル酸残基又はこれらのエステル、シクロヘキサンジメタノール残基及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基から形成され、インヘレント粘度及びガラス転移温度の特定の組合せを有する特定の組成物は、高衝撃強度、加水分解安定性、堅牢、化学薬品耐性、良好な色彩及び透明性、・・・及び/又は熱成形性点で、従来公知のポリエステル及びポリカーボネートよりも優れていると考えられる。これらの組成物は、熱抵抗の点でポリカーボネートと同様であり、標準的な工業設備で加工可能である。)

(ウ)「[1584]・・・ If polycarbonate is used in a blend in the polyester compositions useful in the invention, the blends can be visually clear. However, the polyester compositions useful in the invention also contemplate the exclusion of polycarbonate as well as the inclusion of polycarbonate.
[1585] Polycarbonates useful in the invention may be prepared according to known procedures・・・」(段落[1585])
(ポリカーボネートをブレンド中に用いる場合は、ブレンドは視覚的に透明であろう。本発明において有用なポリエステル組成物は、ポリカーボネートを含むことと同様にポリカーボネートを含まないことも考慮する。
本発明において有用なポリカーボネートは、公知の方法で調整することができる。)

(エ)「[1592]・・the polyester compositions and the polymer blend compositions containing the polyesters of this invention may also contain from 0.01 to 25% by weight ・・・of the total weight of the polyester composition of common additives,・・・ 」(段落[1592])
(本発明のポリエステル組成物およびポリマーブレンドは公知の添加剤を、ポリエステル組成物総量に対して0.01?25重量%含んでいてもよく)

(オ)「[1595] Reinforcing materials may be useful in the compositions of this invention. The reinforcing materials may include, but are not limited to, carbon filaments, silicates, mica, clay, talc, titanium dioxide,・・・」(段落[1595])
(本発明の組成物において補強材は有用であろう。補強材としては、限定されないがカーボンフィラメント、シリケート、マイカ、クレイ、タルク、二酸化チタン等が挙げられる。)

(カ)「[1602] The invention further relates to the film(s) and/or sheet(s) comprising the polyester compositions of the invention. The methods of forming the polyesters into film(s) and/or sheet(s) are well known in the art. Examples of film(s) and/or sheet(s) of the invention including but not limited to extruded film(s) and/or sheet(s), calendered film(s) and/or sheet(s), compression molded film(s) and/or sheet(s), solution casted film(s) and/or sheet(s). Methods of making film and/or sheet include but are not limited to extrusion, calendering, compression molding, and solution casting.
[1603] Examples of potential articles made from film and/or sheet useful in the invention include, but are not limited, to uniaxially stretched film, biaxially stretched film, shrink film (whether or not uniaxially or biaxially stretched, liquid crystal display film (including but not limited to diffuser sheets, compensation films and protective films), thermoformed sheet, graphic arts film, outdoor signs, skylights, coating(s), coated articles, painted articles, laminates, laminated articles, and/or multiwall films or sheets. 」(段落[1602]、[1603])
(本発明は、更に、本発明のポリエステル組成物を含むフィルム及び/又はシートに関する。ポリエステルからのフィルム及び/又はシートの形成方法は当業界でよく知られている。本発明のフィルム及び/又はシートの例としては、押出フィルム及び/又はシート、カレンダードフィルム及び/又はシート、圧縮成形フィルム及び/又はシート並びに溶液キャストフィルム及び/又はシートが挙げられるが、これらに限定するものではない。フィルム及び/又はシートの製造方法としては、押出、カレンダリング、圧縮成形及び溶液キャストが挙げられるが、これらに限定するものではない。
本発明において有用な、フィルム及び/又はシートから製造される可能性のある物品の例としては、一軸伸張フィルム、二軸伸張フィルム、収縮フィルム(一軸又は二軸伸張されていてもいなくても)、液晶ディスプレイフィルム(拡散板、補償フィルム及び保護フィルムを含むが、これらに限定するものではない)、熱成形シート、グラフィックアートフィルム、屋外サイン(屋外看板又は屋外標識)、天窓、コーティング、被覆物品、塗装物品、積層品、ラミネート加工品、及び/又は多層フィルム若しくはシートが挙げられるが、これらに限定するものではない。)

2 甲2には、カード用オーバーシートに関して、次の事項が記載されている。

(キ)「【請求項1】
スキン層とコア層を有し、共押出法により積層される少なくとも3層のシートから形成されるカード用オーバーシートであって、
前記3層シートの両最外層であるスキン層が、[A-1]テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90?30/10?70モル%である共重合ポリエステル樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩から選ばれる少なくとも1種の滑剤を0.01?3質量部含んでなる実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなり、エネルギー吸収体であるカーボンブラックを0.0001?3質量部、又は、カーボンブラックと平均粒子径100nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種との混合物の配合量が0.0001?6質量部であり、
更に、前記3層シートの全厚さが50?150μmからなり、かつ、前記コア層の厚さの、前記3層シートの全厚さに対して占める割合が25%以上、75%未満からなる、カード用オーバーシート。」(請求項1)

(ク)「本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、オーバーシートへのレーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、さらには、カードの積層工程におけるシートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性、透明性を兼ね揃えたカード用オーバーシートを提供することにある。」(段落【0007】)

3 甲3には、レーザーマーキング用多層シートに関して、次の事項が記載されている。

(ケ)「【請求項1】
多層シートAと多層シートBを積層してなるレーザーマーキング多層シートであって、
前記多層シートAは、スキン層とコア層を有し、共押出法により積層される少なくとも3層のシートから形成される透明レーザーマーキング多層シートであって、
前記多層シートAの両最外層であるスキン層が、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90?30/10?70モル%である共重合ポリエステル樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩から選ばれる少なくとも1種の滑剤を0.01?3質量部含んでなる実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなるとともに、
前記多層シートAのコア層が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、エネルギー吸収体であるカーボンブラックを0.0001?3質量部、又は、カーボンブラックを0.0001?3質量部と平均粒子径150nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種を0?6質量部との混合物を含んでなるポリカーボネート系樹脂組成物からなり、
更に、前記多層シートAの全厚さが50?150μmからなり、かつ、前記コア層の厚さの、前記多層シートAの全厚さに対して占める割合が35%以上、85%未満からなる多層シートであり、
前記多層シートBは、スキン層とコア層を有し、共押出法により積層される少なくとも3層のシートから形成される着色レーザーマーキング多層シートであって、
前記多層シートBの両最外層であるスキン層が、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90?30/10?70モル%である共重合ポリエステル樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩から選ばれる少なくとも1種の滑剤を0?3質量部含んでなる実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなるとともに、
前記多層シートBのコア層が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、エネルギー吸収体であるカーボンブラックを0.0001?3質量部、又は、カーボンブラックを0.0001?3質量部と金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種を0?6質量部との混合物及び着色系無機顔料を1質量部以上含んでなるポリカーボネート系樹脂組成物からなり、
更に、前記多層シートBの全厚さが50?250μmからなり、かつ、前記コア層の厚さの、前記多層シートBの全厚さに対して占める割合が35%以上、85%未満からなる多層シートであるレーザーマーキング多層シート。」(請求項1)

(コ)「本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供することにある。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れている。」(段落【0011】)

4 甲4には、情報記録表示カード、それを用いる画像処理方法と画像処理装置に関して、次の事項が記載されている。
また、記載について括弧書きで合議体訳を付した。

(タ)「1 . An information recording-displaying card, comprising:
a core sheet; and
an over sheet bonded to the core sheet,
wherein the over sheet comprises:
a support which comprises an amorphous polyester resin, and
a reversible thermosensitive recording layer disposed on the support,
wherein the reversible thermosensitive recording layer comprises:
an electron-donating coloring compound, and
an electron-accepting compound,
wherein the reversible thermosensitive recording layer is capable of forming a coloring state and a decolorizing state, with a difference in at least one of the following:
a heating temperature, and
a cooling rate after a heating, and
wherein the over sheet is embossable in an upper portion thereof, functions as an image displaying section, and meets the following condition (A), condition (B) and condition (C):
condition (A) (the over sheet's upper limit temperature for erasing-30℃.)>(the over sheet's temperature of a storage elasticity E' (1.0 E+08) Pa),
condition (B) 10 μm or less of a surface waviness, and
condition (C) 1.0 E+02 Pa≦(the storage elasticity E' of the reversible thermosensitive over sheet at 180℃.)≦5.0 E+07 Pa. 」(請求項1)
(コアシートおよび当該コアシートに接着したオーバーシートを含む情報記録表示カードであって、
当該オーバーシートは、非晶質ポリエステル樹脂含む支持体および当該支持体上に設けられた感熱性可逆記録層を含み、
当該感熱性可逆記録層は、電子供与性着色化合物および電子受容性化合物を含み、かつ少なくとも以下に示す差違によって着色状態および脱色状態を形成でき:
加熱温度、
加熱後の冷却速度、
前記オーバーシートは上部がエンボス加工可能であり、像表示部として機能し、さらに以下の条件(A)、(B)、(C)を満たす:
条件(A):[オーバーシートの像消去温度の上限-30℃]>[オーバーシートの貯蔵弾性率E’(1.0E+08)のときの温度]
条件(B):表面うねりが10μm以下
条件(C):1.0E+02Pa≦感熱性可逆記録層の180℃での貯蔵弾性率E’≦5.0E+07Pa)

5 甲5には、ポリマーアロイ、離型剤に関して、次の事項が記載されている。

(チ)


」(435頁)

(ツ)


」(479頁)

第5 対比・判断
1 甲1に記載された発明
甲1には、上記第4 1(ア)、(ウ)ないし(カ)からみて次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「(a)i)テレフタル酸残基70?100モル%;
ii)炭素数20以下の芳香族ジカルボン酸残基0?30モル%;及び
iii)炭素数16以下の脂肪族ジカルボン酸残基0?10モル%
を含むジカルボン酸成分;並びに
(b)i)2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基30?40モル%;及び
ii)1,4-シクロヘキサンジメタノール残基60?70モル%
を含むグリコール成分
を含む少なくとも1種のポリエステルを含んでなり(ここで前記ジカルボン酸成分の総モル%は100モル%であり且つ前記グリコール成分の総モル%は100モル%である)、前記ポリエステルのインヘレント粘度が、60/40(wt/wt)フェノール/テトラクロロエタン中で0.25g/50mlの濃度において25℃で測定した場合に、0.35dL/g?0.70dL/g未満であり且つ前記ポリエステルが110?200℃のTgを有するポリエステル組成物を含み、
(a)5?95重量%の量の少なくとも1種の上記ポリエステル;及び
(b)5?95重量%の量のポリカーボネートを含んでなるブレンドを含んでなるフィルム又はシートであって、
カーボンフィラメント、シリケート、マイカ、タルクまたは二酸化チタンをポリエステル組成物総量に対して0.01?25重量%含んでいるフィルム又はシート。」

2 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリエステル」は、本件発明1の「共重合ポリエステル系樹脂」に相当し、同様に「ポリカーボネート」は「ポリカーボネート系樹脂」に、「テレフタル酸残基」は「テレフタル酸単位」に、「2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基」は「2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)」に、「1,4-シクロヘキサンジメタノール残基」は「1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)」に、「フィルム又はシート」は「シート」に、それぞれ相当する。
そして、共重合ポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂の割合、(I)/(II)の割合、共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)について、甲1発明と本件発明1とは重複一致している。

以上の点からみて、本件発明1と甲1発明とは、

[一致点]
「(A)共重合ポリエステル系樹脂と(B)ポリカーボネート系樹脂とからなるシートであって、
前記(A)共重合ポリエステル系樹脂は、(a)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位と(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)、及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)を主とするグリコール単位とからなり、
前記1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)と2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)との割合が、前記(I)/前記(II)=80?50/20?50モル%であり、
前記(A)共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
更に、前記(A)共重合ポリエステル系樹脂と前記(B)ポリカーボネート系樹脂との割合が、前記(A)共重合ポリエステル系樹脂20?80質量%、前記(B)ポリカーボネート系樹脂80?20質量%である、シート。」

である点で一致し、

次の点で相違する。
[相違点1]
用途に関し、本件発明1では、カード用であると特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
ポリカーボネート系樹脂に関し、本件発明1では、芳香族ポリカーボネート系樹脂であると特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点3]
共重合ポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂の状態に関し、本件発明1では、ポリマーアロイであると特定するのに対して、甲1発明ではブレンドである点。

[相違点4]
添加剤に関し、本件発明1では、レーザー光エネルギー吸収体であると特定するのに対して、甲1発明ではカーボンフィラメント、シリケート、マイカ、タルクまたは二酸化チタンである点。

イ 判断
相違点1について
甲1には、上記第4 1(カ)に多層フィルム、多層シートが伸張フィルム等他の用途と並んで記載されるものの、多層フィルム、多層シートはシートの構造を特定するものであって、その使用形態が特定されるものでなく、また、甲1には上記第4 1(カ)に高衝撃強度、熱抵抗等の物性についての記載があるものの、それらの物性と記載される用途とを合わせても、カード用シートとすることが直ちに導かれるものでもない。
そうすると、フィルム、シートの用途について、甲1にはクレジットカード、ETCカード等のプラスチックカード用のシートとすることの記載、示唆はないというべきである。
さらに、甲2ないし甲4には非晶質ポリエステル系樹脂からなるカード用シートが記載されるものの、甲1発明において、甲2ないし甲4に記載される用途へ適用することの動機付けは何ら見い出せない。

よって、相違点2ないし4について詳細に検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2ないし7について
本件発明2、3及び5は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明ではない。
また、本件発明2ないし7は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、5は、甲1発明ではない。また、本件発明1ないし7は、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-09 
出願番号 特願2013-521494(P2013-521494)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
橋本 栄和
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5864571号(P5864571)
権利者 日本カラリング株式会社
発明の名称 カード用シート  
代理人 小池 成  
代理人 佐藤 博幸  
代理人 渡邉 一平  
代理人 木川 幸治  

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