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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1322304
異議申立番号 異議2016-700919  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-26 
確定日 2016-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第5895387号発明「半導体基板加熱用基板保持体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5895387号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5895387号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成23年7月21日に特許出願され,平成28年3月11日に特許の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人鶴亀國康により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
1 本件特許発明1
「【請求項1】
半導体基板の載置面とは反対側の面もしくは内部に半導体基板の加熱用の抵抗発熱体を備えた基板保持体であって,前記抵抗発熱体は円弧状パターンおよび折り返しパターンを交互に接続して構成される複数の同心円状部分と,該複数の同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに向かい合う折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分とからなり,前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子は前記直線状部分を間に挟んで配置された別々の同心円状部分にそれぞれ接続されており且つ前記直線状部分が延在する領域を挟んで位置していることによって,少なくとも500?700℃の使用温度において漏電が発生しないことを特徴とする半導体基板加熱用の基板保持体。」
2 本件特許発明2
「【請求項2】
前記互いに向かい合う折り返しパターン同士は前記基板保持体の周方向において向かい合っており,前記直線状部分は前記基板保持体の半径方向に延在していることを特徴とする,請求項1に記載の半導体基板加熱用の基板保持体。」
3 本件特許発明3
「【請求項3】
前記複数の同心円状部分は前記直線状部分の両側に1つずつ設けられた合計2つの同心円状部分からなり,これら2つの同心円状部分は互いに前記直線状部分を介して接続していることを特徴とする,請求項1または2に記載の半導体基板加熱用の基板保持体。」
4 本件特許発明4
「【請求項4】
前記直線状部分は,前記1対の給電端子との接続部の間で延在する前記抵抗発熱体の略中間に位置していることを特徴とする,請求項1?3のいずれかに記載の半導体基板加熱用の基板保持体。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は,下記2の証拠方法を提出し,(1)本件特許発明1ないし4は,甲第2号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり,(2)本件特許の特許請求の範囲の記載は,本件特許発明1ないし4が発明の詳細な説明に記載したものでないから,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,(3)本件特許の特許請求の範囲の記載は,本件特許発明1ないし4が明確でないから,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
2 証拠方法
甲第1号証:特開平11-260534号公報
甲第2号証:特開2001-223257号公報
甲第3号証:特開平11-317283号公報
甲第4号証:特開2005-197161号公報

第4 甲号証の記載
1 甲第2号証の記載と甲2発明
(1)甲第2号証
甲第2号証は,本件特許についての出願前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,主に,ホットプレート(セラミックヒータ),静電チャック,ウエハプローバなど,半導体の製造用や検査用の装置として用いられるセラミック基板に関し,特には,シリコンウエハ等の被加熱物を均一に加熱することができるセラミック基板に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体は,種々の産業において必要とされる極めて重要な製品であり,半導体チップは,例えば,シリコン単結晶を所定の厚さにスライスしてシリコンウエハを作製した後,種々の工程を経て,ウリコンウエハ上に回路等を形成することにより製造される。
【0003】具体的な工程として,例えば,シリコンウエハ上に感光性樹脂をエッチングレジストとして形成し,シリコンウエハのエッチングを行う工程等が挙げられる。この感光性樹脂は,通常,液状であり,スピンコータ等を用いてシリコンウエハ表面に塗布されるのであるが,塗布後に溶剤等を飛散させるため乾燥させなければならず,塗布したシリコンウエハをヒータ上に載置または保持して加熱することになる。」
イ「【0017】セラミック基板11は,円板状に形成されており,このセラミック基板11の底面には,多数の回路からなる抵抗発熱体12a?12g(以下,単に抵抗発熱体12ともいう)が形成されている。また,この抵抗発熱体12は,セラミック基板11の加熱面全体の温度が均一になるように,同心円状のパターンと屈曲線状のパターンとを組み合わせて形成されている。
【0018】これら抵抗発熱体12の両端には,入出力用の端子部13a?13n(以下,単に端子部13ともいう)が形成されており,この端子部13には,図3に示したように外部端子37がハンダ等を用いて接合されている。なお,図3には,図示していないが,この外部端子には,配線を備えたソケット等が接続され,電源との接続が図られるようになっている。」
ウ「【符号の説明】
・・・
19 半導体ウエハ(シリコンウエハ)」
エ 図1には,
セラミック基板11の外周側に位置する抵抗発熱体12aは,同心円状のパターンと折り返しパターンとが交互に接続された2個の部分(以下,「交互接続部分」という。)と,前記2個の交互接続部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに隣接する折り返しパターン同士の間の領域にセラミック基板11の半径方向に直線状に延在する部分(以下,「径方向部分」という。)とからなること,
前記2個の交互接続部分の折り返しパターン同士で,その間の領域に延在する径方向部分があるものは,半径方向に互いにずれた位置に配置されていること,
抵抗発熱体12aの両端には,入出力用の端子部(13a及び13b)が形成されており,入出力用の端子部は径方向部分を間に挟んで配置された別々の交互接続部分にそれぞれ接続されていること,
入出力用の端子部(13a及び13b)は,前記径方向部分より中心に近い位置にあること,
が記載されていると認められる。
オ また,図1には,抵抗発熱体12cの交互接続部分と端子部13fとの間に接続された直線状に延在する部分は,その隣接する抵抗発熱体12dの交互接続部分との間の領域に延在すること,抵抗発熱体12cはその両端が端子部13fと端子部13eに接続されており,一方抵抗発熱体12dはその両端が端子部13gと端子部13hに接続されていること,が記載されている。
カ 図3には,
半導体ウエハ19の載置面とは反対側の底面11bに抵抗発熱体12を備えること,
が記載されていると認められる。
(2)甲2発明
前記(1)より,甲第2号証には次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ウエハの載置面とは反対側の底面に抵抗発熱体を備えたセラミック基板であって,抵抗発熱体は,同心円状のパターンと折り返しパターンとが交互に接続された2個の交互接続部分と,前記2個の交互接続部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに隣接する折り返しパターン同士の間の領域にセラミック基板の半径方向に直線状に延在する径方向部分とからなり,前記2個の交互接続部分の折り返しパターン同士で,その間の領域に延在する径方向部分があるものは,半径方向に互いにずれた位置に配置されており,入出力用の端子部は径方向部分を間に挟んで配置された別々の交互接続部分にそれぞれ接続されており,入出力用の端子部は前記径方向部分より中心に近い位置にある,セラミック基板。」
2 甲第1号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には,次のとおりの記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体ウエハー等の被加熱物を処理するための,セラミックス基体中に発熱体が埋設されている加熱装置,およびその製造方法に関するものである。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし,窒化アルミニウム基体中に抵抗発熱体と高周波電極とを埋設して高周波発生用の電極装置を作製し,これを例えば600℃以上の高温領域で稼働させて見ると,高周波の状態,あるいは高周波プラズマの状態が不安定になることがあった。また,窒化アルミニウム基体中に抵抗発熱体と静電チャック電極とを埋設して静電チャック装置を作製し,これを例えば600℃以上の高温領域で稼働させて見た場合にも,静電吸着力に局所的にあるいは経時的に不安定が生ずることがあった。」
イ 「【0075】例えば,図8(即ち図5)に示すような平面的パターンを有する抵抗発熱体16の場合には,図8において右側の抵抗発熱体と左側の抵抗発熱体との間の特に連結部分16b,16dの近傍でリーク電流が生ずることを見いだした。このようなリーク電流が発生すると,その近傍に電流が集中し,ホットスポットが生ずるために,加熱面の温度の均一性が損なわれる。」
ウ 図8には,抵抗発熱体の連結部分16b,16dが折り返しパターンとなっており,隣接する折り返しパターンの全てが互いに向かい合っていること,が記載されていると認められる。
(2)甲1技術事項
前記(1)より,甲第1号証には次の事項(以下,「甲1技術事項」という。)
「半導体ウエハーの加熱装置において,600℃以上の高温稼働し,抵抗発熱体の間の連結部分にリーク電流が生ずること。」
3 甲第3号証及び甲第4号証の記載
(1)甲第3号証
甲第3号証には,次のとおりの記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,セラミックヒータに関するものであり,特に,CVD,PVD,スパッタリングなどの成膜装置やエッチング装置に用いられるセラミックヒータ,その中でも半導体製造装置用セラミックヒータとして好適なものである。
・・・
【0004】また,このようなセラミックヒータ11は,セラミックグリーンシート上に導体ペーストを印刷により図5に示すような発熱パターンRに敷設し,該発熱パターンRを覆うように別のセラミックグリーンシートを積層してグリーンシート積層体を形成したあと焼成することにより発熱体15を埋設してなるセラミック体12を製作し,該セラミック体12の一方の主面に研磨加工等を施して載置面13を形成するとともに,他方の主面に発熱体15と連通する凹部を設け,該凹部に給電端子16を接合することにより製作したものがあった(実開平2-56443号公報参照)。」
イ 図5には,発熱体15の発熱パターンRにおいて,隣接する折り返しパターンの全てが互いに向かい合っていること,が記載されていると認められる。
(2)甲第4号証
甲第4号証には,次のとおりの記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はヒーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置においては,熱CVDなどによってシランガスなどの原料ガスから半導体薄膜を製造するに当たって,ウエハーを加熱するためのセラミックヒーターが採用されている。このようなヒーターにおいては,加熱面を高温に維持しながら,加熱面の温度の均一性を確保することによって,半導体不良を防止する必要がある。しかし,セラミックヒーターは,セラミック基体の内部に発熱体を埋設したものであり,加熱面に,ある程度の温度のバラツキが発生する。」
イ 「【0015】
図1は,本発明の一実施形態に係るヒーター1における抵抗発熱体のパターンを示す平面図であり,図2(a)は,各並列接続部6A?6Jを示す平面図であり,図2(b)は,各並列接続部における抵抗値調整手段8A,8B,8Cを概略的に示す断面図である。」
ウ 図1には,抵抗発熱体の隣接する折り返しパターンの全てが互いに向かい合っていること,が記載されていると認められる。
(3)周知技術
前記(1)及び(2)並びに前記2(1)ウより,次の事項は周知技術と認められる。
「半導体ウエハーの加熱装置において,抵抗発熱体の隣接する折り返しパターンの全てが互いに向かい合っていること。」

第5 申立理由についての判断
1 特許法第29条第1項第3号
(1)本件特許発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「半導体ウエハ」は本件特許発明1の「半導体基板」に相当し,甲2発明の「セラミック基板」は半導体ウエハを保持して加熱する(前記第4の1(1)ア)から,甲2発明の「半導体ウエハの載置面とは反対側の底面に抵抗発熱体を備えたセラミック基板」は,本件特許発明1の「半導体基板の載置面とは反対側の面もしくは内部に半導体基板の加熱用の抵抗発熱体を備えた基板保持体」に相当すると認められる。
イ 甲2発明の「同心円状のパターン」は本件特許発明1の「円弧状パターン」に相当し,甲2発明の「同心円状のパターンと折り返しパターンとが交互に接続された2個の交互接続部分」は本件特許発明1の「円弧状パターンおよび折り返しパターンを交互に接続して構成される複数の同心円状部分」に相当すると認められる。
ウ 甲2発明の「前記2個の交互接続部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに隣接する折り返しパターン同士の間の領域にセラミック基板の半径方向に直線状に延在する径方向部分」と本件特許発明1の「該複数の同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに向かい合う折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分」は,下記相違点1を除いて,「該複数の同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに隣接する折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分」という点で共通する。
エ 甲2発明の「入出力用の端子部は径方向部分を間に挟んで配置された別々の交互接続部分にそれぞれ接続されており」は,本件特許発明1の「前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子は前記直線状部分を間に挟んで配置された別々の同心円状部分にそれぞれ接続されており」に相当すると認められる。
オ そして,本件特許発明1と甲2発明とは,下記カの点で一致するが,下記キの点で相違すると認められる。
カ 一致点
「半導体基板の載置面とは反対側の面もしくは内部に半導体基板の加熱用の抵抗発熱体を備えた基板保持体であって,前記抵抗発熱体は円弧状パターンおよび折り返しパターンを交互に接続して構成される複数の同心円状部分と,該複数の同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち,互いに隣接する折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分とからなり,前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子は前記直線状部分を間に挟んで配置された別々の同心円状部分にそれぞれ接続されていることを特徴とする半導体基板加熱用の基板保持体。」
キ 相違点
(ア)相違点1
本件特許発明1では,直線状部分がその間の領域に延在する折り返しパターン同士が「向かい合う」のに対し,甲2発明では,「前記2個の交互接続部分の折り返しパターン同士で,その間の領域に延在する径方向部分があるものは,半径方向に互いにずれた位置に配置されて」いる点。
(イ)相違点2
本件特許発明1では,「前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子」は「前記直線状部分が延在する領域を挟んで位置している」のに対し,甲2発明では,「入出力用の端子部は前記径方向部分より中心に近い位置にある」点。
(ウ)相違点3
本件特許発明1では,「前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子は前記直線状部分を間に挟んで配置された別々の同心円状部分にそれぞれ接続されており且つ前記直線状部分が延在する領域を挟んで位置していることによって,少なくとも500?700℃の使用温度において漏電が発生しない」のに対し,甲2発明では,前記特徴が開示されていない点。
(2)判断
ア 本件特許発明1は,甲2発明と,相違点1ないし3の点で相違するから,甲2発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ 特許異議申立人は,「屈曲線状パターンP2は,セラミック基板11の半径方向に互いにずれた位置に配置されているが,紙面左上から右下に向かう方向(当審注:折り返しパターンの短直線部分の法線方向に一致しない方向)において向かい合っていると言える」(特許異議申立書13頁1-5行)と主張するが,甲2発明の折り返しパターン同士は互いの正面が対向するものではないから,向かい合っているとは言えない。
ウ 特許異議申立人は,「甲第2号証の図3から,以下の点が看取できる。・・・セラミック基板11の半径方向に延在する部分(以下,「径方向部分P4」という)・・・径方向部分P4には,次の2つの接続形態のものがあること。・・・片方接続形態:隣り合う2つの交互接続部分P3の片方だけに接続されるとともに,当該片方の交互接続部分P3と端子部13との間に接続されている形態・・・以下,「片方接続形態の径方向部分P4-2」という。)」(特許異議申立書10頁6-14行)と主張し,この主張を前提として「1対の端子部13(例えば1対の端子部13f,13g・・・は,径方向部分P4を間に挟んで配置された別々の交互接続部分P3にそれぞれ接続されていること・・・1対の端子部13(例えば1対の端子部13f,13g)は,径方向部分P4を挟んで位置していること」(特許異議申立書12頁1-5行)と主張している。
しかし,そもそも図3には2つの接続形態の上位概念としての「径方向部分P4」は記載されていないし,2つの接続形態は異なるものであるから両者を混同して「径方向部分P4」とする特許異議申立人の主張は採用できない。
また,甲第2号証の図3には「1対の端子部13f,13g」は記載されていない。抵抗発熱体にはその両端に入出力用の端子部があり(前記第4の1(1)イ),抵抗発熱体の両端にある入力用と出力用の2つの端子部で1対の端子部をなすのであるから,図3に記載された端子部13f,13gはそのような関係になく(前記第4の1(1)オ),「1対の端子部」ではない。
エ 特許異議申立人は,「1対の端子部13e,13fと,1対の端子部13g,13hとは,径方向部分が延在する領域を挟んで位置していると言える・・・直線状部分が延在する領域は直線状部分拡張領域を意味する・・・」(特許異議申立書17頁15行-18頁10行)と主張するが,「直線状部分拡張領域」は特許異議申立人が独自に主張する概念でその内容が不明であるし根拠もない。仮に「直線状部分拡張領域」という概念を採用したとしても,1対の端子部13e,13fが「直線状部分拡張領域」を挟んで位置していると言える根拠が不明であるから,特許異議申立人の主張は採用できない。
なお,直線状部分が「延在する」とは,本件特許明細書段落【0016】【0017】に記載されているように,線状のものが存在するという意味であって,「拡張」の意味は認められない。
(3)小括
したがって,本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明でなく特許法第29条第1項第3号に該当しないから,本件特許の請求項1に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものではない。
(4)まとめ
同様に,本件特許発明1を引用した本件特許発明2ないし4についても,甲2発明とは,少なくとも相違点1ないし3で相違するから特許法第29条第1項第3号に該当せず,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものではない。
2 特許法第36条第6項第1号について
(1)「同心円状部分と直線状部分との位置関係」について
ア 特許異議申立人は「出願時の技術常識に照らしても,同心円状部分と直線状部分との位置関係に関し,本件特許発明1,2及び4の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない・・・本件特許発明1には,次の2つの抵抗発熱体の構成が含まれる・・・不完全分割構成・・・直線状部分が介在しない折り返しパターン対も存在する構成・・・直線状部分が介在しない折り返しパターン対において漏電の発生を抑制できない。このため・・・本件特許発明の課題を解決することができない。そして,本件の発明の詳細な説明には,・・・不完全分割構成について記載も示唆もない。・・・」(特許異議申立書22頁4行-24頁2行)と主張している。
イ 特許異議申立人の主張は,直線状部分が介在しない折り返しパターン対において漏電の発生を抑制できないとした上でこれを前提に論理を展開するものであるが,その前提において根拠がなく,したがって特許異議申立人の主張は採用できない。
(2)「直線状部分の形態」について
ア 特許異議申立人は「出願時の技術常識に照らしても,直線状部分の形態に関し,本件特許発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない・・・上述したように,本件特許発明1における「直線状部分」には,・・・片方接続形態・・・のものが含まれる。・・・図8のパターンのような片方接続形態では,漏電の発生を抑制することはできない。・・・そして,本件の発明の詳細な説明には,・・・片方接続形態について記載も示唆もない」(特許異議申立書24頁3行-25頁12行)と主張している。
イ 特許異議申立人の主張する「上述したように」とは,甲2号証の図3から「片方接続形態」が看取できるという主張(前記1(2)ウ)であって,本件特許発明1に「片方接続形態」が含まれるかどうかの根拠にはならない。特許異議申立人の主張はその前提において根拠がなく,採用することができない。
3 特許法第36条第6号第2号について
(1)「直線状部分と同心円状部分との位置関係」について
ア 特許異議申立人は「・・・発明特定事項Cには不完全分割構成(直線状部分が介在しない折り返しパターン対も存在する構成)も含まれる。一方・・・発明特定事項Dには,不完全分割構成は含まれないように解されるため,発明特定事項Cと発明特定事項Dとは整合しない」(特許異議申立書25頁14行-26頁4行)と主張している。
イ 発明特定事項Dとは「前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子は前記直線状部分を間に挟んで配置された別々の同心円状部分にそれぞれ接続されており且つ前記直線状部分が延在する領域を挟んで位置していることによって」である(特許異議申立書5頁5-27行)が,発明特定事項Dは1対の給電端子が接続される同心円状部分が別々であることを特定するだけで,不完全分割構成が含まれるかどうかとは無関係であるから,特許異議申立人の主張はその前提において失当である。
(2)「直線状部分が延在する領域」について
特許異議申立人は,独自の概念である「直線状部分拡張領域」(前記1(2)エ)や意見書の記載,特許異議申立人が「2回目の補正の根拠」と主張するものの間で整合がとれなくなる旨主張する(特許異議申立書26頁5行-27頁2行)が,その主張は根拠を欠いており,採用することができない。
(3)「漏電が発生しない」について
特許異議申立人は,本件特許発明1における「漏電が発生しない」とはどのような状態を意味するか,不明確である旨主張する(特許異議申立書27頁3-11行)が,「漏電」は技術用語であり,技術常識からその内容は明らかであると認められる。
(4)「前記基板保持体の周方向」及び「前記基板保持体の半径方向」について
特許異議申立人は,本件特許発明2における「前記基板保持体の周方向」及び「前記基板保持体の半径方向」に関し,本件特許発明2には,基板保持体の形状が特定されていないため,各方向がどの方向を意味するのか不明である旨主張する(特許異議申立書27頁12-20行)が,「周方向」,「半径方向」はいずれも技術用語であり,技術常識からその内容は明らかであると認められる。
(5)「略中間」について
特許異議申立人は,本件特許発明4における「略中間」とはどの程度の範囲まで含むか不明確である旨主張する(特許異議申立書27頁21行-28頁6行)。請求項4に記載された「直線状部分は,・・・抵抗発熱体の略中間に位置している」とは,直線状部分は一定の範囲を有するものなので,抵抗発熱体の中間点に対してその位置を同定することができないことを考慮したものであって,当業者にその意味は明らかであると認められる。
4 まとめ
上記1ないし3のとおり, 特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし4に係る各特許を取り消すことはできない。
 
異議決定日 2016-11-18 
出願番号 特願2011-159544(P2011-159544)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 樫本 剛  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
深沢 正志
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5895387号(P5895387)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 半導体基板加熱用基板保持体  
代理人 二島 英明  

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