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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F02N 審判 全部申し立て 2項進歩性 F02N |
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管理番号 | 1322307 |
異議申立番号 | 異議2016-700798 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-31 |
確定日 | 2016-11-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5875664号発明「エンジン始動制御装置およびエンジン始動制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5875664号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5875664号の請求項1ないし9に係る特許(以下、「請求項1に係る特許」ないし「請求項9に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成26年11月25日に特許出願され、平成28年1月29日に設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年8月31日に特許異議申立人 株式会社デンソー(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申し立てがされたものである。 第2 本件発明 請求項1ないし9に係る特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、それぞれ、本件出願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 エンジンと、 ベルトにより前記エンジンに常時連結されてエンジン始動および発電を行うモータジェネレータと、 インバータを介して前記モータジェネレータに接続されたバッテリと、 前記インバータを介して前記モータジェネレータを制御するモータジェネレータ制御回路と、 前記エンジンをクランキングするときに前記エンジンと連結されるスタータと、 前記スタータへ電力供給を行うための電気接点の開閉機能を有する電磁スイッチと、 前記エンジンに対してエンジン始動要求が発生したときに、 前記電磁スイッチの前記電気接点を閉状態とすることで前記スタータを起動させて、 前記エンジンと前記スタータが連結されることで前記エンジンをクランキングし、燃料噴射を開始させる第1制御と、 前記モータジェネレータ制御回路を制御することにより前記モータジェネレータをモータ機能として起動させる第2制御と、 前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動と同時かまたは前後して、前記電磁スイッチの前記電気接点を開状態とすることで前記スタータを停止させるとともに、前記スタータと前記エンジンとの連結を解除させる第3制御と、 エンジン始動完了後に前記モータジェネレータ制御回路を制御することにより前記モータジェネレータの前記モータ機能を停止させる第4制御と を実行することで、前記モータジェネレータと前記スタータによる併用始動制御を行う始動制御部と を備えたエンジン始動制御装置であって、 前記始動制御部は、 前記第2制御により前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動を行うタイミングと、前記第3制御により前記スタータを停止させるタイミングを、前記第1制御による前記燃料噴射の開始後、最初に発生する前記エンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降に設定し、 前記第2制御により前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動を行うタイミングを、第2圧縮行程の上死点に達する以前に設定する エンジン始動制御装置。 【請求項2】 前記始動制御部は、前記第3制御により前記スタータを停止させるタイミングを、前記第1制御による前記燃料噴射の開始後に発生する前記エンジンの第2圧縮行程の上死点に達する以前に設定する 請求項1に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項3】 前記エンジンのクランクシャフトの回転角度を検出するクランク角センサー をさらに備え、 前記始動制御部は、前記第1圧縮行程の上死点と、前記第2圧縮行程の上死点を、前記クランク角センサーの信号に基づくクランク角度から判断する 請求項1または2に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項4】 前記併用始動制御が行われる対象となる車両は、あらかじめ定められた条件を満足すると一時的にエンジンを停止させるアイドリングストップシステムが搭載された車両であり、 前記始動制御部は、前記エンジンが静止している状態から始動する場合に前記併用始動制御を実施する 請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項5】 前記始動制御部は、前記アイドリングストップシステムにおいて、前記あらかじめ定められた条件を満足して前記エンジンを停止させる過程の前記エンジンの惰性回転中にエンジン再始動要求が発生した場合には、前記モータジェネレータのみを起動させて、前記エンジンを再始動させる 請求項4に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項6】 前記電磁スイッチの前記電気接点が閉状態となった際に前記スタータへ電力供給を行うためのスタータ用バッテリをさらに備える 請求項1から5のいずれか1項に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項7】 前記電磁スイッチの前記電気接点が閉状態となった際に前記スタータに供給される電力は、前記バッテリから降圧されて供給される、 請求項1から5のいずれか1項に記載のエンジン始動制御装置。 【請求項8】 エンジンと、 ベルトにより前記エンジンに常時連結されてエンジン始動および発電を行うモータジェネレータと、 インバータを介して前記モータジェネレータに接続されたバッテリと、 前記インバータを介して前記モータジェネレータを制御するモータジェネレータ制御回路と、 前記エンジンをクランキングするときに前記エンジンと連結されるスタータと、 前記スタータへ電力供給を行うための電気接点の開閉機能を有する電磁スイッチと、 前記モータジェネレータ制御回路と前記電磁スイッチを制御することで、前記モータジェネレータと前記スタータによる併用始動制御を行う始動制御部と を備えたエンジン始動制御装置において、前記始動制御部により実行されるエンジン始動制御方法であって、 前記始動制御部において、 前記エンジンに対してエンジン始動要求が発生したか否かを判断する第1ステップと、 前記第1ステップにより前記エンジン始動要求が発生したと判断した場合に、前記電磁スイッチの前記電気接点を閉状態とすることで前記スタータを起動させて、前記エンジンと前記スタータが連結されることで前記エンジンをクランキングし、燃料噴射を開始させる第2ステップと、 前記モータジェネレータ制御回路を制御することにより前記モータジェネレータをモータ機能として起動させる第3ステップと、 前記第3ステップによる前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動と同時かまたは前後して、前記電磁スイッチの前記電気接点を開状態とすることで前記スタータを停止させるとともに、前記スタータと前記エンジンとの連結を解除させる第4ステップと、 エンジン始動完了後に前記モータジェネレータ制御回路を制御することにより前記モータジェネレータの前記モータ機能を停止させる第5ステップと を有し、 前記第3ステップによる前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動、および前記第4ステップによる前記スタータの停止は、前記第2ステップによる前記燃料噴射の開始後、最初に発生する前記エンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降に実行され、 前記第3ステップによる前記モータジェネレータの前記モータ機能としての起動は、第2圧縮行程の上死点に達する以前に実行される エンジン始動制御方法。 【請求項9】 前記始動制御部において、 前記第4ステップによる前記スタータの停止は、前記第2ステップによる前記燃料噴射の開始後に発生する前記エンジンの第2圧縮行程の上死点に達する以前に実行される 請求項8に記載のエンジン始動制御方法。」 第3 特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第6号証(以下、「甲1」ないし「甲6」という。)を提出し、次の異議理由を主張している。 1.各甲号証 甲1:特許第4421567号公報 甲2:特開2013-185444号公報 甲3:特開2008-286189号公報 甲4:特開2006-161676号公報 甲5:特開2004-239111号公報 甲6:特開2014-201279号公報 2.異議理由 (1)特許法第29条第1項第3号について 本件発明1及び2並びに6ないし9は、甲2ないし甲4の記載等を考慮すれば、甲1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 (2)特許法第29条第2項について 本件発明3及び4は、甲1及び甲5に記載された発明並びに甲2ないし甲4の記載等に基いて、本件発明5は、甲1、甲5及び甲6に記載された発明並びに甲2ないし甲4の記載等に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 第4 当審の判断 [1]甲1ないし甲6の記載等 1.甲1の記載等 (1)甲1の記載 甲1には、図面とともに概略以下の記載がある。 1a)「【請求項1】 エンジンと、前記エンジンに連結されて走行動力を出力する電動モータと、前記エンジンを始動回転する始動モータとを備えるハイブリッド車両のエンジン始動装置であって、 前記始動モータに始動信号を出力して前記エンジンを初爆状態まで始動回転させた後に前記電動モータに始動信号を出力し、 前記電動モータによる始動回転が開始された後に前記始動モータへの始動信号を停止し、 前記電動モータによって前記エンジンを完爆状態まで始動回転させた後に前記電動モータへの始動信号を停止するモータ制御手段を有することを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動装置。 【請求項2】 請求項1記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置において、 前記モータ制御手段は、エンジン回転数の上昇率に基づいて前記エンジンの初爆状態を判定し、エンジン回転数に基づいて前記エンジンの完爆状態を判定することを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動装置。 【請求項3】 請求項1または2記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置において、 前記モータ制御手段は、前記エンジンの冷却水温が所定温度を下回るときに前記始動モータと前記電動モータとを用いて前記エンジンを始動回転させることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】) 1b)「【0013】 本発明によれば、エンジンが初爆状態に達するまでは始動モータを用いてエンジンを始動回転させ、エンジンが完爆状態に達するまでは電動モータを用いてエンジンを始動回転させるようにしたので、始動モータや電動モータを効率の良い領域で使用することができ、消費電力を抑制しながらエンジンの始動性を向上させることが可能となる。」(段落【0013】) 1c)「【0015】 図1に示すように、パワーユニット10には、駆動源としてのエンジン11とモータジェネレータ(電動モータ)12とが設けられており、モータジェネレータ12の後方側にはトランスミッション13が設けられている。エンジン11やモータジェネレータ12から出力される走行動力は、ミッションケース14内に組み込まれる変速機構15を介して変速された後に、複数のデファレンシャル機構16,17を経て各駆動輪に分配される。なお、図示するパワーユニット10はパラレル方式のパワーユニットであり、走行用の主要な駆動源としてエンジン11が駆動される一方、発進時や加速時には補助的な駆動源としてモータジェネレータ12が駆動される。また、減速時や定常走行時にはモータジェネレータ12を発電駆動させることにより、減速エネルギや余剰動力を電気エネルギに変換して回収することが可能となっている。 【0016】 エンジン11の後方側に設けられるモータジェネレータ12は、モータケース20に固定されるステータ21と、エンジン11のクランク軸22に連結されるロータ23とを備えており、ロータ23はドライブプレート24を介してトルクコンバータ25に連結されている。トルクコンバータ25は、コンバータケース26に固定されるポンプインペラ27と、このポンプインペラ27に対向するタービンランナ28とを備えており、トルクコンバータ25内の作動油を介してポンプインペラ27からタービンランナ28に動力が伝達される。さらに、トルクコンバータ25にはロックアップクラッチ29が組み込まれており、定常走行時にはロックアップクラッチ29を締結して動力伝達効率を向上させることが可能となっている。 【0017】 また、トルクコンバータ25の近傍には始動モータとしてのスタータモータ30が設けられており、このスタータモータ30が備えるピニオン31はコンバータケース26に固定されるリングギヤ32に噛み合うようになっている。さらに、スタータモータ30のピニオン31は、リングギヤ32に噛み合う突出位置と噛み合わない退避位置とに移動するようになっており、ピニオン31を突出位置に移動させてスタータモータ30を駆動することにより、コンバータケース26およびロータ23を介してエンジン11をクランキングさせることが可能となる。なお、スタータモータ30は低電圧の直流電流によって駆動される直流モータとなっている。」(段落【0015】ないし【0017】) 1d)「【0022】 なお、モータジェネレータ12の駆動状態を制御するため、高電圧バッテリ40とモータジェネレータ12との間にはインバータ47が設けられている。ハイブリッドECU45からインバータ47に対して制御信号を出力することにより、インバータ47を介して交流電流の電流値や周波数を制御することができ、交流同期型モータであるモータジェネレータ12のモータトルクやモータ回転数を制御することが可能となっている。 【0023】 続いて、エンジン11の始動制御について説明する。図3は始動方法とエンジン水温との関係を示す説明図であり、図4は始動方法と充電状態SOCとの関係を示す説明図である。まず、図3に示すように、エンジン11の始動方法としては3種類の始動方法が設定されており、これらの始動方法はエンジン水温(冷却水温)に基づいて切り換えられている。つまり、エンジン水温が-10℃よりも高い常温領域にあっては、モータジェネレータ12単体によってクランク軸22を始動回転させるジェネレータモードが設定され、エンジン水温が-20℃から-10℃までの低温領域にあっては、スタータモータ30単体によってクランク軸22を始動回転させるスタータモードが設定される。そして、エンジン水温が-20℃よりも低い極低温領域にあっては、潤滑油の粘度が増大してエンジン始動が困難となるため、スタータモータ30とモータジェネレータ12とを併用してクランク軸22を始動回転させる併用モードが設定される。 【0024】 ここで、図5は併用モードにおけるスタータモータ30およびモータジェネレータ12の作動状態を示すタイミングチャートである。図2および図5に示すように、運転手によってスタータスイッチ46が操作されると、ハイブリッドECU45からスタータモータ30に対して始動信号が出力され、スタータモータ30はエンジン11の始動回転(以下、クランキングという)を開始する。また、エンジンECU44はインジェクタやイグナイタ等に対して制御信号を出力し、シリンダ内の混合気に対する点火制御を開始する。そして、エンジン回転数の上昇率が所定の初爆判定値(たとえば0.1秒間の上昇率が10%)を上回り、ハイブリッドECU45によってエンジン11の初爆状態が判定された場合には、ハイブリッドECU45からインバータ47に対して始動信号が出力され、モータジェネレータ12はエンジン11のクランキングを開始する。なお、エンジン11の初爆状態とは、いずれかの気筒内における混合気の燃焼が開始された状態であり、エンジン11が自力運転に至っていない状態である。 【0025】 次いで、モータジェネレータ12によるクランキングが開始されると、スタータモータ30に対する始動信号が停止され、エンジン11はモータジェネレータ12からの動力のみによってクランキングされる。そして、エンジン回転数が所定の判定時間(たとえば1秒間)に渡って所定の完爆判定値(たとえば1600rpm)を上回り、ハイブリッドECU45によってエンジン11の完爆状態が判定された場合には、ハイブリッドECU45からインバータ47に対する始動信号が停止され、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングが停止されることになる。なお、エンジン11の完爆状態とは、すべての気筒内における混合気の燃焼が開始された状態であり、エンジン11が自力運転に至った状態である。 【0026】 このように、大きな回転トルクが要求されるエンジン11の初爆状態までは、スタータモータ30によってエンジン11をクランキングさせ、回転トルクの引き下げが可能なエンジン11の完爆状態までは、モータジェネレータ12によってエンジン11をクランキングさせるようにしたので、スタータモータ30およびモータジェネレータ12を効率良く使用することができ、消費電力を抑制するとともにエンジン11を確実に始動させることが可能となる。特に、潤滑油の粘度が増大してクランク軸22の回転抵抗が増大するとともに、高電圧バッテリ40の放電特性が低下する極低温領域において、スタータモータ30とモータジェネレータ12とを併用してエンジン11をクランキングさせることにより、エンジン11を確実に始動させることが可能となる。また、エンジン11が完爆状態に達するまで、スタータモータ30によってエンジン回転数を引き上げる必要がないため、スタータモータ30の小型化を図ることができ、エンジン始動装置の低コスト化を図ることが可能となる。さらに、スタータモータ30単体よりも高いエンジン回転数でエンジン11を完爆状態に移行させることができるため、始動時における排出ガスの清浄化を図ることも可能となる。」(段落【0022】ないし【0026】) (2)上記(1)及び図面から分かること 1e)上記(1)1c)(段落【0016】)及び図2の記載から、モータジェネレータ12は、モータケース20に固定されるステータ21と、エンジン11のクランク軸22に連結されるロータ23とにより、エンジン11に常時連結されることが分かる。 1f)上記(1)1d)(段落【0022】)及び図2の記載から、高電圧バッテリ40が、インバータ47を介してモータジェネレータ12に接続されていることが分かる。 1g)上記(1)1d)(段落【0024】)及び図2の記載から、ハイブリッドECU45が、インバータ47を介してモータジェネレータ12を制御するために設けられていることが分かる。 1h)上記(1)1c)(段落【0017】)及び図2の記載から、エンジン11をクランキングするときに、スタータモータ30がピニオン31を突出位置に移動させてエンジン11と連結することが分かる。 1i)上記(1)1d)及び図5の記載から、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングと、スタータモータ30に対する始動信号が停止され、スタータモータ30とエンジン11との連結を解除するタイミングとを、スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して初爆状態となった後に設定し、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングを、エンジン11が完爆状態となる以前に設定することが分かる。 (3)甲1発明 上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「エンジン11と、 モータケース20に固定されるステータ21と、エンジン11のクランク軸22に連結されるロータ23とによりエンジン11に常時連結されて、エンジン11のクランキングおよび発電を行うモータジェネレータ12と、 インバータ47を介してモータジェネレータ12に接続された高電圧バッテリ40と、 インバータ47を介してモータジェネレータ12を制御するハイブリッドECU45と、 エンジン11をクランキングするときに、ピニオン31を突出位置に移動させてエンジン11と連結されるスタータモータ30と、 運転手によってスタータスイッチ46が操作されると、ハイブリッドECU45からスタータモータ30に対して始動信号が出力されて、 スタータモータ30がピニオン31を突出位置に移動させてエンジン11と連結されることにより、エンジン11のクランキングを開始し、エンジンECU44がインジェクタやイグナイタ等に対して制御信号を出力し、シリンダ混合気に対する点火を開始する制御と、 ハイブリッドECU45からインバータ47に対して出力信号を出力して、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御と、 モータジェネレータ12によるクランキングが開始されると、スタータモータ30に対する始動信号が停止されるとともに、スタータモータ30とエンジン11との連結をピニオン31を退避位置に移動することにより解除する制御と、 ハイブリッドECU45によってエンジン11の完爆状態が判定された場合に、ハイブリッドECU45によるインバータ47に対する始動信号を停止することにより、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを停止する制御と、 を実行することで、モータジェネレータ12とスタータモータ30とを併用してエンジン11のクランキングを行うハイブリッドECU45と を備えたハイブリッド車両のエンジン始動装置であって、 ハイブリッドECU45は、 モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングと、 スタータモータ30に対する始動信号が停止され、スタータモータ30とエンジン11との連結を解除するタイミングを、 スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後に設定し、 モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングを、エンジン11が完爆状態となる以前に設定する ハイブリッド車両のエンジン始動装置。」 2.甲2の記載等 甲2には、図10において以下の記載事項がある。 2a)図10において、エンジンのクランク角度が180°(TDC)となる時点で、エンジン回転数が一時的に低下することが看取できる。 3.甲3の記載等 甲3には、図18において以下の記載事項がある。 3a)図18において、各シリンダの圧縮上死点(TDC)において、エンジン回転数N_(ENG)が一時的に低下することが看取できる。 4.甲4の記載等 甲4には、図7において以下の記載事項がある。 4a)図7において、各シリンダの圧縮上死点(TDC)において、エンジン回転数Neが一時的に低下することが看取できる。 5.甲5の記載等 (1)甲5の記載 甲5には、図面とともに概略以下の記載がある。 5a)「【0010】 上記の内燃機関の停止始動制御装置によれば、例えばアイドリングストップ時などにおいて、クランク角度が所定のクランク角度範囲内となるように内燃機関が停止制御される。所定のクランク角度範囲とは、次回の始動時に必要なエネルギーが小さいクランク角度の範囲とすることができる。そして、始動時に、内燃機関が所定のクランク角度の範囲内で停止している場合には、所定のクランキング手段により内燃機関が始動される。しかし、前記内燃機関が所定のクランク角度の範囲内で停止していない可能性がある場合には、前記クランキング手段による内燃機関の始動態様とは異なる態様によって始動を行う。これにより、機関停止後のクランク角度位置に応じて、適切なクランキング手段により、迅速かつ確実に内燃機関の始動を行うことができる。」(段落【0010】) 5b)「【0018】 上記の内燃機関の停止始動制御装置の一態様では、前記停止制御手段は所定の停止条件が具備された場合に前記内燃機関を自動停止させ、前記始動制御手段は所定の始動条件が具備された場合に前記内燃機関を自動始動する。この態様によれば、いわゆるエコラン車両又はハイブリット車両などのアイドリングストップ制御に対して、本発明の内燃機関の停止始動制御を好適に適用することができる。これにより、停止制御後のクランク角度停止位置の状態に応じて、適切なクランキング手段を選択し、迅速かつ確実に内燃機関を始動することができる。」(段落【0018】) 5c)「【0094】 (第1実施形態) 先ず、第1実施形態について説明する。本実施形態は、エンジン停止制御後に、上述のクランク角センサ90の出力を利用してクランク角の検出を行う場合の始動制御に関する。 【0095】 アイドリングストップ時に車両10の停止制御を行ったにも拘わらずクランク角度が予め設定された最適なクランク角度停止位置、例えば、上述したようにクランク角度90°CA?120°CAの範囲内にないときは、エンジン2の再始動時におけるエンジン始動負荷が大きくなる。よって、このときにモータジェネレータ3によるエンジン自動再始動を行うと、モータジェネレータ3の出力トルクによってはエンジン自動再始動が失敗する可能性がある。そこで、本実施形態では、エンジンの停止制御によって最適なクランク角度停止位置に停止が成功したか否かをクランク角センサ90を利用して検出する。そして、不成功である場合には、ECU70は、モータジェネレータ3ではなく、出力トルクの大きなDCスタータ1によりエンジン2の始動を行う。」(段落【0094】及び【0095】) (2)甲5の技術 上記(1)及び図面の記載からみて、甲5には次の技術(以下、「甲5の技術」という。)が記載されている。 「アイドリングストップ時において、クランク角度が所定のクランク角度範囲内となるように内燃機関を停止制御した後の再始動時において、クランク角センサ90の出力を利用して検出したクランク角が、予め設定された最適なクランク角度停止位置にない場合はモータジェネレータ3ではなく、DCスタータ1によりエンジン2の始動を行う技術。」 6.甲6の記載等 (1)甲6の記載 甲6には、図面とともに概略以下の記載がある。 6a)「【0019】 以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。 図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。このハイブリッド車両10は、燃料の燃焼で動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン12と、電動モータおよび発電機として機能するモータジェネレータMGとを、走行用の駆動力源として備えている。そして、それ等のエンジン12およびモータジェネレータMGの出力は、流体式動力伝達装置であるトルクコンバータ14からタービン軸16を経て自動変速機20に伝達され、更に出力軸22、差動歯車装置24等を介して左右の駆動輪26に伝達される。トルクコンバータ14は、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)30を備えているとともに、入力側回転部材であるポンプ翼車には機械式オイルポンプ32が一体的に接続されており、エンジン12やモータジェネレータMGによって機械的に回転駆動されることにより油圧を発生して油圧制御装置28に供給する。ロックアップクラッチ30は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって係合解放される。上記モータジェネレータMGは回転機に相当する。 【0020】 上記エンジン12とモータジェネレータMGとの間には、ダンパ38を介してそれ等を連結するK0クラッチ34が設けられている。ダンパ38は、エンジン12のトルク変動を吸収したりねじり振動を吸収したりするもので、トーショナルダンパとも言われるものであり、圧縮コイルスプリング等の弾性体を備えて構成されており、K0クラッチ34と直列にそのK0クラッチ34とエンジン12との間に配設されている。K0クラッチ34は、油圧によって摩擦係合させられる湿式の単板式或いは多板式の油圧式摩擦係合装置で、エンジン12をモータジェネレータMGに対して接続したり遮断したりする断接装置として機能する。モータジェネレータMGは、インバータ42を介してバッテリー44に接続されている。また、前記自動変速機20は、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合解放状態によって変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式等の有段の自動変速機で、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって変速制御が行われる。この自動変速機20は、例えば入力クラッチが解放されることにより動力伝達を遮断するニュートラルを成立させることができる。 【0021】 以上のように構成されたハイブリッド車両10は、電子制御装置70を備えている。電子制御装置70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどを有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。電子制御装置70には、アクセル操作量センサ46からアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、タービン回転速度センサ54、車速センサ56、SOCセンサ58、K0温度センサ60から、それぞれエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、モータジェネレータMGの回転速度(MG回転速度)NMG、タービン軸16の回転速度(タービン回転速度)NT、出力軸22の回転速度(出力軸回転速度で車速Vに対応)NOUT、バッテリー44の蓄電残量SOC、K0クラッチ34の温度(K0温度)K0Tを表す信号が供給される。K0温度K0Tは、K0クラッチ34の摩擦材の温度であっても良いが、その近傍の潤滑油等の温度であっても良い。この他、各種の制御に必要な種々の情報が供給されるようになっている。 【0022】 上記電子制御装置70は、機能的にハイブリッド制御手段72、変速制御手段74、およびエンジン始動制御手段80を備えている。ハイブリッド制御手段72は、エンジン12およびモータジェネレータMGの作動を制御することにより、例えばエンジン12のみを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードや、モータジェネレータMGのみを駆動力源として用いて走行するモータ走行モード、それ等の両方を用いて走行するエンジン+モータ走行モード等の予め定められた複数の走行モードを、アクセル操作量(運転者の出力要求量)Accや車速V、バッテリー44の蓄電残量SOC等の車両状態に応じて切り換えて走行する。また、変速制御手段74は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等を制御して複数の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態を切り換えることにより、自動変速機20の複数のギヤ段を、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップに従って切り換える。 【0023】 エンジン始動制御手段80は、K0クラッチ34が解放されてエンジン12が回転停止している停車時や惰性走行時等に、モータジェネレータMGを用いてエンジン12をクランキング(回転駆動)してエンジン回転速度NEを引き上げるとともに、エンジン回転速度NEが所定の始動回転速度NE1に達したら燃料噴射や点火等の始動制御を行ってエンジン12を始動し、所定の目標回転速度NE2まで自力回転で上昇させるエンジン始動制御を実行する。その場合に、ダンパ38に起因して共振が発生することを抑制するようになっており、機能的にニュートラル制御手段82、MG回転速度上昇手段84、K0クラッチスリップ制御手段86、K0クラッチ完全係合手段88、および燃料噴射・点火手段90を備えている。図2は、このようなエンジン始動制御手段80の作動(信号処理)を具体的に説明するフローチャートで、ステップS2はニュートラル制御手段82に相当し、ステップS3はMG回転速度上昇手段84に相当し、ステップS4およびS5はK0クラッチスリップ制御手段86に相当し、ステップS6はK0クラッチ完全係合手段88に相当し、ステップS7は燃料噴射・点火手段90に相当する。MG回転速度上昇手段84およびK0クラッチスリップ制御手段86はクランキング手段として機能し、K0クラッチ完全係合手段88および燃料噴射・点火手段90は始動手段として機能する。」(段落【0019】ないし【0023】) (2)甲6の技術 上記(1)及び図面の記載からみて、甲6には次の技術(以下、「甲6の技術」という。)が記載されている。 「エンジン12とモータジェネレータMGとを備えるハイブリッド車両において、エンジン始動制御手段は、慣性走行時にモータジェネレータMGを用いてエンジン12をクランキングすることによりエンジンを始動する技術。」 [2]異議理由(特許法第29条第1項第3号)について 1.本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「エンジン11」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1における「エンジン」に相当し、以下同様に、「エンジン11のクランキング」は「エンジン始動」に、「モータジェネレータ12」は「モータジェネレータ」に、「インバータ47」は「インバータ」に、「高電圧バッテリ40」は「バッテリ」に、「ハイブリッドECU45」は「モータジェネレータ制御回路」あるいは「始動制御部」に、「ピニオン31を突出位置に移動させてエンジン11と連結される」は「エンジンと連結される」に、「スタータモータ30」は「スタータ」に、「運転手によってスタータスイッチ46が操作されると」は「エンジンに対してエンジン始動要求が発生したときに」に、「ハイブリッドECU45からスタータモータ30に対して始動信号が出力されて」は「スタータを起動させて」に、「スタータモータ30がピニオン31を突出位置に移動させてエンジン11と連結されることにより」は「エンジンとスタータが連結されることで」に、「エンジン11のクランキングを開始し」は「エンジンをクランキングし」に、「エンジンECU44がインジェクタやイグナイタ等に対して制御信号を出力し、シリンダ混合気に対する点火を開始する制御」は「燃料噴射を開始させる第1制御」に、「ハイブリッドECU45からインバータ47に対して出力信号を出力して」は「モータジェネレータ制御回路を制御することにより」に、「モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御」は「モータジェネレータをモータ機能として起動させる第2制御」に、「モータジェネレータ12によるクランキングが開始されると」は「モータジェネレータのモータ機能としての起動と同時かまたは前後して」に、「スタータモータ30に対する始動信号が停止される」は「スタータを停止される」に、「スタータモータ30とエンジン11との連結をピニオン31を退避位置に移動することにより解除する制御」は「スタータとエンジンとの連結を解除させる第3制御」に、「ハイブリッドECU45によってエンジン11の完爆状態が判定された場合」は「エンジン始動完了後」に、「ハイブリッドECU45によるインバータ47に対する始動信号を停止する」は「モータジェネレータ制御回路を制御する」に、「モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを停止する制御」は「モータジェネレータのモータ機能を停止させる第4制御」に、「モータジェネレータ12とスタータモータ30とを併用してエンジン11のクランキングを行う」は「モータジェネレータとスタータによる併用始動制御を行う」に、「ハイブリッド車両のエンジン始動装置」は「エンジン始動制御装置」に、「モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行う」は「第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行う」に、「スタータモータ30に対する始動信号が停止され、スタータモータ30とエンジン11との連結を解除する」は「第3制御によりスタータを停止させる」に、それぞれ相当する。 そして、甲1発明における「モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングと、スタータモータ30に対する始動信号が停止され、スタータモータ30とエンジン11との連結を解除するタイミングを、スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後に設定し、モータジェネレータ12によるエンジン11のクランキングを開始する制御を行うタイミングを、エンジン11が完爆状態となる以前に設定する」と本件発明1における「第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングと、第3制御によりスタータを停止させるタイミングを、第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降に設定し、第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングを、第2圧縮行程の上死点に達する以前に設定する」とは、「第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングと、第3制御によりスタータを停止させるタイミングを、第1制御による燃料噴射の開始後の第1のタイミング以降に設定し、第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングを、第2のタイミング以前に設定する」という限りにおいて一致する。 よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「エンジンと、 エンジンに常時連結されてエンジン始動および発電を行うモータジェネレータと、 インバータを介して前記モータジェネレータに接続されたバッテリと、 インバータを介して前記モータジェネレータを制御するモータジェネレータ制御回路と、 エンジンをクランキングするときにエンジンと連結されるスタータと、 エンジンに対してエンジン始動要求が発生したときに、 スタータを起動させて、 エンジンとスタータが連結されることでエンジンをクランキングし、燃料噴射を開始させる第1制御と、 モータジェネレータ制御回路を制御することによりモータジェネレータをモータ機能として起動させる第2制御と、 モータジェネレータのモータ機能としての起動と同時かまたは前後して、スタータを停止させるとともに、スタータとエンジンとの連結を解除させる第3制御と、 エンジン始動完了後にモータジェネレータ制御回路を制御することによりモータジェネレータのモータ機能を停止させる第4制御と を実行することで、モータジェネレータとスタータによる併用始動制御を行う始動制御部と を備えたエンジン始動制御装置であって、 始動制御部は、 第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングと、第3制御によりスタータを停止させるタイミングを、第1制御による燃料噴射の開始後の第1のタイミング以降に設定し、第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングを、第2のタイミング以前に設定する エンジン始動制御装置。」 [相違点1] 本件発明1においては、「モータジェネレータ」が、「ベルトによりエンジンに常時連結」されているのに対して、甲1発明においては、「モータジェネレータ12」が、「モータケース20に固定されるステータ21と、エンジン11のクランク軸22に連結されるロータ23とによりエンジン11に常時連結」されている点。 [相違点2] 本件発明1においては、「スタータへ電力供給を行うための電気接点の開閉機能を有する電磁スイッチ」を備え、「電磁スイッチの前記電気接点を閉状態とすることで前記スタータを起動させ」、「電磁スイッチの前記電気接点を開状態とすることで前記スタータを停止させる」のに対して、甲1発明においては、スタータモータ30が、そのような電磁スイッチを備えるか不明である点。 [相違点3] 「第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングと、第3制御によりスタータを停止させるタイミングを、第1制御による燃料噴射の開始後の第1のタイミング以降に設定し、第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングを、第2のタイミング以前に設定する」ことにおける「第1のタイミング」及び「第2のタイミング」に関して、本件発明1においては、それぞれ「第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降」及び「第2圧縮行程の上死点に達する以前」に設定されるのに対して、甲1発明においては、それぞれ「スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後」及び「エンジン11が完爆状態となる以前」に設定された点。 上記相違点について検討する。 [相違点1について] エンジン始動等を行うモータジェネレータをエンジンに常時連結するための手段をベルトとすることは、当該技術分野において常套手段である。 したがって、甲1において、エンジン始動等を行うモータジェネレータをエンジンに常時連結するための手段をベルトとすることは記載されているに等しい事項と認められるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 [相違点2について] エンジン始動時にバッテリから大電流が供給されるスタータにおいて、スタータの起動及び停止を行うための電気接点を開閉する電磁スイッチ(例えばリレー等)は、技術常識からみて通常備えている構成である。 したがって、甲1において、「スタータへ電力供給を行うための電気接点の開閉機能を有する電磁スイッチ」を備え、「電磁スイッチの前記電気接点を閉状態とすることで前記スタータを起動させ」、「電磁スイッチの前記電気接点を開状態とすることで前記スタータを停止させる」ことは記載されているに等しい事項と認められるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。 [相違点3について] 甲1発明における「第1のタイミング」は、「スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後」であって、上記[1]1.(1)1d)段落【0024】の甲1の記載によると、初爆は「エンジン回転数の上昇率が所定の初爆判定値(たとえば0.1秒間の上昇率が10%)を上回」ったことをもって判定する。 そうすると、甲1発明における「初爆」は、クランキングを開始した後のどの時点において生じるか予め決定されたものではなく、本件発明1における「第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点」に相当するかは不明である。 次に、甲1発明における「第2のタイミング」は、「エンジン11が完爆状態となる以前」であって、上記[1]1.(1)1d)段落【0025】の甲1の記載によると、完爆は「エンジン回転数が所定の判定時間(たとえば1秒間)に渡って所定の完爆判定値(たとえば1600rpm)を上回」ったことをもって判定する。 そうすると、甲1発明における「完爆」は、クランキング開始後のエンジンの作動工程における、どの時点において生じるか予定されたものではなく、本件発明1における「第2圧縮行程の上死点」に相当するかは不明である。 よって、甲1発明における「スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後」及び「エンジン11が完爆状態となる以前」は、それぞれ本件発明1における「第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降」及び「第2圧縮行程の上死点に達する以前」に相当するかは不明であるから、本願発明1と甲1発明とは上記相違点3において相違する。 したがって、本件発明1は、上記相違点3において甲1発明と相違するから、甲1発明と同一であるとはいえない。 なお、異議申立人は、異議申立書第25ページ第22行ないし32行において、甲1の図5におけるエンジン回転数のグラフにおいて看取できる、「初爆」と示された部分の直前、及び「初爆」と示された部分と「完爆」と示された部分の中間に位置する2箇所のエンジン回転数が一時的に落ち込む部分は、それぞれ1回目のサイクルにおける圧縮行程の上死点と、2回目のサイクルにおける圧縮行程の上死点を示す旨の主張をしているので、この点について検討すると、確かに甲2ないし甲4の記載事項によれば、エンジンの各シリンダの圧縮上死点において、エンジン回転数が一時的に落ち込むことは、当業者にとって技術常識であると認められる。 しかしながら、始動時におけるエンジン回転数が一時的に落ち込む原因として、エンジンの各シリンダが圧縮上死点にさしかかる場合の他、失火やバッテリ電圧の低下などの様々な要因があることを考慮すると、エンジン回転数が一時的に落ち込んだ部分が、エンジンの圧縮行程の上死点に対応するかは不明である。 そうすると、甲1の図5のエンジン回転数のグラフにおいて看取できる、「初爆」と示された部分の直前及び「初爆」と示された部分と「完爆」と示された部分の中間に位置する2箇所のエンジン回転数が一時的に落ち込んだ部分が、それぞれ本件発明1における上記「第1圧縮行程の上死点」及び「第2圧縮行程の上死点」に対応するということはできない。 2.本件発明2、6及び7について 本件特許の特許請求の範囲における請求項6及び7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明2、6及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。 したがって、本件発明2、6及び7は、本件発明1と同様に、甲1発明と同一であるとはいえない。 3.本件発明8及び9について 本件特許の特許請求の範囲における請求項8及び9は、それぞれ請求項1及び2の「エンジン始動制御装置」を「エンジン始動制御方法」として発明のカテゴリーを変更したものであるから、本件発明8及び9は、本件発明1と同様に上記相違点3において甲1発明と相違するから、甲1発明と同一であるとはいえない。 [3]異議理由(特許法第29条第2項)について 1.本件発明3ないし5について 本件特許の特許請求の範囲における請求項3ないし5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明3ないし5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。 そうすると、本件発明3ないし5は、甲1発明との対比において、少なくとも、上記[2]1.の本件発明1と甲1発明との対比における上記相違点3を有することになるから、まず、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項が、甲1発明、甲2ないし甲4の記載事項、甲5の技術及び甲6の技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるか以下検討する。 [相違点3について] 甲1発明における「第1のタイミング」は、「スタータモータ30がエンジン11のクランキングを開始し、シリンダ混合気に対する点火制御を開始して、初爆状態となった後」であって、上記[1]1.(1)1d)段落【0024】の甲1の記載によると、初爆は「エンジン回転数の上昇率(たとえば0.1秒間の上昇率が10%)が所定の初爆判定値を上回」ったことをもって判定する。 そうすると、甲1発明における「初爆」は、クランキング開始後のエンジンの作動工程における、どの時点において生じるか予め決定されたものではなく、本件発明1における「第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点」に相当するかは不明である。 次に、甲1発明における「第2のタイミング」は、「エンジン11が完爆状態となる以前」であって、上記[1]1.(1)1d)段落【0025】の甲1の記載によると、完爆は「エンジン回転数が所定の判定時間(たとえば1秒間)に渡って所定の完爆判定値(たとえば1600rpm)を上回」ったことをもって判定する。 そうすると、甲1発明における「完爆」は、クランキング開始後のエンジンの作動工程における、どの時点において生じるか予め決定されたものではなく、本件発明1における「第2圧縮行程の上死点」に相当するかは不明である。 さらに、甲5及び甲6の技術並びに甲2ないし甲4の記載事項をみても、本件発明1における「第2制御により前記モータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングと、第3制御によりスタータを停止させるタイミングを、第1制御による燃料噴射の開始後、最初に発生するエンジンの第1圧縮行程の上死点を通過した以降に設定し、第2制御によりモータジェネレータのモータ機能としての起動を行うタイミングを、第2圧縮行程の上死点に達する以前に設定する」ことについて示唆するものではない。 よって、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明、甲5の技術及び甲6の技術、及び甲2ないし甲4の記載事項に基いて当業者が容易に想到できたとはいえない。 そうすると、上記相違点3に係る本件発明1が、甲1発明、甲5の技術、甲6の技術及び甲2ないし甲4の記載事項に基いて当業者が容易に想到できたとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである本件発明3ないし5は、甲1発明、甲5の技術、甲6の技術及び甲2ないし甲4の記載事項に基いて当業者が容易に想到できたとはいえない。 第5 むすび したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-18 |
出願番号 | 特願2014-237426(P2014-237426) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(F02N)
P 1 651・ 121- Y (F02N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 首藤 崇聡、稲村 正義 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
松下 聡 槙原 進 |
登録日 | 2016-01-29 |
登録番号 | 特許第5875664号(P5875664) |
権利者 | 三菱電機株式会社 |
発明の名称 | エンジン始動制御装置およびエンジン始動制御方法 |
代理人 | 中村 広希 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |
代理人 | 大庭 弘貴 |