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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1322308
異議申立番号 異議2016-700660  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-01 
確定日 2016-12-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第5863234号発明「セラミックス回路基板およびこれを用いたモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5863234号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5863234号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年12月1日に特許出願され、平成28年1月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5863234号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
厚さ0.3?1.0mmの窒化アルミニウム基板の一方の面に厚さ0.1?0.5mm銅回路、他方の面に厚さ0.1?0.5mm銅放熱板が設けられ、前記銅回路および前記銅放熱板がろう材を介して、前記窒化アルミニウム基板に接合され、前記銅回路上に半導体素子をPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだで搭載したものであって、前記銅回路の半導体搭載領域端部から0.3mm?2.0mmの範囲に銅回路とろう材の合計の厚さDに対し20?60%の厚さdの薄肉部分を有していることを特徴とする窒化アルミニウム回路基板。
【請求項2】
銅回路の半導体搭載領域の外周に形成された薄肉部分が溝状、若しくは複数の穴で形成されており、溝状で形成されている場合の溝幅が0.1?0.8mmであり、複数の穴で形成される場合の穴径が0.1?0.8mmであることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム回路基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の窒化アルミニウム回路基板を使用したモジュール。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証刊行物ないし甲第5号証刊行物を提出し、本件発明1ないし本件発明3は、甲第1号証刊行物ないし甲第3号証刊行物に記載された発明と同一であって、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であり、また、本件発明1ないし本件発明3は、甲第1号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反する発明であるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証刊行物:特開平8-250823号公報(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証刊行物:特開平3-126287号公報(以下、「刊行物2」という。)
甲第3号証刊行物:特開昭59-52853号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第4号証刊行物:特開2010-56399号公報(以下、「刊行物4」という。)
甲第5号証刊行物:特開平5-246788号公報(以下、「刊行物5」という。)


4 刊行物の記載
(1)刊行物1には、実施例2に係る基板に関して、次の事項が記載されている。

ア「【0002】
【従来の技術】近年、パワートランジスタモジュールやスイッチング電源モジュール等の比較的高電力を扱う半導体部品の搭載用基板等として、セラミックス基板上に銅板等の金属板を接合したセラミックス回路基板が用いられている。」

イ「【0031】ここで、複数の孔7を非貫通孔7Aとする場合、その深さ方向の形状は、図5に示すようにほぼ均一形状であっても、また図6に示すように逆円錐状(あるいは逆角錐状)であってもよい。ただし、その深さdは銅板2の厚さtの 1/3?2/3とすることが好ましい。非貫通孔状の孔7の深さが銅板2の厚さtの1/3未満であると、応力の分散効果が不十分となるおそれがある。」

ウ「【0042】また、複数の孔7をプレス加工により形成した銅板2、3は、プレス加工時に反りや変形等は発生しなかったのに対し、同様にプレス加工により銅板の外周縁部に沿って全周に溝を形成した銅板では、プレス加工時に銅板の外周縁部に反りや変形が発生するものがあった。また、プレス加工時には変形の小さい銅板の場合にも、窒化アルミニウム基板との加熱接合、放冷の際に変形が発生していた。
実施例2
セラミックス基板1として表面に酸化物層を有する厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板と、その外周縁部に沿って複数の孔7がプレス加工により形成された所定形状の厚さ0.3mmの銅板2、3とを用意した。複数の孔7の形状は、図3および図7に示した貫通孔(直径=0.5mm)である。また、複数の孔7の形成間隔は、隣接する孔7間の最短距離L_(1)を0.25mm(=1/2L_(2)))とし、また形成位置は銅板2、3からの距離L_(3)が0.5mmとなるようにした。
【0043】そして、図2に示したように、窒化アルミニウム基板1の両面に、In:Ag:Cu:Ti=14.0:59.0:23.0:4.0の組成の活性金属含有ろう材をペースト化したものを塗布し、この塗布層を介して銅板2、3を積層配置した後、窒素ガス雰囲気中にて加熱して接合させ、目的とするセラミックス回路基板5を得た。」

上記記載事項並びに図2及び図3の図示内容から、本件発明1に則って整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
[甲1発明]
「厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板1の上面に厚さ0.3mmの銅板2、下面に厚さ0.3mmの銅板3が設けられ、前記銅板2および前記銅板3が活性金属含有ろう材を介して、前記窒化アルミニウム基板1に接合され、前記銅板2上に半導体部品を搭載したものであって、前記銅板2の外周縁部に複数の孔7を有している半導体部品を搭載した基板。」

(2)刊行物2には、実施例に係る回路基板1に関して、図1及び図2とともに、次の事項が記載されている。

ア「本発明は上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、回路基板と他の部品(シリコンペレットやヒートシンク・ベースなど)とを接合する場合に、ハンダのはみ出しや気泡の混入などの発生を防止し、これに起因する悪影響の解消が図られた回路基板を提供することを目的としている。」(第2ページ右上欄第12行ないし第17行)

イ「(実施例)
以下、添附図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
第1図は本発明の実施例に係る回路基板の平面図であり、第2図は第1図のII-II線に沿った断面図である。これらの図面に示されているように、本発明の回路基板1は、AlN、SiCなどの非酸化物系材料あるいは
Al_(2)O_(3)、BeOなどの酸化物系材料からなるセラミック基板2の表面(この場合は裏側と表側の両面)に銅からなる金属回路板3が直接接合されている。そして、本発明の特徴は、この金属回路板3の表面に溝4が形成されていることにある。
第1図に示す例においては、溝4の平面パターンが一定の幅からなるストライブ状の溝として形成されているが、これ以外にも、図示はしないが、たとえば格子状パターンとして形成してもよい。本発明においては、回路基板自体の規模や用途によって適宜選択され得るが、上述した作用効果を効果的に発現させるためには、溝4の深さは1?100μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは20?40μmである。溝幅は1?150μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは50?150μmである。また、上記のようなストライブパターンの場合の溝ピッチとしては1?20mm程度、好ましくは1?4mmに設定することが望ましい。」 (第2ページ右下欄第1行ないし第3ページ左上欄第6行)

上記記載事項並びに図1及び図2の図示内容から、本件発明1に則って整理すると、刊行物2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
[甲2発明]
「窒化アルミニウムからなるセラミック基板2の表側の表面に銅からなる金属回路板3、裏側の表面に銅からなる金属回路板3が設けられ、前記銅からなる金属回路板3が直接、前記セラミック基板2に接合され、前記表側の表面の銅からなる金属回路板3上にシリコンペレットをハンダで搭載したものであって、前記表側の表面の銅からなる金属回路板3に複数の溝4を有している回路基板1」

(3)刊行物3には、回路素子に関して、第3図と共に、次の事項が記載されている。

ア「本発明は、金属ろう等から成るはんだ層の熱疲労破壊は、そのはんだ層周端部から発生し成長するという現象に鑑みなされたもので、金属板や支持部材としての金属部材に対向する半導体基体と絶縁部材との面の周縁部と、該周縁部に対向する前記金属部材の表面部との少なくとも一方に、はんだ層の端部層厚を増大形成させる如く切欠き部又は凹部を形成することにより、はんだ層の端部に加わる熱歪を低減し、各部材の変形及び熱疲労破壊を防止しようとするものである。」(第3ページ左上欄第10行ないし第19行)

イ「このように、複数の半導体基体(トランジスタ14,15及びダイオード16)を含む回路素子が、同一の金属板13上に直接はんだ付けされて混成ICが形成されている。このように形成された実施例の金属板13と、絶縁部材12と、支持部材11との接着部の断面図が、第3図に示されている。
第3図において、金属支持部材11は、厚さ3.2mm×幅61mm×長さ105mmの銅板から形成されており、その上表面には、載置される絶縁部材12の周縁部に対向する部分に、幅3mm×深さ0.5mmの凹部28が形成されている。
この金属支持部材11の凹部28の位置に一致させて、2枚のアルミナ板の絶縁部材12が鉛-60%錫はんだ層29により接着されている。はんだ層29の中央部厚さは約0.1mmであり、凹部28の形成された端部厚さは約0.6mmとなつている。絶縁部材12の接着面には周知のメタライズ処理が施され、はんだに対するぬれ性が付与されている。絶縁部材12は幅28mm×長さ33mm×厚さ0.6mmに形成されたアルミナ板である。
各絶縁部材12の上には、金属板13が、はんだ層30により接着されている。このはんだ層30は前記はんだ層29と同一組成、同一厚さのものである。絶縁部材12のはんだ層30と対向する部分には上述と同様、メタライズ処理が施されている。
金属板13は厚さ2mmの銅板から形成されており、その下面の周縁部には幅3mm×深さ0.5mmの切欠き部31が、また上面には載置される半導体基体14,15,16の周縁部に対向する部分に、幅1.5mm×深さ0.5mmの凹部28がプレスによつて形成されている。各金属板13の上には半導体基体14,15,16 (面積8mm×8mm、厚さ0.25mm)が、はんだ層32の中央部厚さは約0.1mmであり、凹部28の形成された端部厚さは約0.6mmとなっている。なお、はんだ層32の組成は前記はんだ層29,30と同一のものである。
このように構成されていることから、つまり熱疲労の発生起点となるはんだ層端部の厚みが、十分厚く形成されていることから、混成ICの製造時や動作時に、はんだ層端部に生ずる熱応力を十分に緩和させることができ、これによって熱歪の発生及び熱疲労を効果的に防止させることができる。」(第3ページ左下欄第8行ない第4ページ左上欄第12行)

ウ「無機絶縁部材としては、アルミナの他、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(Si_(3)N_(4))、酸化ベリリウム(BeO)、炭化シリコン(SiC)等、あるいはこれらを成分とする混合物又は焼結体が適用可能である。」(第5ページ左下欄第2行ないし第6行)

上記記載事項及び第3図の図示内容から、本件発明1に則って整理すると、刊行物3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
[甲3発明]
「窒化アルミニウムの焼結体からなる絶縁部材12の上面に銅板から形成された金属板13、下面に銅板から形成された金属支持部材11が設けられ、前記金属板13及び金属支持部材11が金属ろうを介して絶縁部材12に接合され、金属板13上に半導体基体14,15,16を金属ろうで搭載したものであって、前記金属板13の、半導体基体14,15,16の周縁部に対向する部分に凹部28を有している混成IC」

(4)刊行物4には、次の事項が記載されている。
ア「【請求項9】
前記はんだペーストは、Pb:90?95質量%を含有し、残部:Snおよび不可避不純物であるPb-Snはんだ合金粉末にフラックスを混合したPb-Sn合金はんだペーストであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の位置合わせ性に優れたはんだペーストを用いた基板と被搭載物の接合方法。」

(5)刊行物5には、次の事項が記載されている。
ア「【0017】上記ペーストをスクリーン印刷法にて前記3種類の窒化アルミニウム基板表面に5?43μmの厚さに図4に示す回路パターン通りに印刷した。印刷後10分間室温にてレベリングし、引き続き105℃で15分間乾燥した。尚、印刷膜厚は乾燥後に表面粗さ計で測定した。乾燥後、窒素気流中で600℃にて脱脂した。脱脂処理を完了した窒化アルミニウム基板に銅板を重ね、1.5kg/cm^(2) の荷重を加え、10^(-4)Torr以下の真空下で850℃×15分間加熱し接合した。接合後、回路形成はレジスト印刷及び塩化第2鉄水溶液によるエッチングにておこなった。更に無電解NiPメッキを3?5μm形成して窒化アルミニウム-銅接合型複合基板を得た。」


5 判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板1」は、本件発明1の「厚さ0.3?1.0mmの窒化アルミニウム基板」に相当し、以下同様に、「上面」は「一方の面」に、「厚さ0.3mmの銅板2」は「厚さ0.1?0.5mm銅回路」に、「下面」は「他方の面」に、「厚さ0.3mmの銅板3」は「厚さ0.1?0.5mm銅放熱板」に、「活性金属含有ろう材」は「ろう材」に、「半導体部品」は「半導体素子」に、「半導体部品を搭載した基板」は「窒化アルミニウム回路基板」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「複数の孔7」が形成された部分の銅板2は、薄肉部分を有しているといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。

[一致点1]
「厚さ0.3?1.0mmの窒化アルミニウム基板の一方の面に厚さ0.1?0.5mm銅回路、他方の面に厚さ0.1?0.5mm銅放熱板が設けられ、前記銅回路および前記銅放熱板がろう材を介して、前記窒化アルミニウム基板に接合され、前記銅回路上に半導体素子を搭載したものであって、前記銅回路が薄肉部分を有している窒化アルミニウム回路基板。」

[相違点1]
本件発明1は、「前記銅回路上に半導体素子をPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだで搭載したものであって、」「前記銅回路の半導体搭載領域端部から0.3mm?2.0mmの範囲に銅回路とろう材の合計の厚さDに対し20?60%の厚さdの薄肉部分を有している」のに対し、甲1発明は、このような構成を有しない点。

イ 甲1発明についての同一性及び容易想到性の検討
本件発明1と甲1発明とは相違点1で相違するから、本件発明1は甲1発明と同一でない。
また、相違点1について検討すると、銅回路上に半導体素子をPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだで搭載したものにおいて、前記銅回路の半導体搭載領域端部から0.3mm?2.0mmの範囲に銅回路とろう材の合計の厚さDに対し20?60%の厚さdの薄肉部分を有している構成、特に、半導体搭載領域端部からの距離を規定して銅回路に薄肉部分を有する構成は、甲第1号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に、記載も示唆もされていない。そして、当該構成が設計的事項であるとも認められない。
また、仮にPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだを採用すること(刊行物4)及び、ロウ材の厚さを5?43μmとすること(刊行物5)が共に周知であったとしても、そのことは、本件発明1に係る半導体搭載領域端部から薄肉部分までの距離を規定する構成が、刊行物1ないし刊行物5に開示されていないことに影響を与えるものでもない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成によって、窒化アルミニウム回路基板の「半導体素子と金属回路間のはんだクラック及び窒化アルミニウム基板のクラック」が100μm未満か、クラックがない(段落【0032】及び【表1】参照。)ようにするという格別顕著な効果を奏すると認められる。
そうであれば、上記相違点1の本件発明1の構成とすることは、刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に成し得たことでない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものでない。

ウ 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「窒化アルミニウムからなるセラミック基板2」は、本件発明1の「窒化アルミニウム基板」に相当し、以下同様に、「表側の表面」は「一方の面」に、「表側の表面」の「銅からなる金属回路板3」は「銅回路」に、「裏側の表面」は「他方の面」に、「裏側の表面」の「銅からなる金属回路板3」は「銅放熱板」に、「シリコンペレット」は「半導体素子」に、「ハンダ」は「はんだ」に、「回路基板1」は「窒化アルミニウム回路基板」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「複数の溝4」が形成された部分の銅板2は、薄肉部分を有しているといえる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2及び相違点3で相違する。

[一致点2]
「窒化アルミニウム基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が設けられ、前記銅回路および前記銅放熱板が前記窒化アルミニウム基板に接合され、前記銅回路上に半導体素子をはんだで搭載したものであって、前記銅回路が薄肉部分を有している窒化アルミニウム回路基板。」

[相違点2]
本件発明1は、「前記銅回路上に半導体素子をPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだで搭載したものであって、」「前記銅回路の半導体搭載領域端部から0.3mm?2.0mmの範囲に銅回路とろう材の合計の厚さDに対し20?60%の厚さdの薄肉部分を有している」のに対し、甲2発明は、このような構成を有しない点。

[相違点3]
本件発明1は、「窒化アルミニウム基板」「銅回路」及び「銅放熱板」の厚さが、それぞれ「0.3?1.0mm」、「0.1?0.5mm」及び「0.1?0.5mm」であって、「前記銅回路および前記銅放熱板がろう材を介して、前記窒化アルミニウム基板に接合され」ているのに対し、甲2発明は、このような構成を有しない点。

エ 甲2発明についての同一性及び容易想到性の検討
本件発明1と甲2発明とは相違点2及び相違点3で相違するから、本件発明1は甲2発明と同一でない。
また、相違点2は、実質的に上記アの相違点1と同様の相違点であるから、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、上記イと同様の理由により、刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に成し得たことでない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものでない。

オ 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「窒化アルミニウムの焼結体からなる絶縁部材12」は、本件発明1の「窒化アルミニウム基板」に相当し、以下同様に、「上面」は「一方の面」に、「銅板から形成された金属板13」は「銅回路」に、「下面」は「他方の面」に、「銅板から形成された金属支持部材11」は「銅放熱板」に、「金属ろう」は「ろう材」に、「半導体基体14,15,16」は「半導体素子」に、「凹部28」は「薄肉部分」に、「混成IC」は「窒化アルミニウム回路基板」に、それぞれ相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点3で一致し、相違点4及び相違点5で相違する。

[一致点3]
「窒化アルミニウム基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が設けられ、前記銅回路および前記銅放熱板がろう材を介して、前記窒化アルミニウム基板に接合され、前記銅回路上に半導体素子を搭載したものであって、前記銅回路が薄肉部分を有している窒化アルミニウム回路基板。」

[相違点4]
本件発明1は、「前記銅回路上に半導体素子をPb(90%)-Sn(10%)のクリームはんだで搭載したものであって、」「前記銅回路の半導体搭載領域端部から0.3mm?2.0mmの範囲に銅回路とろう材の合計の厚さDに対し20?60%の厚さdの薄肉部分を有している」のに対し、甲3発明は、このような構成を有しない点。

[相違点5]
本件発明1は、「窒化アルミニウム基板」「銅回路」及び「銅放熱板」の厚さが、それぞれ「0.3?1.0mm」、「0.1?0.5mm」及び「0.1?0.5mm」であるのに対し、甲3発明は、このような構成を有しない点。

カ 甲3発明についての同一性及び容易想到性の検討
本件発明1と甲3発明とは相違点4及び相違点5で相違するから、本件発明1は甲3発明と同一でない。
また、相違点4は、実質的に上記アの相違点1と同様の相違点であるから、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、上記イと同様の理由により、刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に成し得たことでない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものでない。


(2)本件発明2及び本件発明3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1を更に減縮したものである。
したがって、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び本件発明3は、甲1発明ないし甲3発明と同一でなく、また、甲1発明ないし甲3発明及び刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1ないし本件発明3は、甲1発明ないし甲3発明と同一でないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明でない。
また、本件発明1ないし本件発明3は、刊行物1ないし刊行物5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反する発明でない。
したがって、特許異議申立人による特許異議の申立ての主張は採用できない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし本件発明3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-21 
出願番号 特願2010-268510(P2010-268510)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05K)
P 1 651・ 113- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5863234号(P5863234)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セラミックス回路基板およびこれを用いたモジュール  

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