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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B01D |
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管理番号 | 1322311 |
異議申立番号 | 異議2016-700937 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-30 |
確定日 | 2016-11-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5897242号発明「多孔質セラミックハニカム体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5897242号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5897242号は、平成19年11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年11月15日 米国(US))を国際出願日とする特願2009-537171号について、平成28年3月11日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1-10に係る特許に対し、特許異議申立人 株式会社デンソーにより特許異議の申立てがされたものである。 第2.本件発明の認定 上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1-10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項ごとに「本件発明1」-「本件発明10」という。)。 「【請求項1】 焼結相組成物を含む多孔質セラミックハニカム体であって、 メジアン細孔径(d_(50))が、10マイクロメートル以上であり、 細孔径分布d因子の値が、0.8未満であり、 全気孔率の5%未満が1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔からなるものであり、 ウォッシュコートおよび触媒コーティングが施されていることを特徴とする多孔質セラミックハニカム体。 ただし、 細孔径分布d因子の値は、式(A):d因子=(メジアン細孔径(d_(50))-メジアン細孔径(d_(10)))/メジアン細孔径(d_(50))、によって算出されるものとする」 【請求項2】-【請求項10】略 第3.申立理由の概要 特許異議申立人は、下記(取消理由1)及び(取消理由2)により、本件特許は取り消すべきものである旨主張している。 (取消理由1) 本件発明1-10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 (取消理由2) 本件発明1-10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 1.(取消理由1)について (1)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書の第4頁第23行-第33行にて、本件発明の課題及び目的について述べている。 そして、特許異議申立人は同第5頁第11行-第7頁第16行にて、本件発明1の発明特定事項である「d因子」及び「メジアン細孔径(d_(50))」について、下記(ア)-(エ)のとおり主張し、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するということはできないとしている。 (ア)特許異議申立人が特許異議申立書の第5頁第17行-第19行にて主張するように、本件発明1の発明特定事項である「d因子」は、「濾過効率」及び煤付着時の「背圧」(フィルタ背圧)の観点から、多孔質媒体の「浸透性」に貢献するパラメータであるといえるが、本件明細書には、当該「d因子」の値を「0.8未満」とすることと、「濾過効率」、「背圧」及び「浸透性」との因果関係やメカニズムは記載されておらず、それが当業者にとって明らかである証拠も見当たらないから、「d因子」の値を「0.8未満」とすることが、前記本件発明の課題の解決に、どのように貢献するものであるか、明確でない。 (イ)図10に記載された「d因子の影響を予測するモデル化された圧力降下データ」では、「0.41」、「0.61」、「0.69」、「0.79」という4つの「d因子」の値に対する「フィルタ背圧」の値が記載されているが、「0.79」よりも大きい値に対する「フィルタ背圧」の値は記載されておらず、請求項1に記載された「0.8未満」という値に臨界的意義があることも、課題解決のための境界値であることも裏付けられていないから、「d因子」が「0.8未満」のすべての範囲で、本件発明の課題を解決できることが、当業者において認識できるものでない。 (ウ)本件明細書には、当該「メジアン細孔径(d_(50))」の値を「10マイクロメートル以上」とすることにより、本件発明の課題を解決できる因果関係やメカニズムは記載されておらず、それが当業者にとって明らかである証拠も見当たらないから、「メジアン細孔径(d_(50))」の値を「10マイクロメートル以上」とすることが、前記本件発明の課題の解決に、どのように貢献するものであるか、明確でない。 (エ)図10に記載された「d因子の影響を予測するモデル化された圧力降下データ」では、「メジアン細孔径(d_(50))」が「14.1」、「20.0」という2つのモデルにつき、「d因子」と「フィルタ背圧」との関係が記載されているが、当該2つのモデルだけからでは、「メジアン細孔径(d_(50))」と「フィルタ背圧」との関係を読み取ることができず、「10マイクロメートル以上」という値に臨界的意義があることも、課題解決のための境界値であることも裏付けられていないから、「メジアン細孔径(d_(50))」が「10マイクロメートル以上」のすべての範囲で、本件発明の課題を解決できることが、当業者において認識できるものでない。 (2)当審の判断 (ア)(イ)について 本件発明1における「d因子」は、「d因子=(メジアン細孔径(d_(50))-メジアン細孔径(d_(10)))/メジアン細孔径(d_(50))」によって算出される値であるから、「d_(50)」を一定とすれば、「d_(10)」が大きい場合、すなわち、径の小さい細孔が少ない場合に、小さくなる値であるといえる。 そうすると、本件発明1で「d因子」につき、「0.8未満」という「上限値」を特定することは、「径の小さい細孔」の割合を一定以下とすることであると解されるが、技術常識を参酌すれば、「多孔質セラミック製ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)」においては、「径の小さい細孔」は「粒子」が詰まりやすくなり、その結果、「フィルタ背圧」が大きくなるといえるし、図10の記載も、「d因子」の値が大きくなると、「フィルタ背圧」が大きくなるという、当該技術常識に沿った結果が示されているに過ぎないものといえる。 よって、「0.8未満」という、本件発明1における「d因子」の「上限値」の特定は、「孔径の小さい細孔」の割合を少なくし、「フィルタ背圧」を低下するという課題の解決に貢献するものであることは、当業者であれば認識できるものであるし、「d因子」が「0.8未満」のすべての範囲で、本件発明の前記作用効果が得られないともいえないから、本件発明1において、「d因子」の値を「0.8未満」と特定することが、サポート要件に違反するものではない。 (ウ)(エ)について 「メジアン細孔径(d_(50))」につき、「10マイクロメートル以上」という「下限値」を特定することは、前記「(ア)(イ)について」で述べた「d因子」の「上限値」を特定することと同様に、「径の小さい細孔」の割合を減少させる作用効果を奏するものであると解される。 そして、技術常識を参酌すれば、「多孔質セラミック製ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)」においては、「径の小さい細孔」は「粒子」が詰まりやすく、「圧力降下」が大きくなるといえるし、図10の記載も、「メジアン細孔径(d_(50))」の値が小さくなると、「フィルタ背圧」が大きくなるという、当該技術常識に沿った結果が示されているに過ぎないものといえる。 よって、「10マイクロメートル以上」という、本件発明1における「メジアン細孔径(d_(50))」の「下限値」の特定は、「径の小さい細孔」の割合を少なくし、「フィルタ背圧」を低下するという課題の解決に貢献するものであることは、当業者であれば認識できるものであるし、「メジアン細孔径(d_(50))」が「10マイクロメートル以上」のすべての範囲で、本件発明1の前記作用効果が得られないともいえないから、本件発明1において、「メジアン細孔径(d_(50))」が「10マイクロメートル以上」と特定することは、サポート要件に違反するものではない。 (3)小括 上記のとおり、本件発明1はサポート要件に違反するものではないから、特許異議申立の理由によっては、本件特許の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。 同様に、本件発明1をさらに特定する本件発明2-10についても、サポート要件に違反するものではないから、特許異議申立の理由によっては、本件特許の請求項2-10の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。 2.(取消理由2)について (1)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特に、下記(ア)-(オ)のとおり、ウォッシュコートおよび触媒コーティングが実施された際に、請求項1に記載された「d因子」、「メジアン細孔径(d_(50))」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の要件を満たすための製造方法の記載があるとはいえないから、本件明細書の記載が実施可能要件に適合するということはできないとしている。 (ア)本件明細書の段落【0073】、【0075】等に記載されているように、「ウォッシュコート」および「触媒コーティング」の実施により、「メジアン細孔径(d_(50))」は減少するものであるが、本件明細書では、「10マイクロメートル以上」という「メジアン細孔径(d_(50))」を満たすための「ウォッシュコート」および「触媒コーティング」の実施方法について、明らかでないし、「10マイクロメートル以上」という細孔径を選定する方法についても、明確かつ十分な記載がない。 (イ)本件明細書の段落【0075】には、「ウォッシュコートおよび触媒のコーティングを、構造体の小さな細孔にではなく、比較的大きな細孔に向けることがより望ましい。」と記載されているが、「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」を「比較的大きな細孔」に向ける方法についての記載はないし、「d因子」を「0.8未満」とする方法や、「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の割合を「全気孔率の5%未満」とする方法についても明らかでなく、さらには、「d因子」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」のパラメータ選定の方法についても、明確かつ十分な記載がない。 (ウ)「多孔質セラミック製ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)」においては、触媒をウォッシュコート層に担持することが一般的な手法であるから、ウォッシュコート層の厚さは、触媒の効果を適正に発揮できる値に設定されることが好ましいはずであるが、一方で、ウォッシュコート層の厚さは、「メジアン細孔径(d_(50))」や「d因子」と密接な関係にあることから、本件発明の「多孔質セラミックハニカム体」においては、「触媒の効果」を適正に発揮させることと、「メジアン細孔径(d_(50))」および「d因子」を所望の値とすることを両立する「ウォッシュコート層の厚さ」に設定する必要があることになるといえる。 しかしながら、本件明細書には、「ウォッシュコート層の厚さ」に関する記載も、「ウォッシュコート層の厚さ」を調整するための製造方法についての記載もないから、「触媒の効果」を適正に発揮させることと、「メジアン細孔径(d_(50))」および「d因子」を所望の値とすることを両立するための、「ウォッシュコート層の厚さ」を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されていない。 (エ)本件明細書の段落【0006】には、「同じ気孔率および同じメジアン細孔径(d_(50))を有する2つのフィルタは、異なる細孔径分布(PSD)および/または異なる細孔モルホロジーのために、同じ煤付着量および同じ流量でさえも、異なる背圧を有するであろう。」と記載されていることから、「細孔モルホロジー」の形状は、煤の燃焼効率や背圧の変動要因に影響を与えやすいものであるが、本件明細書には、「細孔モルホロジー」を所望の形状に形成するための「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」方法について、明確かつ十分に記載されていない。 (オ)本件明細書には、パラメータ選定に関する指針などの開示がないことから、本件発明の条件に合う「多孔質セラミックハニカム体」を得るためには、必要以上の試行錯誤を行う必要があり、してみれば、本件明細書の記載内容が実施可能要件に適合するということはできない。 (2)当審の判断 (ア)(イ)(オ)について 本件明細書の段落【0070】には、「図4は、・・・触媒(C)および未触媒(U)の円柱状微粒子フィルタサンプルの背圧のシミュレーションと実験に関する類似のモデル有効性結果を示している。ここでも、シミュレーション(S)および実験(X)の圧力降下の両方が報告されている。」と記載されており、また、図4に記載された、「未触媒(U)」および「触媒(C)」の、細孔径分布のグラフは、本件発明1の「d因子」、「メジアン細孔径(d_(50))」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の要件を満たすものであると解される。 ここで、図4の「触媒(C)」については、「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」がなされた状態であると解されることから、本件明細書においては、「実験(X)」により、本件発明1の「d因子」、「メジアン細孔径(d_(50))」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の要件を満たす「多孔質セラミックハニカム体」が製造できているといえる。 そうすると、特許異議申立人の主張どおり、本件明細書において具体的な「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」方法が特定されていないとしても、本件特許の出願時に周知の方法で「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」を行うことにより、本件発明1の「d因子」、「メジアン細孔径(d_(50))」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の要件を満たす「多孔質セラミックハニカム体」を得ることができないとはいえないし、そのために、過度の試行錯誤を行う必要があるともいえないから、本件明細書の記載内容が、実施可能要件を満たしていないということはできない。 (ウ)について 「触媒の効果」については、触媒をウォッシュコート層に担持する等、周知の「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」を行えば、得られるものであることは技術常識であり、一方、「(ア)(イ)(オ)について」で述べたように、本件明細書の記載および当業者の技術常識を参酌すれば、本件発明1の「d因子」、「メジアン細孔径(d_(50))」および「1.0マイクロメートル未満の細孔径を有する細孔」の要件を満たす「多孔質セラミックハニカム体」を得ることができないとはいえないから、当該主張は採用できない。 (エ)について 本件発明1-10は、「細孔モルホロジー」を発明特定事項とするものでないから、「細孔モルホロジー」を所望の形状に形成するための「ウォッシュコートおよび触媒のコーティング」方法が記載されていないことをもって、本件明細書の記載内容が、実施可能要件を満たしていないということはできない。 (3)小括 上記のとおり、本件明細書は実施可能要件に違反するものではないから、特許異議申立の理由によっては、本件明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1-10に係る本件特許は、第36条第4項第1号および第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 第4.むすび 異議申立人が主張する取消理由1及び2によっては、請求項1-10に係る特許を取り消すことはできない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-18 |
出願番号 | 特願2009-537171(P2009-537171) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(B01D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三崎 仁、平塚 政宏 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
萩原 周治 宮澤 尚之 |
登録日 | 2016-03-11 |
登録番号 | 特許第5897242号(P5897242) |
権利者 | コーニング インコーポレイテッド |
発明の名称 | 多孔質セラミックハニカム体 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |
代理人 | 柳田 征史 |
代理人 | 中村 広希 |
代理人 | 大庭 弘貴 |
代理人 | 佐久間 剛 |