ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10M |
---|---|
管理番号 | 1322322 |
異議申立番号 | 異議2016-700537 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-06-09 |
確定日 | 2016-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5829900号発明「油類又は油類組成物の引火点向上方法及び引火点が向上された油性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5829900号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5829900号の請求項1ないし4に係る特許(以下、各請求項に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件特許」という。)についての出願は、平成23年11月30日に特許出願され、平成27年10月30日にその特許権の設定登録がされ、同年12月9日にその特許掲載公報が発行され、その後、平成28年6月9日に本件特許について特許異議申立人 尾田久敏により特許異議の申立てがされ、当審において同年8月25日付けで取消理由が通知され、これに対して同年10月27日に特許権者 昭和シェル石油株式会社から意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第5829900号の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を項番に従って「本件発明1」などという。)。 「【請求項1】 引火点が250?400℃である油類又は油類組成物に、下記一般式(1)においてaが200?1500の整数であるジメチルポリシロキサンを0.1?10000質量ppm添加することを特徴とする引火点向上方法。 【化1】 (RはCH_(3)である。) 【請求項2】 上記ジメチルポリシロキサンを2?50質量ppm添加することを特徴とする請求項1に記載の引火点向上方法。 【請求項3】 引火点が250?400℃である油類又は油類組成物に、下記一般式(1)においてaが200?1500の整数であるジメチルポリシロキサンを0.1?10000質量ppm添加した引火点が向上された油性組成物。 【化2】 (RはCH_(3)である。) 【請求項4】 上記ジメチルポリシロキサンを2?50質量ppm添加したことを特徴とする請求項3に記載の引火点が向上された油性組成物。」 第3 取消理由の概要 当審において、本件特許3、4に対して通知した平成28年8月25日付け取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件発明3、4は、後記甲第1号証に記載された発明(以下、甲第1号証を単に「甲1」といい、甲1に記載された発明を「甲1発明」という。)であるから特許法第29条第1項第3号に該当するか、仮にそうでないとしても、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許3、4は、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 平成28年10月27日付けで特許権者から提出された意見書を踏まえ、当審は次のとおり判断する。 本件特許1ないし4は、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 その理由は以下のとおりである。 1 甲1と甲1発明 (1) 甲1 本件特許についての出願前に頒布された刊行物である甲1は、次のものである。 甲1:総説 消泡剤、“潤滑”第15巻 第6号(1970)、 363?371頁 (2) 甲1発明 甲1の「4.3.1 オイル型」の項(368頁参照)には、シリコーン消泡剤の一形態であるオイル型について記載され、当該オイル型においては、シリコーン消泡剤としての、350?60000cSt(特に12500cSt)のジメチルシリコーン油が、1?20ppmの濃度で潤滑油に添加される旨説明されている。 また、甲1の「4.1 シリコーン油の構造」の項(366、367頁参照)を斟酌すると、上記ジメチルシリコーン油は、同項に記載された構造式中のRがCH_(3)基のみからなる直鎖状ジメチルポリシロキサン(以下、甲1において「ジメチルシリコーン油」という場合は当該直鎖状ジメチルポリシロキサンを意味する。)を指すものと解される。 そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「350?60000cSt(特に12500cSt)のジメチルシリコーン油を、シリコーン消泡剤として、1?20ppmの濃度で潤滑油に添加した潤滑油組成物。」 2 甲1以外の証拠とその記載事項 (1) 甲第2ないし6号証 異議申立人が提出した甲第2ないし6号証は以下のとおりである。 甲第2号証:シリコーンオイルKF-96性能試験結果(技術資料)、 信越化学工業WEBサイト、2003.9/2014.5 甲第3号証:SH200オイルカタログ、東レ・ダウコーニング・シリ コーン株式会社、1999年4月発行、1-5、16-1 9頁 甲第4号証:新版 石油製品添加剤、株式会社幸書房、昭和61年7月 25日初版第1刷発行、16、17、574頁 甲第5号証:潤滑油とグリース、三共出版株式会社、昭和49年6月1 日4刷発行、400、401頁 甲第6号証:特開2012-62350号公報 (2) 甲第2ないし5号証の記載事項 甲第2ないし5号証(なお、甲第6号証は、本件特許についての出願前に公知となっている刊行物ではないため割愛した。)には、シリコーン油の特性・作用に関する技術的事項が開示されている。 3 本件発明3、4について 事案に鑑み、はじめに本件発明3、4について検討する。 (1) 甲1発明との対比 本件発明3、4のジメチルポリシロキサンと、甲1発明のジメチルシリコーン油とを対比すると、甲1発明のジメチルシリコーン油の構造は、重合度(本件発明では「a」とされているもの)を除き、本件発明3、4のジメチルポリシロキサンの構造と一致していることは明らかである。 また、当該重合度「a」は、25℃における動粘度に換算して評価可能であることが当業者間で既によく知られており(「分子量」と「25℃における動粘度」との関係を示すA.J.Barryの式を用いて、「重合度」と「25℃における動粘度」との関係付けることができ、実際、本件特許明細書の【0022】においても当該関係が利用されている。)、本件発明3、4のジメチルポリシロキサンの重合度(aは200?1500の整数)を上記動粘度に換算してみると、320?126,166cSt程度であることが分かる(特許権者が平成27年8月19日に提出した意見書における計算結果を援用した。甲第2号証の5頁の図-1から換算しても同様である。)。 そうすると、本件発明3、4のジメチルポリシロキサンは、甲1発明における「350?60000cSt(特に12500cSt)のジメチルシリコーン油」を包含するものであるということができるから、両者には、その重合度を含めて構造的な違いは認められない。 そして、甲1発明における「潤滑油」及び「潤滑油組成物」は、それぞれ本件発明3、4における「油類又は油類組成物」及び「油性組成物」に相当するものである。 以上を総合すると、本件発明3、4と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致するといえる。 ・相違点1:本件発明3、4は、「引火点が250?400℃である油類又は油類組成物」を添加対象物としているのに対して、甲1発明は、潤滑油の引火点について特定するものではない点。 ・相違点2:本件発明3、4の油性組成物は、「引火点が向上された」ものであるのに対して、甲1発明は、この点の明示がない点。 (2) 相違点の検討 甲1発明に係るジメチルシリコーン油を添加する潤滑油として、甲1の「1. 潤滑油の発泡」の項(363頁参照)には、レーシングカーの用途をはじめとする種々のものが列記され、具体的には、甲1の表6、7(367、368頁参照)などにおいて、SAE50の粘度グレードのものなどが実験に供されていることを認めることができる。 しかしながら、粘度グレードが一義的に引火点に対応するとの技術的な知見があるとはいえず、甲1を仔細にみても、甲1発明の潤滑油の引火点が250?400℃であると認めるに足りる記載は見当たらない。また、甲1及び甲第2ないし5号証の記載を精査しても、シリコーン油自体の引火点に関する事項は確認できるものの、甲1発明の潤滑油として引火点が250?400℃のものを採用することを動機付ける根拠を見いだすことはできない。 そして、本件特許明細書の実施例などを斟酌すると、本件発明3、4では、「引火点が250?400℃である油類又は油類組成物」にあっても、同明細書の【0011】に記載された「本発明によれば、油類又は油類組成物に上記した引火点向上剤を添加することによって、物理的・化学的な特性の双方に大きな変化を引き起こすことなく引火点を容易に上昇させることができる。」という効果を認めることができる。 したがって、上記相違点1は、実質的なものである上、当該相違点1に係る本件発明3、4の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3、4に特許法第29条所定の違反は認められない。 4 本件発明1、2について 次に、本件発明1、2について検討する。 上記甲1は、表題のとおり「消泡剤」に関する刊行物であって、そこに記載された事項はあくまで潤滑油の発泡現象を解決するための「消泡の方法」に関するものである。 一方、本件発明1、2は、「引火点が250?400℃である油類又は油類組成物」の引火点をいかにして向上させるかという「引火点向上方法」に係るものである。 そうすると、甲1に記載された「消泡の方法」は、本件発明1、2に係る「引火点向上方法」とは異質のものといわざるを得ないから、たとえ甲1ないし5号証の記載から、甲1発明のジメチルシリコーン油(ジメチルポリシロキサン)自体の引火点が高いことを当業者が認識し得たとしても、そのことをもって、甲1に記載された「消泡の方法」から、本件発明1、2に係る「引火点向上方法」を想起することは、当業者といえども容易なこととはいえない。 したがって、本件発明1、2についても特許法第29条所定の違反を見いだすことはできない。 5 小括 以上検討のとおり、本件発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえない。 第5 結び 以上のとおりであるから、本件特許1ないし4は、特許法第29条の規定に違反してされたものとは認められないから、同法第113条第1項第2号に該当せず、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許1ないし4を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-30 |
出願番号 | 特願2011-262142(P2011-262142) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C10M)
P 1 651・ 121- Y (C10M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中野 孝一 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
原 賢一 日比野 隆治 |
登録日 | 2015-10-30 |
登録番号 | 特許第5829900号(P5829900) |
権利者 | 昭和シェル石油株式会社 |
発明の名称 | 油類又は油類組成物の引火点向上方法及び引火点が向上された油性組成物 |
代理人 | 亀川 義示 |