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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
管理番号 1322331
異議申立番号 異議2016-700751  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-17 
確定日 2016-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5870475号発明「トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5870475号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5870475号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成22年5月20日(優先権主張 平成21年5月25日)に特許出願され、平成28年1月22日に特許権の設定登録がされ、平成28年3月1日にその特許公報が発行され、平成28年8月17日に、その請求項1?4に係る発明の特許に対し、エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5870475号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、特許登録時の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
以下の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であることを特徴とするトリアリルイソシアヌレート。
【化1】

(化学式(I)のR^(1)及びR^(2)は塩素原子またはアリルオキシ基を表し、少なくとも一つは塩素原子を表す。)
【請求項2】
以下の化学式(I)及び(II)で表される有機塩素化合物を含有し且つその合計含有量が100ppm以下であることを特徴とするトリアリルシアヌレート。
【化2】

(化学式(I)のR^(1)及びR^(2)は塩素原子またはアリルオキシ基を表し、少なくとも一つは塩素原子を表す。)
【請求項3】
請求項2に記載のトリアリルシアヌレートを転移反応させることを特徴とする請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法。
【請求項4】
トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたものである請求項3に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法」
なお、以下においては、請求項1に記載される「以下の化学式(I)で表される有機塩素化合物」を「化学式(I)の化合物」といい、請求項2に記載される「以下の化学式(I)及び(II)で表される有機塩素化合物」を「化学式(I)及び(II)の化合物」といい、「トリアリルイソシアヌレート」を「TAIC」ともいい、「トリアリルシアヌレート」を「TAC」ともいう。

第3 申立理由の概要及び証拠方法
1 申立理由の概要
特許異議申立人は、後記2の証拠を提出した上で、以下の申立ての理由を主張している。

(1)特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
a 本件発明1について
本件発明1は、本件優先日前に頒布された以下の甲第4、5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

b 本件発明2について
本件発明2は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1、2、7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

c 本件発明3について
本件発明3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第3、4、6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

d 本件発明4について
本件発明4は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1、2、3、6、7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

よって、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
a 本件発明1について
本件発明1は、本件優先日前に頒布された以下の甲第4又は5号証に記載された発明に基づいて、若しくは、甲第4又は5号証に記載された発明及び甲第1又は7号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

b 本件発明2について
本件発明2は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1、2又は7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

c 本件発明3について
本件発明3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第3、4又は6号証に記載された発明に基づいて、若しくは、甲第3、4又は6号証に記載された発明及び甲第1又は7号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

d 本件発明4について
本件発明4は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1、2、3、6又は7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(3)特許法第36条第4項第1号(以下「理由3」という。)
本件発明1及び2について、概略下記の点について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されてなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載は不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件特許は同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

本件発明1は、化学式(I)の化合物を100ppm以下含有するトリアリルイソシアヌレートであり、本件発明2は、化学式(I)及び(II)の化合物を合計で100ppm以下含有するトリアリルシアヌレートであるのに対し、実施例では、それぞれの化合物が100ppmよりはるかに少ない含有量(10ppm)の例が記載されているだけであり、発明の詳細な説明には、それぞれの化合物が100ppm以下含有するという範囲全般に渡ってトリアリルイソシアヌレート及びトリアリルシアヌレートを製造することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(4)特許法第36条第6項第1号(以下「理由4」という。)
本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、概略下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

本件発明1は、化学式(I)の化合物を100ppm以下含有するトリアリルイソシアヌレートであり、本件発明2は、化学式(I)及び(II)の化合物を100ppm以下含有するトリアリルシアヌレートであるが、実施例では、それぞれの化合物が100ppmよりはるかに少ない含有量(10ppm)の例が記載されているだけであり、発明の詳細な説明には、それぞれの化合物が100ppm以下含有するという範囲全般に渡ってトリアリルイソシアヌレート及びトリアリルシアヌレートの発明が記載されていない。

2 証拠方法
甲第1号証:米国特許第2537816号明細書
甲第2号証:JAMES R. DUDLEY 外5名著、Cyanuric Chloride Derivatives. III. Alkoxy-s-triazines、J. Am. Chem. Soc.、1951年、Vol.73、第2986?2990頁
甲第3号証:特開昭58-85874号公報
甲第4号証:特公昭47-22588号公報
甲第5号証:特開平11-255753号公報
甲第6号証:国際公開第2008/006661号
甲第7号証:国際公開第2008/009540号

第4 申立て理由についての当審の判断
1 理由1について
(1)各甲号証の記載
ア 甲第1号証
甲第1号証には訳文にして以下の記載がある。
(1a)「反応は、様々な温度および圧力条件下、たとえば標準温度または高めた温度、たとえば反応混合物の還流温度で、かつ大気圧または過圧下に行うことができる。・・・一般に収率は、反応の大部分を約10℃?40℃、または50℃程度の温度で行う場合の方が、反応混合物の還流温度で反応全体を行う場合より若干高い」(第2欄第53行?第3欄第13行)

(1b)「実施例12
トリアリルシアヌレートの製造
部 おおよそのモル比
塩化シアヌル 185.5 1.0
アリルアルコール(90%) 870.0 13.2
水酸化ナトリウム 120.0 3.0
機械式撹拌機と温度計とを備えた、2リットルの三ツ口丸底フラスコに90%のアリルアルコール870部と、その中に溶解している水酸化ナトリウム120部を装入した。・・・次いで撹拌機をスタートさせ、固体の塩化シアヌル185.5部の添加を開始した。・・・次いで、粗製トリアリルシアヌレートの上澄みである水層をできる限りデカンテーションにより分離し、約200gのNaOH5%水溶液により置換した。この混合物を強力に撹拌してから相を分離させた。上部の水相を同様にデカンデーションにより分離し、前記のプロセスを新しいNaOH5%水溶液を用いて繰り返し、最後にアルカリ分が全て除去されるまで温水で処理した。」(第13欄第48行?第14欄第20行の例12)

イ 甲第2号証
甲第2号証には訳文にして以下の記載がある。
(2a)「塩化シアヌルの派生物III アルコキシ-s-トリアジン」(標題)

(2b)「表I

R 収率(%)・・・ 融点(度)・・・
・・・
アリル 85^(d) 31^(e)・・・
・・・
」(第2987頁上段の表I)

(2c)「私達の方法では、塩が過剰量の適切なアルコールに溶解または懸濁され、そして、適切な温度において、クロロ-s-トリアジンが加えられた。炭酸ナトリウムは、塩化シアヌルの活性の高い反応を和らげるため、低級トリアルキルシアヌレートの製造に好ましい。しかし、水酸化ナトリウムは、高級エステルの製造により効率的である。また、水酸化ナトリウムは、アルコキシアミノ-s-トリアジンIIとIIIの製造により効率的である。
表Iはトリアルキルシアヌレート生成物の表である。」(第2987頁左下から12行?下から2行)

(2d)「実験
トリアルキルシアヌレート(I)
3モルの水酸化ナトリウムが、アルコール1000ml中に溶解され又は懸濁された。そして、1モルの固体の塩化シアヌルが、反応温度が25?30に保たれるように徐々に加えられた。・・・沈殿した塩化ナトリウムが溶液から濾過された。そして、溶解性のシアヌレートを回収するためろ液が蒸発された。」(第2989頁左欄第8?17行)

ウ 甲第3号証
甲第3号証には以下の記載がある。
(3a)「(1)イソシアヌル酸エステルに溶解する溶媒の不在下に、シアヌル酸エステルの接触異性化反応により対応するイソシアヌル酸エステルを製造する方法であって、式群
1.[R_(n)NH_(4-n)]^(+)X^(-)、ただしn=1、2、3又は4、
2.[R_(p)NH_(4-p)]^(+)X^(-)、ただしp=3又は4、
3.[R’C_(5)H_(4)NR’’]^(+)X^(-)、ただしC_(5)H_(4)Nはピリジン環を表わす、
4.[R_(1)R_(2)R_(3)S]^(+)X^(-)、
(式中Xはハロゲン又は水酸化物であり、Rは炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基、フェニル基又はベンジル基であり、但し化合物1と2には1より多くのフェニル基もしくはベンジル基を含むことがなく、R’は水素、炭素原子数が1-4のアルキル基又は炭素原子数が1-4のアルケニル基であり、R’’は炭素原子数が1-18のアルキル基又は炭素原子数が1-18のアルケニル基であり、R_(1)、R_(2)、R_(3)は炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基あるいはフェニル基である)
の中の何れかで示される化合物の少くとも1種を触媒として用いることを特徴とするイソシアヌル酸エステルの製造方法。
(2)シアヌル酸トリアリルがイソシアヌル酸トリアリルに転化されることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の方法。」(特許請求の範囲第1項及び第2項)

(3b)「イソシアヌル酸の3重エステルは種々の方法で製造できる。直接法は出発物質にシアン酸アルカリ又はイソシアヌル酸アルカリを用い、これを適切な溶媒中でハロゲン化物と反応して所望のエステルとする。溶液状で得られた生成物の純度は副反応のせいで不十分なものであり、引き続き蒸発、水洗及び最後に蒸留等の工程が必要である。
かゝる直接合成法が手間がかゝる点から間接法についても検討がなされた。この場合シアヌル酸エステルがまず最初合成され、次いで異性化によって所望のイソ化合物が得られる。このシアヌル酸エステル類を用いる方法は、該化合物が都合よく入手できることが必要であり、その例としてシアヌル酸トリアリル(TAC)はシアヌル酸クロリド(・・・)とアリルアルコールとから大規模に生産される。」(第2頁左上欄第12行?右上欄第7行)

エ 甲第4号証
甲第4号証には以下の記載がある。
(4a)「1 アンモニア、ヒドラジン、アルキルアミン、アルキルヒドラジン、アルケニルアミン、アルカノールアミン、アルキレンアミン、アルカノールヒドラジンおよび酸アミドよりなる炭素原子数が0?4個である窒素化合物群から選ばれた少くとも一つの物質を5重量%以上含有している塩基性溶液と不純物を0.01?10.00重量%含有しているイソシアヌル酸エステルとを1.5?30kg/cm^(2)の加圧下で20?200℃において接触せしめることを特徴とするイソシアヌル酸エステルの不純物除去法。」(特許請求の範囲第1項)

(4b)「不純物を0.01?10.00重量%含有しているイソシアヌル酸エステルは有機ハロゲン化合物とシアン酸アルカリあるいはシアヌル酸アルカリとの反応もしくはシアヌル酸エステルの転位反応など種々の方法によって合成されるもので、ここにいう不純物の種類は多岐にわたるが一般にシアヌル酸およびそのエステル、パラバン酸およびそのエステル、置換尿素、炭酸エステル、イソシアヌル酸のモノあるいはジエステル、第4級アンモニウム塩、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルカリ、シアメリドおよびタール状物質などの単独あるいは2種以上の混合物である。」(第2頁第3欄第36行?第4欄第3行)

(4c)「実施例 1
炭酸ジアルリル1.2重量%、ジメチルアルリルアミン塩酸塩0.7重量%、タール状物質0.2重量%を含有する粗製イソシアヌル酸トルアルリル500gをメタノール1000mlに溶解しこれにアンモニア300gを溶解させたのちオートクレーブに入れ100℃(圧力5?7kg/cm^(2))において3時間保ったのち冷却する。混合物をとり出して水中に投入し沈殿する油状物を集めて分留すれば純度が99.8重量%以上のイソシアヌル酸トリアルリル460gをうる。」(第3頁第5欄第17?27行)

オ 甲第5号証
甲第5号証には以下の記載がある。
(5a)「【請求項1】 ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下であることを特徴とするトリアリルイソシアヌレート。
・・・
【請求項3】 非プロトン性極性溶媒中でシアン酸アルカリとハロゲン化アリルとを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法において、反応終了後、溶媒を留去し、塩酸水溶液にて洗浄し、トリアリルイソシアヌレートを含む有機層と水層を形成し、水層を分離した後のトリアリルイソシアヌレート含有有機層をアルカリ性塩含有洗浄水によりアルカリ側で洗浄し、次いでトリアリルイソシアヌレ一トを含む有機層を水層から分離することを特徴とするトリアリルイソシアヌレートの製造方法。」

(5b)「【0002】
【従来の技術】トリアリルイソシアヌレートは、各種の樹脂にすぐれた耐熱性を付与する架橋剤として知られている。例えば、熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物にトリアリルイソシアヌレートを添加した樹脂組成物は、硬化後すぐれた対薬品性、誘電特性、耐熱性、難燃性を示し、電子産業、宇宙、航空機産業など、誘電材料、絶縁材料、耐熱材料として広く用いられることが知られている(特開平6-32875号公報)。しかし、トリアリルイソシアヌレートを用いた耐熱性樹脂を、特にパソコンや携帯電話用プリント基板等の電子材料用樹脂に使用する場合には、通常の電気機器用樹脂等の汎用樹脂用途とは異なり、高密度に配線が集積していることから、微量のハロゲンイオン残存量が大きな障害となる。
【0003】一般に、非プロトン性極性溶媒中でシアン酸アルカリとハロゲン化アリルとを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法では、副生する塩の大部分は、例えば塩化ナトリウムのような中性塩であり、水のみの洗浄でも十分除去できる。しかしながら、原料のシアン酸アルカリ中に炭酸塩が多く含まれる場合は、例えば塩化カルシウムの如き周期率表第2族金属塩を副反応抑制剤として加えることが知られている(特公昭42-26766号公報)。この場合は、反応終了後の溶媒を蒸留留去し、得られるトリアリルイソシアヌレートを含有する混合物に水または塩酸水溶液を添加し、トリアリルイソシアヌレート含有有機層と水層を形成させ、次いでトリアリルイソシアヌレート含有有機層を水層から分離する塩酸洗浄法が有効である(特公昭58-22118号公報)。しかしながら、このような塩酸洗浄のみでは、蒸留精製後のトリアリルイソシアヌレ-ト製品中に塩素イオン等のハロゲンイオンが10?100ppm程度混入することが避けられない。
【0004】このため特公昭58-22118号公報所載の発明でも、塩酸洗浄工程を終えて水層からトリアリルイソシアヌレート含有有機層を分離した後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を更に30℃の水で2回洗浄し、2回目の水洗の際には、苛性ソーダ水溶液で中和して分液する水洗工程が試みられているが、本発明者らの知見によると、それでも残存ハロゲンイオン量は数ppm程度である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この種の耐熱性樹脂をICや、LSIのごとき半導体チップ中での封止剤等に用いる場合には、絶縁信頼性の上で、前述のような残存ハロゲンイオン量程度ではいまだ不十分であり、実用に供し得ない。誘電特性を下げる原因としては、樹脂中に微量含まれる塩素イオン等のハロゲンイオンが大きな障害であることはつとに知られている。したがって、配線が高密度に集積した半導体チップ上で用いる樹脂は、極近接した配線内で高い絶縁特性を示さねばならず、一般的な電子材料では問題にならない数ppmレベルの微量ハロゲンイオンでも半導体チップの耐久性、安定性をいちじるしくおとしめる。現在の半導体チップ等の集積度から、数ppmよりもさらに一桁以上低いハロゲンイオン残量の高純度トリアリルイソシアヌレートが強く望まれていた。
【0006】本発明は、前記のごとき課題を解決したもので、ハロゲンイオン残存量がきわめて少ない高品位のトリアリルイソシアヌレートと、その製造法を提供することを目的としている。」

(5c)「【0011】本発明のトリアリルイソシアヌレートは、例えば以下の方法により製造できる。まず常法により非プロトン性極性溶媒中でシアン酸アルカリとハロゲン化アリルを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法において、例えば、非プロトン性極性溶媒としてはジメチルフォルムアミド(DMF)を、シアン酸アルカリにはシアン酸ソーダを、ハロゲン化アリルにはアリルクロライドを用いる。この場合、生成物としてアリルイソシアネートと食塩ができる。得られたアリルイソシアネート3分子からトリアリルイソシアヌレートが生成するが、反応終了後、まずDMFを約90?100℃、30?50mmHgで留去する。次いで、適量の水で無機塩を溶解し、水に不溶の有機層を分離する。この有機層に濃塩酸と水が約1:1からなる塩酸水溶液のを加えて酸洗浄する。酸洗浄後、下層の水層を分液除去して、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を取得する。」

(5d)「【0012】本発明では、水層分液後のトリアリルイソシアヌレートを含む有機層に、必要に応じて、シクロヘキサンを添加し、アルカリ性塩水を添加してアルカリ洗浄する。苛性ソーダや苛性カリのような強塩基に代えて、弱アルカリ性のアルカリ性塩を使用することで、強塩基によるトリアリルイソシアヌレートの変性を防ぐとともに、pHの調整が容易となる。アルカリ性塩としては、炭酸塩、硼酸塩などを用いることができるが、炭酸ソーダ、炭酸カリのような炭酸塩が望ましい。アルカリ性塩水の濃度は0.01?3%程度で、アルカリ性塩水の添加量は、トリアリルイソシアヌレート含有有機層と水層とを分離でき、ハロゲンイオンが該有機層から水層へと効率よく抽出できる範囲であれば適宜選択できるが、通常トリアリルイソシアヌレート含有有機層1に対して0.1?5部が好適である。0.1部以下ではハロゲンイオンの抽出が不十分であり、5部以上増やしても効果に大きな差異はない。アルカリ洗浄の際、混合液のpHは7.5以上、好ましくは9?11になるように調整する。pH7.5以下ではハロゲンイオンの除去が十分ではなく、pH11以上ではトリアリルイソシアヌレートの水分解によるロスが大きくなりがちである。アルカリ性塩水添加後の混合攪拌時には、混合液の温度を35?100℃、望ましくは40?80℃に維持する。35℃未満ではトリアリルイソシアヌレートの粘度が大きくなり、ハロゲンイオンの水層への移行速度が著しく低下する。60℃をこえるとトリアリルイソシアヌレートの加水分解や重合によるロスがではじめ、100℃をこえると実用的ではない。洗浄後のハロゲンイオン残量は、この温度に大きく依存する。洗浄後は、上層の洗浄水層を分液する。アルカリ洗浄の回数は、許容残留ハロゲンイオンによって適宜決めればよいが、最低2回は実施するのが望ましい。アルカリ洗浄をシクロヘキサンの存在下で行う場合には、シクロヘキサンの添加によって、トリアリルイソシアヌレート含有有機層の塩の溶解度が低下し、該有機層と水層との二層間分液性が向上する。これにより、層間エマルジョン部が低減し、分液の際のハロゲンイオンの有機層への浸入を防ぐことになる。加えて、シクロヘキサンの無添加に比較すると、同温度では洗浄時の混和性及び洗浄効率が向上する。シクロヘキサンの添加量は、トリアリルイソシアヌレート含有有機層1に対して0.01?1部程度でよい。0.01部以下ではハロゲンイオンの移層効果がみられず、1部以上では効果の一層の向上は認められず、むしろ生産効率を落とすおそれがある」

カ 甲第6号証
甲第6号証の記載事項を訳文で示す。訳文は、甲第6号証のパテントファミリーである特表2009-542755号公報に基づいて当審が作成した。
(6a)「クレーム
1.少なくとも90℃の温度でのCu塩の存在下でトリアリルシアヌレート(TAC)の転位を含むトリアリルイソシアヌレート(TAIC)の製造方法において、
TACおよびCu^(2+)塩を、TACに対して0.01?1質量%のCu^(2+)の量で、互いに別々にあるいはそれらの成分を含む混合物の形態で、少なくとも90℃でTACの転位によってCu^(2+)塩の存在下で形成され且つその後90℃より低く冷却されていないTAIC含有反応混合物中に連続的に導入し、90?160℃の範囲内で温度を維持しながら転位をそれらの条件下で実施し、且つ添加物に相当する量の反応混合物を連続的に排出し、そしてTAICをそれらから単離することを特徴とする方法。」(クレーム1)

(6b)「TAIC製造の3番目の方法は、トリアリルシアヌレート(TAC)のクライゼン転位であり、それはそれ自身で、触媒の存在下で、シアヌル酸塩化物とアリルアルコールとの反応によって産業規模で得られる。

」(第2頁第6?12行)

キ 甲第7号証
甲第7号証の記載事項を訳文で示す。訳文は、甲第7号証のパテントファミリーである特表2009-544642号公報に基づいて当審が作成した。
(7a)「クレーム
1.塩化シアヌルとアリルアルコールとをアルカリ金属酸受容体の存在下で、及びアリルアルコール以外の有機溶剤の不在下で反応し、形成された塩を水の添加及び続く相の分離によって取り除き、水で有機相を抽出して洗浄し、そして水及びアリルアルコールをTAC含有有機相から蒸留して取り除くことによって、APHA数10以下を有するシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法であって、アリルアルコール3.9?5.0mol及び酸受容体3.0?3.2当量が、塩化シアヌル1mol毎に使用され、塩化シアヌル及び酸受容体が、同時に又は連続的に、無水の又は少なくとも50質量%の水性アリルアルコールに添加され、かつその反応が、-5℃?+50℃の範囲内の温度で、一工程以上で実施されることを特徴とする方法。
2.使用される前記の酸受容体が、アルカリ金属水酸化物、有利には水酸化ナトリウムであり、かつ有利には濃縮された水溶液の形で使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」(クレーム1及び2)

(7b)「本発明は、高収率及び高純度で、APHA数10以下を有する、以下で略してTACとして呼ばれるシアヌル酸トリアリル(2,4,6-トリス(アリルオキシ)-s-トリアジン)の製造方法に関する。」(第1頁第5?9行)

(7c)「驚くべきことに、今日まで公知の方法と比較した反応物のモル使用比における酸受容体の量における低減が、その反応を、短時間で、及び今日まで要求されている厳しく制限された温度条件なしに実行することを可能にし、かつその上TACを比較的低いAPHA色数、すなわち10未満で得ること可能にすることが判明した。これは、時空収率を増加すること、及びTACを、99%を超える純度で90%を超える収率で得ることを可能にした。驚くべきことに、TAC含有有機相及び水相は、さらに、互いから急速に、並びに反応及び洗浄後のあらゆる問題なしに分離され、かつ回収されたアリルアルコールは、TACの品質を低減することなく再利用されうる。」(第4頁第17?31行)

(7d)「反応が終了した後、ちょうど十分な水は、沈澱させた塩化物が溶液に戻る反応混合物に添加される。撹拌機を切った後、ほぼすべてのTACを含有する上部の有機相、及び塩を含有する下相の二相が、非常に短時間内に形成する。典型的に、該相は、ほぼ瞬時に、又は数分以内に分離され、かつ汚れの層を形成すること無しに鮮明な分離線を生じる。水相を取り出した後、有機相を、アリルアルコールの含有率を激減し、かつ塩の残留物を洗い流すために、少なくとも1回、有利には2?3回水で洗浄する。洗い流しは、有利には、加工条件下で簡単に確立されうる約30℃の温度で実施される。適宜、予熱された水が、約30℃の洗浄温度の維持のための使用も判明しうる。有機相の洗浄は、回分式で或いは連続的に、従来の抽出装置で実施されうる。洗浄後、該有機相は、一般にまだ、アリルアルコール約2?7%、及び水1?3%を含有する。挙げられた揮発性構成物は、好適な重合阻害剤の添加後に、典型的にヒドロキノン誘導体であり、高い温度で及び減圧下でゆっくりと蒸留される。底部の生成物として有意に約90%の収率で得られたTACは、少なくとも99.5%の純度、0?10、有利には0?5のAPHA数、及び27℃以上の凝固点を有する透明の液体である。反応及び洗浄の合された水相に存在するアリルアルコールは、有利には、水で共沸混合物60?73%としてそれらから回収され、アリルアルコール100%を補強され、かつ次の回分に供給される。」(第7頁第29行?第8頁第24行)

(7e)「実施例7
ブライン冷却反応容器を、最初に、-5℃まで冷却した純粋なアリルアルコール290.4gで装填した。その後、塩化シアヌル184.5gを撹拌し、そして50%水酸化ナトリウム溶液の添加を開始した。60分以内に、合計で水酸化ナトリウム溶液248.1g(3.10mol)を、温度が0℃を超えないように、計測供給した。その後、その混合物を、冷却せずに、別に約30分間、完全な転化率が得られるまで反応し続けさせた。その後、その混合物を、30℃まで暖め、沈澱した塩化ナトリウムを溶解するために、30℃まで予め暖めた水409mlを添加し、そして、撹拌機を切った後、数分以内に形成した相を、分離した。その有機相を、取り出し、2回、それぞれ水200mlで洗浄し、そしてヒドロキノンモノメチルエーテル100ppmで安定化した後に、回転蒸発器で、減圧下で、蒸発成分を除去した。APHA数0を有する純粋なシアヌル酸トリアリル240.5g(収率96.5%に対応する)を得た。
実施例8
冷却器及び循環ポンプからなる外部熱変換回路を有するジャケット付き撹拌反応器を、アリルアルコール119.0kg(2049mol)及び水26.5kgで最初に装填し、そして塩化シアヌル75.0kgを、撹拌しながら添加した。その後、ブラインで装填された冷却回路を発動し、そして循環混合物を、8℃まで冷却した。そして、合計で50質量%NaOH溶液101.0kg=66.2l(1262mol)の添加を、54lが消費されるまで反応温度が9?14℃で維持されている間に、開始した。
続いて冷却回路を遮断し、そして残った水酸化ナトリウム溶液を、最短可能時間内に流入させた。この間、反応器の内部温度は、35℃まで上昇した。合計導入時間は、約70分であった。転化を完了するために、撹拌を、別に20分間続け、そして水140lを、沈澱した塩化ナトリウムの溶液に添加した。撹拌機を切った後、透明な二相が、数分以内に形成し、分離容器によって分離させた。その有機相を、反応器中へ再循環し、そして2回、それぞれ水80lで洗浄した。次の抽出の後、洗浄したTACは、水2.1%及びアリルアルコール6.5%をまだ含んでいた。揮発留分を取り除くために、その生成物を、ヒドロキノンモノメチルエーテル100ppmでの安定化後に、50mbar及び100℃で低沸点溶剤を蒸留させた流下膜式蒸発器を介して供給した。収率93.9%に対応し、TACの純度99.9%、APHA数0?5のシアヌル酸トリアリル95.1kgを得た。」(第10頁第25行?第12頁第6行)

(7f)「実施例13
先行技術の方法を上回る本発明による方法の改善点を説明するために、加水分解によって生じた、形成されたTACの開裂及び挙げられたパラメータの機能としてのその分解率に対する、水酸化ナトリウムの過剰量、後反応温度及び後反応時間の影響を、比較実験の系列において決定した。
それぞれの場合において、実施例2によって製造されたTAC、アリルアルコール、水、及びNaClとの標準混合物を、その反応を水酸化ナトリウム過剰量無しに実施し(塩化シアヌル1mol毎に50質量%NaOH3.0mol)、かつその反応が終了した後、蒸留水を添加しないという条件で使用した。混合物中のTAC含有率は、それぞれの場合において、64.0?64.2%であった。所望の後反応温度を設定した後に、該標準混合物を、50質量%水酸化ナトリウム溶液の一定量(所望される過剰量に対応して)と混合し、そして一定温度で数時間撹拌した。試料を、一定の時間間隔で取り、そしてそのTAC含有率を、標準混合物の出発試料(ゼロ試料)のTAC含有率と比較した。実験の30、60、120、及び180分後の、後反応温度、添加したNaOH過剰量(塩化シアヌル1molごとのmol)及びTAC分解率は、表に従う。その結果は、形成されたTACの分解に対する、比較的高いNaOH過剰量の有害な影響を実証する。


」(第14頁第5行?第15頁)

(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証
甲第1号証には、トリアリルシアヌレートの製造において、その実施例12に、「・・・90%アリルアルコール870部と、その中に溶解している水酸化ナトリウム120部を挿入した。・・・次いで攪拌機をスタートさせ、固体の塩化シアヌル185.5部の添加を開始した。・・・次いで、粗製トリアリルシアヌレートの上澄みである水層をできる限りデカンテーションによる分離し、約200gのNaOH5%水溶液により置換した。この混合物を強力に撹拌してから層を分離させた。上部の水層を同様にデカンデーションにより分離し、前記のプロセスを新しいNaOH5%水溶液を用いて繰り返し、最後にアルカリ分が全て除去されるまで温水で処理した。」ことが記載されているから、甲第1号証には、「トリアリルシアヌレートの製造において、90%アリルアルコール870部と、その中に溶解している水酸化ナトリウム120部を挿入し、次いで攪拌機をスタートさせ、固体の塩化シアヌル185.5部の添加を開始し、粗製トリアリルシアヌレートの上澄みである水層をできる限りデカンテーションにより分離し、約200gのNaOH5%水溶液により置換し、この混合物を強力に撹拌してから層を分離し、上部の水層を同様にデカンデーションにより分離し、前記のプロセスを新しいNaOH5%水溶液を用いて繰り返し、最後にアルカリ分が全て除去されるまで温水で処理したトリアリルシアヌレート」の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。

また、甲第1号証には、「トリアリルシアヌレートの製造において、90%アリルアルコール870部と、その中に溶解している水酸化ナトリウム120部を挿入し、次いで攪拌機をスタートさせ、固体の塩化シアヌル185.5部の添加を開始し、粗製トリアリルシアヌレートの上澄みである水層をできる限りデカンテーションにより分離し、約200gのNaOH5%水溶液により置換し、この混合物を強力に撹拌してから層を分離し、上部の水層を同様にデカンデーションにより分離し、前記のプロセスを新しいNaOH5%水溶液を用いて繰り返し、最後にアルカリ分が全て除去されるまで温水で処理したトリアリルシアヌレートの製造方法」の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。

イ 甲第2号証
甲第2号証には、トリアリルシアヌレートが記載され、また、製造方法として、「3モルの水酸化ナトリウムが、アルコール1000ml中に溶解され又は懸濁され、・・・1モルの固体の塩化シアヌルが・・・加えられ、・・・塩化ナトリウムが溶液から濾過され・・・シアヌレートを回収するためろ液が蒸発された。」ことが記載され、表I中のトリアリルシアヌレートを製造する場合には、このアルコールは、塩化シアヌルと反応するアルコールとして、アリルアルコールを用いることは当業者であれば理解できるから、甲第2号証には、「3モルの水酸化ナトリウムが、アリルアルコール1000ml中に溶解され又は懸濁され、1モルの固体の塩化シアヌルが加えられ、塩化ナトリウムが溶液から濾過され、ろ液を蒸発して得られたトリアリルシアヌレート」の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されていると認める。

また、甲第2号証には、「3モルの水酸化ナトリウムが、アリルアルコール1000ml中に溶解され又は懸濁され、1モルの固体の塩化シアヌルが加えられ、塩化ナトリウムが溶液から濾過され、ろ液を蒸発して得られたトリアリルシアヌレートの製造方法」の発明(以下「甲2発明B」という。)が記載されていると認める。

ウ 甲第3号証
甲第3号証には、特許請求の範囲の第1項に、
「イソシアヌル酸エステルに溶解する溶媒の不在下に、シアヌル酸エステルの接触異性化反応により対応するイソシアヌル酸エステルを製造する方法であって、式群
1.[R_(n)NH_(4-n)]^(+)X^(-)、ただしn=1、2、3又は4、
2.[R_(p)NH_(4-p)]^(+)X^(-)、ただしp=3又は4、
3.[R’C_(5)H_(4)NR’’]^(+)X^(-)、ただしC_(5)H_(4)Nはピリジン環を表わす、
4.[R_(1)R_(2)R_(3)S]^(+)X^(-)、
(式中Xはハロゲン又は水酸化物であり、Rは炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基、フェニル基又はベンジル基であり、但し化合物1と2には1より多くのフェニル基もしくはベンジル基を含むことがなく、R’は水素、炭素原子数が1-4のアルキル基又は炭素原子数が1-4のアルケニル基であり、R’’は炭素原子数が1-18のアルキル基又は炭素原子数が1-18のアルケニル基であり、R_(1)、R_(2)、R_(3)は炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基あるいはフェニル基である)
の中の何れかで示される化合物の少くとも1種を触媒として用いることを特徴とするイソシアヌル酸エステルの製造方法。」が記載され、そして第2項に「(2)シアヌル酸トリアリルがイソシアヌル酸トリアリルに転化されることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の方法。」が記載されているから、甲第3号証には、「イソシアヌル酸トリアリルに溶解する溶媒の不在下に、シアヌル酸トリアリルの接触異性化反応により対応するイソシアヌル酸トリアリルを製造する方法であって、式群
1.[R_(n)NH_(4-n)]^(+)X^(-)、ただしn=1、2、3又は4、
2.[R_(p)NH_(4-p)]^(+)X^(-)、ただしp=3又は4、
3.[R’C_(5)H_(4)NR’’]^(+)X^(-)、ただしC_(5)H_(4)Nはピリジン環を表わす、
4.[R_(1)R_(2)R_(3)S]^(+)X^(-)、
(式中Xはハロゲン又は水酸化物であり、Rは炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基、フェニル基又はベンジル基であり、但し化合物1と2には1より多くのフェニル基もしくはベンジル基を含むことがなく、R’は水素、炭素原子数が1-4のアルキル基又は炭素原子数が1-4のアルケニル基であり、R’’は炭素原子数が1-18のアルキル基又は炭素原子数が1-18のアルケニル基であり、R_(1)、R_(2)、R_(3)は炭素原子数が1-18のアルキル基、炭素原子数が1-18のアルケニル基あるいはフェニル基である)
の中の何れかで示される化合物の少くとも1種を触媒として用いるイソシアヌル酸トリアリルの製造方法」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

エ 甲第4号証
甲第4号証には、特許請求の範囲に、「1 アンモニア、ヒドラジン、アルキルアミン、アルキルヒドラジン、アルケニルアミン、アルカノールアミン、アルキレンアミン、アルカノールヒドラジンおよび酸アミドよりなる炭素原子数が0?4個である窒素化合物群から選ばれた少くとも一つの物質を5重量%以上含有している塩基性溶液と不純物を0.01?10.00重量%含有しているイソシアヌル酸エステルとを1.5?30kg/cm^(2)の加圧下で20?200℃において接触せしめることを特徴とするイソシアヌル酸エステルの不純物除去法。」が記載され、その実施例1に、
「実施例 1
炭酸ジアルリル1.2重量%、ジメチルアルリルアミン塩酸塩0.7重量%、タール状物質0.2重量%を含有する粗製イソシアヌル酸トルアルリル500gをメタノール1000mlに溶解しこれにアンモニア300gを溶解させたのちオートクレーブに入れ100℃(圧力5?7kg/cm^(2))において3時間保ったのち冷却・・・水中に投入し沈殿する油状物を集めて分留すれば純度が99.8重量%以上のイソシアヌル酸トリアルリル460gをうる。」から、甲第4号証には、「純度が99.8重量%以上のイソシアヌル酸トリアルリル」の発明(以下「甲4発明A」という。)が記載されていると認める。

また、甲第4号証には、「純度が99.8重量%以上のイソシアヌル酸トリアルリルの製造方法」の発明(以下「甲4発明B」という。)が記載されていると認める。

オ 甲第5号証
甲第5号証には、その請求項1に記載されているように、「ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下であるトリアリルイソシアヌレート」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

カ 甲第6号証
甲第6号証には、その請求項1に記載されているように、「少なくとも90℃の温度でのCu塩の存在下でトリアリルシアヌレート(TAC)の転位を含むトリアリルイソシアヌレート(TAIC)の製造方法において、TACおよびCu^(2+)塩を、TACに対して0.01?1質量%のCu^(2+)の量で、互いに別々にあるいはそれらの成分を含む混合物の形態で、少なくとも90℃でTACの転位によってCu^(2+)塩の存在下で形成され且つその後90℃より低く冷却されていないTAIC含有反応混合物中に連続的に導入し、90?160℃の範囲内で温度を維持しながら転位をそれらの条件下で実施し、且つ添加物に相当する量の反応混合物を連続的に排出し、そしてTAICをそれらから単離する方法」の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

キ 甲第7号証
甲第7号証には、その請求項1に、「塩化シアヌルとアリルアルコールとをアルカリ金属酸受容体の存在下で、及びアリルアルコール以外の有機溶剤の不在下で反応し、形成された塩を水の添加及び続く相の分離によって取り除き、水で有機相を抽出して洗浄し、そして水及びアリルアルコールをTAC含有有機相から蒸留して取り除くことによって、APHA数10以下を有するシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法であって、アリルアルコール3.9?5.0mol及び酸受容体3.0?3.2当量が、塩化シアヌル1mol毎に使用され、塩化シアヌル及び酸受容体が、同時に又は連続的に、無水の又は少なくとも50質量%の水性アリルアルコールに添加され、かつその反応が、-5℃?+50℃の範囲内の温度で、一工程以上で実施されることを特徴とする方法。」が記載され、請求項2において、酸受容体が有利には水酸化ナトリウムであることが記載されているから、甲第7号証には、「塩化シアヌルとアリルアルコールとを水酸化ナトリウムである酸受容体の存在下で、及びアリルアルコール以外の有機溶剤の不在下で反応し、形成された塩を水の添加及び続く相の分離によって取り除き、水で有機相を抽出して洗浄し、そして水及びアリルアルコールをTAC含有有機相から蒸留して取り除くことによって、APHA数10以下を有するシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法であって、アリルアルコール3.9?5.0mol及び水酸化ナトリウムである酸受容体3.0?3.2当量が、塩化シアヌル1mol毎に使用され、塩化シアヌル及び水酸化ナトリウムである酸受容体が、同時に又は連続的に、無水の又は少なくとも50質量%の水性アリルアルコールに添加され、かつその反応が、-5℃?+50℃の範囲内の温度で、一工程以上で実施される方法」の発明(以下「甲7発明B」という。)が記載されていると認める。

また、甲第7号証には、「塩化シアヌルとアリルアルコールとを水酸化ナトリウムである酸受容体の存在下で、及びアリルアルコール以外の有機溶剤の不在下で反応し、形成された塩を水の添加及び続く相の分離によって取り除き、水で有機相を抽出して洗浄し、そして水及びアリルアルコールをTAC含有有機相から蒸留して取り除くことによって、APHA数10以下を有するシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法であって、アリルアルコール3.9?5.0mol及び水酸化ナトリウムである酸受容体3.0?3.2当量が、塩化シアヌル1mol毎に使用され、塩化シアヌル及び水酸化ナトリウムである酸受容体が、同時に又は連続的に、無水の又は少なくとも50質量%の水性アリルアルコールに添加され、かつその反応が、-5℃?+50℃の範囲内の温度で、一工程以上で実施される方法により製造されたシアヌル酸トリアリル」の発明(以下「甲7発明A」という。)が記載されていると認める。

(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4発明Aとの対比・判断
(ア)対比・判断
甲4発明Aの「イソシアヌル酸トリアルリル」が本件発明1の「トリアリルイソシアヌレート」と同じであることは、本件優先日当時の技術常識であるから本件発明1と甲4発明Aとでは、「トリアリルイソシアヌレート」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-4-1)本件発明1では、トリアリルイソシアネートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Aでは、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、この相違点1-4-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

甲第4号証には、不純物の種類について、「一般にシアヌル酸およびそのエステル、パラバン酸およびそのエステル、置換尿素、炭酸エステル、イソシアヌル酸のモノあるいはジエステル、第4級アンモニウム塩、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルカリ、シアメリドおよびタール状物質などの単独あるいは2種以上の混合物である。」と記載がされており(摘記(4b))、化学式(I)の化合物の記載はない。また、甲第4号証において、不純物が本件発明1の化学式(I)の化合物であり、その含有量が100ppm以下であるという本件優先日当時の技術常識も示されていない。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第4号証には、不純物を0.01?10.00重量%含有しているイソシアヌル酸エステルが記載されているから、不純物を100ppm含有しているイソシアヌル酸エステルが記載されているといえる旨を主張し、また、イソシアヌル酸エステルを塩基を5重量%以上含有する溶液を用いて30℃以上の温度で1時間撹拌処理しているから、甲第4号証のTAICは、化学式(I)の有機塩素化合物を100ppm含有する蓋然性が高い旨を主張する。(特許異議申立書第15頁第2行?第16頁第22行)。

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、甲第4号証に不純物を0.01?10.00重量%含有しているイソシアヌル酸エステルが記載されているといっても、具体的な製造方法と共に化学式(I)の化合物が0.01重量%含有するイソシアヌル酸エステルが得られたことは明示されていないので、甲第4号証の上記記載のみをもってして、甲第4号証に、化学式(I)の化合物を100ppm含有するイソシアヌル酸エステルが記載されているとまではいえない。また、甲第4号証の実施例2では、塩基として液体アンモニアを用いており、粗製TACを液体アンモニアで25?35℃で1時間処理しているが、該処理により、化学式(I)の化合物を100ppm含有することができるという、本件優先日当時の技術常識が示していないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)まとめ
そうすると、相違点1-4-1は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明1と甲5発明との対比・判断
(ア)対比・判断
本件発明1と甲5発明とでは、「トリアリルイソシアヌレート」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-5-1)本件発明1では、トリアリルイソシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲5発明では、ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下であるとされている点

そこで、この相違点1-5-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

甲第5号証には、トリアリルイソシアヌレートの製造方法としては、シアン酸アルカリとハロゲン化アリルを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法が記載されており(摘記(5c))、また、製造されたトリアリルイソシアヌレートを、ハロゲンイオンを抽出するためにアルカリ性塩水の濃度が0.01?3%の炭酸ソーダでアルカリ洗浄することによりハロゲンイオンが抽出されることが記載されている(摘記(5d)参照)が、この処理により、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートが製造されることは記載されておらず、また、これが本件優先日当時の技術常識であるという証拠も示されていない。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第5号証には、0.01?3%水酸化ナトリウムを含有する水溶液を35?100℃で粗製TAICを撹拌処理することが記載されており、ハロゲンイオンの残量は0.5ppmであるから、甲第5号証に記載された発明も、化学式(I)の有機塩素化合物を100ppm以下含有する蓋然性が高い旨を主張する。(特許異議申立書第17頁第1行?第18頁第6行)。

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、上記したとおり、甲第5号証には、本件特許明細書に記載された方法と異なる方法であるシアン酸アルカリとハロゲン化アリルを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法が記載されており、この方法により生じたハロゲンイオンを抽出するために濃度が0.01?3%の炭酸ソーダを含有するアルカリ性の水でアルカリ洗浄することによりハロゲンイオンが抽出されることが記載されているのであるから、甲第5号証に記載された方法により、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるトリアリルシアヌレートが得られるとはいえず、また、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるトリアリルシアヌレートが得られるとする本件優先日当時の技術常識が示していないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)まとめ
そうすると、相違点1-5-1は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明ではない。

(4)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明Aとの対比・判断
(ア)対比・判断
本件発明2と甲1発明Aとでは、「トリアリルシアヌレート」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-1-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲1発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、この相違点2-1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

本願特許明細書の段落【0029】、【0030】には、「TACを分解させずに前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物のみを選択的に加水分解させるため、低濃度の強塩基水溶液中、比較的低い温度条件下で粗TACを処理する。・・・具体的には・・・油状物として、粗TACを回収する。次いで、通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TAC(上記の油状物)を撹拌処理する。処理時間は、通常0.5?10時間、好ましくは1?6時間である。」と記載がされている。

一方、甲第1号証には、水酸化ナトリウムを用いて、アリルアルコールと塩化シアヌルとを反応させ、粗製トリアリルシアヌレートを製造し、このトリアリルシアヌレートにNaOH5%水溶液を混合、撹拌して、上部の水層を分離することを繰り返すことが記載されており、トリアリルシアヌレートにNaOH5%水溶液を混合・撹拌している限りにおいては、本件発明2における化学式(I)及び(II)の化合物のみを選択的に加水分解させてその含有量を100ppm以下とする処理と共通しているが、甲第1号証には、混合・撹拌の技術的な意味が記載されておらず、また、その具体的な撹拌の温度、時間も記載されていないことから、甲第1号証に記載された処理により製造されたトリアリルシアヌレートが、結果として化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下になっている合理的な根拠はない。また、これが本件優先日当時の技術常識であることの証拠は示されていない。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1号証には、製造されたトリアリルシアヌレートにNaOH5%水溶液を10?50℃程度の温度で撹拌処理することが記載されているので、本件発明2と同じである蓋然性が高い旨を主張する(特許異議申立書第13頁第2?12行)。

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、特許異議申立人が主張する10?50℃程度の温度とは、塩化シアヌルとアリルアルコールとを反応させる際の温度であり、NaOH5%水溶液で撹拌処理する温度ではないから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)まとめ
そうすると、相違点2-1-1は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明2と甲2発明Aとの対比・判断
(ア)対比・判断
本件発明2と甲2発明Aとでは、「トリアリルシアヌレート」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-2-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲2発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、この相違点2-2-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

甲第2号証には、トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応により製造されることは記載されている(摘記(2d)参照)が、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることについては何も記載されていない。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第2号証は、本件特許明細書で引用される非特許文献1であり、その段落【0028】には、「TACの製造、すなわち、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応は、塩基性触媒(例えば水酸化ナトリウム)存在下に加熱することにより行われる。・・・反応条件の詳細は前述の非特許文献1の記載を参照することが出来る。ここで得られた粗TACは、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物を含む。通常、化学式(I)の有機塩素化合物の含有量は100?250ppm、化学式(II)の有機塩素化合物の含有量は500?1,000ppmである。」と記載されているから、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明である旨の主張をする(特許異議申立書第13頁第18?23行)。

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、上記【0028】の記載をみても、トリアリルシアヌレートの化学式(I)及び(II)の化合物の合計含有量は600ppm以上であるから、本件発明2と甲第2号証に記載された粗TACは、同一であるとはいえない。

(エ)まとめ
そうすると、相違点2-2-1は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 本件発明2と甲7発明Aとの対比・判断
(ア)対比・判断
甲7発明Aのシアヌル酸トリアリルは、トリアリルシアヌレートと同じであることは明らかであるから、本件発明2と甲7発明Aとでは、「トリアリルシアヌレート」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-7-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲7発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、この相違点2-7-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

甲第7号証には、塩化シアヌルとアリルアルコールとを水酸化ナトリウムの存在下で反応させシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法において、塩化シアヌル1モルに対して、水酸化ナトリウムを3.0?3.2当量使用され、高収率、高純度でAPHA数が10以下であるシアヌル酸トリアリルを製造することが記載されている(摘記(7b))。

ここで、甲第7号証の段落【0021】には、「反応が終了した後、・・・ほぼすべてのTACを含有する上部の有機相、及び塩を含有する下相の二相が、非常に短時間内に形成する。・・・水相を取り出した後、有機相を、・・・少なくとも1回、有利には2?3回水で洗浄する。・・・洗浄後、・・・高い温度で及び減圧下でゆっくりと蒸留される。底部の生成物として有意に約90%の収率で得られたTACは、少なくとも99.5%の純度、0?10、有利には0?5のAPHA数、及び27℃以上の凝固点を有する透明の液体である。」と記載され(摘記(7d)参照)、実施例7では、APHA数0を有する純粋なシアヌル酸トリアリルを得たことが記載されており(摘記(7e))、実施例8では、TACの純度99.9%のシアヌル酸トリアリルを得たことが記載されていることからみて、実施例7における純度は、99.9%より高いと推認できる。

しかしながら、甲第7号証において、純度が99.9%より高いシアヌル酸トリアリルを得たことが記載されていたとしても、不純物は最大で1000ppm程度の量含んでいるといえ、また、甲第7号証において、シアヌル酸トリアリルが化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとする本件優先日当時の技術常識は示されていない。

また、APHA数は、ハーゼン色数であり、物質の着色度を示す値であることは本件優先日当時の技術常識であるが、あくまで着色度を示しているにとどまり、着色度の程度と純度の関係は不明であり、この値が0の場合に、シアヌル酸トリアリルが化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとする本件優先日当時の技術常識は示されていない。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第7号証の実施例13は、塩化シアヌル1molに対してNaOH3mol使用し、アリルアルコールと反応させてシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造しており、反応終了後に、塩化シアヌル1molに対して50質量%の水酸化ナトリウム溶液を0.09mol、0.15mol混合し、一定温度で数時間撹拌しており、TACの分解率が0.9?3.1%と低いことが記載されているところ、このTACを強塩基水溶液で撹拌処理するとの記載や、本件特許明細書の段落【0029】、【0030】に記載される、化学式(I)及び(II)の化合物を分解させるため、TACを強塩基水溶液で処理すること、処理条件が範囲を超過する場合には、TACが分解される恐れがあるとの記載を鑑みると、本件発明2と同じであるトリアリルシアヌレートが得られている蓋然性が高い旨を主張する。(特許異議申立書第22頁第4?12行)

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、甲第7号証は、塩化シアヌルとアリルアルコールとを水酸化ナトリウムの存在下で反応させシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法において、塩化シアヌル1モルに対して、水酸化ナトリウムを3.0?3.2当量使用し、高収率、高純度でAPHA数が10以下であるシアヌル酸トリアリルを製造することを特徴とする発明であり、実施例13は、所定量の過剰な水酸化ナトリウムを反応終了後に配合してTACの分解の割合を測定している例であり、化学式(I)及び(II)の化合物の分解や、その含有量を検討する例ではない。仮に、反応終了後の水酸化ナトリウムの配合をTACの後処理としてみたとしても、水酸化ナトリウムの濃度が、本願特許明細書の段落【0030】に記載された範囲を大きく上回る50質量%であるから、この実施例13において、シアヌル酸トリアリルが化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとすることはできない。

(エ)まとめ
そうすると、相違点2-7-1は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明ではない。

(5)本件発明3について
ア 本件発明3と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「シアヌル酸トリアリル」、「イソシアヌル酸トリアリル」は、それぞれ、本件発明3の「トリアリルシアヌレート」、「トリアリルイソシアヌレート」に相当することは明らかであるから、本件発明3と甲3発明とでは、「トリアリルシアヌレートを転移反応させることを特徴とするトリアリルイソシアヌレートの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-3-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲3発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-3-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲3発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、これらの相違点3-3-1及び3-3-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

(相違点3-3-1について)
甲第3号証には、シアヌル酸トリアリルは、直接法と間接法により製造できることが記載されている(摘記(3b))が、いずれの方法で製造されたものであっても、シアヌル酸トリアリルが、本件優先日当時の技術常識を勘案しても、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとはいえない。
そうすると、相違点3-3-1は実質的な相違点でないとはいえない。

(相違点3-3-2について)
甲第3号証には、イソシアヌル酸トリアリルに溶解する溶媒の不存在下に、特定の触媒を使用して、シアヌル酸トリアリルを接触異性化反応させてイソシアヌル酸トリアリルを製造する方法が記載されている(摘記(3a))が、この方法により得られたイソシアヌル酸トリアリルが、本件優先日当時の技術常識を勘案しても、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるとはいえない。

そうすると、相違点3-3-2は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明3は、甲第3号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明3と甲4発明Bとの対比・判断
甲4発明Bの「イソシアヌル酸トリアルリル」は、本件発明3の「トリアリルイソシアヌレート」に相当することは明らかであるから、本件発明3と甲4発明Bとでは、「トリアリルイソシアヌレートの製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点3-4-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-4-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Bでは、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-4-3)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートがトリアリルシアヌレートの転移反応により製造されているが、甲4発明Bではトリアリルイソシアヌレートの製造方法が明らかでない点

そこで、これらの相違点3-4-1?3-4-3が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、まず、相違点3-4-2について検討する。

(相違点3-4-2について)
相違点3-4-2は、上記(3)ア(ア)で述べた相違点1-4-1と同じであり、相違点3-4-2が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記(3)アで述べたとおりである。

そうすると、相違点3-4-1及び3-4-3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明ではない。

ウ 本件発明3と甲6発明との対比・判断
本件発明3と甲6発明とでは、「トリアリルシアヌレートを転移反応させることを特徴とするトリアリルイソシアヌレートの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点3-6-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲6発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-6-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲6発明では、トリアリルイソシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

そこで、これらの相違点3-6-1及び3-6-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

(相違点3-6-1について)
甲第6号証には、トリアリルシアヌレートを得るための方法や、トリアリルシアヌレートが不純物を含有していることについては何も記載がされていないので、トリアリルイソシアヌレートを製造するに当たり、当該技術分野で通常用いられるトリアリルシアヌレートを用いていると推認されるところ、通常用いられるトリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとはいい切れず、また、何ら証拠が示されていないので本件優先日当時の技術常識ともいえない。
そうすると、相違点3-6-1は実質的な相違点でないとはいえない。

(相違点3-6-2について)
甲第6号証には、Cu塩を用いて特定の条件下、トリアリルシアヌレートを転移反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法が記載されている(摘記(6a))が、この方法により得られたトリアリルイソシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるとはいい切れず、また、何ら証拠が示されていないので本件優先日当時の技術常識ともいえない。

そうすると、相違点3-6-2は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明3は、甲第6号証に記載された発明ではない。

(6)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1発明Bとの対比・判断
甲1発明Bは、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する方法であり、一方、本件発明4は、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られた請求項2に記載のトリアリルシアヌレートを転移反応させることにより請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法であるから、本件発明4と甲1発明Bとでは、「塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する工程を含む方法」という点で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-1-1)本件発明4では、反応で得られたトリアリルシアヌレートを転移反応させることによりトリアリルイソシアヌレートの製造方法とするのに対して、甲1発明Bでは、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法でない点
(相違点4-1-2)本件発明4では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲1発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点4-1-3)本件発明4では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲1発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であること明らかでない点

そこで、これらの相違点4-1-1?4-1-3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

(相違点4-1-1について)
甲第1号証には、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法は記載されていないから、相違点4-1-1は明らかに実質的な相違点である。

(相違点4-1-2について)
相違点4-1-2は、上記(4)ア(ア)で述べた相違点2-1-1と同じであり、相違点2-1-2が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記(4)アで述べたとおりである。

そうすると、相違点4-1-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明4と甲2発明Bとの対比・判断
甲2発明Bは、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する方法であり、一方、本件発明4は、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られた請求項2に記載のトリアリルシアヌレートを転移反応させることにより請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法であるから、本件発明4と甲2発明Bとでは、「塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する工程を含む方法」という点で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-2-1)本件発明4では、反応で得られたトリアリルシアヌレートを転移反応させることによりトリアリルイソシアヌレートの製造方法とするのに対して、甲2発明Bでは、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法でない点
(相違点4-2-2)本件発明4では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲2発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点4-2-3)本件発明4では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲2発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であること明らかでない点

そこで、これらの相違点4-2-1?4-2-3が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、まず、甲第2号証には、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法は記載されていないから、相違点4-2-1は明らかに実質的な相違点である。また、相違点4-2-2は、上記(4)イ(ア)で述べた相違点2-2-1と同じであり、相違点2-2-1が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記(4)イで述べたとおりである。

そうすると、相違点4-2-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 本件発明4と甲3発明との対比・判断
本件発明4は、本件発明3を引用して、「トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたものである請求項3に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法」の発明である。

そうすると、本件発明と甲3発明とは、上記「(5)ア」で述べた(相違点3-3-1)及び(相違点3-3-2)に加えて、以下の点で相違する。

(相違点4-3-1)本件発明4では、トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたとしているのに対して、甲3発明では、トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたのか明らかでない点

そこで、これらの相違点3-3-1、3-3-2及び4-3-1が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、相違点3-3-1及び3-3-2が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記「(5)ア」で述べたとおりである。

そうすると、相違点4-3-1について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第3号証に記載された発明ではない。

エ 本件発明4と甲6発明との対比・判断
本件発明4は、本件発明3を引用して、「トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたものである請求項3に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法」の発明である。

そうすると、本件発明と甲6発明とは、上記「(5)ウ」で述べた(相違点3-6-1)及び(相違点3-6-2)に加えて、以下の点で相違する。

(相違点4-6-1)本件発明4では、トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたものとしているが、甲6発明では、トリアリルシアヌレートが塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られたのか明らかでない点

そこで、これらの相違点3-6-1、3-6-2及び4-6-1が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、相違点3-6-1及び3-6-2が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記「(5)ウ」で述べたとおりである。

そうすると、相違点4-6-1について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第6号証に記載された発明ではない。

オ 本件発明4と甲7発明Bとの対比・判断
甲7発明Bは、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する方法であり、一方、本件発明4は、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応で得られた請求項2に記載のトリアリルシアヌレートを転移反応させることにより請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートの製造方法であるから、本件発明4と甲7発明Bとでは、「塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応によりトリアリルシアヌレートを製造する工程を含む方法」という点で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-7-1)本件発明4では、反応で得られたトリアリルシアヌレートを転移反応させることによりトリアリルイソシアヌレートの製造方法とするのに対して、甲7発明Bでは、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法でない点
(相違点4-7-2)本件発明4では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲7発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であること明らかでない点
(相違点4-7-3)本件発明4では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲1発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であること明らかでない点

そこで、これらの相違点4-7-1?4-7-3が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、甲第7号証には、トリアリルイソシアヌレートを製造する方法は記載されていないから、相違点4-7-1は明らかに実質的な相違点である。また、相違点4-7-2は、上記(4)ウで述べた相違点2-7-1と同じであり、相違点2-7-1が実質的な相違点でないとはいえないことは、同じく上記(4)ウで述べたとおりである。

そうすると、相違点4-7-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第7号証に記載された発明ではない。

(7)まとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、甲第1?7号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとはいえない。

2 理由2について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4発明Aとの対比・判断
(ア)甲第4号証の記載に基づく進歩性の検討
a 対比
本件発明1と甲4発明Aとを対比すると、上記「1(3)ア(ア)」で述べたように、両者は相違点1-4-1で相違する。
(相違点1-4-1)本件発明1では、トリアリルイソシアネートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Aでは、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

b 判断
この相違点1-4-1について検討する。

甲第4号証には、純度が99.8%のイソシアヌル酸トリアリルが記載されているが、不純物として本件発明1で特定される化学式(I)の化合物は記載されていないので、甲第4号証に不純物が除去されたイソシアヌル酸エステルが記載されていたとしても、甲第4号証には、甲4発明Aにおいて、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とする動機付けに関する示唆はない。

また、甲第4号証には、粗製イソシアヌル酸エステルを塩基性溶液で処理することによりイソシアヌル酸エステルの不純物を除去する方法が記載されているが、この方法により本件発明1で特定される化学式(I)の化合物が除去されることは記載されていないから、甲4発明Aにおいて、甲第4号証に記載された除去方法を適用したとしても、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることが当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)他の甲号証との組合せに基づく進歩性の検討
甲第1及び7号証には、いずれも塩化シアヌルとアリルアルコールとが反応してトリアリルシアヌレートを製造する方法が記載されているだけであり、トリアリルイソシアヌレートに関する記載はなく、ましてやトリアリルイソシアヌレートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下にすることに関する記載もないから、甲4発明Aに甲第1又は7号証に記載された技術的事項を組み合わせても、本件発明1におけるトリアリルイソシアヌレートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることは導くことはできない。

したがって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1及び7号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明1と甲5発明との対比・判断
(ア)甲第5号証の記載に基づく進歩性の検討
a 対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、上記「1(3)イ(ア)」で述べたように、両者は相違点1-5-1で相違する。
(相違点1-5-1)本件発明1では、トリアリルイソシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲5発明では、ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下であるとされている点

b 判断
この相違点1-5-1について検討する。

甲第5号証には、トリアリルイソシアヌレートは樹脂に耐熱性を付与する架橋剤として知られている(摘記(5b))が、半導体チップの封止剤に用いる場合には、耐久性、安定性のため、残存ハロゲンイオン量を低減させるという課題を解決するため(摘記(5b))、ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下のトリアリルイソシアヌレートが記載されている。

このように、高純度なトリアリルイソシアヌレートを得ることは公知の課題であるといえるが、甲第5号証には、ハロゲンイオン残量が0.5ppm以下であることが記載されているだけであり、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下とすることについては何も検討されていないので、甲5発明において、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とする動機付けはない。

また、甲第5号証には、トリアリルイソシアヌレートを濃度が0.01?3%の炭酸ソーダを含有するアルカリ性の水でアルカリ洗浄することによりハロゲンイオンを抽出する方法が記載されているが、この方法は、シアン酸アルカリとハロゲン化アリルを反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造した場合に生じるハロゲンイオンを除去する方法であり、化学式(I)の化合物の含有量を100ppm以下とする方法であるとはいえないから、甲5発明においてこの方法を適用したとしても、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることが当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)他の甲号証との組合せに基づく進歩性の検討
上記「ア(イ)」で述べたとおり、甲第1及び7号証には、トリアリルイソシアヌレートに関する記載はなく、ましてやトリアリルイソシアヌレートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることに関する記載もないから、甲5発明に甲第1又は7号証に記載された技術的事項を組み合わせても、本件発明1におけるトリアリルイソシアヌレートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることは導くことはできない。

したがって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1及び7号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明Aとの対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲1発明Aとを対比すると、上記「1(4)ア(ア)」で述べたように、両者は相違点2-1-1で相違する。

(相違点2-1-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲1発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

(イ)判断
この相違点2-1-1について検討する。

甲第1号証には、塩化シアヌルとアリルアルコールとから製造されたトリアリルシアヌレートが記載されているが、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有することや、これらの化合物の含有量を低減させることに関する事項は記載されていないので、甲1発明Aにおいて、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量を100ppm以下とする動機付けはない。

また、甲第1号証には、塩化シアヌルとアリルアルコールとから製造されたトリアリルシアヌレートをNaOH5%水溶液と混合、撹拌する処理が記載され、この処理が、本件発明2における化学式(I)及び(II)の化合物のみを選択的に加水分解させてその含有量を100ppm以下とする処理と用いる試薬としては共通しているといえるが、甲第1号証には、混合・撹拌の技術的な意味が記載されておらず、また、その具体的な撹拌の温度、時間も記載されていないから、甲第1号証に記載された処理により製造されたトリアリルシアヌレートが、結果として化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下になっているという合理的な根拠はないので、甲1発明Aにおいて、甲第1号証に記載された処理方法を適用したとしても、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることが当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2と甲2発明Aとの対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲2発明Aとを対比すると、上記「1(4)イ(ア)」で述べたように、両者は相違点2-2-1で相違する。
(相違点2-2-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲2発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

(イ)判断
この相違点2-2-1について検討する。

甲第2号証には、塩化シアヌルとアリルアルコールとから製造されたトリアリルシアヌレートが記載されているだけであり、トリアリルイソシアヌレートが化学式(I)の化合物を含有することや、その含有量に関する記載もないから、甲2発明Aにおいて、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量を100ppm以下とする動機付けがない。

したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明2と甲7発明Aとの対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲7発明Aとを対比すると、上記「1(4)ウ(ア)」で述べたように、両者は相違点2-7-1で相違する。
(相違点2-7-1)本件発明2では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲7発明Aでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

(イ)判断
この相違点2-7-1について検討する。

甲第7号証には、塩化シアヌルとアリルアルコールとを水酸化ナトリウムの存在下で反応させシアヌル酸トリアリル(TAC)を製造する方法において、塩化シアヌル1モルに対して、水酸化ナトリウムを3.0?3.2当量使用し、高収率、高純度でAPHA数が10以下であるシアヌル酸トリアリルを製造することが記載されており、実施例8では、純度が99.9%より高くAPHA数が0であるTACが製造されていることが記載されている。

しかしながら、甲第7号証には、トリアリルシアヌレートが本件発明1で特定される化学式(I)の化合物を含むこと、及びこの化合物の含有量を低減させることは記載されてなく、また、APHA数とは物質の着色度を示す値であり、着色度と純度との関係は不明であり、この値が0の場合に、シアヌル酸トリアリルが化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるとはいえないから、甲7発明Aにおいて、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量を100ppm以下とする動機付けはない。

また、甲第7号証の実施例13には、TAC製造後、所定量の過剰な水酸化ナトリウムを配合する方法が記載されているが、この方法は、TACの分解の割合を測定している例であり、化学式(I)及び(II)の化合物の分解や、その含有量が100ppm以下とする方法ではないから、甲7発明Aにおいてこの方法を適用したとしても、トリアリルイソシアネートが化学式(I)の化合物を含有し、その含有量を100ppm以下とすることが当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明3について
ア 各甲号証の組合せについて
特許異議申立人は、本件発明3は、甲第3、4又は6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるか、甲第3、4又は6号証に記載された発明及び甲第1又は7号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である旨を主張している。

イ 甲3、4又は6号証に記載された発明に基づく検討
まず、本件発明3は、甲第3、4又は6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるか否かについて検討する。

(ア)本件発明3と甲3発明との対比・判断
a 対比
本件発明3と甲3発明とを対比すると、上記「1(5)ア」で述べたように、両者は相違点3-3-1及び3-3-2で相違する。
(相違点3-3-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲3発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-3-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲3発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

b 判断
まず、相違点3-3-1について検討する。

甲第3号証には、シアヌル酸エステルからイソシアヌル酸エステルを製造する方法であって、イソシアヌル酸エステルに溶解する溶媒の不存在下に、特定の触媒を用いることを特徴とする製造方法の発明が記載されており、そして、シアヌル酸トリアリルが原料の1つとして記載され、この原料を用いると、イソシアヌル酸トリアリルが製造されるといえるが、あくまで、シアヌル酸トリアリルからイソシアヌル酸トリアリルを製造する方法に特徴を有するものであり、原料であるシアヌル酸トリアリルが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量を100ppm以下とする動機付けはない。
したがって、甲3発明において、相違点3-3-1を構成することを当業者が容易に想到できたとはいえない。

よって、相違点3-3-2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)本件発明3と甲4発明Bとの対比・判断
a 対比
本件発明3と甲4発明Bとを対比すると、上記「1(5)イ」で述べたように、両者は相違点3-4-1?相違点3-4-3で相違する。
(相違点3-4-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Bでは、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-4-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲4発明Bでは、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-4-3)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートがトリアリルシアヌレートの転移反応により製造されているが、甲4発明Bではトリアリルイソシアヌレートの製造方法が明らかでない点

b 判断
まず、相違点3-4-2について検討する。

相違点3-4-2は、相違点1-4-1と同じであり、甲第4号証において、相違点1-4-1が容易に想到し得たものとすることができないことは、上記「(1)ア」で述べたとおりである。
したがって、相違点3-4-1及び相違点3-4-3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)本件発明3と甲6発明との対比・判断
a 対比
本件発明3と甲6発明とを対比すると、上記「1(5)ウ」で述べたように、両者は相違点3-6-1及び3-6-2で相違する。
(相違点3-6-1)本件発明3では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるのに対して、甲6発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であることが明らかでない点
(相違点3-6-2)本件発明3では、トリアリルイソシアヌレートが、請求項1に記載のトリアリルイソシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、甲6発明では、トリアリルイソシアヌレートが、化学式(I)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であることが明らかでない点

b 判断
まず、相違点3-6-1について検討する。

甲第6号証には、Cu塩を用いて特定の温度条件下、トリアリルシアヌレートを転移反応させてトリアリルイソシアヌレートを製造する方法が記載されている(摘記(6a))が、あくまで、高収率でトリアリルイソシアヌレートを製造することを目的としているだけであり、原料であるシアヌル酸トリアリルが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その合計含有量を100ppm以下とする動機付けはない。
したがって、甲6発明において、相違点3-6-1を構成することを当業者が容易に想到できるとはいえない。

c 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、反応前の原料に由来するハロゲンイオンを低減させることは当業者にとって自明の課題であり、また、ハロゲンイオンを低減もしくは除去するため、塩基水溶液で処理することも当業者にとって自明の解決手段であるから、本件発明3は、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨を主張する。(特許異議申立書第18頁第10行?第19頁第8行)。

d 特許異議申立人の主張の検討
しかしながら、反応前の原料に由来するハロゲンイオンを低減させることは当業者にとって自明の課題であったとしても、本件発明3のように、特定の有機塩素化合物である化学式(I)及び(II)の化合物を100ppm以下含有することが自明の課題とまではいえない。また、特定の有機塩素化合物である化学式(I)及び(II)の化合物を100ppm以下とする手段が当業者にとって自明の解決手段であるともいえない。

e まとめ
したがって、相違点3-6-2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 甲第3、4又は6号証に記載された発明と甲第1又は7号証に記載された技術的事項との組合せに基づく検討
次に、本件発明3は、甲第3、4又は6号証に記載された各発明に甲第1又は7号証に記載された技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に想到し得た発明であるか否かについて検討する。ここでは、甲第3、4又は6号証に記載された各発明と甲第1又は7号証に記載された技術的事項との組合せについて、まとめて検討を行う。

本件発明3と甲3発明との相違点3-3-1、本件発明3と甲4発明Bとの相違点3-4-1、及び本件発明3と甲6発明との相違点3-6-1は、相違点2-1-1及び相違点2-7-1と同じである。

そして、甲第1号証の技術的事項と組み合わせても相違点2-1-1が、又は甲第7号証の技術的事項と組み合わせても相違点2-7-1が当業者が容易に想到し得たものとすることができないことは、上記「(2)ア」及び「(2)ウ」で述べたとおりであるので、同様に、相違点3-3-1、相違点3-4-1又は相違点3-6-1を構成することを当業者が容易に想到できたとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲3発明、甲4発明B又は甲6発明と甲第1又は7号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1発明B、甲2発明B、甲3発明、甲6発明及び甲7発明Bとの対比・判断
本件発明4と甲1発明Bとを対比すると、上記「1(6)ア」で述べたように、相違点4-1-2を含む相違点があり、
本件発明4と甲2発明Bとを対比すると、上記「1(6)イ」で述べたように、相違点4-2-2を含む相違点があり、
本件発明4と甲3発明とを対比すると、上記「1(6)ウ」で述べたように、相違点3-3-1を含む相違点があり、
本件発明4と甲6発明とを対比すると、上記「1(6)エ」で述べたように、相違点3-6-1を含む相違点があり、
本件発明4と甲7発明Bとを対比すると、上記「1(6)オ」で述べたように、相違点4-7-2を含む相違点があり、
これら相違点4-1-2、4-2-2、3-3-1、3-6-1及び3-7-2は、いずれも同じであり、その内容は、本件発明4では、トリアリルシアヌレートが、請求項2に記載のトリアリルシアヌレートとされ、即ち、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるのに対して、上記した各甲号証の発明では、トリアリルシアヌレートが、化学式(I)及び(II)の化合物を含有し、その含有量が明らかでない点である。

そして、この相違点が、それぞれ甲第1?3、6及び7号証に記載された発明から当業者が容易に想到できるとはいえないことは、それぞれ上記「2(2)ア」、「2(2)イ」、「2(3)ア」、「2(3)ウ」及び「2(2)ウ」で述べたとおりである。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1?3、6及び7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1?4は、甲第1?7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

3 理由3について
(1)判断の基準
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
この考え方に立って、以下、本件発明1及び2に関して、発明の詳細な説明の記載の実施可能要件について判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲には、本件発明1及び2について、上記「第2」で示した以下のとおりの記載がされている。
「【請求項1】
以下の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であることを特徴とするトリアリルイソシアヌレート。
【化1】

(化学式(I)のR^(1)及びR^(2)は塩素原子またはアリルオキシ基を表し、少なくとも一つは塩素原子を表す。)
【請求項2】
以下の化学式(I)及び(II)で表される有機塩素化合物を含有し且つその合計含有量が100ppm以下であることを特徴とするトリアリルシアヌレート。
【化2】

(化学式(I)のR^(1)及びR^(2)は塩素原子またはアリルオキシ基を表し、少なくとも一つは塩素原子を表す。)」

(3)発明の詳細な説明の記載
本件発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0010】
(1)TAIC中の不純物は原料であるTAC中の不純物に起因する。そして、TAC中に含まれる不純物は、以下の化学式(I)、(II)及び(III)で表される。
【0011】
【化2】



(b)「【0017】
(5)化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物を含むTACを原料としてTAICを製造すると、(I)はTAIC中に残存し腐食の原因となる。すなわち、化学式(II)の有機塩素化合物は、TAICの製造過程および精製工程で分解もしくは除去されるため、TAIC中の腐食原因物質は実質的に化学式(I)の有機塩素化合物のみとなる。そして、TAC中の腐食原因物質は水洗や蒸留で除去することは不可能であるが、特定条件下での加水分解により除去することが可能であり、除去した後に転移反応を行なうならば、腐食原因物質の少ないTAICが製造可能である。
・・・
【0025】
本発明のトリアリルイソシアヌレートは、含有される不純物に起因する金属腐食を惹起することがないため、例えば、プリント配線基板の封止材として好適である。」

(c)「【0028】
TACの製造、すなわち、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応は、塩基性触媒(例えば水酸化ナトリウム)存在下に加熱することにより行われる。通常、反応溶媒量のアリルアルコールと所定量の塩基性触媒および水とから成る溶液に室温で塩化シアヌルを添加して所定時間撹拌を行ってTACを生成させる。反応条件の詳細は前述の非特許文献1の記載を参照することが出来る。ここで得られた粗TACは、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物を含む。通常、化学式(I)の有機塩素化合物の含有量は100?250ppm、化学式(II)の有機塩素化合物の含有量は500?1,000ppmである。」

(d)「【0029】
本発明においては、TACを分解させずに前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物のみを選択的に加水分解させるため、低濃度の強塩基水溶液中、比較的低い温度条件下で粗TACを処理する。具体的には次のように行う。
【0030】
すなわち、先ず、TACの生成反応液から、析出した塩(例えば塩化ナトリウム)を濾過し、回収した濾液を濃縮し、油状物として、粗TACを回収する。次いで、通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TAC(上記の油状物)を撹拌処理する。処理時間は、通常0.5?10時間、好ましくは1?6時間である。処理条件が上記の各範囲未満の場合は、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物の加水分解が困難となり、処理条件が上記の各範囲超過の場合は、TACが加水分解される恐れがある。」

(e)「【0031】
TAICの製造、すなわち、TACの転移反応は、触媒の存在下に加熱処理することにより行われるが、反応条件の詳細は前述の特許文献1の記載を参照することが出来る。本発明の好ましい態様においては、反応溶媒(例えばキシレン)中、銅触媒の存在下で転移反応を行なう。反応温度は、通常100?150℃、好ましくは120?140℃である。反応後、減圧下に反応溶媒を留去して油状物を回収し、この油状物を減圧蒸留することにより、TAICの結晶を得ることが出来る。」

(f)「【0037】
(1)有機塩素化合物の分析:
この分析はガスクロマトグラフ(面積百分率法)によって行った。表1に分析条件を示す。なお、検出限界は10ppmである。
【0038】
【表1】



(g)「【0039】
比較例1:
アリルアルコール100g、NaOH12g、水10gの溶液に室温で塩化シアヌル18.4gを添加した。室温で2時間攪拌し、析出した塩化ナトリウムを濾過し、回収した濾液を濃縮し、油状物を得た。次いで、この油状物を、水洗した後、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率85%)。このTACには、化学式(I)において、R1がアリルオキシ基、R2が塩素原子である有機塩素化合物(2-アリルオキシー4,5,6-トリクロロピリミジン)と、R1が塩素原子、R2がアリルオキシ基である有機塩素化合物(4-アリルオキシー2,5,6-トリクロロピリミジン)との混合物(A)170ppm、化学式(II)の有機塩素化合物(2,6-ジアリルオキシー4-クロロトリアジン)740ppmが含まれていた。
【0040】
次いで、キシレン120g中に上記のTAC24.9gと塩化第2銅水和物3.4gを添加し、120℃で2時間撹拌して転移反応を行った。その後、冷却し、減圧下にキシレンを留去し、油状物を回収した。次いで、0.1Torrの減圧下、115℃で上記の油状物を蒸留し、TAICの結晶を得た(収率90%)。このTAICには前記の有機塩素化合物の混合物(A)120ppm、化学式(II)の有機塩素化合物10ppmが含まれていた。
【0041】
実施例1:
比較例1と同様して得た油状物を、5重量%NaOH水溶液中、50℃で2時間、加熱攪拌処理した。次いで、塩酸で中和した後、有機層を分離し、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率84%)。このTACには前記の有機塩素化合物の混合物(A)及び化学式(II)の有機塩素化合物は、何れも、検出されなかった(10ppm未満)。
【0042】
次いで、上記のTACを使用し、比較例1と同様に、転移反応以降の操作を行ってTAICを得た(収率90%)。このTAICには前記の有機塩素化合物の混合物(A)及び化学式(II)の有機塩素化合物は、何れも、検出されなかった(10ppm未満)。」

(h)「【0043】
実施例2:
比較例1と同様して得た油状物を、1重量%NaOH水溶液中、50℃で6時間、加熱攪拌処理した。次いで、塩酸で中和した後、有機層を分離し、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率84%)。このTACには前記の有機塩素化合物の混合物(A)が40ppm、化学式(II)の有機塩素化合物が10ppm含まれていた。
【0044】
次いで、上記のTACを使用し、比較例1と同様に、転移反応以降の操作を行ってTAICを得た(収率90%)。このTAIC中には前記の有機塩素化合物の混合物(A)10ppmが含まれていた。化学式(II)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)。」

(4)判断
ア 物を作ることができることについて
本件発明の詳細な説明には、TACは、塩化シアヌルとアリルアルコールとを塩基性触媒の存在下に製造され、通常、化学式(I)の有機塩素化合物を100?250ppm含有し、化学式(II)の有機塩素化合物を500?1,000ppm含有することが記載され(摘記(c))、化学式(I)及び(II)の化合物のみを選択的に加水分解させるため、低濃度の強塩基水溶液中、比較的低い温度条件下で粗TACを処理すると記載され、具体的には、通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TACを撹拌処理することが記載されている(摘記(d))。また、TAICは、TACを触媒の存在下に転移反応させることにより製造することができると記載され(摘記(e))、TAICの不純物は、TAC中の不純物に起因すると記載されており(摘記(a))、TAC中の化学式(II)の化合物は、TAICの製造過程、精製工程で分解、除去されることが記載されている(摘記(b))から、化学式(I)及び(II)の化合物の合計含有量を100ppm以下として不純物を減らしたTACからTAICを製造すれば、化学式(I)の化合物の含有量が100ppm以下のTAICが製造できるといえる。
そして、具体例として実施例1には、アリルアルコールと塩化シアヌルとをNaOHの存在下に反応させて得られた粗TACを、5重量%NaOH水溶液中、50℃で2時間、加熱攪拌処理してTACを製造すると、化学式(I)及び化学式(II)の化合物は、何れも検出されず10ppm未満であることが記載され、また、このTACを転移反応させて製造したTAICは、化学式(I)の化合物は、検出されず10ppm未満であることが記載されている(摘記(g))。
また、実施例2にも、粗TACを1重量%NaOH水溶液中、50℃で6時間、加熱攪拌処理してTACを製造すると、化学式(I)の化合物が40ppm、化学式(II)の化合物は10ppm含まれ、合計量は50ppmであることが記載され、また、このTACを転移反応させて製造したTAICは、化学式(I)の化合物は、10ppm含まれていたことが記載されている(摘記(h))。

上記のような具体例に加えて、摘記(d)には、粗TACの処理条件として、「通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TAC(上記の油状物)を撹拌処理する。処理時間は、通常0.5?10時間、好ましくは1?6時間である。処理条件が上記の各範囲未満の場合は、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物の加水分解が困難となり、処理条件が上記の各範囲超過の場合は、TACが加水分解される恐れがある。」という処理条件を変化させた場合の不純物と中間体の変化の方向性が記載がされているのであるから、実施例1及び2において記載された具体的な実験操作、温度、試薬の濃度、時間を参照して、上記摘記(d)に記載された粗TACの処理条件を適宜選択して実施すれば、当業者であれば、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明2である、化学式(I)及び(II)の化合物をその合計量が100ppm以下の具体例以外の全範囲に渡り含有するトリアリルシアヌレートが製造することができ、また、本件発明1である、化学式(I)の化合物を100ppm以下の具体例以外の全範囲に渡り含有するトリアリルイソシアヌレートが製造することができるといえる。

イ その物を使用することができることについて
上記「ア」で検討したとおり、本件発明1及び2に関して、全範囲に渡り製造できるのであるから、プリント配線基板の封止材として一定の有用性を有するTAICの中間体であるTAC、及び、最終生成物であるTAICとして使用できるといえる。

ウ 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされていないとはいえない。

エ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、本件発明1は、化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートであるのに対し、発明の詳細な説明の実施例1では、トリアリルイソシアヌレート中に化学式(I)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)ことが記載され、実施例2では、10ppmであることが記載されているだけであり、100ppmよりもはるかに少ない例が記載されているだけであり、100ppm以下という範囲全体に渡ってTAICを製造することできる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。(特許異議申立書第23頁第3?17行)

(イ)また、特許異議申立人は、本件発明2は、化学式(I)及び(II)で表される有機塩素化合物を含有し且つその合計含有量が100ppm以下であるトリアリルシアヌレートであるのに対し、発明の詳細な説明の実施例1では、トリアリルシアヌレート中に化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)ことが記載され、実施例2では、化学式(I)の塩素化合物が40ppm、化学式(II)の塩素化合物が10ppmであり、その合計量が50ppmであることが記載されているだけであり、100ppmよりもはるかに少ない例が記載されているだけであり、100ppm以下という範囲全体に渡ってTACを製造することできる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。(特許異議申立書第23頁第18行?第24頁第10行)

(ウ)主張の検討
前記ア及びイで検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1及び2で記載された不純物濃度の場合だけでなく、100ppm以下という全体に渡ってTAIC及びTACが製造できるる程度に記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び2について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

4 理由4について
(1)サポート要件の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決)
以下、この観点に立って検討する。

(2)本件発明1及び2の課題
本件発明1の課題は、発明の詳細な説明の段落【0008】、【0017】及び明細書全体の記載からみて、化学式(I)

で表される有機塩素化合物を含有し、その含有量が100ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートを提供することであると認める。

また、本件発明2の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】、【0016】及び明細書全体の記載からみて、化学式(I)及び(II)

で表される有機塩素化合物を含有し、その合計含有量が100ppm以下であるトリアリルシアヌレートを提供することであると認める。

(3)特許請求の範囲の記載された発明
特許請求の範囲には、上記「3(2)」で示したように本件発明1及び2が記載がされている。

(4)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、上記「3(3)」で摘記した事項に加えて以下の事項が記載されている。
(i)「【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、TAICの不純物の中から腐食原因物質を特定し、その原因物質の含有量の少ないTAICを提供することにある。」

(j)「【0016】
(4)化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物は、水中で除々に加水分解し、塩素イオンを生じるため腐食の原因になるのに対し、化学式(III)の有機塩素化合物は殆ど加水分解されないため腐食の原因とはならない。従って、TAC中の腐食原因物質は化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物であると特定される。」

(5)判断
ア 判断
本件発明の詳細な説明には、TACは、塩化シアヌルとアリルアルコールとを塩基性触媒の存在下に製造され、通常、化学式(I)の有機塩素化合物を100?250ppm含有し、化学式(II)の有機塩素化合物を500?1,000ppm含有することが記載され(摘記(c))、化学式(I)及び(II)の化合物のみを選択的に加水分解させるため、低濃度の強塩基水溶液中、比較的低い温度条件下で粗TACを処理すると記載され、具体的には、通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TACを撹拌処理することが記載されている(摘記(d))。また、TAICは、TACを触媒の存在下に転移反応させることにより製造することができると記載され(摘記(e))、TAICの不純物は、TAC中の不純物に起因すると記載されており(摘記(a))、TAC中の化学式(II)の化合物は、TAICの製造過程、精製工程で分解、除去されることが記載されている(摘記(b))から、化学式(I)及び(II)の化合物の合計含有量を100ppm以下として不純物を減らしたTACからTAICを製造すれば、化学式(I)の化合物の含有量が100ppm以下のTAICが製造できるといえる。

そして、具体例として実施例1には、アリルアルコールと塩化シアヌルとをNaOHの存在下に反応させて得られた粗TACを、5重量%NaOH水溶液中、50℃で2時間、加熱攪拌処理してTACを製造すると、化学式(I)及び化学式(II)の化合物は、何れも検出されず10ppm未満であることが記載され、また、このTACを転移反応させて製造したTAICは、化学式(I)の化合物は、検出されず10ppm未満であることが記載されている(摘記(g))。
また、実施例2にも、粗TACを1重量%NaOH水溶液中、50℃で6時間、加熱攪拌処理してTACを製造すると、化学式(I)の化合物が40ppm、化学式(II)の化合物は10ppm含まれ、合計量は50ppmであることが記載され、また、このTACを転移反応させて製造したTAICは、化学式(I)の化合物は、10ppm含まれていたことが記載されている(摘記(h))。

上記のような具体例に加えて、摘記(d)には、粗TACの処理条件として、「通常30?80℃、好ましくは30?60℃の温度条件下、通常0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%の強塩基水溶液中で粗TAC(上記の油状物)を撹拌処理する。処理時間は、通常0.5?10時間、好ましくは1?6時間である。処理条件が上記の各範囲未満の場合は、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物の加水分解が困難となり、処理条件が上記の各範囲超過の場合は、TACが加水分解される恐れがある。」という処理条件を変化させた場合の不純物と中間体の変化の方向性が記載がされているのであるから、実施例1及び2において記載された具体的な実験操作、温度、試薬の濃度、時間を参照して、上記摘記(d)に記載された粗TACの処理条件を適宜選択して実施すれば、本件発明2である、化学式(I)及び(II)の化合物をその合計量が100ppm以下の具体例以外の全範囲に渡り含有するトリアリルシアヌレートが記載されており、また、本件発明1である、化学式(I)の化合物を100ppm以下の具体例以外の全範囲に渡り含有するトリアリルイソシアヌレートが記載されているといえる。
このように、発明の詳細な説明には、本件発明1及び2が全範囲に渡り記載されているのであるから、本件発明1及び2の課題を解決できると認識できないとはいえない。

イ 小括
よって、本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載された発明ではないとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、本件発明1は、化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートであるのに対し、発明の詳細な説明の実施例1では、トリアリルイソシアヌレート中に化学式(I)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)ことが記載され、実施例2では、10ppmであることが記載されているだけであり、100ppmよりもはるかに少ない例が記載されているだけであり、発明の詳細な説明には、100ppm以下という範囲に渡ってTAICが記載されていないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないと主張している。(特許異議申立書第24頁第12?22行)

(イ)また、本件発明2は、化学式(I)及び(II)で表される有機塩素化合物を含有し且つその合計含有量が100ppm以下であるトリアリルシアヌレートであるのに対し、発明の詳細な説明の実施例1では、トリアリルイソシアヌレート中に化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)ことが記載され、実施例2では、化学式(I)の塩素化合物が40ppm、化学式(II)の塩素化合物が10ppmであり、その合計量が50ppmであることが記載されているだけであり、100ppmよりもはるかに少ない例が記載されているだけであり、発明の詳細な説明には、100ppm以下という範囲に渡ってTACが記載されていないから、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないと主張している。(特許異議申立書第24頁第23行?第25頁10行)

(ウ)主張の検討
上記アで検討したとおり、本件発明の詳細な説明には、実施例1及び2で記載された不純物濃度の場合だけでなく、100ppm以下という全体に渡ってTAIC及びTACが記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、第36条第6項第1号に適合するものであり、特許法第36条第6項の規定を満たしていないとはいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-07 
出願番号 特願2010-116163(P2010-116163)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07D)
P 1 651・ 113- Y (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
佐藤 健史
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5870475号(P5870475)
権利者 日本化成株式会社
発明の名称 トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートの製造方法  
代理人 岡田 数彦  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 バーナード 正子  

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