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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1322333 |
異議申立番号 | 異議2016-700770 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-24 |
確定日 | 2016-12-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5868576号発明「容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5868576号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5868576号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成22年4月28日に特許出願され、平成28年1月15日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人猪瀬則之より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5868576号の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】(本件発明1) 次の(A)、(B)及び(C)、 (A)ナトリウム 1.96?3.07質量% (B)アスパラギン酸 0.22?0.83質量% (C)プロリン 0.09?0.25質量% を含有する容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料であって、 (D)レモン果汁を固形分換算量で0.1?1質量%含有し、成分(B)と成分(C)との質量比が1.9?5であり、成分(B)と(C)の和と成分(A)との質量比が0.13?0.55である、容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 【請求項2】(本件発明2) 次の(A)、(B)及び(C)、 (A)ナトリウム 1.96?3.07質量% (B)アスパラギン酸 0.42?0.83質量% (C)プロリン 0.14?0.25質量% を含有する容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料であって、 (D)レモン果汁を固形分換算量で0.1?1質量%含有し、成分(B)と成分(C)との質量比が1.9?5であり、成分(B)と(C)の和と成分(A)との質量比が0.13?0.55である、容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 【請求項3】(本件発明3) 次の(A)、(B)及び(C)、 (A)ナトリウム 2?3.07質量% (B)アスパラギン酸 0.60?0.83質量% (C)プロリン 0.20?0.25質量% を含有する容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料であって、 (D)レモン果汁を固形分換算量で0.1?1質量%含有し、成分(B)と成分(C)との質量比が1.9?5であり、成分(B)と(C)の和と成分(A)との質量比が0.13?0.55である、容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 【請求項4】(本件発明4) (E)糖類を5?25質量%含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 【請求項5】(本件発明5) (G)カリウムの含有量が0.8質量%未満である請求項1?4のいずれか1項に記載の容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 【請求項6】(本件発明6) 容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料が、しょうゆ加工品又はポン酢しょうゆである請求項1?5のいずれか1項に記載の容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、以下の理由により、本件発明1?6についての特許を取り消すべき旨主張している。 (申立理由1) 本件発明1?6は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない。 (申立理由2) 本件発明1?6は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 甲第1号証:特開2005-52138号公報 甲第2号証:「五訂食品成分表2005」、女子栄養大学出版部、2005年3月、p.148、304、306 甲第3号証:「発酵と醸造I」、株式会社光琳、平成14年3月15日、p.162-163 甲第4号証:「県産かんきつ果汁の高品質化に関する研究(第1報)」、愛媛県工業技術センター業務年報、平成2年5月、p.35-43 甲第5号証:「特殊食酢類の一般成分・無機成分・遊離アミノ酸・有機酸について」、日本食品工業学会誌、第34巻、第9号、1987年9月、p.592-597 甲第6号証:一般財団法人食品分析開発センターSUNATECによる2014年1月23日発行の成績書 甲第7号証:特開2009-27974号公報 第4 判断 1 申立理由1について 特許異議申立人は、本件特許明細書に記載された実施例3、参考例1、参考例5を対比し、(B)/(C)の値が本件発明1の数値範囲内である実施例1と、同値が本件発明1の数値範囲外である参考例1、5とで、作用効果が相違しないことから、(B)/(C)の値と作用効果との間に技術的関係を見出すことができず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張する。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の数値範囲内である実施例1?11について、所望の効果が得られたことが記載されており、本件発明1の数値範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されているといえる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明1の数値範囲外である参考例1、5について同じ効果が得られるとしても、このことは上記判断を左右するものではない。 また、本件発明2は、(B)及び(C)の数値範囲を本件発明1よりも限定したものに相当し、本件発明3は、(A)、(B)及び(C)の数値範囲を本件発明1よりも限定したものに相当する。そして、上記のとおり、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1よりも数値範囲を限定した本件発明2及び3も同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明4?6は、本件発明1?3に他の限定を付加したものに相当するから、同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。 2 申立理由2について (1)本件発明1について ア.甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。 「【請求項1】 混濁果汁を含む調味料であって、多糖を主成分とする沈降剤を含有させ、混濁果汁の浮遊成分を沈降させた調味料。」 「【実施例2】 【0019】 濃口醤油5部に対して食酢5部、混濁ゆず果汁0.5部を加え、澱粉や寒天を所定量添加し、混合撹拌して以下のぽん酢醤油A?Dを調製した。 ぽん酢醤油A:澱粉0.5重量%添加(粘度10cps) ぽん酢醤油B:寒天0.1重量%添加(粘度20cps) ぽん酢醤油C:澱粉0.3重量%と寒天0.05重量%併用(粘度10cps) ぽん酢醤油D:コントロール(無添加)(粘度0cps) このようにして調製した各ぽん酢醤油を静置して保存試験を行ったところ、下記表1に示す結果を得た。」 よって、甲第1号証には、「実施例2」に関し、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「濃口醤油5部に対して食酢5部、混濁ゆず果汁0.5部を加えて調製されたぽん酢醤油。」 イ.甲第2号証?甲第7号証の記載 甲第2号証には、「こいくちしょうゆ」のナトリウムの含有量が5700mg/100g、「ゆず果汁」のナトリウムの含有量が1mg/100g、「米酢」のナトリウムの含有量が12mg/100gであることが記載されている。 甲第3号証には、「濃口醤油」のアスパラギン酸含有量が618mg/100ml、プロリンの含有量が411mg/100mlであることが記載されている。 甲第4号証には、2種類のゆずについて、アスパラギン酸67.3mg/100g、プロリン86.3mg/100g、及び、アスパラギン酸80.9mg/100g、プロリン78.5mg/100g、2種類のレモンについて、アスパラギン酸34.6mg/100g、プロリン33.4mg/100g、及び、アスパラギン酸53.5mg/100g、プロリン66.3mg/100gであることが記載されている。 甲第5号証には、特殊食酢類についてのアミノ酸分析結果が記載され、例えば、玄米を原料とする黒酢のアスパラギン酸含有量が2.7mg/100ml、プロリンの含有量が3.1mg/100mlであることが記載されている。 甲第6号証には、「特開2005-52138号公報の段落番号【0019】に記載された実施例2の「ぽん酢醤油D」の作り方にしたがって「ぽん酢醤油D」を作製し、分析に供した。」として、以下の結果が記載されている。 ナトリウム 2600mg/100g 遊離プロリン 162mg/100g 遊離アスパラギン酸 271mg/100g 甲第7号証には、容器詰液体調味料の発明に関し「【0023】 本発明において、容器詰液体調味料中の(D)糖類の含有量は4?20%であるのが好ましく、より好ましくは4.5?18%、更に5?16%、特に6?15%、殊更7?14%であるのが、塩化カリウム由来の異味抑制、魚節類や柑橘類の香り立ち、塩味、風味バランスの点で好ましい。」と記載されている。 ウ.対比 甲第2号証?甲第5号証に記載された、濃口醤油、ゆず果汁、食酢についての(A)ナトリウム、(B)アスパラギン酸、(C)プロリンの含有量を用いると、甲1発明の各成分の含有量は次のとおり推定される。 (A)ナトリウム 2.71質量% (B)アスパラギン酸 0.298質量% (C)プロリン 0.200質量% 上記「実施例2」を再現試験した結果を示す甲第6号証からも、上記含有量の推定値は妥当なものと認められる。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違する。 (相違点1)本件発明1は「レモン果汁」を含有するのに対し、甲1発明は 「ゆず果汁」を含有する点。 (相違点2)本件発明1は「成分(B)と成分(C)との質量比が1.9?5」であるのに対し、甲1発明は、(B)/(C)=0.298/0.200=1.49である点。 (相違点3)本件発明1は「容器詰」であるのに対し、甲1発明は「容器詰」であることは特定されていない点。 エ.判断 相違点2について検討する。 甲1発明の原料である濃口醤油、ゆず果汁、食酢のそれぞれについて、(B)アスパラギン酸/(C)プロリンの値を計算すると、濃口醤油は甲第3号証より618/411=1.5、ゆず果汁は甲第4号証より67.3/86.3=0.78又は80.9/78.5=1.03、食酢は甲第5号証の一例より2.7/3.1=0.87であることから、これら原料の配合割合を変えても、(B)/(C)を1.9?5の範囲に調整することはできない。 また、甲第4号証よりレモン果汁は(B)/(C)=34.6/33.4=1.04又は53.5/66.3=0.81、甲第3号証より淡口醤油は(B)/(C)=506/322=1.57、溜り醤油は(B)/(C)=833/671=1.24、白醤油は(B)/(C)=129/167=0.77であるから、甲1発明のゆず果汁を、相違点1に係るレモン果汁に変更したり、甲1発明の濃口醤油を甲第3号証に示される他の醤油に変更したりしても、(B)/(C)を1.9?5の範囲に調整することはできない。 そして、甲1発明は、試験のために調製したぽん酢醤油の比較例として甲第1号証に記載されたものにすぎず、また、甲第1号証?甲第7号証のいずれにも(B)/(C)を所定範囲に調整するという技術思想は示されていないから、甲1発明に上記原料以外の添加物を加える等の手段により(B)アスパラギン酸と(C)プロリンの含有量を調整して(B)/(C)を1.9?5の範囲とする動機付けは認められない。 よって、相違点2は、甲1発明及び甲第1号証?甲第7号証の記載事項に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。 オ.小括 したがって、本件発明1は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2?6について 上記相違点2は、本件発明2?6と甲1発明との相違点でもある。 よって、本件発明2?6も、本件発明1と同じく、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-12-07 |
出願番号 | 特願2010-103503(P2010-103503) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 白井 美香保 |
特許庁審判長 |
中村 則夫 |
特許庁審判官 |
結城 健太郎 紀本 孝 |
登録日 | 2016-01-15 |
登録番号 | 特許第5868576号(P5868576) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 容器詰柑橘風味しょうゆ含有液体調味料 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 義経 和昌 |