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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1322639
審判番号 不服2016-2751  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2016-12-27 
事件の表示 特願2011-176098号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日出願公開、特開2013- 39850号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月11日の出願であって、平成27年5月15日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされた。これに対し、平成28年2月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年2月24日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1) 特許請求の範囲について
本件補正は、特許請求の範囲について補正(以下「補正事項1」という。)をするものであって、補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
[補正前]
「【請求項1】
トレッド部のカーカス層の外周側に、第1ベルトプライと第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなるベルト層が配設され、前記トレッド部の表面に、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記第1ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、タイヤ幅方向の最外側に位置するショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向外側に設定され、
前記第2ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向内側に設定され、
前記第1ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向外側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第2ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向内側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1ベルトプライ及び前記第2ベルトプライは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が中央領域よりも端部領域で8?15°大きい請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダー主溝の踏面の端縁から接地端までのタイヤ幅方向距離DWの接地幅CWに対する比DW/CWが、0.1?0.35である請求項1?3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。」

[補正後]
「【請求項1】
トレッド部のカーカス層の外周側に、第1ベルトプライと第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなり、最も幅広となるベルトプライの幅が接地幅の80?120%であるベルト層が配設され、前記トレッド部の表面に、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記第1ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、タイヤ幅方向の最外側に位置するショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向外側に設定され、
前記第2ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向内側に設定され、
前記第1ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向外側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置し、
前記第2ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向内側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1ベルトプライ及び前記第2ベルトプライは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が中央領域よりも端部領域で8?15°大きい請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ショルダー主溝の踏面の端縁から接地端までのタイヤ幅方向距離DWの接地幅CWに対する比DW/CWが、0.1?0.35である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。」

(2) 明細書について
明細書の段落【0009】を、
「上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部のカーカス層の外周側に、第1ベルトプライと第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなり、最も幅広となるベルトプライの幅が接地幅の80?120%であるベルト層が配設され、前記トレッド部の表面に、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝が設けられた空気入りタイヤにおいて、前記第1ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、タイヤ幅方向の最外側に位置するショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向外側に設定され、前記第2ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向内側に設定され、前記第1ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向外側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置し、前記第2ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向内側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置するものである。」
と補正(以下「補正事項2」という。)するものである(下線部は補正箇所を示す。)。

2 補正の適否
(1) 補正事項1について
本件補正の補正事項1は、補正前の請求項1及び補正前の請求項1を引用する請求項3及び4を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項2を新たな請求項1とし、補正前の請求項3及び4をそれぞれ新たな請求項2及び3としてその引用する請求項を整理し、さらに、新たな請求項1について、発明を特定するために必要な事項である「ベルト層」を明細書の【0034】に記載された事項によって限定するものであるから、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該補正事項1は、特許法第17条の2第4項に違反するところもない。

そこで、本件補正後の請求項1(上記「1(1)」の「[補正後]」の「【請求項1】」参照)に記載された発明(以下「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物等の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2006-205817号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a) 「【請求項1】
複数のベルト材が積層されて成ると共にカーカス層のタイヤ径方向外周に配置されるベルト層と、トレッド面の縁部からトレッド幅Wの四分の一の範囲内に位置すると共にタイヤ周方向に延在する主溝(以下、外側主溝という。)とを含み、
少なくとも一の前記ベルト材(以下、特定ベルト材という。)がベルトコードから成ると共に、その繊維方向が前記ベルト材の設置状態にてタイヤ周方向に対して所定の傾斜角度(以下、ベルト角度という。)で傾斜しており、
トレッド部のセンターにおける前記特定ベルト材のベルト角度θ1が5[deg]≦θ1≦20[deg]の範囲内にあり、且つ、前記外側主溝の下方における前記特定ベルト材のベルト角度θ2が30[deg]≦θ2≦45[deg]の範囲内にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ子午線方向の断面視における前記外側主溝の溝底の中心線に対して溝幅方向に±0.1W(W:トレッド幅)の範囲内にて、前記特定ベルト材が前記ベルト角度θ2を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。」(下線は当審で付したもの。以下同様。)

(1b) 「【0004】
しかしながら、従来の空気入りタイヤでは、主溝近傍におけるタイヤ幅方向の剛性が低いため、タイヤ転動時にて主溝がタイヤ幅方向に開閉する。すると、これに追従して主溝の溝底が変形し、溝底に歪みが集中してグルーブクラックが発生するという課題がある。

【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてされたものであって、ショルダー部の外径成長を抑制しつつグルーブクラックの発生を抑制できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。」

(1c) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施例の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれる。また、この実施例に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【実施例1】
【0029】
図1は、この発明の実施例1にかかる空気入りタイヤを示す説明図である。図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。図4は、この発明の実施例にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【0030】
この空気入りタイヤ1は、左右一対のビードコア(図示省略)間にトロイド状に架け渡されるカーカス層2と、カーカス層2のタイヤ径方向外周に配置されるベルト層3と、ベルト層3のタイヤ径方向外周に形成されたトレッド部4とを含み構成される(図1参照)。また、トレッド部4のトレッド面には、タイヤ周方向に延在する複数の主溝41、42が形成されている。これらの主溝41、42のうちトレッド面の縁部からトレッド幅Wの四分の一の範囲内に位置するものを外側主溝41と呼ぶ。
【0031】
なお、トレッド幅Wとは、空気入りタイヤが正規リムにリム組みされると共にこの空気入りタイヤに正規内圧および正規荷重が負荷された状態にて、タイヤ幅方向にかかるトレッド面の幅寸法をいう。…
【0032】
ベルト層3は、積層された複数のベルト材31?33により構成される。これらのベルト材31?33は、ゴム材により被覆されたスチールワイヤー製のベルトコードから成る。各ベルト材31?33は、ベルトコードの繊維方向が相互に交差するように積層されて配置される(交差ベルト層)。
【0033】
ここで、複数のベルト材31?33のうち少なくとも一枚のベルト材は、外側主溝41の下方よりもタイヤ幅方向外側まで延在すると共に、そのベルトコードの繊維方向が設置状態にてタイヤ周方向に対して傾斜するように構成される。以下、かかるベルト材を特定ベルト材31と呼ぶ。また、特定ベルト材31のベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対して傾斜する角度をベルト角度θと呼ぶ。
【0034】
特定ベルト材31は、トレッド部4センターにおけるベルト角度θ1が5[deg]≦θ1≦20[deg]の範囲内にあり、且つ、外側主溝41の下方におけるベルト角度θ2が30[deg]≦θ2≦45[deg]の範囲内にあるように、構成される。すなわち、特定ベルト材31は、そのベルト角度θが外側主溝41の下方にてタイヤ周方向からタイヤ幅方向に変化して広がるように、構成される。
【0035】
なお、外側主溝41の下方とは、タイヤ子午線方向の断面視にて外側主溝41の溝底の中央からタイヤ径方向内側に中心線が引かれたときに、この中心線を含むタイヤ幅方向の範囲をいうものとする(図1参照)。」

(1d) 「【0036】
[効果]
この空気入りタイヤ1では、トレッド部センターにおける特定ベルト材31のベルト角度θ1が5[deg]≦θ1≦20[deg]の範囲内にあるので、トレッド部センターにおけるタイヤの外径成長が抑制される利点がある。また、外側主溝41の下方における特定ベルト材31のベルト角度θ2が30[deg]≦θ2の範囲にあるので、タイヤ幅方向に対する特定ベルト材31の剛性がトレッド部センターの部分よりも高められている。かかる構成では、タイヤ転動時にて外側主溝41が開閉したときに、これに追従する溝底の変形量が低減される。これにより、外側主溝41のグルーブクラックが抑制される利点がある。また、特定ベルト材31のベルト角度θ2がθ2≦45[deg]の範囲にあるので、タイヤ周方向に対する特定ベルト材31の剛性が維持される。これにより、特定ベルト材31によるタガ効果が維持されるので、外側主溝付近におけるタイヤの外径成長が抑制される利点がある。」

(1e) 「【0038】
[変形例2]
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ子午線方向の断面視における外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に±0.1W(W:トレッド幅)の範囲内にて、特定ベルト材31が上記のベルト角度θ2を有することが好ましい。これにより、外側主溝41のグルーブクラックが効果的に抑制される利点がある。」

(1f) 引用文献1の図1には以下の図が記載されている。



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、
(ア)
a 空気入りタイヤ1は、左右一対のビードコア間にトロイド状に架け渡されるカーカス層2と、カーカス層2のタイヤ径方向外周に配置されるベルト層3と、ベルト層3のタイヤ径方向外周に形成されたトレッド部4とを含み構成されること(摘示(1c)【0030】)、
b ベルト層3は、積層された複数のベルト材31?33により構成されること(摘示(1c)【0032】)、
(イ)
a トレッド部4のトレッド面には、タイヤ周方向に延在する複数の主溝41、42が形成されていること(摘示(1c)【0030】)、
b 外側主溝41は、トレッド面の縁部からトレッド幅Wの四分の一の範囲内に位置するものであること(摘示(1c)【0030】)、
(ウ)
a 特定ベルト材31は、複数のベルト材31?33のうちの一枚のベルト材であること(摘示(1c)【0033】)、
b ベルト角度θは、特定ベルト材31のベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対して傾斜する角度であること(摘示(1c)【0033】)、
c 特定ベルト材31は、そのベルト角度θが外側主溝41の下方にてタイヤ周方向からタイヤ幅方向に変化して広がること(摘示(1a)【請求項1】、摘示(1c)【0034】)、
d 外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に±0.1W(W:トレッド幅)の範囲内にて、特定ベルト材31が上記のベルト角度θ2を有すること(摘示(1a)【請求項2】、摘示(1e)【0038】)、
が記載されており、また、
(エ)
a 上記「(ア)」及び摘示(1f)より、複数のベルト材31?33は、トレッド部4のカーカス層2の外周側に積層されているといえること、
b 上記「(ウ)c」、「(ウ)d」及び摘示(1f)より、ベルト角度θは、外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に0.1W内側の位置で広がること、
が明らかである。

これらのことから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「トレッド部4のカーカス層2の外周側に、複数のベルト材31?33が積層されており、ベルト層3は、積層された複数のベルト材31?33により構成され、
トレッド部4のトレッド面には、タイヤ周方向に延在する複数の主溝41、42が形成され、
外側主溝41は、トレッド面の縁部からトレッド幅Wの四分の一の範囲内に位置するものであり、
特定ベルト材31は、複数のベルト材31?33のうちの一枚のベルト材であり、
特定ベルト材31のベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対して傾斜する角度であるベルト角度θが、外側主溝41の下方にてタイヤ周方向からタイヤ幅方向に変化して広がり、
ベルト角度θは、外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に0.1W内側の位置で広がる、
空気入りタイヤ1。」

ウ 対比・判断
(ア) 補正発明1と引用発明を対比する。
a 引用発明の「トレッド部4」は補正発明1の「トレッド部」に相当し、以下同様に、「カーカス層2」は「カーカス層」に、「複数のベルト材31?33」は「複数のベルトプライ」に、「ベルト層3」は「ベルト層」に、「トレッド面」は「トレッド部の表面」に、「タイヤ周方向に延在する複数の主溝41、42」は「タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝」に、「特定ベルト材31」は「第2ベルトプライ」に、「ベルトコード」は「コード」に、「外側主溝41の溝底」は「ショルダー主溝の溝底」に、「空気入りタイヤ1」は「空気入りタイヤ」に相当する。
b 引用発明の「トレッド面の縁部からトレッド幅Wの四分の一の範囲内に位置する」と共に「タイヤ周方向に延在する」主溝である「外側主溝41」は、当該主溝よりタイヤ幅方向外側には溝が存在しない(摘示(1f))から、補正発明1の「タイヤ幅方向の最外側に位置するショルダー主溝」に相当する。
c 引用発明の「ベルト角度θ」は、「特定ベルト材31のベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対して傾斜する角度」であるから、補正発明1の「タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度」に相当する。
d 引用発明の「ベルト角度θが、外側主溝41の下方にてタイヤ周方向からタイヤ幅方向に変化して広が」ることは、補正発明1の「タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大き」いことに相当する。
e 引用発明の「外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に0.1W内側の位置」は、ベルト角度θが広がる位置であるから、補正発明1の「中央領域と端部領域との境界」に相当する。
f 上記「a」?「e」の相当関係より、
(a) 引用発明では、「特定ベルト材31は、複数のベルト材31?33のうちの一枚のベルト材であ」るから、引用発明の「トレッド部4のカーカス層2の外周側に、複数のベルト材31?33が積層されており、ベルト層3は、積層された複数のベルト材31?33により構成され」ることは、補正発明1の「トレッド部のカーカス層の外周側に、第1ベルトプライと第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなり、最も幅広となるベルトプライの幅が接地幅の80?120%であるベルト層が配設され」ることと、「トレッド部のカーカス層の外周側に、第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなるベルト層が配設され」る限度で一致する。
(b) 引用発明の「トレッド部4のトレッド面には、タイヤ周方向に延在する複数の主溝41、42が形成され」ることは、補正発明1の「前記トレッド部の表面に、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝が設けられ」ることに相当する。
(c) 引用発明の「特定ベルト材31のベルトコードの繊維方向がタイヤ周方向に対して傾斜する角度であるベルト角度θが、外側主溝41の下方にてタイヤ周方向からタイヤ幅方向に変化して広がり、ベルト角度θは、外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に0.1W内側の位置で広がる」ことは、補正発明1の「第2ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が」、「ショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向内側に設定され」ることに相当する。

(イ) 以上によれば、補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「トレッド部のカーカス層の外周側に、第1ベルトプライと第2ベルトプライとを含む複数のベルトプライを積層してなるベルト層が配設され、前記トレッド部の表面に、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝が設けられた空気入りタイヤにおいて、
第2ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、ショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向内側に設定される、
空気入りタイヤ。」

[相違点1]
補正発明1では、ベルト層は「最も幅広となるベルトプライの幅が接地幅の80?120%である」のに対し、引用発明では、この点が特定されていない点。
[相違点2]
補正発明1では、「前記第1ベルトプライでは、タイヤ周方向に対するコードの傾斜角度が、タイヤ幅方向における中央領域よりも端部領域で大きく、その中央領域と端部領域との境界が、タイヤ幅方向の最外側に位置するショルダー主溝の溝底よりもタイヤ幅方向外側に設定され」、「前記第1ベルトプライにおける中央領域と端部領域との境界が、前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向外側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置」するという構成を有するのに対し、引用発明では、当該構成を有しない点。
[相違点3]
補正発明1では、第2ベルトプライの中央領域と端部領域との境界が、「前記ショルダー主溝の溝底の端縁からタイヤ幅方向内側に向かって、前記ショルダー主溝の溝底幅の10?30%の範囲内に位置する」のに対し、引用発明では、「外側主溝41の溝底の中心線に対して溝幅方向に0.1W内側の位置」にある点。

(ウ) 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
本願の出願日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2006-341633号公報(以下「引用文献2」という。)には、内側ベルト層14及び外側ベルト層15の端部領域においてコードの傾き角度を大きくする技術が記載されている(【0058】?【0063】及び図9参照)ものの、タイヤの周方向溝との関係は記載も示唆もされていないから、引用発明に当該技術を適用しても、補正発明1に係る相違点2の構成に至らないことは明らかである。
また、本願の出願日前に頒布された刊行物であり、原査定で周知例として提示された特開2008-149904号公報(以下「引用文献3」という。)には、第1ベルト材51、第2ベルト材52の境界線l、mにおいてベルト角度を変化させる技術が記載されている(【0029】?【0030】、図2及び図3参照)ものの、当該技術は、ベルト角度がタイヤ幅方向内側において大きいものであるし、境界線l、mがともに溝62よりも内側に配置されている点で補正発明1に係る相違点2の構成と相違するから、引用発明に当該技術を適用しても、補正発明1に係る相違点2の構成に至らないことは明らかである。
そして、補正発明1は、第1ベルトプライの境界を溝底よりもタイヤ幅方向外側に位置させ、かつ、第2ベルトプライの境界溝底よりもタイヤ幅方向内側に位置させることで「面内収縮力によりショルダー主溝6a,6dの溝底に発生する局所的な歪みを分散して、その歪みによる転がり抵抗の増大を抑制する」(【0027】)という効果を奏するものであって、当該効果が当業者の予測の範囲内のものということもできない。
よって、当該相違点2に係る補正発明1の構成は、引用発明、引用文献1?3に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。

エ 上記「ウ」のとおり、相違点2に係る補正発明1の構成については、引用発明及び引用文献1?3に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。したがって、補正発明1は、引用発明及び引用文献1?3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2) 補正事項2について
本件補正の補正事項2は、【0009】の記載を、補正後の請求項1に対応した記載とするものであるから、上記「(1)」で述べたとおり新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、補正発明1は、上記「第2 2(1)」のとおり、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明1を引用する本件補正後の請求項2及び3に記載された発明は、補正発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2011-176098(P2011-176098)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
小原 一郎
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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