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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1322689
審判番号 不服2014-25308  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-10 
確定日 2016-12-07 
事件の表示 特願2008-230177「液体モールドされたファイバベースの複合物の補強のための高多孔性中間層」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-143218〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年9月8日(パリ条約に基づく優先権主張 2007年9月7日 米国(US))の出願であって、平成25年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年7月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年7月3日に意見書が提出されたが、同年8月8日付けで拒絶査定がされ、同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年2月17日付けで前置報告がされ、同年4月22日に上申書が提出されたものである。

第2 平成26年12月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成26年12月10日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、特許請求の範囲の請求項6については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年7月4日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項6の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項6の記載へ補正するものである。また、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年7月4日に提出された手続補正書により補正された)下記(3)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(4)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項6
「【請求項6】
縦の方向を有する多軸のファイバの製造方法であって、当該多軸のファイバは、不織中間層を備えた一方向に並んだ乾燥したファイバの補強層を具備し、前記不織中間層は、熱可塑性ファイバの不織、スパンレース、またはメッシュ生地を有し、前記補強層の間に配置され、かつ、前記補強層の片側又は両側に高度に溶融結合され、前記不織中間層で30重量%を超える熱可塑性ファイバは溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有しており、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだファイバの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだファイバから多軸のファイバを形成するステップと、
縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップであって、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される、ステップと、
中間層材料を補強層間に位置するように導入するステップと、
編または縫糸を使用して補強層へ中間層材料を編込むステップを含んでいる方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項6
「【請求項6】
間に配置され、補強層の両側に溶融結合されている熱可塑性ファイバの不織、スパンレース、またはメッシュ生地を有する不織中間層を備えた一方向に並んだファイバの補強層を具備している多軸の生地の製造方法において、
一方向に並んだファイバの補強層を生成するためにピンを横切って1又は複数のトウを引っ張るステップと、
中間層材料を補強層間に位置するように導入するステップと、
乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥した生地の補強層の両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料の少なくとも1つを溶融結合するステップであって、前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え、溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有する、ステップと、
前記溶融結合するステップに続いて、編または縫糸を使用して補強層へ中間層材料を編込むステップと、を含み、
前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している、
方法。」(下線は補正箇所を示すものである。)

(3)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
縦の方向を有し、補強層間に配置された不織の中間層を有する一方向に並んだファイバの補強層を具備する連続的な多軸プレフォームの製造方法において、
乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥したファイバの片側又は両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料を溶融結合するステップであって、前記中間層で30重量%を超える熱可塑性ファイバは溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有する、ステップと、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだテープの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだテープから多軸のプレフォームを形成するステップを含み、
製造方法は、縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップを含んでおり、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される方法。」

(4)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
縦の方向を有し、補強層間に配置された不織の中間層を有する一方向に並んだファイバの補強層を具備する連続的な多軸プレフォームの製造方法において、
乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥した生地の両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料の少なくとも1つを溶融結合するステップであって、前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え、溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有し、前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している、ステップと、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだテープの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだテープから多軸のプレフォームを形成するステップを含み、
製造方法は、縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップを含んでおり、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される方法。」(下線は補正箇所を示すものである。)

2.本件補正の適否
(1)特許請求の範囲の請求項6の補正について
ア 補正の目的について
特許請求の範囲の請求項6の補正については、少なくとも本件補正前の請求項6における「多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだファイバの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだファイバから多軸のファイバを形成するステップと、縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップであって、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される、ステップと、」との発明を特定するための事項(以下、「発明特定事項」という。)を削除する補正事項を含むものである。してみると、本件補正後の請求項6に係る発明は、本件補正前の請求項6に係る発明との関係において、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
そうすると、当該補正を含む本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められず、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的としているものとも認められないから、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項にも該当するものではない。

(2)特許請求の範囲の請求項1の補正について
ア 補正の目的について
特許請求の範囲の請求項1の補正については、明細書の段落【0034】、【0035】、【0038】、図1、図3(b)等の記載を根拠にして、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項において、溶融結合する部分をファイバ(生地)の「片側又は両側」から「両側」に限定し、中間層における熱可塑性ファイバの割合を「30重量%を超え」から「60重量%を超え」に限定し、さらに、熱可塑性ファイバを「2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している」と新たに限定する補正事項を含むものであり、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。
(ア)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、平成26年12月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
縦の方向を有し、補強層間に配置された不織の中間層を有する一方向に並んだファイバの補強層を具備する連続的な多軸プレフォームの製造方法において、
乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥した生地の両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料の少なくとも1つを溶融結合するステップであって、前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え、溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有し、前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している、ステップと、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだテープの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだテープから多軸のプレフォームを形成するステップを含み、
製造方法は、縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップを含んでおり、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される方法。」

(イ)引用文献及びその記載事項
a 引用文献1について
a-1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1であり、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-80607号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示(1a)」?「摘示(1e)」という。)が記載されている。

(1a) 「【請求項1】 少なくとも強化繊維糸条によって形成された強化布帛を複数枚積層してなるプリフォームであって、プリフォーム内の層間に強化布帛以外の熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料を有し、かつ、強化布帛と樹脂材料とを含む各層が接着しており、プリフォームにおける強化繊維体積率V_(Pf)が45?62%の範囲内であることを特徴とするプリフォーム。
【請求項16】 請求項1?11のいずれかに記載のプリフォームを少なくとも次の工程(A)?(D)を経て製造することを特徴とするプリフォームの製造方法。
(A)少なくとも強化繊維糸条によって形成された強化布帛をプリフォーム型に複数枚積層する積層工程。
(B)積層体をプリフォーム型内に配置する配置工程。
(C)積層体を加熱する加熱工程。
(D)積層体を冷却する冷却工程。」(特許請求の範囲の請求項1、16)

(1b) 「ここで、(A)積層工程において、強化布帛の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料(有機繊維布帛、粒子もしくはフィルム等)が予め接着している強化布帛を積層すると、その優れた形態安定性により積層時間を短くできるため好ましい。かかる樹脂材料は、それ自体で強化布帛に接着していてもよいし、前述の粘着性付与剤にて接着していてもよいが、V_(Pf)を本発明の範囲内にするためには、前者の方が好ましい態様といえる。」(段落【0076】)

(1c) 「強化布帛A:PAN系炭素繊維束[TEX=800、引張弾性率=235GPa、破壊歪エネルギー=52MJ/m^(3)、粘着性付与剤:ポリウレタン樹脂とエポキシ樹脂との混合物を炭素繊維束に対して1重量%]をたて糸(2.4本/cm)とした一方向性織物[補助よこ糸:ガラスヤーン(ECE225 1/01Z、バインダータイプDP、日東紡績株式会社製)3本/cm、炭素繊維目付=193g/m^(2)]。」(段落【0097】)

(1d) 「樹脂材料A:芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布[芯部:ポリアミド6、鞘部:融点110℃の共重合ポリアミド、目付=10g/m^(2)]。」(段落【0100】)

(1e) 「実施例1
強化布帛Aと樹脂材料Aである不織布とを遠赤外線ヒーターとホットローラーとで加熱して接着し、複合布帛Aを得た。かかる樹脂材料Aは、樹脂材料A自体および強化繊維束に予め付着させておいた粘着性付与剤により接着していた。複合布帛Aを[-45°/0°/+45°/90°]_(3S)の構成で積層して積層体を得た。この積層体を平面状のプリフォーム型とバッグフィルムとシーラントとにて密閉して真空に減圧した状態で、140℃のオーブンに60分間放置した。その後、オーブンから取り出し、プリフォーム型を室温まで冷却した後に放圧してプリフォーム1を得た。」(段落【0108】)

a-2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘示(1a)?(1e)の記載から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「一方向性織物である強化布帛Aと、熱可塑性であり、芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布である樹脂材料Aとを、加熱して接着し、複合布帛Aを得て、複合布帛Aを[-45°/0°/+45°/90°]_(3S)の構成で積層して積層体を得て、この積層体を型内で140℃のオーブンに60分間放置し、オーブンから取り出し、室温まで冷却した後に放圧する、プリフォームの製造方法。」

b 引用文献2について
b-1 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2であり、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2001-516406号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示(2a)」?「摘示(2c)」という。)が記載されている。

(2a) 「1.複数の一方向性シートを異なる方向で重ね、重ねたシートを一体に結合する工程を含んで成る、多軸性繊維シートを製造する方法であって、
少なくとも1つの一方向性シートを形成するために、少なくとも1つのトウを広げて実質的に均一な厚さを有する、幅が5cm以上で重量が300g/m^(2)を越えないシートを得、少なくとも1つの他の一方向性シートと重ねる前に、一方向性シートを取り扱うことができるように、一方向性シートに凝集状態が付与されていることを特徴とする方法。
23.支持体によって少なくとも1つの一方向性の横方向シートを供給することによって長手方向を有する連続多軸性シートを形成し、支持体は多軸性シートの長手方向に対して平行に前方に移動し、一方向性の横方向シートまたは各一方向性の横方向シートは前方方向に対して同じ選択された角度を形成する連続セグメントで供給されていることを特徴とする請求の範囲1?22のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項1、23)

(2b) 「次に図6A?6Bを参照する。図6A?6Bは、連続的な多軸性シートを、少なくとも1つが上述した方法により得られる複数の一方向性シートで製造するのに適した、本発明の実施態様を構成しているレイイング・マシンを示す。
図示した例において、多軸性シート50は、3つの一方向性シート30a、30bおよび30cで構成され、それぞれのシートは長手方向に対してそれぞれ次の角度:0°、+60°および-60°を形成している。0°の角度で位置するシート(シート30a)、即ち「主たる」シートは、上述した方法により得られた凝集一方向性シートであり、リール40aから繰り出される(または解かれる)。+60°の角度で位置する横方向のシート(シート30b)および-60°の角度で位置する横方向のシート(シート30c)は、上述した方法により得られる凝集シートであり得る一方向性シートであり、リール40bおよび40cからそれぞれ繰り出される。使用される一方向性シートは、必ずしも同じ幅を有する必要はない。従って、当該実施例において、横方向シート30bおよび30cはともに同じ幅を有し、それは長手方向のシート30aの幅よりも小さい。一般に、横方向シートは通常、主シート(0°)の幅よりも小さい幅を有するであろう。
横方向シートにより形成される、0°の角度で位置するシートに対する角度は、+60°および-60°以外であってもよく、例えば、それらは+45°または-45°であってよく、より一般には、それらは好ましくは反対符号の角度であり得るが、必ずしも等しくない。2つよりも多い横方向シートを0°のシートと重ね合わせることができ、例えば、90°の角度で位置するシートを追加する、及び/または、長手方向に対して反対符号の角度を形成する少なくとも1つの他の対のシートを追加することによって、0°のシートと重ね合わせ得ることもまた理解されるであろう。
図6Aに示すように、多軸性シート50は、モーター47により駆動されるドライブ・ローラ46上、およびデフレクション(または偏向)・ローラ48(6B)上を通過するコンベア44のエンドレスベルト42の水平方向の上側セグメントによって構成される支持体の上に形成される。ベルト42の幅はシート50のそれよりも狭く、そのためにシートは僅かにベルト42の両方の側部42aおよび42bからはみ出ることが理解されよう。」(第29頁第6行?第30頁第7行)

(2c) 図6Aとして、以下の図面が記載されている。
【図6A】


(ウ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「一方向性織物である強化布帛A」、「プリフォーム」は、それぞれ、本願補正発明における「一方向に並んだ乾燥した生地」、「プレフォーム」に相当する。また、引用発明におけるプリフォーム中の当該強化布帛Aは、本願補正発明における「一方向に並んだファイバの補強層」に相当する。
引用発明における「熱可塑性であり、芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布である樹脂材料A」は、摘示(1b)の記載によると、「強化布帛の少なくとも一方の表面に」接着しているものであるから、強化布帛の両側に接着している態様を含むことは明らかであり、引用発明における当該樹脂材料Aは、プリフォーム中において本願補正発明における「補強層間に配置された不織の中間層」に相当するとともに、本願補正発明における「熱可塑性ファイバを有する中間層材料」にも相当する。引用発明における当該樹脂材料Aは熱可塑性であり、強化布帛Aと加熱して接着していることから、樹脂材料Aと強化布帛Aとは本願補正発明にいう「溶融結合」するものと認められる。また、引用発明における当該樹脂材料Aは、芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布からなるものであり、芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布が実質的に100重量%であると解され、本願補正発明にいう「前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え」るものであり、また、強化布帛Aと溶融結合すると認められることから、本願補正発明にいう「溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有」するといえる。そのような溶融結合は、本願補正発明と同様に「高度」であると認められる。さらに、引用発明におけるポリアミド繊維は芯鞘型、具体的には摘示(1d)の記載より「芯部:ポリアミド6、鞘部:融点110℃の共重合ポリアミド」であるから、本願補正発明にいう「前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している」ものである。
したがって、引用発明における「一方向性織物である強化布帛Aと、熱可塑性であり、芯鞘型ポリアミド繊維によって形成された不織布である樹脂材料Aとを、加熱して接着し、複合布帛Aを得て、」という工程は、本願補正発明における「乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥した生地の両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料の少なくとも1つを溶融結合するステップであって、前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え、溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有し、前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している、ステップ」に対応する。
引用発明においては、複合布帛Aを[-45°/0°/+45°/90°]_(3S)の構成で積層しており、本願補正発明にいう「縦方向から-90度と+90度の間の角度に」「少なくとも4つの薄層を置」いていることになり、プリフォームは縦の方向(0°)を有するとともに、多軸であるといえる。
したがって、引用発明における「複合布帛Aを[-45°/0°/+45°/90°]_(3S)の構成で積層して積層体を得て、」という工程は、本願補正発明における「多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだテープの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだテープから多軸のプレフォームを形成するステップ」に対応する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、

「縦の方向を有し、補強層間に配置された不織の中間層を有する一方向に並んだファイバの補強層を具備する多軸プレフォームの製造方法において、
乾燥した一方向に並んだ複合布帛を生成するために、一方向に並んだ乾燥した生地の両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料の少なくとも1つを溶融結合するステップであって、前記熱可塑性ファイバは、前記中間層において60重量%を超え、溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有し、前記熱可塑性ファイバは、2以上の材料から作られ、第1の材料はコアを形成し、第2の材料はシースを形成している、ステップと、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだ複合布帛の少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだ複合布帛から多軸のプレフォームを形成するステップを含む方法。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願補正発明においては、溶融結合して生成した一方向に並んだ「テープ」を用い、「縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップを含んでおり、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される」形態で「連続的」に多軸プレフォームを製造するのに対して、引用発明においては、溶融結合して生成した一方向に並んだ複合布帛を用い、前記形態を備えず、型により不連続的に多軸プレフォームを製造する点。

上記相違点について検討する。
生産性の向上は、当業者が常に意識している課題であり、多軸プレフォームの製造においても、生産性の向上を目指すことは当業者が当然に行うことである。
引用文献2には、摘示(2a)?(2c)、特に摘示(2a)に、連続的に多軸性繊維シートを製造するために、「支持体は多軸性シートの長手方向に対して平行に前方に移動し、一方向性の横方向シートまたは各一方向性の横方向シートは前方方向に対して同じ選択された角度を形成する連続セグメントで供給されている」ことが記載されている。ここで、支持体が前方に移動し、また、前方方向に対して角度を形成する連続セグメントで供給されていることから、それぞれのシートは引き出されるものであると認められ、また、摘示(2b)、(2c)の記載から、それぞれのシートの形状はテープであるといえ、引用文献2には、テープ形状のシートを連続的に引き出し、多軸化の生産性が向上する製造方法が開示されているといえる。
引用文献2は、多軸性繊維シートの製造に関するものであり、引用発明と多軸の繊維シートを製造する点で共通するものであるから、引用発明の生産性の向上を目指す当業者が、引用文献2に開示された製造方法を採用し、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、そのことにより格別な効果があるともいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明、すなわち引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(エ)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、また、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成25年7月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
縦の方向を有し、補強層間に配置された不織の中間層を有する一方向に並んだファイバの補強層を具備する連続的な多軸プレフォームの製造方法において、
乾燥した一方向に並んだテープを生成するために、一方向に並んだ乾燥したファイバの片側又は両側に高度に溶融結合する熱可塑性ファイバを有する中間層材料を溶融結合するステップであって、前記中間層で30重量%を超える熱可塑性ファイバは溶融結合が実行される温度よりも低い温度の溶融温度を有する、ステップと、
多軸のファイバの縦方向から-90度と+90度の間の角度に一方向に並んだテープの少なくとも4つの薄層を置くことにより一方向に並んだテープから多軸のプレフォームを形成するステップを含み、
製造方法は、縦方向に平行な前進方向に移動する支持体によって薄層を引き出すステップを含んでおり、各薄層は前進方向に関して同じ選択された角度を形成する連続的なセグメントで引き出される方法。」

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由である、平成26年2月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由は、以下のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-11について;引用文献1,2
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-80607号公報
2.特表2001-516406号公報」

3.当審の判断
(1)引用文献の記載事項等
引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2 2.(2)イ(イ)aのとおりである。また、引用文献2の記載事項は、上記第2 2.(2)イ(イ)bのとおりである。

(2)本願発明と引用発明との対比・判断
上記第2 2.(2)アで検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、上記第2 2.(2)イで検討したとおり、本願発明を減縮したものである本願補正発明が、引用発明、すなわち引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、減縮前の本願発明も、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち平成25年7月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-24 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2008-230177(P2008-230177)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 572- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
西山 義之
発明の名称 液体モールドされたファイバベースの複合物の補強のための高多孔性中間層  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  

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