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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1322694
審判番号 不服2015-6670  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-08 
確定日 2016-12-07 
事件の表示 特願2012- 81708「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-156538〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年4月11日(パリ条約による優先権主張 2001年5月11日(US)アメリカ合衆国、2002年3月19日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とした特願2002-590421号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年3月30日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 4月 9日 訳文提出
平成24年 5月 1日 手続補正書・審査請求書
平成24年 5月25日 上申書・手続補正書
平成24年12月27日 手続補正書
平成25年10月11日 拒絶理由通知
平成26年 4月22日 意見書・手続補正書
平成26年11月28日 拒絶査定
平成27年 4月 8日 審判請求書・手続補正書
平成27年10月13日 上申書

第2 補正の却下の決定
[補正却下の結論]
平成27年 4月 8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項23については、本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項23】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
III族窒化物の半導体材料で作られている最下層と、
前記最下層上にある、III族窒化物の半導体材料で作られている中間層と、
前記最下層の反対側で、前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層と、
前記中間層及び前記最下層の間の界面にある2DEGとを備え、
前記中間層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記最上層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記中間層のアルミニウム元素の濃度は、前記最上層のアルミニウム元素の濃度よりも高く、
前記最上層は、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.25≦x≦0.5)で作られているHEMT。」

・補正後
「【請求項23】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
基板と、
前記基板上の、III族窒化物の半導体材料で作られている最下層と、
前記最下層上にある、III族窒化物の半導体材料で作られている中間層と、
前記最下層の反対側で、前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層と、
前記中間層及び前記最下層の間の界面にある2DEGと
を備え、
前記最下層は、前記基板と前記中間層との間にあり、
前記中間層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記最上層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記中間層のアルミニウム元素の濃度は、前記最上層のアルミニウム元素の濃度よりも高く、
前記最上層は、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.25≦x≦0.5)で作られているHEMT。」

2 補正事項の整理
本件補正による、本件補正前の特許請求の範囲の請求項23についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し、当審で付加したものである)

・補正事項1
補正前の「III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」を、「基板と、前記基板上の、III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」と補正するとともに、補正後に「前記最下層は、前記基板と前記中間層との間にあり」を追加する補正を行うこと。

3 補正の適否について
(1)補正事項1について
本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0019】及び図2の記載からみて、補正事項1は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして、本件補正は、補正前の「III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」を「基板と、前記基板上の、III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」にあると限定的に減縮するとともに、「最下層」が「基板と前記中間層との間」にあると限定的に減縮しているものであるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4 独立特許要件の検討
(1) 検討の前提
上記3で検討したとおり、本件補正における、本件補正前の請求項23についての補正事項1は、特許法第17の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むから、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(2) 本願補正発明
本件補正後の請求項23に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。(再掲)
「【請求項23】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
基板と、
前記基板上の、III族窒化物の半導体材料で作られている最下層と、
前記最下層上にある、III族窒化物の半導体材料で作られている中間層と、
前記最下層の反対側で、前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層と、
前記中間層及び前記最下層の間の界面にある2DEGと
を備え、
前記最下層は、前記基板と前記中間層との間にあり、
前記中間層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記最上層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記中間層のアルミニウム元素の濃度は、前記最上層のアルミニウム元素の濃度よりも
高く、
前記最上層は、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.25≦x≦0.5)で作られているHEMT。」

(3) 引用文献の記載と引用発明
ア 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-261051号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
(ア) 「【0002】
【従来の技術】Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTは、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造における大きな伝導帯不連続(Alの組成X=1.0で、約2.1eV)によって、高い2次元電子濃度が得られ、かつ、チャネル層となるGaNの衝突電離エネルギー(約5.3 eV)が高いため、GaAs系HEMTを凌駕する高出力・高耐圧動作が可能となる。Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTの高性能・高速化および、さらなる高出力化のためには、一般にAl組成Xを、より大きくすることによって伝導帯不連続をより大きくし、チャネルに、より高い2次元電子濃度を誘起可能とすることが有利であるが、実験的には、Al組成Xを0.15より大きくすると、2次元電子の移動度が急激に低下する結果、電気伝導特性を決定している電子濃度と電子移動度との積は低下し、デバイスの高性能化を行うことはできない。このように、チャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図して行うAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの増大に際して、発現する電子移動度の著しい低下は、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのデバイス性能を限定し、かかるデバイスの高性能化を阻止する要因となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTにおいて、チャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図して行うAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの増大に際して、発現する電子移動度の著しい低下を阻止あるいは大幅に低減し、電子濃度と電子移動度との積を増大させることによってデバイスの高性能化・高出力化を行うことが可能な高電子移動度トランジスタを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記本発明の課題を達成するために、本発明は特許請求の範囲に記載のような構成とするものである。すなわち、請求項1に記載のように、基板上に作製したAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN(ただし、0<X≦1)よりなる組成のヘテロ構造を有する高電子移動度トランジスタにおいて、基板表面側に形成されたAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層の膜厚を格子緩和が生じない範囲となし、かつ、上記障壁層の基板に垂直な方向のAl組成を、該障壁層の一部もしくは全部において、連続状もしくは階段状にAl組成を変調させた領域を有する半導体装置とするものである。・・・・上記した請求項1ないし請求項7に記載のように、障壁層の膜厚を格子緩和が生じない範囲とし、かつ、障壁層の基板に垂直な方向のAl組成を、該障壁層の一部もしくは全部において、連続状もしくは階段状にAl組成を変調させた領域を設けることによって、チャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図して行うAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの増大に際して、発現する電子移動度の著しい低下を阻止あるいは大幅に低減することができ、電子濃度と電子移動度との積を増大させることによって、デバイスの高性能化・高出力化をはかることができる効果がある。
【0005】本発明のAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)において、高出力・高耐圧動作が可能となる理由として、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造における大きな伝導帯不連続、およびチャネル層となるGaNの高い衝突電離エネルギーが挙げられるが、その他に、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造におけるピエゾ電界効果が非常に重要な要素となる。本発明は、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造におけるピエゾ電界効果を、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成プロファイルの変調により制御することによって、上記本発明の課題を解決するものである。図1および図2に、本発明によるAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのポテンシャル構造を模式的に示す。図1は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xが、基板表面側で、より大きくなるように滑らかに(連続的に)変調されている場合のHEMTのポテンシャル構造図である。図2は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xが、基板表面側で、より小さくなるように滑らかに変調されている場合のHEMTのポテンシャル構造図である。これら、図1および図2のポテンシャル構造の基本的な特徴は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層とGaNチャネル層との間に、両結晶の格子定数の相異に起因して生じる歪(格子歪)が、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成の変調によって、格子緩和されることなくヘテロ界面に蓄積され、その結果、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層内に大きなピエゾ電界の作り付けが実現されるようになっていることである。すなわち、Al組成を傾斜させることにより実効的な臨界膜厚を増大させることができる。次に、図1および図2に示す本発明によるAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのポテンシャル構造の作用について、図3?図11を用いて説明する。図3は、仮想的にピエゾ電界効果が全く存在しない場合のAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのポテンシャル形状を模式的に示したものである。図4は、図3のポテンシャル形状のHEMTにおいて、小さいゲート電圧により低濃度の電子がチャネルに誘起される場合の電子分布を模式的に示したもので、ほとんどすべての電子がチャネル内に存在している様子を示している。図5は、図3のポテンシャル形状のHEMTにおいて、大きいゲート電圧により高濃度の電子がチャネルに誘起される場合の電子分布を模式的に示したもので、電子のAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層への電子の滲み出しが増大して、障壁層内に電子分布のピークが存在している様子を示している。Al_(x)Ga_(l-x)N結晶中の電子移動度は、Al組成Xの増大に伴って急激に減少するため、図5における電子の平均的な移動度は、図4における電子移動度に比べて大幅に小さくなる。図6は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層において、格子歪によるピエゾ電界が発生している場合のAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのポテンシャル形状を模式的に示したものである。Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ界面には、格子緩和が全く生じていない場合には、Al組成X=1.0において3×10^(13)/cm^(2)という極めて大きな正のピエゾ電荷が生じるため、図6におけるAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のポテンシャル形状は基板表面側に対して大きな昇り勾配を作り付ける形状となっている。図7は、図6のポテンシャル形状のHEMTにおいて、小さいゲート電圧により低濃度の電子がチャネルに誘起される場合の電子分布を模式的に示したもので、ほとんどすべての電子がチャネル内に存在している様子を示している。図8は、図6のポテンシャル形状のHEMTにおいて、大きいゲート電圧により高濃度の電子がチャネルに誘起される場合の電子分布を模式的に示したもので、ピエゾ電界によりAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層に作り付けられる上記勾配の存在によって、電子のAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層への滲み出しが阻止されている様子を示している。作製したAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTの実際のポテンシャル形状が、図3に近いか、図6に近いかは、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ界面における格子歪量に近似的に比例するピエゾ電界の有無あるいは強弱に依存し、格子緩和により歪が小さい場合には図3に近く、逆に歪が大きい場合には図6に近くなる。一般に、Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造においてAl組成Xが大きくなると、格子緩和を起こさずに形成可能なAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層の膜厚(臨界膜厚)は小さくなる(X=1.0で約30Å)ので、単純にAl組成Xを増大すると格子緩和によって、図3に近いポテンシャル形状が実現されるようになる。図9は、チャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図してAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xを均一に増大した時に生じるポテンシャル形状の変化を模式的に示したものである。図9に示されるポテンシャル形状の変化の結果、高電子濃度において図6に示される電子分布が実現されるようになるため、一般にAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層におけるAl組成Xの単純な増大は移動度の急激な低下を招いてしまう結果となる。図10および図11に、本発明によるAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTのポテンシャル構造の作用を模式的に示す。図10は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xが基板表面側で、より大きくなるように滑らかに変調されている場合のHEMTのポテンシャル構造を示すもので、比較的小さい均一Al組成X0を持つ格子緩和のない障壁構造を改良して障壁層の障壁効果を高めた構造である。図11は、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xが、基板表面側で、より小さくなるように滑らかに変調されている場合のHEMTのポテンシャル構造で、比較的大きい均一Al組成X_(0)を持つ格子緩和を起こした障壁構造を改良して障壁層の障壁効果を高めた構造である。これら図10および図11のポテンシャル構造においては、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層とGaNチャネル層との間の格子歪がAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの変調によって緩和されることなくヘテロ界面に蓄積され、その結果、大きなピエゾ電界効果によって大きな障壁効果が実現されている。結果として、図10および図11において実線で示される本発明によるポテンシャル構造は、同図において点線で示される改良前の通常構造に比べて、より高濃度の電子を、電子移動度の急激な低下を伴うことなく収容することが可能である。
(イ) 「【0012】〈実施の形態6〉図2に示すAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTポテンシャル構造において、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層の厚さ:d=60Å、界面端のAl組成:X_(1)=0.8、基板表面端のAl組成:X_(2)=0.3とし、Al組成を線形に変化させた構造のHEMTを作製した。図16は、本実施の形態におけるAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成プロファイルを示す。この構造では格子緩和は起こらず本発明の効果が得られた。
【0013】〈実施の形態7〉図2に示すAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTポテンシャル構造において、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成プロファイルが、図17に示されるように変調され、図17に示される条件を満たす構造のHEMTを作製した。本条件を満たす構造においては格子緩和は起こらず、本発明の効果が得られた。また、このような構造とすることにより、電子をチャネル内に、より強く閉じ込めることができる効果がある。
【0014】〈実施の形態8〉実施の形態7における図17に示されている条件を満たす構造で、Al組成Xの変調が線形ではなく階段状に変化している構造のHEMTを作製した。この構造では格子緩和は起こらず、本願発明の効果が得られた。」
(ウ) 「【0018】
【発明の効果】本発明のAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN(ただし、0<X≦1)よりなる組成のヘテロ構造を有する高電子移動度トランジスタは、通常Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTにおいてチャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図して行うAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの増大に際して、発現する電子移動度の著しい低下を阻止あるいは大幅に低減することができ、電子濃度と電子移動度との積を増大させることによってデバイスの高性能化・高出力化をはかることができる効果がある。」
(エ) 上記(ア)の段落【0005】の「これら図10および図11のポテンシャル構造においては、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層とGaNチャネル層との間の格子歪がAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの変調によって緩和されることなくヘテロ界面に蓄積され、その結果、大きなピエゾ電界効果によって大きな障壁効果が実現されている。」との記載、及び、図17より、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層とGaNチャネル層とは界面で接していることは明らかである。
(オ) 上記(イ)の段落【0013】には、「図2に示すAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTポテンシャル構造において、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成プロファイルが、図17に示されるように変調され、図17に示される条件を満たす構造のHEMTを作製した。本条件を満たす構造においては格子緩和は起こらず、本発明の効果が得られた。」との記載があり、図17には、上記「図17に示される条件」が、


及び
0.05≦X_(2)<X_(1)≦1.0
である旨の記載がある。
(カ) 図17において、Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層は、「Al_(x)Ga_(1-x)N/GaN界面」(D=d1)から所定の膜厚(具体的にはd1-d3Å)まではXの値が「X_(1)」と大きいAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層が作られていて、(D=d3)においてXの値が「X_(3)」に減少し、さらに、GaNとは反対側の「Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層」の表面に向かうにしたがってXの値が線形に減少していき、Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面においてXの値が「X_(2)」まで小さくなるように形成されていることが図示されている。
(キ) 上記(イ)の段落【0014】には、「実施の形態7における図17に示されている条件を満たす構造で、Al組成Xの変調が線形ではなく階段状に変化している構造のHEMTを作製した。この構造では格子緩和は起こらず、本願発明の効果が得られた。」との記載がある。
よって、当該記載、上記(カ)及び(キ)から、図17に示されている条件を満たす構造において、Al_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xが「線形」ではなく「階段状」に変化すると、GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層とを含み、以下のような構成となることは自明である。
「前記Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層は、


及び
0.05≦X_(2)<X_(1)≦1.0
の条件を有することにより、格子緩和をおこさないように作られており、
GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層と、
GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層とを含んでいること」

イ 引用発明
以上より、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基板上に作製し、基板表面側にAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層を形成するAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)であって、
GaNチャネル層と、
GaNチャネル層と接してAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層が作られており、
前記Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層は、


及び
0.05≦X_(2)<X_(1)≦1.0
の条件を有することにより、格子緩和をおこさないように作られており、
GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層と、
GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層とを含んでおり、
Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造における大きな伝導帯不連続によって得られる2次元電子とを備えるAl_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)」。

(4) 周知例の記載と周知技術
ア 周知例1
原査定の拒絶の理由に引用された原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-85670号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
「【0024】図1に示す構造の場合、ドレイン電極金属5からGaNまたはInGaN層3まではn型AlGaN電荷供給層4を通るが、n型AlGaN電荷供給層4のAl組成を低く、かつドナーの濃度を10^(18)cm^(-3)以上にしておけば、電極抵抗は低く押さえられる。
【0025】図2(a)及び(b)は本発明の一実施例による電界効果型トランジスタの製造工程を示す断面図である。これら図1と図2(a)と図2(b)とを参照して本発明の一実施例による電界効果型トランジスタの製造工程について説明する。
【0026】まず、サファイアまたはSiC基板1の上にAlGaNバッファ層2を介してノンドープGaNまたはGaInN層3と、100?400Å程度のn型AlGaN電荷供給層4とをエピタキシャル成長法で形成する。」

イ 周知例2
原査定の拒絶の理由に引用された原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-68498号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
「【0005】
【発明の実施の形態】〈実施の形態1〉薄膜成長用のSiC基板には(0001)Si面正方位より、{1100}方向に0.2°(度)に傾斜した基板を用いた。結晶成長には縦型のMOVPE炉を用い、成長圧力は150Torr(トル)、原料にはトリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TEG)、トリエチルアルミニウム(TEA)、シラン(SiH_(4))、アンモニア(NH_(3))を使用し、V族/III族比は、約3000?30000で成長を行った。図1に、作製した高移動度トランジスタ(HEMT)の構造を示す。厚さ1.5μmの絶縁性GaNバッファ層3aのGaN成長にはTMGを用い、成長温度は980℃とした。上記TMGで成長を行うことによりGaNに炭素がドープされる。なお、GaNとSiC基板の間にはAlN核形成層2を300nmを設けている。 GaNチャネル層4は300Åの厚みとし、GaN成長にはTEGを用い、成長温度は1020℃で行う。 また、n-AlGaNキャリア供給層5の厚みは300Åとする。・・・・」

ウ 周知技術
上記ア及びイより、基板上に、GaNバッファ層を設け、その上にAlGaN障壁層を設けるトランジスタは、原出願の優先日前、周知技術と認められる。

(5) 本願補正発明と引用発明の対比
ア 引用発明の「Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)」は、本願補正発明の「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」に相当する。

イ 引用発明において、「GaNチャネル層」、「Al_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、及び、「Al_(X2)Ga_(1-X2)N層」はIII族窒化物の半導体材料で作られていることは自明である。
すると、本願補正発明の「III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」、「前記最下層上にある、III族窒化物の半導体材料で作られている中間層」、及び、「前記最下層の反対側で、前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層」と、引用発明の「GaNチャネル層」、「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、及び、「GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」とは、「III族窒化物の半導体材料で作られている第1の層」、「前記第1の層と接して、III族窒化物の半導体材料で作られている第2の層」、及び、「前記第2の層の、前記第1の層の反対側に、III族窒化物の半導体材料で作られている第3の層」である点でそれぞれ共通しているといえる。

ウ 引用発明の「2次元電子」は、本願補正発明の「2DEG」に相当する。
また、引用発明の「Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造における大きな伝導帯不連続によって得られる2次元電子とを備える」との構成、及び「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」との構成から、「Al_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」と「GaNチャネル層」の間の界面に「2次元電子」を備えていることは明らかである。
よって、上記イより、本願補正発明の「前記中間層及び前記最下層の間の界面にある2DEG」と引用発明の「Al_(x)Ga_(l-x)N/GaNヘテロ構造における大きな伝導帯不連続によって得られる2次元電子」とは、「第1の層と第2の層の間の界面に2DEG」である点で共通しているといえる。

エ 本願補正発明が「前記中間層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、前記最上層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、前記中間層のアルミニウム元素の濃度は、前記最上層のアルミニウム元素の濃度よりも高く」との構成を備えるのに対し、引用発明の「Xの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、及び、「Xの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」はアルミニウムを含有していることは明らかであり、「Al_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」のアルミニウム元素の濃度は、「Al_(X2)Ga_(1-X2)N障壁層」のアルミニウム元素の濃度よりも高いことも特定されている。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「第2の層は、一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、第3の層は、一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、前記第2のアルミニウム元素の濃度は、前記第3の層のアルミニウム元素の濃度よりも高く」との構成を備える点で共通しているといえる。

オ 上記イより、本願補正発明の「前記最上層は、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.25≦x≦0.5)で作られている」構成と、引用発明の「Xの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」との構成とは、下記相違点3のxの具体的な値を除き、「前記第3の層は、Al_(x)Ga_(1-x)Nで作られている」という点で共通しているといえる。

カ 以上をまとめると、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
(ア)一致点
「高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
III族窒化物の半導体材料で作られている第1の層と
前記第1の層と接して、III族窒化物の半導体材料で作られている第2の層と、
前記第2の層の、前記第1の層の反対側に、III族窒化物の半導体材料で作られている第3の層と、
第1の層と第2の層の間の界面に2DEGとを備え、
第2の層は、一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
第3の層は、一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記第2のアルミニウム元素の濃度は、前記第3の層のアルミニウム元素の濃度よりも高く、前記第3の層は、Al_(x)Ga_(1-x)Nで作られているHEMT。」

(イ)相違点
・相違点1
本願補正発明では、基板上に、「III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」、「III族窒化物の半導体材料で作られている中間層」、「前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層」の順に形成されているのに対し、引用発明は、「基板」上に、「所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」、「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、「GaNチャネル層」の順に形成されている点。

・相違点2
本願補正発明では、「最下層は、前記基板と前記中間層との間」にあることを特定しているのに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない点。

・相違点3
一致点における「第3の層」について、本願補正発明は「最上層」の「Al_(x)Ga_(1-x)N」において「x」を「0.25≦x≦0.5」と特定しているのに対し、引用発明の「Al_(X2)Ga_(1-X2)N層」において具体的なX_(2)の範囲を特定していない点。

(6) 相違点の検討
ア 相違点1及び2について
相違点1及び2についてまとめて判断する。
上記4(4)ウより、基板上に、GaNバッファ層を設け、その上にAlGaN障壁層を設けるトランジスタは周知技術と認められる。そうすると、GaNチャネル層とGaNチャネル層と接するAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層を有するトランジスタである引用発明において、基板上にGaNチャネル層を形成し、その上にAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層を形成することは当業者が普通に行い得ることである。
その際に、基板上に「GaNチャネル層」、「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、「所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2N)層」の順に形成されることは自明である。また、「GaNチャネル層」が、基板と「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」との間に設けられることは自明である。
よって、相違点1については、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に成し得るものである。

イ 相違点3について
(ア) 上記(3)イのとおり、引用発明は、「Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層が、


及び
0.05≦X_(2)<X_(1)≦1.0
の条件を有することにより、格子緩和をおこさないように作られて」いるとの構成を備え、上記(3)ア(ウ)より、引用発明は、上記の構成により、「Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN(ただし、0<X≦1)よりなる組成のヘテロ構造を有する高電子移動度トランジスタは、通常Al_(x)Ga_(l-x)N/GaN HEMTにおいてチャネルに誘起可能な2次元電子濃度を増大させることを意図して行うAl_(x)Ga_(l-x)N障壁層のAl組成Xの増大に際して、発現する電子移動度の著しい低下を阻止あるいは大幅に低減することができ、電子濃度と電子移動度との積を増大させることによってデバイスの高性能化・高出力化をはかることができる」(【0018】)という作用・効果を奏するものと認められる。そして、引用発明において、Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層が上記の構成を備える範囲内で、「GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」の「X_(2)」をどのような範囲に設定するかは当業者が適宜設定しうるものと認められ、また、引用文献には、Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層の界面端のAl組成X_(1)及び基板表面端のAl組成X_(2)をそれぞれX_(1)=0.8及びX_(2)=0.3とすることが記載されている(【0012】、上記3(イ))
そうすると、引用発明において、Al_(X2)Ga_(1-X2)N層」の「X_(2)」を0.3程度の値とすることは、引用文献に接した当業者が普通に行い得ると認められる。
(イ)ところで、本願明細書には、本願補正発明の最上層のアルミニウム配合量について以下の記載がある。
「【0025】 本発明によるHEMT20は、20ÅのAl_(y)Ga_(1-y)N層(y=1)と、その上にある200ÅのAl_(x)Ga_(1-x)N(x=0.25)層を有する場合、7.45×10^(12)/cm^(2)の2DEG密度、及び2195cm^(2)/Vsの移動度を得ることができる。HEMT20が、20ÅのAl_(y)Ga_(1-y)N層(y=1)と、その上にある230ÅのAl_(x)Ga_(1-x)N(x=0.33)層を有する場合、1.10×10^(13)/cm^(2)の2DEG密度、及び2082cm^(2)/Vsの移動度を得ることができる。2DEG面密度は、Al_(x)Ga_(1-x)Nバリア層のアルミニウム配合量が増加するに連れて高くなる。」
しかし、本願明細書の上記の記載からは「Al_(y)Ga_(1-y)N層(y=1)」上に「Al_(x)Ga_(1-x)N(x=0.25)層」を有する場合と「Al_(x)Ga_(1-x)N(x=0.33)層」を有する場合それぞれの作用効果が認められるにとどまり、「Al_(x)Ga_(1-x)N(x=0.5)層」を有する場合の作用効果は不明である。また、本願明細書の上記の記載からは、「Al_(x)Ga_(1-x)N層」のXが0.25を僅かに下回る場合や0.5を僅かに上回る場合の作用効果も不明である。
そうすると、本願補正発明の最上層の「Al_(X)Ga_(1-X)N層」における「0.25≦X≦0.5」との数値限定に臨界的意義があるとは認められない。
(ウ) 上記(ア)のとおり、引用発明において、Al_(X2)Ga_(1-X2)N層」の「X_(2)」を0.3程度の値とすることは、当業者が普通に行い得るものと認められ、また、上記(イ)のとおり、本願補正発明の最上層の「Al_(X)Ga_(1-X)N層」における「0.25≦X≦0.5」との数値限定に臨界的意義があるとは認められない。
そうすると、引用発明において、相違点2に係る構成とすることは、引用文献の記載に接した当業者が適宜設定しうるものと認められる。

(7) 本願補正発明の作用効果について
本願明細書には、本願に係る発明が奏する作用効果について以下の記載がある。
「【0011】
本発明は、好ましくはAlGaN/GaNで形成し、2DEGを改善したIII族窒化物系HEMTの改良型を提供する。本発明にしたがって構成されたHEMTは、GaNバッファ層を備えており、GaNバッファ層上にAl_(y)Ga_(1-y)N層がある。GaNバッファ層の反対側において、Al_(x)Ga_(1-x)Nバリア層がAl_(y)Ga_(1-y)N層内に含まれており、Al_(y)Ga_(1-y)N層のAl含有量は、Al_(x)Ga_(1-x)Nバリア層よりも多い。GaNバッファ層とAl_(y)Ga_(1-y)N層との間の界面に2DEGが形成されている。好適なAl_(y)Ga_(1-y)N層では、y=1又はy≒1であり、好適なAl_(x)Ga_(1-x)Nバリア層では、0≦x≦0.5である。
・・・・
【0013】
GaN層上のHEMTのAl_(y)Ga_(1-y)N層は、2つの層の間の界面において、高い圧電電荷を生成し、圧電散乱を低減する。Al_(y)Ga_(1-y)N層は、AlN及びGaN間の高い格子不整合性のために、比較的薄くしなければならない。この薄いAl_(y)Ga_(1-y)N層上のAl_(x)Ga_(1-x)N層が、HEMTのゲート漏れを少なく抑える。」
他方、上記(6)のとおり、引用文献には、Al_(X)Ga_(1-X)N障壁層の界面端のAl組成X_(1)及び基板表面端のAl組成X_(2)をそれぞれX_(1)=0.8及びX_(2)=0.3とすることが記載されているから、引用発明におけるAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層の「X_(1)」を0.8程度、Al_(X2)Ga_(1-X2)N障壁層の「X_(2)」を0.3程度とすることは当業者が普通に行い得るものである。
そして、その際に、Al_(X2)Ga_(1-X2)N障壁層のAl組成「X_(2)」を小さくすることで実効的臨界膜厚を増大させることができることは、引用文献の記載(【0005】、上記(3)ア(ア))から明らかであり、その結果、HEMTのゲート漏れが抑制されることは当業者には自明といえる。
そうすると、本願補正発明の作用効果は、引用発明より、当業者が容易に予測し得るものであり、格別のものとはいえない。

(8) まとめ
本件補正後の請求項23に係る発明(本願補正発明)は引用文献に記載の発明(引用発明)、周知例1及び2にみられるような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

5 むすび
したがって、この補正は同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして、この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

第3 本願発明の容易想到性について
1 本願発明について
平成27年4月8日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下された。そして、平成26年4月22日付けの手続補正書の特許請求の請求の範囲の請求項23に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりであると認める。
「【請求項23】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
III族窒化物の半導体材料で作られている最下層と、
前記最下層上にある、III族窒化物の半導体材料で作られている中間層と、
前記最下層の反対側で、前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層と、
前記中間層及び前記最下層の間の界面にある2DEGとを備え、
前記中間層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記最上層は一つ以上のIII族元素を含み、その一つはアルミニウムであり、
前記中間層のアルミニウム元素の濃度は、前記最上層のアルミニウム元素の濃度よりも
高く、
前記最上層は、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.25≦x≦0.5)で作られているHEMT。」

2 引用文献の記載と引用発明及び周知例の記載と周知技術
引用文献の記載は、第2の4(3)アのとおりであり、引用発明は第2の4(3)イのとおりである。また、周知例の記載及び周知技術は、第2の4(4)のとおりである。

3 本願発明と引用発明の対比
前記第2の1及び2から明らかなように、本願発明は、本願補正発明から、平成27年4月8日に提出された手続補正書による補正事項1に係る技術的限定を取り除いたものである。
そして、上記補正事項1に係る技術的限定は、本願補正発明と引用発明の相違点1の一部及び相違点2に係る構成を含むものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致すると認められる。
・相違点1
本願補正発明では、「III族窒化物の半導体材料で作られている最下層」、「III族窒化物の半導体材料で作られている中間層」、「前記中間層上にあるIII族窒化物の半導体材料で作られている最上層」が順に上に形成されているのに対し、引用発明は、「所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」、「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、「GaNチャネル層」の順に上に形成されている点。

・相違点2
一致点における「第3の層」において、本願発明は「最上層」の「AlxGa1-xN」における「x」を「0.25≦x≦0.5」と特定しているのに対し、引用発明においては、「GaNチャネル層とは反対側のAl_(X)Ga_(1-X)N障壁層の表面側に少なくとも、所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」の具体的なX_(2)の範囲を特定していない点。

4 相違点についての検討
ア 相違点1について
引用発明において、「GaNチャネル層」、「GaNチャネル層の界面に所定の膜厚でXの値が「X_(1)」と大きく作られているAl_(X1)Ga_(1-X1)N障壁層」、「所定の膜厚でXの値が「X_(2)」(X_(1)より小さい)と小さく作られているAl_(X2)Ga_(1-X2)N層」の順に形成する際に、この順で上に形成することは、周知例1及び2にみられるような周知技術に接した当業者が適宜なし得たものと認める。

イ 相違点2について
相違点2については、第2の4(6)ウの相違点3と同様に、引用発明より当業者が適宜設定しうるものである。

5 まとめ
以上のとおり、本願の請求項23に係る発明(本願発明)は、引用文献に記載の発明(引用発明)及び周知例1及び2にみられるような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 結言
したがって、本願の請求項23に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項についても検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-30 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-27 
出願番号 特願2012-81708(P2012-81708)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
柴山 将隆
発明の名称 高電子移動度トランジスタ(HEMT)  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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