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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B62B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62B
管理番号 1322740
審判番号 不服2015-20343  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-13 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2011-225981号「電動アシスト台車」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月13日出願公開、特開2013- 86547号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月13日の出願であって、平成27年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後当審において平成28年9月1日付けで補正の却下の決定がされるとともに拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成28年10月31日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりものと認められる。
「【請求項1】
作業者によって付与される駆動力にアシスト力を付与して走行可能な電動アシスト台車であって、
荷物を載置可能な荷台が昇降可能に設けられる車体フレームと、
前記車体フレームに設けられる駆動輪と、
前記駆動輪にアシスト力を付与する電動モータと、
作業者によって押圧操作され、前記車体フレームに駆動力を入力可能な操作部と、
前記操作部が押圧操作されることによって前記車体フレームに作用する駆動トルクを検出するトルク検出部と、
前記駆動輪を制動するブレーキと、
前記荷台を昇降させる荷台昇降部と、
前記ブレーキによって前記駆動輪を制動/制動解除させるための作業者からの操作及び前記荷台を昇降させるための作業者からの操作を検出する操作検出部と、
前記電動モータ、前記ブレーキ及び前記荷台昇降部の動作を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記トルク検出部によって検出された前記駆動トルクに応じたアシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与するように前記電動モータを動作させ、
前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出した場合は、前記駆動輪を制動すると共に、前記トルク検出部の検出結果にかかわらず前記電動モータの動作を禁止し、
前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出しているときに前記操作検出部が前記荷台の昇降の操作を検出した場合は、前記荷台の昇降動作を可能にすることを特徴とする電動アシスト台車。

【請求項2】
前記コントローラは、
前記操作検出部が前記ブレーキによる制動解除の操作を検出した場合は、前記駆動輪の制動を解除すると共に、前記操作検出部の検出結果にかかわらず前記荷台昇降部の昇降動作を禁止することを特徴とする請求項1に記載の電動アシスト台車。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明1、2は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開2006-1426号公報
引用文献2.特開2006-168489号公報
引用文献3.特開平7-117674号公報
引用文献4.特開平9-240477号公報

本願発明1は、引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本願発明2は、引用文献3または4に記載される周知技術をさらに適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2006-1426号公報には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)
(ア)「【請求項1】
電動モータにて駆動される駆動輪の回転速度を検知する第1のセンサと、ハンドルに取り付けられ該ハンドルの操作力を検知する第2のセンサとを備え、前記第1及び第2のセンサの検出値に基づいて、前記駆動輪によって付与される走行補助力を制御するパワーアシスト付き搬送装置の制御方法であって、
前記センサが故障した場合、所定の装置停止条件が具備されるまで前記走行補助力の付与を継続することを特徴とするパワーアシスト付き搬送装置の制御方法。」

(イ)「【0001】
本発明は、病弱者や荷物等の移動に使用される搬送装置に関し、・・・
【0002】
病院や介護施設、工場、倉庫等においては、電動のベッドやストレッチャー、給食運搬用台車、荷役用電動台車など、モータによりパワーアシストされる搬送装置が多数使用されている。このような搬送装置は、四隅にキャスターが配置された本体フレームに、電動モータによって駆動される駆動輪が取り付けられており、この駆動輪によって移動時のアシスト力が供給される。本体フレームにはさらに、電動モータや電源用のバッテリ、モータ制御用のコントローラなどが取り付けられる。本体フレーム上には、ベッドであればマットが載置され、台車であれば荷台が設けられる。 」

(ウ)「【0021】
図1は本発明の実施例1である制御方法が適用される病院用電動ベッド(搬送装置)の一例を示す正面図、図2は図1の電動ベッドの概要を示す平面図である。本実施例の病院用電動ベッドは、駆動部1とベッド部2とから構成される。駆動部1にはモータや各種アクチュエータが収容され、ベッド部2にはマット3が載置される。ベッド部2は、駆動部1に取り付けられたアーム4によって支持されている。アーム4は駆動部1によって駆動され、アーム4の上下動によりベッド部2の高さや姿勢を変えられるようになっている。
【0022】
ベッド部2の両側部には安全柵5が取り付けられている。ベッド部2の前端側(使用者の頭部側)には、ベッド移動用のハンドル6が取り付けられている。なお、ここでは前後とはベッドの長手方向を意味し、側部とは長手方向に直交する幅方向(左右方向)の両端を意味する。図3に示すように、ハンドル6は左右それぞれ1個ずつ設けられており(6L,6R)、ベッド部2の前端部に設けられたハンドル操作力センサ7(7L,7R;第2のセンサ、以下、センサ7と略記する)と接続されている。ハンドル6の間にはコントロールパネル8が配置されており、電源スイッチ8aや非常停止スイッチ8b、ベッド昇降スイッチ8c、LED表示パネル8dなどが設けられている。
【0023】
センサ7は、ベッドの移動に際しハンドル6に加えられる操作荷重を検出する。ハンドル6はセンサ7内の図示しないトーションバーに接続されており、ハンドル6の操作力に応じてトーションバーにはねじり変位が生じる。センサ7では、このねじり変位の方向と量をポテンショメータを用いて計測し、この計測値に基づきハンドル6に付与された操作力の方向と大きさが算出される。センサ7は、左右のセンサ7L,7Rにて個別にハンドル操作力を検出し、その検出値に基づいてベッドの走行方向の制御も行われる。
【0024】
例えば、ベッドを前進させるべく操作者がハンドル6を押すと、ハンドル6の押圧力によってトーションバーが一方向にねじられ、この際のねじれ方向からベッドの走行方向が検出される。また、強くハンドル6を押せばトーションバーのねじり角も大きくなるなど、ハンドル押圧力によってねじり角が変化するため、これに基づいてベッドを押す力の変化も検出できる。さらに、センサ7L,7Rの出力を比較し、左側のハンドル6Lを押す力が大きいことが検知された場合には、操作者はベッドを右方向に曲げようとしていると判断される。逆に、右側のハンドル6Rを押す力が大きい場合には、操作者はベッドを左方向に曲げようとしていると判断される。」

(エ)「【0025】
図4は、駆動部1の構成を示す斜視図である。駆動部1は、鋼製のフレーム11に、駆動ユニット12や昇降アクチュエータ13等を配備した構成となっている。鋼製のフレーム11は、前後方向に延びるメインフレーム11aと、メインフレーム11a間を接続するように設けられ幅方向に延びる連結バー11bとから構成される。メインフレーム11aの両端部には下面側には、それぞれキャスター14が取り付けられている。フレーム11には、図1に示すように合成樹脂製のカバー15が取り付けられており、図4はこのカバー15を取り外した状態を示している。
【0026】
駆動ユニット12は、モータベース16上に載置されている。駆動ユニット12内には、DCモータ17(17L,17R)及び減速機構18(18L,18R)が2組装備されている。駆動ユニット12の左右には2本の回転軸19が突設されており、モータ17の回転は減速機構18によって減速されて回転軸19に出力される。各回転軸19には駆動輪21(21L,21R)が固定されている。駆動輪21は、回転軸19に固定されたホイール22とゴムタイヤ23とから構成されている。」

(オ)「【0031】
フレーム11にはさらに、電源用のバッテリ36や、モータ制御用のコントローラ(制御手段)37、ベッド姿勢制御用のアクチュエータ38などが設けられている。バッテリ36は、モータ17,34、コントローラ37、アクチュエータ38等に電源供給を行う。コントローラ37はコントロールパネル8と接続されており、操作者の入力指示に従って各モータやアクチュエータ等の駆動制御を行う。」

(カ)「【0054】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施例では、本発明の搬送装置を病院用ベッドに適用した例を示したが、その適用対象はベッドには限定されず、ストレッチャーや給食運搬用台車、車椅子、荷役用電動台車等、パワーアシストを行う搬送装置一般に広く適用可能である。・・・」

イ 引用文献1に記載された発明
上記アの記載事項に加え、「病院用電動ベッド」であるなら、その「フレーム11」上に設けた「ベッド部2」に「病弱者」を載置可能であることは明らかといえる。また、「ハンドル6」は、操作者によって押圧操作され、「フレーム11」に「ベッド部2」を介して操作力を入力可能なものであることも明らかといえる。
以上のことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「操作者によって付与される操作力にアシスト力が付与されて走行可能な病院用電動ベッドであって、
病弱者を載置可能なベッド部2を高さや姿勢を変えられるようにその上部に設けたフレーム11と、
前記フレーム11に設けられる駆動輪21と、
前記駆動輪21にアシスト力を付与するDCモータ17と、
操作者によって押圧操作され、前記フレーム11にベッド部2を介して操作力を入力可能なハンドル6と、
前記ハンドル6が押圧操作されることによって、ハンドルに加えられる操作荷重を検出するハンドル操作力センサ7と、
前記ベッド部2の高さや姿勢を変えるアーム4及びベッド姿勢制御用のアクチュエータ38と、
非常停止スイッチ8b、ベッド昇降スイッチ8cが設けられたコントロールパネル8と、
前記DCモータ17及び前記ベッド姿勢制御用のアクチュエータ38を駆動制御するコントローラ37と、
を備え、
前記コントローラ37は、
前記ハンドル操作力センサ7によって検出された操作荷重と車速センサ39によって検出された駆動輪21の回転速度に基づいて、アシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪21に付与するように前記DCモータ17を動作させる病院用電動ベッド。」

ウ 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示された特開2006-168489号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
車両本体の側面に配されたハンドルと、
前記車両本体を駆動する駆動手段と、
前記ハンドルに対する前記車両本体の前進方向または後進方向の付勢を検出する検出手段と、
前記車両本体の前記ハンドルが配されている側面に配され、且つ、平均的な操作者が通常の操作姿勢にて前記ハンドルを操作しているときに操作し得る位置にその検知面を有する接触型センサーと、
前記付勢検出手段による検出結果に応じて前記駆動手段を駆動するともに、該駆動時に前記接触型センサーによって接触が検出されたとき、当該駆動に制動を掛けるよう制御する制御手段とを有する、
ことを特徴とするパワーアシスト運搬車。」

(イ)「【0002】
物品運搬のための運搬車は、人力で移動させるものが広く用いられているが、積載重量が大きくなるほど負荷が大きく、俊敏な動きが困難であり、坂道や段差などでは危険を伴うといった問題を有している。そこで、病院等の施設における配膳運搬や、構内、生産工場等における製品運搬などにおいて、パレットやトレイ等を多数運搬可能な電動運搬車が利用されている。」

(ウ)「【0006】
そこで、本発明はパワーアシスト運搬車において、緊急時などに咄嗟に非常停止させる場合に対応した、また、操作に不慣れなものにも分かりやすい、非常停止のための手段の具備を課題とする。」

(エ)「【0042】
同図において、力センサ1へ加圧されている場合に操作者が停止スイッチ3に接触した場合には、CPU102、202がモータ制御部103、203に対してモータ電流を出力しないように制御を行い、左モータ10、右モータ20でのトルク発生が停止される。この結果、停止を意図した操作者からは操作ハンドルへの操作力の印加も無いことから、配膳車の重量による動摩擦により動作を停止する。なお、モータ停止させるだけでなく、操作力に依存するトルクに対して所定の大きさを減じさせてもよく、またモータに動作を制動する向きにトルクを生じさせてもよい。配膳車に電磁ブレーキ等の制動機能が具備されている場合には当該制動機能を使用して、積極的に配膳車の停止を促してもよい。」

エ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として示された特開平7-117974号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 四角型の枠状に形成された台車フレーム(2)の両側に、それぞれフレーム(2)に沿って平行に延びる一対の案内部(3)を設け、前記台車フレーム(2)には載置テーブル(25)を昇降可能に支持するとともに、回動アーム(19a)と変位アーム(19b)とを交差させて軸着することにより構成されたクロスアーム(24)を各案内部(3)側に一対配置し、前記回動アーム(19a)の下端を案内部(3)の端部に回動可能に連結するとともに、前記変位アーム(19b)の下端を案内部(3)に沿って往復動可能に係合し、回動アーム(19a)がその下端を中心に回動することによりクロスアーム(24)の上下方向長さが変化して載置テーブル(25)を昇降させるテーブル昇降式運搬台車において、
前記台車フレーム(2)に、上下方向に延びるスクリューシャフト(56)をその軸線を中心に回転させるためのスクリュージャッキ(55)を設け、前記スクリューシャフト(56)を昇降体(62)に螺入することにより、同昇降体(62)をシャフト(56)の回転に基づいて上下動可能とし、前記回動アーム(19a)に一体移動可能に固着した昇降アーム(75)を、昇降体(62)の上面を前記案内部(3)の延びる方向に往復動する連結ブラケット(70)を介して昇降体(62)に連動したことを特徴とするテーブル昇降式運搬台車。」

(イ)「【0039】また、バッテリ電気回路ボックス85の上面には、図2に示すように、電源ランプ85a,電源キースイッチ86,走行昇降切換スイッチ87,昇降前後進切換スイッチ88が設けられている。電源キースイッチ86にはオンとオフの2つの切換位置が設定され、電源キースイッチ86の切り換えに基づいて前記電動モータ35が駆動可能な状態とされる。走行昇降切換スイッチ87には走行と昇降の2つの切換位置が設定され、走行昇降切換スイッチ87の切り換えに基づいて電動モータ35の駆動力が電磁クラッチ37により伝達遮断される。また、昇降前後進切換スイッチ88には上昇又は前進と下降又は後進の2つの切換位置が設定され、昇降前後進切換スイッチ88の切り換えに基づいて電動モータ35の回転方向が逆転するようになっている。」

(ウ)「【0044】次に、運搬台車1における載置テーブル25の昇降は、運搬台車1の停止状態において、台車フレーム2の後端中央下側に設けられたストッパ装置13により運搬台車1を固定して行う。・・・
【0045】まず、操作者が足で、図1に示すストッパ装置13のストッパペダル16を踏み込むと、ストッパ装置本体14からストッパ体15が伸長し、ストッパ体15の先端は床面に当接される。従って、ストッパ体15と床面との間に摩擦力がかかり、この摩擦力により運搬台車1が固定される。また、操作者が足でストッパ解除ペダル17を踏み込むと、ストッパ体15は床面から離間してストッパ装置本体14に収容され、運搬台車1は移動可能とされる。
【0046】運搬台車1の載置テーブル25を上昇させるには、まず、走行昇降切換スイッチ87を昇降位置に切り換えるとともに、昇降前後進切換スイッチ88を上昇位置に切り換える。・・・」

オ 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として示された特開平9-240477号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 回転軸線を一致させて設けた2輪の駆動輪と、
前記各駆動輪ごとに別個に設けた駆動用モータと、
進行方向変更用の1輪または2輪の操舵輪と、
該操舵輪の回転軸線の方向を変化させて進行方向を変更するための操舵手段とを有する電動台車であって、
前記1輪または2輪の操舵輪の回転軸線と前記駆動輪の回転軸線は平行またはほぼ1点で交差するように構成し、
前記回転軸線同士の交点から前記各駆動輪の接地点までの距離の比に基づいて前記各駆動輪の回転速度比を設定する制御手段を備えたことを特徴とする電動台車。」

(イ)「【0010】・・・この荷台3は、後述のようにリフト式であっても固定式であってもよい。・・・」

(ウ)「【0037】CPUはさらに、メインスイッチからのリフトON,OFF信号に基づき、リフトスイッチに駆動信号を送り、リフト機構(昇降シリンダ装置17)を上下駆動させる。なお、このリフト動作は、走行中にはできない構造とする。これは、例えば、切換えスイッチにリフト位置を独立して設け、このリフト位置に切換えないとリフト操作できない構造である。」

(2)本願発明1と引用発明との対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「操作者」は本願発明1の「作業者」に相当し、以下同様に、「操作力」は「駆動力」に、「アシスト力」は「アシスト力」に、「フレーム11」は「車体フレーム」に、「駆動輪21」は「駆動輪」に、「ハンドル6」は「操作部」に、「ハンドル操作力センサ7」は「トルク検出部」に、「アシスト力」は「アシスト力」に、「コントローラ37」は「コントローラ」に、「DCモータ17」は「電動モータ」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「病院用電動ベッド」と本願発明1の「電動アシスト台車」とは、「電動アシスト搬送装置」という限度で一致するといえる。

ウ 引用発明の「病弱者を載置可能なベッド部2を高さや姿勢を変えられるようにその上部に設けたフレーム11と、」という事項と、本願発明1の「荷物を載置可能な荷台が昇降可能に設けられる車体フレームと、」という事項について検討する。
引用発明の「高さ」を「変えられる」ことは本願発明1の「昇降可能」に相当し、前者の「病弱者」と後者の「荷物」は「搬送対象物」という限度で一致するといえ、同様に前者の「ベッド部2」と後者の「荷台」は「載置台」という限度で一致するといえる。
したがって、引用発明の上記事項と本願発明1の上記事項とは、「搬送対象物を載置可能な載置台が昇降可能に設けられる車体フレームと、」の限度で一致するといえる。

エ 引用発明の「操作者によって押圧操作され、前記フレーム11にベッド部2を介して操作力を入力可能なハンドル6と、」という事項と、本願発明1の「作業者によって押圧操作され、前記車体フレームに駆動力を入力可能な操作部と、」という事項について検討する。
本願発明1において、「操作部」が「車体フレーム」に直接「駆動力」を入力可能としている旨の特定はないことから、引用発明の「ハンドル6」(操作部)が「ベッド部2」を介して(間接的に)「フレーム11」に操作力(駆動力)を入力可能としているものと特段相違しないといえる。
したがって、引用発明の上記事項は、本願発明1の上記事項に相当するといえる。

オ 引用発明の「前記ハンドル6が押圧操作されることによって、ハンドル操作荷重を検出するセンサ7と、」という事項と、本願発明1の「前記操作部が押圧操作されることによって前記車体フレームに作用する駆動トルクを検出するトルク検出部と、」という事項について検討する。
引用発明の「ハンドル操作荷重を検出するセンサ7」は、具体的には上記(1)ア(ウ)の段落【0023】、【0024】に示されるようにポテンショメーターを用いてトーションバーのねじり角を検出するものであり、一方、本願発明1において「トルク検出部6」が「駆動トルク」を検出することについては、具体的には本願明細書の段落【0036】に記載されるようにポテンショメーターを用いてトーションバーの捩れに基づいて駆動トルクを検出するものであり、具体的手段において特段相違しないこと、及び、本願発明1において「駆動トルク」が直接「車体フレーム」に作用する旨の特定はなく、上記エと同様に判断できること、から引用発明の上記事項は、本願発明1の上記事項に相当するといえる。

カ 引用発明の「前記ベッド部2の高さや姿勢を変えるアーム4及びベッド姿勢制御用のアクチュエータ38と、」という事項と、本願発明1の「前記荷台を昇降させる荷台昇降部と、」という事項とは、「前記載置台を昇降させる載置台昇降部と、」の限度で一致するといえる。

キ 引用発明の「コンロトールパネル8」は、各スイッチの操作を検出するものといえるので、本願発明1の「操作検出部」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「非常停止スイッチ8b、ベッド昇降スイッチ8cが設けられたコントロールパネル8と、」という事項と、本願発明1の「前記ブレーキによって前記駆動輪を制動/制動解除させるための作業者からの操作及び前記荷台を昇降させるための作業者からの操作を検出する操作検出部と、」という事項とは、「前記載置台を昇降させるための作業者からの操作を検出する操作検出部と、」の限度で一致するといえる。

ク 引用発明の「前記DCモータ17及び前記ベッド姿勢制御用のアクチュエータ38を駆動制御するコントローラ37と、」という事項と、本願発明1の「前記電動モータ、前記ブレーキ及び前記荷台昇降部の動作を制御するコントローラと、」という事項とは、「前記電動モータ及び前記載置台昇降部の動作を制御するコントローラと、」の限度で一致するといえる。

ケ 引用発明の「前記ハンドル操作力センサ7によって検出された操作荷重と車速センサ39によって検出された駆動輪21の回転速度に基づいて、アシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪21に付与するように前記DCモータ17を動作させる」という事項と、本願発明1の「前記トルク検出部によって検出された前記駆動トルクに応じたアシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与するように前記電動モータを動作させ、」という事項とは、「アシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与するように前記電動モータを動作させ、」の限度で一致するといえる。

コ 以上のことから、本願発明1と引用発明の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「作業者によって付与される駆動力にアシスト力を付与して走行可能な電動アシスト搬送装置であって、
搬送対象物を載置可能な載置台が昇降可能に設けられる車体フレームと、
前記車体フレームに設けられる駆動輪と、
前記駆動輪にアシスト力を付与する電動モータと、
作業者によって押圧操作され、前記車体フレームに駆動力を入力可能な操作部と、
前記操作部が押圧操作されることによって前記車体フレームに作用する駆動トルクを検出するトルク検出部と、
前記載置台を昇降させる載置台昇降部と、
前記載置台を昇降させるための作業者からの操作を検出する操作検出部と、
前記電動モータ及び前記載置台昇降部の動作を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
アシスト力を演算し、演算されたアシスト力を前記駆動輪に付与するように前記電動モータを動作させる電動アシスト搬送装置。」

〔相違点1〕
「電動アシスト搬送装置」、「搬送対象物」及び「載置台」に関し、
本願発明1がそれぞれ「電動アシスト台車」、「荷物」及び「荷台」であるのに対し、
引用発明はそれぞれ「病院用電動ベッド」、「病弱者」及び「ベッド部2」である点。

〔相違点2〕
本願発明1が「前記駆動輪を制動するブレーキ」を有し、「操作検出部」は「前記ブレーキによって前記駆動輪を制動/制動解除させるための作業者からの操作」を検出するものであり、「コントローラ」は「前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出した場合は、前記駆動輪を制動すると共に、前記トルク検出部の検出結果にかかわらず前記電動モータの動作を禁止し、前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出しているときに前記操作検出部が前記荷台の昇降の操作を検出した場合は、前記荷台の昇降動作を可能にする」ものであるのに対し、
引用発明は「非常停止スイッチ8b」を有するが、どのような手段により停止させるのか明らかでなく、ブレーキを有するのかも明らかでなく、さらに停止した状態と「ベッド部2」の昇降動作との関係についても明らかでない点。

〔相違点3〕
「アシスト力の演算」に関し、
本願発明1が「前記トルク検出部によって検出された駆動トルクに応じて」いるのに対し、
引用発明は「前記ハンドル操作力センサ7によって検出された操作荷重と車速センサ39によって検出された駆動輪21の回転速度に基づいて」いる点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
ア 上記(1)ウからみて、引用文献2には、配膳車等のパワーアシスト運搬車において、力センサ1へ加圧されている場合に操作者が非常停止のための停止スイッチ3に接触した場合に、左右モータ10、20を停止させ、電磁ブレーキ等の制動機能を使用して停止を促す技術が記載されているといえる。
引用文献2に記載された技術は、非常停止のためのスイッチに係るものであり、もとより昇降可能な荷台の開示はなく、このような技術を引用発明に適用したとしても、「駆動輪21を制動するブレーキ」を有し、「非常停止スイッチ8b」が操作されたとき、「駆動輪21を制動すると共に、ハンドル操作力センサ7の検出結果にかかわらずDCモータ17の動作を禁止」するというものにとどまり、本願発明1が有する「前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出しているときに前記操作検出部が前記荷台の昇降の操作を検出した場合は、前記荷台の昇降動作を可能にする」という事項を得ることはできない。
そして、本願発明1は、上記相違点2に係る本願発明1の事項を採用することにより、「ブレーキ16が非制動状態で、電動昇降シリンダ2aが動作することが禁止され。荷台3の昇降により電動アシスト台車100が不用意に自走してしまうことを未然に防止する。」(段落【0091】,なお「禁止され。」は「禁止され、」の誤記と認める。)という作用効果を得ているものであり、当該事項が公知ないし周知であることを示す証拠もないことから、引用発明において上記相違点2に係る本願発明1の事項を有するものとすることは当業者にとって容易になし得たということはできない。
したがって、引用発明において、少なくとも上記相違点2に係る本願発明1の事項を有するものとすることは当業者にとって容易になし得たことはいえないことから、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、原査定において、本願発明2に対する周知技術の例示文献として示された引用文献3について検討しても、上記(1)エより、テーブル昇降式運搬台車において、走行と昇降を切り替える走行昇降切替えスイッチ87を有し、操作者が台車フレーム2に設けられたストッパ装置13を操作して運搬台車1を固定し、その後、操作者が走行昇降切替えスイッチ87を昇降位置に切り替え、昇降前後進切換スイッチ88を操作する程度の技術が開示されているにとどまり、同様に引用文献4について検討しても、上記(1)オより、リフト式荷台3を備える電動台車において、走行中にリフト動作ができない構造としている程度の技術の開示にとどまり、いずれもコントローラによる駆動輪のブレーキによる制動の操作の検出と昇降の可否の判断との関係は示されていないことから、引用文献3または4に記載された技術を参酌したとしても、本願発明1は容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小活
以上検討したとおり、本願発明1は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、本願発明2は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
<理由1>この出願は、特許請求の範囲の記載について下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
<理由2>この出願は、特許請求の範囲の記載について下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項1に「前記操作検出部が前記ブレーキによる制動の操作を検出した場合は、前記駆動輪を制動すると共に、前記トルク検出部の検出結果にかかわらず前記電動モータの動作を禁止し、かつ、前記操作検出部が前記荷台の昇降の操作を検出した場合に前記荷台の昇降動作を可能にする」との記載があるが、明確でないし発明の詳細な説明に記載したものともいえない。

2 当審拒絶理由の判断
平成28年10月31日付け手続補正により、本願の請求項1、2の記載は、上記第2に示すとおりに補正され、当審拒絶理由1、2のいずれの理由も解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2011-225981(P2011-225981)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62B)
P 1 8・ 537- WY (B62B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
小原 一郎
発明の名称 電動アシスト台車  
代理人 須藤 淳  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 後藤 政喜  

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