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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1322814
審判番号 不服2016-3880  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-14 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2011-217401「光検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日出願公開、特開2012- 99797、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、平成23年9月30日(優先権主張平成22年10月7日)の出願であって、平成27年4月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月5日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年9月29日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年10月16日付けで意見書が提出されたが、平成28年2月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成28年3月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その後、当審において、平成28年9月21日付けで拒絶理由(最後)(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月8日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出された。


第2 平成28年11月8日付けの手続補正の適否
1 補正の内容
平成28年11月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の(平成27年5月5日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲の請求項1である、
「 【請求項1】
第1のフォトダイオードと、
第2のフォトダイオードと、
第1の増幅回路と、
第2の増幅回路と、を有し、
前記第1のフォトダイオードは、可視光を吸収し赤外光を透過する機能を有し、
前記第2のフォトダイオードは、前記赤外光を吸収し前記可視光を透過する機能を有し、
前記第1の増幅回路は、前記第1のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記第2の増幅回路は、前記第2のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記可視光と前記赤外光とを含む入射光が入射される側に前記第1のフォトダイオードが位置し、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードとは重なる領域を有するように設けられ、
前記第1の増幅回路は、第1のトランジスタと、第2のトランジスタと、第3のトランジスタと、を有し、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第1のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第2のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第3のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第2の増幅回路は、第4のトランジスタと、第5のトランジスタと、第6のトランジスタと、を有し、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第2のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第5のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第5のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第6のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第1のトランジスタ及び前記第4のトランジスタは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであり、
前記第2のトランジスタの上方、前記第3のトランジスタの上方、前記第5のトランジスタの上方、及び、前記第6のトランジスタの上方に、絶縁層を有し、
前記絶縁層の上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有することを特徴とする光検出回路。」
から、次のように補正されたものと認める。
「 【請求項1】
第1のフォトダイオードと、
第2のフォトダイオードと、
第1の増幅回路と、
第2の増幅回路と、を有し、
前記第1のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域との積層からなる非晶質シリコン膜を有し、
前記第2のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域とが横方向につながった結晶性シリコン膜を有し、
前記第1のフォトダイオードは、可視光を吸収し赤外光を透過する機能を有し、
前記第2のフォトダイオードは、前記赤外光及び前記可視光を吸収する機能を有し、
前記第1の増幅回路は、前記第1のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記第2の増幅回路は、前記第2のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記可視光と前記赤外光とを含む入射光が入射される側に前記第1のフォトダイオードが位置し、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードのi型領域とは重なる領域を有するように設けられ、
前記第1の増幅回路は、第1のトランジスタと、第2のトランジスタと、第3のトランジスタと、を有し、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第1のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第2のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第3のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第2の増幅回路は、第4のトランジスタと、第5のトランジスタと、第6のトランジスタと、を有し、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第2のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第5のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第5のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第6のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第1のトランジスタ及び前記第4のトランジスタは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであり、
前記第2のトランジスタの上、前記第3のトランジスタの上、前記第5のトランジスタの上、及び、前記第6のトランジスタの上に、絶縁層を有し、
前記絶縁層の上に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有することを特徴とする光検出回路。」(下線は、請求人が付したものであり、補正箇所である。)

2 補正の目的
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1の
「第1のフォトダイオード」を「前記第1のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域との積層からなる非晶質シリコン膜を有し」と、また、「第2のフォトダイオード」を「前記第2のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域とが横方向につながった結晶性シリコン膜を有し」と限定し、
「前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードとは重なる領域を有する」を「前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードのi型領域とは重なる領域を有する」と限定し、
「前記第2のフォトダイオードは、前記赤外光を吸収し前記可視光を透過する機能を有し」との誤記を、「前記第2のフォトダイオードは、前記赤外光及び前記可視光を吸収する機能を有し」と訂正し、
「前記第2のトランジスタの上方、前記第3のトランジスタの上方、前記第5のトランジスタの上方、及び、前記第6のトランジスタの上方に、絶縁層を有し、前記絶縁層の上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」を「前記第2のトランジスタの上、前記第3のトランジスタの上、前記第5のトランジスタの上、及び、前記第6のトランジスタの上に、絶縁層を有し、前記絶縁層の上に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」と明りょうにしたものであるから、本件補正の請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について、以下に検討する。

3 引用刊行物
(1)当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平3-284883号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。)

ア 「[第一実施例]
第1図は本発明第一実施例の受光装置の原理図、第2図は同じくその詳細な構造を示す断面図、第3図はその分光感度特性を示す図である。
本実施例の受光装置は、第1図の如く、赤外光領域に感度を有する第一受光素子(フオトダイオード)1が形成された単結晶シリコン基板の絶縁膜(SiO_(2)等)2上に、可視光領域に感度を有する第二受光素子(アモルフアスシリコンフオトダイオード)3が形成されている。
そして、第2図中、4は単結晶シリコン層、5はアモルフアスシリコン層、6は単結晶シリコンp領域、7は単結晶シリコンn領域である。
前記単結晶シリコン層4は、p-i-n接合構造とすることで、p-n接合より接合容量が小さくなり高速応答特性を有しており、この特性はカメラにおけるAF用受光素子として用いるのに有利となる。
前記アモルフアスシリコン層5は、1μm以下の薄膜でp-i-n構造(第2図中8)とし、両面に透明電極9,10が形成されている。そして、アモルフアスシリコン層5は、絶縁膜2上に形成されるが、一般的な製法としてプラズマCVD(chemical vapour deposition)が用いられる。この製法は、反応温度が500℃前後で、拡散法に比べ低温であるため、蒸着基板となる単結晶シリコンフオトダイオード1の活性不純物分布を崩すことなくアモルフアスシリコン層5を形成できる。すなわち、両フオトダイオード1、3間に絶縁層2を有する構造とすることで、両フオトダイオード1,3は、異なる分光感度をもつ各々独立したフオトダイオードとして働らかせることかできる。
上記構成において、第2図の如く、X方向から光が入射すると、入射光のうち可視光のほとんどはアモルフアスシリコン層5で吸収され、電流に変換される。
しかしながら、入射光のうち長波長の光(例えば赤外光)は、可視光に感度をもつアモルフアスシリコン層5ではほとんど吸収されずに単結晶シリコン層4まで達し、ここで吸収され電流に変換される。
このように、アモルフアスシリコンダイオード3と単結晶シリコンフオトダイオード1とを上下方向に構成したワンチツプ構造とすることにより、アモルフアスシリコン層5が可視光のほとんどを吸収し、下層の単結晶シリコン層4に対して可視光カツトフイルターの役割を果すので、単結晶シリコン層4に赤外発光ダイオードの特定信号のみを選択して受光させることができる。
したがつて、アモルフアスシリコンダイオード3は、カメラ内におけるAE用受光素子として、単結晶シリコンフオトダイオード1はAF用受光素子として有用となる。なお、第3図に両フオトダイオード1,3の分光感度特性を示す。同図中、Aは単結晶シリコンフオトダイオード1の分光感度特性、Bはアモルフアスシリコンダイオード3の分光感度特性である。
また、チツプ構造のみで可視光領域と赤外光領域との分離を行えるので、カメラ内の限られたスペースを有効活用でき、小型化および多機能化に貢献し得る。」(公報第2頁左下欄第5行?第3頁右上欄第5行)

イ 「



上記記載事項アの「前記アモルフアスシリコン層5は、1μm以下の薄膜でp-i-n構造(第2図中8)とし、両面に透明電極9,10が形成されている。そして、アモルフアスシリコン層5は、絶縁膜2上に形成されるが、一般的な製法としてプラズマCVD(chemical vapour deposition)が用いられる。」との記載、第2図の記載及び当業者の技術常識から、「アモルフアスシリコン層5」は、p-i-n積層構造であることは明らかである。
また、上記記載事項アの「第2図の如く、X方向から光が入射する」との記載及び第2図の記載から、「アモルフアスシリコン層5」が光が入射する側に形成されていることは明らかである。

すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「赤外光領域に感度を有する第一受光素子(単結晶シリコンフオトダイオード)1が形成された単結晶シリコン層4の絶縁膜(SiO_(2)等)2上に、可視光領域に感度を有する第二受光素子(アモルフアスシリコンフォトダイオード)3が形成された受光装置であって、
前記単結晶シリコン層4は、p-i-n接合構造であり、
前記アモルフアスシリコンフォトダイオード3は、1μm以下の薄膜でp-i-n積層構造であるアモルフアスシリコン層5で形成されており、
アモルフアスシリコンダイオード3と単結晶シリコンフオトダイオード1とを上下方向に構成したワンチツプ構造とし、アモルフアスシリコン層5を光が入射する側に形成することにより、アモルフアスシリコン層5が可視光のほとんどを吸収し、下層の単結晶シリコン層4に対して可視光カツトフイルターの役割を果すので、入射光のうち可視光のほとんどはアモルフアスシリコン層5で吸収され、電流に変換され、入射光のうち長波長の光(例えば赤外光)は、可視光に感度をもつアモルフアスシリコン層5ではほとんど吸収されずに単結晶シリコン層4まで達し、ここで吸収され電流に変換される受光装置。」

(2)当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平6-177416号公報(以下「引用文献2」という。)には、赤外線センサ及び可視光センサをワンチップ化した構成において、赤外線センサ及び可視光センサのそれぞれに増幅回路(アンプ)を接続した構成及び赤外線センサ、可視光センサ及び増幅回路を構成するトランジスタをワンチップ化した構成が開示されている。

(3)当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2008-252074号公報(以下「引用文献3」という。)及び特開2009-200086号公報(以下「引用文献4」という。)には、
第1のトランジスタと、第2のトランジスタと、第3のトランジスタを有するフォトダイオードの増幅回路であって、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記フォトダイオードと電気的に接続され、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第2のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第3のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続されたフォトダイオードの増幅回路が開示されている。

4 対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、
「第1のフォトダイオードと、
第2のフォトダイオードと、を有し、
前記第1のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域との積層からなる非晶質シリコン膜を有し、
前記第2のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域とからなる結晶性シリコン膜を有し、
前記第1のフォトダイオードは、可視光を吸収し赤外光を透過する機能を有し、
前記第2のフォトダイオードは、前記赤外光及び前記可視光を吸収する機能を有し、
前記可視光と前記赤外光とを含む入射光が入射される側に前記第1のフォトダイオードが位置し、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードとは重なる領域を有するように設けられた光検出回路。」
で一致し、次の各点で相違する。

相違点ア
本件補正発明では、「前記第2のフォトダイオードは、p型領域とi型領域とn型領域とが横方向につながった結晶性シリコン膜を有し、」「前記可視光と前記赤外光とを含む入射光が入射される側に前記第1のフォトダイオードが位置し、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードのi型領域とは重なる領域を有するように設けられ」る(特に、下線部)のに対して、引用発明では、「前記単結晶シリコン層4は、p-i-n接合構造であ」り、「アモルフアスシリコンダイオード3と単結晶シリコンフオトダイオード1とを上下方向に構成した」とのみ特定される点。

相違点イ
本件補正発明では、
「第1の増幅回路と、
第2の増幅回路と、を有し、」
「前記第1の増幅回路は、前記第1のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記第2の増幅回路は、前記第2のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記可視光と前記赤外光とを含む入射光が入射される側に前記第1のフォトダイオードが位置し、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードのi型領域とは重なる領域を有するように設けられ、
前記第1の増幅回路は、第1のトランジスタと、第2のトランジスタと、第3のトランジスタと、を有し、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第1のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第2のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第3のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第2の増幅回路は、第4のトランジスタと、第5のトランジスタと、第6のトランジスタと、を有し、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第2のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第5のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第5のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第6のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第1のトランジスタ及び前記第4のトランジスタは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであり、
前記第2のトランジスタの上、前記第3のトランジスタの上、前記第5のトランジスタの上、及び、前記第6のトランジスタの上に、絶縁層を有し、
前記絶縁層の上に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」
のに対して、引用発明は、増幅回路についての特定がない点。

5 判断
相違点アについて、以下、検討する。
引用文献1?4の全記載を精査しても、p型領域とi型領域とn型領域とが横方向につながった結晶性シリコン膜を有するフォトダイオード上に、そのi型領域と重なる領域を有するように、異なるフォトダイオードを設けた構成は、開示も示唆もされていない。
また、他に、該構成が公知であることを示す証拠もない。

6 結論
したがって、本件補正発明は、上記相違点アにおいて、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできないから、相違点イについて検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
すると、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

7 小括
また、本件補正は、特許法第17条の2第3及び4項の規定に適合することも明らかである。
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3?6項の規定に適合するものである。


第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」で検討したとおり、本件補正が特許法第17条の2第3?6項の規定に適合するものであるから、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明は本件補正発明である。(上記「第2」「1」で、本件補正後の請求項1とした記載を参照。)


第4 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献1?4は、上記「第2」「3」で挙げたものである。)

引用文献1(特に、第2頁左下段第5行目?第3頁左上段第13行目、第2図)には、アモルファスシリコンフォトダイオードとp-i-n単結晶シリコンダイオードが積層された受光装置が記載されている。ここで、アモルファスシリコンフォトダイオードは可視光カットフィルターの働きをするものであるので、p-i-n単結晶シリコンダイオードより大きく形成されることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、引用文献3(特に、[図1])、引用文献4(特に、[図1])に記載されているように、3つのトランジスタを用いて増幅回路を構成することは周知技術であり、また引用文献2(特に、[図1])に記載されているように、それぞれのフォトダイオードに増幅回路を設けることも周知技術であって、回路配置は当業者による設計事項である。
更に、酸化物半導体のチャネルを有するトランジスタも例を挙げるまでもなく周知技術である。
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1-4を基に当業者が容易になし得たものである。

2 原査定の理由の判断
原査定の理由は、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1-4を基に当業者が容易になし得たものである、すなわち、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるというものである。
しかし、上記「第2」「3」?「6」で検討したとおり、本件補正発明は上記相違点アにおいて、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本願発明も、同様に、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

3 原査定についての結論
以上のとおり、原査定によって、本願は拒絶すべきものであるとすることはできない。


第5 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献1?4は、上記「第2」「3」で挙げたものである。)

本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された「光検出回路」に対して、次の点で相違する。
本願の請求項1に係る発明は、
「第1の増幅回路と、
第2の増幅回路と、を有し、」
「前記第1の増幅回路は、前記第1のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、
前記第2の増幅回路は、前記第2のフォトダイオードで発生した光電流に対応する電荷を増幅する機能を有し、」
「前記第1の増幅回路は、第1のトランジスタと、第2のトランジスタと、第3のトランジスタと、を有し、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第1のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第2のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第3のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第2の増幅回路は、第4のトランジスタと、第5のトランジスタと、第6のトランジスタと、を有し、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第2のフォトダイオードと電気的に接続され、
前記第4のトランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第5のトランジスタのゲートと電気的に接続され、
前記第5のトランジスタのソース又はドレインの一方は、前記第6のトランジスタのソース又はドレインの一方と電気的に接続され、
前記第1のトランジスタ及び前記第4のトランジスタは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであり、
前記第2のトランジスタ上方、前記第3のトランジスタ上方、前記第5のトランジスタ上方、及び、前記第6のトランジスタ上方に、絶縁層を有し、
前記絶縁層上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」点。
しかし、まず、光検出装置において、フォトダイオードに増幅回路を接続することは慣用手段にすぎない。
また、引用文献2には、赤外線センサ及び可視光センサをワンチップ化した構成において、赤外線センサ及び可視光センサのそれぞれに増幅回路(アンプ)を接続した構成及び赤外線センサ及び可視光センサと増幅回路を構成するトランジスタをワンチップ化した構成が開示されている。
そして、フォトダイオードの増幅回路として、フォトダイオードに3つのトランジスタを本願の請求項1に係る発明と同様に接続することは、引用文献3、4に示されるように、また、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタは、例を挙げるまでもなく、それぞれ、周知の技術である。
すると、引用文献1に記載された「光検出回路」の「アモルフアスシリコンダイオード3」及び「単結晶シリコンフオトダイオード1」のそれぞれに、上記周知の増幅回路を接続するとともに、「アモルフアスシリコンダイオード3」及び「単結晶シリコンフオトダイオード1」と増幅回路を構成するトランジスタをワンチップ化し、そのトランジスタの一部を上記周知のチャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタとすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、上記周知の増幅回路の3つのトランジスタをワンチップ化する際に、どのような積層構造とするかは、当業者が適宜設計し得る事項にすぎない。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1-4を基に当業者が容易になし得たものである

(2)平成27年5月5日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



請求項1の
「前記第2のトランジスタ上方、前記第3のトランジスタ上方、前記第5のトランジスタ上方、及び、前記第6のトランジスタ上方に、絶縁層を有し、
前記絶縁層上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」
について、この記載が、第2のトランジスタ及び第3のトランジスタと第1のトランジスタとを、第5のトランジスタ及び第6のトランジスタと第4のトランジスタとを、それぞれ、重ねて配置する構成(特に、下線部)を特定するものとは、直ちには認められないが、平成27年10月16日付けの意見書での請求人の主張を参酌すれば、該構成を特定するものと解することができる。
すると、上記のように解釈した請求項1の上記記載は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとは認められない。

(3)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



ア 上記のように解釈した請求項1の上記記載は、上記理由(2)と同様、本願の発明の詳細な説明に記載したものではない。

イ 請求項1の
「前記第2のトランジスタ上方、前記第3のトランジスタ上方、前記第5のトランジスタ上方、及び、前記第6のトランジスタ上方に、絶縁層を有し、
前記絶縁層上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」
の「上方」/「上方に」は、本願の発明の詳細な説明に記載したものではない。(明細書の段落【0117】には、「の上に」と記載されている。)

よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(4)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の
「前記第2のトランジスタ上方、前記第3のトランジスタ上方、前記第5のトランジスタ上方、及び、前記第6のトランジスタ上方に、絶縁層を有し、
前記絶縁層上方に、前記第1のトランジスタと、前記第4のトランジスタとを有する」
の「上方」/「上方に」が示す構成が不明確である。(明細書の段落【0117】には、「の上に」と記載されており、これとは異なる「上方」/「上方に」が示す構成が「の上に」が示す構成とどのように異なるのかが不明である。なお、両者が同じ構成を示すのであれば、「上方」/「上方に」ではなく、「の上」/「の上に」と記載するべきである。)

よって、本願発明は明確でない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)理由(1)について
理由(1)は、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1-4を基に当業者が容易になし得たものである、すなわち、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるというものである。
しかし、上記「第2」「3」?「6」で検討したとおり、本件補正発明は上記相違点アにおいて、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本願発明も、同様に、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
よって、理由(1)は解消した。

(2)理由(2)及び(3)アについて
請求人の上記主張は、平成28年11月8日付けの意見書で明示的に撤回された。このことにより、本願の請求項1の記載は、請求人の上記主張に基づく解釈はできなくなったので、本願の請求項1の記載は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められない、また、本願発明は本願の発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえなくなった。
よって、理由(2)及び(3)アは解消した。

(3)理由(3)イ及び(4)について
本件補正により、「上方」が「上」に補正された。このことにより、本願発明は本願の発明の詳細な説明に記載したものではない、また、本願発明は明確でないとはいえなくなった。
よって、理由(3)イ及び(4)は解消した。

3 当審拒絶理由についての結論
以上のとおり、もはや、当審拒絶理由によって、本願は拒絶すべきものであるとすることはできない。


第6 むすび
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2011-217401(P2011-217401)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 55- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森江 健蔵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 伊藤 昌哉
森林 克郎
発明の名称 光検出装置  

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