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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1322938 |
審判番号 | 不服2015-6286 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-03 |
確定日 | 2016-12-12 |
事件の表示 | 特願2013- 40395「代謝性炎症によって媒介される疾患を処置するためのチアゾリジンジオン類似体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-100371〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年 3月14日(パリ条約による優先権主張 平成18年3月16日 米国)を国際出願日とする特願2009-500436号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成25年 3月 1日に新たな特許出願として分割したものであって、平成26年 3月18日付け拒絶理由通知に対して平成26年 6月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年 8月 1日付け拒絶理由通知に対して平成26年11月 5日付けで意見書と手続補足書が提出された後、平成26年12月 2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年 4月 3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年 5月 8日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 平成27年 4月 3日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年 4月 3日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、請求項1を 補正前(平成26年 6月16日付け手続補正書を参照)の 「【請求項1】 パーキンソン病を処置するための薬剤の製造における、以下の化合物: 【化101】 または薬学的に許容できるその塩の使用。」から、 補正後の 「【請求項1】 パーキンソン病を処置するための薬剤の製造における、以下の化合物: 【化101】 または薬学的に許容できるその塩の、使用。」(注:下線は、原文に記載されていたとおり) に変更するものである。 2 補正の適否 本件補正は、拒絶査定不服審判の請求と同時になされたものであるところ、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」ともいう。)第17条の2第4項において、同条第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、同条第4項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてのものに限る。))を目的とするものに限るとされているので、その規定を満たすか検討する。 本件補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1に記載された「以下の化合物(中略)または薬学的に許容できるその塩の使用」を「以下の化合物(中略)または薬学的に許容できるその塩の、使用」に変更したものである。 そして、平成27年5月8日提出の手続補正書(方式)において、請求人は上記補正について、「審判請求と同時に提出した手続補正書により、請求人は、請求項を明確にしました。」と述べている。 しかしながら、本件補正による変更前の「以下の化合物(中略)または薬学的に許容できるその塩の使用」という記載は不明確なものではなく、当該変更の対象となった部分が、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示されていたわけでもないから、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてのものに限る。)に該当しないことは明らかである。 また、本件補正の変更前の記載と変更後の記載が同義であることは文脈上明らかであるから、当該変更は特許請求の範囲の減縮にも該当しない。さらに、請求項の削除や誤記の訂正に該当しないことも明らかである。 したがって、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項のいずれを目的とするものともいえない。 3 小括 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本件発明について 1 本件発明 平成27年 4月 3日提出の手続補正書による手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成26年 6月16日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されると認められるところ、そのうち請求項2に係る発明(以下、同項記載の発明を「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項2】 以下の化合物: 【化102】 または薬学的に許容できるその塩を含む、パーキンソン病を処置するための組成物。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は、 本願の発明の詳細な説明には、上記化合物1がPPARγアゴニスト作用を有することやグルコース、インスリン、トリグリセリド類の血中濃度を低下させたことが記載されているが、パーキンソン症の症状を改善させたことを示す薬理データや論理的な説明は記載されていない。そして、本願の優先日当時において、PPARγアゴニスト作用を有し、グルコース、インスリン、トリグリセリド類の血中濃度を低下させる化合物であれば、いかなる化合物であってもパーキンソン症を処置できるといった技術常識が存在していたものとも認められない。そうすると、本願の発明の詳細な説明には、請求項1、2に係る発明について当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとも、十分な裏付けをもって記載されているとも認められないから、本願は発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 というものである。 3 当審の判断 (1)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、 ア 「【0007】 一般に、本発明は、核転写因子PPARγの結合および活性化の低減を有するインスリン感作物質に関する。従来のインスリン感作物質は、PPARγを活性化し、そしてナトリウムの再吸収に有利に働く遺伝子の転写を刺激する。本発明のインスリン感作物質は、核転写因子PPARγの結合および活性化の低減を有し、したがってナトリウムの再吸収の低減およびより少ない副作用制限用量(dose-limiting side effect)をもたらす。したがって、これらの化合物は、実質的に、糖尿病、およびメタボリックシンドローム(異脂肪血症、および中心性肥満を含む)に関連するインスリン抵抗性の全ての態様を含む他の代謝性炎症によって媒介される疾患を処置および予防するために、より有効である。これらの化合物はまた、他の炎症疾患(例えば、関節リウマチ、狼瘡、重症筋無力症、脈管炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および炎症性腸疾患)、および神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病)、および多発性硬化症を処置するために有用である。」(段落0007) イ 「したがって、本発明は例えば以下をも提供する。 (中略) (項目25) 患者において疾患の重症度を処置または低減する方法であって、該疾患が、異脂肪血症、中心性肥満、関節リウマチ、狼瘡、重症筋無力症、脈管炎、多発性硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性腸疾患、急性アレルギー反応、移植拒絶、アルツハイマー病、パーキンソン病、および多発性硬化症から選択され、該方法が、式Iの化合物または薬学的に許容できる該化合物の塩を、該患者に接触させる工程を含み、 【化6】 式中、 R_(1)は、水素または任意に置換された脂肪族であり、 R_(2)は、水素、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、または任意に置換された脂肪族であり、 R_(3)は、水素、ハロ、または任意に置換された脂肪族であり、 環Aは、フェニル、あるいはN、O、またはSから選択された1?3個のヘテロ原子を有する単環へテロアリールであり、これらのいずれかは、環A上の化学的に適したいずれかの位置において-CH_(2)-R_(1)により置換されている、 方法。」(段落0007) ウ 「【0008】 1つの態様では、本発明は、式I: 【0009】 【化7】 の化合物または薬学的に許容できる該化合物の塩を含む、代謝性炎症によって媒介される疾患を処置するために有用な医薬組成物を提供し、式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)、および環Aについては下で説明する。本発明の他の態様は、式Iの化合物を患者に投与することによって代謝性炎症によって媒介される疾患を処置する方法を提供する。 (中略) 【0011】 本発明の別の態様は、患者を式Iの化合物と接触させることによって関節リウマチ、狼瘡、重症筋無力症(myasthenia,gravis)、脈管炎、COPD、炎症性腸疾患、急性アレルギー反応、移植拒絶、中心性肥満、異脂肪血症、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋硬化症(muscular sclerosis)、またはこれらの組み合わせを処置する方法を提供する。」(段落0008?段落0011) エ 「本明細書で使われる「有効量」は、処置する患者に対して治療効果を与えるのに必要な量として定義され」(段落0075) オ 「【0077】 II.医薬組成物 一般に、有効なインスリン感作化合物は高いPPARγ活性を有するはずであること、および反対に、低減したPPARγ活性を有する化合物は低減したインスリン感作活性をもたらすことが考えられる。この従来の考えに反して、本発明のチアゾリジンジオン類似体は、代謝性炎症によって媒介される疾患(例えば、糖尿病、中心性肥満、異脂肪血症など)または本明細書に記載される他の障害の処置に特に有効であり、そしてPPARγとの低減した相互作用を有する。 【0078】 理論により縛られたくないが、本発明のチアゾリジンジオン類似体の治療効果は、ミトコンドリアのレベルにおいてもたらされるそれらの類似体の炎症の選択的予防から生じると考えられ、これは、核転写因子の選択的な直接活性化を有する従来の化合物とは対照的である。本発明のチアゾリジンジオン類似体がミトコンドリアの機構を介して機能することに起因して、本発明のチアゾリジンジオン類似体は、代謝性炎症が病理の基礎である全ての疾患状態の処置または予防に有効である。」(段落0077?段落0078) カ 「【0117】 表A:代表的な化合物 【0118】 【表1】 本発明の別の態様は、式I、Ia、II、III、IV、V、またはVIの化合物を含む医薬組成物を提供し、前記化合物は、3μMを超えた循環レベルを作るために投与された場合のロシグリタゾンの活性に比べて50%以下のPPARγ活性を有し、または同じ用量のピオグリタゾンより10倍低いPPARγ活性を有する。 (中略) 【0122】 本発明の別の態様は、患者を式I、Ia、II、III、IV、V、またはVIの化合物と接触させることによって関節リウマチ、狼瘡、重症筋無力症、脈管炎、COPD、炎症性腸疾患、急性アレルギー反応、移植拒絶、中心性肥満、異脂肪血症、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋硬化症、またはこれらの組み合わせを処置する方法を提供する。」(段落0017?段落0122) キ 「【0162】 (実施例3a)本発明の代表的化合物によって処置された糖尿病KKAyマウスにおけるグルコース、インスリン、およびトリグリセリド類 インスリン感作および抗糖尿病の薬理作用を、先に報告(中略)される通りにKKAYマウスにおいて測定する。これらの化合物は、1%のナトリウムカルボキシメチルセルロース、および0.01%のtween 20として処方し、毎日栄養チューブから経口投与される。1日1回の処置を4日継続した後、血液試料を後眼窩洞(retro-orbital sinus)から採取し、Hofmannらの文献に記載されているように、グルコース、トリグリセリド類、およびインスリンについて分析する。グルコース、トリグリセリド類、およびインスリンの最高濃度を少なくとも80%に低下させるこれらの化合物の用量は、これらのマウスの肝臓のP2の発現を顕著に増加させることはない。 【0163】 (実施例3b)本発明の代表的化合物によって処置された糖尿病KKAyマウスにおけるグルコース、インスリン、およびトリグリセリド化合物を、懸濁物で処方し、そして4日間にわたって93mg/kgでKKAyマウスに経口的に投与した。その化合物を、最初に、DMSOに溶解し、次いで7?10%のDMSO、1%のナトリウムメチルカルボキシセルロース、および0.01%のTween 20を含む水性懸濁物におく。15日目において、上記マウスを、絶食させ、そして血液試料を、最後の投与の約18時間後に得た。パラメータを、標準的なアッセイ方法によって測定した。データは、N=6?12匹のマウスの平均値およびSEMである。 【0164】 表C:本発明の代表的化合物によって処置された糖尿病KKAyマウスにおけるグルコース、インスリン、およびトリグリセリド類 【0165】 【表3】 上記の表Cを参照すると、化合物6および7は良好なPPARγ結合化合物である一方で、それらは低いグルコースレベル、インスリンレベル、およびトリグリセリドレベルにおいて化合物1および2ほど有効ではないことが示される。」(段落0162?段落0165) と記載されている。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の検討 特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。 本件発明は、前記1のとおりであるから、 【化102】 で表される化合物(以下「本件化合物」という。)または薬学的に許容できるその塩を含む組成物(以下「本件組成物」という。)、の新しい医学的な用途として、「パーキンソン病を処置する」という用途を提供することを課題とするものである。 そして、記載事項エから、本件発明における「処置」とは治療を目的としたものであって、「治療」と同義であるといえることを考慮すると、当業者が上記課題を解決できると認識できるためには、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病の治療についての有用性を有すること、すなわちヒトに投与した場合にパーキンソン病の症状の改善や進行の防止等の作用を有することを当業者が認識できる必要がある。 しかしながら、一般に本願発明のような医薬用途発明においては、一定の予防又は治療すべき状態に対して、特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで、その作用効果について何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず、そのような技術常識もない場合には、当業者において、実際に有用性を有するか、すなわち、課題を解決できるかどうかを予測することは困難であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明において、パーキンソン病の治療に関する記載がされているのは、記載事項ア、記載事項イ、記載事項ウ、記載事項カのみであり、これらの記載事項はいずれも、本願発明が治療できる可能性がある病気の一つとしてパーキンソン病を挙げているものにすぎず、実際に本件化合物や本件組成物にパーキンソン病の治療に関して有用性があることを具体的に記載しているものではない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明の他の箇所にも、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病を治療できることを技術的に裏付ける薬理試験の結果や、実施例等の具体的な事実の記載は一切ない。また、本願出願時、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病の症状の改善や進行を防止する作用効果を有することについての技術常識が存在したことを証する証拠はなく、そのような作用効果が、当業者が出願時の技術常識に照らして認識できる範囲のものであるとも認められない。 そうすると、技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病の治療についての有用性を有すること、すなわちヒトに投与した場合にパーキンソン病の症状の改善や進行の防止等の作用を有することを当業者が認識できるとはいえない。 したがって、技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件組成物について「パーキンソン病を処置する」という用途を提供するという課題を解決できると認識できるとはいえない。 よって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない。 (3)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)の検討 1に記載したとおり、本件発明は物(組成物)の発明であって、「パーキンソン病を処置する」という医薬用途に係るものである。 ところで、特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。そして、医薬の用途発明においては、一般に、医薬を構成する化合物の物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途における有用性及び当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明において、パーキンソン病の治療に関する記載がされているのは、記載事項ア、記載事項イ、記載事項ウ、記載事項カのみであり、これらの記載事項はいずれも、本願発明が治療できる可能性がある病気の一つとしてパーキンソン病を挙げているものにすぎず、実際に本件化合物や本件組成物にパーキンソン病の治療に関して有用性があることを具体的に記載しているものではない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明の他の箇所にも、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病を治療できることを技術的に裏付ける薬理試験の結果や、実施例等の具体的な事実の記載は一切ない。また、本願出願時、本件化合物や本件組成物がパーキンソン病の症状の改善や進行を防止する作用効果を有することについての技術常識が存在したことを証する証拠はなく、そのような作用効果が、当業者が出願時の技術常識に照らして認識できる範囲のものであるとも認められない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らして、本件組成物がパーキンソン病を処置するための医薬として有用であり、その処置に使用できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (4)請求人の主張について 請求人は、平成27年5月8日付け手続補正書(方式)において、以下ア?ウにより、本願は特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たすと主張する。 ア 本願明細書の段落0007および段落0011には、本件化合物が、パーキンソン病などの神経変性疾患の治療に有効であることが記載されている。 イ 本願明細書の段落0077、段落0078(いずれも記載事項オに含まれる。)には、本件化合物の治療効果が、ミトコンドリアのレベルでもたらされる炎症の選択的な予防から生じ、本件化合物はミトコンドリアの機構を介して機能するため、代謝性の炎症が病理の基礎となるすべての疾患状態の処置または予防に有効であることが記載され、同実施例(記載事項キ)には本件化合物が糖、インスリンおよびトリグリセリドのレベルを低下させるの有効であることが具体的に開示されているから、本件化合物が当業者は本件化合物が代謝性炎症に関連するまたはそれに起因する疾患の処置に有効であると認識でき、さらに当業者は、優先日前の技術常識から、代謝性炎症がパーキンソン病の重要な病理生理学的機構の一つであると理解できる。 ウ 平成26年12月 4日付け手続補足書に記載された甲第3号証及び平成27年5月8日付け手続補正書(方式)に記載された甲第5号証に記載された薬理データに基づけば、本件化合物の処置でパーキンソン病の症状が改善したものであるといえることが、優先日当時の技術常識として理解され得る。 そこで、以下、上記主張について検討する。 <主張アについて> (2)及び(3)に記載したとおり、一般に本願発明のような医薬用途発明においては、一定の予防又は治療すべき状態に対して、特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで、その作用効果について何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず、そのような技術常識もない場合には、当業者において、実際に有用性を有するか、すなわち、課題を解決できるかどうかを予測することは困難である。 そして、記載事項アや記載事項イのとおり、本願明細書の段落0007には、本件化合物によるパーキンソン病の治療に関する記載があるものの、これらの記載事項はいずれも、本願発明が治療できる可能性がある病気の一つとしてパーキンソン病を挙げているものにすぎないから、実際に本件化合物にパーキンソン病の治療に関して有用性があることを具体的に記載しているものではない。 また、記載事項ウのとおり、本願明細書の段落0011にも、本件組成物によるパーキンソン病の治療に関する記載があるものの、これらの記載事項はいずれも、本願発明が治療できる可能性がある病気の一つとしてパーキンソン病を挙げているものにすぎないから、実際に本件組成物にパーキンソン病の治療に関して有用性があることを具体的に記載しているものではない。 したがって、主張アは採用できない。 <主張イについて> 代謝性炎症がパーキンソン病の重要な病理生理学的機構の一つであることが出願日前の技術常識であったことを示す証拠が何ら提示されていない以上、代謝性炎症がパーキンソン病の重要な病理生理学的機構の一つであることが出願日前の技術常識だったとはいえない。むしろ、記載事項アには「したがって、これらの化合物は、実質的に、糖尿病、およびメタボリックシンドローム(異脂肪血症、および中心性肥満を含む)に関連するインスリン抵抗性の全ての態様を含む他の代謝性炎症によって媒介される疾患を処置および予防するために、より有効である。これらの化合物はまた、他の炎症疾患(例えば、関節リウマチ、狼瘡、重症筋無力症、脈管炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および炎症性腸疾患)、および神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病)、および多発性硬化症を処置するために有用である。」と記載されており、本願明細書には「代謝性炎症」と「他の炎症」と「神経変性疾患」とが並列で記載されていることを考慮すると、本願出願時,パーキンソン病と代謝性炎症は関連がない別の疾患と認識されていた可能性が高い。 したがって、主張イは前提において間違いがあるから採用することはできない。 <主張ウについて> 甲第3号証には平成26年(2014年)6月10日の日付が記載されており、甲第5号証には日付が記載されていないから、本願出願時の技術常識を示すものとはいえず、主張ウは採用できない。 よって、出願人の主張はいずれも採用できない。 4 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-07-15 |
結審通知日 | 2016-07-19 |
審決日 | 2016-08-01 |
出願番号 | 特願2013-40395(P2013-40395) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 加藤 文彦 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 山本 吾一 |
発明の名称 | 代謝性炎症によって媒介される疾患を処置するためのチアゾリジンジオン類似体 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 飯田 貴敏 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 健策 |