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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B |
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管理番号 | 1322955 |
審判番号 | 不服2015-18994 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-10-21 |
確定日 | 2016-12-15 |
事件の表示 | 特願2011-108622「電気光変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開、特開2012-239147〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2011年5月13日の出願であって、平成27年4月13日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月22日付けで手続補正がなされ、平成27年7月2日付けで拒絶査定がされ、平成27年10月21日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年6月30日付けで当審が拒絶理由を通知し、平成28年9月5日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年9月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプと、 前記リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部と、 を有し、前記基準信号のレベルは、前記リミッティングアンプの出力が不安定となる前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベルであることを特徴とする電気光変換装置。」 3.当審の拒絶理由 一方、当審において平成28年6月30日付けで当審が通知した拒絶理由の内容は下記のとおりである。 --------------- 理由 A --------------- この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1について 「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」がどのようなレベルであるのか不明瞭である。 本願実施例のリミッティングアンプの動作については、 「【0035】 リミッティングアンプ26は、入力信号のレベルがVth以上の場合にロジックレベルが1の出力信号を出力し、入力信号のレベルがVth未満の場合にロジックレベルが0の出力信号を出力する。」 と記載されているように、入力信号のレベルがVth以上の場合に「1」を出力し、入力信号のレベルがVth未満の場合に「0」を出力するのであって、不安定な信号を出力する領域は存在しない。 すなわち、本願比較例のリミッティングアンプの動作については、 「【0021】 すなわち、リミッティングアンプ16は、入力信号の電圧レベルと基準信号の電圧レベルとの差の絶対値が所定の値以上の場合に、ロジックレベルが1又0の出力信号を出力する。リミッティングアンプ16は、入力信号の電圧レベルと基準信号の電圧レベルとの差の絶対値が所定の値未満の場合に、不安定な信号を出力する。所定の値の大きさは例えば2mVであり、リミッティングアンプ16の製造時のばらつき等に依存する。以下、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル以上である場合の所定の値を第1の閾値(Vth1)、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル未満である場合の所定の値を第2の閾値(Vth2)とする。」 と記載されているように、比較例のリミッティングアンプは、入力信号のレベルが「Vth+Vth1」より大きい場合に「1」を出力し、入力信号のレベルが「Vth-Vth2」より小さい場合に「0」を出力し、入力信号のレベルが「Vth+Vth1」と「Vth-Vth2」の間である場合に不安定な信号を出力するものであるが、比較例とは異なり、本願実施例のリミッティングアンプはVth近傍であっても不安定な信号は出力しない。 そうすると、不安定な信号を出力しないリミッティングアンプを用いているのであるから、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」というレベルがどのようなレベルであるのか理解できない。 請求項6について どのようにしてデューティ比を調整するのかが不明瞭である。 比較例を参照すれば、本願発明は、T1の区間のような振幅の大きい入力信号だけでなく、T2、T3のような振幅が十分大きくない入力信号も入力されることを想定していると理解され、またデューティ比は50%となるように設定すると理解される。 一方、本願実施例1の図4、5と本願実施例2の図7、8を参照すれば、本願発明におけるリミッティングアンプの基準信号の電圧レベルの設定により、T2、T3、T4の区間については、リミッティングアンプの出力は常に「0」あるいは「1」状態となると理解される。 そうすると、T2、T3のような信号が入力される場合に常に「0」あるいは「1」が出力されるという設定を行ったリミッティングアンプで、デューティ比をどのようにして50%となるように制御するのか理解できない。 本願実施例では、 「【0036】 ドライバ27は、リミッティングアンプ16の出力信号に基づいて、光素子22に適正な信号を出力する。ドライバ27は、デューティ比調整部29を有する。デューティ比調整部29は、2値信号のデューティ比が大きくなるように、デューティ比を調整する。すなわち、所定の時間におけるロジックレベルが1である時間が、ロジックレベルが0である時間より大きくなるようにして、デューティ比が0.5に近づくように調整する。これにより、基準信号のレベルを変更したことによる2値信号のデューティ比のずれを補償することができる。光素子22は、比較例に係る図1と同様であるため、説明を省略する。」 とあるから、図4に記載されている入力信号の例では、「1」の時間が少ないから、各パルスの「1」の時間を増やしてデューティ比を調整する必要がある。 しかし、仮に、T1区間の2つのパルス幅のそれぞれの「1」の時間を増やし、その結果、2つのパルスが連続して「T1区間全体が1」となるような極端な場合を考えても、T2、T3区間が「全て0」であるからデューティ比は50%とはならないし、そもそも、「T1区間全体が1」となる出力信号は、入力信号とは全く異なる信号であって、正しいデューティ比調整とは理解できない。 あるいは、T2、T3区間で適当にパルスを生成することでデューティ比を調整することも可能であるが、「0」レベルが連続している信号から勝手にパルスを生成することも、正しいデューティ比調整とは理解できない。 上記のように、本願発明のような基準信号の電圧レベルを設定した場合に、どのようにしてデューティ比を調整するのか理解できない。 請求項2-5、7-8について 請求項1あるいは6を引用して記載しているから、同様の理由を有する。 --------------- 理由 B --------------- この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 請求項1について 請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプと、 前記リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部と、 を有し、前記基準信号のレベルは、前記リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベルであることを特徴とする電気光変換装置。」 特開平8-163046号公報(以下「引用例1」という。下線は当審が付与。)には、 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】この発明は光ファイバを伝送路とする光通信の光送信器に関するものである。」 「【0020】 【実施例】 実施例1.以下この発明の実施例1を図について説明する。図1において11は入力された送信データを一定振幅にして出力する入力バッファ、12は入力バッファ11の出力を受け送信データを変調器2に出力するリミッタ、13はリミッタ12にしきい値電圧を与える可変電圧源である。 【0021】次に動作について説明する。図6は実施例1における入力バッファ11、リミッタ12、変調器2の出力波形を示したものである。入力バッファ11に入力された送信データは一定振幅で、ある立ち上り立ち下り時間を有した0と1の連続する波形として出力される。この時点で1と0の長さの比は、1対1であり、以下デューティが50%であると言う。入力バッファ11の出力波形の平均値をV1 とするとリミッタ12に可変電圧源13より与えられしきい値電圧がV1 と等しいときには、リミッタ12から出力される波形のデューティは50%であるが、V1 より小さなV2 という値にしきい値電圧が設定されていると入力バッファ11の出力波形の立ち上り時間と立ち下り時間が等しいとしてデューティDは 【0022】 【数2】 【0023】となり、50%よりも大きくなる。尚ここでリミッタ12は利得は無限に大きくリミッタ12の出力波形はされて立ち上り時及び立ち下り時間はほぼ0であるとしている。リミッタ12の出力は変調器2に入力され変調器2からはリミッタ11の出力と同じくデューティが50%よりも大きい電流波形出力される。 【0024】図7は変調器2の出力電流とレーザダイオード3の光出力波形との関係を示すものである。レーザダイオード3はしきい値電流Ithまでは、ほとんど光らないので変調器2の電流出力波形のデューティが50%の場合、レーザダイオード3の光りはじめてから光り終るまでの長さつまり送信データの1に相当する長さt3とレーザダイオードが無発光の長さつまり送信データの0に相当する長さt4の比は図6、図7のように電流出力波形に立ち上り立ち下り時間が存在する場合、1対1にならずデューティは50%より小さくなる。そこで変調器2の出力電流波形のデューティを50%よりも大きくすることで光出力波形の1と0の比を1対1に調節することが可能となる。つまりリミッタ11に与えられるしきい値電圧を調整することでデューティが50%の歪みのない光出力波形を得ることができ、バイアス電流回路を必要としない送信器が実現できる。」 また、図1は下記のとおり の記載があり、「リミッタ11」は「リミッタ12」の誤記と認められるから、 「入力端子1から入力された送信データを一定振幅にして出力する入力バッファ11と、 入力バッファ11の出力を受け送信データを変調器2に出力するリミッタ12と、 リミッタ12にしきい値電圧を与える可変電圧源13を有し、 リミッタ12に与えられるしきい値電圧を調整することでデューティが50%の歪みのない光出力波形を得ることができ、 リミッタ12の出力を変調器2に入力し、変調器2の出力をレーザダイオード3に入力する 光送信器」 の発明が引用例1に記載されている。(以下「引用発明」という。) 引用発明の「リミッタ12」は、入力された送信データと可変電圧源から与えられるしきい値電圧の比較により2値信号を出力するから、本願発明の「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプ」に相当する。 引用発明の「レーザダイオード3」はリミッタ12の出力する0と1の信号が入力されて光信号を出力するから、本願発明の「リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプと、 前記リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部と、 を有し、前記基準信号のレベルは、所定のレベルであることを特徴とする電気光変換装置。」 で一致し、下記の点で相違する。 相違点 基準信号のレベルに関し、本願発明は、「前記リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」であるのに対し、引用発明では、記載が無い点。 相違点について、 引用発明におけるしきい値は、「デューティーが50%」で「歪みのない」光出力波形を得ることができる「しきい値」であるから、不安定な信号を出力しないレベルに設定しているといえる。 不安定な信号を出力しないレベルとしてどのようなレベルとするかは設計事項である。 請求項2-8について いずれも設計事項であるか、引用例1に記載されている。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平8-163046号公報 4.当審の判断 本願の特許請求の範囲及び明細書の記載は、平成28年9月5日付け手続補正による特許請求の範囲及び明細書に記載されたとおりである。 (1)特許法第36条第6項第2号について 当審が通知した「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」がどのようなレベルであるのか明確でないとした拒絶の理由(上記「3.当審の拒絶理由」の「理由A」の「請求項1について」を参照。)は、依然として解消されていない。その理由は下記のとおりである。 本願発明の「前記基準信号のレベルは、前記リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベルである」は、「基準信号のレベル」について、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベル」との関連において記載したものであることは明らかである。 しかし、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力」するレベルがどのようなレベルであるのか明確でないから、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベル」の範囲を示す「最大値より大きい又は最小値より小さい」所定のレベルが、どのようなレベルであるのかが、依然として明確でない。 当審が通知した拒絶の理由に記載したように、明細書の記載を参酌しても、「リミッティングアンプ26」については、本願明細書【0035】に、 「【0035】 リミッティングアンプ26は、入力信号のレベルがVth以上の場合にロジックレベルが1の出力信号を出力し、入力信号のレベルがVth未満の場合にロジックレベルが0の出力信号を出力する。」 と記載されているように、「リミッティングアンプ26」は、入力信号のレベルがVth以上の場合に「1」を出力し、入力信号のレベルがVth未満の場合に「0」を出力しており、これら「1」または「0」の出力は安定して出力されているということができる。 つまり「リミッティングアンプ26」は、入力信号がどのレベルであっても「1」または「0」を安定して出力するから、「不安定な信号を出力する」範囲は存在しない。 したがって、明細書の記載を参酌しても「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベル」がどのようなレベルであるのかが明確でないから、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」がどのようなレベルであるのかが明確でない。 また、その他の実施例にも、「不安定な信号を出力する」ことのできる「リミティングアンプ」の記載はない。 なお、請求人は、平成28年9月5日付けの意見書(以下「意見書」という。)において、 「リミッティングアンプは、図2(a)および図2(b)の時間T1のように、入力される電気信号の電圧と基準信号の電圧レベルVth(図2(a)参照)との比較に基づき、ロジックレベルが0又は1の2値信号(図2(b)参照)を出力するものです。入力信号が非常に小さい場合(例えば無信号状態の場合)、入力信号にノイズが重畳することがあります。また、半導体基板からのノイズにより、リミッティングアンプが誤動作することがあります。これらのノイズ等の大きさは製造ばらつき等に依存します。これらのノイズ等により、図2(b)の時間T3のように、リミッティングアンプの出力が不安定になります。この製造ばらつきも考慮した「リミッティングアンプの出力が不安定となる入力される電気信号のレベルの範囲の最大値」が図2(a)のVth1、「最小値」が図2(b)のVth2です。 以上のことは、図2、0020、0021、0025-0028段落の記載と出願時の当業者の技術常識から当業者には自明です。」 と主張している。 図2、0020、0021、0025-0028段落は、いずれも「実施例との比較のため」の「比較例」のリミッティングアンプ16の動作であって、【0035】に記載されるように、実施例のリミッティングアンプ26は、比較例とは異なり、Vth近傍であっても不安定な信号は出力しない。 仮に、本願発明の「リミッティングアンプ」として、意見書において主張する比較例の記載を考慮したとしても、本願の明細書【0021】に、 「【0021】 すなわち、リミッティングアンプ16は、入力信号の電圧レベルと基準信号の電圧レベルとの差の絶対値が所定の値以上の場合に、ロジックレベルが1又0の出力信号を出力する。リミッティングアンプ16は、入力信号の電圧レベルと基準信号の電圧レベルとの差の絶対値が所定の値未満の場合に、不安定な信号を出力する。所定の値の大きさは例えば2mVであり、リミッティングアンプ16の製造時のばらつき等に依存する。以下、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル以上である場合の所定の値を第1の閾値(Vth1)、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル未満である場合の所定の値を第2の閾値(Vth2)とする。」 と記載されているように、リミッティングアンプ16は、「入力信号の電圧レベルと基準信号の電圧レベルとの差の絶対値が所定の値未満の場合」に不安定な信号を出力する。 ここで、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベルと同じ場合を考えると、「差の絶対値」は「0」となるが、「絶対値0」が所定の値未満であることは自明であるから、入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベルと同じ場合は、リミッティングアンプ16は不安定な信号を出力する。つまり、入力信号のレベルとして「基準信号のレベル」は、「不安定な出力を行う入力信号のレベル」の範囲に含まれる。 これは、基準信号のレベルを「リミッティングアンプの出力が不安定となる前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」とすることはできないことを意味している。 そもそも、Vth1は「入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル以上である場合の所定の値」と定義されているから、基準信号の電圧レベルがVth1より高い電圧レベルとなることは、その定義上あり得ないことであり、同様に、Vth2は「入力信号の電圧レベルが基準信号の電圧レベル未満である場合の所定の値」と定義されているから、基準信号の電圧レベルがVth2より低い電圧レベルとなることは、その定義上あり得ないことである。 したがって、意見書の主張を考慮して、比較例のリミッティングアンプ16の動作を参酌しても、基準信号のレベルを、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベルである」とすることはできない。 上記のように、「リミッティングアンプが不安定な信号を出力する前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」がどのようなレベルであるのかが明確でないから、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (2)特許法第29条第2項について (2-1)引用例 特開平8-163046号公報(以下「引用例1」という。下線は当審が付与。)には、 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】この発明は光ファイバを伝送路とする光通信の光送信器に関するものである。」 「【0020】 【実施例】 実施例1.以下この発明の実施例1を図について説明する。図1において11は入力された送信データを一定振幅にして出力する入力バッファ、12は入力バッファ11の出力を受け送信データを変調器2に出力するリミッタ、13はリミッタ12にしきい値電圧を与える可変電圧源である。 【0021】次に動作について説明する。図6は実施例1における入力バッファ11、リミッタ12、変調器2の出力波形を示したものである。入力バッファ11に入力された送信データは一定振幅で、ある立ち上り立ち下り時間を有した0と1の連続する波形として出力される。この時点で1と0の長さの比は、1対1であり、以下デューティが50%であると言う。入力バッファ11の出力波形の平均値をV1 とするとリミッタ12に可変電圧源13より与えられしきい値電圧がV1 と等しいときには、リミッタ12から出力される波形のデューティは50%であるが、V1 より小さなV2 という値にしきい値電圧が設定されていると入力バッファ11の出力波形の立ち上り時間と立ち下り時間が等しいとしてデューティDは 【0022】 【数2】 【0023】となり、50%よりも大きくなる。尚ここでリミッタ12は利得は無限に大きくリミッタ12の出力波形はされて立ち上り時及び立ち下り時間はほぼ0であるとしている。リミッタ12の出力は変調器2に入力され変調器2からはリミッタ11の出力と同じくデューティが50%よりも大きい電流波形出力される。 【0024】図7は変調器2の出力電流とレーザダイオード3の光出力波形との関係を示すものである。レーザダイオード3はしきい値電流Ithまでは、ほとんど光らないので変調器2の電流出力波形のデューティが50%の場合、レーザダイオード3の光りはじめてから光り終るまでの長さつまり送信データの1に相当する長さt3とレーザダイオードが無発光の長さつまり送信データの0に相当する長さt4の比は図6、図7のように電流出力波形に立ち上り立ち下り時間が存在する場合、1対1にならずデューティは50%より小さくなる。そこで変調器2の出力電流波形のデューティを50%よりも大きくすることで光出力波形の1と0の比を1対1に調節することが可能となる。つまりリミッタ11に与えられるしきい値電圧を調整することでデューティが50%の歪みのない光出力波形を得ることができ、バイアス電流回路を必要としない送信器が実現できる。」 また、図1は下記のとおり の記載があり、「リミッタ11」は「リミッタ12」の誤記と認められるから、 「入力端子1から入力された送信データを一定振幅にして出力する入力バッファ11と、 入力バッファ11の出力を受け送信データを変調器2に出力するリミッタ12と、 リミッタ12にしきい値電圧を与える可変電圧源13を有し、 リミッタ12に与えられるしきい値電圧を調整することでデューティが50%の歪みのない光出力波形を得ることができ、 リミッタ12の出力を変調器2に入力し、変調器2の出力をレーザダイオード3に入力する 光送信器」 の発明が引用例1に記載されている。(以下「引用発明」という。) (2-2)本願発明と引用発明の対比 引用発明の「リミッタ12」は、入力された送信データと可変電圧源から与えられるしきい値電圧の比較により2値信号を出力するから、本願発明の「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプ」に相当する。 引用発明の「レーザダイオード3」はリミッタ12の出力する0と1の信号が入力されて光信号を出力するから、本願発明の「リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「入力される電気信号のレベルと、基準信号のレベルと、の比較に基づいて2値信号を出力するリミッティングアンプと、 前記リミッティングアンプが出力する前記2値信号に基づいて光信号を出力する光信号出力部と、 を有し、前記基準信号のレベルは、所定のレベルであることを特徴とする電気光変換装置。」 で一致し、下記の点で相違する。 相違点 基準信号のレベルに関し、本願発明は、「前記リミッティングアンプの出力が不安定となる前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」であるのに対し、引用発明では、そのような記載が無い点。 (2-3)当審の判断 相違点について 引用発明におけるしきい値は、「デューティーが50%」で「歪みのない」光出力波形を得ることができる「しきい値」であるから、不安定な信号を出力しないレベルに設定しているといえる。 そして、不安定な信号を出力しないレベルとしてどのようなレベルとするかは設計事項である。 また、本願発明が、基準信号のレベルとして「前記リミッティングアンプデューティーが50%」で「歪みのない」光出力波形を得ることができる「しきい値」であるから、不安定な信号を出力しないレベルに設定しているといえる。 そして、不安定な信号を出力しないレベルとしてどのようなレベルとするかは設計事項である。 また、本願発明が、基準信号のレベルとして「前記リミッティングアンプの出力が不安定となる前記入力される電気信号のレベルの範囲の最大値より大きい又は最小値より小さい所定のレベル」を採用したことによるとした効果も、「不安定な光信号の出力を抑制」という効果であって、引用発明の効果と同じである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-10-17 |
結審通知日 | 2016-10-18 |
審決日 | 2016-11-02 |
出願番号 | 特願2011-108622(P2011-108622) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H04B)
P 1 8・ 121- WZ (H04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 貴裕 |
特許庁審判長 |
近藤 聡 |
特許庁審判官 |
佐藤 智康 吉田 隆之 |
発明の名称 | 電気光変換装置 |
代理人 | 片山 修平 |
代理人 | 片山 修平 |