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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1322985
審判番号 不服2015-13639  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-17 
確定日 2016-12-16 
事件の表示 特願2013-548329「モバイルデバイスにおけるオーディオ信号の品質測定」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日国際公開、WO2012/096417、平成26年 4月17日国内公表、特表2014-509467〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯と本願発明
本願は、2011年1月11日を国際出願日とする出願であって、平成27年3月23日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成28年2月29日付けで拒絶理由が通知され、同年5月10日付けで手続補正がなされたものである。
その請求項1に係る発明は、平成28年5月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「モバイルデバイスであって、
表示ユニットを備える別のモバイルデバイスから送信されたオーディオ信号を受信するように構成された受信ユニットと、
前記受信したオーディオ信号の品質を測定するように構成されたオーディオ品質測定ユニットと、
当該モバイルデバイスのネットワーク接続性を測定するように構成されたネットワーク接続性測定ユニットと、
当該モバイルデバイスの周囲の背景ノイズレベルを測定するように構成された背景ノイズ測定ユニットと、
前記別のモバイルデバイスが備える前記表示ユニットにおいて前記オーディオ信号の前記測定した品質と前記測定したネットワーク接続性と前記測定した背景ノイズレベルとを表示するために、前記オーディオ信号の前記測定した品質と前記測定したネットワーク接続性と前記測定した背景ノイズレベルとを前記別のモバイルデバイスに送信するように構成された送信ユニットと
を備える、モバイルデバイス。」

第2 引用例
(1)引用例1
平成28年2月29日付けで当審が通知した拒絶理由に引用された特開2010-199741号公報 (以下、「引用例1」という。)には、「携帯電話端末装置」(発明の名称)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術では、発話した情報が受話側に正しく伝達できているか否かを発話側で判断することができず、コミュニケーションを円滑に進めることができないという問題があった。
【0008】
例えば、受話音声の品質を高め、認識確率を向上させても、受話側の受話音声がクリアになるだけで、発話側は、発話した情報が受話側に正しく伝達できているか否かを判断することはできない。
【0009】
同様に、無線伝送路上で欠落した音声を受話側の携帯電話端末装置で補完しても、例えば、携帯電話端末装置から出力された音声が、受話者の耳に到達するまでの間に、受話者の周囲環境の騒音やノイズ等の周辺音により、かき消された場合、受話側は、発話した情報を正しく認識することができない。
【0010】
したがって、発話側は、受話側が発話した情報を認識できていない状況にも関わらず、通話し続けてしまい、話者間での誤解等招き、円滑にコミュニケーションを進めることができない。
【0011】
また、電波状態が良好で、発話した情報が相手側に到達したとしても、到達した情報に発話した情報のみならず周囲の雑音も含まれていた場合に、受話側は、発話した情報を正しく認識することができない。
【0012】
この場合においても、発話側は、受話側が通話情報を認識できていないにも関わらず、受話側に一方的に発話し続けてしまう可能性がある。その結果、話者間での誤解やトラブルが発生しやすく、円滑にコミュニケーションを進めることができない。
【0013】
本件開示の装置は、円滑なコミュニケーションの実現を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、携帯電話端末装置は、自携帯電話端末装置の利用者により入力された音声の音量と、前記携帯電話端末装置周辺の音量を含む周辺音の音量とを比較して、前記利用者の音声が相手側の携帯電話端末装置に正しく伝達されているか否かを判断する発話音量判断手段と、前記発話音量判断手段の判断結果を出力する出力手段とを備えたことを要件とする。」(3ページ?4ページ)

イ「【0024】
次に、実施例1の前提となる携帯電話端末装置システムの構成について説明する。図2は、実施例1に係る携帯電話端末装置システムについて説明するための図である。図1には、電話網200を介して、携帯電話機100aおよび携帯電話機100bが相互に通話を行う例を示している。
【0025】
電話網200は、携帯電話機100aおよび携帯電話機100bに、通話情報を伝送する手段で、基地局200aと、基地局200bと、交換機200cと、交換機200dと、交換機200eとを有する。
【0026】
そして、電話網200に含まれる各種装置は、携帯電話機100aや携帯電話機100bが、発話した情報の不伝達を検出した場合に、その旨を相手側の携帯電話機に通知する機能を具備する。
【0027】
次に、実施例1に係る携帯電話端末装置の構成について説明する。図3は、実施例1に係る携帯電話端末装置の構成を示す図である。図3に示すように、携帯電話端末装置100は、マイク101と、スピーカ113と、無線部114と、制御部115とを有する。
【0028】
マイク101は、発話者が発話した音声や、周辺の雑音や騒音、ノイズといった周辺音を取得し、発話音変換部102に取得した情報を入力する手段である。
【0029】
スピーカ113は、発話した情報が受話側に伝達できていない状況を示す音声の再生や、通話情報が示す音声を再生する手段である。
【0030】
無線部114は、携帯電話端末装置で行う通常の無線通信機能の他に、本発明に密接に関連するものとして、通話先の携帯電話端末装置使用者に対して、発話した情報が受話者に伝達できていない旨を示す情報を出力する手段である。
【0031】
制御部115は、携帯電話端末装置100のユーザが発話した情報を各種制御する手段で、発話音変換部102と、人語判断部103と、発話音量判断部104と、受話音変換部105と、人語判断部106と、音量比較判断部107と、受話/発話監視・判断部108と、ユーザ通知部109と、通話先通知部110と、ディスプレイ制御部111と、バイブレータ制御部112とを有する。」(5ページ?6ページ)

ウ「【0050】
音量比較判断部107は、発話音変換部102と人語判断部106とから入力された情報に基づいて、受話音声が正しく受話側に伝達できたか否かを判断し、受話音声が受話側に伝達できていないと判断した場合に、その判断結果をユーザ通知部109へ入力する手段である。
【0051】
この音量比較判断部107が行う判断動作について図3および図5を用いて説明する。図5は、音量比較判断部が行う判断動作を説明するための図である。なお、図5に示した携帯電話機100aおよび携帯電話機100bは、図3に示した携帯電話端末装置100に相当するものとし、説明の便宜上、携帯電話機100aを発話側端末、携帯電話機100bを受話側端末として、図示する。
【0052】
まず、発話者10が携帯電話機100aを使用して発話し、発話した情報が、電話網200(図2参照)を介して、携帯電話機100bに到達する(ステップS20)。
【0053】
その後、発話した情報が、受話音変換部105を介し、人語判断部106に入力される。また、携帯電話機100bの周囲雑音が、マイク101を介し、発話音変換部102に入力される(ステップS21)。
【0054】
続いて、音量比較判断部107は、発話音変換部102から入力される騒音やノイズといった周辺音等を受け取り、受け取った周辺音等が含む音量を周囲雑音量として保持する。また、音量比較判断部107は、人語判断部106から言語情報に含まれる言葉音量を受け取り、その言葉音量が示す音量を受話音量として保持する。
【0055】
そして、音量比較判断部107は、周囲雑音量と受話音量とを比較し、受話音量が十分に大きいか否かを判断し、受話音量が十分に大きいと判断できなかった場合に、受話音声が受話者20に伝達できていないと判断する(ステップS22)。
【0056】
上述したステップS22にて示した判断は、例えば、以下に示す式(2)と閾値Yとを用いて説明するものとする。
【0057】
式(2);(受話音量C/周囲雑音量D)≦Y(定数)
【0058】
式(2)によれば、音量比較判断部107は、受話音量C(単位;デシベル)を周囲雑音量D(単位;デシベル)で割った値が、定数Y以下であれば、受話音量が十分に大きいと判断しない。
【0059】
一方、音量比較判断部107は、受話音量Cを周囲雑音量Dで割った値が、定数Yを超えていた場合に、受話音量が十分に大きいと判断する。なお、上述した定数Yは、携帯電話端末装置を使用して通話が成立する閾値を示し、任意に設定することができるものとする。
【0060】
例えば、閾値Yを0.7として、受話音量が40db、周囲雑音量が100dbであれば、式(2)より、音量比較判断部107は、受話音量が十分に大きいとは判断せずに、受話音声が受話者20に伝達できていないと判断する。
【0061】
40/100(=0.4)≦0.7
【0062】
そして、受話音声が受話者20に伝達できていないと判断した場合に、携帯電話機100bは、その判断結果を、受話者20に、使用者への通知部109を介して通知する。一方、発話者10に対しても、通話先通知部110を介して通知する(ステップS23)。
【0063】-【0079】(中略)
【0080】
例えば、携帯電話端末装置100が発話側の携帯電話端末装置として使用された場合、ユーザ通知部109は、発話した情報が受話者(例えば、受話者20;図2参照)に伝達できていない旨を示す情報をディスプレイやバイブレータの動作等を通じて発話者(例えば、発話者10;図2参照)へ通知する。
【0081】
一方、受話側の携帯電話端末として使用された場合、ユーザ通知部109は、受話した情報が受話者(例えば、受話者20;図2参照)に伝達できていない旨を示す情報をディスプレイへの表示やバイブレータの動作を通じて受話者20へ通知する。
【0082】
通話先通知部110は、ユーザ通知部109からの通知を受けて、「発話した情報が受話側に伝達できていない状況」を示す情報を通話先の携帯電話端末装置へ通知する手段である。」(7ページ?10ページ)

エ「【0121】
次に、実施例2に係る携帯電話端末装置の概要について説明する。実施例2に係る携帯電話端末装置は、受話側の携帯電話端末装置として使用された際に、受話側の周囲雑音等の影響により、通話情報が欠落しているか否かを判断し、欠落していると判断した場合は、発話者にアラーム音を通知する。
【0122】
図12は、実施例2の概要を説明するための図である。図12では、まず、話者10が携帯電話機300aを使用し、話者20が携帯電話機300bを使用し、通話している。そして、話者10が、携帯電話機300aに、「9時集合」と発話した場合を例に挙げる(ステップS50)。なお、以下、説明の便宜上、話者10を発話者10とし、話者20を受話者20とする。
【0123】
その後、発話者10の発話した情報「9時集合」が、電話網200(図2参照)を介して、携帯電話機300bに到達し、携帯電話機300bのスピーカを介して、受話者20の耳までに到達する。
【0124】
この間、例えば、携帯電話機300b内の集音部(図示省略)が、携帯電話機300bの周囲雑音等を取得した場合、その取得した周囲雑音等の影響を受け、「9時集合」がかき消された状態で受話者20の耳に伝達された場合に(ステップS51)、携帯電話機300bは、発話者10が発話した情報が、欠落した状態で受話者20に伝達されたと判断し、携帯電話機300aに「欠落アラーム」を通知する(ステップS52)。」(13ページ?14ページ)

オ「【0170】
なお、これまで、実施例1と実施例2とを例に挙げ、別々に説明してきたが、実施例1に示す携帯電話端末装置100と、実施例2に示す携帯電話端末装置300との各処理部を組合せて構成しても良いものとする。」(18ページ)

上記摘記事項ア乃至オの記載及び図面並びにこの分野における当業者の技術常識を考慮すると、

a 摘記事項イの【0030】、【0031】、摘記事項ウの【0052】、【0080】の記載と図3とから、「携帯電話端末装置」は、「ディスプレイを備える発話側の携帯電話端末装置から送信された発話した情報を受信する無線部」を備えているといえる。
b 摘記事項イの【0030】、摘記事項ウの【0054】?【0062】、【0080】の記載と図3、図5とから、「携帯電話端末装置」は、「前記受信した発話した情報についての受話音声が受話者に伝達できているか判断するとともに当該携帯電話端末装置の周囲雑音量を保持する音量比較判断部と前記発話側の携帯電話端末装置が備える前記ディスプレイにおいて前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を表示するために、前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を前記発話側の携帯電話端末装置に送信する無線部と」を備えているといえる。

以上を総合すると、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「携帯電話端末装置であって、
ディスプレイを備える発話側の携帯電話端末装置から送信された発話した情報を受信する無線部と
前記受信した発話した情報についての受話音声が受話者に正しく伝達できているか判断するとともに、当該携帯電話端末装置の周囲雑音量を保持する音量比較判断部と
前記発話側の携帯電話端末装置が備える前記ディスプレイにおいて前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を表示するために、前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を前記発話側の携帯電話端末装置に送信する無線部と
を備える、携帯電話端末装置。」

(2)引用例2
同じく平成28年2月29日付けで当審が通知した拒絶理由に引用された特開2006-352612号公報(以下、「引用例2」という。)には、「音声通信方法」(発明の名称)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

カ「【0007】
通信遅延が大きくなると、発話してから通信相手に聞こえるまでの時間が長くなるため、複数の話者が同時に発話する同時発話が発生する確率が高まる。同時発話は円滑な会話の障害になる。定常的に遅延が大きい場合は話し方の工夫である程度同時発話をさけることができるが、パケット廃棄による遅延は突然増加する性質があるため、突然遅延が増加した場合は円滑に会話を進めることが困難である。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
IPを利用する通信ではパケット廃棄は発生することが一般的であるため、TCPの再送制御により通信遅延が大きくなることを、避けることは難しい。しかし、通信遅延が一時的に増加していることをユーザに表示することができれば、ユーザは同時発話の可能性が高まることを事前に知ることができ、しゃべり方を工夫すれば、円滑な会話をすすめやすい。しゃべり方の工夫の一例としては遅延が一時的に増加した場合は、発話中のものはそのまま発話し、次にしゃべる予定のものは遅延が減少したという表示がでるまで発話を開始しないという方法が考えられる。
【0009】
このように、音声通信でTCPを利用する場合においては、遅延が一時的に増加していることをユーザに表示することができれば、従来に比較して円滑な会話を行うことができる。」(3ページ)

キ「【0020】
(実施形態1) 図1に音声通信端末10の構成図を示す。図1に示すように、音声通信端末10は通信部11、制御部12、パケット送受信部13、遅延感知部14、表示部15、音声データ処理部16、D/A変換部17、スピーカ18、マイク19、及びA/D変換部20を有している。
【0021】
通信部11は端末間でのデータの送受信を通信回線により行う。通信部11には、例えば、ネットワークカード等を用いることができる。
【0022】
パケット送受信部13はデータを受信して遅延感知部14にその旨を通知する。また、受信したデータであるパケットの再配列、及び送信するデータをパケット化して相手方端末に送信する。パケット送受信部13には、例えば、HDD、不揮発メモリ、ROM等に記憶されたTCPを備えたOSを用いることができる。
【0023】
遅延感知部14はパケット送受信部13からパケットを受信した旨の通知を受信し、当該パケットID及び時刻をメモリに記憶する。そして、記憶してあるn個前のパケット受信時刻を参照して遅延が生じているかを判断し、その旨を表示部15に送信する。遅延感知部14には、例えば、HDD、不揮発メモリ、ROM等に記憶された遅延感知プログラムを用いることができる。
【0024】
表示部15は遅延感知部14から送信される情報をユーザに表示する。
【0025】
音声データ処理部16は、例えば、パケット送受信部13から受信した音声データがデジタル圧縮されているときはこれを解凍してD/A変換部17に送信する、及びA/D変換部20から受信した音声データをデジタル圧縮してパケット送受信部13に送信する等の処理を行う。音声データ処理部16には、例えば、HDD、不揮発メモリ、ROM等に記憶された遅延感知プログラムを用いることができる。
【0026】
制御部12は、パケット送受信部13、遅延感知部14、音声データ処理部16を制御する。制御部12には、例えば、CPUを用いることができる。
【0027】
音声データの通信は、一定サイズのデータを一定間隔で送信することを特徴とする。送信間隔は、例えば、20ms毎に行うこととする。また、図2に示すように音声データのヘッダ部にはシーケンス番号を付与し、データ長さも付与する。
【0028】
パケット送受信部13におけるパケットの送信受信には、TCPを利用する。TCPは再送制御や順序訂正等をおこなうため、TCPソケット(TCPのプログラムインタフェース)から受けとるデータには抜けがなく、順序も入れ替わりもない。
【0029】
ここでは、パケットの送信間隔が一定であるため、受信間隔の計測により、遅延の増減を計算することができる。受信間隔はパケット送受信部13がパケットを受信したときにその旨を遅延感知部14に通知し、遅延感知部14がクロックを読み出して(受信時刻を取得)、以前のパケットの受信時刻の差を計算する。
【0030】
TCPの場合、送信側で20ms分のデータをTCPソケットに送ったとしても、受信側のTCPソケットでは20ms分ちょうどのデータを必ずしも受け取るのではなく、データがまとまったり、分割されたりするが、20ms分全てがそろったときを受信時刻とする。ヘッダ部にデータ長さが付与されているため、20ms分のデータがそろったかどうかは簡単に判別できる。
【0031】
遅延が徐々に増加(減少)する場合もあるため、遅延感知部14では設定個数分の間の受信間隔を計測し、累積遅延の計測を行う。遅延の増減は、
△(n)=(最近のデータの受信時刻-n個前のデータの受信時刻)-20×n(ms)と計算する。
【0032】
先に記した計算により求められる△(n)の大きさにより以下のような表示をおこなう。
【0033】
表示部15は遅延の増加量が設定値を超えた場合に表示をおこなう。例えば、図3に示すように、設定値を3つ設ける。3つの設定値は順に60ms,120ms,400msとする。
△(n)が60msより小さい場合は、なにも表示をしない。
△(n)が60msを超えれば、黄色の点滅を表示し、120msを超えれば赤の点滅を表示するとともに表示を長くする。△(n)が400msを越えれば、赤の表示をさらに長くする。
【0034】
なお、表示は色や点滅で表示してもよいし、数値で表示してもよい。
【0035】
また、表示部15、スピーカ18、及びマイク19を音声通信端末として構成し、通信部11、制御部12、パケット送受信部13、遅延感知部14、D/A変換部17、及びA/D変換部20を音声通信端末とネットワークとの間に配置されるコンピュータ内に構成することが可能である。この場合には、コンピュータ内の遅延感知部14が遅延情報を音声通信端末の表示部15に送信する。
【0036】
(実施形態2) 実施形態1では△(n)を計測した側で遅延の大きさを表示したが、実施形態2では図4に示すように、音声通信端末41が算出した△(n)を2地点通信の通信相手端末42に送信し、通信相手端末42の側で実施形態1のように表示をおこなう。」(4ページ?6ページ)

上記摘記事項カ、キの記載及び図面並びにこの分野における当業者の技術常識を考慮すると、
c 摘記事項キの【0036】と図4より、「通信相手端末42」は、音声データを発信する音声通信端末、「音声通信端末41」は音声データを受信し遅延の大きさを計測し「通信相手端末42」に送信する音声通信端末であり、それぞれを「発信側の音声通信端末」、「受信側の音声通信端末」と称することは任意である。
d 摘記事項キの【0023】、【0031】、【0032】より、「遅延感知部」は、受信した音声データの遅延の大きさを計測している。
e 摘記事項カの【0007】?【0009】より、音声通信端末は音声データ遅延の可能性のあるネットワークを用いることを前提としている。
以上を総合すると、上記引用例2は、以下の技術事項(以下、「引用例2技術事項」という。)が記載されていると認める。
「音声データ遅延の可能性のあるネットワークを用いることを前提として、発信側の音声通信端末において受信側で受信した音声データの遅延の大きさを表示するために、受信側の音声通信端末の遅延感知部で計測した前記受信した音声データの遅延の大きさを前記発信側の音声通信端末に送信すること。」

第3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明の「携帯電話端末装置」は、本願発明の「モバイルデバイス」に含まれる。
(2)引用発明の「ディスプレイを備える発話側の携帯電話端末装置」、「発話した情報」は、それぞれ本願発明の「表示ユニットを備える別のモバイルデバイス」、「オーディオ信号」に含まれる。
(3)引用発明の「音量比較判断部」は、受信した発話した情報が受話者に正しく伝達できているか判断するものであり、受話者に正しく伝達できているかという観点で受信した発話した情報の品質を測定しているといえる。そして、上記(2)の検討の結果を踏まえると、引用発明の「音量比較判断部」は、本願発明の「オーディオ品質測定ユニット」に含まれる。
(4)引用発明の「当該携帯電話端末装置の周囲雑音量」は、本願発明の「当該モバイルデバイスの周囲の背景ノイズレベル」に含まれる。そして、引用発明の「音量比較判断部」は、「周囲雑音量」を保持するために「周囲雑音量」を測定していることは明らかであるから、本願発明の「背景のノイズ測定ユニット」に含まれる。
(5)引用発明の「前記発話側の携帯電話端末装置が備える前記ディスプレイ」は、本願発明の「前記別のモバイルデバイスが備える前記表示ユニット」に相当する。
(6)上記(1)乃至(3)、(5)の検討の結果を踏まえると、引用発明の「前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を表示するために、前記発話した情報についての前記受話音声が受話者に伝達できているかの判断結果を前記発話側の携帯電話端末装置に送信する無線部」と本願発明の「前記オーディオ信号の前記測定した品質と前記測定したネットワーク接続性と前記測定した背景ノイズレベルとを表示するために、前記オーディオ信号の前記測定した品質と前記測定したネットワーク接続性と前記測定した背景ノイズレベルとを前記別のモバイルデバイスに送信するように構成された送信ユニット」とは、「前記オーディオ信号の前記測定した品質を表示するために、前記オーディオ信号の前記測定した品質を前記別のモバイルデバイスに送信するように構成された送信ユニット」の点で共通する。

以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。
(一致点)
「モバイルデバイスであって、
表示ユニットを備える別のモバイルデバイスから送信されたオーディオ信号を受信するように構成された受信ユニットと、
前記受信したオーディオ信号の品質を測定するように構成されたオーディオ品質測定ユニットと、
当該モバイルデバイスの周囲の背景ノイズレベルを測定するように構成された背景ノイズ測定ユニットと、
前記別のモバイルデバイスが備える前記表示ユニットにおいて前記オーディオ信号の前記測定した品質を表示するために、前記オーディオ信号の前記測定した品質を前記別のモバイルデバイスに送信するように構成された送信ユニットと
を備える、モバイルデバイス。」

(相違点1)
本願発明は「当該モバイルデバイスのネットワーク接続性を測定するように構成されたネットワーク接続性測定ユニット」を備え、「前記別のモバイルデバイスが備える前記表示ユニットにおいて」「前記測定したネットワーク接続性」「を表示するために、」「前記測定したネットワーク接続性」を「前記別のモバイルデバイスに送信する」のに対し、引用発明は、そのような構成がない点。

(相違点2)
一致点の「背景ノイズレベル」に関し、本願発明は、更に「前記別のモバイルデバイスが備える前記表示ユニットにおいて」「前記測定した背景ノイズレベルを表示するために、」「前記測定した背景ノイズレベルを」「前記別のモバイルデバイスに送信する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

そこで、上記(相違点1)について検討する。
本願発明の「測定したネットワーク接続性」に関し、本願明細書の【0027】に「ネットワーク接続性は、ネットワークの遅延または待ち時間などの環境的な問題によって劣化する可能性がある。(中略)ネットワーク接続性測定ユニット140はモバイルデバイス100の現在のネットワーク接続性を監視し、モバイルデバイス100の現在のネットワーク接続性のレベルを測定してもよい。」と記載されていることから、本願発明の「測定したネットワーク接続性」は、測定したネットワークの遅延を含むと解される。
次に、「第2 引用例」の項中の「(2)引用例2」の項に記載したように、音声データ遅延の可能性のあるネットワークを用いることを前提として、「発信側の音声通信端末において受信側で受信した音声データの遅延の大きさを表示するために、受信側の音声通信端末の遅延感知部で測定した前記受信した音声データの遅延の大きさを前記発信側の音声通信端末に送信すること。」(引用例2技術事項)は、公知である。
そして、本願発明の「測定したネットワーク接続性」は、上記検討したように測定したネットワークの遅延を含むと解されるので、引用例2技術事項の「計測した前記受信した音声データの遅延の大きさ」は、本願発明の「測定したネットワーク接続性」に含まれる。
他方、引用発明の「携帯電話端末装置」に関し、「携帯電話端末装置」と無線基地局との間の電波状態によりネットワークで伝送遅延が生ずる可能性があることは、周知の事項である。
よって、引用発明と引用例2技術事項とは、受信した音声信号について正しく伝達できているかを判断する手段を通信端末に設けるとともに、伝送遅延の可能性のあるネットワークを用いることを前提とする点で共通する。
さらに、引用文献1の摘記事項オの【0170】には、「実施例1に示す携帯電話端末装置100と、実施例2に示す携帯電話端末装置300との各処理部を組合せて構成しても良いものとする。」と記載され、異なる判断手段を組み合わせて携帯電話端末装置に設けることが示唆されている。
してみると、引用発明に引用例2技術事項を適用し、引用発明の「携帯電話端末装置」において、「音量比較判断部」に加えて、引用例2技術事項の「遅延感知部」を付加し、送話側の携帯電話端末装置のディスプレイで前記「遅延感知部」で計測した受信した音声データの遅延の大きさを表示するため、前記「遅延感知部」で計測した前記受信した音声データの遅延の大きさを前記送話側の携帯電話端末装置に送信すること、すなわち、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

次に、(相違点2)について検討する。
通信品質についての判定結果を表示する際に、判定結果のみならず、判定に用いた主たる測定結果を併せて表示することは、周知技術(例えば、特開平9-162864号公報【0011】【0012】、特開2008-211361号公報【0049】、図4参照)である。
引用発明に上記周知技術を適用し、発話した情報についての受話音声が受話者に伝達できているかの「判断結果」を判断する際に用いた「周囲雑音量」を、発話側の携帯電話端末装置において、「判断結果」とともに表示するよう構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。そのために、「音量比較判断部」で測定した「周囲雑音量」を発話側の携帯電話端末装置に送信するよう構成すること、すなわち、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

そして、本願発明が奏する作用効果も、引用発明及び引用例2技術事項に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が予測できる範囲内のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2技術事項に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
 
審理終結日 2016-07-25 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-08 
出願番号 特願2013-548329(P2013-548329)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 淳  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 大塚 良平
林 毅
発明の名称 モバイルデバイスにおけるオーディオ信号の品質測定  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 土屋 徹雄  

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