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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01B |
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管理番号 | 1322996 |
審判番号 | 不服2016-5753 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-04-18 |
確定日 | 2017-01-10 |
事件の表示 | 特願2011-274849「トレッド厚さ測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月24日出願公開、特開2013-124977、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許出願: 平成23年12月15日 拒絶査定: 平成28年1月12日(送達日:同年同月19日) 拒絶査定不服審判の請求: 平成28年4月18日 手続補正: 平成28年4月18日 (以下、「本件補正」という。) 前置報告: 平成28年6月24日 第2 本件補正の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を、 (補正前) 「【請求項1】 水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す前に、当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧する工程と、 前記水槽の液体に浸されたトレッド表面に向けて超音波を発振し、反射波を受信してタイヤの最外に位置するベルトの深さを測定する工程と、 を備えたトレッド厚さ測定方法。 【請求項2】 前記ベルトの深さの測定前に、水槽内に貯留される液体を水流として、浸されたトレッド表面に噴出する工程をさらに備える請求項1に記載のトレッド厚さ測定方法。」 (補正後) 「 【請求項1】 水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す前に、当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧し、霧状の前記液体を付着させる工程と、 前記水槽の液体に浸されたトレッド表面に向けて超音波を発振し、反射波を受信してタイヤの最外に位置するベルトの深さを測定する工程と、 を備えたトレッド厚さ測定方法。 【請求項2】 前記ベルトの深さの測定前に、水槽内に貯留される液体を水流として、浸されたトレッド表面に噴出する工程をさらに備える請求項1に記載のトレッド厚さ測定方法。」(下線は補正箇所。) とする補正(以下、補正事項1という。)を含むものである。 2.補正の適否 本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧する工程」に関し、 該工程が、 「霧状の前記液体を付着させる工程」であるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 ア 刊行物の記載事項 (ア)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-18731号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「タイヤのブレーカーRRO測定方法及び装置」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(b)が図面とともに記載されている。(下線は当審による。) (a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、タイヤのブレーカーRRO測定方法及び装置に関するものである。 ・・・ 【0003】また超音波厚み計4 を用いる場合には、図4に示すように、タイヤ2 のトレッド3 の表面にワセリン等を介して超音波ヘッド4 を密着させ、タイヤ2 のワイヤーブレーカー5 までの距離、即ち、トレッドゲージを測定する方法を採っている。」 (b) 「【0008】 【作用】測定に際しては、タイヤ13を回転軸12に装着し、タイヤ13の少なくとも測定部位を水槽10の水中に入れてタイヤ13を回転軸12廻りに回転させる。そして、水中の超音波ヘッド14からタイヤ13の径方向の中心側に向かって超音波を発信し、ブレーカー16から反射する超音波を超音波ヘッド14により受信する。 ・・・ 【0010】 【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図1において、10は水11を入れた水槽である。12は水槽10の上に横方向に配置された回転軸で、この回転軸12に、約下半分程度の被測定部位が水槽10の水11中に入るようにタイヤ13が着脱自在に装着されている。14は水槽10の水11中に配置された超音波ヘッドで、発信子と受信子とを備え、発信子から水11を経てタイヤ13に対して径方向中心に向かって超音波を発信し、タイヤ13のトレッド15及びワイヤーブレーカー16の各表面で反射した超音波を受信子で受信するようになっている。17は超音波ヘッド14に接続された制御演算部であり、この超音波ヘッド14及び制御演算部17により超音波変位計18が構成されている。 ・・・ 【0012】またタイヤ13が水11の中にあるので、図2に示すように超音波はトレッド15の表面からトレッドゴム19内に入り、ブレーカー16の表面で反射する。このため、このブレーカー16の表面で反射した超音波を受信子で受信すれば、トレッド15の表面からブレーカー16の表面までの距離d2を測定できる。従って、d=d1+d2を求めれば、超音波ヘッド14からブレーカー16までの距離dが求まるので、タイヤ13の全周にわたって同様の測定を行なうことによって、ブレーカーRROを連続的に効率良く測定できる。」 上記記載(a)ないし(b)の記載から、刊行物1には、 「タイヤ13の少なくとも測定部位を水槽10の水中に入れ、水中の超音波ヘッド14から超音波を発信し、ブレーカー16から反射する超音波を超音波ヘッド14により受信してトレッド15の表面からブレーカー16の表面までの距離d2を測定する、トレッドゲージを測定する方法」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (イ)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-240529号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「被測定物の厚さ測定方法及び厚さ測定装置」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(c)が図面とともに記載されている。(下線は当審による。) (a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、レンズのような被測定物の厚さ測定方法及び厚さ測定装置に関する。」 (b) 「【0023】図1に示す厚さ測定装置において、超音波プロープ16は、その先端に構成した超音波の送受を行う超音波振動子(以下「振動子」という)17を上方に向けた状態で、上部が開口した箱型状の恒温槽22の中に配置している。恒温槽22は超音波が伝搬可能な液状伝搬物質である液15を貯溜するが、この液15としは、水、研削液、油、シリコン、アルコール等から選定することができ特別限定されるものではない。」 (c) 「【0034】(実施の形態2) (構成)本発明の実施の形態2の構成においては、図4に示すように、既述した実施の形態1のブラシ24の替わりにノズル28を含む放液機構を用いることが特徴である。ノズル28は中空形状に構成され、ポンプ等(図示しない)に連結されて、その先端から液29(液15と同様な成分の液)を放液するものである。この他の構成は実施の形態1の場合と同様である。 【0035】(作用)本実施の形態2において、ノズル28の先端部をレンズ18の表面に向かって位置決めした後、レンズ18の表面に対して液29の放液を行う。このノズル28からの液29の放液は、恒温槽22中において実施し気泡を吹き流してもよいし、レンズ18を液15中に浸漬する前段階で表面に対して放液し表面を濡らすようにしてもよい。 【0036】(効果)本実施の形態2によれば、恒温槽22中においてノズル28から液29の放液を行う場合、レンズ18の表面に付着した気泡27を放液によって吹き流すことが可能となり、気泡27が生じた場合においても正確な測定が可能となる。 【0037】また、レンズ18を恒温槽22内の液15に浸漬する前に、ノズル28からレンズ18に対して放液する場合、レンズ18の表面が予め濡れることとなる。これにより、レンズ18の表面は液15に対してなじみ易くなり、搬送部23の動作で恒温槽22内の液15内にレンズ18を搬送した際においても、その表面に気泡27が生じにくいという効果を奏する。 【0038】尚、本発明は、レンズ18の厚さ測定の他、ある厚さを有し表面及び裏面で超音波が反射するような物体の厚さ測定に適用できる。」 (ウ)刊行物3 前置報告において新たに引用された特開昭63-134909号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「アスファルト層等の厚み測定方法および装置」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(c)が図面とともに記載されている。(下線は当審による。) (a) 「この発明は、たとえばコンクリート造地下タンク等の壁体の表面に形成した防水アスファルト層等の厚みを計測する方法、およびそのための装置に関するものである。」(第1ページ左欄第16行?第19行) (b) 「・・・この押圧シャフト29の先端には、超音波厚み計30(超音波探傷器、第4図参照)の探触子31が固定ボルト32により取り付けられ、この探触子31のリード線33は厚み計本体34(第4図参照)に接続されている。超音波厚み計30は、周波数0.5MHz程度の超音波を厚み計本体34から探触子31を通してアスファルト層Aに入力することで、そのアスファルト層Aの厚みを非破壊的に測定するものであり、・・・」(第3ページ右上欄第12行?第20行) (c) 「さらに、前記ベースフレーム21の下面先端部には、ホース43を通して供給された水またはグリスをアスファルト層Aに対して吹き付けるための噴霧ノズル44が取り付けられている。この噴霧ノズル44は、厚み測定に際して探触子31とアスファルト層Aとの間に空気が介在すると測定精度が低下してしまうので、測定に先立ってアスファルト層A表面に水膜または油膜を形成させることによってそれを防ぐためのものである。」(第3ページ右下欄第16行?第4ページ左上欄第4行) イ 対比 補正発明1と引用発明とを対比する。 まず、引用発明において「タイヤ13の少なくとも測定部位を水槽10の水中に入れ」ることは、補正発明1において「水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す」ことに相当するから、引用発明において「タイヤ13の少なくとも測定部位を水槽10の水中に入れ」る点と、補正発明1において「水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す前に、当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧し、霧状の前記液体を付着させる工程」とは、共に「水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す工程」である点で共通するといえる。 また、引用発明の「トレッド15の表面からブレーカー16の表面までの距離d2」は、補正発明1の「タイヤの最外に位置するベルトの深さ」に相当するものであるから、引用発明において「水中の超音波ヘッド14から超音波を発信し、ブレーカー16から反射する超音波を超音波ヘッド14により受信してトレッド15の表面からブレーカー16の表面までの距離d2を測定する」ことは、補正発明1における「前記水槽の液体に浸されたトレッド表面に向けて超音波を発振し、反射波を受信してタイヤの最外に位置するベルトの深さを測定する工程」に相当する。 また、引用発明の「トレッドゲージを測定する方法」は、補正発明1の「トレッド厚さ測定方法」に相当する。 してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す工程と、 前記水槽の液体に浸されたトレッド表面に向けて超音波を発振し、反射波を受信してタイヤの最外に位置するベルトの深さを測定する工程と、 を備えたトレッド厚さ測定方法。」 (相違点) 補正発明1においては、「水槽に貯留された液体に被検体であるタイヤのトレッド表面を浸す前に、」際して、「当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧し、霧状の前記液体を付着させる」とされているのに対し、引用発明においてはそのような噴霧処理は行われていない点。 ウ 判断 上記相違点について検討する。 上記のように、補正発明1においては「当該トレッド表面に前記液体と同一の液体を噴霧し、霧状の前記液体を付着させる」とされているが、このような工程を引用発明は有しておらず、また刊行物1の記載から自明であるともいえない。 また、上記刊行物2には、「超音波プロープ16を用いる、レンズのような被測定物の厚さ測定方法において、レンズ18を恒温槽22内の液15に浸漬する前に、ノズル28からレンズ18に対して放液し、その表面に気泡27が生じにくいという効果を奏する」技術(以下、「技術事項1」という。)について記載されてはいるが、その処理は「放液」するとされているのみであって、補正発明1のように「霧状の前記液体を付着させる」ものではない。したがって、相違点に係る構成は刊行物2には記載も示唆もされていない。 一方、上記刊行物3には、「超音波厚み計を用いる、壁体の表面に形成した防水アスファルト層等の厚みを計測する方法であって、噴霧ノズル44で水またはグリスをアスファルト層Aに対して吹き付け、測定に先立ってアスファルト層A表面に水膜または油膜を形成させて、探触子31とアスファルト層Aとの間に空気が介在することによる測定精度の低下を防ぐ」方法(以下、「技術事項2」という。)について記載されており、この「噴霧ノズル」による「吹き付け」の工程は、霧状の液体を付着させるものであるといえる。しかしながら、「水膜または油膜を形成」するための手段として、なぜ「噴霧ノズル」を選択したかに関して、刊行物3には何ら記載が無く、その選択理由が、超音波厚み計を用いる方法一般に共通のものであるのか、もしくは例えば計測対象が壁体の表面に形成した防水アスファルト層(広い垂直面)であることによるものであるのかは不明である。そうすると、タイヤのトレッドゲージという、壁体とは大きく異なるものを計測対象とする引用発明に対して、技術事項2における水膜を形成する具体的な手段である「噴霧ノズル」を採用することまでは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 そして補正発明1は、上記の工程を具備することによって、特に複雑な凹凸が形成されたタイヤを被検体とする際に、「霧状の液体34は、トレッド表面Tsに付着すると、霧状の液体34同士が結合し、トレッド表面Tsに液体34による薄い膜を形成するため、トレッド表面Tsが水槽31に貯留された液体34に入水するときに、トレッド表面Tsに膜状に形成された液体34と、貯留された液体34とが容易に結合するため、気泡の付着率を大幅に減少させることができる。」(本願明細書、段落【0023】)という新たな効果を奏するものである。 したがって、補正発明1は、引用発明及び技術事項1,2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 3.むすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、補正発明1は、上記「第2 本件補正の適否」の「2.補正の適否」のとおり、当業者が引用発明及び技術事項1,2に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、(前置報告において新たに引用された刊行物3に記載の技術事項2を除いた)引用発明及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことも明らかといえる。 また、本件補正後の請求項1を引用する請求項2に係る発明は、補正発明1をさらに限定した発明であるから、やはり当業者が引用発明及び技術事項1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-12-28 |
出願番号 | 特願2011-274849(P2011-274849) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 神谷 健一、目黒 大地 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
中塚 直樹 須原 宏光 |
発明の名称 | トレッド厚さ測定方法 |
代理人 | 宮園 靖夫 |
代理人 | 宮園 純一 |