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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1323072
審判番号 不服2016-4903  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-04 
確定日 2016-12-22 
事件の表示 特願2013-166380「導電板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月19日出願公開、特開2015- 35364〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成25年8月9日の出願であって、平成27年8月31日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、意見書及び手続補正書が提出されなかったものであり、平成27年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年4月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成28年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前(すなわち、本件出願当初の特許請求の範囲)の下記の(a)を、下記の(b)へと補正することを含むものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
プリント基板に搭載される導電板であって、
平板状の導電板本体に、該導電板本体の一端側からプリント基板に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する挿通突片と、
挿通突片を前記スルーホールに挿通させて起立状態に配置した前記導電板本体を前記プリント基板に対して支持する支持突片とを備え、
前記支持突片を、
前記導電板本体を板厚方向に支持可能に前記挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成した
導電板。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
プリント基板に搭載される導電板であって、
平板状の導電板本体に、
該導電板本体の一端側からプリント基板に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する挿通突片と、
該挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成されるとともに、前記挿通突片を前記スルーホールに挿通させた状態において、板厚端面が前記プリント基板における前記導電板本体を搭載する搭載面に当接して前記プリント基板に対して起立状態に配置した前記導電板本体を支持する支持突片とが備えられ、
該支持突片は、
前記導電板本体の幅方向の一方側から突出する幅方向一方側支持突片と、
幅方向の他方側から突出する幅方向他方側支持突片との一対の幅方向支持突片とで構成され、
前記幅方向一方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも一方側へ突出させて形成されるとともに、
前記幅方向他方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも他方側へ突出させて形成され、
前記挿通突片は、
前記導電板本体の一端側における幅方向両端部分から突出し、前記スルーホールに挿入した状態において、前記スルーホールの周縁部と接触することなく間に空間が形成されるとともに、ハンダ付けにより前記スルーホールの縁部に備えた導電部材に対して電気的に接続される接続挿通突片と、
前記導電板本体の一端側における中間部分から前記接続挿通突片と平行に突出し、前記接続挿通突片の突出方向の幅よりも幅広でスルーホールに嵌合可能な突出方向の幅を有し、前記導電板本体を前記プリント基板に対して起立状態に保持する保持挿通突片とで構成された
導電板。」
(なお、上記下線部は補正箇所を明示するために、請求人が付したものである。)

上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「支持突片」について、「該挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成されるとともに、前記挿通突片を前記スルーホールに挿通させた状態において、板厚端面が前記プリント基板における前記導電板本体を搭載する搭載面に当接して前記プリント基板に対して起立状態に配置した前記導電板本体を支持する支持突片とが備えられ、」として、「該支持突片は、前記導電板本体の幅方向の一方側から突出する幅方向一方側支持突片と、幅方向の他方側から突出する幅方向他方側支持突片との一対の幅方向支持突片とで構成され、前記幅方向一方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも一方側へ突出させて形成されるとともに、前記幅方向他方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも他方側へ突出させて形成され、」との限定を付するとともに、「挿通突片」について、「前記挿通突片は、前記導電板本体の一端側における幅方向両端部分から突出し、前記スルーホールに挿入した状態において、前記スルーホールの周縁部と接触することなく間に空間が形成されるとともに、ハンダ付けにより前記スルーホールの縁部に備えた導電部材に対して電気的に接続される接続挿通突片と、前記導電板本体の一端側における中間部分から前記接続挿通突片と平行に突出し、前記接続挿通突片の突出方向の幅よりも幅広でスルーホールに嵌合可能な突出方向の幅を有し、前記導電板本体を前記プリント基板に対して起立状態に保持する保持挿通突片とで構成された」との限定を付するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された実願平2-35570号(実開平3-126361号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、「ファストンタブ端子」に関して、図面(特に、第1図(イ)ないし(ハ)、第3図(イ)、(ロ))と共に次の事項が記載されている。下線は当審で付した。

ア.「産業上の利用分野
本考案はプリント基盤に実装され、ファストン端子と接続することによってプリント基盤上から電線を接続するファストンタブ端子に関するものである。」(1頁15-19行)

イ.「本考案はこのような従来の課題を解消するためのものであり、ファストンタブ端子実装時、およびファストンタブ端子接続時等における垂直自立性を高めると同時に、汎用機による挿入を可能にして部品挿入時間の短縮化、設備の有効活用等による製造効率の上昇を可能とし、かつ前記ファストンタブ端子自体のコストも削減する優れたファストンタブ端子を提供することを目的とする。」(3頁1-8行)

ウ.「1はファストンタブ端子である。1a、1b、1cは金型打抜き等により前記ファストンタブ端子1の本体部とともに一体成形されるリード部であり、EIAJ規格のラジアルリード部品テーピング標準仕様に適合する所定のピッチ間隔および寸法を有している。1d,1eはプリント基盤実装時に基盤と接触して横倒れを防止するように、前記3本のリード部相互間に設けられた突部である。前記突部1d、1eは前記ファストンタブ端子1の一部を切断折り曲げて端子の肉厚方向に90°折曲され点対称的に形成されている。」(4頁10-20行)

エ.「上記構成において、リード部1a、1b、1cを有する前記ファストンタブ端子1をプリント基盤1fに実装するには、まずファストンタブ端子1を第1図(ニ)に示すように所定の間隔に複数個、テープtによってテーピング化して汎用タイプのラジアル部品挿入機に搭載し、その後前記挿入機によってプリント基盤1fに実装され、第1図(ハ)に1gで示すように半田付等により結線が行われる。」(5頁1-9行)

オ.「また、前記リード部1a、1b、1c相互間にプリント基盤1fに実装時に基盤と接触するように、ファストンタブ端子1の本体部の一部をファストンタブ端子1の肉厚方向に対称的に変形させて突部1d、1eを設けることにより、ファストンタブ端子実装時および実装後、ファストン端子接続時に横方向へ力が働いてもその力を接触面で受け、ファストンタブ端子1が傾くのを防ぎ、従ってファストンタブ端子1の垂直自立性を高めることができる。」(6頁1-10行)

カ.「なお第3図(イ)に示すように、従来例を示す第4図の4a、4bに相当する折り曲げ部3a、3bを設けて横倒れを防止することも考えられるが、この場合には、第3図(ハ)に示すように折り曲げ部3a、3bを確保するため3c、3dのような無駄な部分が多く必要となり、従って材料取りの面からコスト的に不利となる。」(7頁4-10行)

キ.前記エ.および第1図(イ)、(ハ)の記載から見て、プリント基盤1fにスルーホールが穿孔されており、このスルーホールにファストンタブ端子1のリード部1a、1b、1cが挿通され、半田付等により、リード部1a,1b,1cとプリント基盤1fにおける導電部材が電気的に接続されているといえる。

上記記載事項、上記認定事項、図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「プリント基盤1fに搭載されるファストンタブ端子1であって、
平板状のファストンタブ端子1に、
該ファストンタブ端子1本体の一端側からプリント基盤1fに穿孔したスルーホールに挿通可能に突出するリード部1a,1b,1cと、
該リード部1a,1b,1cの厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成されるとともに、前記リード部1a,1b,1cを前記スルーホールに挿通させた状態において、板厚端面が前記プリント基盤1fにおける前記ファストンタブ端子1本体を搭載する搭載面に当接して前記プリント基盤1fに対して起立状態に配置した前記ファストンタブ端子1本体を支持する折り曲げ部3a、3bとが備えられ、
該折り曲げ部3a、3bは、
前記ファストンタブ端子1本体の幅方向の一方側から突出する折り曲げ部3aと、
幅方向の他方側から突出する折り曲げ部3bとの一対の折り曲げ部3a、3bとで構成され、
前記折り曲げ部3aは、前記ファストンタブ端子1本体に対して板厚方向の少なくとも一方側へ突出させて形成されるとともに、
前記折り曲げ部3bは、前記ファストンタブ端子1本体に対して板厚方向の少なくとも他方側へ突出させて形成され、
前記リード部1a,1b,1cは、
前記ファストンタブ端子1本体の一端側から突出し、前記スルーホールに挿入した状態において、半田付により前記プリント基盤1fにおける導電部材に対して電気的に接続されるファストンタブ端子1。」


(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2007-95629号公報(以下「刊行物3」という。)には、「端子の取付構造および取付方法」に関して、図面(特に、図1,図2)と共に次の事項が記載されている。下線は当審で付した。

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子保持片および導通片を別個に備えた端子が基板に取り付けられた、端子の取付構造であって、
前記端子保持片が前記基板の端子保持孔に圧入され、
前記導通片が前記基板の導通孔に挿通されて回路導体にはんだ付けされていることを特徴とする、端子の取付構造。
【請求項2】
前記端子保持片および前記導通片は、一直線上に並設され、
前記導通片は、前記端子保持片の両側にそれぞれ形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の端子の取付構造。
・・・
【請求項4】
端子保持片および導通片が別個に設けられた端子を基板に取り付ける、端子の取付方法であって、
前記端子保持片を前記基板の端子保持孔に圧入する端子保持工程と、
前記導通片を前記基板の導通孔に挿通する導通片挿通工程と、
前記導通片を前記基板の回路導体にはんだ付けする導通工程と
が含まれることを特徴とする、端子の取付方法。」

イ.「【0001】
本発明は、特に自動車用のジャンクションブロック、リレーブロックなどの端子部品に適用するに好適な、端子の取付構造および取付方法に関するものである。」

ウ.「【0006】 しかし、公知技術1では、端子1の圧入片11で圧入と導通を同時に行うことから、端子1のアライメント不良や、基板2のスルーホール部の剥離、端子1と基板2との導通不良が生じやすい。」

エ.「【0008】
本発明は、こうした不都合を解消することが可能な、端子の取付構造および取付方法を提供することを目的とする。」

オ.「【0014】
端子1は、図1に示すように、矩形平板状の端子本体15を有しており、端子本体15には、1個の端子保持片12および2個の導通片13が一直線上に交互に並設されている。ここで、端子保持片12は端子本体15の下部中央に下向きに突設されている。また、2個の導通片13は、端子保持片12の両側に位置するように端子本体15の下部両端に下向きに突設されている。
【0015】
一方、基板2は、図1に示すように、矩形平板状の基板本体25を有している。基板本体25には、円形の端子保持孔22が貫通して形成されているとともに、この端子保持孔22の両側にそれぞれ円形の導通孔23が貫通して形成されている。ここで、1個の端子保持孔22および2個の導通孔23は、端子1の端子保持片12および導通片13に対向する形で一直線上に交互に並設されている。また、基板本体25の下面には、回路導体24が印刷されている。
【0016】
そして、基板2に端子1を取り付ける際には、次の手順による。
【0017】
まず、図2に示すように、端子1の端子保持片12を基板2の端子保持孔22に圧入すると同時に、端子1の各導通片13を基板の各導通孔23に挿通する。
【0018】
次に、端子1の各導通片13を基板2の回路導体24にはんだ付けする。すると、端子1が回路導体24に導通した状態となる。
【0019】
ここで、基板2への端子1の取付作業が終了する。」

カ.「【0020】
このように、端子1は端子保持片12および導通片13を別個に備えており、端子保持片12の圧入により、端子1が基板2に仮固定されるとともに、導通片13のはんだ付けにより、端子1と基板2とが確実に導通すると同時に、端子1が基板2に本固定される。
【0021】
その結果、公知技術1と異なり、端子1のアライメントを向上させ、基板2の導通孔23のスルーホール部の剥離を防止し、端子1と基板2との導通不良を回避することができる。また、公知技術2と違って、端子台、コネクタキャビティーなどの別部品を用いる必要がないので、部品点数の増加を抑制し、製造コストを削減することができる。
【0022】
また、端子1は、基板2に3点支持されるので、1点支持や2点支持の場合と比べて基板2上に安定して自立することができる。その上、端子1は2個の導通片13を備えているため、導通片13が1個しかない場合と比べて、導通片13の断面積が大きくなり、大電流に対応することが可能となる。さらに、端子1は、2個の導通片13がはんだ付けで基板2に固定されるので、端子1の挿抜方向および捩り方向の外力に対する対抗性が高い。」

キ.「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、端子の端子保持片の圧入により、端子が基板に仮固定されるとともに、端子の導通片のはんだ付けにより、端子と基板とが確実に導通すると同時に、端子が基板に本固定される。
【0011】
その結果、端子のアライメントを向上させ、基板のスルーホール部の剥離を防止し、端子と基板との導通不良を回避することができる。また、端子台、コネクタキャビティーなどの別部品を用いる必要がないので、部品点数の増加を抑制し、製造コストを削減することができる。」

(3)平成28年5月26日付け前置報告書で引用され、本願の出願前に頒布された実願昭52-82508号(実開昭54-9868号)のマイクロフィルム(以下「刊行物4」という。)には、「調整端子」に関して、図面(特に、第1図ないし第3図)と共に次の事項が記載されている。下線は当審で付した。

ア.「本考案は、印刷配線板等の調整作業に用いる調整端子に関するものである。」(2頁5-6行)

イ.「電子部品の着脱を容易にするために、従来は、第1図ないし第3図に示すような調整端子4を印刷配線板1の取付穴2に挿着し、導体3とはんだ付により接続固定していた。上記調整端子4は、その脚部が印刷配線板1の取付穴2の内径より小さいため、電子部品の取付、あるいは運搬等により発生する振動などの外力に対し、調整端子4の脱落を防止するために接着テープによる貼付、あるいは脚部の折曲げ等の手段により仮固定しなければならない等、作業性を低下させる欠点があった。」(2頁10行ー3頁1行)

ウ.「本考案の目的は上記した従来技術の欠点を除去し、はんだフローアップを考慮し、かつ取付穴に対する固定を確実にする調整端子を提供することである。」(3頁2-5行)

エ.「本考案は上記目的を達成するために調整端子の取付穴に入る脚部の形状を取付穴への圧入固定し得るようにすると共に、ガス抜きを兼ね圧入しやすいようにすり割りを入れたことを特徴とする。」(3頁6-10行)

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「プリント基盤1f」は前者の「プリント基板」に相当し、以下同様に、「ファストンタブ端子1」は「導電板」に、「リード部1a、1b、1c」は「挿通突片」に、「折り曲げ部3a、3b」は「支持突片」に、「折り曲げ部3a」は「幅方向一方側支持突片」に、「折り曲げ部3b」は「幅方向他方側支持突片」にそれぞれ相当する。
また、後者の「リード部1a、1b、1c」は、スルーホールに挿入した状態において、半田付により前記プリント基盤1fにおける導電部材に対して電気的に接続されるものであるから、スルーホールへ挿通され、半田付によりプリント基盤における導電部材に対して電気的に接続される限りにおいて、前者における「接続挿通突片」に相当する。

以上の認定によれば、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点・相違点を有するものと認められる。
[一致点]
「プリント基板に搭載される導電板であって、
平板状の導電板本体に、
該導電板本体の一端側からプリント基板に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する挿通突片と、
該挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成されるとともに、前記挿通突片を前記スルーホールに挿通させた状態において、板厚端面が前記プリント基板における前記導電板本体を搭載する搭載面に当接して前記プリント基板に対して起立状態に配置した前記導電板本体を支持する支持突片とが備えられ、
該支持突片は、
前記導電板本体の幅方向の一方側から突出する幅方向一方側支持突片と、
幅方向の他方側から突出する幅方向他方側支持突片との一対の幅方向支持突片とで構成され、
前記幅方向一方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも一方側へ突出させて形成されるとともに、
前記幅方向他方側支持突片は、前記導電板本体に対して板厚方向の少なくとも他方側へ突出させて形成され、
前記挿通突片は、前記導電板本体の一端側から突出し、前記スルーホールに挿入した状態において、ハンダ付けにより(前記プリント基板における)導電部材に対して電気的に接続される接続挿通突片で構成された、
導電板。」

[相違点]
挿通突片について、本願補正発明が、「前記導電板本体の一端側における幅方向両端部分から突出し、前記スルーホールに挿入した状態において、前記スルーホールの周縁部と接触することなく間に空間が形成されるとともに、ハンダ付けにより前記スルーホールの縁部に備えた導電部材に対して電気的に接続される接続挿通突片と、前記導電板本体の一端側における中間部分から前記接続挿通突片と平行に突出し、前記接続挿通突片の突出方向の幅よりも幅広でスルーホールに嵌合可能な突出方向の幅を有し、前記導電板本体を前記プリント基板に対して起立状態に保持する保持挿通突片とで構成」したのに対して、引用発明は、ファストンタブ端子1本体の一端側から突出し、スルーホールに挿入した状態において、半田付によりプリント基盤1fにおける導電部材に対して電気的に接続されるリード部1a、1b、1cで構成し、保持挿入突片を有するものではない点。

4.当審の判断
そこで、相違点を検討する。
(1)挿通突片を「接続挿通突片」と「保持挿通突片」とで構成することについて
平成28年4月4日付け手続補正書において補正された本願明細書には、「特許文献1の基板用端子に備えた挿通部は、上述したように、接続部の一端側から突出する突出部と、該突出部よりも先端側部分とで互いに直列に形成しているため、基部側の突出部に接続部を支持するための支持力が加わると、その負荷が挿通部の先端側部分にまで伝達し、スルーホールに挿通した挿通部の先端側部分と、スルーホールの縁部に備えた導電部材とのハンダ付け部分に応力が加わることでクラックが生じるなどの事態が生じ、電気的な接続を安定して確保できないという課題を有していた。」(【0008】)、「そこで、この発明は、接続体をプリント基板に対して起立した状態に保つことができるとともに、プリント基板のスルーホールの縁部に備えた導電部材に対して電気的に安定した接続状態に保つことができる導電板を提供することを目的とする。」(【0010】)、「また、接続挿通突片に加えて保持挿通突片を備えて構成しているため、保持挿通突片によって、スルーホールに対して接続挿通突片を位置決めすることができる。」(【0016】)と記載されている。
これらの記載から見て、本願補正発明は、従来技術が、挿通部が接続部の一端側から突出する突出部と、該突出部よりも先端側部分とで互いに直列に形成すること、すなわち、突出部とスルーホールに挿通した挿通部の先端側部分が同一部材であることにより、突出部に接続部を支持するための支持力が加わると、その負荷が挿通部の先端側部分にまで伝達し、スルーホールに挿通した挿通部の先端側部分と、スルーホールの縁部に備えた導電部材とのハンダ付け部分に応力が加わることでクラックが生じるなどの事態が生じ、電気的な接続を安定して確保できない、という課題を解決するために、挿通突片を、プリント基板への電気的接続を行う「接続挿通突片」と導電板をプリント基板に対して起立状態に保持する「保持挿通突片」から構成したものであると認められる。
一方、上記刊行物3には、前記2.(2)に示した技術事項が記載されている。
刊行物3には、従来技術として、端子1の圧入片11で圧入と導通を同時に行うことから、端子1のアライメント不良や、基板2のスルーホール部の剥離、端子1と基板2との導通不良が生じやすい、という課題があった(刊行物3【0006】)ことを踏まえ、端子本体15に、1個の端子保持片12とこの端子保持片12の両側に位置するように、2個の導通片13を設けて、端子保持片12を基板2の端子保持孔22に圧入すると同時に各導通片13を各導通孔23に挿通し、回路導体24にはんだ付けすることにより、端子保持片12の圧入により、端子1が基板2に仮固定されるとともに、導通片13のはんだ付けにより、端子1と基板2とが導通すると同時に、端子1が基板に本固定させる、ことにより、端子と基板とが確実に導通すると同時に、端子が基板に本固定される、という技術事項、すなわち、基板への挿通部材を、主に基板への電気的接続を担う部材と主に基板に対して起立状態を保持する部材とから構成した点が記載されているものと認められる。
また、その配置構成として、端子保持片12を端子1の一端側における中央部分に、その両側に導通片13を設けていることから、「接続挿通突片を導電板本体の一端側における幅方向両端部分から突出させるとともに、保持挿通突片を導電板本体の一端側における中間部分から前記接続挿通突片と平行に突出」させた点が記載されているものと認められる。
さらに、端子保持片12を基板2の端子保持孔22に「圧入」していることから、端子保持片12は基板2の端子保持孔22に嵌合可能な大きさを有しているものと認められる。
当該刊行物3に記載されたものは、基板へ起立状態で設けられる端子に係るものであり、本願補正発明及び引用発明と同じ技術分野に属する技術であり、しかも、前記刊行物3に記載された技術事項は、端子の保持と導通を同一部材で行うことによる導通不良を課題とするものであり、本願補正発明に係る課題と同様の課題を有するというべきである。
これらを踏まえると、引用発明において、引用発明と同じ技術分野に属する前記刊行物3に記された技術事項を適用することにより、挿通突片を、主に基板への電気的接続を担う接続挿通突片と主に基板に対して起立状態を保持する保持挿通突片とから構成すること、保持挿通突片を接続挿通突片の突出方向の幅よりも幅広でスルーホールに嵌合可能な突出方向の幅とすること、接続挿通突片を導電板本体の一端側における幅方向両端部分から突出させるとともに、保持挿通突片を導電板本体の一端側における中間部分から前記接続挿通突片と平行に突出させるようにすることは、当業者が必要に応じて容易に想到し得たものと認められる。

(2)接続挿通突片とスルーホールの大小関係について
前記刊行物4には、前記2.(3)に示した技術事項が記載されている。
刊行物4に記載されたものは、印刷配線板の取付孔に調整端子を挿着するものであり、本願補正発明、引用発明、及び刊行物3に記載されたものと同じ技術分野に属する技術であり、その従来技術として、調整端子4を印刷配線板1の取付穴2に挿着し、導体3とはんだ付により接続固定する際、調整端子4の脚部が印刷配線板1の取付穴2の内径より小さくした点、すなわち、調整端子4を取付孔2に挿入した状態において、調整端子4は、取付孔2の周縁部と接触することなく間に空間が形成されるとともに、はんだ付けにより調整端子4が取付孔2の縁部に備えた導材3に対して電気的に接続した点が記載されている。
刊行物4に係る考案は、調整端子4の脚部が印刷配線板1の取付穴2の内径より小さくしたことによる不具合を課題としたものであるが、刊行物3には、刊行物4が頒布された当時の技術として、印刷配線板1と調整端子4のはんだによる接続構造における調整端子4の脚部と印刷配線板1の取付穴2の内径との大小関係を開示するものである。
一方、刊行物3には、「図2に示すように、端子1の端子保持片12を基板2の端子保持孔22に圧入すると同時に、端子1の各導通片13を基板の各導通孔23に挿通する。次に、端子1の各導通片13を基板2の回路導体24にはんだ付けする。すると、端子1が回路導体24に導通した状態となる。」(【0017】、【0018】)と記載され、各導通片13と各導通孔23の大小関係に関する明示的記載はない。
しかしながら、端子保持片12が端子保持孔22に「圧入」され、端子1が基板2に「仮固定」されるものであることから、端子保持片12と端子保持孔22の関係は、しまりばめ等端子保持片12が端子保持孔22に対して十分な大きさを有している、すなわち端子保持片12は端子保持孔22に嵌合可能となっているものと推察されるが、各導通片13は各導通孔23に「圧入」されるとは記載されておらず、導通片13のはんだ付けにより、端子1が基板2に本固定されるものであり、図1及び図2に記載されたものは、導通片13は、端子保持片12の両側に2つあり、「挿通」されるものであることから、本技術分野の技術常識を踏まえると、導通片13と導通孔23の関係は、少なくとも端子保持片12と端子保持孔22の関係のように、しまりばめ等端子保持片12が端子保持孔22に対して十分な大きさを有しているとは一義的には認められない。
また、引用発明は、リード部1a、1b、1cは、半田付等により、プリント基盤1fに固定されており、刊行物1には、前記リード1a,1b,1cのすべてがプリント基盤1fに「圧入」されているとの記載もない。
引用発明に前記刊行物3に記された技術事項を適用したものにおいて、前記刊行物4に記載された技術事項を適用することを阻害する要因も特に見当たらない。
これらを踏まえると、引用発明において、前記刊行物3に記された技術事項を適用したものにおいて、引用発明及び前記刊行物3に記載された技術事項と同じ技術分野に属する前記刊行物4に記された技術事項を適用することにより、接続挿通突片を、スルーホールに挿入した状態において、前記スルーホールの周縁部と接触することなく間に空間が形成されるようにしてハンダ付けすることは、当業者が必要に応じて容易に想到し得たものと認められる。

したがって、前記相違点に係る本願補正発明の構成は、前記刊行物1に係る引用発明に前記刊行物3及び4に記載された技術事項を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

また、本願補正発明が奏する効果は、全体としてみて、引用発明及び前記刊行物3及び4に記載されたものから、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

以上であるから、本願補正発明は、前記刊行物1に係る引用発明に前記刊行物3及び4に記載された技術事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2.〔理由〕1.」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1(実願平2-35570号(実開平3-126361号)のマイクロフィルム)の記載事項は、前記「第2.〔理由〕2.」に記載した刊行物1のとおりである。
したがって、前記「第2.〔理由〕2.」に記載した刊行物1に係る上記記載事項、上記認定事項、図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されている。
「プリント基盤1fに搭載されるファストンタブ端子1であって、
平板状のファストンタブ端子1に、該ファストンタブ端子1本体の一端側からプリント基盤1fに穿孔したスルーホールに挿通可能に突出するリード部1a,1b,1cと、
該リード部1a,1b,1cを前記スルーホールに挿通させて起立状態に配置した前記ファストンタブ端子1本体を前記プリント基板1fに対して支持する折り曲げ部3a、3bとを備え、
該折り曲げ部3a、3bを、
前記ファストンタブ端子1本体を板厚方向に支持可能に前記リード部1a,1b,1cの厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成した
ファストンタブ端子1。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された実願昭54-12399号(実開昭55-112381号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「基板取付用ターミナル」に関して、図面(特に、第1図、第2図、第5図、第6図)と共に次の事項が記載されている。下線は当審で付した。

ア.「この考案は、プリント基板に固着される雄形ターミナルの改良構造に関するものである。」(1頁20行ー2頁1行)

イ.「従来のこの種ターミナルは、上記取付足(3a)が基板(2)に貫挿された後半田(4)により固着されるまでは、基板(2)に対するターミナルの平板部(3)の垂直度を維持することが困難で、また上記平板部(3)を取付足(3a)を介して基板(2)に固着した後においても、外部の雌形コネクタターミナルとの嵌合時において、上記平板部(3)の平面に垂直方向の外力が加えられると、容易にターミナル(1)の倒れが生じ、またこの倒れに起因してターミナル(1)の位置ずれが生じ、ひいては外部の雌形コネクタターミナルとの嵌合が不能となる等の欠点があった。」(2頁11行-3頁2行)

ウ.「この考案は上記従来装置の欠点を解消するターミナルを提供するもので以下図に示すこの考案の実施例について詳述する。」(3頁3-5行)

エ.「第3図、第4図はこの考案の実施例を示し、図において、(5)、(5′)は、平板部(3)の両端から該平板部(3)の平面に対し垂直に屈曲して形成された屈曲部を構成する一対のリブで、該リブ(5)、(5′)は互いに対向し、その底部に上記平板部の底部(3b)と同一平面に設定され上記基板(2)と当接し得る当接部(5a)、(5a′)と、その下部に延設され基板(2)に貫挿される一対の取付足(5b)(5b′)を有している。
上記のように構成されたターミナルを基板(2)に取付ける場合、先ず、基板(2)に取付足(5b)(5b′)を貫挿した状態においては上記一対のリブ(5)、(5′)の当接部(5a)、(5a′)が基板(2)の面と当接して平板部(3)は基板(2)に対して垂直に取付けられることになり、この状態において取付足(5b)(5b′)を基板(2)に対して半田(4)により固着すればよい。従って、基板(2)に貫挿された該半田(4)により固着されるまでは、ターミナルの垂直度を保持し得、更に、半田(4)による固着後においても外部の雌形コネクタターミナルとの嵌合時に平板部(3)の平面に対して垂直方向の外力が加わったとしても、ターミナルの倒れによる位置すれかなく、容易で且つ確実に外部のターミナルとの嵌合することができる。」(3頁6行-4頁7行)

オ.「第5図、第6図に示す如く、一対のリブ(5)、(5′)を上記平板部(3)の平面を挾んで互いに逆方向において垂直に屈曲せしめ上記平板部(3)に取付足(5b)を延設して構成しても同様な効果を奏し得るものである。」(4頁10-14行)

カ.前記イ.及び図面の記載からみて、基板(2)には、取付足(3a)、取付足(5b)(5b′)を貫挿させるためのスルーホールが穿孔されているといえる。

上記記載事項、図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、上記刊行物2には、次の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されている。

「基板(2)に搭載される雄形ターミナル(1)であって、
平板状の雄形ターミナル(1)本体に、該雄形ターミナル(1)本体の一端側から基板(2)に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する取付足(5b)と、
取付足(5b)を前記スルーホールに挿通させて起立状態に配置した前記雄形ターミナル(1)本体を前記基板(2)に対して支持するリブ(5)、(5′)とを備え、
前記リブ(5)、(5′)を、
前記雄形ターミナル(1)本体を板厚方向に支持可能に前記取付足(5b)の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成した
雄形ターミナル(1)。」

3.対比及び当審の判断
(1)刊行物1(実願平2-35570号(実開平3-126361号)のマイクロフィルム)について
本願発明と引用発明Aとを対比すると、後者の「プリント基盤1f」は前者の「プリント基板」に相当し、以下同様に、「ファストンタブ端子1」は「導電板」に、「リード部1a、1b、1c」は「挿通突片」に、「折り曲げ部3a、3b」は「支持突片」にそれぞれ相当する。

以上の認定によれば、本願発明と引用発明Aとは、以下の点で一致し、相違するところはない。
[一致点]
「プリント基板に搭載される導電板であって、
平板状の導電板本体に、該導電板本体の一端側からプリント基板に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する挿通突片と、
挿通突片を前記スルーホールに挿通させて起立状態に配置した前記導電板本体を前記プリント基板に対して支持する支持突片とを備え、
前記支持突片を、
前記導電板本体を板厚方向に支持可能に前記挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成した
導電板。」
したがって、本願発明は、引用発明Aと同一である。
よって、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)刊行物2(実願昭和54-12399号(実開昭55-112381号)のマイクロフィルム)について
本願発明と引用発明Bとを対比すると、後者の「基板(2)」は前者の「プリント基板」に相当し、以下同様に、「雄形ターミナル(1)」は「導電板」に、「取付足(5b)」は「挿通突片」に、「リブ(5)、(5′)」は「支持突片」にそれぞれ相当する。

以上の認定によれば、本願発明と引用発明Bとは、以下の点で一致し、相違するところはない。
[一致点]
「プリント基板に搭載される導電板であって、
平板状の導電板本体に、該導電板本体の一端側からプリント基板に穿孔したスルーホールに挿通可能に突出する挿通突片と、
挿通突片を前記スルーホールに挿通させて起立状態に配置した前記導電板本体を前記プリント基板に対して支持する支持突片とを備え、
前記支持突片を、
前記導電板本体を板厚方向に支持可能に前記挿通突片の厚みよりも板厚方向外側へ突出させて形成した
導電板。」
したがって、本願発明は、引用発明Bと同一である。
よって、本願発明は、上記刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.まとめ
以上であるから、本願発明は、上記刊行物1または2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-20 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2013-166380(P2013-166380)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 113- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 阿部 利英
小関 峰夫
発明の名称 導電板  
代理人 永田 元昭  
代理人 永田 元昭  

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