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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1323073
審判番号 不服2016-7423  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-20 
確定日 2017-01-11 
事件の表示 特願2012-133228「コネクタ及びコネクタ製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-258046、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月12日の出願であって、平成28年1月12日付けで拒絶理由の通知がされ、その指定期間内である同年2月25日に手続補正がなされたが、同年3月8日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年3月16日)、これに対し、同年5月20日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成28年2月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1及び本願発明9は次のとおりのものである。

「【請求項1】
第1コンタクトと、第2コンタクトと、ハウジングと、前記ハウジングとは別体の整列部材とを備えるコネクタであって、
前記第1コンタクトは、接触部と端子部とを有しており、
前記ハウジングは、前記第1コンタクトの前記接触部を第1方向に沿って延びるようにして保持しており、前記ハウジングには被係合部が設けられており、
前記整列部材は、前記第1コンタクトの前記端子部を前記第1方向と交差する第2方向に沿って延びるようにして保持しており、前記整列部材には係合部が設けられており、
前記係合部と前記被係合部とは前記第2方向と交差する方向に係合しており、これにより、前記整列部材は前記ハウジングに保持されており、
前記第1コンタクトの前記端子部は、前記第2方向に沿って延びるように折り曲げられており、
前記第2コンタクトは、接触部と端子部とを有しており、
前記第2コンタクトの前記接触部は、前記第1コンタクトの前記接触部と平行に延びるようにして前記ハウジングに保持されており、
前記第2コンタクトの前記端子部は、前記第1コンタクトの前記端子部と平行に延びるようにして前記ハウジングに保持されており、
前記第1コンタクトの前記接触部及び前記第2コンタクトの前記接触部は、前記ハウジングの同じ部位に保持されている
コネクタ。」

「【請求項9】
複数の第1コンタクトと、複数の第2コンタクトと、ハウジングと、前記ハウジングとは別体の整列部材とを備えるコネクタの製造方法であって、
接触部と端子部とを有するようにして第1方向に延びる金属片であって、前記第1方向と直交する整列方向に整列された複数の前記金属片を備える金属部材を準備する、準備工程と、
前記金属片の前記接触部を前記ハウジングによって保持し、前記金属片の前記端子部を前記整列部材によって保持する、金属片保持工程と、
前記ハウジング及び前記整列部材によって保持された前記金属片を、前記端子部が前記第1方向と交差する第2方向に延びるように折り曲げて、これにより前記第1コンタクトを形成すると共に前記整列部材を前記ハウジングに係合し保持させる整列部材保持工程と、
前記第2コンタクトを前記ハウジングによって保持する第2コンタクト保持工程とを備える
コネクタ製造方法。」

第3 原査定の理由の概要
本願発明1ないし10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特表2004-537836号公報
刊行物2:特許第3749290号公報(周知技術を示す文献)
刊行物3:登録実用新案第3151487号公報(周知技術を示す文献)

1 請求項1に係る発明について:刊行物1ないし3
本願発明1と刊行物1記載の発明を対比すると、両者は、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明1では「ハウジングには被係合部が設けられており、整列部材には係合部が設けられており、前記係合部と前記被係合部とが前記第2方向と交差する方向に係合することによって、前記整列部材が前記ハウジングに保持される(と共に、端子折り曲げが行われる)」点。

(相違点2)
第1コンタクトの接触部及び第2コンタクトの接触部が、本願発明1では「ハウジングの同じ部位に保持されている」のに対し、刊行物1記載の発明では「ハウジングの異なる部位に保持されている」点。

相違点1及び2を検討する。
(相違点1について)
請求項1は「コネクタ」の発明であり、「折り曲げ」という製造プロセスは、本来発明特定事項として意味を持つ物ではないが、刊行物1記載の発明も上記「上側の端子の組みと支持バーを、曲げる際に単一ユニットとして移動することができる」と「横断支持バー66(図6)形成後の折り曲げ」を行いうるものである。

よって、別体の整列部材とハウジングに係合、被係合部材を形成した点が相違点1であるが、別部材として形成された、整列部材とハウジングに係合、被係合部材を形成することは、刊行物2(爪40,凹部43,44)記載のように周知の技術手段である。

(相違点2について)
例えば、刊行物3(図4,5)に記載されているように、USB3.0規格に準拠させるため、「第1コンタクトの前記接触部及び前記第2コンタクトの前記接触部は、前記ハウジングの同じ部位に保持する」ことは、従来より周知の技術手段である。

以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1記載の発明及び上記周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 他の請求項に係る発明について:刊行物1ないし3
新たに追加された請求項2における発明特定事項である「圧入保持」は、端子固定手法として周知のものである。

第4 当審の判断
1 刊行物について
(1)刊行物1
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物1には、「インサート成形端子モジュールを有する電気コネクタ組み立て体」に関して、図面(特に、FIG.1ないしFIG.7、FIG.11参照)と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)

ア 「【0015】
最初に図1及び2を参照すると、本発明は、複数の別個の要素から組み立てられた全体を14で示す電気コネクタとして示されている。コネクタ14は、直角型レセプタクルコネクタとして示されているが、本発明の原理を他の形及びスタイルのコネクタに取り入れことができることを理解されよう。
【0016】
コネクタ要素は、外部金属シェル16で部分的に取り囲まれた一対の端子モジュール、すなわち、半ハウジング30、32(図3)を有する。モジュールとシェルを単一の組み立て体として保持するために、モジュール30、32及びシェル16の一部分を覆うように本体部分18が成形される。この本体部分18は、図1、2及び7に示したように、コネクタの後部を画定し、また、コネクタの導電性端子の一部分を取り囲む。端子モジュール30、32は、コネクタの嵌合部分を画定するために前方に突出する部分を有する。図示のコネクタ14は、プリント回路基板に取り付けるように適合された直角コネクタである。したがって、片持ち嵌合部分20及びそれと関連した金属シェル16は、好ましくは回路基板の上で、回路基板と平行に延在することが好ましく、ハウジング本体部分18は、回路基板(図示せず)内の適切な取り付け孔に差し込むために複数の取り付けポスト22を備えることができる。シェル16は、一対の取り付け脚24を備えることができ、該一対の取り付け脚24は、本体部分20を貫通しており、シェルを接地するため、回路基板上の適切な接地回路トレースに、はんだ付けなどによって接続するために本体部分20の後方に突出している。また、2つの端子モジュール30、32は、それぞれ、複数の導電性端子を2つの異なる端子の組に分けて支持しており、それぞれの端子は、回路基板上の適切な回路トレースに、はんだ付けなどによって接続するための取り付けテール部26(図2)を備えることが好ましい。
【0017】
図3は、端子モジュール30、32とシェル16とを組み立てることによって構成されたコネクタ半組み立て体28を示す。図4は、明瞭にするためにシェル16を除去したコネクタ半組み立て体29を示す。図5及び6は、互いに分離された2つの端子モジュール30、32を示す。本明細書での目的のため、モジュール30を『上側』モジュールと呼び、モジュール32を『下側』モジュールと呼ぶが、これらの位置は、図示の実施形態における位置にすぎず、端子モジュールを、本発明のコネクタ内の『右側』、『左側』及び他の向きで利用することができることを理解されよう。」

イ 「【0021】
図5に最もよく示したように、上側端子モジュール30の端子36は、片持ち部分44の内側面62上に露出した接触部36aを備える。端子は薄いシートメタルから打ち抜き成形されることが好ましく、端子の周りのハウジング34を成形する際に、接触部36aの一部が片持ち部分の内側面に、好ましくは接触部が内側面と面一になるように埋め込まれる。図5及び6に示したように、端子36は、接触部36aに対して角度をなして延在することが好ましい本体部分36bを有する。端子36は、それぞれ、回路基板上の回路への接続のために、前述のようなテール部26で終端する。
【0022】
本発明では、端子本体部分36bが、端子モジュールハウジング34のプラスチック材料によって支持されていてもよい。そのため、図5及び6は、また、隣り合った端子の本体部分の間に挿入されたプラスチック材料64を示す。更に、インサート成形工程において支持を追加するために、上側端子モジュールのすべてのテール部の後ろを横切る棒状部材を成形することによって、横断支持バー66(図6)を設けてもよい。この支持バー66は、テール部が下側モジュール端子のテール部と位置が合うように成形される際の端子の成形を容易にする。支持バー66は、端子を形成された間隔で維持し、支持バー66の一部分64とハウジングは、端子間の介在スペース64をハウジング成形材料で満たす。それに代えて、端子が成形される前に介在スペースに成形材料を充填(てん)することができ、その結果、上側の端子の組みと支持バーを、曲げる際に単一ユニットとして移動することができる。それに加えて、端子間にあるハウジング材料64は、ハウジング材料が一般に1を超える誘電率を持つため、コネクタのインピーダンスに影響を及ぼすことがある。誘電体材料は、端子間の容量結合を高め、コネクタのインピーダンスを下げる傾向がある。
【0023】
図6に最もよく示したように、下側端子モジュール32の端子38は、また、モジュール32の片持ち部分44に部分的に埋め込まれた接触部38aを有する。該接触部38aの表面は、片持ち壁の内側面62に露出され、実質的に内側面62と面一に配設されている。下側端子38の本体部分38bが接触部38aに対して角度をなして延在しており、本体部分はテール部26で終端している。下側端子モジュール32のプラスチックハウジング34は、端子の一部分を覆うように成形され、大きい支持バー68と考えることができるものを有し、該支持バー68は、端子本体部分38の一部分を取り囲んで、端子、特に、テール部を支持し、下側端子モジュール及びコネクタ全体内において所定の位置に保持する。下側端子モジュール32のハウジング34は、本体部分18を形成するときに成形本体部分18の材料によって満たされる一対の空所又は凹部69を備えることが好ましい。これらの凹部69と上側端子モジュール32のポスト60は、協力して、本体部分18をコネクタに係合させ固定する手段を提供する。
【0024】
以上のことから、特に、図6に示したように、薄い端子のテール部36b、38bが、ハウジング34の後方終端面70から後方に突出し、モジュールハウジングのプラスチック支持部分64、66及び68が、端子36、38のテール部26を完全に支持する。図4に示したように端子モジュール30と32とを組み立て、金属シェル16を、端子モジュール(図3)の片持ち部分44に取り付けた後で、コネクタ本体部分18が、それらを覆うように成形されて、図1及び2に示したようなコネクタが構成される。図2及び7に最もよく示したように、成形本体部分18は、さらに、薄い端子の本体部分36bと38bを支持する。この成形本体部分18は、また、外部シェル16の保持部56と相互作用し、組み立て工程及び相手側コネクタとの嵌合の繰り返しにおいて、シェルが、2つの端子モジュール30、32に対して移動又は回転するのを防ぐため重要である。本体部分18は、また、コネクタ半組み立て体(すなわち、端子モジュール)上に端子のテール部をその向きに支持し、テール部の端部を、回路基板への表面実装のための共通平面配置に維持することができる。図4に最もよく示したように、第1及び第2の両方の端子モジュールの端子のテール部は、回路基板の表面と対向する共通平面内に位置している。さらに、上側端子モジュール30の端子の端子テール部26は、下側端子モジュール32の隣接する端子テール部26の間にある。」

ウ 「【0027】
図11は、本発明のコネクタがどのように作成されるかを示す。キャリアストリップ90と示された金属のブランクから、端子36、38の組を打ち抜き成形することができる。2組の端子36、38を、図示のキャリアストリップ90の別の場所に打ち抜くことができる。次に、端子モジュール30、32を、各組の端子が2つの対応する型に差し込まれた状態で形成する。次に、溶融プラスチック、又は、別の誘電性、すなわち、絶縁性材料を、型のキャビティ内に射出し、その材料が、所望の形で端子セット36、38の所望の部分と接しそれらの周りに流れる。端子は、異なる2つの組に分けられ、それぞれの組は、コネクタ内のすべての端子よりも少ない数の端子を有する。したがって、成形工程において、端子が、より接近して配設され、より良い状態で所定の位置に保持され、片持ち構造は、所定の位置に保持されるため、コネクタの形成に悪影響を及ぼすことはない。
【0028】
端子モジュール30、32は、共通又は個別のキャリアストリップから切り離され、次にそれぞれの突出部と空所とが互いに嵌合する状態で組み立てられる。次に、外部金属シェル16が、端子モジュール片持ち部分44に付けられてコネクタ半組み立て体が形成される。半組み立て体は、その後、型内に挿入され、モジュール30、32、シェル16及び端子36、38の一部分を覆うように、コネクタハウジング本体部分18が成形される。本体部分18は、図示したように、端子テール部36、38bの下側の高さまで下方に延在しており、テール部を共通平面内に維持して回路基板上へのコネクタの取り付けを容易にすることができる。
【0029】
最後に、本体部分18によって少なくとも部分的に支持され、かつ、コネクタの本体部分18とその内側シールド16の両方の周りに延在する外側又は第2のシェル91を取り付けることができる。」

エ FIG.7には、横断支持バー66がコネクタ本体部分18に埋設することが示されている。

オ 上記イの「インサート成形工程において支持を追加するために、上側端子モジュールのすべてのテール部の後ろを横切る棒状部材を成形することによって、横断支持バー66(図6)を設けてもよい。」(段落【0022】)との記載、上記ウの「端子モジュール30、32を、各組の端子が2つの対応する型に差し込まれた状態で形成する。次に、溶融プラスチック、又は、別の誘電性、すなわち、絶縁性材料を、型のキャビティ内に射出し、その材料が、所望の形で端子セット36、38の所望の部分と接しそれらの周りに流れる。」(段落【0027】)との記載、及びFIG.11(端子36,38についての左下側から2列目の工程参照)からみて、端子36の接触部36aを上側端子モジュール30によって保持し、前記端子36の本体部分36bを横断支持バー66によって保持する工程、及び端子38を下側端子モジュール32によって保持する工程が理解できる。

カ 上記ウの「半組み立て体は、その後、型内に挿入され、モジュール30、32、シェル16及び端子36、38の一部分を覆うように、コネクタハウジング本体部分18が成形される。」(段落【0028】)との記載、FIG.7、及びFIG.11(同)からみて、横断支持バー66をコネクタ本体部分18に埋設させる工程が理解できる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「端子36と、端子38と、上側端子モジュール30と、下側端子モジュール32と、コネクタ本体部分18と、前記上側端子モジュール30、下側端子モジュール32、及びコネクタ本体部分18とは別体の横断支持バー66とを備える電気コネクタ14であって、
前記端子36は、接触部36aと本体部分36bとを有しており、
前記上側端子モジュール30は、前記端子36の前記接触部36aを片持ち部分44の突出方向に沿って延びるようにして保持しており、
前記横断支持バー66は、前記端子36の前記本体部分36を前記突出方向と交差する上下方向に沿って延びるようにして保持しており、
前記横断支持バー66は前記コネクタ本体部分18に埋設されており、
前記端子36の前記本体部分36bは、前記上下方向に沿って延びるように折り曲げられており、
前記端子38は、接触部38aと本体部分38bとを有しており、
前記端子38の前記接触部38aは、前記端子36の前記接触部36aと平行に延びるようにして前記下側端子モジュール32に保持されており、
前記端子38の前記本体部分38bは、前記端子36の前記本体部分36bと平行に延びるようにして前記下側端子モジュール32に保持されており、
前記端子36の前記接触部36aは前記上側端子モジュール30の片持ち部分44に保持されており、及び前記端子38の前記接触部38aは、前記下側端子モジュール32の片持ち部分44に保持されている電気コネクタ14。」

また、同じく、これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明9の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「複数の端子36と、複数の端子38と、上側端子モジュール30と、下側端子モジュール32と、コネクタ本体部分18と、前記上側端子モジュール30、下側端子モジュール32、及びコネクタ本体部分18とは別体の横断支持バー66とを備える電気コネクタ14の製造方法であって、
接触部36aと本体部分36bとを有するようにして長手方向に延びる端子36であって、前記長手方向と直交する整列方向に整列された複数の前記端子36を備えるキャリアストリップ90を準備する、工程と、
前記端子36の前記接触部36aを前記上側端子モジュール30によって保持し、前記端子36の前記本体部分36bを前記横断支持バー66によって保持する、工程と、
前記横断支持バー66を前記コネクタ本体部分18に埋設させる工程と、
前記端子38を前記下側端子モジュール32によって保持する工程とを備える電気コネクタ14の製造方法。」

(2)刊行物2
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物2には、「ライトアングル型コネクタ」に関して、図面(特に、図1ないし図5参照)と共に、次の事項が記載されている。

ア 「【0010】
【発明の実施の形態】
図1乃至図4は、本発明の第1実施例になるライトアングル型コネクタ30を示す。ライトアングル型コネクタ30は左右対称の構造であり、図示の便宜上、約半分を図示する。
【0011】
コネクタ30は、コネクタ本体31と、ブラケット32と、複数の端子33とを有し、且つ、ブラケット32をコネクタ本体31に仮固定する仮固定手段としての仮固定機構34を有する。
図2に示すように、コネクタ本体31は、絶縁性の材料製であり、平面図上コ字形を有し、本体部31aと、本体部31aの両側の腕部31bとよりなる。腕部31bの内側には、溝35、36、37が形成してある。溝35の奥部の壁のY1,Y2の両側にスリット38a.38bが形成してある。このスリット38a.38bによって、上記壁は、腕39と成っている。この腕39は、下端の内側に、爪40を有し、弾性的に撓んで、爪40がX1,X2方向に変位可能である。
【0012】
ブラケット32は、絶縁性の材料製であり、X1方向よりみてL字状をなし、板状の本体部32aと、Y2方向端側の立ち上がり壁32bと、X1、X2方向端側の立ち上がり壁32cとを有する。本体部32aには、複数の貫通孔41が、後述する垂直端子部33bの設計上の配列に対応した配置で形成してある。また、本体部32aのX1,X2方向端の下面には、位置決め手段としての位置決め用のピン部42が設けてある。図3に示すように、立ち上がり壁32cの外側の面には、上端付近に、凹部43があり、下端付近に、凹段部44がある。凹部43より上側は、傾斜面45となっており、凹段部44と凹部43との間も、傾斜面46となっている。前記の爪40と上記の凹部43とが、上記の仮固定機構34を構成する。」

イ 「【0014】
上記のブラケット32は、図2の姿勢で、コネクタ本体31の下側からZ1方向にコネクタ本体31に近づけられ、図1及び図2に示すように、各貫通孔41を対応する垂直端子部33bに嵌合させ、且つ、図1に示すように、立ち上がり壁32cを溝35に嵌合させ、且つ、図2に示すように、凹部43を爪40と係合させて仮固定してある。仮固定とは、ブラケット32が、最終的に取付けられる位置より手前側の位置に、容易には外れない状態で、且つ、最終取付け位置に移動し得る状態で取付けてあるという意味である。
【0015】
仮固定ではあるけれども、立ち上がり壁32cが溝35に嵌合しているため、ブラケット32は、X1,X2方向及びY1,Y2方向については、コネクタ本体31に対して、最終取付け位置と同じ位置に位置決めしてある。また、本体部32aは、上記の高さH2に位置しており、各貫通孔41内に垂直端子部13bの先端(下端)13cが嵌合している。よって、各端子33は、垂直端子部33bを位置規制されている。
【0016】
ここで、図1及び図2に示すように、垂直端子部13bの先端(下端)13cが貫通孔41の内部に位置しており、垂直端子部13bの先端13cはブラケット32より下方に突き出してはいない。このため、コネクタ30を運搬している途中で、垂直端子部13bの先端13cが外部の物に引っ掛かることが起きず、よって、取り扱い中に垂直端子部13bが曲がってしまうことは起きない。このため、後述するように、コネクタ30をプリント板に実装するに際して、垂直端子部の曲がりを直す作業を行う必要がなく、実装作業は能率良く行われる。」

ウ 図5(A)には、凹部43と爪40とは垂直端子部33bに沿って延びる垂直方向に係合することが示されている。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2の技術事項」という。)が記載されている。

「コネクタ本体31には爪40が設けられており、ブラケット32には凹部43が設けられており、前記凹部43と前記爪40とは垂直方向に係合しており、これにより、前記ブラケット32は前記コネクタ本体31に保持されているライトアングル型コネクタ。」

(3)刊行物3
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物3には、「ソケットコネクター」に関して、図面(特に、図4、図6、図7参照)と共に、次の事項が記載されている。

「【0016】
図1に示すように、本考案に係わるソケットコネクター(1)は、プラグコネクター(符号なし)を連接するために用いられ、五つの第1端子(11)と、四つの第2端子(12)と、絶縁本体(13)と、金属カバー(14)とを備える。
【0017】
図2乃至図5に示すように、該第1端子(11)は、互いに平行して配列するUSB2.0端子であり、突出端(111)と、延伸部(112)と、第1脚端(113)とを有し、該延伸部(112)は、該突出端(111)と第1脚端(113)と連接され、幅が該突出端(111)より狭く、該第1脚端(113)は、該延伸部(112)と直交される。
【0018】
該第2端子(12)は、該第1端子(11)と平行して交差配列するUSB3.0端子であり、弾性端(121)と、連接部(122)と、第2脚端(123)とを有し、該弾性端(121)は、突出の球面(1211)を有し、該連接部(122)は、該弾性端(121)と第2脚端(123)と連接され、該第2脚端(123)は、該連接部(122)と直交しながら、該連接部(122)と連接箇所に湾曲部(124)が設けられ、該湾曲部(124)は、プラグコネクターを挿入する際、緩衝効果を提供することにより、該第2端子(12)の変形問題を防止できる。
【0019】
該絶縁本体(13)は、第1絶縁部材(131)と第2絶縁部材(132)を有し、該第1絶縁部材(131)に第1端子(11)と第2端子(12)が嵌設されると共に、第1本体(1311)と第1突出部(1312)を有し、該第1本体(1311)に該第1端子(11)の延伸部(112)が設けられると共に、第1表面(符号なし)を有し、該第1表面の一端に所定の間隔で平行配列する複数の凹溝(13111)が形成され、該凹溝(13111)に該第1端子(11)の突出端(111)が設けられ、該第1表面の中央に平行する複数のチャンネル(13112)が形成され、該チャンネル(13112)に該第2端子(12)の連接部(122)が設置され、該弾性端(121)の球面(1211)が該チャンネル(13112)から露出され、該第1突出部(1312)が該凹溝(13111)に対して該第1本体(1311)の他端に設けられると共に、その上に該第1本体(131)と垂直される係合孔(13121)と、該第1本体(131)と平行される貫通孔(13122)と、該第1突出部(1312)の両側に位置される係合溝(13123)と、該係合孔(13121)の他側に位置される係止溝(13124)とが形成され、該第2脚端(123)が該貫通孔(1311)から突出される。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物3には、次の事項(以下「刊行物3の技術事項」という。)が記載されている。

「第1端子(11)の突出端(111)及び第2端子(12)の弾性端(121)は、絶縁本体(13)の第1本体(1311)に保持されているソケットコネクター(1)。」

2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「端子36」及び「端子38」は前者の「第1コンタクト」及び「第2コンタクト」に相当し、後者の「上側端子モジュール30」、「下側端子モジュール32」及び「コネクタ本体部分18」は、端子36及び端子38を保持するものであり、また「半ハウジング30、32」(前記「1(1)」の段落【0016】)及び「コネクタハウジング本体部分18」(同段落【0028】)とも表記されるから、前者の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「横断支持バー66」は「整列部材」に、「電気コネクタ14」は「コネクタ」に、端子36の「接触部36a」及び「本体部分36b」は第1コンタクトの「接触部」及び「端子部」に、端子38の「接触部38a」及び「本体部分38b」は第2コンタクトの「接触部」及び「端子部」に、「片持ち部分44の突出方向」は「第1方向」に、「前記突出方向と交差する上下方向」は「前記第1方向と交差する第2方向」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「第1コンタクトと、第2コンタクトと、ハウジングと、前記ハウジングとは別体の整列部材とを備えるコネクタであって、
前記第1コンタクトは、接触部と端子部とを有しており、
前記ハウジングは、前記第1コンタクトの前記接触部を第1方向に沿って延びるようにして保持しており、
前記整列部材は、前記第1コンタクトの前記端子部を前記第1方向と交差する第2方向に沿って延びるようにして保持しており、
前記第1コンタクトの前記端子部は、前記第2方向に沿って延びるように折り曲げられており、
前記第2コンタクトは、接触部と端子部とを有しており、
前記第2コンタクトの前記接触部は、前記第1コンタクトの前記接触部と平行に延びるようにして前記ハウジングに保持されており、
前記第2コンタクトの前記端子部は、前記第1コンタクトの前記端子部と平行に延びるようにして前記ハウジングに保持されているコネクタ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明1は、「前記ハウジングには被係合部が設けられており」「前記整列部材には係合部が設けられており」「前記係合部と前記被係合部とは前記第2方向と交差する方向に係合しており、これにより、前記整列部材は前記ハウジングに保持されて」いるのに対し、
引用発明1は、前記横断支持バー66は前記コネクタ本体部分18に埋設されている点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記第1コンタクトの前記接触部及び前記第2コンタクトの前記接触部は、前記ハウジングの同じ部位に保持されている」のに対し、
引用発明1は、「前記端子36の前記接触部36aは前記上側端子モジュール30の片持ち部分44に保持されており、及び前記端子38の前記接触部38aは、前記下側端子モジュール32の片持ち部分44に保持されている」点。

(2)判断
そこで、相違点1について検討する。
刊行物2の技術事項は、「コネクタ本体31には爪40が設けられており、ブラケット32には凹部43が設けられており、前記凹部43と前記爪40とは垂直方向に係合しており、これにより、前記ブラケット32は前記コネクタ本体31に保持されているライトアングル型コネクタ。」である。

本願発明1と刊行物2の技術事項とを対比すると、後者の「コネクタ本体31」は前者の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「ブラケット32」は各端子33の位置規制を行うから「整列部材」に、「凹部43」は「係合部」に、「爪40」は「被係合部」に、「ライトアングル型コネクタ」は「コネクト」にそれぞれ相当する。

そうすると、後者は、前者の「前記ハウジングには被係合部が設けられており」「前記整列部材には係合部が設けられており」「前記係合部と前記被係合部とは」「係合しており、これにより、前記整列部材は前記ハウジングに保持されて」いるとの構成を備えているものの、前者において「第2方向」は第1コンタクトの端子部が延びる方向であるから、前者の「前記係合部と前記被係合部とは前記第2方向と交差する方向に係合」するとの構成を備えていないと認められる。

したがって、仮に、刊行物2の技術事項を根拠として、別部材として形成された整列部材とハウジングに係合、被係合部材を形成することが周知の技術手段であるとしても、当該事項を引用発明1に適用して、当業者が相違点1に係る本願発明1の「前記係合部と前記被係合部とは前記第2方向と交差する方向に係合しており」との事項を想到し得たということはできない。

次に、刊行物1の「端子が成形される前に介在スペースに成形材料を充填(てん)することができ、その結果、上側の端子の組みと支持バーを、曲げる際に単一ユニットとして移動することができる。」(段落【0022】)との記載について検討する。

この記載によれば、刊行物1には、単に引用発明1において端子36と横断支持バー66を曲げることが示唆されているに留まり、曲げた後の横断支持バー66の係合については何ら示唆されていない。

引用発明1の横断支持バー66はコネクタ本体部分18に埋設されるものであるから、引用発明1において、当業者が、刊行物1の上記記載から、コネクタ本体部分18に「被係合部が設けられており」横断支持バー66に「係合部が設けられており」「前記係合部と前記被係合部とは前記第2方向と交差する方向に係合しており」との事項を想到し得たということはできない。

また、刊行物3の技術事項は本願発明1の「整列部材」に相当する部材を備えていない。

したがって、引用発明1において、刊行物2,3の技術事項を適用して、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)まとめ
よって、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用発明1及び刊行物2,3の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明1及び刊行物2,3の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明9について
本願発明9と引用発明2とを対比すると、前記「2(1)対比」のとおり、後者の「端子36」及び「端子38」は前者の「第1コンタクト」及び「第2コンタクト」に相当し、後者の「上側端子モジュール30」、「下側端子モジュール32」及び「コネクタ本体部分18」は前者の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「横断支持バー66」は「整列部材」に、「電気コネクタ14」は「コネクタ」に、端子36の「接触部36a」及び「本体部分36b」は第1コンタクトの「接触部」及び「端子部」にそれぞれ相当する。

また、後者の「端子36」は前者の「金属片」にも相当するから、端子36の「接触部36a」及び「本体部分36b」は金属片の「接触部」及び「端子部」に相当し、「前記端子36を備えるキャリアストリップ90」は「前記金属片を備える金属部材」に相当し、「長手方向」及び「前記長手方向と直交する整列方向」は「第1方向」及び「前記第1方向と直交する整列方向」に相当する。

そうすると、後者の「複数の前記端子36を備えるキャリアストリップ90を準備する、工程」は前者の「複数の前記金属片を備える金属部材を準備する、準備工程」に相当し、後者の「前記端子36の前記接触部36aを前記上側端子モジュール30によって保持し、前記端子36の前記本体部分36bを前記横断支持バー66によって保持する、工程」は前者の「前記金属片の前記接触部を前記ハウジングによって保持し、前記金属片の前記端子部を前記整列部材によって保持する、金属片保持工程」に相当し、後者の「前記端子38を前記下側端子モジュール32によって保持する工程」は前者の「前記第2コンタクトを前記ハウジングによって保持する第2コンタクト保持工程」に相当する。

したがって、両者は、
「複数の第1コンタクトと、複数の第2コンタクトと、ハウジングと、前記ハウジングとは別体の整列部材とを備えるコネクタの製造方法であって、
接触部と端子部とを有するようにして第1方向に延びる金属片であって、前記第1方向と直交する整列方向に整列された複数の前記金属片を備える金属部材を準備する、準備工程と、
前記金属片の前記接触部を前記ハウジングによって保持し、前記金属片の前記端子部を前記整列部材によって保持する、金属片保持工程と、
前記第2コンタクトを前記ハウジングによって保持する第2コンタクト保持工程とを備えるコネクタ製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点3〕
本願発明9は、「前記ハウジング及び前記整列部材によって保持された前記金属片を、前記端子部が前記第1方向と交差する第2方向に延びるように折り曲げて、これにより前記第1コンタクトを形成すると共に前記整列部材を前記ハウジングに係合し保持させる整列部材保持工程」を備えるのに対し、
引用発明2は、前記横断支持バー66を前記コネクタ本体部分18に埋設させる工程を備えている点。

(2)判断
そこで、相違点3について検討する。
前記「2(2)判断」のとおり、刊行物1の「端子が成形される前に介在スペースに成形材料を充填(てん)することができ、その結果、上側の端子の組みと支持バーを、曲げる際に単一ユニットとして移動することができる。」(段落【0022】)との記載によれば、刊行物1には、単に引用発明2において複数の端子36と横断支持バー66を曲げることが示唆されているに留まり、曲げた後の横断支持バー66の係合については何ら示唆されていない。

引用発明2の横断支持バー66はコネクタ本体部分18に埋設されるものであるから、引用発明2において、当業者が、刊行物1の上記記載から、金属片を「折り曲げて、これにより」横断支持バー66をコネクタ本体部分18に「係合し保持させる」との事項を想到し得たということはできない。

また、刊行物2,3の技術事項は、上記事項を備えていない。

したがって、引用発明2において、刊行物2,3の技術事項を適用して、相違点3に係る本願発明9の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)まとめ
よって、本願発明9は、引用発明2及び刊行物2,3の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 本願発明10について
本願発明10は、本願発明9をさらに限定したものであるので、本願発明9と同様に、引用発明2及び刊行物2,3の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第4 むすび
以上により、本願発明1ないし10は、いずれも、引用発明1又は引用発明2及び刊行物2,3の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-20 
出願番号 特願2012-133228(P2012-133228)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 仁  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 冨岡 和人
内田 博之
発明の名称 コネクタ及びコネクタ製造方法  
代理人 山崎 拓哉  

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