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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1323082
審判番号 不服2014-6538  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-09 
確定日 2016-12-21 
事件の表示 特願2009-518929「光ファイバパワーレーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日国際公開、WO2008/006994、平成21年12月 3日国内公表、特表2009-543366〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年6月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月13日、フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成24年9月24日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年4月2日に手続補正がなされたが、同年12月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年4月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月9日に手続補正書(方式)が提出され、請求の理由が補充されたものであり、その後、当審において、平成27年3月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月2日に手続補正がなされ、更に、同年10月1日付けで拒絶の理由(以下「当審最後の拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月8日に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年1月8日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年1月8日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その請求項1についての補正は、
本件補正前(平成27年9月2日付け手続補正後のもの)に、
「励起波を発するパワーレーザダイオード(1)と、
光共振器(12)であって、
完全反射端(6)と、
部分反射端(9)と、
20μmより大きい直径を有するコアと、入力面(23)と、出力面(24)とを有する増幅用マルチモード光ファイバ(7)と、
前記マルチモードファイバの前記入力面(23)と前記完全反射端(6)の間に形成される第1の光学サブモジュール(25)と、
前記マルチモード光ファイバの前記出力面(24)と前記部分反射端(9)の間に形成される第2の光学サブモジュール(26)と、
を備える光共振器(12)と、
前記光共振器(12)内にレーザビームを生じるように前記マルチモード光ファイバ(7)内に前記励起波を結合する光学結合手段(3、11、2)と、
を備え、
前記レーザビームの一部が前記部分反射端(9)を通って前記光共振器(12)の外側に透過され、前記レーザビームのもう一つの部分が前記光共振器(12)の内側に反射されるようになっており、
前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)が、その基本モードが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)と前記マルチモード光ファイバ(7)との間の境界面において前記マルチモード光ファイバ(7)の基本モードに実質的に等しい特性を有するように構成され、
前記第1の光学サブモジュール(25)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力面(23)に接触する第1のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第2の光学サブモジュール(26)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記出力面(24)に接触する第2のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第1及び前記第2のシングルモードファイバ端(36,36)は、レーザビームが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール内を往復した後に前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力又は出力面(23、24)上に前記マルチモード光ファイバ(7)の基本モードの振幅及び位相を再現できるようにして基本モードの損失を最小にするように、また前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが他のモードをフィルタリングして前記光共振器内の前記他のモードのさらなる損失を発生できるようにして前記光共振器内に伝播するレーザモード数を最小にするように、前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)内であって前記マルチモード光ファイバ(7)の外部に位置する空間フィルタリング手段である
ことを特徴とするパワーファイバレーザ装置。」
とあったものを、

「励起波を発するパワーレーザダイオード(1)と、
光共振器(12)であって、
完全反射端(6)と、
部分反射端(9)と、
20μmより大きい直径を有するコアと、入力面(23)と、出力面(24)とを有する増幅用マルチモード光ファイバ(7)と、
前記マルチモードファイバの前記入力面(23)と前記完全反射端(6)の間に形成される第1の光学サブモジュール(25)と、
前記マルチモード光ファイバの前記出力面(24)と前記部分反射端(9)の間に形成される第2の光学サブモジュール(26)と、
を備える光共振器(12)と、
前記光共振器(12)内にレーザビームを生じるように前記マルチモード光ファイバ(7)内に前記励起波を結合する光学結合手段(3、11、2)と、
を備え、
前記レーザビームの一部が前記部分反射端(9)を通って前記光共振器(12)の外側に透過され、前記レーザビームのもう一つの部分が前記光共振器(12)の内側に反射されるようになっており、
前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)が、その基本モードが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)と前記マルチモード光ファイバ(7)との間の境界面において前記マルチモード光ファイバ(7)の基本モードに実質的に等しい特性を有するように構成され、
前記第1の光学サブモジュール(25)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力面(23)に接触する第1のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第2の光学サブモジュール(26)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記出力面(24)に接触する第2のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第1及び前記第2のシングルモードファイバ端(36,36)は、前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)内であって前記マルチモード光ファイバ(7)の外部に位置する空間フィルタリング手段であり、
前記第1及び前記第2の光学サブモジュールの少なくとも一方は、レーザビームが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール内を往復した後に前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力又は出力面(23、24)上に前記マルチモード光ファイバ(7)の基本モードの振幅及び位相を再現できるようにして、これにより基本モードの損失を最小にするように、また前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが他のモードをフィルタリングして前記光共振器内の前記他のモードのさらなる損失を発生できるようにして、これにより前記光共振器内に伝播するレーザモード数を最小にするように、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力面(23)又は前記出力面(24)から出る光をそれ自身に再結像する光学手段(2、8)を含む
ことを特徴とするパワーファイバレーザ装置。」
と補正するものである(下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)

2 補正目的
(1)上記「1」の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「空間フィルタリング手段」について、マルチモード光ファイバの入力面又は出力面から出る光をそれ自身に再結像する光学手段を含むものであることに限定するものであり、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

(2)よって、本件補正のうち、請求項1について補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であると認められるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)引用文献に記載の事項
ア 引用文献1
当審最後の拒絶理由に引用し、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-200931号公報(平成12年7月18日公開。以下「引用文献1」という。)には、図とともに以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(ア)「【請求項1】光エネルギを共振器軸に沿って繰り返し通過させる共振器と、
利得媒質を添加され、該共振器軸に沿って配置された多モード光ファイバと、
該利得媒質を励起するためのポンプと、
該共振器軸に配置されたモードロッキング機構と、
該多モード光ファイバで増幅された光を該多モード光ファイバの基本モードに優先的に閉じ込める該共振器軸に配置された光ガイドと、
からなる超短光パルス発生用レーザ。
【請求項2】ないし【請求項6】は、省略。
【請求項7】前記光ガイドが前記共振器軸上の単一モードモードフィルタファイバからなる請求項1に規定された超短光パルス発生用レーザ。
【請求項8】前記単一モードモードフィルタファイバが前記多モード光ファイバの一端部に溶融スプライスされる請求項7に規定された超短光パルス発生用レーザ。
【請求項9】は、省略。
【請求項10】前記単一モードモードフィルタファイバが前記溶融スプライスにおいてテーパ化される請求項8に規定された超短光パルス発生用レーザ。」

(イ)「【発明の要旨】本発明はピークパワー制限に関する前述の問題を克服し、かつ、モードロック多モードファイバレーザを提供する。このレーザはモードロック多モードファイバレーザからの高ピークパワーパルスの安定な発生を許す共振器デザインを使用しており、これまでのモードロック単一モードファイバレーザのピークパワー限界を大きく広げる。モードロッキングは共振器内への可飽和吸収体の挿入と多モードファイバでの基本モードの発振を確実にするため一つあるいはそれ以上のモードフィルタを挿入することで誘起される。吸収体の損傷確率は付随的な半導体光パワー制限器を共振器内に挿入することで最小化される。最短パルスもファイバ内での非線形偏光展開の利点を利用することで発生される。広い面積のダイオードレーザからのポンプ光はクラッディングポンプ技術を用いることで多モードファイバに供給される。この発明によって、モードロックファイバレーザは、たとえば繰り返し周期66.7MHz、平均パワー300mWの360fsec近バンド幅限界パルスを得るために作られる。これらの模範的なパルスのピークパワーは約6KWと見積もられる。」(第9欄第49行ないし第10欄第18行)

(ウ)「【実施例】本発明の好適実施例の以下の記述は添付図に関連し、図中の同じ素子は終始同一の引用数字をつける。図1Aは共振器内で超短、高パワー光パルスを発生させるために多モード増幅ファイバ1本を用いる本発明のモードロックレーザ共振器を図示している。……ファイバ13は、クラッディングにとって0.40の開口数を形成する低屈折率ポリマでコートされる。長さ10cmの単一モードコーニング・リーフ・ファイバ15は、モードフィルタとしての最適動作を確実にするために、約14μmのコア直径を作るため熱的にテーパ化され、この区間は多モードファイバ13の第一端部17に溶融スプライスされる。この模範的な実施例では、共振器11は第一ミラー19と第二ミラー21の間に形成されている。」(第10欄第19行ないし第47行)

(エ)「ファイバ15からのレーザビームはレンズ43で平行にされ、ファラデ回転子25による回転の後、レンズ45で2光子吸収体37の反射防止コートされた面39の上に再集光される。可飽和吸収体35上のレーザビームのスポットサイズはレンズ45の位置を変えることによって、あるいは異なる焦点距離のレンズを用いることによって、調節される。……このポンプ光は単一モードファイバ17に相対する多モードファイバ13の端部53に注入される。ポンプ光は980/1550nmにとっての2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器55によって、共振器11に結合される。レンズ47と48は、ファイバ束57からのポンプパワーを多モードファイバのクラッディングに結合するために最適化される。」(第11欄第38行ないし第12欄第6行)

(オ)「図5に示された本発明の別の実施例では、レーザ共振器75は陽性分散素子を含む。図4でのように、図5中の類似引用数字は図1と関連して詳細に記述された素子と同一であると見なす。本実施例で、単一モード陽性分散ファイバ77の一部分は第2ミラー21とレンズ49の間に組み付けられる。類似の方法で、陽性分散ファイバの一部分は多モードファイバ13の端部53あるいはレンズ43に面する単一モードフィルタ15の端部にスプライスされる。陽性分散ファイバは一般的に小さなコア領域をもっており、レーザから得られるパルスエネルギを制限している。……二つの単一モードモードフィルタファイバ15、77の使用もレーザの調整を単純化するのに有利である。……二つのモードフィルタファイバ15、77の使用は、両方のモードフィルタ15、77の反復調整のために多モードファイバ内で直接発生された増幅自然放出信号の使用を許す。」(第13欄第22行ないし第49行)

(カ)「最後に、受動モードロッキングの代わりに、能動モードロッキングあるいは能動-受動モードロッキング技術が、多モードファイバをモードロックするために使われる。たとえば、能動-受動モードロッキングシステムは、可飽和吸収体なしで、固定された繰り返し周期の短い光パルスを発生するために、非線形偏光展開(受動モードロッキング機構のような)と共に光周波数あるいは振幅変調器(能動モードロッキング機構のような)を含むことができる。光モードロッキング機構101をもつモードロック多モードファイバ13の図解が図11に示されている。モードロックレーザ105の性能を高めるために使われる光フィルタ103も示されている。一般的に、ここに記述された共振器デザインは本発明の好適実施例の模範である。他の変更は以前の議論から明かである。」(第15欄第25行ないし第39行)

(キ)「【図面の簡単な説明】
【図1】は、多モードファイバへポンプ光を注入するために終端ポンピングを用いる本発明の好適実施例の構成を示す図式的なイラストである。
……(省略)……
【図5】は、共振器にチャープパルスを導入するために陽性分散ファイバ1本を使用する代替実施例の図式的なイラストである。
…(省略)……
【図11】は、能動あるいは能動-受動モードロッキングが多モードレーザをモードロックするために使われている代替実施例の図式的なイラストである。」(第16欄第1行ないし第35行)

(ク)「【符号の説明】
11・・共振器、13・・ファイバ(多モードファイバ)、15・・単一モードファイバ(単一モードモードフィルタファイバ)、17・・多モードファイバの第一端部、19・・第一ミラー、21・・第二ミラー、23・・共振器軸、25、27・・ファラデ回転子、29・・偏光ビームスプリッタ、30・・出力、31・・1/2波長板、33・・1/4波長板、35、73・・可飽和吸収体、37・・2光子吸収体、39・・反射防止コート面、41・・サファイア窓、43、45、47、48、49、・・レンズ、51、69、71・・ポンプ光光源、53・・多モードファイバ端部、55・・ポンプ信号注入器、57、65、67・・ファイバ束、61、63・・ファイバ結合器、77・・単一モード陽性分散ファイバ、79・・チャープ周期的ポールLiNbO_(3)、81・・光アイソレータ、83、97・・チャープファイバグレーティング(負性分散ブラッググレーティング)、89・・部分反射ミラー、103・・光フィルタ」(第16欄第36行ないし第18欄第2行)

(ケ)上記(オ)で引用する図5は、以下のものである。


(コ)上記(カ)で引用する図11は、以下のものである。


イ 引用文献1に記載された発明
(ア)上記ア(ア)の記載によれば、引用文献1には、
「光エネルギを共振器軸に沿って繰り返し通過させる共振器と、
利得媒質を添加され、該共振器軸に沿って配置された多モード光ファイバと、
該利得媒質を励起するためのポンプと、
該共振器軸に配置されたモードロッキング機構と、
該多モード光ファイバで増幅された光を該多モード光ファイバの基本モードに優先的に閉じ込める該共振器軸に配置された前記多モード光ファイバの一端部にテーパ化して溶融スプライスされる単一モードモードフィルタファイバと、
からなる超短光パルス発生用レーザ。」が記載されているものと認められる。

(イ)上記ア(イ)の記載に照らせば、
上記(ア)の「利得媒質を励起するためのポンプ」は、「利得媒質を励起するためのダイオードレーザ」であってもよいものと認められる。

(ウ)上記ア(ウ)に「【実施例】本発明の好適実施例の以下の記述は添付図に関連し、図中の同じ素子は終始同一の引用数字をつける。」と記載されていることを踏まえて、
上記ア(イ)ないし(ク)の記載を参照しつつ、図11を見ると、以下のことが理解できる(なお、引用文献1では、「多モードファイバ」と表記されている箇所があるが、以下「多モード光ファイバ」として統一して表記する。)。

a 上記(ア)の「共振器」は、「部分反射ミラー89と第二ミラー21との間に形成された」ものであること。

b 上記(ア)の「多モード光ファイバ」は、「第一端部」に「単一モードモードフィルタファイバ」がテーパ化して溶融スプライスされ、「端部」に「利得媒質を励起するためのポンプ」からのポンプ光が注入されること。

c 上記(ア)の「超短光パルス発生用レーザ」は、光学要素として、
「多モード光ファイバの第一端部」と「部分反射ミラー89」との間の、単一モードモードフィルタファイバからのレーザービームを平行にする、レンズ43(以下「コリメートレンズ43」という。)と、
「多モード光ファイバの端部」と「第二ミラー21」との間の、2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器及び集光レンズ47と、
2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器とポンプとの間の、ファイバ束及びレンズ48と、を備え」、
「集光レンズ47とレンズ48は、ファイバ束からのポンプ光を多モード光ファイバの端部のクラッディングに結合するために最適化されている」ものであること。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)より、引用文献1には、図11に示される実施例として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「部分反射ミラーと第二ミラーとの間に形成された、光エネルギを共振器軸に沿って繰り返し通過させる共振器と、
利得媒質を添加され、該共振器軸に沿って配置された多モード光ファイバと、
該利得媒質を励起するためのダイオードレーザと、
該共振器軸に配置されたモードロッキング機構と、
該多モード光ファイバで増幅された光を該多モード光ファイバの基本モードに優先的に閉じ込める該共振器軸に配置された前記多モード光ファイバの第一端部にテーパ化して溶融スプライスされる単一モードモードフィルタファイバと、
前記多モード光ファイバの第一端部と前記部分反射ミラーとの間の、前記単一モードモードフィルタファイバからのレーザービームを平行にする、コリメートレンズ43と、
前記多モード光ファイバの端部と前記第二ミラーとの間の、2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器及び集光レンズ47と、
前記2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器と前記ダイオードレーザとの間の、ファイバ束及びレンズ48と、を備え、
前記集光レンズ47と前記レンズ48は、前記ファイバ束からのポンプ光を前記多モード光ファイバの端部のクラッディングに結合するために最適化されている、超短光パルス発生用レーザ。」

ウ 引用文献2
当審最後の拒絶理由に引用し、本願の優先日前に頒布された刊行物である「HONG-SEOK SEO, ET AL.,Single Mode Laser Oscillation in an Nd-Doped Large Core Double Clad Fiber Cavity with Concatenated Adiabatic Tapers,ETRI Journal,Electron. & Telecommun. Res. Inst.,2002年 6月,Vol.24, No.3,pp.255-258(科学技術振興事業団の受け入れ日2002年6月20日)」(以下「引用文献2」という。)には、図とともに以下の記載がある。

(ア)「

(第255頁 論文のタイトル)
(日本語訳
連結した断熱テーパをもつNdドープの大きなコアの二重クラッドファイバ共振器における単一モードレーザ発振)

(イ)「

」(第256頁左欄第2パラグラフないし同頁右欄第1パラグラフ)
(日本語訳
エアロゾル噴霧法による改良化学蒸着を用いて、Ndドープコアを備えた円筒形光ファイバプリフォームを製造した。Ndドープコアの屈折率は0.003であり、シリカクラッドの屈折率よりも高かった(参照:図1、N.A.=0.1)。このプリフォームを引き延ばして、アレイ状レーザダイオードシステム(SDL:ダイオードレーザシステムFD25)の電力送出光ケーブルに適合するクラッド径600μmのファイバにした。ファイバは、屈折率が1.377である紫外線硬化性低屈折率ポリマーを被覆し、DCF構造とした(図1)。シリカとUVポリマーとの間の開口数は約0.47であり、被覆厚は約100μm、二重クラッドファイバのコア径は約38.5μmとし、これによりこのコアでは多数のモードを保有できる。我々は、二重クラッドファイバにおいて、直径を600μmから125μmに減少させたときに更なる高次モードを排除するファイバを設計した。このように、両端面部にテーパ部を有するコア径の大きいコアを備えたファイバレーザ共振器において、ファイバを125μmに減少させてテーパ部を形成することによって、コア径を減少させたコアに単一モードLP_(01)のみが残存し、モードの競合を介して優先レーザモードとなった。)

(ウ) 「

」(第256頁右欄第2パラグラフないし第257頁左欄第1パラグラフ)(日本語訳
図2には、提唱したファイバレーザ共振器を概略的に示す。端面付近ではポリマージャケットは取り除かれ……(省略)……パッチコードは、バルク入力端ミラーを介して共振器に突合せ結合した。厚さ1mmのダイクロイックミラーは、反射率は1.04μm?1.12μmの範囲で99%、透過率は0.8μmで95%であった。ミラーは、屈折率整合オイルを用いて、ホルダー内の研磨したDCF末端部表面に機械的に取り付けた。ポンプを直径600μmのシリカクラッドに進入させると、入射テーパ部でのパワーの漏出は少なかった。これは、空気とシリカクラッド(屈折率は、それぞれ1.0、1.457)との界面によって形成された開口数が高いためであった。テーパ形状域以降では、ポンプは、長さ10mのファイバ内のNdドープコアで吸収され、Ndイオンが反転分布となった。DCF端面に出力テーパ部が形成され、従来のSMF(直径125μm)にスプライシングした。……(省略)……ポンピング時、Ndイオンから放出された光線は、複合共振器内を通るコア径の大きいコアを介して伝搬した。LP_(01)モードのみがコアに進入することができる2つの連結テーパ部を介して光フィードバックを行った後、基底モードのみが残存した。2つの連結したテーパ部間の導波路の光線伝搬方法の分析結果を図3に示す。初期の弱い光は、Ndドープコアを介して伝搬した自然放出光から漏出した。光のフィールドプロファイルは、共振器内では、多数のモードの一次結合から構成されたものであった。……(省略)……中央部では、基底モードはクラッド内を通って誘導されるポンプモードとの重なり積分が有意に増大し、ポンプ効率が向上した点に留意のこと。)

(エ) 「

」(第258頁左欄)
(日本語訳
III.結論
我々は、2つの連結したテーパ部が高次モード遮断フィルターとして機能する新規のNdドープクラッドポンプファイバレーザの実証を行った。得られたレーザ出力パワーは820mW超であり、スロープ効率が27%、閾値が2.7Wであった。……(省略)……。)

(オ)図2は、以下のものである。

(図説の日本語訳
コア径の大きいコアを有し、両端面がテーパ形状であるNdドープ二重クラッドファイバの実験的組み立て。左側のテーパ形状域では、シリカクラッドと空気との界面で形成される開口数が高いため、ポンプ光線が低損失で残存する。散乱中心で励起される更なる高次モードのレーザ信号は、両端面のテーパ形状域で排除される。)

エ 引用文献2に記載された技術事項
上記ウの記載によれば、引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。

「多数のモードを保有できるコア径の大きな二重クラッドファイバの両端部に、LP_(01)モードのみがコアに進入することができる2つの連結テーパ部を設けることで、テーパ部が高次モードを遮断する高次モード遮断フィルターとして機能すること。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「利得媒質を励起するためのダイオードレーザ」と本願補正発明の「励起波を発するパワーレーザダイオード」とは、「励起波を発するレーザダイオード」である点で一致する。

イ(ア)引用発明の「第二ミラー」及び「部分反射ミラー」は、それぞれ、本願補正発明の「完全反射端」及び「部分反射端」に、相当する。

(イ)引用発明の「『利得媒質を添加され』た『多モード光ファイバ』」が、「コアと、入力面と、出力面とを有する増幅用マルチモード光ファイバ」であることは、当業者にとって明らかである。

(ウ)本願補正発明の「第1の光学サブモジュール」及び「第2の光学サブモジュール」に関連して、本願明細書及び図面には、以下の記載がある。

a 「【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】発明の実施例によるパワーファイバレーザ装置を示す。
……
【図3】それぞれがレンズと完全又は部分反射ミラーを備える二つの光学サブモジュールを備えるパワーファイバレーザ装置を示す。
……
【図11】マルチモード光ファイバを安定化するように動作する直線支持体を示す。」

b 「【0077】
図3に示される実施例において、第1の光学サブモジュール25は、この光学サブモジュール25の基本モードの特性が入力面23上のマルチモード光ファイバ7の基本モードに対応するように配置されたレンズ2a又はいくつかのレンズ及びミラー6から成る光学手段2、8を備える。
【0078】
第2の光学サブモジュール26もまた、この光学サブモジュール26の基本モードの特性が出力面24上のマルチモード光ファイバ7の基本モードに対応するように配置されたレンズ2a又はいくつかのレンズ及び部分反射ミラー9から成る光学手段2、8を備える。」

c 図3は、以下のものである。


d 上記記載からして、
「第1の光学サブモジュール」は、マルチモード光ファイバの入力面側に配置される、レンズ及び完全反射ミラーを含む装置であり、
「第2の光学サブモジュール」は、マルチモード光ファイバの出力面側に配置される、レンズ及び部分反射ミラーを含む装置であると解される。

e 一方、引用発明も「部分反射ミラーと第二ミラーとの間に形成された、光エネルギを共振器軸に沿って繰り返し通過させる共振器と、
利得媒質を添加され、該共振器軸に沿って配置された多モード光ファイバと」、
「前記多モード光ファイバの第一端部と前記部分反射ミラーとの間の、前記単一モードモードフィルタファイバからのレーザービームを平行にする、コリメートレンズ43と、
前記多モード光ファイバの端部と前記第二ミラーとの間の、2色ビームスプリッタのようなポンプ信号注入器及び集光レンズ47と」を備えたものであるから、「多モード光ファイバの端部」側には、集光レンズ47及び第二ミラー(完全反射ミラー)が配置(端部側の光学系を、以下「端部側装置」という。)され、「多モード光ファイバの第一端部」側には、コリメートレンズ43及び部分反射ミラーが配置(第一端部側の光学系を、以下「第一端部側装置」という。)されているといえるから、本願補正発明と引用発明とは、「マルチモードファイバの入力面と完全反射端の間に形成される第1の光学サブモジュールと、マルチモード光ファイバの出力面と部分反射端の間に形成される第2の光学サブモジュールと、を備える」点で一致する。

(エ)してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「光共振器であって、
完全反射端と、
部分反射端と、
コアと、入力面と、出力面とを有する増幅用マルチモード光ファイバと、
前記マルチモードファイバの前記入力面と前記完全反射端の間に形成される第1の光学サブモジュールと、
前記マルチモード光ファイバの前記出力面と前記部分反射端の間に形成される第2の光学サブモジュールと、
を備える光共振器」を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「集光レンズ47とレンズ48」は、「ファイバ束からのポンプ光を多モード光ファイバの端部のクラッディングに結合するために最適化されている」ことから、本願補正発明と引用発明とは、「光共振器内にレーザビームを生じるようにマルチモード光ファイバ内に励起波を結合する光学結合手段を備える」点で一致する。

エ 引用発明の「『共振器軸に沿って繰り返し通過』する『光エネルギ』」は、レーザビームになり、その一部が「部分反射ミラー」を通って共振器の外側に放射され、残りの部分が共振器の内側に反射されることは、当業者にとって明らかである。
してみると、引用発明と本願補正発明とは、「レーザビームの一部が部分反射端を通って光共振器の外側に透過され、レーザビームのもう一つの部分が光共振器の内側に反射されるようになっている」点で一致する。

オ(ア)一般に、「共振器を利用したレーザ」の発振原理に基づくと、そのレーザビームが「基本モード」を含むことは技術常識であるとともに、引用発明は、「部分反射ミラーと第二ミラーとの間に形成された、光エネルギを共振器軸に沿って繰り返し通過させる共振器」、「利得媒質を添加され、該共振器軸に沿って配置された多モード光ファイバ」及び「多モード光ファイバで増幅された光を該多モード光ファイバの基本モードに優先的に閉じ込める該共振器軸に配置された前記多モード光ファイバの第一端部にテーパ化して溶融スプライスされる単一モードモードフィルタファイバ」とを備える「超短光パルス発生用レーザ(レーザ装置)」であるから、
引用発明の「『共振器軸に沿って繰り返し通過』する『光エネルギ』」は、「多モード光ファイバの基本モード」が共振器軸に沿って繰り返し通過することで、「レーザビーム」になり、「端部側装置」及び「第一端部側装置」内においても、「基本モード」が存在し、その基本モードは、「多モード光ファイバ」との境界面において、「多モード光ファイバの基本モード」に実質的に等しい特性を有するものであることは、当業者にとって明らかである。

(イ)引用発明の「単一モードモードフィルタファイバ」は、「多モード光ファイバ」の「第一端部」に取り付けられる「シングルモードファイバ」であるから、引用発明は、本願発明の「マルチモード光ファイバの出力面に接触する第2のシングルモードファイバ端を備え」ているといえる。
そして、上記イ(ウ)eを踏まえると、該「単一モードモードフィルタファイバ」は、「第一端部側装置」内に位置することは明らかであり、「多モード光ファイバで増幅された光」の高次モードをフィルタリングして、「多モード光ファイバの基本モード」に優先的に閉じ込めるものであるから、「第一端部側装置」内であって「多モード光ファイバ」の外部に位置する「空間フィルタリング手段」であるといえる。

(ウ)また、引用発明の「『共振器軸に沿って繰り返し通過』する『光エネルギ』」は、「部分反射ミラー」で反射した後、「コリメートレンズ43」により集められて「単一モードモードフィルタファイバ」を介して「多モード光ファイバの第一端部」に再入射し、一方、「第二ミラー」で反射した後、「集光レンズ47」により集められて「多モード光ファイバの端部」に再入射することを繰り返すことで、レーザとして発振する。
このとき、「多モード光ファイバの第一端部」においては、「光エネルギ」が出射と入射を繰り返すことになるが、「光エネルギ」が減衰せず、「単一モードモードフィルタファイバ」を通過した後に「部分反射ミラー」を通って「共振器」の外側に「レーザビーム」として放射されることから、「コリメートレンズ43」は、「多モード光ファイバの第一端部」に「多モード光ファイバの基本モード」の振幅及び位相が再現できるように、「部分反射ミラー」で反射した「光エネルギ」を「単一モードモードフィルタファイバ」を介して「多モード光ファイバの第一端部」から出射する「光エネルギ」に再結像する(重ね合わせる)ものであるといえる。
よって、本願発明と引用発明とは、「第1及び第2の光学サブモジュールの少なくとも一方は、レーザビームが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール内を往復した後に前記第1及び前記第2の光学サブモジュールがマルチモード光ファイバの入力又は出力面上に前記マルチモード光ファイバの基本モードの振幅及び位相を再現できるように、前記マルチモード光ファイバの前記入力面又は前記出力面から出る光をそれ自身に再結像する光学手段を含む」点で一致する。

(エ)してみると、本願補正発明と引用発明とは、「第1及び第2の光学サブモジュールが、その基本モードが第1及び第2の光学サブモジュールとマルチモード光ファイバとの間の境界面においてマルチモード光ファイバの基本モードに実質的に等しい特性を有するように構成され、
第2の光学サブモジュールは、マルチモード光ファイバの出力面に接触する第2のシングルモードファイバ端を備え、
第2のシングルモードファイバ端は、第2の光学サブモジュール内であってマルチモード光ファイバの外部に位置する空間フィルタリング手段であり、
第1及び第2の光学サブモジュールの少なくとも一方は、レーザビームが第1及び第2の光学サブモジュール内を往復した後に第1及び第2の光学サブモジュールがマルチモード光ファイバの入力又は出力面上にマルチモード光ファイバの基本モードの振幅及び位相を再現できるように、マルチモード光ファイバの入力面又は出力面から出る光をそれ自身に再結像する光学手段を含む」点で一致する。

カ 引用発明の「超短光パルス発生用レーザ」と本願補正発明の「パワーファイバレーザ装置」は、「ファイバレーザ装置」である点で一致する。

キ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「励起波を発するレーザダイオードと、
光共振器であって、
完全反射端と、
部分反射端と、
コアと、入力面と、出力面とを有する増幅用マルチモード光ファイバと、
前記マルチモードファイバの前記入力面と前記完全反射端の間に形成される第1の光学サブモジュールと、
前記マルチモード光ファイバの前記出力面と前記部分反射端の間に形成される第2の光学サブモジュールと、
を備える光共振器と、
前記光共振器内にレーザビームを生じるように前記マルチモード光ファイバ内に前記励起波を結合する光学結合手段と、
を備え、
前記レーザビームの一部が前記部分反射端を通って前記光共振器の外側に透過され、前記レーザビームのもう一つの部分が前記光共振器の内側に反射されるようになっており、
前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが、その基本モードが前記第1及び前記第2の光学サブモジュールと前記マルチモード光ファイバとの間の境界面において前記マルチモード光ファイバの基本モードに実質的に等しい特性を有するように構成され、
前記第2の光学サブモジュールは、前記マルチモード光ファイバの前記出力面に接触する第2のシングルモードファイバ端を備え、
前記第2のシングルモードファイバ端は、前記第2の光学サブモジュール内であって前記マルチモード光ファイバの外部に位置する空間フィルタリング手段であり、
前記第1及び前記第2の光学サブモジュールの少なくとも一方は、レーザビームが前記第1及び前記第2の光学サブモジュール内を往復した後に前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが前記マルチモード光ファイバの前記入力又は出力面上に前記マルチモード光ファイバの基本モードの振幅及び位相を再現できるように、前記マルチモード光ファイバの前記入力面又は前記出力面から出る光をそれ自身に再結像する光学手段を含む、ファイバレーザ装置。」

ク 一方で、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
「レーザダイオード」に関して、
本願補正発明は、「パワーレーザダイオード」であるのに対して、
引用発明は、「ダイオードレーザ」が「パワーレーザダイオード」であるか否か不明である点。

<相違点2>
「増幅用マルチモード光ファイバ」のコアの直径に関して、
本願補正発明は、「20μmより大きい」のに対して、
引用発明は、「多モード光ファイバ」のコアの直径が不明である点。

<相違点3>
「ファイバレーザ装置」に関して、
本願補正発明は、「パワーファイバレーザ装置」であるのに対して、
引用発明は、「超短光パルス発生用レーザ」がそのようなものであるか否か不明である点。

<相違点4>
「第1の光学サブモジュール及び第2の光学サブモジュール」に関して、
(相違点4-a)
本願補正発明は、
「前記第1の光学サブモジュール(25)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力面(23)に接触する第1のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第2の光学サブモジュール(26)は、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記出力面(24)に接触する第2のシングルモードファイバ端(36)を備え、
前記第1及び前記第2のシングルモードファイバ端(36,36)は、前記第1及び前記第2の光学サブモジュール(25、26)内であって前記マルチモード光ファイバ(7)の外部に位置する空間フィルタリング手段である」のに対して、
引用発明は、
「多モード光ファイバ」の「第一端部」に「単一モードモードフィルタファイバ」(第2のシングルモードファイバ端)を備えるものの、「多モード光ファイバ」の「端部」に「第1のシングルモードファイバ端」を備えていない点。

(相違点4-b)
本願補正発明は、
「第1及び前記第2の光学サブモジュールが前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力又は出力面(23、24)上に前記マルチモード光ファイバ(7)の基本モードの振幅及び位相を再現できるようにして、これにより基本モードの損失を最小にするように、また前記第1及び前記第2の光学サブモジュールが他のモードをフィルタリングして前記光共振器内の前記他のモードのさらなる損失を発生できるようにして、これにより前記光共振器内に伝播するレーザモード数を最小にするように、前記マルチモード光ファイバ(7)の前記入力面(23)又は前記出力面(24)から出る光をそれ自身に再結像する光学手段(2、8)を含む」のに対して、
引用発明は、
本願補正発明の当該構成を備えるか否か不明である点。

(4)判断
ア 上記<相違点1>ないし<相違点3>について検討する。
(ア)引用発明において、「多モード光ファイバ」のコアの直径及び「ダイオードレーザ」の出力をどの程度にするかは、当業者が当該引用発明を実施する際に、「超短光パルス発生用レーザ」の必要な出力等を勘案して適宜定めるべき事項であるところ、「コア径が20μmより大きい多モード光ファイバ」は、当審最後の拒絶理由で引用した、引用文献2(第256頁右欄を参照。)、特開2005-11888号公報(【特許請求の範囲】、【0001】及び【0023】を参照。)、特開2005-159142号公報(【0001】及び【0018】を参照。)及び特開2003-8114号公報(【0003】及び【0012】を参照。)に記載されているように、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。)。

(イ)してみると、引用発明において、高出力が得られるように、「多モード光ファイバ」のコアの直径を「20μm」よりも大きくするとともに、太いコアを励起できるように「パワーレーザダイオード」を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(ウ)上記(イ)のようにした引用発明の「超短光パルス発生用レーザ」は、「パワーファイバレーザ装置」と呼べるものである。

(エ)よって、引用発明において、上記<相違点1>ないし<相違点3>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

イ 上記<相違点4>について検討する。
(ア)「(相違点4-a)」について
a 引用文献1には、「単一モードモードフィルタファイバ(15、77)」を共振器軸に複数設けること、その具体的な位置として、「多モードファイバ13の端部53」等が例示されている(摘記(イ)、(オ)及び図5を参照。)ところ、引用文献2に、「多数のモードを保有できるコア径の大きな二重クラッドファイバ」の両端に「高次モードを遮断する高次モード遮断フィルターとして機能する」「テーパ部」を設けることが記載されている(上記「引用文献2記載の技術」を参照。)。
したがって、引用発明において、引用文献2の記載に基づいて、「端部」にも「高次モードを遮断する高次モード遮断フィルターとして機能する」「テーパ部」を設けること、具体的には、「単一モードモードフィルタファイバ」をテーパ化して溶融スプライスするものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

b 上記aのようにした引用発明は、「多モード光ファイバ」の「端部」に「単一モードモードフィルタファイバ」(第1のシングルモードファイバ端)を備え、該「単一モードモードフィルタファイバ」は、「端部側装置」内に位置するとともに、「高次モードを遮断する高次モード遮断フィルターとして機能する」ものであるから、引用発明は、「端部側装置」内であって「多モード光ファイバ」の外部に位置する「空間フィルタリング手段」を備えることになる。

(イ)「(相違点4-b)」について
a 引用発明において、「多モード光ファイバの基本モード」が「共振器軸に沿って繰り返し通過」する際に、該「基本モード」の損失が極力小さくなるようにする必要のあることは当業者にとって自明の課題であるところ、「多モード光ファイバの基本モード」は、ガウス型強度分布を持ち、軸芯に沿って最も平行に伝播するモードであることが技術常識であるから、引用発明の「コリメートレンズ43及び集光レンズ47」の口径や焦点距離等を調整することで、該「基本モード」の損失が最小になるようにするとともに、高次モードに損失を発生させて共振器内に伝播するレーザモード数が最小となるようになすことは、当業者が容易になし得たことである。

b 上記aのようにした引用発明は、上記(相違点4-b)に係る本願補正発明の構成を備えたものとなる。

(ウ)以上の検討によれば、
引用発明において、上記<相違点4>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が引用文献1に記載された事項及び引用文献2記載の技術に基づいて容易になし得たことである。

ウ 本願補正発明の効果
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用文献2記載の技術及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。

(5)平成28年1月8日提出の意見書について
ア 請求人は、意見書の「3.補正後の請求項1に係る発明と引用文献との相違」(第5頁を参照。)において、以下のように主張することから、この点について検討する。

(ア)「請求項1に係る発明においては『第1のシングルモードファイバ端』及び『第2のシングルモードファイバ端』の長さを定量的に特定していないが、これらの『ファイバ端』は10cmよりもずっと短いものであると理解されるべきである。
……(省略)……
一方、引用文献1のいずれの図においても、単一モードファイバ15は、(ポンプ光光源51,69,71からの)ポンプエネルギーが単一モードファイバ15を横切ることがないように配置されている。したがって、引用文献1の単一モードファイバ15は、ポンプエネルギーの伝達に対する影響を考慮することなく設計することができ、請求項1に係る『ファイバ端』よりもずっと長くすることができる。」

(イ)「このように、引用文献1においては、長い単一モードファイバ15を用いることで十分な空間フィルタリング効果が得られるので、これに加えて『再結像』を用いた付加的な空間フィルタを必要としておらず、引用文献1は、請求項1に記載されるような再結像により空間フィルタリングを行う『光学手段』を記載ないし示唆するものではない。」

(ウ)「審判長殿は、引用文献2は、引用文献1と同様にマルチモードファイバの両端にシングルモードファイバを用いることを示唆しているという立場を取っているが、この引用文献2に開示されているテーパ技術を用いる場合には、マルチモードファイバをシングルモードファイバに結合するために用いる結像光学系をなくす必要がある。結像光学系をなくさないで引用文献1と引用文献2とを組み合わせることは不可能である。請求項1における他の要件を教示しているとして引用された引用文献1の実施形態はこれらの結像光学系を含んでいるので、このような組み合わせを拒絶理由の根拠とすることは不合理である。」

イ(ア)上記ア(ア)について
引用発明の「多モード光ファイバの端部」に「単一モードモードフィルタファイバ」をテーパ化して溶融スプライスする際の長さは、フィルタリングの効果や光の損失等を勘案して、当業者が適宜決め得ることである。
また、本願補正発明は、「第1のシングルモードファイバ端」の長さを特定したものではないので、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。

(イ)上記ア(イ)について
上記「(4)判断 イ」で検討したように、「多モード光ファイバの基本モード」は、ガウス型強度分布を持ち、軸芯に沿って最も平行に伝播するモードであることから、引用発明の「コリメートレンズ43及び集光レンズ47」は、該「基本モード」が共振器軸に沿って平行に伝播されるとともに、集光されるように設計されていることは、当業者にとって明らかである。
つまり、引用発明の「コリメートレンズ43及び集光レンズ47」は、「高次モード」に対して「空間フィルタリング手段」として機能するものである。

(ウ)上記ア(ウ)について
請求人の主張は、引用発明が、引用文献1の図9(a)に示されるような「結像光学系」を備えたものであることを前提にした主張である。
しかし、当審最後の拒絶理由では、引用発明の「単一モードモードフィルタファイバ15」について、「該多モード光ファイバ31で増幅された光を該多モード光ファイバ31の基本モードに優先的に閉じ込める多モード光ファイバ31にスプライスした単一モードモードフィルタファイバ15」と認定しており、「多モード光ファイバ31」と「単一モードモードフィルタファイバ15」との間に「結像光学系」を備えたものではないので、請求人の「結像光学系をなくす必要がある」旨の主張は、その前提において間違っている。

ウ よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(6)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明は、当業者が引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用文献
引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、前記「第2 2(1)及び(2)」に記載したとおり、本願発明を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3」で検討したとおり、当業者が引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-19 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-09 
出願番号 特願2009-518929(P2009-518929)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
P 1 8・ 537- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 吉美傍島 正朗  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 光ファイバパワーレーザ装置  
代理人 森 友宏  

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