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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1323087
審判番号 不服2014-23476  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-18 
確定日 2016-12-19 
事件の表示 特願2009-506707「偏光ベースの干渉型検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月25日国際公開、WO2007/121406、平成21年 9月17日国内公表、特表2009-533696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年4月16日(パリ条約による優先権主張2006年4月17日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成26年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年7月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされた。
その後、当審において、平成27年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月28日に面接がなされ、同年7月13日に請求人から回答書がファクシミリで送付されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1ないし35に係る発明は、平成28年4月8日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし35に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「 サンプル材料の光学特性を決定するシステムであって、
第1及び第2の光波を有する第1の光ビームを生成する光学的構成を備え、前記第1の光波が第1の直線偏光を有し、前記第2の光波が第2の直線偏光を有し、前記第1及び第2の直線偏光が相互に実質的に直交し、前記第1及び第2の光波が相互に同相であり、
前記サンプル材料からの前記第1の光ビームを内部全反射の状態で反射する光学インタフェースを有するトランスデューサを備え、前記トランスデューサは、相補的化学作用による前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料を有し、前記サンプル材料と前記検知材料との相互作用によって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第1の位相ずれを発生させ、前記サンプル材料は、核酸、タンパク質、ポリペプチド、ウイルス粒子、細菌又は有機分子を含み、
前記第1の光ビームが前記光学インタフェースから反射した後に、前記第1のビームを第2の光ビームと第3の光ビームに分割する偏光ビームスプリッタを備え、前記第2及び第3の光ビームが、前記偏光ビームスプリッタの主軸上で相互に直交する偏光成分の組合せ投影像で構成され、
前記光学インタフェースから離れた光学リターダを備え、前記光学リターダは、前記第1の光波と前記第2の光波の間に相対遅延を加えることによって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第2の位相ずれを提供し、これにより、前記光学インタフェースの後の前記第1の光ビームに円形の偏光を提供し、
前記第2の光ビームと前記第3の光ビームの強度差を測定して前記第1の位相ずれを計算する信号プロセッサを備え、前記信号プロセッサは、第1の検出器からの第1の強度測定値及び第2の検出器からの第2の強度測定値を受信し、前記第1及び第2の検出器が、それぞれ前記第2及び第3の光ビームの強度を測定する、システム。」

第3 当審の平成27年12月10日付け拒絶理由の概要
当審の平成27年12月10日付け拒絶理由における[理由4]の概略は、次のとおりである。

本願の請求項1?37に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である「HALL,J.L. 他,Detection and Discrimination of Low Concentration Gas Contaminants by means of Interferometrically-Sensed Polymers, IEEE Sensors 2005, 2005年, Pages 1366-1369」(以下、「引用例1」という。)に記載された発明及び特開平9-304339号公報(以下、「引用例2」という。)、又は、引用例1に記載された発明及び特開2001-41881号公報(以下、「引用例3」という。)に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 引用例記載事項

1 引用例1には、次の事項が記載されている(下線は、当審和訳に当審において付加した。)。

(1)「Abstract
Two optical techniques for bio- and chemical sensing were investigated. The methods are based on deviation of the optical properties of polymer transducers due to change in either index of refraction or dimension of the sensing element under molecular impact. The Holographic Interferometer technology developed at the University of Colorado observes interactions between an analyte and a transducer’s surface and bulk. The second approach, a Common Path Interferometer proposed by Dr. John Hall, focuses on surface interactions only. The two techniques complement each other, enabling the separation of surface and bulk interactions. This is critical for accurate description of chemical uptake and release dynamics, and therefore for obtaining parameters necessary for the analyte identification process. Preliminary sensitivity level of the systems is on the order of 10^(-5) RIU (refractive index units) with possible improvement down to 10^(-7) RIU.」(第1366頁左欄第1?18行目)
(当審和訳:要約
バイオセンシングおよびケミカルセンシングのための二つの光学技術を検討した。それらの方法は、分子の影響化での屈折率または検知要素の寸法の変化による高分子トランスデューサの光学特性の偏差に基づくものである。コロラド大学で開発されたホログラフィー干渉計は、被検体とトランスデューサ表面およびバルクとの間の相互作用を観察する。第二のアプローチは、John Hall博士により提案されたコモンパス干渉計であり、表面の相互作用のみを対象としている。上記の二つの技術は、相互に補完し合うことで、表面とバルクの相互作用を分離することを可能とするものである。このことは、化学物質の吸収と排出の動力学についての正確な説明、そして被検体の同定プロセスに必要なパラメータを得るために重要である。システムの予備的な感度レベルを、10^(-5)RIU(屈折率単位)から10^(-7)RIUまで向上させることが可能である。)

(2)「II. System Description

A. Holographic interferometer
・・・
B. Common Path Interferometer.

The new method proposed by Dr. John L. Hall to investigate surface interactions exclusively is as follows. A laser beam rotated to 45 degrees linear polarization enters a Fresnel rhomb. The rhomb is fabricated to provide ?52 degree incidence, which leads to a nominal 45 degree difference of the optical phases on each bounce. In detail, the two perpendicular polarization components experience total internal reflection at the point where sampling occurs, but have a slightly different reflection phase shifts away from the 45 degrees, according to the index of refraction of the glass and the outer gaseous medium. After the rhomb, a polarizing beam splitter (rotated at 45 degrees) combines the two perpendicular polarizations into two interferencebearing signals, and directs them to their respective photodiodes for intensity measurements (Figure 2).
For each of the two channels, diode 1 and 2, we can write the following intensity relationships:
For the first channel (polarization path), the detected power is:

For the second channel (polarization path):

The intensity signals for both polarizations are measured and the resultant signal is the difference of the two:

Therefore the intensity signal we observe is proportional to sinΔφ, or Δφ for small changes. Also for this approach it can be shown that the signal is proportional to the index change of the analyte, thus also the change in concentration:

」(第1366頁右欄第11行?第1368頁左欄9行目)
(当審和訳:II.システムの説明

A. ホログラフィー干渉計
・・・
B.コモンパス干渉計

表面相互作用のみを研究するために、John L. Hall博士により提案された新しい方法は以下の通りである。45度直線偏光に回転させたレーザー光がフレネルロムに入射する。フレネルロムは、?52度の入射角が可能なように作製されており、各反射面で公称45度の光学位相差を与える。詳しくは、二つの垂直偏光成分は、サンプリングが行われる場所で全反射されるが、ガラスと外側の気体媒体の屈折率に応じて、45度から離れた、わずかに異なる反射位相シフトを有する。フレネルロム通過後、偏光ビームスプリッタ(45度回転)が、二つの垂直偏光を結合して二つの干渉保持信号にし、強度測定のために、それらを各フォトダイオードへと向ける(図2)。
上記の二つのチャンネル、ダイオード1と2のそれぞれについて、以下の強度の関係式で表すことができる。
第1チャンネル(偏光光路)については、検出パワーは以下の通りである。

第2チャンネル(偏光光路)については、以下の通りである。

両方の偏光の強度信号が測定され、得られた信号がその二つの差である。

よって、我々が観察する強度信号は、sinΔΦまたは小さな変化に対してはΔΦに比例する。この方法の場合でも、信号が被検体の屈折率に比例することを示すことができるので、濃度の変化にも比例する。


(3)「III. Experimental Procedure and Results

A. Sample introduction

The FIA scheme was used for sample introduction for both systems. Sample from an injection loop of a defined volume was injected in continuous stream of carrier gas or liquid. A ChemInert 6-port injection valve was used. The carrier gas was nitrogen at the flow rate of 100 mL/min.

B. Holographic system
・・・
Sensitivity tests similar to gas experiments were also carried out with liquid analytes. Polymers showed response to a water solution of volatile organic compounds such as methanol, ethanol, dichloromethane, and acetone.
・・・
C. Common Path Interferometer

The Common Path Interferometer was preliminarily tested with injection of 1,700 and 2,800 ppm of acetone in nitrogen into a continuous stream of nitrogen. The system shows close to linear response. Increase of the concentration by 1.65 times led to signal increase of 1.69 times as shown in Fig.5.
LOD was calculated to be 1.4・10^(-5) RIU (S/N=3). Data were taken at 200 Hz sampling rate. Analysis of noise reveals that with higher sampling rates and an optimized data analysis and sample delivery system, a 30 fold improvement and LOD as low as 5・10^(-7) RIU is possible. 」(第1368頁左欄第10行?第1369頁左欄19行目)
(当審和訳:III.実験方法および結果

A.サンプル導入

両方のシステムへのサンプル導入には、FIA法を用いた。所定体積の注入ループから、キャリアガスまたはキャリア液体の連続流れの中に注入した。ChemInert 6-ポートバルブを用いた。キャリアガスは、流量100mL/minの窒素を用いた。

B. ホログラフィーシステム
・・・
ガス実験と同様の感度試験を、液体被検体についても実施した。高分子は、メタノール、エタノール、ジクロロメタン、およびアセトン等の揮発性有機化合物の水溶液に応答した。
・・・
C. コモンパス干渉計
コモンパス干渉計は、窒素の連続ストリーム中に、窒素中1,700と2,800ppmのアセトンを注入することで予備的に試験を実施した。システムは、線形応答に近い応答を示した。濃度を1.65倍に増加させると、図5に示すように、信号は、1.69倍に増加した。
LODは、計算によると、1.4×10^(-5)RIU(S/N=3)であった。200Hzのサンプリング速度でデータを測定した。ノイズ分析より高いサンプリング速度と、最適化されたデータ解析およびサンプル供給システムにより、30倍改善され、5×10^(-7)RIU程度の低いLODが可能であることが明らかとなった。)

(4)「IV. Conclusion
Prototypes of the Holographic and the Common Path Interferometer systems were built, and preliminary data were obtained for both gas and liquids.」(第1369頁左欄第20?末行)
(当審和訳:IV.結論
ホログラフィー干渉計システムおよびコモンパス干渉計システムのプロトタイプを構築し、ガスおよび液体の両方について予備的なデータを取得した。)

(5)Figure2.(以下、「図2」という。)


2 引用例1に記載された発明の認定

(1)図2から、引用例1の45度直線偏光に回転させたレーザー光が、LASER633nm(レーザー633nm)及びLINEAR POLARIZER(直線偏光子)により生成されていることは明らかである。

(2)上記1(2)には、「45度直線偏光に回転させたレーザー光がフレネルロムに入射する。フレネルロムは、・・・各反射面で公称45度の光学位相差を与える。」と記載され、また、図2のFRESNEL PRISM(フレネルロム)が、断面平行四辺形形状で上記「反射面」が2箇所あることが示されていることから、引用例1のフレネルロムは、合計で公称90度(45度×2)の光学位相差を有する円偏光を与えていることが理解できる。
このことは、当該断面平行四辺形形状のフレネルロムは、方位角度45度で直線偏光を入射させたとき円偏光で出射される1/4波長板として機能することが技術常識であることからも裏付けられる。

(3)
ア 上記1(1)の「コロラド大学で開発されたホログラフィー干渉計は、被検体とトランスデューサ表面およびバルクとの間の相互作用を観察する。第二のアプローチは、John Hall博士により提案されたコモンパス干渉計であり、表面の相互作用のみを対象としている。」との記載から、引用例1のコモンパス干渉計は、被検体とトランスデューサ表面の相互作用のみを対象としているものである。
イ また、上記1(2)には、「二つの垂直偏光成分は、サンプリングが行われる場所で全反射される」と記載されており、図2から、サンプリングが行われる場所が、SLIDE W/POLYMER(W/ポリマースライド)であることを読み取ることができる。
ウ よって、引用例1の被検体とトランスデューサ表面の相互作用のみを対象としているコモンパス干渉計は、サンプリングが行われる場所が、被検体と相互作用させるW/ポリマースライドを備えたトランスデューサ表面であることは明らかである。

(4)上記1(2)の式(12)及び(13)には、各フォトダイオードで測定した干渉保持信号S_(1)、S_(2)の二つの差の強度信号Sは、被検体とトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフトΔΦ、被検体の屈折率Δn、及び被検体の濃度の変化ΔC_(ana)と比例することが示されているから、引用例1のコモンパス干渉計では、演算手段を用いて、各フォトダイオードで測定した干渉保持信号の二つの差の強度信号Sを得て、被検体とトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフト、被検体の屈折率、及び被検体の濃度の変化が求められることは明らかである。

(5)上記(1)?(4)を含め上記1(1)?(5)の記載を総合すると、引用例1には、

「窒素の連続ストリーム中にアセトンを含む被検体とトランスデューサの表面の相互作用のみを対象としているコモンパス干渉計であって、
レーザー633nm及び直線偏光子により生成された45度直線偏光に回転させたレーザー光が、フレネルロムに入射し、
フレネルロムは、公称90度の光学位相差を有する円偏光を与え、二つの垂直偏光成分は、被検体と相互作用させるW/ポリマースライドを備えたトランスデューサ表面で全反射され、
フレネルロム通過後、偏光ビームスプリッタ(45度回転)が、二つの垂直偏光を結合して二つの干渉保持信号にし、強度測定のために、それらを各フォトダイオードへと向け、
演算手段を用いて、各フォトダイオードで測定した干渉保持信号の二つの差の強度信号を得て、被検体とトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフト、被検体の屈折率、及び被検体の濃度の変化が求められる、コモンパス干渉計。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

3 引用例2には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。

(1)「【0035】次に図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。なおこの図3において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての重複した説明は省略する(以下、同様)。
【0036】この図3の電気泳動センサーは図1のものと比べると、基本的に、電気泳動用の構成は同等で、光によるセンサー部が異なるものである。すなわちこの図3の電気泳動センサーは、前述と同様のプリズム15と、このプリズム15の一面(図中の上面)に形成されて、試料液11に接触させられる透明な第1電極30と、1本の光ビーム31を発生させるレーザー光源32と、この光源32から出射した光ビーム31の偏光状態を制御する偏光子33およびλ/4板34と、プリズム15と第1電極30との界面15aで全反射した光ビーム31の光路に配された検光子35と、この検光子35を通過した光ビーム31の強度を検出する光検出手段36とを備えている。
【0037】レーザー光源32、偏光子33およびλ/4板34からなるビーム照射系は、光ビーム31が上記界面15aに全反射角以上の入射角で入射するように配置されている。また偏光子33およびλ/4板34によって光ビーム31は、界面15aに入射する直前に円偏光となる。また検光子35は光軸周りに回転されるようになっている。
【0038】以下、上記構成の電気泳動センサーによる試料分析について説明する。保温水槽10の中には、一端(図中の下端)が第1電極30に接する状態にして、前述のゲルシート20が配される。またこの保温水槽10の中には、試料液11が満たされる。一方、直流電源14により、第1電極30と第2電極13との間に直流電圧が印加される。そして、上述のような円偏光とされた光ビーム31が、第1電極30に向けて照射される。この第1電極30とプリズム15との界面15aで全反射した光ビーム31は、光検出手段36によって検出される。
【0039】上記のように光ビーム31が界面15aで全反射するとき、入射光と反射光とでは、そのp偏光成分(界面15aに平行な振動面を有する偏光成分)とs偏光成分(界面15aに垂直な振動面を有する偏光成分)との位相差が異なる。この全反射による位相差の変化つまり偏光状態の変化は、第1電極30に付着している分析対象物質の物性および総量を反映したものとなる。そこで、光検出手段36の出力S2から偏光の楕円率を測定し、円偏光からのずれを調べることで、全反射による偏光状態の変化、つまりは分析対象物質の物性および総量を求めることができる。
【0040】この場合も、第1電極30と第2電極13との間に直流電圧が印加されているので、第1電極30には、ゲルシート20を電気泳動した試料液11中の複数の物質が次々に到達する。そして、これら複数の物質は電気泳動速度の違いにより、互いに時間間隔を置いて第1電極30に到達するから、時間的に互いに分離して検出されることとなる。
【0041】この実施形態においては、光ビーム31の全反射による偏光状態の変化を、回転する検光子35と光検出手段36とによって検出しているが、この偏光状態の変化はその他の公知の手法によって検出することも可能である。例えば、検光子35を固定状態にしておけば、偏光状態の変化にともなって光検出信号S2が刻々変化するので、この光検出信号S2の値に基づいて偏光状態の変化をリアルタイムで検出することができる。なお図4には、時間経過に伴なう光検出信号S2の変化の様子の一例を示してある。
【0042】以上のような物質の分離検出の例としては、コラーゲンポリペプチド鎖の分離検出が挙げられる。コラーゲン中のα鎖、β鎖、γ鎖は、分子量がそれぞれ96000、192000、288000である。それらを検出する場合、第1電極30が陽極となるように電圧を掛けるとそれぞれの物質が第1電極30側に泳動し、そして、それらの泳動速度は分子量が小さいものほど大となる。したがって、α鎖、β鎖、γ鎖がこの順に第1電極30に到達する。それぞれの物質が第1電極30に到達すると、該電極30の表面近傍の誘電率(屈折率)が各物質に応じて変化し、それにより上述の偏光状態が変化する。この偏光状態の変化は、上記の通り光検出信号S2の変化として検出される。」

(2)図3


4 引用例2に記載された発明の認定
上記3(1)及び(2)の記載を総合すると、引用例2には、

「電気泳動センサーであって、プリズム15と、このプリズム15の一面に形成されて、試料液11に接触させられる透明な第1電極30と、1本の光ビーム31を発生させるレーザー光源32と、この光源32から出射した光ビーム31の偏光状態を制御する偏光子33およびλ/4板34と、プリズム15と第1電極30との界面15aで全反射した光ビーム31の光路に配された検光子35と、この検光子35を通過した光ビーム31の強度を検出する光検出手段36とを備えており、
レーザー光源32、偏光子33およびλ/4板34からなるビーム照射系は、光ビーム31が上記界面15aに全反射角以上の入射角で入射するように配置されており、また偏光子33およびλ/4板34によって光ビーム31は、界面15aに入射する直前に円偏光となり、また検光子35は光軸周りに回転されるようになっており、
円偏光とされた光ビーム31が、第1電極30に向けて照射され、この第1電極30とプリズム15との界面15aで全反射した光ビーム31は、光検出手段36によって検出され、
光ビーム31が界面15aで全反射するとき、入射光と反射光とでは、そのp偏光成分とs偏光成分との位相差が異なり、この全反射による位相差の変化つまり偏光状態の変化は、第1電極30に付着している分析対象物質の物性および総量を反映したものとなり、そこで、光検出手段36の出力S2から偏光の楕円率を測定し、円偏光からのずれを調べることで、全反射による偏光状態の変化、つまり分析対象物質の物性および総量を求めることができる、電気泳動センサー。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

5 引用例3には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。

(1)「【0002】
【従来の技術】現在の生化学・分子生物化学・細胞生物学は、主としてタンパク質間の相互作用、あるいは、タンパク質と他の分子との相互作用が研究の対象とされてきている。また、病気などの診断、測定の分野においては、抗原、抗体反応などの蛋白質間の相互作用又は蛋白質と他の分子との相互作用が多数利用されてきている。これらの蛋白質の作用については、種々の化学的、生化学的又は分子生物学的方法で検出、同定されているが、いずれの方法も蛋白質の相互作用をリアルタイムで測定するものではなく、相互作用、例えば反応の結果を測定することしかできないものであった。また、これらの測定法の多くは蛋白質などを標識化しなければ測定することができないものであった。さらに、実際のタンパク質同士の相互作用を解析するためには、速度論的な解析がきわめて重要になってくるが、従来の測定装置では速度論的な解析は大変な作業となることが多かった。
【0003】一方、表面プラズモン共鳴(SPR(Surface P1asmon Resonance))は、1971年、クレッチェマン(Kretschmann)により光励起による表面ブラズモン励起法が確立され、それから11年後、SPRが初めてナイランダー(Nylander)らによってセンサーとしてガスセンシングに応用された例が報告された。1980年代後半には、チオール、スルフィド類等の金表面に対する自己吸着の研究が行われ、カルボン酸やアミノ基など様々な官能基をもったアルキルチオール類で金表面を修飾した自己吸着性単層膜(Self-Assembled Monolayer)の研究例が報告された。1993年、金表面の自己吸着性単層膜(Self-AssembledMonolayer)上にポリマーを膜として固定化し、ポリマー中の活性部位に抗原-抗体などの特異的な反応を示すリガンドを固定したバイオセンサーが開発され、定性、定量分析や反応プロセスの解明などに用いられるようになった。また、この頃から小型化を目的とした光ファイバー型SPRセンサーの研究例が報告され始め、従来の光源の波長を一定にし、試料への共鳴の起こる入射角を測定する方法から、光の入射角を一定にし波長を変化させるセンサー装置が開発された。
・・・
【0006】SPR測定法の例を図1に示す。図1の装置では光源に発光ダイオードを用い、波長760nmの偏光をプリズムでくさび型の光に集光し、プリズムの底部にオプトインターフェイスを介して装着させたセンサーチップに全反射の条件下で照射している。すると金薄膜側にエバネッセント波が生じ、金薄膜の自由電子によるブラズモンの共鳴に使われるため、固定したダイオードアレイでこの反射光の強度を測定すると、図2に示されるような「光の谷」が認められる。そして、例えば金薄膜を形成したセンサーチップ上に抗体を固定化し、この抗体が特異的に認識する抗原を含む試料を注入すると、特異的抗原-抗体反応によりセンサーチップ表面の質量が増加し、その結果としてセンサーチップ表面の屈折率が増加する。この屈折率の実部又は虚部の変化に応じて前記の「光の谷」は図2に示されるように角度変化又は反射強度変化がA点からB点へと移動するため(図2では角度変化を示す。)、この移動度の経時変化をセンサーグラムと呼ぶグラフとして表示することにより、センサーチップ表面での分子の相互作用をリアルタイムにモニターすることができる。」

(2)「【0020】本発明のこのようなSPR装置の例を図5に示す。図5は光源24としてレーザーを用いた例を示している。また、入射光として偏光子26をとおした偏光を用いた例を示している。偏光された入射光はプリズム23を通り、金属表面に試料セル22を有する金属薄膜21の裏面で反射され、反射光としてプリズム23から出る。プリズム23から出た反射光は、偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置の1種である補償板33に入り、例えば、試料セル22における反応等の前の状態では補償板33からの光量が無いように、即ち光量がゼロになるように調整される。補償板33の後には検光子29が設けられ、その後に検出、定量できる検出器31がある。試料セル22で化学反応等が生起してSPRスペクトルが変動すると、偏光の位相差が変動し、予め調整された補償板33から試料セル22における化学反応等に応じた光量が検出器31によって検出されることになる。
【0021】偏光子26としては、偏光が得られるものであればよく、通常の偏光子を使用することができるが、適宜SPR装置に適した方式等に設計変更することもできる。また、前記偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置33としては、バビネ-ソレイユの補償器やブレイス-ケーラーの補償器などの補償器(コンペンセーター)などを使用することができるがこれらに限定されるものではない。検出器31によって得られたデータはデータ処理装置32により適宜データ処理される。」

(3)図5


6 引用例3に記載された発明の認定
上記5(1)?(3)の記載を総合すると、引用例3には、

「SPR装置であって、光源24としてレーザーを用い、また、入射光として偏光子26をとおした偏光を用い、偏光された入射光はプリズム23を通り、金属表面に試料セル22を有する金属薄膜21の裏面で反射され、反射光としてプリズム23から出て、プリズム23から出た反射光は、偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置である補償板33に入り、試料セル22における反応等の前の状態では補償板33からの光量が無いように、即ち光量がゼロになるように調整され、補償板33の後には検光子29が設けられ、その後に検出、定量できる検出器31があり、試料セル22で化学反応等が生起してSPRスペクトルが変動すると、偏光の位相差が変動し、予め調整された補償板33から試料セル22における化学反応等に応じた光量が検出器31によって検出されることになり、
偏光子26としては、偏光が得られるものであればよく、また、前記偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置33としては、バビネ-ソレイユの補償器やブレイス-ケーラーの補償器などの補償器(コンペンセーター)などを使用することができ、検出器31によって得られたデータはデータ処理装置32により適宜データ処理される、SPR装置。」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

第5 本願発明と引用発明1との対比

1 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)本願発明の「システム」について
ア 引用発明1の「被検体」、「屈折率」及び「コモンパス干渉計」は、それぞれ本願発明の「サンプル材料」、「光学特性」及び「システム」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の「被検体の屈折率」「が求められる」「コモンパス干渉計」は、本願発明の「サンプル材料の光学特性を決定するシステム」に相当する。

(2)本願発明の「光学的構成」について
ア 引用発明1の「レーザー633nm及び直線偏光子」、「レーザー光」及び「二つの垂直偏光成分」は、それぞれ本願発明の「光学的構成」、「第1の光ビーム」及び「第1及び第2の光波」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の「二つの垂直偏光成分」を有する「レーザー光」を「生成」する「レーザー633nm及び直線偏光子」は、本願発明の「第1及び第2の光波を有する第1の光ビームを生成する光学的構成」に相当する。
ウ また、引用発明1の上記「レーザー光」は、「45度直線偏光に回転させたレーザー光」、すなわち「直線偏光」である。
エ ここで、「直線偏光」とは、技術常識から、「二つの垂直偏光成分」の、振動x方向成分である直線偏光と振動y方向成分である直線偏光とが同相である光(電磁波)と定義できる。
エ 上記ウの定義によれば、本願発明の「第1の光ビーム」の、「前記第1の光波が第1の直線偏光を有し、前記第2の光波が第2の直線偏光を有し、前記第1及び第2の直線偏光が相互に実質的に直交し、前記第1及び第2の光波が相互に同相であ」ることは、「第1の光ビーム」が直線偏光であることを説明していると解することができる。このことは、本願明細書(段落【0034】、【0039】参照。)に光源が直線偏光ビームを生成する旨の記載、及び請求人から提出された面接用資料(平成28年6月29日格納の面接記録参照。)に、light sourceからの光がlinearly polarized light(直線偏光)と記載されていることからも裏付けられる。
オ よって、引用発明1の「二つの垂直偏光成分」を有する「レーザー光」を「生成」する「レーザー633nm及び直線偏光子」を備え、前記「レーザー光」が「45度直線偏光に回転させたレーザー光」であることは、本願発明の「第1及び第2の光波を有する第1の光ビームを生成する光学的構成を備え、前記第1の光波が第1の直線偏光を有し、前記第2の光波が第2の直線偏光を有し、前記第1及び第2の直線偏光が相互に実質的に直交し、前記第1及び第2の光波が相互に同相であ」ることに相当する。

(3)本願発明の「トランスデューサ」について
ア 引用発明1の「フレネルロム」、「トランスデューサ」及び「被検体と相互作用させるW/ポリマースライドを備えたトランスデューサ表面」は、それぞれ本願発明の「光学インタフェース」、「トランスデューサ」及び「前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料」に相当する。
イ また、本願発明の「前記サンプル材料からの前記第1の光ビームを内部全反射の状態で反射する」とは、「前記トランスデューサ」は、「前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料を有し」ていることから、「サンプル材料」と相互作用した検知材料「からの前記第1の光ビームを内部全反射の状態で反射する」と解することができる。
ウ よって、引用発明1の前記「被検体と相互作用させる」「トランスデューサ表面」からの「レーザー光」を「フレネルロム」内で内部「全反射さ」せる「フレネルロム」を有する「トランスデューサ」は、本願発明の「前記サンプル材料からの前記第1の光ビームを内部全反射の状態で反射する光学インタフェースを有するトランスデューサ」に相当する。

(4)本願発明の「トランスデューサ」が有する「検知材料」について
上記(3)アの相当関係を踏まえると、引用発明1の前記「トランスデューサ」は、「被検体と相互作用させるW/ポリマースライドを備えたトランスデューサ表面」を有することと、本願発明の「前記トランスデューサは、相補的化学作用による前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料を有」することとは、「前記トランスデューサは、前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料を有」する点で一致する。

(5)本願発明の「トランスデューサ」で発生する「第1の位相ずれ」について
ア 引用発明1の「被検体とトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフト」は、「二つの垂直偏光成分」間の「反射位相シフト」であるから、本願発明の「前記第1の光波と前記第2の光波の間」の「第1の位相ずれ」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の前記「トランスデューサ」は、「被検体とトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフト」を発生させることは、本願発明の「前記トランスデューサは」、「前記サンプル材料と前記検知材料との相互作用によって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第1の位相ずれを発生させ」ることに相当する。

(6)本願発明の「サンプル材料」について
ア 本願発明の「サンプル材料」に含まれる「有機分子」とは、本願明細書の「【0088】[0073] サンプルは、分析物の相補的化学作用に基づいてサンプル中の特定の分析物を検出及び/又は識別するために分析することができる。相補的化学作用の例としては、サンドイッチ状の抗体の相互作用を含む抗体と抗原の相互作用、小分子、ペプチド及びタンパク質などの受容体リガンドの相互作用、天然及び合成両方の受容体との相互作用、核酸の相互関係及び組成間の他の相互作用、例えば、非受容体が介在するタンパク質/タンパク質、ペプチド、小有機分子又は無機分子の相互作用が挙げられるが、これに限定されない。」と記載されているように、例示として有機分子が示されているだけであり、「これに限定されない。」との記載もある。
そうすると、「分析物の相補的化学作用に基づいてサンプル中の特定の分析物を検出及び/又は識別するために分析することができる」ものであれば、いかなる有機分子でも、本願発明の「有機分子」に含まれると解される。
また、本願明細書に「【0031】・・・製薬研究及び開発では、本発明を核酸、抗体、タンパク質、ペプチド及び合成有機分子のスクリーニングに使用して、薬品の候補として開発し、前臨床及び臨床開発を通して生体サンプル中で薬品の候補を検出し、検出及び数量化のために臨床及び社会的状況で被験者の安全性を監視するのに適切な活性分子を識別することができる。」と記載されていることに照らし、本願発明の「有機分子」は、生体由来の有機分子に限られず、合成有機分子も含まれると解される。
以上のことから、本願発明の「有機分子」とは、分析物の相補的化学作用に基づいてサンプル中の特定の分析物を検出及び/又は識別するために分析することができる、あらゆる有機分子と理解される。
イ 本願発明の「核酸、タンパク質、ポリペプチド、ウイルス粒子、細菌又は有機分子」を含む「サンプル材料」とは、本願明細書の段落【0087】に「サンプルは、本来的に流体性(例えば、液体、気体など)であることが好ましい。」と記載されていることから、少なくとも、液体及び気体を含むものであることが理解される。
ウ 上記アの解釈を踏まえると、引用発明1の「アセトン」は、本願発明の「有機分子」に相当する。
また、上記アの解釈を踏まえると、引用発明1の「窒素の連続ストリーム中にアセトンを含む被検体」は、本願発明の「有機分子を含」む「サンプル材料」であることで一致する。

(7)本願発明の「偏光ビームスプリッタ」について
ア 引用発明1の「二つの干渉保持信号」及び「偏光ビームスプリッタ(45度回転)」は、それぞれ本願発明の「第2の光ビームと第3の光ビーム」及び「偏光ビームスプリッタ」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の「フレネルロム通過後」、「二つの垂直偏光を結合して二つの干渉保持信号に」する「偏光ビームスプリッタ(45度回転)」を備えることは、本願発明の「前記第1の光ビームが前記光学インタフェースから反射した後に、前記第1のビームを第2の光ビームと第3の光ビームに分割する偏光ビームスプリッタを備え」ることに相当する。
ウ また、引用発明1の「二つの垂直偏光を結合して二つの干渉保持信号に」する「偏光ビームスプリッタ(45度回転)」は、「偏光ビームスプリッタ(45度回転)」の主軸上で「二つの垂直偏光」成分の投影像を「結合し」、前記「結合し」た投影像を、「二つの干渉保持信号」として、それぞれ相互に直交する偏光成分を結合した投影像にするために使用されるものと理解できる。
エ よって、引用発明1の「フレネルロム通過後」、「二つの垂直偏光を結合して二つの干渉保持信号に」する「偏光ビームスプリッタ(45度回転)」を備えることは、本願発明の「前記第1の光ビームが前記光学インタフェースから反射した後に、前記第1のビームを第2の光ビームと第3の光ビームに分割する偏光ビームスプリッタを備え、前記第2及び第3の光ビームが、前記偏光ビームスプリッタの主軸上で相互に直交する偏光成分の組合せ投影像で構成され」ることに相当する。

(8)本願発明の「第2の位相ずれ」を提供する「光学リターダ」について
ア 引用発明1の「フレネルロム」は、「公称90度の光学位相差を有する円偏光を与え」るものであるから、光学リターダであることは明らかである。
イ また、引用例1の上記「第4 1(2)」には、「フレネルロムは、・・・各反射面で公称45度の光学位相差を与える。詳しくは、二つの垂直偏光成分は、サンプリングが行われる場所で全反射されるが、ガラスと外側の気体媒体の屈折率に応じて、45度から離れた、わずかに異なる反射位相シフトを有する。」との記載はあるが、上記「第4 1(2)」の式(10)及び式(11)におけるS_(1)及びS_(2)は、それぞれが検出する信号強度として同じI_(0)をベースにしていることからすると、フレネルロムの後のレーザー光を、(完全な)円偏光として取り扱っていることに他ならない。
ウ そうすると、光学リターダである「フレネルロム」は、「二つの垂直偏光成分」間に相対遅延を加えることによって前記「二つの垂直偏光成分」間に「公称90度の光学位相差」を提供し、これにより、前記「フレネルロム」の後の「レーザー光」に(完全な)「円偏光」を提供するものといえる。
エ ここで、引用発明1の「公称90度の光学位相差」及び「円偏光」は、それぞれ本願発明の「第2の位相ずれ」及び「円形の偏光」に相当する。
オ よって、引用発明1の「公称90度の光学位相差を有する円偏光を与え」る「フレネルロム」と、本願発明の「前記光学インタフェースから離れた光学リターダを備え、前記光学リターダは、前記第1の光波と前記第2の光波の間に相対遅延を加えることによって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第2の位相ずれを提供し、これにより、前記光学インタフェースの後の前記第1の光ビームに円形の偏光を提供」することとは、「光学リターダを備え、前記光学リターダは、前記第1の光波と前記第2の光波の間に相対遅延を加えることによって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第2の位相ずれを提供し、これにより、前記光学インタフェースの後の前記第1の光ビームに円形の偏光を提供」する点で共通する。

(9)本願発明の「信号プロセッサ」について
ア 引用発明1の「演算手段」は、本願発明の「信号プロセッサ」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の「干渉保持信号の二つの差の強度信号を得て、被検体とW/ポリマースライドを備えたトランスデューサ表面の相互作用によって生じる反射位相シフト」「が求められる」「演算手段」は、本願発明の「前記第2の光ビームと前記第3の光ビームの強度差を測定して前記第1の位相ずれを計算する信号プロセッサ」に相当する。

(10)本願発明の「第1の検出器」及び「第2の検出器」について
ア 引用発明1の「各フォトダイオード」は、本願発明の「第1の検出器」及び「第2の検出器」に相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明1の前記「演算手段」は、「各フォトダイオードで測定した干渉保持信号の二つの差の強度信号を得て」、「各フォトダイオード」が、それぞれ「干渉保持信号」の「強度信号を」「測定」することは、本願発明の「前記信号プロセッサは、第1の検出器からの第1の強度測定値及び第2の検出器からの第2の強度測定値を受信し、前記第1及び第2の検出器が、それぞれ前記第2及び第3の光ビームの強度を測定する」ことに相当する。

2 一致点・相違点
よって、本願発明と引用発明1とは、

(一致点)
「サンプル材料の光学特性を決定するシステムであって、
第1及び第2の光波を有する第1の光ビームを生成する光学的構成を備え、前記第1の光波が第1の直線偏光を有し、前記第2の光波が第2の直線偏光を有し、前記第1及び第2の直線偏光が相互に実質的に直交し、前記第1及び第2の光波が相互に同相であり、
前記サンプル材料からの前記第1の光ビームを内部全反射の状態で反射する光学インタフェースを有するトランスデューサを備え、前記トランスデューサは、前記サンプル材料との相互作用を可能とする検知材料を有し、前記サンプル材料と前記検知材料との相互作用によって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第1の位相ずれを発生させ、前記サンプル材料は、有機分子を含み、
前記第1の光ビームが前記光学インタフェースから反射した後に、前記第1のビームを第2の光ビームと第3の光ビームに分割する偏光ビームスプリッタを備え、前記第2及び第3の光ビームが、前記偏光ビームスプリッタの主軸上で相互に直交する偏光成分の組合せ投影像で構成され、
光学リターダを備え、前記光学リターダは、前記第1の光波と前記第2の光波の間に相対遅延を加えることによって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第2の位相ずれを提供し、これにより、前記光学インタフェースの後の前記第1の光ビームに円形の偏光を提供し、
前記第2の光ビームと前記第3の光ビームの強度差を測定して前記第1の位相ずれを計算する信号プロセッサを備え、前記信号プロセッサは、第1の検出器からの第1の強度測定値及び第2の検出器からの第2の強度測定値を受信し、前記第1及び第2の検出器が、それぞれ前記第2及び第3の光ビームの強度を測定する、システム。」
の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
検知材料とサンプル材料との相互作用が、本願発明では、「相補的化学作用による」のに対し、引用発明1では、この点につき不明である点。

(相違点2)
光学リターダが、本願発明では、「光学インタフェースから離れた」ものであるのに対し、引用発明1では、「光学インタフェース」に相当する「フレネルロム」自体である点。

第6 当審の判断
上記各相違点について検討する。

1 相違点1について
引用文献3の【従来の技術】の欄(上記「第4 4(1)」参照。)に、偏光をプリズムの底部に装着させたセンサーチップに全反射の条件下で照射し、この反射光の強度を測定する測定装置において、金薄膜を形成したセンサーチップ上に抗体を固定化し、この抗体が特異的に認識する抗原を含む試料を注入すると、タンパク質間の特異的抗原-抗体反応によりセンサーチップ表面の屈折率が増加し、この屈折率に応じた反射強度変化をモニターすることが記載されているように、特異的抗原-抗体反応により捕捉したタンパク質のサンプル材料を測定する装置は、本願優先日前に周知技術である。
ここで、上記周知技術の「特異的抗原-抗体反応」は、本願発明の「相補的化学作用」に相当する。
そして、引用例1には、コモンパス干渉計について、上記「第4 1(1)」に「バイオセンシングおよびケミカルセンシングのための二つの光学技術を検討した。・・・第二のアプローチは、John Hall博士により提案されたコモンパス干渉計であり」、及び上記「第4 1(4)」に「ホログラフィー干渉計システムおよびコモンパス干渉計システムのプロトタイプを構築し、ガスおよび液体の両方について予備的なデータを取得した。」と記載されていることから、引用例1には、サンプル材料に、バイオセンシングのため液体材料を用いることが開示されているといえる。そして、このようなサンプル材料として、タンパク質はごく一般的なものであるから、引用発明1のサンプル材料にタンパク質を採用することの示唆がある。
そうすると、引用発明1において、検知材料とタンパク質のサンプル材料との相互作用を可能にすべく、上記周知技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
以下の理由1及び理由2のいずれの理由によっても、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(1)理由1について
引用発明2は、「光検出手段36の出力S2から偏光の楕円率を測定し、円偏光からのずれを調べる」ためものであるから、「第1電極30に付着している分析対象物質」がない状態では、「プリズム15」の後の「光ビーム31」が、「円偏光」であることは明らかである。
そうすると、引用発明2は、本願発明の用語、括弧内には、本願発明の用語に相当する引用発明2の用語を用いると、
「光学インターフェイス(プリズム15)から離れた光学リターダ(λ/4板34)を備え、前記光学リターダは、第1の光波(p偏光成分)と第2の光波(s偏光成分)の間に相対遅延を加えることによって前記第1の光波と前記第2の光波の間に第2の位相ずれ(位相差)を提供し、これにより、前記光学インタフェースの後の第1の光ビーム(光ビーム31)に円形の偏光(円偏光)を提供している」ものである。
そして、引用発明1及び引用発明2はともに、光学リターダの寄与による円偏光(90°の位相差)をベースにして、トランスデューサによる「分析対象に応じた位相差」が追加的に与えられた結果、その楕円偏光を検出しているものであり、引用発明1の「フレネルロム」と、引用発明2の「プリズム15」及び「λ/4板34」とが、偏光成分間に90°の位相差をもたらすという点で光学的に等価であるといえる。
よって、引用発明1において、円偏光(90°の位相差)を生成するために、「フレネルロム」に代えて引用発明2の「プリズム15」及び「λ/4板34」を採用し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)理由2について
引用発明3は、「プリズム23から出た反射光は、偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置である補償板33に入り、試料セル22における反応等の前の状態では補償板33からの光量が無いように」「調整され、」「試料セル22で化学反応等が生起してSPRスペクトルが変動すると、偏光の位相差が変動し、予め調整された補償板33から試料セル22における化学反応等に応じた光量が検出器31によって検出される」ものである。
ここで、引用発明3の「補償板33」は、「偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置」であるから、光学リターダである。
他方、引用例1の上記「第4 1(2)」には、コモンパス干渉計のフレネルロムについて、「フレネルロムは、・・・各反射面で公称45度の光学位相差を与える。詳しくは、二つの垂直偏光成分は、サンプリングが行われる場所で全反射されるが、ガラスと外側の気体媒体の屈折率に応じて、45度から離れた、わずかに異なる反射位相シフトを有する。」との記載があり、この記載を踏まえると、引用例1には、フレネルロムの後のレーザー光を(完全な)円偏光として取り扱うのではなく、(完全な)円偏光に調整しようとする課題が内在しているを読み取ることができる。
そうすると、引用例1及び引用例3に接した当業者であれば、引用発明1に、フレネルロムの後のレーザー光の偏光状態を調整すべく引用発明3を適用しようとする動機付けがあるといえる。
したがって、引用発明1に引用発明3を適用し、引用発明1において、フレネルロムから離れた光学リターダに相当する「補償板33」を用いて、フレネルロムの後のレーザー光を(完全な)円偏光に調整し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

3 本願発明の奏する作用効果
そして、本願発明によってもたらされる作用効果は、引用例1、引用例2に記載された事項及び周知技術、又は、引用例1、引用例3に記載された事項及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

4 まとめ
以上のとおりであり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術、又は、引用発明1、引用発明3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-28 
結審通知日 2016-07-29 
審決日 2016-08-09 
出願番号 特願2009-506707(P2009-506707)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 祐一▲高▼場 正光  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
郡山 順
発明の名称 偏光ベースの干渉型検出器  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  

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