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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1323117
審判番号 不服2014-22609  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-06 
確定日 2016-12-27 
事件の表示 特願2010-545245「肺病態に対する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日国際公開、WO2009/099998、平成23年 4月 7日国内公表、特表2011-511006〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年 2月 2日(パリ条約による優先権主張 2008年 1月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 1月31日受付け手続補正書が提出され、平成25年 7月18日付け拒絶理由通知に対して平成26年 1月28日受付け意見書及び同日受付け手続補正書並びに平成26年 1月29日受付け手続補足書が提出された後、平成26年 6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年11月 6日受付け拒絶査定不服審判請求書が提出されると同時に手続補正書が提出され、、平成26年11月 7日受付け手続補足書が提出された後、当審からの平成27年11月16日付け拒絶理由通知に対して平成28年 5月24日受付け意見書及び同日受付け手続補正書並びに平成28年 5月25日受付け手続補足書が提出されたものである。


2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成28年 5月24日受付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成り、静脈内投与用に処方された気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療するための医薬組成物。」


3 当審の拒絶理由
当審からの平成27年11月16日付け拒絶理由通知により通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「1. この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(中略)


○理由1、2について
・請求項1?6

本願上記請求項に係る発明は、シトルリンを有効成分として含有する、気管支肺異形成症を治療するための医薬組成物に関している。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、実施例1?4において、L-シトルリンを補給することにより、10日間慢性低酸素に暴露された新生子豚の肺高血圧症の進行が改善されたことが示されているものの(本願【0038】?【0053】段落参照)、シトルリンの気管支肺異形成症の治療への有用性を直接的に裏付ける実施例は示されていない。
以下、本願の発明の詳細な説明において、シトルリンの気管支肺異形成症の治療への有用性が裏付けられているか否かについて検討する。

まず、本願の【0056】段落には、上記実施例1?4について、「まとめると、本実施例は、L-シトルリンが、新生子豚の慢性低酸素誘発性肺高血圧症を緩和することを示す。」と記載されており、上記実施例が、気管支肺異形成症の治療におけるシトルリンの有用性を示すものであるとは記載されていない。そして、平成25年7月18日付け拒絶理由通知における引用文献4(Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol.,2006,Vol.290, No.6,p.L1111-L1116)には、低酸素条件(3% O2)で胎児の肺動脈内皮細胞を培養した場合に、室内空気で培養した場合よりも、血管形成が促進されることが記載されており(L1113頁Fig1,2等参照)、また、同引用文献5(Am. J. Respir. Crit. Care. Med.,2005,Vol.172, No.6,p.750-756) においては、気管支肺異形成症のモデルラットとして、高酸素条件(95% O_(2))に晒されたラットを用いることが記載されている(第751頁Animal Model参照)。これらの記載から示されるように、低酸素条件の方が胎児の肺における血管新生にとって好ましいことや、高酸素条件下で育成された動物を気管支肺異形成症のモデル動物として用い得ることは本願出願時に公知の事項であり、本願の上記実施例で用いられているような低酸素条件で育成された動物を、気管支肺異形成症のモデル動物として使用し得るとの技術常識が、本願出願時に存在していたとは認めることができない。さらに、出願人自身が、平成26年11月6日付け審判請求書において「気管支肺異形成症(BPD)は、肺高血圧症(PH)と同じ病気ではありません。気管支肺異形成症(BPD)は、肺高血圧症とは異なる病態機序を有しており、その根本的原因だけでなく、治療についても、肺高血圧症とは異なります。」と主張しているとおり、肺高血圧症の治療に有用な医薬であれば、気管支肺異形成症の治療にも有用である得るとの技術常識が、本願出願時に存在していたとも認められない。
そうすると、上記実施例において、L-シトルリンを補給することにより、10日間慢性低酸素に暴露された新生子豚の肺高血圧症の進行が改善されたことが示されたとしても、そのことがシトルリンの気管支肺異形成症の治療への有用性を裏付けるものであるとはいえない。そして、本願の発明の詳細な説明には、これ以外に実施例は示されていないことから、本願の発明の詳細な説明において、シトルリンの気管支肺異形成症の治療への有用性を裏付けられていると認めることができない。
したがって、発明の詳細な説明は、本願上記請求項に係る発明である、シトルリンを有効成分として含有する、気管支肺異形成症を治療するための医薬組成物に関する発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、上記のとおり、本願の発明の詳細な説明において、シトルリンの気管支肺異形成症の治療への有用性が裏付けられているとはいえないのであるから、出願時の技術常識を考慮しても、「シトルリンを投与することにより、気管支肺異形成症を治療する医薬組成物を提供する」という本願上記請求項に係る発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。
したがって、本願上記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(後略)」


4 発明の詳細な説明の記載事項
発明の詳細な説明には、以下ア?ケの記載がある。


「【背景技術】
【0002】
気管支肺異形成症(BPD)は通常幼児、特に早産児に発生し、肺に対する酸素及び/又は機械的人工換気による急性障害であり、肺胞及び血管発生への干渉又は阻害をもたらすものとして特徴づけられる(非特許文献1)。動物モデルにおいて、吸入したNOは、ガス交換及び肺の構造的発育を改善するが、BPDの危険性を有する幼児へのこの治療法の使用には、意見が分かれる(非特許文献2)。
慢性肺疾患及びチアノーゼ性先天性心疾患を持つ幼児は、しばしば低酸素症を羅患する。生存及び肺動脈の発育の両者に効果を持つので、慢性低酸素症は、肺循環の機能及び構造に進行性の変化を起こす(非特許文献3,4)。最終的に、慢性低酸素症は、右心不全や死に至る重篤な肺高血圧症をもたらす。
従って、BPD及び慢性低酸素症誘発性肺高血圧症、及び更に幼児におけるような、肺病態の治療に取り組むことは、当該技術分野において長期に継続して特に求められている。」


「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、患者における気管支肺異形成症(BPD)や慢性低酸素症誘発性肺高血圧症などの肺病態を治療するための方法及び組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施態様において、有効量の一酸化窒素前駆体をBPD及び/又はBPDと関係する合併疾患に罹る患者、及び/又はBPD及び/又はBPDと関係する合併疾患に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、静脈内に投与される。」


「【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】尿素回路を示す概略図である。
【図2】実施例に記載された研究過程のフローチャートである。
【図3】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=6)子豚における平均肺動脈圧測定を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図4】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=6)子豚における計算した肺血管抵抗を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図5】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=5)子豚における吐気中の一酸化窒素を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図6】対照(n=17)、慢性低酸素症(n=9)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=5)子豚における肺血潅流液に蓄積した亜硝酸塩/硝酸塩を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴分散分析(ANOVA)。
【図7A】対照(n=3)、慢性低酸素症(n=3)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=3)子豚からの肺組織におけるeNOSタンパク質に対する免疫ブロットの画像であり、アクチンに対して再プローブした画像である。
【図7B】対照(n=3)、慢性低酸素症(n=3)、及びL-シトルリン処理慢性低酸素症(n=3)子豚からの肺組織におけるeNOSタンパク質に対する免疫ブロットの濃度計測の棒グラフであり、アクチンに対して基準化した。」


「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
早期出産は産科学及び新生児学における主要な難問であり続けており、周産期死亡率及び新生児における神経学的羅患率の大部分の原因となっている。BPDは早産と結びつくことができる多くの合併症の1つである。BPDは、早産児の長期の入院、人生の最初の数年間における複数回数の再入院、及び発達遅延と結びつくことができる。幸いなことに、BPDは、誕生時の体重1,200g以上、又は妊娠期間30週を越えた幼児には今や希である(非特許文献1)。在胎期間36週令に必要な酸素として定義されたBPDの発生率は、誕生時体重<1000gの幼児に対して約30%である(非特許文献1)。これらの幼児の一部は、人工換気及び/又は何ヶ月又は何年もの酸素補給を必要とする、重篤な肺疾患を持つ。
【0009】
多くの因子がBPDの原因となり、また恐らく加算的又は相乗的に働いて障害を促進する。BPDは、主として酸化物又は人工換気を媒介とする障害であると、これまで考えられてきた(非特許文献1)。機械的人工換気及び酸素は、早産児の肺胞及び血管発育を妨害することができて、またBPDの進行の原因とされた(非特許文献1)。肺胞数の減少は、表面積の大きな減少をもたらし、これは異形肺微少血管の減少と関係する。これらの解剖学的変化は、気道標本における白血球及びサイトカインレベルの持続的増加と関係する(非特許文献1)。
【0010】
炎症もまたBPD進行の一因を果たすことができる。複数の炎症誘発性及び化学走化性因子が人口換気されている早産児の気道空間に存在し、またその後BPDが進行した幼児の気道にはこれらの因子がより高濃度存在する(非特許文献1)。BPD進行に重要と考えられる他の因子としては:ボンベシン様のペプチド、高酸素、低酸素、栄養不良、グルココルチコイド処置、及びサイトカイン腫瘍壊死因子-α、TGF-α、IL-6、又はIL-11の過剰発現がある(非特許文献1)。
【0011】
BPDの診断は通常、遅れた肺発達の兆候のために出生最初の数週間幼児の呼吸の監視、及び介助呼吸への連続した及び/又は増加する依存性からなる。BPDの診断を補助するために行うことができる診断検定としては:血液酸素検定、胸部X-線、及び心エコー像を含むことができる。幼児が在胎期間36週令に酸素補給を必要とするとき、伝統的にBPDと診断された。BPDの診断及び定義に使われるより新しい定義付けは、"軽度の"、"中程度の"及び"重篤の"BPDのための特異的な基準を含む(Ryan, R. M. (2006) J Perinatology 26:207-209)。
【0012】
BPDの治療は、容態の症候の治療、及び幼児の肺に発育の機会提供のために、多面的な扱い方を含むことができる。現在可能な治療としては:肺の空気混和を改善するための界面活性剤投与、呼吸不全を補償するための機械的人口換気、充分な血中酸素を保証するための酸素の補給、肺における気流を改善するための気管支拡張薬処方、気道の拡張及び炎症を減らすためのコルチコステロイド、肺浮腫を避けるための水分調節、動脈管開存症の治療、及び適切な栄養、が挙げられる。
【0013】
吸入による一酸化窒素投与により、幼動物モデルにおいて肺発育が改善されることが示されている(非特許文献2)。しかしながら、吸入によるNO投与は、ヒト患者において賛否がある。従って、本発明のいくつかの実施態様に従い、BPD治療としてNO吸入の代替法として、BPDに罹った患者に対するシトルリン又は他のNO前駆体の投与によるin vivo NO合成の増加を提供することができる。」


「【0015】
シトルリンは、尿素回路における及び一酸化窒素(NO)産生における、主要な中間体である。尿素回路において、シトルリンはアルギニンのde novo合成の前駆体である。アルギニンは、アルギナーゼにより脱アミノ化され尿素を産生することができて、次ぎに尿素を、廃棄物窒素、特にアンモニア、を身体から取り除くために排出することができる。あるいは、アルギニンは一酸化窒素シンターゼ(NOS)によるNO産生を提供することができる。従って、完全な尿素回路機能は、アンモニアの排出ばかりではなく、NOの前駆体であるアルギニンの充分な組織内濃度を維持する上で重要である。
【0016】
一酸化窒素は、アルギニンを基質として一酸化窒素シンターゼ(NOS)により合成される。NO合成における律速因子は、細胞内アルギニンの可用性であり、及びNO合成のためのアルギニンの好ましい供給源は、シトルリンよりde novo生合成される。アルギニンに対するin vivo合成経路は、オルニチンで始まる。オルニチンは、カルバミルリン酸と結合してシトルリンを産生し、これもまたアスパラギン酸塩と結合して、アデノシン3リン酸存在下に、アルギニノコハク酸塩を産生する。最終段階において、アルギニノコハク酸塩からフマル酸塩が分離して、アルギニンが産生される。アルギニンの分解経路では、アルギナーゼの加水分解作用により、オルニチン及び尿素が産生される。これらの反応が尿素回路を形成する。図1を参照されたい。
【0017】
尿素合成に至る分解の代わりに、アルギニンは、一酸化窒素シンターゼによるNO合成に必要な基質を提供することができる。更に、外因性シトルリンは、尿素回路に入ることができて、アルギニンのin vivo合成を提供し、これは次ぎにNO合成を提供する。従って、BPDに罹り易い、又はBPDと診断された患者、又は慢性低酸素症誘発性肺高血圧症の患者を含む、がこれらに制限されない、患者に対するシトルリン投与により、アルギニン合成が増加することができる、及び次ぎにNO産生の増加により、BPD又は慢性低血圧症誘発性肺高血圧症を予防し、及び/又は治療することができる。in vivoにおいてシトルリンを産生するシトルリン前駆体も提供することができる。シトルリンの代替えとして、他のNO前駆体を提供することができる。例えば、アルギニン又はin vivoでアルギニンを産生する前駆体をNO前駆体として提供することができる。」


「【0018】
I.治療法
本発明は、患者におけるNO合成を増加させる方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量のシトルリン又は他のNO前駆体を患者に投与して、NO合成を増加させる。いくつかの実施態様において、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体又はこれらの組合せを含む、がこれらに制限されない、群からNO前駆体を選択する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経口的に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経静脈的に投与する。
【0019】
本発明はまた、患者におけるBPD及び/又は関係する合併症を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量のシトルリン又は他のNO前駆体をBPD及び/又は関係する合併症及び/又はBPDが伴う合併症に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体又はこれらの組合せを含む、がこれらに制限されない、群からNO前駆体を選択する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経口的に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経静脈的に投与する。いくつかの実施態様において、治療される患者は、BPDが伴う急性症状に罹る患者である。このような症状の代表例は、本明細書に上述のように開示される。」


「【0023】
本明細書で用いる様に、成句"治療する"は、患者における容態の緩和(例えば、疾患過程の開始後又は疾病後)及び患者の容態に関係する合併症を緩和するように計画した介入、及び患者に病態が生ずることを防ぐように計画した介入を表す。表現を変えれば、用語"治療"及びこの文法上の変化型は病態の重篤性を減少させること及び/又は病態を治癒することの意味、及び予防を表わす意味を網羅するために広く説明することを意図する。後者の観点で、"治療"はどんな程度でも、病気に罹る危険性のある患者に制限せず、又はそうでなければ患者が病気過程に抵抗する力を増す様に"予防する"ことを表すことができる。
【0024】
本明細書で開示した発明の原理は、本明細書で開示した発明は、哺乳動物及び鳥(これらも用語"患者"に含むことを意図するが)などの温血脊椎動物を含む、全ての脊椎動物種に関して有効であることを示すと理解されているが、本明細書で開示した発明の多くの実施態様で処置した患者は、望ましくはヒト患者である。この文脈において、処理が望まれる、農業又は家畜動物種などの、しかしこれらに制限されない、全ての哺乳動物種を、哺乳動物は含むと理解する。」


「【0026】
II,医薬組成物
本発明の組成物の有効投与量が、これらを必要とする患者に投与される。"有効量"とは、測定できる応答を作り出すに充分な組成物の量である(例えば、処置される患者において生物的又は臨床的に関連した応答である)。本明細書に開示した組成物中の活性成分の実際の投与量は、変わることができて、特定の患者に対して望みの治療上の応答を得るに有効な、活性化合物量を投与する。選択された投与量レベルは治療組成物の活性、投与経路、他の薬剤又は処置との組合せ、処置される病気の重篤性、及び処置を受ける患者の健康状態及び以前の治療歴に依存するであろう。例示の目的であり、制限の目的ではないが、組成物の投与量は、望みの治療効果に達するに必要な量より低レベルで開始し、また望みの効果が得られるまで投与量を次第に増やす。組成物の効能は、変わることができて、従って、"有効量"は変わる。」


「【実施例】
【0037】
以下の実施例を本明細書において開示した発明の代表的モデルを説明するために含めた。本開示及び当業者の一般的レベルを考慮すると、以下の実施例が、無数の変化、修飾及び改変を、本発明の精神及び範囲から離れることなく、使用できる例示のみを意図することを当業者は理解するであろう。
【0038】
実施例1?4
以下の実施例は、新生子豚を10日間まで低酸素に暴露の間、L-シトルリンの経口投与が肺高血圧症進行、及び同時にNO産生の減少を防止するかどうかについて評価する。
【0039】
実施例1?4に用いる方法
動物管理
全17匹の低酸素子豚及び17匹の対照子豚を研究した。図2を参照。対照動物については、12日齢で飼育場から到着した日に研究した。低酸素豚(2日齢)を10?11日間定圧低酸素室に置いた。圧縮空気及び窒素を用いて、8?11%の吸入酸素(PO_(2) 60?72Torr(約7980?9580Pa))を作成して定圧低酸素を提供し、及びCO_(2)はソーダ石灰による吸収で3?6Torr(約400?800Pa)に維持した。動物体重を毎日測定し、身体検査を1日2回行った。動物はケージ中で供給装置から雌豚代用乳を自由に摂取した。
【0040】
L-シトルリン補給
17匹の低酸素子豚の中6匹に、低酸素暴露第1日目に開始して、経口的にL-シトルリンを補給した。図2参照。L-シトルリン補給を、経口的に投与量を運ぶためにシリンジを用いて1日2回体重キログラム当たり0.13-gmの投与量で提供した。子豚が投与量の大部分を摂取しないと観察されたら、繰り返した。L-シトルリンは調整品(Sigma Pharmaceuticals, St. Louis, Missouri, United States of America, 98% 純度)を用いて、蒸留水1 ml当たり0.13 グラムの濃度で混合し、完全に溶けたとき、溶液を0.20ミクロンフィルターに通した。
【0041】
in vivo 血行動態
in vivo血行動態を6匹の対照子豚及び全低酸素子豚について測定した。図2参照。これらの測定のために、動物の体重を測定し、その後Ketamine (15 mg/kg)及びAcepromazine (2 mg/kg)の筋肉注射で前麻酔した。気管開口術、静脈及び動脈カテーテル、及びサーミスターを、鎮静のために静脈内ペントバルビタールを用いて、前述の様に設定した。Fike, C. D. 他., J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803。肺動脈圧、左心室拡張末期圧(LVEDP)及び心拍出量を測定した。心拍出量を熱稀釈法(モデル9520 熱稀釈心拍出量計算機、 Edwards Laboratory, Irvine, California, United States of America)により、大動脈弓及び左心室カテーテルを注入口としてサーミスターを用いて測定した。心拍出量は、3 mlの正常食塩溶液(0℃)を3回注入の平均として、呼気終末時に測定した。吐き出されたNOの測定は以下の記載による。in vivo測定の間、動物は、室内の空気により、1回換気量15?20 cc/kgで、呼気終末圧2 mmHg及び呼吸速度1分間に15?20呼吸で、ピストン換気装置を用いて換気を施された。
【0042】
吐息NO測定
麻酔した動物の吐息NO測定のために、各3分間の2?3回吐息をサンプリングし、化学発光アナライザー(モデル270B NOA; Sievers, Boulder, Colorado, United States of America)を通過させ、前述の様にNO濃度を測定した。Fike, C. D., 他, American Journal of Physiology (Lung, Cellular and Molecular Physiology 18) (1998) 274:L517-L526。吐き出されたNO生産物(nmol/min)を、微少な換気及び測定した吐き出されたNO濃度を用いて計算した。
【0043】
分離した肺血潅流
肺を分離し、5%デキストラン、分子量70,000を含むKrebs Ringer重炭酸塩溶液を用いて、37℃でin situ(原位置)で潅流し、前述の様に正常酸素混合気体(21%O2及び5%CO2)で換気した。Fike, C. D. 他, J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803。安定した肺動脈圧が得られるまで、肺を30?60分間潅流した。次ぎに、潅流試料(1 ml)を左動脈カニューレから、60分間の間10分毎に取り除いた。潅流した試料を遠心し、以下に記載する様に、将来の亜硝酸塩/硝酸塩(NOx-)濃度解析のために、上清を-80℃に保存した。潅流の終わりに、回路及びリザーバーに残る潅流液の残りを測定した。一部の場合、潅流直後に肺組織を採取し、液体窒素で凍結し、以下記載の様に、後のeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)量の測定のために-80℃に保存した。
【0044】
NOx^(-)測定
前述の化学発光解析を用いて、各採取時の潅流液中のNOx^(-)濃度(nmol/ml)を測定した。Fike, C. D. 他, J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803; Turley, J. E.他, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol (2003) 284:L489-L500。潅流液(20μl)を化学発光NO分析器(モデル170B NOA, Sievers)の反応室に注入した。反応室は、90℃に加熱して亜硝酸塩及び硝酸塩をNOガスに還元するための1 M HCl中の塩化バナジウム(III)を含む。HCl蒸気を取り除くために1 M NaOHを含むガス気泡トラップの通過した一定流量のN2気体を用いて、NOガスを分析器に運ぶ。既知量のNaNO3を蒸留水に加えて標準曲線を作成し、潅流試料に対して記述の様に検定した。
試料採取時の潅流液中のNOx^(-)濃度に、試料採取時のシステム(潅流回路+リザーバー)の容量を乗じて、取り除いた全ての試料中のNOx^(-)量を加えて、各採取時の潅流液中のNOx^(-)濃度(nmol/ml)を計算した。NOx^(-)産生速度を、最初の60分間の採取時間の時間に対する潅流液中のNOx^(-)量に適合する線型回帰線の傾きから決定した。
【0045】
血漿アミノ酸測定
対照及びL-シトルリン処理及び非処理慢性低酸素動物に対する血行動態測定及び/又は肺血潅流研究の日に、研究に先立ち血液を採取し、血漿を後のアミノ酸レベル測定のために-80℃に凍結した。L-シトルリン処理低酸素動物に対して、血液試料を得る時間は、最後のL-シトルリン投与後約12時間で、トラフ(谷底)レベルであった。一部のL-シトルリン処理動物(n=3)において、トラフレベルに対して血液サンプリングの後、L-シトルリン投与は、鼻腔栄養チューブを通して与えられた。この投与の後、90分間(in vivo研究の時間)の間30分毎に血液試料を採取した。全ての試料を遠心し、血漿を集め、アミノ酸解析のために-80℃で凍結した。
血漿シトルリン及びアルギニンの濃度を、タンパク質フリー抽出物を用いたアミノ酸解析により測定した。アミノ酸は日立L8800アミノ酸分析器(Hitachi USA, San Jose, California, United States of America)を用いて陽イオン交換クロマトグラフィーにより分離した。分析器のキャリブレーションを子豚試料の検定前に行った。
【0046】
肺組織中のeNOS(内皮NOシンターゼ)のWesternブロット
既述の様に、標準的免疫ブロット技法を用いて、eNOSのために対照(n=3)、非処理低酸素(n=3)、及びL-シトルリン処理低酸素(n=3)動物からの全肺ホモジェネートの試料を解析した。10μgの全タンパク質、1次eNOS抗体の1:500稀釈物(BD遺伝子導入)及びホースラディッシュ・ペルオキシダーゼと結合した2次抗マウス抗体の1:5000稀釈物を用いた。Fike, C. D., 他 American Journal of Physiology (Lung, Cellular and Molecular Physiology 18) (1998) 274:L517-L526。
【0047】
計算及び統計
肺血管抵抗(PVR)を、in vivo血行動態測定:(肺動脈圧-左心室拡張末期圧(LVEDP))/(心拍出量/体重)から計算した。
データは、平均±SEとして表した。Fisherの制約付最小有意差(PLSD)事後比較テストを伴うワンウェイANOVA(一元配置分散分析)を用いて、対照、非処理低酸素及びL-シトルリン処理低酸素動物間のデータを比較した。0.05以下のp値を有意と考えた(Meier, U., Pharm Stat (2006) 5:253-263)。
【0048】
実施例1 in vivo血行動態測定
L-シトルリン処理及び非処理慢性低酸素動物の両者は、12?13日齢の研究日において、比較しうる年齢の対照子豚と比べ、より低い心拍出量、体重及びより高い左心室拡張末期圧(LVEDP)測定値を有した(表1)。動脈圧及び血中気体指数の測定は、3グループ間で似ていた(paO_(2)は、対照子豚で74±5 Torr(約9842±665Pa)、非処理低酸素子豚で74±8 Torr(約9842±1064Pa)及びL-シトルリン処理低酸素子豚で78±7 Torr(約9842±931Pa);paCO2は、対照子豚で39±2 Torr(約5187±266Pa)、非処理低酸素子豚で41±4 Torr(約5453±532Pa)及びL-シトルリン処理低酸素子豚で30±1.0 Torr(約3990±133Pa)であった)。図3に示すように、特に、L-シトルリン処理対酸素動物は、非処理低酸素動物と比較し、有意により低い肺動脈圧を有した(0.01のp-値)。肺動脈圧は正常酸素対照及びL-シトルリン処理低酸素動物間で差がなかった(p=0.08)。
更に、図4に示すように、L-シトルリン処理低酸素動物における計算した肺血管抵抗
(0.071±0.003)は、非処理低酸素動物の値より有意に低かった(0.001のp-値)。さらに、肺血管抵抗は、L-シトルリン処理低酸素動物と正常酸素対照において同様であった(0.07のp-値)。
【0049】
実施例2 吐息中NO産出量及び潅流液中NOx^(-)
図5に示すように、対照及びL-シトルリン処理低酸素動物における吐息中のNO産生量は、非処理低酸素動物における吐息中NO産生量より高かった(それぞれのp-値は、0.001及び0.032であった)。しかしながら、吐息中のNO産生量は、対照及びL-シトルリン処理低酸素動物の間で差がなかった(p=0.124)。
図6に示すように、対照(p=0.02)及びL-シトルリン処理低酸素動物(p=0.04)からの肺は、非処理低酸素動物からの肺と比較して、有意に高いNOx^(-)蓄積速度を有した。さらに、L-シトルリン処理低酸素動物及び正常酸素対照からの肺の間には、NOx^(-)蓄積速度の差がなかった。
【0050】
実施例3 血漿アミノ酸
表2に示すように、統計的有意性には達しなかったが(p=0.05)、非処理慢性低酸素子豚の血漿L-シトルリンレベルは、処理群低酸素子豚におけるトラフL-シトルリンレベル(L-シトルリン投与後約12時間の血漿レベル)より低かった。更に、投与後90分後採血の場合、処理低酸素動物のL-シトルリンレベルは、非処理慢性低酸素動物の値の殆ど2倍であった(p=0.001)。しかしながら、試料採血の時に関係なく、非処理低酸素動物と比較したとき、L-シトルリン処理慢性低酸素動物の血漿アルギニンレベルは、より高くはなかった。
【0051】
実施例4 肺eNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質のWesternブロット
図7A及び7Bに示すように、対照動物の肺組織に存在するeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質の量は、非処理低酸素動物の肺に存在するタンパク質の量より有意に高かった。更に、L-シトルリン処理低酸素子豚の肺組織に存在するeNOSタンパク質の量は、非処理低酸素動物中のタンパク質の量と有意な差異が無く、また対照動物におけるeNOSタンパク質レベルより有意に低かった。
【0052】
表1に、対照、慢性低酸素、及びL-シトルリン処理慢性低酸素子豚のデータを示す。
【表1】

注:N=動物数、値は平均+SEM、*対対照p<0.05、事後比較テストを伴う分散分析(ANOVA)
【0053】
表2に、対照、慢性低酸素、及びL-シトルリン処理慢性低酸素子豚に対する血漿アミノ酸レベルを示す。
【表2】

注:N=動物数、値は平均+SEM、*対対照p<0.05、†対非処理慢性低酸素p<0.05、事後比較テストを伴う分散分析(ANOVA)、「シトルリントラフ」はL-シトルリン投与後約12時間の血漿レベルを示し、「シトルリン90分」はL-シトルリン投与後90分の血漿レベルを示す。
【0054】
実施例の考察
実施例1?4において、L-シトルリン補給により、10日間慢性低酸素に暴露された新生子豚の肺高血圧症の進行が改善されることが分かった(図3,4)。本研究における他の発見は、吐息中のNO産生及び肺血管のNOx^(-)蓄積速度は、非処理低酸素子豚においてより、L-シトルリン処理低酸素子豚において大きかったことである(図5,6)。従って、これらの発見は、L-シトルリン補給は、顕著に肺NO産生を増加させることを示す。eNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質の量は、処理低酸素動物において増加しなかった(図7B)。
【0055】
特定の作用機構の理論に囚われることなく、L-シトルリンがNO産生の増加を媒介する機構は、eNOS(内皮NOシンターゼ)に対する基質として利用可能なL-アルギニン量を増やすことによると信じられている。本実施例においてL-シトルリン処理動物における血漿中のアルギニンレベルは、非処理低酸素動物と比較して有意に増加しなかった(表2)。この細胞内アルギニンとNO産生との間の不一致は、"アルギニンパラドックス"と名付けられ、本実施例においてL-シトルリン補給に対して血漿中アルギニンレベルが不変であるにもかかわらず、NO産生が増加していることに現れている。L-シトルリンは、2種類の酵素、アルギニノコハク酸シンターゼ(AS)、及びアルギニノコハク酸リアーゼ(AL)のリサイクリング経路によりアルギニンに代謝される尿素回路中間体である(図1)。これら2種の酵素、AS及びAL、は肺内皮細胞におけるeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)と共局在することが発見された(Boger, R. H., Curr Opin Clin Nutr and Met Care (2008) 11:55-61)。これらの酵素は共に、分離された亜細胞のアルギニンプールを作り、NO合成に限定して用いられると考えられている。この亜細胞プールを、組織及び血漿アルギニンレベルにより正確に見積もることはできない。
【0056】
L-シトルリンはまた、付加的な機構により、NO産生及びeNOS機能を改善する。再び、特定の作用機構の理論に囚われることなく、本実施例におけるL-シトルリンの他の潜在的作用は、充分なレベルの基質アルギニンを維持することによるeNOSのアンカップリングの防止である。
再び、特定の作用機構の理論に囚われることなく、L-シトルリンはまた、NO分解の増加を補償することによりNOの生物利用能に影響を持つであろう。慢性低酸素暴露の間、スーパーオキシド産生が、NADPHオキシダーゼなどのeNOS以外の酵素源から増加するであろう(Liu, 他, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol (2006) 290:L2-L10)。この過剰なスーパーオキシド産生は、直接にNOと相互作用し、スーパーオキシドの局所的産生を減少させるであろう。この場合充分なNO産生を可能にするL-シトルリン提供により、スーパーオキシドが介在する還元を補償することができる。
まとめると、本実施例は、L-シトルリンが、新生子豚の慢性低酸素誘発性肺高血圧症を緩和することを示す。また、このシトルリンの有効性は、NO産生が増加したためであるという証拠を提供した。従って、L-シトルリンは、慢性又は断続的な、未解決の低酸素症による肺高血圧症進行の危険性のある新生児において有効な治療法である。」


5 当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。
ここで、本願発明の発明特定事項から、本願発明は「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことをその用途とする、医薬用途発明であるといえる。
そこで、発明の詳細な説明の記載を検討すると、発明の詳細な説明において気管支肺異形成症に言及する記載は、上記記載ア、記載イ、記載エ、記載オ及び記載カのみである。
このうち、上記記載アは気管支肺異形成症及び慢性低酸素症誘発性肺高血圧症などの治療が求められていることを記載したものであり、上記記載イ及び記載カは一酸化窒素前駆体を気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者などに投与すること及びシトルリンなどの一酸化窒素前駆体の投与形態を記載したものであるが、いずれにも、「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことをその用途とする医薬としての有用性を当業者が理解できるような具体的な記載はされていない。
上記記載エは、気管支肺異形成症の説明及び従来の治療法を記載したものであり、さらに気管支肺異形成症に罹った患者に対するシトルリンの投与によりin vivo での一酸化合成の増加を提供することができる旨も記載したものであるが、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者をシトルリンの投与により治療することについての記載はなく、「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことをその用途とする医薬としての有用性を当業者が理解できるような具体的な記載はされていない。
上記記載オは、シトルリン投与による一酸化窒素合成の増加により、気管支肺異形成症または慢性低酸素症誘発性肺高血圧症を予防及び/または治療することができるとする説明を記載したものであるが、一酸化窒素合成の増加が気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者の治療に有用であることの説明はなく、「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことをその用途とする医薬としての有用性を当業者が理解できるような具体的な記載はされていない。
発明の詳細な説明の他の記載及び図面を検討すると、上記記載クに「有効量」の定義が示され、上記記載キに「治療する」の定義が示されるとともに「患者」には哺乳動物及び鳥を含むことが示され、上記記載ケ及び記載ウ並びに図面に慢性低酸素症の子豚に対してL-シトルリンを経口投与した場合の吐気中の一酸化窒素量増加効果及び肺高血圧症進行改善効果が示されているものの、それらの効果が得られることと気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者の治療との関係は示されておらず、発明の詳細な説明の記載から、L-シトルリンの投与が気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者の治療に有用であるという根拠を見出すことはできない。
さらに、慢性低酸素症誘発性肺高血圧症の治療に有用な医薬であれば、「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことにも有用なものであるという、本願出願時の技術常識があったとも認められない。このことについては請求人も、平成26年1月28日受付け意見書及び審判請求書において以下のとおり述べている。

<平成26年1月28日受付け意見書からの抜粋>
「新生児の持続性肺高血圧症を含む肺高血圧症(pulmonary hypertension)は、気管支肺異形成症(bronchopulmonary dysplasia)とは異なる病態です。同様に遷延性肺高血圧症や低酸素症誘発性肺高血圧症や新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)も、気管支肺異形成症とは異なる病態です。
肺高血圧症は、肺動脈の高血圧に関連する病態であり(添付資料1)、血管収縮によって血圧が上がることをいいます(添付資料2)。肺高血圧症は、低いNOレベルによって引き起こされるとNOレベルを増加させることによって軽減することができる。
また、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)は、肺高血圧症が持続するために起こる病態です(添付資料3)、
一方、気管支肺異形成症(bronchopulmonary dysplasia)は、出生後に呼吸マシンに置かれた新生児、または早産の新生児に影響を与える慢性肺異常のことを指します。この新生児の肺は炎症になり、この異常は、人工呼吸器の損傷、高レベルの酸素、感染症、又は遺伝的要因によって引き起こされると考えられています(添付資料4)。気管支肺異形成症は、酸化的損傷によって引き起こされ(添付資料5)、NOレベルには必要的に関連せず、NOレベルによっては緩和することができません。
高血圧症と気管支肺異形成症は、その根本的な原因が異なるだけでなく、その治療法が異なる病態です。
これらは、その基礎となる病理学的メカニズムが異なるため、当業者は、肺高血圧症や気管支肺異形成症が同じ技術分野に属していると考えることはありえません。」

<審判請求書からの抜粋>
「(3)後述のように、現在では、気管支肺異形成症はNO産生の低下に起因する疾患ではないことが分かっておりますので、……(中略)……。以下説明します:
(i) ……(中略)……。即ち、BPDの特徴が、異形の血管成長であり、NO産生の損傷がBPDの血管新生の異常に寄与するからといって、逆に、BPDの原因がNO産生の低下であるという結論には必ずしもならないと考えます。本願発明を知った後のヒンドサイト(後知恵)による判断であると思われます。……(中略)……。 ましてや、当時、審査官殿が結論したような「気管支肺異形成症(BPD)」の原因が分かっていたとは言えません。
更に、このような結論は、詳細は後述しますが、現在の当該技術分野における一般認識とは大きく異なっています。
……(中略)……
(iii) 現在、当該技術分野においては、BPDの主な原因は、NO産生の低下ではなく、酸化ストレスであると考えられています(添付資料1参照)。高濃度酸素は、酸化性フリーラジカルの形成をもたらし、この酸化性フリーラジカルによる損傷がBPDにつながります。
酸化的損傷に関する気管支肺異形成症(BPD)のメカニズムは、本願発明以前には知られていませんでした。従って、当業者は、本願発明以前には、この情報がないため、気管支肺異形成症(BPD)の治療において成功の合理的な期待を持つことはできなかったといえます。
本願発明で用いるシトルリンは、高酸素誘発性肺損傷を防止し、BPDの病理の根底にある、酸素誘導肺胞損傷や血管新生変更を阻止します(例えば、添付資料2参照)。その結果、気管支肺異形成症(BPD)を治療することができます。このことは、発明者らが初めて見出したことであり、どの従来文献にも記載もされていないのです……(中略)……。
(iv) 上記(d)の結論(即ち、シトルリンはNO前駆体だから、シトルリンを投与すれば、NO産生の損傷を補うので、BPDは治る筈である)も、当該技術分野における一般認識とは大きく異なっています。審査官殿の結論が正しければ、吸入NO(iNO)によりBPDは、治る筈です。しかし、吸入NO(iNO)が、BPDの改善に全く役に立たないということは、多くの文献で指摘されています(例えば、添付資料3参照)。確かにiNOは、「NO産生の低下」を効果的に補うことは事実でしょうが、iNOは、BPDの原因である、酸素ラジカルによる損傷に対処するために何の働きもしません。例えば、未熟児に非侵襲的に投与されたiNOは、BPDの症状や重症度を何ら減少させるものではなく、また、機械換気の必要性を減らすものでもなく、臨床経過を変更するものでもありません。そのため、iNOは、NOの減少を補完するものですが、BPDの治療に何ら資するものではありません。
……(中略)……。
(4)以下、引用文献1や2に記載されている肺高血圧症(PH)について説明します。
肺高血圧症は「肺動脈の高血圧」に関連します(例えば、添付資料4参照)。肺高血圧症(PH)は、いくつかの形態において、低NOレベルによって引き起こされ、NOレベルを増加させると軽減されうる(例えば、添付資料2参照)。
上記のように、気管支肺異形成症(BPD)は、人工呼吸器の損傷、高酸素レベル、感染症または遺伝的要因によって引き起こされると考えられています(添付資料1、5、6参照)。
そのため、気管支肺異形成症(BPD)は、肺高血圧症(PH)と同じ病気ではありません。気管支肺異形成症(BPD)は、肺高血圧症とは異なる病態機序を有しており、その根本的原因だけでなく、治療についても、肺高血圧症とは異なります。
……(中略)……。
このように、肺高血圧症(PH)と気管支肺異形成症(BPD)とは、その根本的原因や治療法が異なりますから、審査官殿が肺高血圧症(PH)と気管支肺異形成症(BPD)とを同視して、「NO産生の低下に起因する肺高血圧症の治療に有効なシトルリン(引用文献3)を、同じくNO産生の低下に起因する疾患である気管支肺異形成症の予防ないしは治療に用いてみることは当業者が容易に想到しうることである。」と結論したことは誤りです。 」

したがって、発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らして、「気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療する」ことをその用途とする本願発明の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとした、当審から平成27年11月16日付け拒絶理由通知により通知した拒絶理由1は解消しない。


(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により本願出願時における当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても本願出願時における当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。
ここで、本願発明の課題は、本願発明の発明特定事項並びに上記記載イ及び記載キから、有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療することであると認められる。
そこで、発明の詳細な説明の記載を検討すると、発明の詳細な説明において気管支肺異形成症に言及する記載は、上記記載ア、記載イ、記載エ、記載オ及び記載カのみである。
このうち、上記記載アは気管支肺異形成症及び慢性低酸素症誘発性肺高血圧症などの治療が求められていることを記載したものであり、上記記載イ及び記載カは一酸化窒素前駆体を気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者などに投与すること及びシトルリンなどの一酸化窒素前駆体の投与形態を記載したものであるが、いずれにも、有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療するという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるとする根拠となる具体的な記載はされていない。
上記記載エは、気管支肺異形成症の説明及び従来の治療法を記載したものであり、さらに気管支肺異形成症に罹った患者に対するシトルリンの投与によりin vivo での一酸化合成の増加を提供することができる旨も記載したものであるが、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者をシトルリンの投与により治療することについての記載はなく、有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療するという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるとする根拠となる具体的な記載はされていない。
上記記載オは、シトルリン投与による一酸化窒素合成の増加により、気管支肺異形成症または慢性低酸素症誘発性肺高血圧症を予防及び/または治療することができるとする説明を記載したものであるが、一酸化窒素合成の増加が気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者の治療に有用であることの説明はなく、有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療するという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるとする根拠となる具体的な記載はされていない。
発明の詳細な説明の他の記載及び図面を検討すると、上記記載クに「有効量」の定義が示され、上記記載キに「治療する」の定義が示されるとともに「患者」には哺乳動物及び鳥を含むことが示され、上記記載ケ及び記載ウ並びに図面に慢性低酸素症の子豚に対してL-シトルリンを経口投与した場合の吐気中の一酸化窒素量増加効果及び肺高血圧症進行改善効果が示されているものの、それらの効果が得られることと気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者の治療との関係は示されておらず、発明の詳細な説明の記載から、有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療するという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるとする根拠を見出すことはできない。
さらに、慢性低酸素症誘発性肺高血圧症の治療に有用な医薬であれば、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療することができるという、本願出願時の技術常識があったとも認められない。このことについては、請求人も、平成26年1月28日受付け意見書及び審判請求書において、上記(1)に示したとおり述べている。

したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、「有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物により、気管支肺異形成症に罹る危険性のある患者を治療すること」という本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える発明を含むものであって、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとした、当審から平成27年11月16日付け拒絶理由通知により通知した拒絶理由2は解消しない。


(3)上記(1)及び(2)に関する審判請求人の主張についての検討
審判請求人は平成28年5月24日受付け意見書において、以下のとおり主張する。
「当業者は本願明細書の記載([0008]?[0013]、[0017]、[0019]等)と以下に示す公知事実を参照すれば、上記本願発明を容易に理解することが可能であるため、上記ご指摘は当たらないと考えます。

アルギニンは、一酸化窒素(NO)を生成するための一酸化窒素シンターゼ(NOS)の基質であって、その際副生成物としてシトルリンを生成する。このシトルリンは、アルギニノコハク合成酵素(ASS)およびアルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)によってアルギニンに戻って再利用され、これはシトルリン-NOサイクルを構成します(明細書[0055]、図1)。このアルギニンは、このサイクルの酵素によりインサイチュで製造されるが、アルギニンの細胞外および外因性のソースによっては、アルギニン欠乏は補充されない(添付資料1)。この論文に記載されているように、シトルリンはアルギニンのインサイチュの製造に必要とされるが、アルギニンの外因性の供給源は、NO産生のために一酸化窒素シンターゼ(NOS)が必要とするアルギニンを提供するには不十分です。

また、一酸化窒素シンターゼ(NOS)は、酵素の二量体であり、活性な二量体形態を保つためには十分量のアルギニンを必要とする。低酸素時のように、アルギニンレベルが低下すると、この二量体は解離し、フリーラジカル酸素及びペルオキシ亜硝酸の生産を開始します(添付資料2)。この論文は、シトルリンが、酸素ラジカルによる損傷を防止することを教示している。気管支肺異形成症は、酸化的損傷によって引き起こされ、必ずしもNOレベルに関連する必要は無く、またNOによって緩和される必要もありません。低酸素症の間に起こるこの酸化損傷は、肺の損傷をもたらし、これは気管支肺異形成症(BPD)を引き起こします。

シトルリンは、新生児ラットにおけるBPDモデルにおいて、高酸素誘発性肺損傷と肺高血圧を防ぐことが知られている(添付資料3)。この論文では、シトルリンが、BPDの病態の根底にある、酸素によって誘発される肺胞の損傷や変更された血管形成を防止することが報告されています。

したがって、当業者が本明細書を読めば、シトルリンが、一酸化窒素シンターゼ(NOS)の基質であるアルギニンを適切なレベルに維持するので、eNOSの解離が防止されることを理解するであろうと考えます。これは、気管支肺異形成症につながる病態の根底にある酸化的損傷を防止します。」

しかし、請求人の摘記する「本願明細書の記載([0008]?[0013]、[0017]、[0019]等)」は、上記記載エ、記載オ及び記載カに対応するものであり、上記(1)及び(2)において検討したものである。
また、請求人が平成28年5月24日受付け意見書で引用し、平成28年5月25日受付け手続補足書で提出した各添付資料の刊行時期は、添付資料1:Ware, et al. Critical Care 2013 17: R10 が2013年1月17日(オンライン発行)、添付資料2:Dikalova, et al. PLoS One 9(1): e85730 が2014年1月、添付資料3:Vadivel, et al. Pediatric Research 68(6): 519-525) が2010年12月であったと認められ、各添付資料の記載内容が本願出願日の2009年2月2日時点での技術水準を示すものとは認められない。
よって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関する審判請求人の主張は受け入れられない。

以上のとおり、上記(1)及び(2)に関する審判請求人の主張を受け入れることはできない。

(4)検討の結果
上記の検討の結果、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-20 
結審通知日 2016-07-25 
審決日 2016-08-12 
出願番号 特願2010-545245(P2010-545245)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 村上 騎見高
前田 佳与子
発明の名称 肺病態に対する医薬組成物  
代理人 下田 昭  

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