• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04Q
管理番号 1323144
審判番号 不服2015-12767  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-03 
確定日 2016-12-28 
事件の表示 特願2013-541071「遠隔制御電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月31日国際公開,WO2012/071586,平成26年 1月 9日国内公表,特表2014-500671〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,2011年11月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年11月26日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年2月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月3日に拒絶査定不服審判が請求されたが,平成28年3月1日付けで当審より拒絶理由が通知され,これに対し,同年7月8日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。
そして,請求項1に係る発明は,平成28年7月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下,「本願発明」という。)

「 少なくとも1つの格納されたディジタル遠隔制御装置の識別コードと,
前記識別コードとリンク命令とを送信するか,前記識別コードとオン命令とを送信するか,
前記識別コードとオフ命令とを送信するための無線送信機と,
を有する遠隔制御装置と,
制御可能スイッチとを具備し,
前記制御可能スイッチは,
コンセントの電源を制御する手段と,
前記遠隔制御装置により無線で送信された前記識別コードと前記命令を受信する無線受信手段と,
前記制御可能スイッチが受信可能状態で,前記識別コードがリンク命令を付随する場合にのみ,前記識別コードを制御可能スイッチに格納する手段と,
受信された前記識別コードと前記制御可能スイッチに格納された識別コードとを比較し,前記受信された識別コードが前記格納された識別コードと一致するときにのみ付随命令に応答し,これにより前記コンセントに対する電力の供給が前記遠隔制御装置により送信された命令に応じて,オン/オフされる手段と,を含む,遠隔制御切り替えシステム。」

第2 引用発明
1 引用発明1
当審の拒絶理由に引用された登録実用新案第3160311号公報(以下,「引用例1」という。)には,「電源管理装置」(発明の名称)に関し,図面とともに,以下の事項が記載されている。

(1)「【0011】
前記の問題点に鑑み,本考案は,自動的に電気製品のアイドル状態電力値を探知測定し,電気製品の使用電力量が一定の設定時間を継続し前記アイドル状態電力値を下回ると,前記装置は自動的に電気製品への供給電源を停止する電源管理装置の提供を主な目的とする。また,前記装置は更に,ワイヤレスリモコン(wireless remote)を組み合わせて電源のオフや必要時の再起動をコントロールすることも可能である。」(第3ページ)

(2)「【0018】
図1及び図2に示した電源管理器1の外部には,壁のコンセント(wall outlet)に差し込むプラグ11と,電気製品のプラグを挿入するためのコンセント12(power outlet)と,リンク設定キー13(connect/link key)と,アイドル状態電力設定キー14(idle power preset key)と,手動起動キー15(manual ON),及びLED信号ランプ16を備える。
【0019】
電源管理器1内には,マイクロプロセッサ(MCU)と,ジグビー(Zigbee(登録番号))または他のワイヤレス通信協定を通信技術としたワイヤレス伝送モジュール(RF module)と,電流/電圧センサーを備える。」(第4ページ)

(3)「【0020】
図3に示す通り,ワイヤレスリモコン2の外部には,リンク設定キー21(connect/link key)と,起動キー22(ON key)と,LED信号ランプ23を備える。ワイヤレスリモコン2内には,マイクロプロセッサ(MCU)と,ジグビー(Zigbee(登録番号))または他のワイヤレス通信協定を通信技術としたワイヤレス伝送モジュール(RF module)とを備える。
【0021】
ワイヤレスリモコン2で電源管理器1をコントロールするために,ワイヤレスリモコン2を先ず電源管理器1とリンク(link)させる必要がある。ワイヤレスリモコン2のリンク設定キー21と電源管理器1のリンク設定キー13を同時に数秒間押すと,ワイヤレスリモコン2のLED信号ランプ23が点滅し,二者のリンクが完了したことを示す。その後,前記電源管理器1はワイヤレスリモコン2によってコントロールが可能となる。
【0022】
ワイヤレスリモコン2の起動キー22(ON key)または電源管理器1の手動起動キー15(manual ON)の何れも電源管理器1を起動させられる。電源管理器1が起動する(ON)と,その機能は,一般のコンセント(power adaptor)または延長コード(power strip)と同様である。」(第4-5ページ)

(4)「【0024】
使用者が電源管理器1を起動させる(ON)と,電気製品の随時使用開始を示す。電気製品の使用を完了しオフにする(または電気製品が設定時間となり自動的にオフとなる)と,電源管理器1は,電気製品が既に待機状態であることを認知し,例えば30分間などの「設定時間」を経過した後,自動的に電気製品の電気供給を完全に停止し,アイドル状態電力はゼロとなる。
(…中略…)
【0028】
ワイヤレスリモコン2のリンク設定キー21が押されると,マイクロプロセッサ31(MCU)は信号を受信,処理し,並びに,ワイヤレス伝送発信器/受信器32によって,ワイヤレスリモコン2の識別情報(identification)及び電源管理器1とのリンク信号を発信する。リンクが完了すると,電源管理器1は,ワイヤレスリモコン2の識別情報を記憶し,二者間の通信に障害がないこと(proper communication)を確認し,その後,ワイヤレス伝送発信器/受信器32に対してリンク完了信号を発信する。これより,電源管理器1とワイヤレスリモコン2の二者間にワイヤレス通信が可能となる。
(…中略…)
【0030】
電源管理器1とワイヤレスリモコン2のリンクが完了すると,電源管理器1はオフ(OFF)となり,その後,使用者がワイヤレスリモコン2の起動キー22を押すことによって電源管理器1の起動(ON)をコントロールする。マイクロプロセッサ31は,オン(ON)の指令を受信した後,ワイヤレス伝送発信器/受信器32と電源管理器1の通信とその起動(ON)をコントロールする。同様に,使用者はワイヤレスリモコン2を使って電源管理器1をオフ(off)にすることも可能である。
【0031】
図6に示した電源管理器の第一実施例に関する電気回路図の通り,電気回路は電源管理器1内部に設置する電気回路板(PCB)に設計する。電源管理器1のプラグは壁のコンセントに挿入するが,アイドル状態電力値を設定する以前,電源管理器1の役割は,通常,サージプロテクター(surge protector)を備える電源コンセントであり,LED信号ランプ16aが光ることにより電源管理器1がオン(ON)モードであることを示し,電気製品のプラグを電源管理器1コンセント12に差し込んだ後,即刻,電気製品の使用が可能となる。
【0032】
前記電源管理器1は電源供給システム33とワイヤレス伝送発信器/受信器34を備え,ワイヤレスリモコン2から来る信号を受信する。ワイヤレスリモコン2のリンク設定キー21が押されると,ワイヤレスリモコン2の識別情報と電源管理器1とのリンクを要求する信号がワイヤレス伝送発信器/受信器34に送られ,電源管理器1のリンク設定キー13が同時に押された場合,ワイヤレスリモコン2の識別情報はマイクロプロセッサ35に保存され,その後,電源管理器1はワイヤレスリモコン2のワイヤレス伝送発信器/受信器32に二者のリンク完了のリターン信号を送り,即刻ワイヤレス通信が可能となる。
【0033】
電気製品のアイドル状態電力を探知測定するために,オフ状態である電気製品をまず電源管理器1のコンセント12に接続し,アイドル状態電力設定キー14を押すと,電圧センサー36及び電流センサー37が自動的に電気製品の電圧及び電流を探知測定する。電流センサー37は信号を過負荷センサー38に送り,もし総電流が12アンペアを超過した場合,マイクロプロセッサは継電器39を起動させて電源を切り,それと同時に,電流センサー37は信号を電流信号を処理するための電流センサーアンプ40に送る。
(…中略…)
【0035】
ワイヤレスリモコン2の起動キー22(ON key)または電源管理器1の手動起動キー15(manual ON)の何れかの操作によって,継電器39はオフとなり電源管理器1は継続的に電気製品の使用電力量を測定する。マイクロプロセッサによって,一定時間,使用電力量がアイドル状態電力値と継続的に等しくなるか下回ることを探知測定されると,マイクロプロセッサは継電器39を起動し電気製品に供給する全ての電源を停止する。」(第5-7ページ)

以下,上記(1)ないし(4)の記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例1に記載された技術事項について検討する。

ア 前記(1)の「前記の問題点に鑑み,本考案は,…電源管理装置の提供を主な目的とする。また,前記装置は更に,ワイヤレスリモコン(wireless remote)を組み合わせて電源のオフや必要時の再起動をコントロールすることも可能である。」との記載から,引用例1の目的の1つは,「電源管理装置」(電源管理器)と「ワイヤレスリモコン」とを組み合わせて,電源のオフや再起動(電源のオン)をコントロール(制御)することである。
そして,「電源管理器」と「ワイヤレスリモコン」を組み合わせたものを,「電源のオンとオフとを制御するシステム」と称することは任意であるから,引用例1には,「ワイヤレスリモコン」と「電源管理器」とを具備する「電源のオンとオフとを制御するシステム」が記載されているといえる。

イ 前記(3)の【0020】,前記(4)の【0028】及び【0029】並びに図5より,「ワイヤレスリモコン」は,「マイクロプロセッサ」,「リンク設定キー」,「起動キー」及び「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」を備えている。
また,前記(4)の【0028】より,「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」は,「ワイヤレスリモコンの識別情報」と「リンク信号」を発信(送信)する機能を有している。
また,前記(4)の【0028】の「…ワイヤレスリモコン2の識別情報(identification)及び電源管理器1とのリンク信号を発信する。リンクが完了すると…」の記載及び前記(3)の【0021】の「ワイヤレスリモコン2で電源管理器1をコントロールするために,ワイヤレスリモコン2を先ず電源管理器1とリンク(link)させる必要がある。(…中略…)二者のリンクが完了したことを示す。その後,前記電源管理器1はワイヤレスリモコン2によってコントロールが可能となる。」との記載から,「リンク信号」は,「ワイヤレスリモコン」と「電源管理器」とを「リンク」するためのものであって,かつ,「リンク」は,「ワイヤレスリモコン」で「電源管理器」をコントロール(制御)するために必要な処理である。
さらに,前記(3)の【0022】並びに前記(4)の【0030】及び【0032】の記載より,「リンク」が完了した後に,「ワイヤレスリモコン」の「起動キー」が押下されることにより,「電源管理器」が,「オンの指令」を受信すること,すなわち,「ワイヤレスリモコン」の「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」が,「オンの指令」を送信する機能を有しているといえる。また,前記(4)の【0032】の「同様に,使用者はワイヤレスリモコン2を使って電源管理器1をオフ(off)にすることも可能である。」の記載から,「ワイヤレスリモコン」の「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」が,前記「オンの指令」に対応する「オフの指令」を送信する機能を有していることは明らかである。
また,「オン」及び「オフ」は,「リンク」が完了された後に制御されること,及び,「オン」と「オフ」とが排他的な制御であることを参酌すれば,「ワイヤレスリモコンの識別情報と電源管理器とのリンク信号」,「オンの指令」及び「オフの指令」とは,選択的に送信されるものと解するのが合理的である。
以上より,引用例1には,
「ワイヤレスリモコンの識別情報と,ワイヤレスリモコンで電源管理器を制御するために,ワイヤレスリモコンと電源管理器とをリンクするためのリンク信号とを送信するか,オンの指令を送信するか,オフの指令を送信するためのワイヤレス伝送発信器/受信器32と,
を有するワイヤレスリモコン」が記載されているといえる。

ウ 前記(2)の【0018】及び【0019】,前記(4)の【0032】及び図6より,「電源管理器」は,「マイクロプロセッサ35」と,電気製品のプラグを挿入するための「コンセント」と,「ワイヤレス伝送発信器/受信器34」と,「継電器」とを有している。
そして,前記(4)の【0032】の「マイクロプロセッサは継電器39を起動させて電源を切り,…」及び【0035】の「マイクロプロセッサによって,一定時間,使用電力量がアイドル状態電力値と継続的に等しくなるか下回ることを探知測定されると,マイクロプロセッサは継電器39を起動し電気製品に供給する全ての電源を停止する。」の記載から,「マイクロプロセッサ35」は,継電器を制御することにより,電気製品に供給する電源を制御する機能を有している。そして,前記(4)の【0031】の「電源管理器1の役割は,通常,(…中略…)電源コンセントであり,(…中略…),電気製品のプラグを電源管理器1コンセント12に差し込んだ後,即刻,電気製品の使用が可能となる。」の記載から,電気製品は,「コンセント」を介して電源が供給されることが明らかであるから,電気製品に供給する電源を制御することは,「コンセント」の電源を制御することに他ならない。
よって,引用例1には,「電源管理器」が,「コンセントの電源を制御するマイクロプロセッサ35」を含むことが記載されているといえる。

エ 前記(4)の【0032】より,「ワイヤレス伝送発信器/受信器34」は,「ワイヤレスリモコン」により無線で送信された識別情報とリンク信号を受信する機能を有し,また,前記イを参酌すれば,オンの指令及びオフの指令を受信する機能を有している。
よって,引用例1には,「電源管理器」が,「ワイヤレスリモコンにより無線で送信された識別情報とリンク信号,オンの指令又はオフの指令を受信するワイヤレス伝送発信器/受信器34」を含むことが記載されているといえる。

オ 前記(4)の【0025】及び【0032】より,電源管理器が,ワイヤレスリモコンのリンク設定キー21が押されたときにワイヤレスリモコンのワイヤレス伝送発信器/受信器32によって送信される識別情報及びリンク信号を受信することにより,ワイヤレスリモコンと電源管理器との間のリンクが完了し,その後,電源管理器は,識別情報を自身のマイクロプロセッサ35に記憶している。
また,前記(3)の【0021】より,ワイヤレスリモコンのリンク設定キー21と,電源管理器のリンク設定キー13とを同時に数秒間押すことにより,ワイヤレスリモコンと電源管理器との間のリンクが完了している。
よって,電源管理器は,電源管理器のリンク設定キー13が押されている間に,ワイヤレスリモコンのリンク設定キー21が押されたとき,すなわち,電源管理器が識別情報とリンク信号とを受信した場合に,識別情報を電源管理器に記憶する機能を有している。
よって,引用例1には,「電源管理器」が,「電源管理器のリンク設定キー13が押されている間に,識別情報とリンク信号とを受信した場合に,識別情報を電源管理器に記憶する機能」を含むといえる。

カ 前記(4)の【0030】並びに前記イ及びウより,「電源管理器」は,「ワイヤレスリモコン」から「オンの指令」を受信すると,すなわち,「オンの指令」に応じて,「コンセント」から電気製品に電源を供給するように,すなわち,「コンセント」に対する電力の供給が「オン」になるように,「継電器」を制御することが明らかである。
また,前記(4)の【0024】及び【0035】並びに前記イより,「電源管理器」は,「ワイヤレスリモコン」から「オフの指令」を受信すると,電気製品が待機状態であることを認知した後で,「継電器」を起動(オフ)して電気製品に供給するすべての電源を停止するものである。ここで,「電源管理器」は,電気製品が待機状態であることを認知するとの条件付きではあるが,「オフの指令」に応じて,「コンセント」に対する電力の供給が「オフ」になるように「継電器」を制御するものである。
さらに,「電源管理器」は,受信した指令(「オンの指令」又は「オフの指令」)に応答して「継電器」を制御し,その結果,「継電器」は,ワイヤレスリモコンにより送信された指令に応じて,コンセントに対する電力の供給がオン又はオフがなされるように制御されるものといえる。
以上より,引用例1には,「電源管理器」は,「受信された指令に応答し,これによりコンセントに対する電力の供給がワイヤレスリモコンにより送信された指令に応じて,オン又はオフされる継電器」を含むといえる。

前記(1)ないし(4)及び前記アないしカの検討より,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「 ワイヤレスリモコンの識別情報と,ワイヤレスリモコンで電源管理器を制御するために,ワイヤレスリモコンと電源管理器とをリンクするためのリンク信号とを送信するか,オンの指令を送信するか,オフの指令を送信するためのワイヤレス伝送発信器/受信器32と,
を有するワイヤレスリモコンと,
コンセントの電源を制御するマイクロプロセッサ35と,
ワイヤレスリモコンにより無線で送信された識別情報とリンク信号,オンの指令又はオフの指令を受信するワイヤレス伝送発信器/受信器34と,
電源管理器のリンク設定キー13が押されている間に,識別情報とリンク信号とを受信した場合に,識別情報を電源管理器に記憶する機能と,
受信された指令に応答し,これによりコンセントに対する電力の供給がワイヤレスリモコンにより送信された指令に応じて,オン又はオフされる継電器と,を含む,電源のオンとオフとを制御するシステム。」

2 引用発明2
当審の拒絶理由に引用された特開2008-211706号公報(以下,「引用例2」という。)には,「無線通信システム」(発明の名称)に関し,図面とともに,以下の事項が記載されている。

(1)「【0014】
本発明は以上述べた問題点を解決し,停電からの復帰時に誤って必要ない機器までペアリングせずに,また,送信機や受信機に送信電力や受信感度を低減させる回路を付加しないで,かつ,エンドユーザーでも簡単にID設定操作が可能な無線送受信機を備えた無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上述の課題を解決するため,電波によりデータを送受信する親機と,電波によりデータを送受信し,操作を受け付ける子機操作部を備えてなる子機とで無線通信システムを構成し,
前記親機と前記子機とが共通のIDを認識するためのペアリングを行なう時,
前記親機は,ID設定許可データを送信し,同データを受信した前記子機は,前記子機操作部での特定操作により前記親機をペアリング対象と認識し,前記親機へ前記子機のIDを含むID設定依頼データを送信し,同データを受信した前記親機は,前記子機をペアリング対象と認識すると共に,受信した前記子機のIDを前記共通のIDと認識するように構成する。」(第4-5ページ)

(2)「【0029】
以下,本発明の実施の形態を,添付図面に基づいた実施例として詳細に説明する。この実施例では空気調和機の室内機(親機)と,この空気調和機を制御する無線リモコン(子機)とのIDを一致させる構成と方法を説明する。なお,室内機の一般的な構成と動作については,その図示と説明を省略する。また,室内機が送信する電波の周波数と,無線リモコンが送信する電波の周波数とは異なるものとして説明する。」(第6ページ)

(3)「【0040】
子機表示部14は,例えば図5の無線リモコンの正面図に示すように,無線リモコンの正面上部付近に配置された液晶パネルを備えており,設定温度の数値表示や,暖房/冷房/除湿などの運転モードを表示するようになっている。
【0041】
一方,子機操作部16は,子機表示部14の下方に配置されたキー操作部を備えており,このキー操作部内に配置された電源キー/設定モードキー/運転モード選択キー/温度設定キーを押下することにより,空気調和機を操作するようになっている。
【0042】
また,子機操作部16は,後述するID設定モードのための操作を行なうようになっている。通常の空気調和機の操作ではあり得ない操作,例えば,設定キーと運転モードキーとを同時に押下するとID設定モードへ移行するようになっている。このID設定モード中は電源キー以外が通常操作とは別の機能として働く。なお,この別の機能については,図4において,各キー名称の下に括弧表記で記載する。
【0043】
子機記憶部17には無線リモコンで使用される子機のIDが,無線リモコンの製造時点で格納されている。この子機のIDは他の機器と区別するためのものであり,他の機器と重複しない番号や記号のデータで構成されている。なお,この子機のIDは後述するペアリングが行なわれると,親機にも同じものが格納され,以後,このIDを親機と子機とのペアでの共通IDとして用いられ,送信データにこのIDがないものは受信時に無視される。
【0044】
子機制御部15は以上説明した各部を制御すると共に,子機操作部16で入力した操作キーに従って子機表示部14に表示したり,キー操作によって指定された設定温度や運転モード,電源のオン/オフなどをデータに変換し,子機送信部12を介して室内機へ送信する。
」(第7-8ページ)

(4)「【0056】
図2(A)において室内機では室内機に電源が供給されると,室内機は,図3(A)で説明したID設定許可コマンドのフレームを送信する。このフレームは間欠的に一定時間,例えば1秒おきに10分間送信される。従って無線リモコン側ではこの間にID設定操作を行なう必要がある。もし,10分以上経過したら一旦電源を切断し,再度電源を投入してID設定操作を行なう。
【0057】
無線リモコン側では,ID設定許可コマンドを受信すると,このコマンドを受信した,つまり,ペアリング動作が可能なことを記憶する。一方,無線リモコンの操作者は,室内機に電源が供給されたのを確認後,無線リモコンの設定モードキーと運転モードキーとを同時に押下し,設定モードへ移行する。このモードに移行すると無線リモコンは,子機記憶部17に格納されていた無線リモコンID(共通ID)を,図3(B)に示すID設定依頼コマンドのフレームを用いて室内機側へ送信する。なお,この子機側の無線リモコンIDは無線リモコンの製造時点で,ユニークな値として格納されている。
【0058】
室内機側ではID設定依頼コマンドを受信すると,子機側のID,ここでは無線リモコンIDを親機記憶部5に格納する。また,間欠的に送信していたID設定許可コマンドの送信を停止し,ID設定依頼コマンドを受け付けた確認としてブザーを鳴動させ,通常の動作モードへ移行する。
【0059】
この後,無線リモコン側で通常の操作,例えば電源オンや温度設定などの操作を行なうと,無線リモコンは図3(D)に示す機器制御コマンドのフレームを室内機側へ送信する。これを受信した室内機は指示された運転データに従って空気調和機を制御する。」(第9ページ)

(5)「【0100】
図4(B)の無線リモコンの送信フレームは,室内機に対して無線リモコンのID設定を依頼するID設定依頼コマンドであり,送信先が『室内機ID』,フレーム種別が『ID設定依頼』,送信元が『無線リモコンのID』になっている。また,この第一実施例では付加データはない。ただし,この付加データとして確認コードを付加する場合があるが,これについては第3実施例で詳細に説明する。
【0101】
この送信フレームを受け取った室内機は,無線リモコンのIDを親機記憶部へ格納し,以後の通信においては,このIDを持つ無線リモコンとのみ交信を行い,これ以外のIDについては無視する。
【0102】
図4(C)の室内機の送信フレームは,通常の空気調和機の運転において無線リモコンへ機器の状態,例えば現在の室温や外気温,湿度などを無線リモコンへ伝える状態通知コマンドであり,送信先がID設定により親機記憶部へ格納された『無線リモコンのID』,フレーム種別が空気調和機の状態変化を伝える『状態更新』,送信元が室内機のIDになっており,付加データは更新された『状態データ』である。この送信フレームを受け取った無線リモコンは,受信した『状態データ』を無線リモコンの表示エリアに所定のフォーマットで表示する。
【0103】
図4(D)の無線リモコンの送信フレームは,無線リモコンのキー操作部で指定された空気調和機の運転指示を室内機に対して指示する機器制御コマンドであり,送信先が『室内機ID』,フレーム種別が『運転指示』,送信元が『無線リモコンのID』になっている。また,付加データは指示された『運転データ』である。
【0104】
この送信フレームを受け取った室内機は,『運転データ』の内容に従って空気調和機を運転する。」(第13-14ページ)

以下,上記(1)ないし(5)の記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例2に記載された技術事項について検討する。

ア 前記(1)及び(2)より,引用例2には,「親機である室内機に,子機である無線リモコンのIDを設定し,無線リモコンが,無線により室内機を制御するシステム」が記載されているといえる。

イ 前記(3)の【0042】及び【0043】並びに前記(4)の【0057】より,引用例2には,「無線リモコンは,無線リモコンの設定モードキーと運転モードキーとが同時に押下されると,子機記憶部に格納されている無線リモコンIDを含むID設定依頼コマンドを送信すること」が記載されているといえる。

ウ 前記(4)の【0058】並びに前記(5)の【0100】及び【0101】より,引用例2には,「室内機は,ID設定依頼コマンドを受信すると,無線リモコンIDを親機記憶部に格納すること」が記載されているといえる。

エ 前記(5)の【0103】及び【0104】より,引用例2には,無線リモコンから,室内機に対して,「運転データ」と「無線リモコンのID」を含む機器制御コマンドを送信し,室内機が,機器制御コマンドの「運転データ」の内容に従って運転を行うことが記載されている。
また,前記(5)の【0101】の「この送信フレームを受け取った室内機は,無線リモコンのIDを親機記憶部へ格納し,以後の通信においては,このIDを持つ無線リモコンとのみ交信を行い,これ以外のIDについては無視する。」との記載から,室内機は,「このID」すなわち親機記憶部に格納した無線リモコンIDを持つ無線リモコンとのみ交信を行うものであり,「以後の通信」及び「交信」には,「機器制御コマンド」の受信が含まれることが明らかである。そして,「機器制御コマンド」を送信した機器が,「このIDを持つ無線リモコン」であるか否かの判断は,受信した「機器制御コマンド」に含まれる「無線リモコンID」と,親機記憶部に格納した「無線リモコンID」と一致するか否かに基づいてなされると考えるのが合理的である。
さらに,前記(3)の【0044】及び前記(4)の【0059】より,子機である「無線リモコン」から,「オン」又は「オフ」が室内機に対して送信されることを参酌すれば,前記「機器制御コマンド」の「運転データ」には,「オン」又は「オフ」が含まれることは明らかである。
以上より,引用例2には,「室内機は,無線リモコンから,オン又はオフの運転データと無線リモコンIDとを含む機器制御コマンドを受信し,その無線リモコンIDが,親機記憶部に格納された無線リモコンIDと一致する場合にのみ,受信した運転データのオン又はオフに従って運転を行うこと」が記載されている。

前記(1)ないし(5)及び前記アないしエの検討より,引用例2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「 親機である室内機に,子機である無線リモコンのIDを設定し,無線リモコンが,無線により室内機を制御するシステムにおいて,
無線リモコンは,無線リモコンの設定モードキーと運転モードキーとが同時に押下されると,子機記憶部に格納されている無線リモコンIDを含むID設定依頼コマンドを送信し,
室内機は,ID設定依頼コマンドを受信すると,無線リモコンIDを親機記憶部に格納し,
室内機は,無線リモコンから,オン又はオフの運転データと無線リモコンIDとを含む機器制御コマンドを受信し,その無線リモコンIDが,親機記憶部に格納された無線リモコンIDと一致する場合にのみ,受信したオン又はオフの運転データに従って運転を行う,
システム。」


第3 対比・判断
1 対比
以下,本願発明と引用発明1との対応関係について検討する。

(1)本願発明の「遠隔制御装置」は,明細書及び図面の全体の記載から,それら記載の「リモコン」に相当することが明らかである。そして,本願発明において,「遠隔制御装置」と「ディジタル遠隔制御装置」との関係は具体的に特定しておらず,かつ,明細書及び図面にも,複数種類の「リモコン」を用いることは記載も示唆もないことから,「遠隔制御装置」と「ディジタル遠隔制御装置」は同じものであると解するのが合理的である。そして,「ディジタル遠隔制御装置」又は「ディジタルリモコン」なる語句は,明細書及び図面には記載がないが,明細書において,「リモコン」について記載された段落【0031】の記載「マイクロコントローラ30は,LED23のオン/オフ状態を制御する。マイクロコントローラ30は,また,ディジタル無線機器32と通信する。ディジタル無線機器32は,マイクロコントローラから受信された命令を,アンテナ36を介して出力されるディジタル無線信号に変換する。」から,本願発明の「ディジタル遠隔制御装置」は,ディジタル無線方式を用いる遠隔制御装置(リモコン)であると解され,そうすると,本願発明の「遠隔制御装置」も同じものと解される。
そうすると,引用発明1の「ワイヤレスリモコン」は,無線方式を用いた遠隔制御装置(リモコン)である点において,本願発明の「遠隔制御装置」又は「ディジタル遠隔制御装置」と共通する。

(2)引用発明1の「電源管理器」と本願発明の「制御可能スイッチ」とは,遠隔制御装置(リモコン)の制御に応じてコンセントに対する電力の供給(コンセントの電源)のオンとオフとを切り替え制御するという機能を有する点において共通しているから,引用発明の「電源管理器」が,後述する相違点を除いて,本願発明の「制御可能スイッチ」に相当する。

(3)前記(1)及び(2)を参酌すれば,引用発明1の「電源のオンとオフとを制御するシステム」は,リモコンによる遠隔制御により,電源のオンとオフとを切り替えるシステムであるといえるから,後述する相違点を除くと,本願発明の「遠隔制御切り替えシステム」に相当する。

(4)引用発明1の「識別情報」は,本願発明の「識別コード」に相当する。

(5)引用発明1の「リンク命令」,「オンの指令」及び「オフの指令」は,その機能を参酌すれば,それぞれ,本願発明の「リンク命令」,「オン命令」及び「オフ命令」に相当する。

(6)前記(5)を参酌すれば,引用発明1の「識別情報と,…リンク信号」は,本願発明の「前記識別コードとリンク命令」に相当する。また,引用発明1の「オン命令」と,本願発明の「前記識別コードとオン命令」とは,「オン命令を含む信号」である点において共通する。同様に,引用発明1の「オフ命令」と,本願発明の「前記識別コードとオフ命令」とは,「オフ命令を含む信号」である点において共通する。
また,引用発明1の「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」は,発信器(送信器)としての側面を参酌すれば,「無線送信器」といい得るものである。
よって,前記(5)を参酌すれば,引用発明1の「ワイヤレス伝送発信器/受信器32」と,本願発明の「無線送信器」とは,「識別コードとリンク命令を送信するか,オン命令を送信するか,オフ命令を送信するための無線送信機」である点において共通する。

(7)引用発明1の「コンセントの電源を制御するマイクロプロセッサ35」は,本願発明の「コンセントの電源を制御する手段」に含まれる。

(8)引用発明1において,当該「リンク設定キー13」が押されている間に,「識別情報とリンク信号」を受信する場合があることから,「リンク設定キーが押されている間」は,「電源管理器」が受信可能な状態となっていることは自明である。
また,「識別情報」と「リンク信号」とを受信することは,「識別情報」に「リンク信号」が付随していることに他ならない。
また,「記憶」と「格納」とは同義であるから,引用発明1において,「電源管理器」が「識別情報を電源管理器に記憶する機能」を含むことは,「電源管理器」が,「識別情報を電源管理器に格納する手段」を含むといい得る。
そうすると,前記(2),(4)及び(5)を参酌すれば,引用発明1の「電源管理器のリンク設定キー13が押されている間に,識別情報とリンク信号とを受信した場合に,識別情報を電源管理器に記憶する機能」と,本願発明の「前記制御可能スイッチが受信可能状態で,前記識別コードがリンク命令を付随する場合にのみ,前記識別コードを制御可能スイッチに格納する手段」とは,「前記制御可能スイッチが受信可能状態で,前記識別コードがリンク命令を付随する場合に,前記識別コードを制御可能スイッチに格納する手段」である点において共通する。

(9)本願発明の「前記受信された識別コードが前記格納された識別コードと一致するときにのみ付随命令に応答し,これにより前記コンセントに対する電力の供給が前記遠隔制御装置により送信された命令に応じて,オン/オフされる手段」における「付随命令」及び「送信された命令」は,「オン/オフされる」との制御結果と,本願発明の「前記識別コードとオン命令とを送信するか,前記識別コードとオフ命令とを送信する」との構成からして,「オン命令」又は「オフ命令」を意味すると解するのが合理的である。
また,引用発明1の「オン又はオフされる継電器」は,本願発明の「オン/オフされる手段」に含まれる。
そうすると,前記(1),(2)及び(5)を参酌すれば,引用発明1の「受信された指令に応答し,これによりコンセントに対する電力の供給がワイヤレスリモコンにより送信された指令に応じて,オン又はオフされる継電器」と,本願発明の「受信された前記識別コードと前記制御可能スイッチに格納された識別コードとを比較し,前記受信された識別コードが前記格納された識別コードと一致するときにのみ付随命令に応答し,これにより前記コンセントに対する電力の供給が前記遠隔制御装置により送信された命令に応じて,オン/オフされる手段」とは,「オン命令又はオフ命令に応答し,これにより前記コンセントに対する電力の供給が前記遠隔制御装置により送信された命令に応じて,オン/オフされる手段」である点において共通する。

2 一致点・相違点
前記1の検討から,本願発明と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(1)一致点
「 識別コードとリンク命令を送信するか,オン命令を送信するか,
オフ命令を送信するための無線送信機,
を有する遠隔制御装置と,
制御可能スイッチとを具備し,
前記制御可能スイッチは,
コンセントの電源を制御する手段と,
前記遠隔制御装置により無線で送信された前記識別コードと前記命令を受信する無線受信手段と,
前記制御可能スイッチが受信可能状態で,前記識別コードがリンク命令を付随する場合に,前記識別コードを制御可能スイッチに格納する手段と,
オン命令又はオフ命令に応答し,これにより前記コンセントに対する電力の供給が前記遠隔制御装置により送信された命令に応じて,オン/オフされる手段と,を含む,遠隔制御切り替えシステム。」

(2)相違点
ア 相違点1
「遠隔制御装置」に関し,本願発明の「遠隔制御装置」は,「ディジタル遠隔制御装置」すなわち,ディジタル無線方式の遠隔制御装置であるのに対し,引用発明1における「ワイヤレスリモコン」は,いかなる方式のものであるのか具体的に特定していない点。

イ 相違点2
「識別コード」に関し,本願発明の「識別コード」は,「少なくとも1つの格納された」ものである,すなわち,「遠隔制御装置」に格納されたものであるのに対し,引用発明1における「識別情報」は,「ワイヤレスリモコン」に格納されたものであるかどうかについて具体的に特定していない点。

ウ 相違点3
「識別コード」の格納に関し,本願発明は,「識別コード」が「リンク命令」に付随する場合にのみ,との条件に基づいて「識別コード」を格納するのに対し,引用発明1は,「識別情報」が「リンク信号」に付随する場合にのみ,との限定について具体的に特定していない点。

エ 相違点4
「オン命令」及び「オフ命令」に関し,本願発明は,「オン命令」と「オフ命令」のそれぞれが,「識別コード」に付随して送受信され,かつ,受信された「識別コード」が,制御可能スイッチに格納された「識別コード」と一致するときにのみ付随命令,すなわち,「オン命令」又は「オフ命令」に応答するのに対し,引用発明1において,「電源管理器」は,「識別情報」を格納しているものの,「オン信号」又は「オフ信号」は,前記「識別情報」に付随して送受信されるのか否かについて具体的に特定しておらず,よって,受信した「識別情報」と格納した「識別情報」とを比較し,その一致に応答して付随命令(オン信号又はオフ信号)に応答することについても具体的に特定していない点。

3 判断
前記2の各相違点について検討する。

(1)相違点1について
ディジタル無線方式のワイヤレスリモコン(遠隔制御装置)は,本願の優先日においてごく一般的なものである。
よって,引用発明1における「ワイヤレスリモコン」を,ディジタル無線方式とすること,すなわち,「ディジタル遠隔制御装置」に限定することは,当業者が適宜になし得たことにすぎない。

(2)相違点2について
送信する情報を予め格納しておくことは,本願の優先日におけるリモコンの分野の周知・慣用技術にすぎず,実際,引用例2(引用発明2の「無線リモコンは,無線リモコンの設定モードキーと運転モードキーとが同時に押下されると,子機記憶部に格納されている無線リモコンIDを含むID設定依頼コマンドを送信すること」との構成を参照。)にも記載されている。
よって,引用発明1において,「識別情報」(識別コード)をワイヤレスリモコン(遠隔制御装置)に格納しておくよう構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
引用発明1において,「識別情報」は,「リンク信号」に付随して受信されるときに「電源管理器」に記憶されるものであり,「リンク信号」以外の信号に付随して受信されるときに記憶されることは,引用文献1には記載も示唆もなく,「リンク信号」が,ワイヤレスリモコンで電源管理器を制御するために,ワイヤレスリモコンと電源管理器とをリンクするためのものであることを考慮すれば,「識別情報」が,「リンク信号」以外の信号に付随して受信されるときにも格納されると解するのは合理的ではない。
また,特定の信号(命令)を受信した場合にのみ書き込み等の必要な処理を行うことも本願の優先日における周知・慣用技術にすぎない。
よって,引用発明1において,「識別情報」(識別コード)を,「リンク信号」(リンク命令)に付随して受信される場合にのみ,当該「識別情報」(識別コード)を「無線管理器」(制御可能スイッチ)に格納するよう構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
引用発明2において,「オン又はオフの運転データ」は,親機である室内機のオン又はオフを制御するためのものであり,かつ,「無線リモコンID」とともに機器制御コマンドにより送受信されるものであるから,「付随命令」といい得るものである。
また,引用発明2の「無線リモコン」は,「遠隔制御装置」といい得るものであり,また,「室内機」は,「無線リモコン」からの機器制御コマンドにより,運転のオンとオフとを制御可能に切り替える(スイッチする)ものであるため,「制御可能スイッチ」といい得るものである。
さらに,引用発明2の「無線リモコンID」は,「識別コード」といい得るものである。
すると,引用発明2より,
「 遠隔制御装置と,
制御可能スイッチとを具備し,
前記制御可能スイッチは,
受信された識別コードと前記制御可能スイッチに格納された識別コードとを比較し,前記受信された識別コードが前記格納された識別コードと一致するときにのみ付随命令に応答する,
システム。」
は,公知技術といえる。
そして,引用発明1と,引用発明2とは,いずれも,遠隔制御装置により制御可能スイッチのオン又はオフを制御する点において共通しているから,引用発明1に,引用発明2に係る上記公知技術を適用することにより,前記相違点4に係る本願発明の構成を想到することは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。

よって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,周知・慣用技術を参酌することにより当業者が容易に発明することができたものである。

4 請求人の主張について
請求人は,拒絶査定不服審判の請求の理由及び平成28年7月8日付けの意見書において,概ね,以下の主張をすることにより,引用発明1等に基づく本願発明の容易想到性を否定している。

[主張1]
引用発明1は,(オフ時に)待機時間(アイドル時間)を積極的に設けるものであり,待機時間を設けないようにした本願発明とは,基本思想が異なる。
引用文献3ないし5は,本願発明とは,異なる課題を解決したものであるから,引用発明1と,引用文献3ないし5の発明を組み合わせる動機付けが存在しない。
[主張2]
引用発明1は,リンク設定時に,ワイヤレスリモコンのリンク設定キー21と,電源管理器のリンク設定キー13とを同時に数秒間押す必要があるが,本願発明では,制御可能スイッチへの識別コードの格納は,遠隔制御装置の操作のみで可能である。
「受信可能状態」とは,受信のための更なる操作を必要としないと解釈することが一般的であり,リンク設定キーを押し続けていることは,「受信可能状態」になっているとはいえない。
[主張3]
引用発明1は,ワイヤレスリモコンのLED23を点滅させる必要があるため,ワイヤレスリモコンと電源管理器との間での信号の送受信が必要であるが,本願発明では,このような問題は生じない。
[主張4]
引用発明1は,オン・オフ命令と共に識別情報を送信したり,受信した識別情報が保存された識別情報と一致するかどうかを判定するものではない。
[主張5]
引用発明1は,Zigbee(登録商標)モジュールを採用しており,回路構成が複雑である。

上記各主張について,以下,検討する。

・[主張1]について
本願発明には,「付随命令に応答し,…送信された命令に応じて,オン/オフされる手段」と記載されているにすぎず,「付随命令」又は「送信された命令」の受信後,待機時間を設けることなく(即座に)「オフ」にすることまでは具体的に特定していない。
明細書にも,「オフ命令」を受信した後の具体的な処理内容は記載されておらず,図面の構成から自明ともいえない。
よって,当該[主張1]は,特許請求の範囲のみならず,明細書及び図面の記載にも基づいていないから,採用することができない。
(なお,仮に,当該[主張1]を考慮しても,特開2002-185628号公報(【0035】),特開2004-336896号公報(【0038】ないし【0040】),特開2003-133009号公報(【0020】)に記載されているように,無線リモコンからのオフを指示する信号に従って,かつ,待機時間を設けることなく,コンセントからの電源の供給をオフするスイッチは周知技術である。また,引用文献1には,待機時間を設けないようにすることの技術上の阻害要因となる事項は記載されていない。
よって,このような周知技術を参酌し,引用発明1において,オフ信号を受信した際に,待機時間を設けることなく「オフ」されるよう構成することは当業者が適宜なし得たことにすぎない。)

・[主張2]について
本願発明における「受信可能状態」は,「受信可能」な「状態」であればいかなる態様をも含むことが明確であり,本願明細書の段落【0015】等の記載を参酌して,スイッチの(1回の)押下により「受信可能状態」となるという事項にまで限定的に解釈することはできないから,引用発明1のように,リンク設定キー13を押し続ける間だけ「受信可能状態」となる態様を含んでいる。
また,「受信可能状態」が,「受信のための更なる操作を必要としないと解釈すること」が「一般的」であるとする根拠を,請求人は何ら提示していない。
よって,当該[主張2]は,特許請求の範囲の記載に基づいていないから,採用することができない。
(なお,仮に,当該[主張2]を考慮しても,状態を変化させる操作スイッチとして,押している間だけ状態を維持するモーメンタリ型の操作スイッチと,押した後に手を離しても状態を保持する,オルタネイト型の操作スイッチとが存在することは,本願の優先日における周知技術にすぎず,無線リモコンの技術分野においても,特開平5-308678号公報(【0001】,【0019】,【0025】)に記載のように,キーの手動操作により,リモコンのIDを受信可能な状態となる受信機は周知といえるから,引用発明1において,電源管理器のリンク設定キー13として,モーメンタリ型のものに替えて,オルタネイト型のものを採用することは,当業者が適宜なし得たことにすぎない。)

・[主張3]について
当該[主張3]に係る「LED23」に関し,引用例1の段落【0021】の記載を参酌すると,ワイヤレスリモコンのLED信号ランプの点滅は,リンク完了を利用者に通知するために,リンク完了後になされる処理であるから,当該処理は,リンク設定,すなわち,「ワイヤレスリモコンの識別情報」の格納処理とは異なる処理である。よって,引用例1において,「ワイヤレスリモコンの識別情報」の格納処理の際になされる送受信の処理は1回のみであるから,本願発明との差異が認められない。
よって,当該[主張3]は採用することができない。

・[主張4]について
本審決において,引用発明1を,オン・オフ命令と共に識別情報を送信したり,受信した識別情報が保存された識別情報と一致するかどうかを判定するものとは認定していない。
よって,当該[主張4]は採用することができない。

・[主張5]について
本願発明は,無線としてどのような方式を採用しているのか具体的に特定していないから,引用例1の明細書等の記載において,無線方式としてZigbee(登録商標)を採用していることをもって,本願発明と差異があるとはいえない。
よって,当該[主張5]は採用することができない。

以上のとおり,請求人の主張は,いずれも採用することができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,周知・慣用技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-01 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-18 
出願番号 特願2013-541071(P2013-541071)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 徳久  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 遠隔制御電源装置  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 佐藤 立志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ