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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1323288
審判番号 不服2015-19921  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-05 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2014- 794「情報記録装置,情報処理装置,情報記録方法,及び情報記録プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開,特開2015-130023〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年1月7日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 1月 7日 :出願審査請求書の提出
平成27年 1月20日付け :拒絶理由の通知
平成27年 3月23日 :意見書,手続補正書の提出
平成27年 8月24日付け :拒絶査定
平成27年11月 5日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成28年 1月20日 :前置報告


第2 平成27年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成27年11月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

平成27年11月5日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の内容は,平成27年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至8の記載

「【請求項1】
情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリ手段と,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により前記共有メモリ手段に書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段とを備えることを特徴とする情報記録装置。
【請求項2】
前記情報取得手段は,前記情報処理装置に指示して前記情報処理装置が有するCPU(Central Processing Unit)の内部状態またはプログラムの実行履歴を示す情報を更に取得することを特徴とする請求項1に記載の情報記録装置。
【請求項3】
前記動作に関する情報は,前記情報処理装置のハードウェアの初期化を行うプログラムの動作記録であることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録装置。
【請求項4】
前記障害検出手段は,前記障害の発生として,前記情報処理装置のBIOSのストールを検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項5】
前記障害検出手段は,前記障害の発生として,前記情報処理装置のBIOSからのリセット指示を検出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項6】
CPUと,
メモリと,
I/Oと,
前記I/Oを介した書き込みが可能な共有メモリ手段,障害の発生を前記I/Oを介して検出する障害検出手段,及び前記共有メモリ手段に書き込まれた,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む動作情報を前記I/Oを介して取得する情報取得手段を有する情報記録装置と,を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
情報処理装置における障害の発生を検出し,
前記情報処理装置により共有メモリに書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得することを特徴とする情報記録方法。
【請求項8】
情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリを備えた情報記録装置が備えるコンピュータを,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により共有メモリに書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段と,して機能させるための情報記録プログラム。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を,

「 【請求項1】
情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリ手段と,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段とを備えることを特徴とする情報記録装置。
【請求項2】
前記情報取得手段は,前記情報処理装置に指示して前記情報処理装置が有するCPU(Central Processing Unit)の内部状態またはプログラムの実行履歴を示す情報を更に取得することを特徴とする請求項1に記載の情報記録装置。
【請求項3】
前記動作に関する情報は,前記情報処理装置のハードウェアの初期化を行うプログラムの動作記録であることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録装置。
【請求項4】
前記障害検出手段は,前記障害の発生として,前記情報処理装置のBIOSのストールを検出する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項5】
前記障害検出手段は,前記障害の発生として,前記情報処理装置のBIOSからのリセット指示を検出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項6】
CPUと,
メモリと,
I/Oと,
前記I/Oを介した書き込みが可能な共有メモリ手段,障害の発生を前記I/Oを介して検出する障害検出手段,及び前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む動作情報を前記I/Oを介して取得する情報取得手段を有する情報記録装置と,を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
情報処理装置における障害の発生を検出し,
前記情報処理装置により共有メモリに常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得することを特徴とする情報記録方法。
【請求項8】
情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリを備えた情報記録装置が備えるコンピュータを,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により共有メモリに常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段と,して機能させるための情報記録プログラム。」(当審注:下線は,請求人が付与したものである。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)
に補正するものである。

(1)補正事項の整理
補正前の請求項1,7及び8が補正後の請求項1,7及び8に対応することは明らかであり,以下の補正事項よりなるものである。
<補正事項>
補正前の請求項1,7及び8の「情報処理装置により前記共有メモリ手段に書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴」を補正後の請求項1,7及び8の「情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴」とする補正。

2 新規事項要件
請求人が,前記審判請求書において「この補正は出願当初明細書の段落[0052],[0053],図3等に基づくものです。」と主張している点を踏まえて検討すると,本願明細書には「【0052】情報処理装置200上のプログラムは,適宜,共有メモリ130に動作情報を書き込む(ステップS81-82)。【0053】共有メモリには,動作情報が書き込まれる(ステップS91-92)。」と記載されているに過ぎず,「適宜,共有メモリ130に動作情報を書き込む」と記載されているものの,「常時」という文言が存在せず,「共有メモリに常時書き込まれた,情報処理装置の処理の履歴」という直接的な表現はない。また,図3において,「情報処理装置」が「動作情報を共有メモリに記録」(S81-S82)することと「共有メモリ」が「動作情報を更新される」(S91ーS92)こととが順次行うことが示されている。このことから,「情報処理装置」が「動作情報」(情報処理装置の処理の履歴)を「共有メモリ」へ適宜書き込むことについて,「情報処理装置」が動作している時に,動作情報を書き込まない態様を記載されていないことから,常に書き込むことが示唆されていると解せる。
ここで,「情報処理装置」が動作していないときに「動作情報」(情報処理装置の処理の履歴)を書き込むことが記載されていないものの,「動作情報」(情報処理装置の処理の履歴)は「情報処理装置」が動作している場合にのみ発生することが明らかであるので,動作している状態で常に動作情報を適宜書き込むことを「常時書き込む」という表現にしたと解するとすると,「共有メモリに常時書き込まれた,情報処理装置の処理の履歴」とする補正事項は,当初明細書に記載した事項の範囲内と認められる。
すなわち,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではなく,特許法第17条の2第4項の規定に適合している。

3 目的要件
本件補正は,上記「1 補正の内容」のとおり本件審判の請求と同時にする補正であり,特許請求の範囲について補正をしようとするものであるから,本件補正が,特許法第17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

(1)補正事項について
補正事項は,補正前の請求項の「情報処理装置により前記共有メモリ手段に書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴」に「常時」という限定事項を追加して「情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴」とするものであるので,限定的減縮に該当する。
したがって,上記補正事項は限定的減縮を目的とするものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると言えることから,特許法第17条の2第5項の規定に適合するものである。

4 独立特許要件
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とする上記補正事項を含むものである。そこで,限定的減縮を目的として補正された補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記平成27年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリ手段と,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段とを備えることを特徴とする情報記録装置。」

(2)引用文献及び参考文献
(2-1)引用文献1に記載された技術的事項
本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年1月20日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2011-258032号公報(平成23年12月22日出願公開,以下,「引用文献1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A「【要約】
【課題】24時間連続して動作できる情報処理装置を提供する。
【解決手段】メインCPUによりOSが実行されると,OSの動作中,第1所定時間毎に,リセット信号が第1WDT回路16Aへ出力され,アプリケーションが実行されると,アプリケーションの動作中,第2所定時間毎にリセット信号が,第2WDT回路16Bへ出力される。第1WDT回路16Aまたは第2WDT回路16Bにおいて,タイマー時間前に前記リセット信号が入力されずに,タイムアウトすると,サブCPU17は,まずメインCPUへ通常の割り込み処理をかけ,割り込み処理をかけても,正常にOSが終了しない場合,メインCPUをリセットし,さらにメインCPUがリセット回路20のリセット信号に応答せず,リセットがかからない場合,メインCPUへ供給している電源を一旦オフにし,再度供給する(再起動する)。
(中略)
【0013】
上記構成によれば,コントローラは,WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認すると,POSTコードをログ保存用記憶装置に記憶し,メインCPUを再起動する。これにより,情報処理装置の再起動を実現でき,さらにPOSTコードを記録することでトラブル発生時の原因追求処理を実現できる。」

B「【0016】
以下,本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態における情報処理装置のシステム構成図であり,情報処理装置(PC)10は,メインCPU11と,リッチOS(以下,OSと略す),ドライバソフト,およびアプリケーションソフトが予め記憶されたHDD(メイン記憶装置の一例)12と,BIOSが記憶されたBIOS-ROM(BIOS記憶装置の一例)13と,システム電源14と,電源管理機能部15,タイマー時間を調整可能な2つのWDT回路16(第1WDT回路16Aと第2WDT回路16B)およびサブCPU17を有するEC(Embedded Controller;コントローラの一例)18と,ログデータ等が記録され,記録されたデータがバックアップ電源(例えば,電気二重層コンデンサ)により消失しないように保護されているフラッシュ・メモリ(不揮発性メモリ;ログ保存用記憶装置の一例)19と,リセット信号を出力するリセット回路20と,外部記憶装置{USB(Universal Serial Bus)メモリ等},プリンタ,スキャナ等の周辺デバイス21を備えている。
「メインCPU11」
前記メインCPU11は,次の主機能を有している。
【0017】
・EC18を介してシステム電源14より電源が供給されると,BIOS-ROM13に記憶されたBIOSにより起動制御(周辺デバイス21が最低限動作でき,さらにOSが最低限動作できるようにする初期処理)を実行し,BIOSの実行時に,POST(Power On Self Test)終了毎に,EC18へ,第1WDT回路16A(1つのWDT回路の一例)へのリセット信号と,POSTコードを出力し,起動制御が終了すると,BOOT信号(BIOSの種類にもよるが,例えば,POSTコード“FF”)をEC18のサブCPU17へ出力する。」

C「【0020】
a.BIOSの異常発生時の処理機能
(1)システム電源14より電源が供給されると(BIOSの実行が開始されると),第1WDT回路16Aのタイムカウントを開始させ,第1WDT回路16Aよりタイムアウト信号を入力すると,リセット回路20へリセット信号を出力してメインCPU11へリセットをかけ,前記メインCPU11を再起動する。この際に,メインCPU11より入力している,BIOS実行中のPOSTコードをフラッシュ・メモリ19へ保存する。
(中略)
【0026】
上記構成による作用を,図2に示すフローチャートにしたがって説明する。
ステップ-1(電源投入時の初期動作)
EC18(電源管理機能部15)は,システム電源14より電源が供給されると,メインCPU11,HDD12および周辺デバイス21ヘ電源を供給し,これと同時にサブCPU17は,第1WDT回路16Aのタイムカウントを開始する(タイマーをスタートさせる)。なお,この第1WDT回路16Aのタイマー時間は,BIOSの処理時間(一つのPOSTコードを出力するまでの処理時間)に十分な時間である,5秒?10秒を設定
する。
ステップ-2(BIOS動作)
メインCPU11は,EC18を介してシステム電源14より電源が供給されると,BIOS-ROM13に格納されたBIOSによる起動制御を実行する。このとき,1つのPOSTの実行終了毎に,EC18の第1WDT回路16Aへリセット信号を出力し,EC18のサブCPU17へPOSTコードを出力する。そして,POSTの一通りの処理が終了すると,POSTコードとして“FF”を出力する。
ステップ-3(EC18におけるBIOS暴走時の割り込み処理)
BIOSの実行中,第1WDT回路16Aへのリセット信号を入力せずに,第1WDT回路16Aがタイムアウトすると,第1WDT回路16AはサブCPU17に割り込みをかけ(タイムアウト信号を出力し),サブCPU17は,該タイムアウト信号を入力すると,メインCPU11より入力していたPOSTコードをフラッシュ・メモリ19に記憶し,続いてリセット回路20にリセット信号を出力し,メインCPU11をリセットする。
(中略)
【0028】
サブCPU17は,POSTコード“FF”を監視し,“FF”を検知したときBIOSによる起動制御が無事終わったと判断し,OS用に第1WDT回路16Aを再スタートする(タイムカウントを実行する)。なお,このときの第1WDT回路16Aのタイマー時間は,OSが立ち上がるのに十分な時間,Windows(登録商標)であれば5分?10分間程度を設定する。また第2WDT回路16Bをスタートする(タイムカウントを実行する)。
ステップ-4(OS動作)
メインCPU11は,BIOSによる起動制御を終了すると,HDD12に格納されたOSを起動する。このOSの動作中,所定時間毎に,第1WDT回路16Aへリセット信号を出力する。このとき,OSにより,第1WDT回路16Aのタイマー時間を設定することが好ましい。
ステップ-5(アプリケーション動作)
メインCPU11は,OSを起動すると,HDD12に格納されたアプリケーションを起動する。このアプリケーションの動作中,所定時間毎に,第2WDT回路16Bへリセット信号を出力する。
ステップ-6(EC18におけるOSまたはアプリケーション暴走時の処理)
サブCPU17は,OSが暴走して,第1WDT回路16Aのタイムアウトを検出すると,メインCPU11に上記割り込み処理をかける。またアプリケーションが暴走して,第2WDT回路16Bのタイムアウトを検出すると,メインCPU11へ上記割り込み信号(NMI信号,SCI信号,SMI信号)を順に出力して同様に割り込み処理をかける。
ステップ-7(メインCPU11におけるOSまたはアプリケーション暴走時の割り込み処理)
メインCPU11は,サブCPU17より割り込み信号を入力すると,割り込み処理を実行する(割り込みプログラムを実行する)。この割り込みプログラムは,ログデータをHDD12に保存し,OSの通常正常ルーチンに則り,再起動をかける。ステップ-1へ戻る。
ステップ-8(EC18におけるOS正常処理不可能時の処理)
サブCPU17は,ステップ-7において割り込み処理をかけても,正常にOSが終了しない場合(POSTコードでOSの終了を確認できない場合),リセット回路20にリセット信号を出力し,メインCPU11をリセットし,PC10全体のリセット処理を実行し,再起動させる。その際,サブCPU17は,HDD12や周辺デバイス21が壊れないように,HDD12にリセットをかけ不正な書き込みを禁止し,周辺デバイス21への電源を遮断する(適切な電源管理を行う)。なお,その際にログデータをフラッシュ・メモリ19に保存する。
【0029】
メインCPU11がリセット回路20のリセット信号に応答せず,リセットがかからず,再起動を検知できない場合,サブCPU17は,電源管理機能部15へ指令して,メインCPU11,HDD12,および周辺デバイス21に対してシステム電源14より供給している電源を一旦遮断し,再投入することにより再起動する。なお,この際にも,ログデータをフラッシュ・メモリ19に保存する。また,この際には,メインCPU11がリセット信号に非応答であった情報もフラッシュ・メモリ19に保存される。
「BIOS停止時の処理」
上記ステップ-2とステップ-3の動作を図3を参照しながら,詳細に説明する。」

D「【0030】
図3(a)に示すように,メインCPU11によりBIOSが実行されると,一連のPOSTが実行され,1つのPOSTの実行終了毎に,第1WDT回路16Aへリセット信号が出力され,POSTコードがEC18へ出力され,一旦記憶される。第1WDT回路16Aでは,予め設定されたタイマー時間前に前記リセット信号が入力されると,カウント値はリセットされ,再カウントを開始する。
【0031】
タイマー時間前に前記リセット信号が入力されずに,タイムアウトし,サブCPU17へタイムアウト信号が出力されると,図3(b)に示すように,サブCPU17は,次の動作を実行する。
(中略)
【0034】
以上のように,EC18のサブCPU17は,第1WDT回路16Aのタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認すると,POSTコードをフラッシュ・メモリ19に記憶し,メインCPU11をリセットし,さらにリセットがかからないときメインCPU11を再起動することにより,OS起動前においてPC10の再起動を実現でき,さらにシステムのPOSTコード(起動ログ)を詳細に記録することでトラブル発生時の原因追求処理を実現できる。
「OS停止時またはアプリケーション停止時の処理」
上記ステップ-4?ステップ-8の動作を図4を参照しながら,詳細に説明する。」

(2-2)引用文献2に記載されている技術的事項
本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年1月20日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2011-159136号公報(平成23年8月18日出願公開,以下,「引用文献2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

E「【0041】
第2動作ログ記録部61は,定期的に,自身(メインコア31)の動作ログを共有メモリー22のメインコア用動作ログ保存領域45に記録する。相互監視有無判別部62は,自身の起動時に,共有メモリー22の相互監視有効/無効フラグ領域42を参照し,当該領域42に記録されたフラグの状態を判別する。
(中略)
【0049】
そして,メインコア31の異常を検出したサブコア32は,相互監視有効/無効フラグを「無効」に設定すると共に,識別フラグ,ログ管理情報,および現時点の自身の動作ログを共有メモリー22の相互監視用領域41に記録した後,当該相互監視用領域41に記録した情報をフラッシュROM23にコピーする(S11)。その後,サブコア32は,リセットレジスター33によるリセット処理を行う(S12)。これにより,プリンター1の再起動が実行される。」

(2-3)引用文献3に記載されている技術的事項
本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年1月20日付けの拒絶理由通知において引用された,特開平5-334138号公報(平成5年12月17日出願公開,以下,「引用文献3」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F「【0009】設定が完了すると,図2中のの処理で,保守情報管理プログラム4は,レベルが変更された3つのプログラムに対して,管理テーブル5に登録されているプログラム番号を参照して,プロセス間通信で,それぞれのプログラムにメッセージを連絡する(ステップ34)。メッセージの内容は,図2中のプロセス間通信メッセージ16の取得設定レベル=X(17で示されている)を送信する。これを受信した通信管理プログラム11は,図2中のの処理で,取得情報テーブル15で示すレベル=3の保守情報の取得を開始するため,レベル=2,すなわち,全レイヤのシーケンスと送受信データを取得することを示す保守情報取得コマンドを実行し,更に,レベル=3(関数とプロセスのトレースを取得する)の保守情報を取得するコマンドを実行する。レベル=3では,プログラムの不良を見極められるに十分な保守情報を取得する。同様に,ウィンドウプログラム12,オンラインプログラム13も,指定されたレベル=2の保守情報を取得開始する。次に,それぞれのプログラムは,図2中のの処理で,プロセス間通信メッセージ16の取得開始完了のメッセージ19を,保守情報取得管理プログラム4に通知する(ステップ35)。」

(2-4)引用文献4に記載されている技術的事項
本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年1月20日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2003-22201号公報(平成15年1月24日出願公開,以下,「引用文献4」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G「【0012】
【発明の実施の形態】以下,この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.図1はオブジェクト指向プログラムで記述されたプログラム構造であり,図において1は全体プログラムである。この図に示すように,全体プログラム1は,機能レベル,モジュールレベル,オブジェクトレベル,及び関数レベルからなる階層構造になっている。すなわち,各機能はその下位レベルであるモジュールで構成され,各モジュールはその下位レベルであるオブジェクトで構成され,各オブジェクトはその下位レベルである関数で構成されている。
(中略)
【0015】次に動作について説明する。図3(a)はプログラム実行を示すフローチャートであり,まず,ログオブジェクトコール要求があるかを判断し(ステップST1),NOの場合はリターンへ移行し,YESの場合はデバッグ文に付与されたレベル情報(識別情報)で示される階層と設定された階層とが一致すると,デバッグ文を実行して実行結果を階層構造のログデータとして記憶手段に出力するログオブジェクトログ取得実行(ステップST2)を行ってリターンへ移行する。図3(b)はログ取得実行を示すフローチャートであり,ログデータの取得(ステップST6),ログデータにレベル情報を付加(ステップST7)し,ログデータを出力(ステップST3)してリターンへ移行する。」

(2-5)参考文献に記載されている技術的事項
本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2009-59112号公報(平成21年3月19日出願公開,以下,「参考文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H「【0065】
次に,図2(d)及び(e)を参照して,ログ収集システム1の通常時とログ収集時の動作の流れについてを説明する。図2(d)は,ログ収集システム1の通常時における動作の流れを示すシーケンスチャートであり,図2(e)は,ログ収集システム1のログ収集時における動作の流れを示すシーケンスチャートである。ここで,ログ収集システム1の通常時とは,PC11及びプリンタ10aの電源がオンされ,一般的な処理がなされているときであり,ログ収集システム1のログ収集時とは,PC11において,ログ収集プログラム44bが起動され,実行されるときである。なお,図2(d)及び(e)には,周辺装置としてプリンタ10aのみを示して説明を行うが,スキャナ10b及びファクリミリ10cにおいても同様の動作を行うので,その図示と説明を省略する。
【0066】
まず,通常時では,図2(d)に示すように,PC11において,アプリケーションプログラム44cが各周辺装置に対して制御信号やデータの送受信を行うと,そのアプリケーションプログラム44cはPCログを生成し,ログフォルダ44e内に周辺装置毎に用意されたPCログファイルにそのPCログを追加する(1)。また,それと並行して,プリンタ10aでは,ログ作成プログラム21aがプリンタ10aの動作に関するログを生成し,生成したすべてのログを詳細ログとして詳細ログ領域23aに記憶する(2)。また,詳細ログのうち警告ログとエラーログとを簡易ログとして,簡易ログ領域22aに記憶する。」

(3)引用発明
引用文献1に記載されている事項を検討する。
ア 上記Aに「24時間連続して動作できる情報処理装置を提供する」と記載されていることから,引用文献1には「24時間連続して動作できる情報処理装置」が記載されていると認められる。

イ 上記Aに「コントローラは,WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認すると,POSTコードをログ保存用記憶装置に記憶し,メインCPUを再起動する。これにより,情報処理装置の再起動を実現でき」と記載され,上記Dに「EC18のサブCPU17は,第1WDT回路16Aのタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認すると,POSTコードをフラッシュ・メモリ19に記憶し,メインCPU11をリセットし,さらにリセットがかからないときメインCPU11を再起動することにより,OS起動前においてPC10の再起動を実現でき,さらにシステムのPOSTコード(起動ログ)を詳細に記録することでトラブル発生時の原因追求処理を実現できる」と記載されていることから,引用文献1には「WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認し,POSTコード(起動ログ)をログ保存用記録装置に記憶し,メインCPUを再起動し,これにより,情報処理装置を再起動するコントローラ」が記載されているといえる。また,上記Bに「フラッシュ・メモリ(不揮発性メモリ;ログ保存用記憶装置の一例)19」と記載されていることから,引用文献1の「ログ保存用記憶装置」と「フラッシュメモリ」は「フラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)」と表現できる。
そうすると,引用文献1には「WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認し,POSTコード(起動ログ)をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に記憶し,メインCPUを再起動し,これより情報処理装置を再起動するコントローラ」が記載されていると認められる。

ウ 上記Bに「ログデータ等が記録され,記録されたデータがバックアップ電源(例えば,電気二重層コンデンサ)により消失しないように保護されているフラッシュ・メモリ(不揮発性メモリ;ログ保存用記憶装置の一例)19」と記載され,上記Cに「サブCPU17は,該タイムアウト信号を入力すると,メインCPU11より入力していたPOSTコードをフラッシュ・メモリ19に記憶」と記載されいることから,引用文献1には「メインCPUより入力していたPOSTコード(起動ログ)を記録するフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)」が記載されていると認められる。

エ 上記Cに「システム電源14より電源が供給されると(BIOSの実行が開始されると),第1WDT回路16Aのタイムカウントを開始させ」と記載されていることから,引用文献1には電源が供給されると「タイムカウントを開始するWDT回路」が記載されているといえる。
また,上記Bに「タイマー時間を調整可能な2つのWDT回路16(第1WDT回路16Aと第2WDT回路16B)」と記載され,上記Cに「BIOSの実行中,第1WDT回路16Aへのリセット信号を入力せずに,第1WDT回路16Aがタイムアウトすると,第1WDT回路16AはサブCPU17に割り込みをかけ(タイムアウト信号を出力し)」と記載され,上記Dに「第1WDT回路16Aでは,予め設定されたタイマー時間前に前記リセット信号が入力されると,カウント値はリセットされ,再カウントを開始する。(中略) タイマー時間前に前記リセット信号が入力されずに,タイムアウトし,サブCPU17へタイムアウト信号が出力される」と記載されていることから,引用文献1には「タイマー時間前にリセット信号が入力されないと,タイムアウト信号を出力するWDT回路」が記載されているといえる。そうすると,引用文献1には「タイムカウントを開始し,タイマー時間前にリセット信号が入力されないと,タイムアウト信号を出力するWDT回路」が記載されていると認められる。

オ 上記Bに「電源管理機能部15,タイマー時間を調整可能な2つのWDT回路16(第1WDT回路16Aと第2WDT回路16B)およびサブCPU17を有するEC(Embedded Controller;コントローラの一例)18」と記載され,同じく上記Bに「BIOSの実行時に,POST(Power On Self Test)終了毎に,EC18へ,第1WDT回路16A(1つのWDT回路の一例)へのリセット信号と,POSTコードを出力」と記載され,上記Dに「メインCPU11によりBIOSが実行されると,一連のPOSTが実行され,1つのPOSTの実行終了毎に,第1WDT回路16Aへリセット信号が出力」と記載されていることから,引用文献1には「メインCPUによりBIOS実行時にPOST終了毎にWDT回路へのリセット信号と,POSTコード(起動ログ)を出力されるEC(コントローラ)」が記載されていると認められる。

カ 上記Cに「サブCPU17は,該タイムアウト信号を入力すると,メインCPUより入力していたPOSTコードをフラッシュ・メモリ19に記憶」と記載され,同じく上記Cに「サブCPU17は(中略)その際にログデータをフラッシュメモリ19に保存する」と記載され,同じく上記Cに「サグCPU17は,(中略)この際にも,ログデータをフラッシュ・メモリ19に保存する。また,この際には,メインCPU11がリセット信号に非応答であった情報もフラッシュ・メモリ19に保存される」と記載されていることから,サブCPUはEC(コントローラ)の一部である。また,「その際」や「この際」に「ログデータ」又は「CPU11がリセット信号に非応答であった情報」をフラッシュメモリに保存するということは,フラッシュ・メモリに適宜保存しているといえる。そうすると,引用文献1には「POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に適宜保存するEC(コントローラ)」が記載されていると認められる。

キ 以上,ア乃至カで示した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「24時間連続して動作できる情報処理装置であって,
WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認し,POSTコード(起動ログ)をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に記憶し,メインCPUを再起動し,これにより情報処理装置を再起動するコントローラと,
メインCPUより入力していたPOSTコード(起動ログ)を記録するフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)と,
タイムカウントを開始し,タイマー時間前にリセット信号が入力されないと,タイムアウト信号を出力するWDT回路と,
メインCPUによりBIOS実行時にPOST終了毎にWDT回路へのリセット信号と,POSTコード(起動ログ)を出力されるEC(コントローラ)と,
POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に適宜保存するEC(コントローラ)と
を備える情報処理装置。」


(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「情報処理装置」はメインCPUにより起動され,メインCPUが再起動することにより再起動されるので,本件補正発明の「情報処理装置」に対応し,引用発明の「コントローラ」はメインCPUのPOSTコード(起動ログ),ログデータ等をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に記録するので,本件補正発明の「情報記録装置」に対応する。

(イ)引用発明の「メインCPUより入力していたPOSTコード(起動ログ)を記録するフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)」と本件補正発明の「情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリ手段」とを対比すると,引用発明の「フラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)」は,メインCPUより入力していたPOSTコード(起動ログ)を記録するので,情報処理装置により書き込み可能といえる。そうすると,後述する点で相違するものの,両者は“情報処理装置による書き込みが可能なメモリ手段”という点で一致している。

(ウ)引用発明の「タイムカウントを開始し,タイマー時間前にリセット信号が入力されないと,タイムアウト信号を出力するWDT回路」と本件補正発明の「前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段」とを対比すると,「タイムアウト信号を出力するWDT回路」は,「WDT回路のタイムアウトにより,システム起動時にBIOSの停止を確認」することから,情報処理装置における障害の発生の検出をするといえるので,両者に実質的な差異はない。

(エ)引用発明の「メインCPUによりBOISの実行時にPOST終了毎にPOSTコード(起動ログ)を出力されるEC(コントローラ)と,POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報をフラッシュメモリに保存するEC(コントローラ)」と本件補正発明の「前記情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段」とを対比すると,引用発明の「POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報」は「情報処理装置の実行した処理の履歴」といえ,情報処理装置の動作情報といえるので,本件補正発明の「情報処理装置が実行した処理の履歴」及び「動作情報」に相当する。引用発明の「EC(コントローラ)」は,メインCPUよりPOSTコード(起動ログ)が出力されるので,本件補正発明の「動作情報を取得する情報取得手段」に相当する。また,引用発明の「EC(コントローラ」は「24時間連続して動作できる情報処理装置」を課題として「POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報」を「フラッシュメモリに適宜保存する」ことから,本件補正発明の「共有メモリ手段に常時書き込まれた」ことと,“メモリ手段に常時書き込まれた”点で一致する。そうすると,後述する点で相違するものの,両者は“前記情報処理装置により前記メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,処理の履歴を示す動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段”という点で一致している。

(オ)以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>
「情報処理装置による書き込みが可能なメモリ手段と,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により前記メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,処理の履歴を示す動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段とを備えることを特徴とする情報記録装置。」

<相違点1>
「メモリ手段」に関し,本件補正発明では「共有メモリ手段」を備えているのに対して,引用発明ではそのように特定されていない点。

<相違点2>
「処理の履歴を示す動作情報」に関し,本件補正発明では「機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む」のに対して,引用発明ではそのように特定されていない点。

(5)当審の判断
上記相違点1乃至2について検討する。

ア 相違点1について
引用文献2(上記E参照)には「第2動作ログ記録部61は,定期的に,自身(メインコア31)の動作ログを共有メモリー22のメインコア用動作ログ保存領域45に記録する。(中略)メインコア31の異常を検出したサブコア32は(中略)共有メモリー22の相互監視用領域41に記録した後,当該相互監視用領域41に記録した情報をフラッシュROM23にコピーする(S11)。その後,サブコア32は,リセットレジスター33によるリセット処理を行う(S12)。これにより,プリンター1の再起動が実行される」と記載されているように,メインコアの動作ログを共有メモリに記録し,共有メモリに記録された情報を異常が発生した場合に利用することは周知技術に過ぎず,これを引用発明のメモリ手段に用いることは当業者が容易に想到しうることである。
よって,相違点1は格別なものではない。

イ 相違点2について
引用文献3(上記F参照)に「これを受信した通信管理プログラム11は,図2中のの処理で,取得情報テーブル15で示すレベル=3の保守情報の取得を開始するため,レベル=2,すなわち,全レイヤのシーケンスと送受信データを取得することを示す保守情報取得コマンドを実行し,更に,レベル=3(関数とプロセスのトレースを取得する)の保守情報を取得するコマンドを実行する。レベル=3では,プログラムの不良を見極められるに十分な保守情報を取得する。同様に,ウィンドウプログラム12,オンラインプログラム13も,指定されたレベル=2の保守情報を取得開始する。次に,それぞれのプログラムは,図2中のの処理で,プロセス間通信メッセージ16の取得開始完了のメッセージ19を,保守情報取得管理プログラム4に通知する(ステップ35)」と記載され,引用文献4(上記G参照)に「各機能はその下位レベルであるモジュールで構成され,各モジュールはその下位レベルであるオブジェクトで構成され,各オブジェクトはその下位レベルである関数で構成されている(中略)図3(b)はログ取得実行を示すフローチャートであり,ログデータの取得(ステップST6),ログデータにレベル情報を付加(ステップST7)し,ログデータを出力(ステップST3)してリターンへ移行する。」と記載されているように,情報処理装置が実行した処理の履歴を示す,動作情報に関し,機能単位のログ(第一の動作情報)とそれより詳細な関数単位のログ(第2の動作情報)として取得することは周知技術に過ぎず,これを引用発明に適用することは当業者が容易に想到しうることである。
よって,相違点2は格別なものではない。

ウ 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において「採取レベルの設定が行われた後に複数の粒度のログが常時採取されることと,常時,複数の粒度のログが採取されることとは異なります。」と主張している。
しかし,本件補正発明には「メモリ手段に常時書き込まれた,情報処理装置が実行した処理の履歴」と特定されているに過ぎず,「情報処理が実行した処理の履歴」を「メモリ手段に常時書き込む」という態様は,引用発明の「POSTコード(起動ログ),ログデータ又はメインCPUがリセット信号の非応答であった情報をフラッシュメモリ(ログ保存用記憶装置)に保存する」という態様もメモリ手段に常時書き込むという点で実質的な差異がない。
また,本件補正発明には「機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報」と特定されているものの,「第1の動作情報」と「第2の動作情報」とに常時複数の粒度のログを採取するための技術的な特徴が特定されておらず,本願明細書(段落【0051】ー【0054】,図3)の記載を参酌しても,「情報処理装置が動作情報を共有メモリに記録(S81-S82)」と「共有メモリが動作情報を更新される(S91-S92)」が「障害発生を検出(S12)」の前に行われるに過ぎず,障害発生前の何らかの期間にわたってログを記録する態様も含まれると解せるので,「採取レベルの設定が行われた後に複数の粒度のログが常時採取されること」も「採取レベルの設定が行われた後」においては「常時,複数の粒度のログを採取する」態様も含むと解せる。
仮に,「常時,複数の粒度のログが採取されること」を相違点と認定したとしても,例えば,上記相違点2について,「処理の履歴を示す動作情報」に関し,本件補正発明では「常時書き込まれた」「機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む」点を相違点2’として認定したとしても,
参考文献1(上記H参照)に「図2(d)は,ログ収集システム1の通常時における動作の流れを示すシーケンスチャートであり(中略)ログ収集システム1の通常時とは,PC11及びプリンタ10aの電源がオンされ,一般的な処理がなされているときであり(中略)通常時では,図2(d)に示すように,PC11において,アプリケーションプログラム44cが各周辺装置に対して制御信号やデータの送受信を行うと,そのアプリケーションプログラム44cはPCログを生成し,ログフォルダ44e内に周辺装置毎に用意されたPCログファイルにそのPCログを追加する(1)。また,それと並行して,プリンタ10aでは,ログ作成プログラム21aがプリンタ10aの動作に関するログを生成し,生成したすべてのログを詳細ログとして詳細ログ領域23aに記憶する(2)。また,詳細ログのうち警告ログとエラーログとを簡易ログとして,簡易ログ領域22aに記憶する」と記載されているように,通常時において,動作に関するログを生成し,簡易ログ(第1の動作情報)と詳細ログ(第2の動作情報)との両方を常に記録することは周知技術に過ぎず,常時,複数の粒度のログが採取されることも周知技術に過ぎない。これを,引用発明に適用することは当業者が適宜なし得ることであり,格別の困難性が認められない。よって,相違点2’は格別なものではない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

エ 小括
上記で検討したごとく,相違点1乃至2に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 補正却下の決定のむすび
上記「4 独立特許要件」で指摘したとおり,補正後の請求項1に記載された発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,補正後の請求項1に対応する補正前の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおり

のものである。

「情報処理装置による書き込みが可能な共有メモリ手段と,
前記情報処理装置における障害の発生を検出する障害検出手段と,
前記情報処理装置により前記共有メモリ手段に書き込まれた前記情報処理装置が実行した処理の履歴を示し,機能単位での処理の履歴を示す第1の動作情報及び機能が細分化された単位での処理の履歴を示す第2の動作情報を含む,動作情報を取得する情報取得手段とを備えることを特徴とする情報記録装置。」

2 引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された,引用発明は,前記「第2 平成27年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「4 独立特許要件」の「(2)引用文献及び参考文献」及び「(3)引用発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 平成27年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「4 独立特許要件」で検討した本件補正発明の発明特定事項である「情報処理装置により前記共有メモリ手段に常時書き込まれた,前記情報処理装置が実行した処理の履歴」から「常時」の限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2 平成27年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「4 独立特許要件」の「(2)引用文献及び参考文献」乃至「(5)当審の判断」に記載したとおり,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記特定の限定を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-21 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願2014-794(P2014-794)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多胡 滋  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 辻本 泰隆
高木 進
発明の名称 情報記録装置、情報処理装置、情報記録方法、及び情報記録プログラム  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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