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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1323315
審判番号 不服2015-6848  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-10 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 特願2013-534529「炭化珪素半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月28日国際公開、WO2013/042225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年9月21日を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 8月28日 審査請求
平成26年 5月29日 拒絶理由通知(起案日)
平成26年 7月30日 意見書及び手続補正書の提出
平成27年 1月30日 拒絶査定(起案日)
平成27年 4月10日 審判請求書及び手続補正書の提出
平成27年 7月24日 上申書の提出
平成28年 4月27日 当審よりの拒絶理由通知(起案日)
平成28年 7月 6日 意見書及び手続補正書の提出


第2 本願発明に対する判断
1 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成28年7月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「炭化珪素半導体層内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたウェル領域と、
前記ウェル領域内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたソース領域と、
前記ソース領域上に形成されたソース電極と、
イオン注入で形成された前記ウェル領域およびイオン注入で形成された前記ソース領域に接するように形成されたゲート酸化膜と、
前記ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極と、
を有するMOSFETを備え、
イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である
ことを特徴とする炭化珪素半導体装置。」

2 当審よりの拒絶理由通知の概要
当審より平成28年4月27日付けで通知した拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。
「2 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2006-66439号公報
2.特開2011-129547号公報
3.特開2011-165941号公報

・理由 :2、3
・請求項 :1
・引用文献等:1
・備考
……(中略)……
文献1には、
「【0011】
図7に示すようなMOSFETでは、ゲート絶縁膜39のうちソース領域37とゲート電極38との間に位置する部分で絶縁破壊が生じやすく、MOSFETの信頼性を低下させる要因となっている。
【0012】
前述したように、ドーズ量が10^(15)cm^(-2)以上の不純物がドープされた高濃度ソース領域37の表面には凹凸が存在するため、表面の結晶面方位が一定でない。熱酸化速度は面方位依存性を有するので、ソース領域37の表面を熱酸化することによってゲート絶縁膜39を形成すると、ゲート絶縁膜(熱酸化膜)39の厚さが結晶面分布に起因してばらついてしまい、ゲート絶縁膜39のうち薄い部分では絶縁耐圧が低くなる。また、高濃度で不純物がドープされたソース領域37には、不純物による欠陥(ディスロケーション)が多く存在しているため、ソース領域37の上に絶縁特性に優れた熱酸化膜を形成することが困難である。このような問題は、SiCの物性上の問題であり、これを克服してゲート絶縁膜の信頼性を向上させることは難しい。」
ことを、解決しようとする課題とすることが記載されている。
そして、前記課題の解決手段として、文献1には、以下の記載がある。
「【0084】
本発明の半導体装置の製造方法は上記方法に限定されない。
【0085】
補助ソース領域となる第2導電型イオン注入領域26を形成する際に、多段階の注入を行い、第2導電型イオン注入領域26における不純物イオン25の濃度プロファイルを制御してもよい。例えば、第2導電型イオン注入領域26における表面からの深さが10nm以下の部分の不純物イオン25の濃度を1×10^(17)cm^(-3)未満に抑え、第2導電型イオン注入領域26における深さが10nmより大きく20nm以下の部分の不純物イオン25の濃度を1×10^(18)cm^(-3)以上に設定すると、その後の活性化アニールにより、表面の不純物濃度を低く抑えた補助ソース領域8が得られる。このようなプロファイルを有する補助ソース領域8を形成すると、補助ソース領域8のシート抵抗が低いのでオン抵抗を増大させることなく、補助ソース領域8の上に形成されるゲート絶縁膜9の信頼性を確保できる。」

文献1には、「ウェル領域」の形成に関して、段落【0057】に「複数のウェル領域5は、炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に設けられており、そのp型不純物ドーピング濃度は、例えば1×10^(17)cm^(-3)程度に設定される。」と記載されている。したがって、前記「ウェル領域」は、イオン注入で形成されると認められる。
そうすると、本願の請求項1に係る発明は、文献1に記載された発明である。
なお、仮にそうでないとしても、前記「複数のウェル領域5」は「炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に設けられて」いるという記載、「p型不純物ドーピング濃度は、例えば1×10^(17)cm^(-3)程度に設定される」という記載から、前記「複数のウェル領域5」をイオン注入で形成することは、当業者であれば当然になし得たものと認められる。
……(以下、省略)」

3 引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例の記載事項
本願の国際出願日前に日本国内において頒布され、平成28年4月27日付けの拒絶理由通知において「文献1」として引用された刊行物である特開2006-66439号公報(以下「引用例」という。)には、「半導体装置およびその製造方法」(発明の名称)に関して、図1(a)?図7(b)とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため当審において付したもの。)。
ア 「【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイドバンドギャップ半導体は、耐圧が高く、大電流を流すことができる半導体装置(パワーデバイス)の半導体材料として注目されている。ワイドバンドギャップ半導体のなかでも炭化珪素(シリコンカーバイド:SiC)は、特に高い絶縁破壊電界を有するため、次世代の低損失パワーデバイス等への適用が期待されている。SiC上には熱酸化により良質の二酸化珪素(SiO_(2))膜を形成できるので、そのようなSiO_(2)膜をゲート絶縁膜として用いた絶縁ゲート型のSiCパワーデバイスの開発が進められている。
【0003】
SiC上に熱酸化によって形成されたSiO_(2)膜をゲート絶縁膜として用いる場合、SiCの絶縁破壊電界は極めて大きい(2?3MV/cm)が、その絶縁破壊電界強度から期待されるような高耐圧のデバイスを実現するためには、SiO_(2)膜の絶縁特性(絶縁耐圧)を向上させる必要がある。
……(中略)……
【0005】
しかしながら、SiC上に熱酸化によって形成されたSiO_(2)膜の絶縁耐圧は、SiCの表面状態や結晶状態に極めて大きく依存するため、SiCの表面状態や結晶状態によっては、上述したような高い絶縁破壊電界を有するSiO_(2)膜を形成できないという問題がある。一般的な絶縁ゲート型のMOSFETでは、ゲート絶縁膜の一部は、不純物が高濃度にドープされたSiC領域(ソース領域)上に形成される。ソース領域の表面は比較的大きい凹凸を有しており、またソース領域内には多くの結晶欠陥が存在することから、その表面に高耐圧なSiO_(2)膜を形成することは極めて難しい。
……(中略)……
【0011】
図7に示すようなMOSFETでは、ゲート絶縁膜39のうちソース領域37とゲート電極38との間に位置する部分で絶縁破壊が生じやすく、MOSFETの信頼性を低下させる要因となっている。
【0012】
前述したように、ドーズ量が10^(15)cm^(-2)以上の不純物がドープされた高濃度ソース領域37の表面には凹凸が存在するため、表面の結晶面方位が一定でない。熱酸化速度は面方位依存性を有するので、ソース領域37の表面を熱酸化することによってゲート絶縁膜39を形成すると、ゲート絶縁膜(熱酸化膜)39の厚さが結晶面分布に起因してばらついてしまい、ゲート絶縁膜39のうち薄い部分では絶縁耐圧が低くなる。また、高濃度で不純物がドープされたソース領域37には、不純物による欠陥(ディスロケーション)が多く存在しているため、ソース領域37の上に絶縁特性に優れた熱酸化膜を形成することが困難である。このような問題は、SiCの物性上の問題であり、これを克服してゲート絶縁膜の信頼性を向上させることは難しい。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、従来の半導体装置では、高濃度で不純物を含むソース領域における表面状態や結晶状態に起因して、優れた絶縁特性を有するゲート絶縁膜を形成することが困難である。
【0021】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゲート絶縁膜における絶縁耐圧を改善して、信頼性の高い半導体装置を提供することにある。」

ウ 「【0053】
(実施形態1)
以下、図面を参照しながら、本発明による実施形態1の半導体装置を説明する。本実施形態は炭化珪素を用いた縦型MOSFETである。
【0054】
本実施形態のMOSFETは複数のユニットセルを備えており、図2(a)は、そのうちの4個のユニットセルの構成を示す平面図である。また、図2(b)は、図2(a)に示すMOSFETにおける半導体層(炭化珪素エピタキシャル層)の上面図である。図2(c)は、図2(a)および(b)におけるI-I’断面図である。
【0055】
本実施形態のMOSFETは、低抵抗の炭化珪素基板1の主面上に形成された炭化珪素エピタキシャル層(厚さ:例えば10μm)2と、炭化珪素エピタキシャル層2の上に設けられたソース電極11およびゲート電極13と、炭化珪素基板1の裏面に設けられたドレイン電極15とを有している。
【0056】
炭化珪素基板1は、例えば4H-SiCからなり、(0001)面から<11-20>方向に向かって8°(オフ角)傾けた主面を有するオフアングル基板である。また、炭化珪素基板1の導電型はn型であり、n型不純物のドーピング濃度は1×10^(18)cm^(-3)?5×10^(19)cm^(-3)程度である。
【0057】
炭化珪素エピタキシャル層2は、複数のp型ウェル領域(厚さ:例えば800nm)5と、ドリフト領域3とを有している。ドリフト領域3は、n型のSiCをエピタキシャル成長させることによって形成されている。ドリフト領域3におけるn型不純物のドーピング濃度は、炭化珪素基板1のドーピング濃度よりも低く、例えば600V耐圧のMOSFETの場合、1×10^(15)cm^(-3)?1×10^(16)cm^(-3)程度に設定される。複数のウェル領域5は、炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に設けられており、そのp型不純物ドーピング濃度は、例えば1×10^(17)cm^(-3)程度に設定される。
【0058】
ウェル領域5の内部には、n型不純物として窒素を含むn型のソース領域(厚さ7d:例えば200nm)7と、ウェル領域5とソース電極11とを接続するためのp^(++)型コンタクト領域10が形成されている。ソース領域7の窒素濃度は例えば1×10^(18)cm^(-3)以上である。ソース領域7の周囲には、n型不純物として燐を含むn型の補助ソース領域(厚さ8d:例えば150nm)8が形成されている。補助ソース領域8の燐濃度は例えば1×10^(17)cm^(-3)である。補助ソース領域8のゲート長方向におけるサイズ8sは、例えば5μm以下である。また、補助ソース領域8の外縁とウェル領域5の端部との距離(ゲート長)aは、例えば1μmである。
【0059】
ソース電極11は、ソース領域7の少なくとも一部およびp^(++)型コンタクト領域10の少なくとも一部と接するように設けられ、ソース電極11とこれらの領域7、10との間にはオーミック接触が形成されている。
【0060】
ゲート絶縁膜9は、炭化珪素エピタキシャル層2の上に形成されている。本実施形態におけるゲート絶縁膜9は、炭化珪素エピタキシャル層2を熱酸化することによって形成された熱酸化膜(SiO_(2)膜)である。ゲート絶縁膜9の厚さは、MOSFETデバイスを駆動するときのゲート電圧などによっても変わるが、例えば数80nmである。ゲート絶縁膜9は、炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうちソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成される。ただし、ゲート絶縁膜9はソース電極11と接していないことが好ましい。ソース電極11と接すると、ソース電極(例えばNi電極)11からNiなどがゲート絶縁膜9に拡散し、ゲート絶縁膜9の絶縁耐圧を低下させるおそれがある。
【0061】
ゲート電極13は、ゲート絶縁膜9の上に、補助ソース領域8の一部、および補助ソース領域8とドリフト領域3との間のウェル領域5をオーバーラップするように設けられている。補助ソース領域8のうちゲート電極13によってオーバーラップされている部分のゲート方向のサイズbは、例えば0.5μmである。
【0062】
本実施形態のMOSFETは、以下のように動作する。
【0063】
ゲート電極13にゲート電圧が印加されると、補助ソース領域8とドリフト領域3との間のウェル領域5の表面に反転層(反転型チャネル層)が形成される。反転層が形成されると、ドレイン電極15から、ドリフト領域3、反転層および補助ソース領域8を経てソース領域7へ電流(ドレイン電流)が流れる。」

エ 「【0064】
以下、図3?図5を参照しながら、本実施形態のMOSFETの製造方法を説明する。図3?図5は、本実施形態のMOSFETの製造方法を説明するための断面模式図である。これらの図における各構成要素のサイズは、実際のサイズと対応していない。例えば図3では、注入マスク21はイオン注入領域23よりも薄く示されているが、実際にはイオン注入領域23よりも厚く形成される。
【0065】
まず、図3(a)に示すように、炭化珪素基板1の主面上にCVD法で形成された炭化珪素エピタキシャル層2の表面に、第1の注入マスク21を形成する。第1の注入マスク21は、炭化珪素エピタキシャル層2のうち第1導電型(ここではp型)の不純物を注入する領域を規定する開口部を有している。第1の注入マスク21は、炭化珪素エピタキシャル層2の上に、例えばTEOS(tetra-ethoxysilane)膜を堆積した後、フォトリソグラフィおよびエッチング工程によってTEOS膜をパターニングすることにより形成できる。TEOS膜をパターニングする際、ドライエッチングのみで行うと、炭化珪素エピタキシャル層2の表面に1nmより大きい段差が生じるおそれがあるため、ドライエッチングにウェットエッチングを組み合わせたエッチング手法を適用することが望ましい。具体的には、TEOS膜のうち不図示のレジストマスクによって覆われていない領域の大部分をドライエッチングで除去した後、炭化珪素エピタキシャル層2の上に薄く残った部分をウェットエッチングで除去する。このような手法を用いると、第1の注入マスク21の形成によって、炭化珪素エピタキシャル層2の表面に与えるダメージを抑えることができる。第1の注入マスク21の厚さは、その材料や注入条件によって決定されるが、注入飛程よりも充分に大きく設定することが好ましく、例えば2μmである。
【0066】
次いで、図3(b)に示すように、第1の注入マスク21の上方から炭化珪素エピタキシャル層2に、p型の不純物イオン(例えばAlイオン)22を注入する。不純物イオンの注入は多段階で行ってもよい。これにより、炭化珪素エピタキシャル層2に、p型の不純物イオンが注入された第1導電型イオン注入領域23が形成される。また、炭化珪素エピタキシャル層2のうち不純物イオンが注入されずに残った領域は、n型のドリフト領域3となる。
……(中略)……
【0069】
この後、図3(d)に示すように、第2の注入マスク24の上方から炭化珪素エピタキシャル2に第2導電型(ここではn型)の不純物イオン25を注入する。不純物イオン25としては、燐などの炭化珪素に拡散しやすい不純物を用いることが好ましい。このとき、炭化珪素エピタキシャル層2のうち、第1の注入マスク21およびその側壁を覆う第2の注入マスク24の下には不純物イオンが注入されないように、イオン注入における加速電圧を調整する必要がある。そのような加速電圧は、不純物イオン25の種類にもよるが、例えば200keV程度に設定され得る。不純物イオン25は比較的浅く(例えば、炭化珪素エピタキシャル層2の表面からの深さ200nm以下)注入されればよいので、上記のような低い加速電圧でも構わない。また、ドーズ量は、後述するソース領域を形成する際のイオン注入におけるドーズ量よりも少なくなるように選択され、例えば10^(13)cm^(-2)以上10^(15)cm^(-2)以下である。これにより、第1導電型イオン注入領域23の一部が第2導電型イオン注入領域26となる。
……(中略)……
【0071】
次いで、図4(a)に示すように、炭化珪素エピタキシャル層2のうち第3の注入マスク27によって露出された領域に不純物イオン28を注入し、ソース領域となる高濃度イオン注入領域7’を形成する。本実施形態では、不純物イオン28として窒素を用いる。このとき、高濃度イオン注入領域7’が第1導電型イオン注入領域23の内部に形成され、かつ、ソース電極と良好なコンタクトを形成できるように十分な厚さ(例えば200nm以上)を有するように、加速電圧などの注入条件を設定する。ドーズ量は、前述した第2導電型イオン注入領域26を形成する際のイオン注入におけるドーズ量よりも多くなるように選択され、例えば10^(14)cm^(-2)以上10^(16)cm^(-2)以下である。イオン注入後、第3の注入マスク27を取り除く。
【0072】
この後、図4(b)に示すように、炭化珪素エピタキシャル層2の上に、p^(++)型コンタクト領域を規定する開口部を有する第4の注入マスク30を形成し、第4の注入マスク30の上方から第1導電型(ここではp型)の不純物(例えばAl)をイオン注入する。ドーズ量は、例えば10^(15)cm^(-2)とする。これにより、p^(++)型コンタクト領域となる高濃度イオン注入領域10’を形成する。イオン注入後、第4の注入マスク30を取り除く。
……(中略)……
【0075】
活性化アニールは、キャップ層29を形成した後、加熱炉のチャンバー内に設置したまま行うことができる。例えば、チャンバーにアルゴンガスを0.5リットル/分の流量で供給しながら、1750℃の温度で約30分間の炭化珪素エピタキシャル層2を加熱する。このとき、チャンバー内の圧力を91kPaで一定とする。これにより、高濃度イオン注入領域7’、10’からそれぞれソース領域7およびp++型コンタクト領域10が形成される。また、第2導電型イオン注入領域26のうち不純物イオン28が注入されずに残った領域から補助ソース領域8が形成され、第1導電型イオン注入領域23のうちソース領域7および補助ソース領域8が形成されなかった領域はウェル領域5となる。
……(中略)……
【0078】
続いて、図5(a)に示すように、炭化珪素エピタキシャル層2のうち所定の領域上にゲート絶縁膜9を形成する。本実施形態では、キャップ層29が除去された後の炭化珪素エピタキシャル層2を、ドライ酸素雰囲気中、1200℃の温度で熱酸化して熱酸化膜を形成し、アルゴン雰囲気中で同じ温度(1200℃)で30分間の熱処理を行う。この熱処理により厚さが例えば80nmのゲート絶縁膜9を形成できる。熱酸化後、ゲート絶縁膜9に対して、その一部をエッチングすることによって、ソース電極を形成する開口部を形成する。
【0079】
この後、図5(b)に示すように、ゲート電極13、ソース電極11およびドレイン電極15を形成する。ソース電極11およびドレイン電極15は次のようにして形成できる。まず、電子ビーム(EB)蒸着装置を用いてソース領域7およびコンタクト領域10と接するようにNi膜を堆積させる。また、炭化珪素基板1の裏面にもNi膜を堆積させる。続いて、加熱炉を用いて、これらのNi膜を1000℃の温度で加熱すると、ソース領域7およびコンタクト領域10とオーミック接合されたソース電極11および、炭化珪素基板1の裏面にオーミック接合されたドレイン電極15が得られる。一方、ゲート電極13は、ゲート絶縁膜9の上にアルミニウム、ポリシリコンなどを用いて形成できる。ゲート電極13は、ウェル領域5のうち導電性チャネルが形成される領域を覆うように配置される。ゲート電極13は、また、補助ソース領域8の一部を覆っており、ゲート電極13と補助ソース領域8とが重なっている部分のゲート長方向のサイズbは、例えば0.5μmである。このようにして、炭化珪素MOSFETが得られる。
【0080】
上記方法によって形成された耐圧が600Vの炭化珪素MOSFETは、ソース領域7および補助ソース領域8の抵抗が小さく抑えられているので、例えば5mΩcm^(2)以下の低いオン抵抗を有しており、かつ、ゲート絶縁膜9の特性低下が抑制されているので、10年間の連続使用に耐え得る信頼性を有する。」

オ 「【0084】
本発明の半導体装置の製造方法は上記方法に限定されない。
【0085】
補助ソース領域となる第2導電型イオン注入領域26を形成する際に、多段階の注入を行い、第2導電型イオン注入領域26における不純物イオン25の濃度プロファイルを制御してもよい。例えば、第2導電型イオン注入領域26における表面からの深さが10nm以下の部分の不純物イオン25の濃度を1×10^(17)cm^(-3)未満に抑え、第2導電型イオン注入領域26における深さが10nmより大きく20nm以下の部分の不純物イオン25の濃度を1×10^(18)cm^(-3)以上に設定すると、その後の活性化アニールにより、表面の不純物濃度を低く抑えた補助ソース領域8が得られる。このようなプロファイルを有する補助ソース領域8を形成すると、補助ソース領域8のシート抵抗が低いのでオン抵抗を増大させることなく、補助ソース領域8の上に形成されるゲート絶縁膜9の信頼性を確保できる。
【0086】
また、上記方法では熱酸化によってゲート絶縁膜9を形成したが、熱酸化の代わりに公知の薄膜堆積法によって例えばSiO_(2)からなるゲート絶縁膜9を形成してもよい。この場合でも、炭化珪素エピタキシャル層2の表面凹凸や段差が低減されているので、厚さのばらつきが低減された、絶縁特性の高いSiO_(2)膜を形成できる。」

カ 図2(c)には、ソース領域7及び補助ソース領域8はウェル領域5内部の表面部分に形成されていること、ソース電極11はソース領域7の一部の上に形成されること、及び、炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうちソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成されるゲート絶縁膜9は、ソース領域7の一部の上に形成されて、ソース領域7の一部及びp^(++)型コンタクト領域10の上に形成されるソース電極11とは接していないことが記載されている。

(2)引用発明
以上の記載事項から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「炭化珪素基板1の主面上に形成されたn型の炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に、p型の不純物イオンを注入することに基づいて設けられた複数のp型のウェル領域5と、
前記炭化珪素エピタキシャル層2のうち前記p型の不純物イオンが注入されずに残った領域であるn型のドリフト領域3と、
前記ウェル領域5内部の表面部分に形成され、イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上であるn型のソース領域7と、
前記ウェル領域5内部の表面部分であって前記ソース領域7の周囲に形成され、イオン注入されたn型不純物の濃度を、表面からの深さが10nm以下の部分は1×10^(17)cm^(-3)未満に抑え、表面からの深さが10nmより大きく20nm以下の部分は1×10^(18)cm^(-3)以上に設定したn型の補助ソース領域8と、
前記ウェル領域5の内部に形成され、前記ウェル領域5とソース電極11とを接続するためのp^(++)型コンタクト領域10と、
前記ソース領域7の一部及び前記p^(++)型コンタクト領域10の少なくとも一部と接するように設けられ、前記ソース領域7、前記p^(++)型コンタクト領域10との間にオーミック接触が形成される前記ソース電極11と、
前記炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうち前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成され、前記ソース領域7の一部の上に形成されて前記ソース電極11と接していないゲート絶縁膜9と、
前記ゲート絶縁膜9の上に、前記補助ソース領域8の一部、及び、前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5をオーバーラップするように設けられたゲート電極13と、
前記炭化珪素基板1の裏面にオーミック接合されたドレイン電極15と、
を有する炭化珪素MOSFET。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と、引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「n型の炭化珪素エピタキシャル層2」は、本願発明の「炭化珪素半導体層」に相当する。
したがって、引用発明の「n型の炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に、p型の不純物イオンを注入することに基づいて設けられた複数のp型のウェル領域5」は、本願発明の「炭化珪素半導体層内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたウェル領域」に相当する。

イ 引用例には、第2の3(1)ウで摘記したように、段落【0063】に「ゲート電極13にゲート電圧が印加されると、補助ソース領域8とドリフト領域3との間のウェル領域5の表面に反転層(反転型チャネル層)が形成される。反転層が形成されると、ドレイン電極15から、ドリフト領域3、反転層および補助ソース領域8を経てソース領域7へ電流(ドレイン電流)が流れる。」と記載されている。
したがって、引用発明の「炭化珪素MOSFET」は、反転層(反転型チャネル層)に接する「補助ソース領域8」と、「一部」が「ソース電極11」と接する「前記ソース領域7」とで、前記反転層(反転型チャネル層)から前記「ソース電極11」にかけて形成されるソース領域を構成していると認められる。
そうすると、引用発明における、「前記ウェル領域5内部の表面部分に形成され、イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上であるn型のソース領域7」と「前記ウェル領域5内部の表面部分であって前記ソース領域7の周囲に形成され、イオン注入されたn型不純物の濃度を、表面からの深さが10nm以下の部分は1×10^(17)cm^(-3)未満に抑え、表面からの深さが10nmより大きく20nm以下の部分は1×10^(18)cm^(-3)以上に設定したn型の補助ソース領域8」とからなる引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域は、本願発明の「前記ウェル領域内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたソース領域」に相当する。

ウ 引用発明の「前記ソース電極11」は「前記ソース領域7の一部」と「接する」ことで「前記ソース領域7との間にオーミック接触が形成される」から、引用発明の「炭化珪素MOSFET」の前記ソース領域上に形成されていると認められる。
したがって、引用発明の「前記ソース領域7の一部及び前記p^(++)型コンタクト領域10の少なくとも一部と接するように設けられ、前記ソース領域7、前記p^(++)型コンタクト領域10との間にオーミック接触が形成される前記ソース電極11」は、本願発明の「前記ソース領域上に形成されたソース電極」に相当する。

エ 引用発明の「ゲート絶縁膜9」は「前記炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうち前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成され」ている。
ここで、引用発明の「ゲート電極13」は、「前記ゲート絶縁膜9の上に、前記補助ソース領域8の一部、及び、前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5をオーバーラップするように設けられ」ているから、前記「ゲート絶縁膜9」が形成される「前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域」には、「前記補助ソース領域8」上の領域、及び、「前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5」上の領域が含まれると認められる。
したがって、引用発明の「ゲート絶縁膜9」は、「前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5」に接するとともに、「前記ソース領域7の一部の上」にも形成されていることから、「前記ソース領域7」と「前記補助ソース領域8」とからなる引用発明の「炭化珪素MOSFET」の前記ソース領域に接していると認められる。
また、引用例には、第2の3(1)ウで摘記したように、段落【0060】に「ゲート絶縁膜9は、炭化珪素エピタキシャル層2の上に形成されている。本実施形態におけるゲート絶縁膜9は、炭化珪素エピタキシャル層2を熱酸化することによって形成された熱酸化膜(SiO_(2)膜)である。」と記載されている。
以上から、引用発明の「前記炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうち前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成され、前記ソース領域7の一部の上に形成されて前記ソース電極11と接していないゲート絶縁膜9」は、本願発明の「イオン注入で形成された前記ウェル領域およびイオン注入で形成された前記ソース領域に接するように形成されたゲート酸化膜」に相当する。

オ 引用発明の「前記ゲート絶縁膜9の上に、前記補助ソース領域8の一部、及び、前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5をオーバーラップするように設けられたゲート電極13」は、本願発明の「前記ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極」に相当する。

カ 引用発明の「ゲート絶縁膜9」は、「前記ソース領域7の一部の上に形成されて」いるとともに、上記エで述べたとおり、「前記補助ソース領域8」の上にも形成されている。また、引用発明の「ソース電極11」は「前記ソース領域7の一部」の上にも形成されている。
そして、「前記ソース領域7」の「n型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」とともに、「前記補助ソース領域8」の「表面からの深さが10nm以下の部分」における「n型不純物の濃度」は「1×10^(17)cm^(-3)未満」である。
そうすると、引用発明の「炭化珪素MOSFET」の前記ソース領域において、前記「ソース電極11」に接する部分の「n型不純物の濃度」が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことと、本願発明の「イオン注入で形成された前記ソース領域」の「前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」こととは、「イオン注入で形成された前記ソース領域」の「前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度」が「1×10^(18)cm^(-3)」である点で一致する。
したがって、引用発明の「炭化珪素MOSFET」の前記ソース領域において、前記「ゲート絶縁膜9」に接する部分の「n型不純物の濃度」が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」とともに「1×10^(17)cm^(-3)未満」であることは、本願発明の「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分」における「不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」ことに相当する。

キ なお、引用例には、第2の3(1)エで摘記したように、段落【0071】に「第3の注入マスク27によって露出された領域に不純物イオン28を注入し、ソース領域となる高濃度イオン注入領域7’を形成する。……ソース電極と良好なコンタクトを形成できるように十分な厚さ(例えば200nm以上)を有するように、加速電圧などの注入条件を設定する。」と記載されている。
そうすると、引用発明において、「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」とは、十分な厚さを有する「n型のソース領域7」における「イオン注入されたn型不純物」のピーク濃度ないし平均濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことを意味するとも考えられる。
しかしながら、「n型不純物」を「イオン注入」して十分な厚さを有する「n型のソース領域7」を形成する際は、「n型不純物」の濃度のピークは前記「n型のソース領域7」内部に生じると認められる。そうすると、「n型不純物」のピーク濃度ないし平均濃度が、「1×10^(18)cm^(-3)」であるか、または、「1×10^(18)cm^(-3)以上である」が「1×10^(18)cm^(-3)」近傍の値をとる場合には、「前記ソース領域7」の「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分及び「ソース電極」と接する「一部」分における「n型不純物の濃度」は当然に「1×10^(18)cm^(-3)」以下であると認められる。
したがって、引用発明における「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことには、「前記ソース領域7」の「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分及び「ソース電極」と接する「一部」分における「n型不純物の濃度」が「1×10^(18)cm^(-3)」以下であるという態様が包含されると認められる。
以上から、引用発明において、「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことが、十分な厚さを有する「n型のソース領域7」における「イオン注入されたn型不純物」のピーク濃度ないし平均濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことを意味するとした場合でも、引用発明の「前記ソース領域7」の「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分の「n型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上」であるとともに「補助ソース領域8」の前記「ゲート絶縁膜9」と接する「表面からの深さが10nm以下の部分」の「n型不純物の濃度」を「1×10^(17)cm^(-3)未満に抑え」ること、及び、「前記ソース領域7」の「ソース電極」と接する「一部」分の「n型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことは、本願発明の「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」ことに相当するといえる。

ク そして、引用発明の「炭化珪素MOSFET」は、本願発明の「MOSFET」に相当するとともに、本願発明の「炭化珪素半導体装置」にも相当する。

ケ そうすると、本願発明と引用発明とは、少なくとも、
《一致点》
「炭化珪素半導体層内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたウェル領域と、
前記ウェル領域内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたソース領域と、
前記ソース領域上に形成されたソース電極と、
イオン注入で形成された前記ウェル領域およびイオン注入で形成された前記ソース領域に接するように形成されたゲート酸化膜と、
前記ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極と、
を有するMOSFETを備え、
イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分における不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)以下であり、前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)である
ことを特徴とする炭化珪素半導体装置。」
である点で一致し、相違するところがない。

(2)引用発明の「ソース領域7」に注目した場合の検討
上記(1)では、引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域は、「補助ソース領域8」と「ソース領域7」とで構成されるとして検討した。
次に、引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域を構成する「補助ソース領域8」と「ソース領域7」のうち、前記「ソース領域7」のみに注目して、本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「n型の炭化珪素エピタキシャル層2」及び「n型の炭化珪素エピタキシャル層2の表面近傍の選択された領域に、p型の不純物イオンを注入することに基づいて設けられた複数のp型のウェル領域5」は、それぞれ、本願発明の「炭化珪素半導体層」及び「炭化珪素半導体層内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたウェル領域」に相当する。

イ 引用発明の「前記ウェル領域5内部の表面部分に形成され、イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上であるn型のソース領域7」は、本願発明の「前記ウェル領域内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたソース領域」に相当する。

ウ 引用発明の「前記ソース領域7の一部」と「接するように設けられ」た「前記ソース電極11」は、本願発明の「前記ソース領域上に形成されたソース電極」に相当する。

エ 第2の4(1)エで検討したように、引用発明の「前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域」には「前記補助ソース領域8と前記ドリフト領域3との間の前記ウェル領域5」の上の領域が含まれると認められ、引用例には「ゲート絶縁膜9」が熱酸化膜であることが記載されている。
したがって、引用発明の「前記炭化珪素エピタキシャル層2の表面のうち前記ソース電極11が形成されている領域以外の領域に亘って形成され、前記ソース領域7の一部の上に形成され」た「ゲート絶縁膜9」は、本願発明の「イオン注入で形成された前記ウェル領域およびイオン注入で形成された前記ソース領域に接するように形成されたゲート酸化膜」に相当する。

オ 引用発明の「前記ゲート絶縁膜9の上」に「設けられたゲート電極13」は、本願発明の「前記ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極」に相当する。

カ 引用発明の「前記ソース領域7」の、「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分、及び、「ソース電極」と接する「一部」分の「n型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことと、本願発明の「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」こととは、「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)」である点で一致する。

キ 第2の4(1)キで検討したように、引用発明の「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことが、前記「n型のソース領域7」における「イオン注入されたn型不純物」のピーク濃度ないし平均濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことを意味する場合、引用発明の前記「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことには、「前記ソース領域7」の「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分及び「ソース電極」と接する「一部」分の「n型不純物の濃度」が「1×10^(18)cm^(-3)以下である」という態様が包含されると認められる。
そうすると、引用発明の「n型のソース領域7」の「イオン注入されたn型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことは、前記「n型のソース領域7」における「イオン注入されたn型不純物」のピーク濃度ないし平均濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上である」とした場合でも、引用発明の「前記ソース領域7」の、「ゲート絶縁膜9」と接する「一部」分、及び、「ソース電極」と接する「一部」分の「n型不純物の濃度は1×10^(18)cm^(-3)以上である」ことは、本願発明の「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」ことに相当するといえる。

ク そして、引用発明の「炭化珪素MOSFET」は、本願発明の「MOSFET」に相当するとともに、本願発明の「炭化珪素半導体装置」にも相当する。

ケ そうすると、本願発明と引用発明とは、少なくとも、
《一致点》
「炭化珪素半導体層内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたウェル領域と、
前記ウェル領域内の上面部分にイオン注入で選択的に形成されたソース領域と、
前記ソース領域上に形成されたソース電極と、
イオン注入で形成された前記ウェル領域およびイオン注入で形成された前記ソース領域に接するように形成されたゲート酸化膜と、
前記ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極と、
を有するMOSFETを備え、
イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)である
ことを特徴とする炭化珪素半導体装置。」
である点で一致し、相違するところがない。

5 判断
ア 審判請求人は平成28年7月6日に提出した意見書において、「補正後の請求項1,7に記載のように、本願発明は、「イオン注入で形成された前記ソース領域の前記ゲート酸化膜に接する上面部分および前記ソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下である」という特徴を有しています。上記しましたように、引用文献1では、ソース領域のソース電極に接する上面部分における不純物濃度が、1×10^(18)cm^(-3)以下ではないため、本願発明の構成とは全く異なります。」と主張している。

イ しかしながら、引用例に記載の「炭化珪素MOSFET」においては、「補助ソース領域8」と「ソース領域7」とでソース領域が構成されることは、前記意見書の「(2)本願発明と引用発明との対比」において、「ただし、引用文献1のMOSFETでは、ソース領域が、ソース電極11に接する「ソース領域7」と、ソース電極11に接しない「補助ソース領域8」という2つの領域で構成されており」と主張されるとおりである。
そして、引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域が「補助ソース領域8」と「ソース領域7」とで構成されるとした場合、本願発明と引用発明とは相違するところがないことは、第2の4(1)で検討したとおりである。
また、上記主張を考慮して、引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域を構成する「補助ソース領域8」と「ソース領域7」のうち、前記「ソース領域7」のみに注目した場合についても、本願発明と引用発明とは相違するところがないことは、第2の4(2)で検討したとおりである。
したがって、上記イの主張は当を得ておらず、採用することができない。

ウ 以上のとおりでありから、引用発明の「炭化珪素MOSFET」のソース領域は「補助ソース領域8」と「ソース領域7」とで構成されるとした場合についても、このうち前記「ソース領域7」のみに注目した場合についても、本願発明と引用発明とは相違するところがない。
したがって、本願発明は引用例に記載された発明である。


第3.結言
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-01 
結審通知日 2016-11-08 
審決日 2016-11-22 
出願番号 特願2013-534529(P2013-534529)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 河口 雅英
鈴木 匡明
発明の名称 炭化珪素半導体装置およびその製造方法  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  

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