• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  A01B
管理番号 1323332
審判番号 無効2015-800151  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-07-17 
確定日 2016-12-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第5000051号発明「畦塗り機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5000051号(以下「本件特許」という。平成13年9月3日出願、平成24年5月25日登録、請求項の数は4である。)の請求項1に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件特許に係る手続の経緯は、以下のとおりである。

平成13年 9月 3日 特許出願(特願2001-265939号)
平成23年11月 1日 拒絶査定(同年11月8日発送)
平成24年 2月 8日 拒絶査定不服審判請求(不服2012-2530号、以下「不服審判」という。)
平成24年 2月 8日 手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成24年 4月24日 特許査定(同年5月1日発送)
平成24年 5月25日 設定登録(特許第5000051号)

平成27年 3月11日 訂正審判請求(訂正2015-390023号、以下「訂正審判」という。)
平成27年 4月22日 訂正審判審決(訂正を認める。)
平成27年 5月 8日 確定登録

平成27年 7月17日 本件無効審判請求(無効2015-800151号)
平成27年10月 5日 答弁書
平成27年12月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年12月21日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年 1月 5日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成28年 1月 8日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成28年 1月12日 上申書(被請求人)
平成28年 1月12日 口頭審理

第3 訂正審判における訂正事項及び本件訂正発明
1 訂正事項
訂正審判において、特許請求の範囲の請求項1に係る訂正事項は、次のとおりのものである(以下「本件訂正」という。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記整畦板を連結部材で相互に連結して」とあるのを「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「段差部を形成した」とあるのを「段差部を形成し、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であり、前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」に訂正する。

2 本件訂正発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正審判の審決において訂正することが認められ、確定登録された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、
この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、
この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体と、
を有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、
回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、
各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ、
隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され、
各整畦板の境界部分に段差部を形成し、
前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であり、
前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないことを特徴とする畦塗り機。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件訂正発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成27年12月21日付け口頭審理陳述要領書、平成28年1月8日付け口頭審理陳述要領書(2)を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証を提出している。

(1)無効理由1(実質的拡張変更)
本件訂正の訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第6項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(訂正目的違反)
本件訂正の訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、「誤記又は誤訳の訂正」、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものでもない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(新規事項の追加)
本件訂正の訂正事項1における「境界部分に沿って設けられた連結部材」との記載は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、その記載から自明な事項でもない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(4)無効理由4(新規事項の追加)
本件訂正の訂正事項2における「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との記載は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、その記載から自明な事項でもない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(5)無効理由5(独立特許要件違反)
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(6)無効理由6(独立特許要件違反)
本件特許の請求項1に記載された、「整畦板の回転方向後側の側縁」が「直線状」であること、及び「連結部材」は、「隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」ことの技術的意義が、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても理解することができない。
また、本件特許の請求項1に記載された「取付け基部」がどの部分を意味するのか訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参照しても理解できない。
したがって、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより当業者が本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(7)無効理由7(独立特許要件違反)
本件特許の請求項1に記載された、「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成、及び「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」との構成は、訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

(8)無効理由8(独立特許要件違反)
本件特許の請求項1の「整畦板の整畦面」、「整畦板の整畦面に延在しない」、「境界部分に沿って設けられた連結部材」及び「回転中心の取付け基部」との記載により、本件訂正発明は不明確となっている。
また、訂正明細書に記載された「重なり部分」及び「垂直段部」という用語は、本件特許の請求項1に記載されていないため、本件訂正発明は不明確である。
したがって、本件特許の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開平10-276504号公報
甲第2号証:「広辞苑」,第五版,株式会社岩波書店,1998年11月11日,454頁
甲第3号証:「広辞苑」,第六版,株式会社岩波書店,2008年1月11日,479頁
甲第4号証:「第7回知的財産政策部会議事録」,2006年3月22日,特許庁HP
甲第5号証:「多面的な発明保護に関する調査研究報告書」,財団法人知的財産研究所,平成18年3月
甲第6号証:「第8回特許戦略計画関連問題ワーキンググループについて」,2004年6月17日,特許庁HP
甲第7号証:特開2014-209927号公報
甲第8号証:特開2015-97536号公報
甲第9号証:特開2001-61302号公報
甲第10号証:特開昭63-164801号公報
甲第11号証:特公昭61-34761号公報
甲第12号証:実公昭45-3845号公報
甲第13号証:特開2001-161107号公報
甲第14号証:特願2014-78398号に対する平成27年9月17日付け拒絶理由通知書
甲第15号証:特願2014-78398号の平成27年11月30日付け手続補正書
甲第16号証:特願2014-78398号の平成27年11月30日付け意見書
甲第17号証:特許第3148678号公報

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア ……被請求人は、平成27年3月11日付け審判請求書……を提出して、特許請求の範囲の請求項1に「前記整畦板を連結部材で相互に連結して」とあったのを、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され、」に訂正した(訂正事項1)。
(審判請求書11頁7ないし12行)

イ ……本件訂正前の請求項1に係る発明(訂正前の特許請求の範囲)は、複数の整畦板を複数の連結部材で一枚置きに連結する構成である図4、5の実施形態に相当するものであるのに対し、本件訂正後の請求項1に係る発明(訂正後の特許請求の範囲)は、隣接する整畦板を連結片で連結する構成である図8の実施形態に相当するものである。
このため、……本件訂正の訂正事項1は、図4、5の実施形態に相当する発明を、図8の実施形態に相当する発明に変更するものである。すなわち、この訂正事項1は、特許請求の範囲をずらす訂正に該当するものである。
(審判請求書13頁1ないし末行)

ウ 本件明細書……の【0023】には、「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」との記載がある……しかるに、「代えて」=「代える」とは、「(2)それを取り除き別のものにする。交換する。とりかえる。」(甲第2号証及び甲第3号証:「広辞苑」第五版及び同第六版)との意味を有するから、上記記載は、「連結部材」を取り除き、この「連結部材」とは別のものである「連結片」にすると解釈されるべきであって、本件明細書上、「連結部材」と「連結片」とが異なるものとされていることは明白である。……
また、本件明細書には、「連結片」が「連結部材」である旨の記載も示唆もない。
したがって、「連結部材」を有していない【図8】の第5実施例は、明らかに上記補正時点の請求項1に係る発明の技術的範囲(本件訂正前の特許請求の範囲)に含まれていない。
(口頭審理陳述要領書4頁16行ないし5頁7行)

エ 請求人主張の根拠のうち最も重要な根拠は、拒絶査定不服審判請求書の「2.補正の概要」における以下の記載である。
「2.補正の概要
この補正は、図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」
……上記補正……の前では、何を用いて整畦板を連結するのかについて何ら特定されていなかったところ、被請求人自らが、上記補正によって図4、5の実施形態をクレームアップすることで、図4、5の「連結部材」を用いることを限定した。……
……「2.補正の概要」の記載は、「図4及び図5の実施形態の発明特定事項をクレームアップする」ではなく、「図4及び図5の実施形態をクレームアップする」である。
それゆえ、……「クレーム」および「アップ」からなる当該文言を素直にみれば、上記「2.補正の概要」は、図4及び図5の実施形態自体をクレームにアップすること(図4および図5の実施形態自体を特許請求の範囲に記載すること)を主として意図したものである。……
換言すると、「2.補正の概要」は、図4および図5の実施形態に限定して、それ以外の実施形態(図6ないし図9の実施形態)について権利付与の請求放棄を表明したものである。
……包袋禁反言の原則に基づき、被請求人が、不服審判時の請求項1の権利範囲に、図6ないし図9の実施形態に相当する発明が含まれると主張することは許されない。
(口頭審理陳述要領書(2)4頁19行ないし6頁9行)

(2)無効理由2について
……本件訂正の訂正事項1は、図4、5の実施形態に相当する発明を図8の実施形態に相当する発明に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。
また、本件訂正の訂正事項1は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものでもなく、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものでもない。
(審判請求書14頁11ないし15行)

(3)無効理由3について
ア 本件訂正の訂正事項1における「境界部分に沿って設けられた連結部材」という記載は、以下のとおり、本件訂正の基準となる本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書等」という……)に記載された事項の範囲内のものではなく、またその記載から自明な事項でもなく、新規事項追加に該当する。
すなわち、本件特許明細書等の【0023】には、「……重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27c……」と記載されていることから、本件特許明細書等には、「重なり部分に沿って設けた連結片」が記載されているのみで、「境界部分(重なり部分を有しない境界部分)に沿って設けた連結片」は記載されていない。
(審判請求書15頁2ないし11行)

イ ……「連結片」ではなく、「連結部材」という記載では、「片」といえないような部材まで、広く含まれることとなる。
(審判請求書16頁5ないし6行)

(4)無効理由4について
ア ……本件訂正の訂正事項2における「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏側に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という記載についても、以下のとおり、新規事項追加に該当する。
(審判請求書17頁2ないし5行)

イ ……【0023】には、「連結部材(連結片)が回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定される」という構成や、「連結部材(連結片)が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という構成についての記載も示唆もなく、そもそも「整畦面」や「延在」という文言すら見当たらない。
(審判請求書17頁18ないし21行)

ウ ……本件訂正の訂正事項2における「前記連結部材は、……回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という記載は、……連結片が回転方向後側に位置する整畦板の回転方向前端面に一体に設けられた構成(整畦板の回転方向前方側に連続して形成された構成)に加え、……連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定された構成をも含むものである。
(審判請求書19頁5ないし11行)

エ ……図8(b)の……を参照すると、連結片は、その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になったものであり、……答弁書第45頁に記載された被請求人製品のドラムの図面……においても同様に、連結片は、その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になったものとなっている。このようなことから、「延在する/しない」という技術的思想は、当初明細書等には元々なく、当該技術的思想を当初明細書等から導出できるものではないことは明らかというべきである。
なお付言すると、東京地方裁判所平成27年(ワ)第8517号特許権侵害差止請求事件……における、平成27年11月9日に開催された弁論準備手続期日で、担当裁判官は、被請求人(原告)に対して、「延在」という文言が入った経緯を次の準備書面で説明するよう求めた。
このことからも、「延在する/しない」という技術的思想が当初明細書等に元々なかったことは明らかであるといえる。
(口頭審理陳述要領書24頁2行ないし25頁7行)

(5)無効理由5について
ア ……甲第1号証には、「前記連結片は、前記隣接する分割片44のうち、回転方向前側に位置する分割片44の整畦面の裏面に固定される」という構成は、明記されていない。
しかしながら、甲第1号証の【0017】には、生産性向上のために、「分割片44」を別個に製造可能な「独立片」とすることが記載されている。また、甲第1号証の【請求項3】には「隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体」とあるが、「分割片取り付け盤」は必須の構成要件とされていない。
このようなことから、甲第1号証には、……分割片取り付け盤45を有しない一体の円錐回転体43が実質的に記載(少なくとも示唆)されているといえる。
したがって、甲第1号証には、「前記連結片は、前記隣接する分割片44のうち、回転方向前側に位置する分割片44の整畦面の裏面に固定される」という構成が記載されている。
(審判請求書27頁1行ないし28頁5行)

イ ここで仮に、下記の相違点があるとして、本件訂正発明が甲第1号証に記載された発明と同一でないと仮定した場合であっても、本件訂正発明は、以下のとおり、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
[相違点]
隣接する整畦板を連結する「連結部材(連結片)」の構成について、
本件訂正発明では、「隣接する整畦板のうち回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定される」のに対し、
甲第1号証に記載された発明では、「整畦面の裏面に固定される」か否かが不明である点。
しかしながら、連結片(連結部材)を用いて隣接する整畦板(独立片)を連結する際に、……固定強度の観点から、連結片の形状を適宜変更してその連結片の一部を整畦面の裏面に固定するようなことは、当業者にとって設計的事項に過ぎず、そのことによる格別な作用効果もない。
したがって、本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(審判請求書29頁11ないし26行)

ウ ……農作業機の技術分野では、回転しながら農作業をする作業部材について、一連の部材で一体製作することに代えて、別個に製造した複数の分割部品を組み合わせて同一形状に製作することは、本件特許の出願前から周知技術である。
しかも、甲第1号証において、円錐回転体を一連の部材で製作するか、複数の分割部品で製作するかは、解決しようとする課題(畦側面の締め込み力が弱い)や作用効果(強固な畦を形成する)とは何ら関係がなく、またこの甲第1号証には、円錐回転体を別個に製造可能な分割片を用いて生産するという技術的思想の開示もある。
以上のことから、上記周知技術を参酌すれば、甲第1号証の第1実施形態における円錐回転体43について、別個に製造した複数の分割片及び連結片を組み合わせて円錐台状に製作したものは、甲第1号証に実質的に記載されているといえる。
(口頭審理陳述要領書32頁14行ないし33頁9行)

エ ……甲第1号証において、円錐回転体の分割片を一体片にするか独立片にするかは任意に選択可能であるから、第1実施形態の分割片(一体片)44を第2実施形態の分割片(独立片)44に置き換えた場合には、隣接する分割片間に位置する部材が、必然的に分割片とは別個独立した「連結片」となる。
そして、別個独立した「連結片」の形状を固定強度の観点から適宜変更して、……連結片の一部を整畦面の裏面に固定するようなことは、当業者にとって設計的事項に過ぎず……
したがって、……本件訂正発明は、甲1発明(又は甲1発明及び上記周知技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(口頭審理陳述要領書35頁22行ないし36頁11行)

(6)無効理由6について
ア 【請求項1】には「前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であり、」と記載されているが、その整畦板の回転方向後側の側縁が直線状であることによってどのような技術的意義があるのかが、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載および出願時の技術常識を考慮しても、理解することができない。
(審判請求書31頁4ないし8行)

イ 【請求項1】には「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」と記載されているが、このような連結部材の構成によってどのような技術的意義があるのかが、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載および出願時の技術常識を考慮しても、理解することができない。
(審判請求書31頁12ないし16行)

ウ ……「取付け基部」という文言は、【0020】に記載されているのみで、それ以外に「取付け基部」の説明はなく、「回転中心の取付け基部」とはどの部分を意味するのか全く理解できない。
(審判請求書32頁3ないし5行)

(7)無効理由7について
ア 【請求項1】における「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という構成は、訂正明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項である。
(審判請求書33頁5ないし8行)

イ 【請求項1】における「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」という構成も、訂正明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項である。
つまり、【請求項1】の「境界部分に沿って設けられた連結部材」という記載は、「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」を含むものであるが、訂正明細書の発明の詳細な説明には、【0023】に「重なり部分に沿って設けられた連結片」のみが記載されている。
(審判請求書32頁11ないし17行)

(8)無効理由8について
ア 【請求項1】における「整畦板の整畦面」とは、整畦板のうちどこを意味するのか、訂正明細書の発明の詳細な説明中に説明がなく不明である。つまり、「整畦面」の定義が発明の詳細な説明中に記載されておらず、「整畦面」ないし「整畦面の裏面」の意味内容を理解できず、本件訂正発明が不明確となっている。
(審判請求書34頁4ないし8行)

イ 【請求項1】には「整畦板の整畦面に延在しない」という記載があるが、このような否定的表現がある結果、本件訂正発明の範囲が不明確となっている。
(審判請求書34頁9ないし10行)

ウ 【請求項1】における「境界部分に沿って設けられた連結部材」について、その連結部材(連結片)が整畦板のどこに設けられ、整畦板のどこに固定されているのか、訂正明細書の発明の詳細な説明中に何ら説明がなく不明であり、本件訂正発明は不明確である。
(審判請求書34頁11ないし14行)

エ 【請求項1】における「回転中心の取付け基部」とは、どの部分を意味するのか、訂正明細書の発明の詳細な説明中に説明がなく不明であり、本件訂正発明は不明確である。
(審判請求書34頁15ないし17行)

オ 訂正明細書には、「本発明は、以下の構成を特徴としている。……整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成した。」(【0004】、【0005】)と記載され、また「本発明の畦塗り機の整畦ドラムによれば、……隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成したので、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」(【0028】?【0030】)と記載されている。
しかしながら、上記記載中の「重なり部分」や「垂直段部」という文言は、訂正明細書の特許請求の範囲中に記載がなく、その結果、特許請求の範囲に記載された構成と、この構成に基づく作用効果との関係が不明である。このため、本件訂正発明は不明確である。
(審判請求書34頁18行ないし35頁5行)

第5 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成27年10月5日付け答弁書、平成27年12月21日付け口頭審理陳述要領書、平成28年1月5日付け口頭審理陳述要領書、平成28年1月12日付け上申書を参照。)。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:特願2001-265939号の平成13年9月3日付け明細書
乙第2号証:特願2001-265939号の平成23年7月6日付け手続補正書
乙第3号証:特願2001-265939号の平成24年2月8日付け手続補正書
乙第4号証:特願2001-265939号の平成24年2月8日付け拒絶査定不服審判請求書
乙第5号証:特願2001-265939号に対する平成23年5月30日付け拒絶理由通知書
乙第6号証:特開2001-95307号公報
乙第7号証:答弁書(平成27年(ワ)第14711号)
乙第8号証:準備書面(1)(原告)(平成27年(ワ)第14711号)
乙第9号証:被告第2準備書面(平成27年(ワ)第14711号)
乙第10号証の1:「第7回知的財産政策部会議事録」,2006年3月22日,特許庁HP
乙第10号証の2:「多面的な発明保護に関する調査研修報告書」,財団法人知的財産研究所,平成18年3月
乙第10号証の3:「第8回特許戦略計画関連問題ワーキンググループについて」,2004年6月17日,特許庁HP
乙第11号証:準備書面(2)(平成27年(ワ)第14711号)
乙第12号証:中山信弘・小泉直樹,「新・注解 特許法【上巻】」,株式会社青林書院,2011年4月20日,649ないし658頁
乙第13号証:特開2014-209927号公報
乙第14号証:特開2015-97536号公報
乙第15号証:特願2014-166355号の出願時の特許請求の範囲
乙第16号証:特願2014-166355号の平成26年8月19日付け上申書
乙第17号証:特願2014-166355号の平成26年12月12日付け手続補正書
乙第18号証:特願2014-166355号の平成26年12月12日付け早期審査に関する事情説明書
乙第19号証:特開2001-161107号公報
乙第20号証:特開2001-148904号公報
乙第21号証:特開平10-327603号公報
乙第22号証:特開平10-276504号公報
乙第23号証:特開2003-70301号公報
乙第24号証:特願2014-166355号の平成26年12月24日付け面接記録
乙第25号証:特願2014-166355号の平成26年12月25日付け早期審査に関する報告書
乙第26号証:特願2014-166355号の平成26年12月26日付け応対記録(電話対応、ファクシミリ)
乙第27号証:特願2014-166355号の平成27年1月6日付け手続補正書
乙第28号証:特願2014-166355号の平成27年1月6日付け上申書
乙第29号証:特願2014-166355号の平成27年2月10日付け特許査定
乙第30号証:「大辞林」,第三版,株式会社三省堂,2006年10月27日,646頁
乙第31号証:「特許技術用語集」,第3版,日刊工業新聞社,2006年8月31日,9頁

3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア ……「連結部材」という用語は、「連結」する「部材」という意味のごく一般的な用語であって、本発明の実施例である図4の第1実施例(連結部材15b、15c)、図5の第2実施例(連結部材24c、24d)、図6の第3実施例(固定杆25c)、図7の第4実施例(個体板26b)、図8の第5実施例(連結片27C、27c)、及び図9の第6実施例(連結部材28b、28d)をすべて包括する上位概念である。
(答弁書17頁26行ないし18頁5行)

イ ……請求項1に「前記整畦板を連結部材で相互に連結して」とあるのを、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され、」に訂正する訂正事項1は、訂正審判請求書(乙第3号証)に記載されているとおり、当初明細書の段落[0023]、図8等の記載に基づくものである。
訂正事項1は、図4の第1実施例(連結部材15b、15c)、図5の第2実施例(連結部材24c、24d)、図6の第3実施例(固定杆25c)、図7の第4実施例(個体板26b)、図8の第5実施例(連結片27c、27c)、及び図9の第6実施例(連結部材28b、28d)を包括する上位概念としての「連結部材」という構成を、図8に記載された構成に減縮するものである。
(答弁書21頁下から5行ないし22頁7行)

(2)無効理由2について
……訂正事項1は、図4、5の実施形態に相当する発明を、図8の実施形態に相当する発明に変更するものであるという請求人の主張は誤りであり、本件訂正は訂正審判請求書に記載したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(答弁書24頁2ないし5行)

(3)無効理由3について
……本件明細書等[0015]、[0020]の記載及び図4(a)、(b)に示すとおり、本件明細書等には、隣接する整畦板の「境界部分」に重なり部分を有しない整畦ドラムと、隣接する整畦板の「境界部分」に重なり部分を有する整畦ドラムとが、相互に置換可能な構成として記載されている。したがって、本件明細書等には、図4?図9に記載された複数の整畦板を相互に連結するための具体的な連結構造を、「境界部分」に重なり部分を設けた整畦ドラムでも、重なり部分を設けない整畦ドラムでも構成可能であることが記載されている。
よって、本件明細書等には、図8に記載された複数の整畦板を相互に連結するための具体的な構成を、図4、図7、図9に記載されているように隣接する整畦板の「境界部分」に重なり部分を有しない整畦ドラムで構成する発明も記載されている。
(答弁書25頁15行ないし26頁7行)

(4)無効理由4について
ア ……本件明細書等の段落[0023]には「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、…、整畦ドラム27のドラムの内側において、…連結片27c、27cにより固着している。」と記載されていることから、本件明細書には連結片27c、27cを整畦ドラム27のドラムの内側、すなわち整畦板の整畦面の裏面に固定することによって、複数の整畦板を連結して一体の側面修復体を形成することが記載されている。
また、例えば段落[0026]に「その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15(あるいは24、25、26、27、28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。」と記載されていることから、「整畦面」とは、畦法面に接触して畦を形成する面であることが本件明細書に記載されている。
(答弁書27頁8ないし19行)

イ ……図8(a)を素直に見れば、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に、別個の部材である連結片が溶接等何らかの方法によって固着されていると理解するのが通常である。
(答弁書28頁14ないし16行)

ウ 例えば、図8(a)、(b)を見ると、隣接する整畦板相互を連結する連結片27c、27cが、隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に位置していること、及び連結片27c、27cが整畦面となる整畦板の表面に露出していないことが分かる。……
これらのことから、連結片27c、27cは、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない態様で隣接する整畦板を相互に連結していることが分かる。
(答弁書29頁4ないし12行)

エ ……裁判所は、原告(被請求人)からクレームの「延在しない」という文言の解釈について審査過程を踏まえた主張がなされており、原告(被請求人)の主張について理解することができた旨述べ、被告(請求人)に対して、原告(被請求人)の……主張を踏まえ、反論すべきことが残っていれば反論するようにという訴訟指揮を行った。
……裁判所が請求人の主張を認めたというような事情は存在しない。……
「延在しない」という文言は、本件特許から派生した分割出願である特願2014-166355……の審査段階において、もっぱら先願である特願2001-263896号(特開2003-70301、乙第23号証)との構造上の差異を明らかにするために追加された文言であって、審査官は「延在しない」という文言を含む補正案について審査したうえ、先願との差異が認められると判断し、上記分割出願…について特許査定を行った。
被請求人は、……同じく先願との構造上の差異を明らかにするために、本件特許について訂正審判を請求し、「延在しない」という同様の発明特定事項を訂正し、訂正により先願との差異が明らかになったことを主張したところ、訂正を認める旨の訂正審決を受けたものである。
(口頭審理陳述要領書(2)10頁1行ないし11頁10行)

(5)無効理由5について
ア ……甲第1号証の図2?図4に図示された実施の形態における円錐回転体43は、側面視ジグザグ状となる円錐台状に一体的に形成されているため、「前記整畦体は、回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し」……という構成を有しない。
(答弁書34頁6ないし11行)

イ ……甲第1号証の図3、図4に記載された一体の円錐回転体43の複数の「分割片44」は、複数の面を指すものであって、本件訂正発明の「複数の整畦板」に相当する構成ではない。
(答弁書35頁9ないし11行)

ウ ……甲第1号証の図3、図4に記載された円錐回転体43は、そもそも複数の部材相互を他の部材で連結して形成したものではなく、一連の部材で一体的に形成されたものであるから、その一部を恣意的に区切って「連結部材」にあてはめることはできない。
(答弁書35頁17ないし20行)

エ ……甲第1号証には「円錐回転体43の表面は放射状の分割片44に分割される。」、「隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。」([0015])と記載されているだけであって、隣接する分割片44相互を、「連結片」に相当する他の部分で連結することは記載も示唆もされていない。
(答弁書36頁14ないし18行)

オ ……甲第1号証の図5?図6に図示された他の実施の形態における円錐回転体43は、「分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり、その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。」([0017])との記載、及び図6から明らかなように、分割片44(独立片)の一方の端部と分割片取り付け盤45とが相互にビス46で連結されているのであって、隣接する分割片44相互がビス46で連結されているのではない。よって、甲第1号証の図5、図6に図示された他の実施の形態における円錐回転体43は、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され」……という構成を有しない。
(答弁書38頁5ないし16行)

カ ……甲第1号証の図5から分かるように、甲第1号証の図5?図6に図示された他の実施の形態における円錐回転体43は、各分割片44の側縁部分を、ビス46で分割片取り付け盤45に固定したものであるため、甲第1号証の図5?図6の分割片44の基端部が「回転中心の取付け基部」に取付けられることは記載されていない。
(答弁書39頁9ないし13行)

キ ……甲第1号証[0014]には、「円錐回転体43」が「第2従動回転軸35の先端」に取り付けられることは記載されているが、「円錐回転体43」のうち、分割片44の基端部が「第2従動回転軸35の先端」に取り付けられることは記載されていない。
(答弁書39頁14ないし17行)

ク ……甲第1号証の図4に記載された円錐回転体43は、一連の部材で一体的に形成されているのであるから、分割片とは別個の独立した連結片を設ける動機がそもそも存在しない。
よって、一連の部材で一体的に形成された図4の円錐回転体43を開示する甲1発明に基づいて、複数の整畦板を連結して円錐回転体43を形成する構成に変更することは設計的事項とはいえない。
(答弁書41頁1ないし6行)

ケ ……周知技術は「複数の分割部品」をどのように組み合わせて「略同一形状」の作業部材を製作するかという具体的構成を含むものではない。
(口頭審理陳述要領書(2)24頁22ないし24行))

(6)無効理由6について
ア ……物の発明である本件訂正発明において、同号要件を充足するには、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できれば足りるものであり……当該発明を構成する個々の構成要件の各々が技術上の意義を有することなど要件とされていない。……このように、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」や、「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとされているが、ここでいう「発明」が各構成要件を指すものでないことは明らかである。
(答弁書42頁16行ないし43頁1行)

イ ……[請求項1]に「各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ」と定められているとおり、「取付け基部」は、その文言どおり、整畦ドラムの回転中心に位置し、整畦板の基端部が取付けられる部位であり、何ら不明確な点はない。
また、「取付け基部」については、段落[0020]に「上記整畦ドラム15は、上記図4の第1実施例のように、回転中心の取付け基部に、平面視で内端側の幅が狭く、外端側の幅が次第に広くなる複数枚の整畦板15aの基端部を、隣接する整畦板15aが相互に所定の重なりを有するよう取付け」と記載されていることから、「取付け基部」は、複数枚の整畦板の基端部が物理的に取り付けられる部材をいうことは明らかである。
(答弁書43頁7ないし17行)

(7)無効理由7について
上記(3)及び(4)において既に主張したとおり、訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、サポート要件(特許法36条6項1号)を満たすものである。
(答弁書46頁6ないし12行)

(8)無効理由8について
ア ……段落[0026]に「その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15(あるいは24、25、26、27、28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。」と記載されていることから、「整畦面」とは、畦法面に接触して畦を形成する面であることが本件明細書に記載されており、「整畦板の整畦面」という記載の意義は明確である。
(答弁書47頁10ないし16行)

イ ……繰り返し主張しているように「整畦板の整畦面に延在しない」、「境界部分に沿って設けられた連結部材」及び「回転中心の取付け基部」という構成の意義は明確である。
(答弁書47頁17ないし23行)

ウ ……[課題を解決するための手段]の記載が、特許請求の範囲の記載と厳密に一致していないからといって、特許請求の範囲に記載された構成と当該構成による作用効果が不明確になるものではない。
(答弁書47頁末行ないし48頁3行)

第6 当審の判断
以下、訂正後の明細書を「本件訂正明細書」といい、訂正前の明細書(本件補正により補正された明細書)を「本件補正明細書」という。また、図面は訂正されていないので、訂正前後の図面を、いずれも単に「図1」などという。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張
請求人は、
ア 本件補正明細書の「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」(段落【0023】)との記載を根拠として、「連結部材」を有していない図8に記載された実施形態(第5実施例)は、本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)の技術的範囲に含まれていない旨(上記第4の3(1)ウを参照。)、及び、
イ 不服審判の審判請求書において、「この補正は、図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」と記載されていることを根拠として、本件補正発明に、図6ないし図9に記載された実施形態に相当する発明が含まれると主張することは許されない旨(上記第4の3(1)エを参照。)を主張し、
よって、本件訂正の訂正事項1は、請求項1に係る発明の畦塗り機の整畦体を、図4、5に記載された実施形態(第1実施例及び第2実施例)の整畦体から、図8に記載された実施形態(第5実施例)の整畦体に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものである旨主張する。

(2)判断
ア 訂正事項1は、請求項1において、「整畦板を」「相互に連結」する「連結部材」が、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた」ものであること、及び「整畦ドラム」が、「連結部材で隣接する整畦板を相互に連結することにより」、「一体」として「構成され」ることを特定事項として追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかである。

イ しかし、請求人は、本件訂正の訂正事項1は、請求項1に係る発明の畦塗り機の整畦体を、図4、5に記載された実施形態(第1実施例及び第2実施例)の整畦体から、図8に記載された実施形態(第5実施例)の整畦体に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものである旨主張するので、念のため、以下に検討する。

(ア)本件補正発明における整畦体について
a 本件補正発明は、本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、
この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、
この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体と、
を有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、
回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、
各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ、
前記整畦板を連結部材で相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した
ことを特徴とする畦塗り機。」

b そして、本件補正発明の畦塗り機の「整畦体」(以下「本件補正整畦体」という。)は、「回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ、前記整畦板を連結部材で相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した」ものである。

c 一方、本件補正明細書には、以下の記載がある。
(a)「整畦体6は、図4以下に示すが、その第1の実施例のものは図4(a)、(b)に示すように、偏心回転しながら畦の内側面を形成する整畦ドラム15の外周面に、回転中心から外周側に向けて、……複数……の整畦板15aを周方向に等間隔に形成し、……整畦ドラム15は、偏心回転しながら各整畦板15aを順に泥土に接して畦の内側面を形成するものである。各整畦板15aは大きさの異なる2枚の正方形状の連結部材15b,15cの各角部により相互(1枚置き)に溶接により連結して各整畦板15aの境界部分に段差部15dを形成し……」(段落【0015】)

(b)「上記整畦ドラム15は、上記図4の第1実施例のように、回転中心の取付け基部に、……複数枚の整畦板15aの基端部を、隣接する整畦板15aが相互に所定の重なりを有するよう取付け……」(段落【0020】)

(c)「図5(a)、(b)に示す第2実施例の整畦ドラム24は、図4の第1実施例の整畦ドラム15とは、上面修復体16の回転中心と偏心して外周側に向けて、その回転方向後側をわずかに突出させて直線状の後退角を有して複数(8枚)の整畦板24aを周方向に等間隔に配設し、外周縁を非円形に形成したほかは、整畦ドラム15と同様の構成を有している。」(段落【0021】)

(d)「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして、各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」(段落【0023】)

d 上記c(a)ないし(d)の摘記事項によると、本件特許の図8に記載された実施形態(第5実施例)の「整畦体」は、「偏心回転しながら畦の内側面を形成する整畦ドラム27の外周面に、回転中心から外周側に向けて、複数の整畦板27aを周方向に等間隔に形成し、整畦ドラム27は、回転中心の取付け基部に、複数枚の整畦板27aの基端部を取付け、各整畦板27aを重なり部分27bに沿って設けた連結片27c,27cにより固着し、各整畦板27aの境界部分に段差部を形成したもの」(以下「第5実施例整畦体」という。)であると認められる。

e 本件補正整畦体の構成と第5実施例整畦体の構成を対比すると、本件補正整畦体の「連結部材」は、「(整畦板を)連結する部材」を意味するものと認められるところ、第5実施例整畦体の「連結片27c,27c」も各整畦板27aを固着するものであって「連結部材」といえるから、第5実施例整畦体は、本件補正発明整畦体の構成をすべて具備している。
よって、本件補正発明整畦体は、第5実施例整畦体を包含するものである。

f なお、上記(1)ア及びイの請求人の主張については、
(a)本件補正発明は、「連結部材」が複数の整畦板を1枚置きに連結することを発明特定事項とするものではないことに照らせば、不服審判の請求書の「この補正は、図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」との記載は、「連結部材」を図4及び図5に記載された実施形態のものに限定することを意図したものとは認められないこと、
(b)本件補正明細書の「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」との記載は、図5に記載された第2実施例の「複数の整畦板を1枚置きに連結する連結部材」に代えて、「連結片」を用いることを意味すると解されること、及び、
(c)本件補正明細書には、「連結部材」が、当該用語から一般的に想起される「(整畦板を)連結する部材」ではなく、「複数の整畦板を1枚置きに連結する部材」を意味すると解すべき定義等の明確な根拠は見当たらないこと、
を踏まえると、いずれも採用できない。

(イ)本件訂正について
本件訂正の訂正事項1は、本件補正明細書の「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、……整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」(段落【0023】)との記載及び図8(a)、(b)の記載を訂正の根拠とし、請求項1において、「整畦板を」「相互に連結」する「連結部材」が、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた」ものであること、及び「整畦ドラム」が、「連結部材で隣接する整畦板を相互に連結することにより」、「一体」として「構成され」ることを特定事項として追加するものである。
してみると、本件訂正の訂正事項1は、本件特許の図8に記載された実施形態(第5実施例)を包含する本件補正発明を、さらに本件補正明細書及び図面の第5実施例に係る記載に基づき限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正の訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものということはできない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第6項に規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由1により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人は、本件訂正の訂正事項1は、図4、5の実施形態(第1実施例及び第2実施例)に相当する発明を図8の実施形態(第5実施例)に相当する発明に変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、「誤記又は誤訳の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものでもない旨主張する。

(2)判断
上記1(2)で検討したとおり、本件訂正の訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記又は誤訳の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」のいずれを目的とするものでもないとすることはできない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由2により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

3 無効理由3及び4について
(1)請求人の主張
請求人は、
ア 本件補正明細書又は図面には、「重なり部分に沿って設けた連結片」が記載されているのみで、「境界部分(重なり部分を有しない境界部分)に沿って設けた連結片」は記載されていない旨(上記第4の3(3)アを参照。)、
イ 「連結片」ではなく、「連結部材」という記載では、「片」といえないような部材まで、広く含まれることとなる旨(上記第4の3(3)イを参照。)、
ウ 本件補正明細書には、「連結部材(連結片)が回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定される」という構成や、「連結部材(連結片)が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という構成についての記載も示唆もなく、そもそも「整畦面」や「延在」という文言すら見当たらない旨(上記第4の3(4)イを参照。)、
エ 本件訂正の訂正事項2における「前記連結部材は、……回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という記載は、連結片が回転方向後側に位置する整畦板の回転方向前端面に一体に設けられた構成に加え、連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定された構成をも含むものである旨(上記第4の3(4)ウを参照。)、及び、
オ 図8(b)を参照すると、連結片は、その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になったものであり、「延在する/しない」という技術的思想は、当初明細書等には元々なく、当該技術的思想を当初明細書等から導出できるものではないことは明らかである旨(上記第4の3(4)エを参照。)、を主張し、
よって、本件訂正の訂正事項1における「境界部分に沿って設けられた連結部材」との記載、及び本件訂正の訂正事項2における「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との記載は、本件補正明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではなく、また、その記載から自明な事項でもなく、新規事項追加に該当する旨主張する。

(2)判断
ア 本件補正明細書の請求項1の「前記整畦板を連結部材で相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した」との記載によれば、「連結部材」は、整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成するものであり、整畦体は、泥土を元畦に塗りつけて、元畦を修復するものであることを踏まえれば、連結部材は、泥土の塗りつけに支障のない位置に設けられることは、自明の事項である。

イ 本件補正明細書の「その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15(あるいは24,25,26,27,28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。」(段落【0026】)の記載に照らせば、整畦ドラム27の畦法面を叩く側が整畦面であると認められるから、図4ないし図8において、整畦板27aの表面が整畦面であることは明らかである。

ウ 図4ないし図7を参照すると、本件補正明細書又は図面に記載された第1実施例ないし第4実施例において、連結部材はいずれも整畦板の整畦面の裏面に固定されている。

エ 本件補正明細書の「図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、……整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして、各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」(段落【0023】)との記載を踏まえて図8(a)(b)をみると、隣接する整畦板27aの重なり部分27bに沿って連結片27c,27cが設けられていること、及び、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していないことがみてとれる。

オ 「延在」という用語は、広辞苑等の辞書の見出し語にはないが、特許用語としては用いられており、「延在しない」とは、「延びておらず、存在してない」という意味に解される。

カ そして、上記アのとおり、本件補正明細書の請求項1の「連結部材」は、「整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成する」ものであるところ、上記エのとおり、第5実施例では、「隣接する整畦板27aの重なり部分27bに沿って連結片27c,27cが設けられている」ことを踏まえると、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」との本件特許の請求項1の構成は、自ずと導き出される事項にすぎない。
また、上記アのとおり、本件補正明細書の請求項1の「連結部材」は、「整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成する」ものであるところ、上記ウのとおり、第1実施例ないし第4実施例において、連結部材はいずれも整畦板の整畦面の裏面に固定されていること、及び上記エのとおり、第5実施例では、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していないことを踏まえると、連結部材は、隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板の側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板の整畦面に露出していないこと、すなわち、「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との本件特許の請求項1の構成は、自ずと導き出される事項にすぎない。

キ よって、本件訂正の訂正事項1及び訂正事項2には、本件補正明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当するとはいえない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由3及び4により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

ク なお、請求項1に「延在しない」との文言が追加された経緯は、上記第5の3(4)エの被請求人の主張のとおりであり、訂正審判の審決において独立特許要件について検討し、本件訂正発明は、先願(特願2001-263896号、乙第23号証)の明細書又は図面に記載された発明と同一ではないと判断されたものである。

4 無効理由5について
(1)各甲号証の記載
ア 甲第1号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある(下線は審決で付した。)。

(ア)「【請求項3】 畦形成箇所に沿って移動され、畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と、土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し、畦形成装置は、土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と、円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに、表面は放射状の分割片に分割され、分割片は進行方向に対して前進角を設けられ、隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】 この発明は、畦形成機に係る。詳細には、走行車に付設されて進行され、その進行方向に順次畦を形成する畦形成機に係る。」

(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来の畦形成機では、内側回転体および外側回転体とも表面は円滑面からなっていたため、圃場の土質の種類によってあるいは圃場の土が乾燥しているときは、畦側面の締め込み力が弱いという課題を有した。」

(エ)「【0008】 ……円錐回転体は、回転駆動力供給側にいく程径大となるとともに、表面は放射状の分割片に分割されているため、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。更に、分割片は進行方向に対して前進角を設けられ、隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される場合は、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。又、分割片は進行方向に逃げ角を有して断続圧を繰り返す場合は、粘性の強い土が付着しようとしても、直ちに剥離されるので土の付着が成長することもない。」

(オ)「【0011】 21は土盛装置である。22は、土盛装置に於ける土盛回転軸である。土盛回転軸22は一端は第2変速ケースで減速されて図1矢印図示方向に、すなわち畦形成機の進行方向の順方向に回転される。23は切削爪である。切削爪23は、それぞれ先端は機枠11の反対側に突設され、基部は土盛回転軸22に放射方向を取るよう複数個取り付けられる。24は小径爪である。小径爪24は、切削爪23より小型からなり、土盛回転軸22の先端に軸端から横刃が突出した状態で一対取り付けられる。」

(カ)「【0013】 41は、畦形成装置である。畦形成装置41は、土盛装置21のトラクタによる牽引移動方向の後方に設置される。畦形成装置41は、円筒回転体42と円錐回転体43とからなる。……
【0014】 円錐回転体43はステンレス製からなり、図3に図示されるように回転駆動力供給側すなわちトラクタ側にいく程径大となる全体としてはほぼ円錐台状からなり、円筒回転体42の回転駆動力供給側すなわち円筒回転体42よりも機枠11寄りで、第2従動回転軸35の先端に円筒回転体42の中央に傾斜面を向けて取り付けられ、第2従動回転軸35の回転により土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所Aの機枠11側側面を移動方向に強制的に順回転される。……
【0015】 円錐回転体43の表面は放射状の分割片44に分割される。分割片44は図4に図示されるように、側面視ジグザグ状となり、進行方向fに対して前進角Aを設けられる。隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。aは、土との当接面、bは逃げ面である。」

(キ)「【0016】そのため、走行車であるトラクタの進行にともない、土盛装置21および畦形成装置41は移動される。すると、土盛装置21により畦形成箇所Hに土を盛り上げ状態に供給する。すなわち、畦形成箇所Hの旧畦の崩れた上面部および側面部に土が盛り上げ状態に連続的に供給される。円錐回転体43は、回転駆動力供給側すなわち走行車側にいく程径大となるとともに、表面は放射状の分割片44に分割され、分割片44は進行方向に対して前進角Aを設けられ、隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結されるため、土盛には当接面aがまず当接し、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。又、分割片は進行方向に逃げ角Bを有して断続圧を繰り返すので、粘性の強い土が付着しようとしても、直ちに剥離されるので土の付着が成長することもない。」

(ク)「【0017】 図5、図6に図示される他の実施の形態では、円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。45は分割片取り付け盤であり、ステンレス製等の金属製からなる。分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり、その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46の上に重ねられた隣接する分割片44とで当接面a、逃げ面bを構成し、かつ相互の間で前進角A、逃げ角Bを構成する。この実施の形態では分割片44は別個に製造可能となるので生産性が向上する。」

(ケ)図3及び図4をみると、複数の分割片は、周方向に等間隔に配設されていることがみてとれる。

(コ)図3及び図5をみると、隣接する分割片44のうち、回転方向前側に位置する分割片44の回転方向後側の側縁が、直線状であることがみてとれる。

(サ)上記(ア)ないし(コ)によると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「走行車に付設されて進行され、その進行方向に順次畦を形成する畦形成機であって、
畦形成箇所に沿って移動され、畦形成箇所の旧畦の崩れた上面部および側面部に土を盛り上げ状態に連続的に供給する土盛装置と、土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し、
畦形成装置は、土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と、円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに、表面は放射状の分割片に分割され、分割片は進行方向に対して前進角を設けられ、隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結されてなり、土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所の側面を移動方向に強制的に順回転されて、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込み強固な畦を形成する円錐回転体とからなり、
複数の分割片は、周方向に等間隔に配設され、
隣接する分割片のうち、回転方向前側に位置する分割片の回転方向後側の側縁が、直線状である畦形成機。」

イ 甲第9号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、圃場の畦面に畦土を塗着ける畦塗方法と、その装置に関する。」

(イ)「【0010】
【第一実施例】第一実施例を図1?図3に基づいて説明する。畦塗装置1は、畦際や畦法面B1を耕耘する耕耘爪3とこの畦法面B1や畦上面B2に畦土を塗着する塗着装置4とから構成され、四輪走行形態のトラクタ車体6の後側に三点リンク機構7に装着される。」

(ウ)「【0014】前記塗着装置4は、円錘形状の塗着ディスク5と、この外側頂部側にロール形体の塗着ロール27とから形成されて、伝動ケース21に軸装の回転軸28に固定される。この塗着装置4によって耕耘爪3で耕耘された畦面B上の生石灰混合の畦土を鎮圧し塗着する。」

(エ)「【0017】
【第二実施例】第二実施例を図4?図6に基づいて、上例と異なる点について説明する。前記塗着装置4の塗着ディスク5を、拡縮可能にして、円錐形状の傾斜各αを変えることができ、畦法面B1の傾斜面に適応させるものである。塗着ディスク5は、円錐面方向に等分角毎に分割した形態のディスク片29を形成する。この各ディスク片29は、頂部側を塗着ロール27の内端部にピン30で支持し、拡端側の内面に揺動ロッド31を連結する。この揺動ロッド31の先端を回転軸28に嵌合のスライダー32に連結する。各ディスク片29は隣接辺部を相互に重合させて、該スライダー32を回転軸28に沿って移動して、該塗着ディスク5の開角度βを変えることができる。」

ウ 甲第10号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。

(ア)「この発明は、耕耘用ディスク、さらに詳しくは、トラクタなどにより牽引される耕耘装置の回転軸に固定されて土壌の切削、反転を行なうディスクに関する。」(1頁右欄5ないし8行)

(イ)「第1図および第2図は1枚のディスク(20)を示し、第3図?第6図はその要部を拡大して示す。
ディスク(20)は1枚の鋼板により彎曲円板状に形成されており、その中心にはこれを耕耘装置の回転軸(14)に通すための穴(22)が設けられている。」(3頁右上欄末行ないし同頁左下欄6行)

(ウ)「第8図および第9図は、上記と異なるディスク(30)を示す。
このディスク(30)は、正方形状のディスク本体(32)とその4辺に着脱自在に固定された4つの継刃(33)とから彎曲円板状をなすように構成されている。……本体(32)の4辺には、彎曲凹面(32a)の反対側に屈曲した長方形状の受け板(34)が一体に設けられており、これらの受け板(34)に継刃(33)の一部がねじ(35)とナット(36)などを使用して固定される。なお、受け板(34)は溶接により本体(32)に接合されてもよい。……
このディスク(30)には、継刃(33)の取替えが容易であるという利点がある。」(4頁左上欄7行ないし右上欄6行)

エ 甲第11号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、以下の記載がある。

(ア)「本発明は、耕うん機やあぜ立機などの土の耕うん作用に供される刃(耕うん刃と称す)に関する。」(1頁1欄11ないし13行)

(イ)「土の耕うんやあぜ立に供される耕うん刃は、耐摩耗性が要求されるほかに、腰の強さが大きく、しかも変形抵抗が高くて靭性にも優れることが要求される。このため、1枚の耕うん刃においても、刃部、背部、基部等でその硬さや厚みを工夫し、この要求を満たす努力が重ねられてきた。……
更に別の製造法としては、刃部と基部をそれぞれ別の鋼板から打抜き、所要の整形を行なつたあと、両者を溶接などで接合し、次いで全面焼入れおよび全面低温焼戻しを行なうが、またはその順序を逆にして全面焼入れおよび全面低温焼戻しを行つてから両者を溶接などで接合する、等の方法も提案されている。」(1頁1欄14行ないし同頁2欄17行)

オ 甲第12号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、以下の記載がある。

(ア)「本考案は、耕耘爪を小馬力のプレス機械によつて容易に打抜き加工出来て其の加工を極めて容易なものに成らしめ得るものであり、しかも爪の弾性を充分に発揮せしめる事が出来る耕耘爪車を得しめんとするものである。」(1頁1欄7ないし11行)

(イ)「……本考案の如く耕耘爪を複数枚重ね合せ板からから構成し、此の複数枚の重ね合せ板を耕耘爪軸爪ブラケツト近傍部でのみ連結固定させて構成させる事によつて、……小型の馬力の小なるプレス機械によつても極めて容易に打抜きプレス加工出来、丈夫な各耕耘爪の加工を容易にして耕耘爪車を安価に製造出来、」(1頁2欄9ないし18行)

(2)対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「走行車」及び「畦形成機」は、本件訂正発明の「走行機体」及び「畦塗り機」に、それぞれ相当する。

イ 甲1発明の「畦形成箇所に沿って移動され、畦形成箇所の旧畦の崩れた上面部および側面部に土を盛り上げ状態に連続的に供給する」「土盛装置」は、本件訂正発明の「畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する」「土盛体」に相当する。

ウ 甲1発明の「土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所の側面を移動方向に強制的に順回転されて、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込み強固な畦を形成する」、「円筒回転体」と「円錐回転体」とからなり、「土盛装置の移動方向の後方に設置される」「畦形成装置」は、本件訂正発明の「この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の」「整畦体」に相当する。

エ 甲1発明の「走行車に付設されて進行され」、「土盛装置」と「畦形成装置」とを有する「畦形成機」と、本件訂正発明の「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ」る「土盛体」と、「整畦体」と、を有する「畦塗り機」は、「走行機体の後部に連結され、土盛体と、整畦体と、を有する畦塗り機」である点で共通する。

オ 甲第1号証の「図5、図6に図示される他の実施の形態では、円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。」(段落【0017】)との記載に照らせば、甲1発明の「分割片」は、独立片であってもよいから、甲1発明の「分割片」及び「円錐回転体」は、本件訂正発明の「整畦板」及び「整畦ドラム」に、それぞれ相当し、甲1発明の「円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに、表面は放射状の」「周方向に等間隔に配設され」た「分割片に分割され」、「土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所の側面を移動方向に強制的に順回転されて、畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら、断続圧を加えて練り込み強固な畦を形成する」「円錐回転体」は、本件訂正発明の「回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成」され、「回転しながら畦を形成する」「整畦ドラム」に相当する。

カ 甲1発明の「隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結されてな」ることは、本件訂正発明の「各整畦板の境界部分に段差部を形成」することに相当する。

キ 甲1発明の「隣接する分割片のうち、回転方向前側に位置する分割片の回転方向後側の側縁が、直線状である」ことは、本件訂正発明の「前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であ」ることに相当する。

ク 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「走行機体の後部に連結される、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体と、を有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、
回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、
各整畦板の境界部分に段差部を形成し、
前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状である畦塗り機。」

ケ 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明では、走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠を有し、この機枠に土盛体が回転自在に設けられるのに対し、甲1発明では、畦形成機は、走行車に付設されるが、機枠を有しているか否かが不明である点。

<相違点2>
本件訂正発明では、各整畦板の基端部は回転中心の取付け基部に取付けられるのに対して、甲1発明では、円錐回転体は円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられるが、その取付構造が特定されていない点。

<相違点3>
本件訂正発明では、隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成され、連結部材は、隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないのに対して、甲1発明では、分割片相互の連結構造が特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
本件補正明細書に、「従来、走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体(整畦ドラム)とを備えた畦塗り機が周知である。」(段落【0002】)と記載されているように、畦塗り機において、走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠を設け、この機枠に土盛体を回転自在に設けることは、周知技術にすぎないから、甲1発明において、当該周知技術を適用し、上記相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
甲第1号証には、円錐回転体又は分割片の取り付けに関し、「円錐回転体43は……円筒回転体42の回転駆動力供給側すなわち円筒回転体42よりも機枠11寄りで、第2従動回転軸35の先端に円筒回転体42の中央に傾斜面を向けて取り付けられ、……」(上記(1)ア(カ)を参照。)、及び「分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり、その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。」(上記(1)ア(ク)を参照。)と記載されるにとどまり、第2従動回転軸35の先端に分割片の基端部を取り付けることは、記載も示唆もされていない。
また、甲第9号証ないし甲第12号証は、回転しながら農作業する作業部材において、一連の部材で一体製作することに代えて、別個に製造した複数の部品を組み合わせて同一形状に製作することが周知技術であることの根拠として提示されたものであり、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることを教示するものではない。
してみると、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 相違点3について
甲第1号証には、分割片相互の連結構造に関し、「分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり、その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。」(上記(1)ア(ク)を参照。)と記載されるにとどまり、隣接する分割片の境界部分に沿って設けられた連結部材で隣接する分割片を相互に連結することにより、一体の前記整畦ドラムが構成されること、及び連結部材は、隣接する分割片のうち、回転方向前側に位置する分割片の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する分割片の整畦面に延在しないことは記載も示唆もされていない。
また、甲第9号証ないし甲第12号証は、回転しながら農作業する作業部材において、一連の部材で一体製作することに代えて、別個に製造した複数の部品を組み合わせて同一形状に製作することが周知技術であることの根拠として提示されたものであるが、甲第9号証に記載された塗着ディスク5(「整畦ドラム」に相当。)のディスク片29(「整畦板」に相当。)は、頂部側を塗着ロール27の内端部にピン30で支持し、拡端側の内面に揺動ロッド31を連結するものであり(上記(1)イ(エ)を参照。)、甲第10号証ないし甲第12号証に記載されたものは、別体の刃部と基部を接合することにより耕耘刃を製造するもの(上記(1)ウないしオを参照。)であって、いずれも甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることを教示するものではない。
してみると、甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

エ 請求人の主張
請求人は、甲第1号証には、分割片取り付け盤45を有しない一体の円錐回転体43が実質的に記載されているといえること、及び甲第9号証ないし甲第12号証に記載のように、回転しながら農作業する作業部材において、一連の部材で一体製作することに代えて、別個に製造した複数の部品を組み合わせて同一形状に製作することが周知技術であることに照らせば、甲第1号証には、図3及び図4に記載された実施の形態において、隣接する分割片を境界部分に沿って設けられた連結部材で相互に連結することが実質的に記載されているか、又は当業者が容易になし得ることである旨主張する。
しかし、上記ウのとおりであって、請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1発明と同一であるとも、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由5により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

5 無効理由6について
(1)請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1に記載された、「整畦板の回転方向後側の側縁」が「直線状」であること、及び「連結部材」は、「隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」ことの技術的意義が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても理解することができず、また、本件特許の請求項1に記載された「取付け基部」がどの部分を意味するのか本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参照しても理解できないから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより当業者が本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張する。

(2)判断
ア 特許法第36条第4項で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解できるように、発明が解決しようとする課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を明細書の発明の詳細な説明に記載することが規定されている。

イ 一方、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(なお、丸付き数字は括弧付き数字に置き換えた。)。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の畦塗り機においては、整畦ドラムの側面修復体が円錐状の円弧面または円錐状の多段平面を有しており、……土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態によっては、所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある、という問題点があった。また、整畦ドラムは、円錐状の円弧面または円錐状の多段平面など有しているところから、その形状や製造上、作用等において改良すべき点があった。
本発明は、上記の問題点を解決することを目的になされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を特徴としている。
A.走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって、前記整畦体は、回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した。
【0005】
B.上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成した。
C.上記複数の整畦板を、複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した。
……
【0007】
【作用】
上記A.?D.の構成により本発明の畦塗り機における整畦体(整畦ドラム)は、以下の作用を行う。
(1).回転しながら畦を形成する整畦ドラムは、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成することで、整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を、回転しながら各段差部により間欠的に叩打し、泥土を固めながら元畦に塗りつけ、従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成する。
【0008】
(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成することで、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成でき、しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする。
(3).複数の整畦板を、複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成することで、整畦ドラムの製造が簡単になる。」

ウ 上記摘記事項によると、本件訂正発明は、「泥土の状態によっては、所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」との課題を解決するために、解決手段として、「各整畦板の境界部分に段差部を形成」するものであり、また、従来の整畦ドラムは、「その形状や製造上、作用等において改良すべき点がある」との課題を解決するために、解決手段として「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記側面修復体」を構成する等するものであると理解できるから、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないということはできない。

エ また、本件訂正明細書には、「上記整畦ドラム15は、上記図4の第1実施例のように、回転中心の取付け基部に、平面視で内端側の幅が狭く、外端側の幅が次第に広くなる複数枚の整畦板15aの基端部を、隣接する整畦板15aが相互に所定の重なりを有するよう取付け……」(段落【0020】)と記載されており、当該記載並びに請求項1及び図4の記載に照らせば、本件特許の請求項1に記載された「回転中心の取付け基部」は、「整畦ドラム」の「回転中心」に位置する部材であると理解できる。

オ そして、本件訂正発明は、本件訂正明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて、当業者がその物を製造できないものともいえない。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由6により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

6 無効理由7について
(1)請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1に記載された、「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成、及び「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」との構成は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。

(2)判断
本件訂正明細書の発明の詳細な説明又は図面には、上記3(2)イないしエと同様の事項が記載されているから、上記3(2)における検討と同様に、本件訂正明細書又は図面には、本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結」し、「前記連結部材は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」が実質的に記載されているものと認められる。
よって、本件訂正発明は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由7により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

7 無効理由8について
(1)請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1の記載において、「整畦面」は、整畦板のうちのどこを意味するのか不明であり、「整畦板の整畦面に延在しない」は、否定的表現であって不明確であり、「整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」は、連結部材が整畦板のどこに設けられ、どこに固定されているか不明であり、「回転中心の取付け基部」とは、どの部分を意味するのか不明であり、さらに、本件訂正明細書に記載された「重なり部分」及び「垂直段部」との文言は、本件特許の特許請求の範囲に記載されていないから、本件訂正発明は明確ではない旨主張する。

(2)判断
本件訂正明細書の詳細な説明及び図面には、上記3(2)イないしエと同様の事項が記載されているから、整畦ドラム27の畦法面を叩く側が「整畦面」であると認められ、上記3(2)における検討と同様に、「連結部材」は、「(隣接する)整畦板の境界部分に沿って設けられ」、「(回転方向後側に位置する)整畦板の整畦面に延在しないこと」についても、「連結部材は、隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられ、回転方向後側に位置する整畦板の側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板の整畦面に露出していないこと」を意味すると認められるから、本件特許の請求項1の記載において、「整畦面」の位置、並びに「連結部材」が設けられる位置及び固定箇所は明確である。
また、上記5(2)エにおいて検討したとおり、本件特許の請求項1に記載された「回転中心の取付け基部」は、「整畦ドラム」の「回転中心」に位置する部材であると認められるから、本件特許の請求項1の記載において、「回転中心の取付け基部」は明確である。
さらに、本件訂正明細書には、「整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成した。」(段落【0005】)、「該整畦板15aの重なり部分に、図示しないが折返し部を設けて上下に固着し、……螺旋状の垂直段部を形成してもよいものである。」(段落【0020】)、「各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」(段落【0023】)と記載されており、当該記載に照らせば、「垂直段部」は、各整畦板の境界部分に形成されるものであって、本件特許の請求項1に記載された「段差部」に相当することは明らかであり、また本件訂正明細書に記載された「重なり部分」が、本件特許の特許請求の範囲に記載されていないからといって、本件訂正発明が不明確になるというものでもない。
よって、本件訂正発明が明確でないとすることはできない。
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由8により本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由によっては、本件訂正発明の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-02 
結審通知日 2016-02-04 
審決日 2016-02-16 
出願番号 特願2001-265939(P2001-265939)
審決分類 P 1 123・ 831- Y (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 信也  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
中田 誠
登録日 2012-05-25 
登録番号 特許第5000051号(P5000051)
発明の名称 畦塗り機  
代理人 ▲高▼見 憲  
代理人 福永 健司  
代理人 林 佳輔  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 幸谷 泰造  
代理人 弓削田 博  
代理人 樺澤 襄  
代理人 北島 志保  
代理人 樺澤 聡  
代理人 小林 幸夫  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 河部 康弘  
代理人 和田 祐造  
代理人 山田 哲也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ