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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
管理番号 1323336
審判番号 不服2014-24036  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-26 
確定日 2017-01-06 
事件の表示 特願2008-502034「音響を低減させる楔形ポリマー中間層」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日国際公開、WO2006/101960、平成20年 8月21日国内公表、特表2008-532917〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年3月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年3月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年11月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年8月14日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年7月25日付けで拒絶査定がされ、同年11月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年3月16日付けで上申書が提出され、平成27年10月14日付けで当審からの拒絶理由が通知され、平成28年4月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成28年4月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
16wt%以下のヒドロキシル含有量を有し、40?90phrの可塑剤を含み、25℃未満のガラス転移温度を有する可塑化されたポリ(ビニルブチラール)ポリマーシートを含むフロントガラス中間層であって、
該フロントガラス中間層は、楔形をしており、かつ、第1の端および第2の端を有し、前記第1の端が少なくとも0.38mmの厚さを有し、前記第2の端が前記第1の端の前記厚さを少なくとも0.13mm超える厚さを有し、
該ポリマーシートは、30?33℃の間のガラス転移温度を有する楔形のポリマーシートと比較した場合、少なくとも2デシベルの音響透過損失の改善をもたらす、中間層。」(以下、「本願発明1」という。)

第3.当審における拒絶理由の概要
平成27年10月14日付けの当審からの拒絶理由の1つ(理由4)は、「本願発明1は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

引用例1:特開2001-316140号公報
引用例2:米国特許出願公開第2002/86141号明細書
引用例3:特表平07-508690号公報
引用例4:国際公開第99/046213号

第4.本願発明に対する判断
1.引用例の記載事項
(1)引用例1の記載事項
引用例1(特開2001-316140号公報)には、「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「【請求項2】 ポリビニルアセタール樹脂、及び、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選ばれる少なくとも1種の可塑剤からなる膜を積層してなる合わせガラス用中間膜であって、動的粘弾性より得られる損失正接の温度依存性において、最も低温側の極大値が示す温度が30℃以下であることを特徴とする合わせガラス用中間膜。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐湿性能、高温下での耐板ズレ性と耐発泡性、取扱性能に優れ、しかも優れた遮音性能を有し、更には遮熱性、電磁波透過性に優れた合わせガラス用中間膜及び合わせガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、一対のガラス板間に中間膜が挟着されてなる合わせガラスは、破損時に破片が飛散せず安全性に優れているため、例えば自動車等の交通車両の窓ガラスや建築物の窓ガラス等に広く用いられている。
【0003】こうした合わせガラス用の中間膜のうち、可塑剤の添加により可塑化されたポリビニルブチラール樹脂からなる中間膜は、ガラスとの優れた接着性、強靱な引っ張り強度及び高い透明性を兼ね備えており、この中間膜を用いて得られる合わせガラスは、特に、車両用窓ガラスとして好適である。」
(ウ)「【0051】一般に、高分子材料の動的粘弾性測定を行うと、貯蔵弾性率及び損失弾性率の2種類の動的弾性率と、それらの比として損失正接(tanδ)が得られる。・・・一般に、この最大値を示す温度は、その材料のガラス転移温度(Tg)、すなわち軟化温度に相当する。」
(エ)「【0052】・・・ところが、積層体の状態で、個々の層のTgを測定することは非常に困難であった。積層する前の各層のTgを測定すればよいが、ある種の樹脂、可塑剤の組み合わせでは、各層を積層後、層間で可塑剤の移行が生じ、始めに測定した各層のTgは意味をなさないことがある。ところが、せん断方法による動的粘弾性の測定を行うと、積層体における各層のtanδ挙動が現れ、この挙動から各層のTgが見積もれることが判った。」
(オ)「【0053】本発明2の合わせガラス用中間膜の最も低温側の極大値を示す温度は、積層体中最も柔らかい層の存在を意味し、この温度が30℃以下であれば、その積層体を用いた合わせガラスの遮音性能は極めて優れる。30℃を超えると、その積層体は室温付近で充分な柔軟性を示すことがなく、従ってその積層体を用いた合わせガラスは、室温付近で優れた遮音性能を示すことがない。」
(カ)「【0054】せん断方法による動的粘弾性の測定は、一般的に用いられる動的粘弾性測定装置を用いて行うことができ、その原理は微小振動を有する歪みを試料に印加し、その応答である応力を検出し、弾性率を算出するものである。得られた損失弾性率及び貯蔵弾性率の2種類の弾性率から、その比として損失正接(tanδ)を求める。tanδは温度に対して最大値を示す。このtanδの最大値が示す温度を、その材料のガラス転移温度とする。」
(キ)「【0057】本発明2の合わせガラス用中間膜は、少なくとも1層が、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤量が、他層よりも5重量部以上多いことが好ましい。5重量部以上多いことにより、積層体中に柔軟な層が形成され、損失正接の温度依存性を達成することができる。5重量部未満であると、積層体中の柔軟層形成に著しい効果が観られず、遮音性能が充分ではない。」
(ク)「【0082】本発明1及び本発明2の合わせガラス用中間膜の製膜方法としては特に限定されず、例えば、各層をそれぞれ別々に成形したのちこれらをガラス板の間に積層させる方法、各層を多層成形機を用いて一体成形させる方法等が挙げられる。
・・・
【0084】本発明1及び本発明2の合わせガラス用中間膜は、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを混練し、混練して得られた混練物を、プレス成形機、カレンダーロール、押し出し機等でシート状に成形することにより製造できる。」
(ケ)「【0090】本発明2による合わせガラス用中間膜及び合わせガラスの用途としては特に限定されないが、特に遮音性能を付与させる目的で、車両用(特に自動車のフロント部、サイド部、リア部)及び建築用に好適に用いることができる。」
(コ)「【0107】<実施例4>
(層(A)の作製)ポリビニルブチラール樹脂(ブチラール化度=68.9mol%、アセチル化度=0.9mol%、以下PVB)に可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)を39重量部数(樹脂100重量部に対し)添加した。これら混合物をミキシングロールで充分に混練し、混練物の所定量をプレス成形機により150℃で30分間保持した。こうして厚み0.2mmの層(A)を作製した。
【0108】(膜(B)の作製)層(B)に、あらかじめ平均重合度が1700のポリビニルアルコール(以下、PVA)を用いて、ブチラール化度が64.5mol%、アセチル化度が14.3mol%のPVB樹脂を合成した。得られたPVB樹脂100重量部に対し、可塑剤として3GOを60重量部添加した。これら混合物をミキシングロールで充分に混練し、混練物の所定量をプレス成形機により150℃で30分間保持した。こうして厚み0.4mmの層(B)を作製した。また、これら樹脂と可塑剤の曇り点とを測定した。
【0109】(積層膜、及びそれを用いた合わせガラスの作製)上記のように得られた層(A)及び層(B)を、積層構成が層(A)/層(B)/層(A)になるように重ねて、3層中間膜を得た。得られた積層膜から20mm各を切り取り、動的粘弾性用とした。
【0110】次いで、中間膜をそれぞれ1辺が300mmの正方形で、厚み3mmのフロートガラス2枚で両側からサンドイッチし、この未圧着サンドイッチ体をゴムバッグへ入れ、2.7kPaの真空度で20分間脱気した後、脱気状態のまま90℃のオーブンに移し、この温度を30分間保持した。こうして真空プレスにより仮接着したサンドイッチ体を、次いでオートクレーブ中で圧力12kg/cm^(2)、温度135℃で熱圧着し、透明な合わせガラスを作製した。」
(サ)「【0119】(動的粘弾性の測定)測定装置には、レオメトリックス社製、固体粘弾性測定装置RSA-IIを用いた。積層体を10×16cmの矩形にサンプリングし、これに測定周波数=10Hzの正弦歪みをせん断方向で、歪み量0.1%で印加した。測定温度範囲は-20℃?+100℃、昇温速度=3℃/min.にて測定した。これら条件のもと、動的粘弾性特性として、貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)と、これらの比である損失正接(tanδ)とを測定した。次に、得られたtanδの温度曲線からその最大値が示す温度を求め、これをガラス転移温度とした。
(シ)「【0122】
【表2】


(ス)「【0143】
【表3】



(2)引用例2の記載事項
引用例2(米国特許出願公開第2002/86141号明細書)には、「LAMINATED GLASS WINDSCREEN INTENDED TO BE USED AT THE SAME TIME AS A HUD SYSTEM REFLECTOR」(当審の訳:「HUDシステムの反射鏡としても兼用される積層フロントガラス」)(発明の名称)について、次の記載がある。
(セ)「[0002] The present invention relates to a laminated glass windscreen having a predetermined taper angle and intended to be used at the same time as a reflector in a HUD systm.」
(当審の訳:「本発明は、所定のテーパ角を有し、HUDシステムにおけるミラーとしても利用できるようにあらかじめ設定された断面テーパー角度を有する積層フロントガラスに係わる。」
(ソ)「[0019] Referring to FIG. 1, the windscreen 1 is provided along its upper edge with a tinted filtering strip 2. As illustrated in FIG. 2, this windscreen may be produced with a taper angle θ in order to ensure superimposed reflection of an image by the exterior surfaces 31 and 61 of the panes 3 and 6. In this example, the taper angle θ is selected to be 0.5 mrad.
[0020] At its upper edge, the laminated glass windscreen 1 has a radius R_(1) of 3.30 m, and its height h is 0.80 m. The thermoplastic sheet 4 comprising the tinted filtering strip 2 is made of polyvinyl butyral (PVB). Initially, it has an overall thickness and, after drawing on its upper edge, of 0.76 mm (d_(1)). From the geometrical ratios and prescribed data, it is possible to deduce the taper angle k_(1) which is obtained by stretching the PVB sheet 4 with the desired radius of curvature R_(1), using the formula:
k_(1) = d_(1) /(R_(1) + h)
[0021] where d_(1) is the initial thickness of the sheet, R_(1) is the radius of curvature at the upper edge, and h is the height of the sheet, which gives k_(1) = 0.185 mrad.
[0022] In order to obtain the required taper angle θ of 0.5 mrad, it is necessary to add a second thermoplastic sheet 5, also made of PVB, having a taper angle k_(2) of 0.315 mrad, such that 0.5 mrad - θ= k_(1) + k_(2). For an initial thickness d_(2) = 1.52 mm of the second sheet, the relation:
R_(2) = d_(2) / k_(2) - h
[0023] gives, for this sheet, a required stretching radius of 4.025 m.」
(当審の訳:「図1に示すように、フロントガラス1はその上縁に沿って着色フィルター帯2を有する。図2に示すように、ガラス3及び6の外面31及び61による像反射が重なり合うようにするには、このフロントガラスを、断面テーパー角度が0.5ミリラジアン(mrad)となるように形成しなけれならない。
積層ガラス製フロントガラス1はその上縁のレベルにおいて曲率半径R_(1)が3.30m、高さhが0.8mである。着色フィルター帯2を含む熱可塑シート4はポリビニルブチラール(PBV)製である。延伸後のシート4全体の初期厚さはその上縁において0.76m(d_(1))である。所定の幾何学的関係及び諸条件から、下記式に基づき、所要の曲率半径R_(1)に従ってPVBシート4を延伸することによって断面テーパー角度K_(1)が得られる:
K_(1) =d_(1)/(R_(1) +h)
ただし
d_(1) シートの初期厚さ、
R_(1):上縁における曲率半径、
h :シートの高さ。
この計算によって、K_(1) =0.185mradが得られる。
必要な断面テーパー角度0.5mradを得るには、前記シート4と同様にPVBで形成され、断面テーパー角度K_(2)が0.315mradである第2熱可塑シート5を付加しなければならない。第2シート5の初期厚さd_(2) =1.52mmならば、関係式
R_(2) =d_(2) /K_(2) -h
によって、このシートに必要な延伸曲率半径4.025mが得られる。」)
(タ)Fig.2「



(3)引用例3の記載事項
引用例3(特表平7-508690号公報)には、「ヘッドアップディスプレイ風防のための成形された中間層およびその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(チ)「この発明は風防へのヘッドアップディスプレイ(head-up display)を製造するのに有用な成形された中間層(shaped interlayers)に関する。」(第2頁右下欄第5行乃至第7行)
(ツ)「・・・切断後、部分的にくさび形のポリビニルブチラールの二つのロールは366メートル以上の長さに巻かれる。各ロールの最小の厚さ断面は762マイクロメータである。くさび角は0.36ミリラジアンである。くさびは膜の幅の公称50%におよぶ。シート材の平坦部分の平均厚さは965マイクロメータである。ロール幅は1.12メートルである。」(第4頁左下欄第7行乃至第24行)
(テ)FIG.2「



(4)引用例4の記載事項
引用例4(国際公開第99/046213号)には、「合わせガラス用中間膜」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ト)「本発明は、自動車風防ガラスに用いた場合にへッドアッブディスプレイ用として好適に用いることができる合わせガラス用中間膜、その製造方法、及び、当該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラス、並びに、合わせガラス用中間膜ロール体及びその製造方法に関するものである。」(第1頁第3行乃至第6行)
(ナ)「HUDの機構としては、これまで種々の形態のものが開発されている。例えば、HUD表示部が風防ガラス表面にはなく、風防ガラスに反射させることにより 運転者に風防ガラスと同じ位置(即ち、同一視野内)で視認させる形態のものがある。このような形態のものでは、風防ガラスを構成する合わせガラスが2枚の平行なガラスから構成されているため、運転者の視野に写る表示器が二重に見えるという欠点があった。
これを解決するために、米国特許第5013134号明細書では、中間膜として所定のくさび角度を有する中間膜を風防ガラス内に配設する技術が開示されている。・・・」(第1頁第15行乃至第23行)
(ニ)表1「


(ヌ)図4-2「



2.引用発明の認定
記載事項(ア)(ケ)(コ)(シ)によれば、引用例1には、合わせガラス用中間膜の実施例4として、ブチラール化度が68.9mol%、アセチル化度が0.9mol%のポリビニルブチラール樹脂及び、樹脂100重量部に対して39重量部の可塑剤とを含む厚さ0.2mmの層(A)と、ブチラール化度が64.5mol%、アセチル化度が14.3mol%のポリビニルブチラール樹脂及び、樹脂100重量部に対して60重量部の可塑剤とを含む厚さ0.4mmの層(B)とを、積層構成が層(A)/層(B)/層(A)になるように重ねた、5℃の「tanδ最低温側ピーク」と、遮音性能が20℃における「TL値」で「35dB」の3層中間膜が記載されている。
記載事項(イ)(ケ)によれば、引用例1には、ポリビニルブチラール樹脂が、自動車のフロント部に用いられる合わせガラス用の中間膜として使用されることが記載されている。
よって、引用例1には、
「ブチラール化度が68.9mol%、アセチル化度が0.9mol%のポリビニルブチラール樹脂及び、樹脂100重量部に対して39重量部の可塑剤とを含む厚さ0.2mmの層(A)と、ブチラール化度が64.5mol%、アセチル化度が14.3mol%のポリビニルブチラール樹脂及び、樹脂100重量部に対して60重量部の可塑剤を含む厚さ0.4mmの層(B)とを、積層構成が層(A)/層(B)/層(A)になるように重ねた、総厚が0.8mm、tanδ最低温側ピークが5℃で、20℃における遮音性能が、TL値で35dBであり、自動車のフロント部に用いられる合わせガラス用の中間膜。」が記載されていると認められる(以下、「引用発明1」という。)。

3.対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「中間膜」は、本願発明1の「中間層」に相当し、以下同様に、「自動車のフロント部に用いられる合わせガラス」は、「フロントガラス」に相当する。
引用発明1の「層(B)」は、「ポリビニルブチラール樹脂」と「可塑剤」を含むものであるから、本願発明1の「可塑化されたポリ(ビニルブチラール)ポリマーシート」に相当する。
引用発明1において、層(B)に含まれるポリビニルブチラール樹脂は、C_(8)H_(14)O_(2)(分子量142)からなるブチラール基を有する構成単位と、C_(4)H_(6)O_(2)(分子量86)からなるアセチル基を有する構成単位と、C_(2)H_(4)O(分子量44)からなるヒドロキシル基を有する構成単位からなり、ブチラール化度が64.5mol%、アセチル化度が14.3mol%の場合、ヒドロキシル基の割合は21.2mol%となることは、技術常識からみて明らかと認められる。
そして、この割合(mol%)に、それぞれの基を有する構成単位の分子量を乗算して質量割合(wt%)に換算すると、ヒドロキシル基を有する構成単位の割合は13.8wt%となり、本願発明1のヒドロキシル含有量「16wt%以下」を満たしているといえる。
「phr」は、「樹脂100重量部」に対する「重量部」を意味する単位であるから、引用発明1の層(B)に含まれる可塑剤の量は「60phr」となり、本願発明1の可塑剤の量である「40?90phr」の条件を満たす。
引用発明1において、中間膜が「層(A)/層(B)/層(A)になるように重ね」られた「積層構成」となっている点、及び、「20℃における遮音性能」が、「TL値で35dBであ」る点は、本願発明1が、中間層の構造や音響透過損失の絶対量に関する事項を発明特定事項としないものであるから、これらの点は本願発明1と引用発明1との相違点とはならない。
したがって、本願発明1と、引用発明1とは、
「16wt%以下のヒドロキシル含有量を有し、40?90phrの可塑剤を含む可塑化されたポリ(ビニルブチラール)ポリマーシートを含むフロントガラス中間層。」である点で一致し、下記の(相違点1)?(相違点3)で相違する。

(相違点1)
本願発明1のフロントガラス中間層は、楔形をしており、かつ、第1の端が少なくとも0.38mmの厚さを有し、第2の端が第1の端の厚さを少なくとも0.13mm超える厚さを有するのに対し、引用発明1の中間膜は、0.8mmの均一な厚さを有するものである点。

(相違点2)
本願発明1のフロントガラス中間層では、「16wt%以下のヒドロキシル含有量を有し、40?90phrの可塑剤を含」む「ポリマーシート」が、「25℃未満のガラス転移温度を有する」のに対し、引用発明1の中間膜では、「ポリマーシート」に対応する「層(B)」のガラス転移温度は不明であり、「tanδ最低温側ピーク」が「5℃」である点。

(相違点3)
30?33℃の間のガラス転移温度を有する楔形のポリマーシートと比較した場合に、本願発明1のフロントガラス中間層は、少なくとも2デシベルの音響透過損失の改善をもたらすのに対し、引用発明1の中間膜は、同様の比較をした場合に、どの程度の音響透過損失の改善をもたらすか不明である点。

(2)判断
(相違点1)について
引用例2の記載事項(セ)(ソ)(タ)には、HUD(head-up display:ヘッドアップディスプレイ)として使用するフロントガラスの中間層を、第2の端が0.76mmの厚さを有し、長さが0.8m、テーパ角が0.185mradの楔形の熱可塑シートと、第2の端が1.52mmの厚さを有し、長さが0.8m、テーパ角が0.315mradの楔形の熱可塑シートの積層構成とすることが記載されており、計算によって求められる積層構成からなる中間層の第2の端の厚さは2.28mm、第1の端の厚さは1.872mmであるから、第2の端が第1の端の厚さを0.408mm超える厚さを有している。
引用例3の記載事項(チ)(ツ)(テ)には、ヘッドアップディスプレイとして使用するフロントガラスの中間層を、第1の端が762マイクロメータ(0.762mm)の厚さを有し、第2の端が965マイクロメータ(0.965mm)の厚さを有するものとすることが記載されており、第2の端は第1の端の厚さを0.203mm超える厚さを有している。
引用例4の記載事項(ト)(ナ)(ニ)(ヌ)には、ヘッドアップディスプレイとして使用するフロントガラスの中間層を、第1の端が0.8mmの厚さを有し、第2の端が1.35mm又は1.5mmの厚さを有するものとすることが記載されており、第2の端は第1の端の厚さを0.55mm又は0.7mm超える厚さを有している。
引用例2-4に記載されているように、ヘッドアップディスプレイとして使用する自動車のフロントガラス中間層を、第1の端が少なくとも0.38mmの厚さを有し、第2の端が第1の端の厚さを少なくとも0.13mm超える厚さを有する楔形にすることは周知の技術にすぎない。
すると、引用発明1も、自動車のフロント部に用いられるものであり、その一態様であるヘッドアップディスプレイに用い得るものであるから、その形状を、第1の端が少なくとも0.38mmの厚さを有し、第2の端が第1の端の厚さを少なくとも0.13mm超える厚さを有する楔形として、ヘッドアップディスプレイとして使用するフロントガラスに適したものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点2)について
引用例1の記載事項(カ)によれば、「せん断方法による動的粘弾性の測定」により、「材料のガラス転移温度」を示す「tanδの最大値」を求めることができ、記載事項(エ)によれば、「積層体」に対してこの「せん断方法による動的粘弾性の測定」を行うと、積層体における「各層」のtanδ挙動が測定できるから、「tanδ最低温側ピーク」が「5℃」の、「層(A)/層(B)/層(A)」からなる引用発明1は、「層(A)」又は「層(B)」の少なくとも一層が、「5℃」のガラス転移温度を有していることになる。
さらに、記載事項(キ)によれば、「積層体中最も柔らかい層」は、「ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤量が、他層よりも5重量部以上多い」層であるから、引用発明1では、層(A)の「39重量部」より「21重量部」多い「60重量部」の可塑剤を含む「層(B)」が、「積層体中最も柔らかい層」となり、記載事項(オ)によれば、「合わせガラス用中間膜の最も低温側の極大値」、すなわち、「tanδ最低温側ピーク」が、「積層体中最も柔らかい層の存在を意味」するから、引用発明1における「積層体中最も柔らかい層」である「層(B)」が、「tanδ最低温側ピーク」の値である「5℃」という25℃未満のガラス転移温度を有しているといえる。
よって、この点は本願発明1と引用発明1との実質的な相違点でない。

(相違点3)について
引用例1には、「30?33℃の間のガラス転移温度」を有するポリマーシート」との比較は記載されていないが、引用例1の記載事項(オ)によれば、「30℃を超える」ガラス転移温度を有する中間膜は、「室温付近で優れた遮音性能を示すことがない」のに対し、「30℃以下」のガラス転移温度を有する中間膜は、「遮音性能」が「極めて優れる」ものである。
ここで、記載事項(ス)によれば、「20℃」における「遮音性能」が「34dB」の実施例14は、引用発明1の「35dB」より「1dB」低いが、「実施例」となっていることから、引用例1における「極めて優れる」「遮音性能」とは、「30℃を超える」ガラス転移温度を有する中間膜と比較して、「1dB」を超える少なくとも「2dB」以上であるといえる(引用例1において、遮音性能は自然数量として表されていることからみて、「1dB」を超える遮音性能の改善とは、少なくとも「2dB以上」と認められる。)。
また、引用発明1の中間膜は、本願発明1の「フロントガラス中間層」と同じ組成を有しているし、記載事項(シ)によれば、「37℃」の高いガラス転移温度を有する比較例8の中間膜との比較で、「10dB」という大きな遮音性能の改善が得られていることからも、「37℃」より低い「30?33℃の間のガラス転移温度」を有するポリマーシートとの比較でも、本願発明1と同程度の音響透過損失の改善が得られるものであるといえる。
よって、この点は本願発明1と引用発明1との実質的な相違点でなく、本願発明1における音響透過損失の改善の作用効果も、当業者の予測の範囲を超えるものであるとはいえない。

4.まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1及び、引用例2-4に記載された周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.請求人の主張について
請求人は平成28年4月14日付けで提出された、当審拒絶理由に対する意見書にて、「第4.3.(2)」で判断した事項に加えて、下記(1)、(2)についても主張をしているので、以下検討する。
(1)引用例1の請求項5には、「ポリビニルアセタール樹脂が、平均重合度が1500以上であり、アセタール化度が60?85mol%、アセチル基量が8?30mol%、かつアセタール化度とアセチル基量との合計が75mol%以上である」と記載されており、段落【0059】には、「平均重合度が1500未満であると、遮音性能が充分でなく」と記載されているから、引用例1記載の発明においては、アセタール化度及びアセチル基量のみではなく重合度も重要な因子である。
(2)引用例1には、合わせガラスの中間膜として用いる特定のポリビニルブチラール樹脂と可塑剤と含む層(B)を含む、楔形ではない一様な厚みの積層膜が、合わせガラスの遮音性能を改善することを開示するが、該積層膜を楔形状にした場合に、同様に遮音性能を改善するか否かについては何ら教示しておらず、引用例2-4は、特定形状の楔形が視認性を改善することを開示するが、遮音性能については何ら考慮していない。
よって、引用発明1に引用例2-4の楔形状とした場合に、所望の遮音性能及び視認性を得ることができるという、本願発明1の作用効果が得られるとは、容易に予測することはできない。

(1)について
拒絶理由における引用発明の認定は、本願発明1との対比において必要な限度ですれば良いから、重合度に関する事項を含まないものとして、引用発明1を認定した点に誤りはない。
なぜならば、重合度を含めて引用発明1を認定しても、本願発明1においては、重合度についての特定はないから、当該重合度の中間膜を含む引用発明1を包含するものであって、この点は本願発明1と引用発明1との相違点とならないからである。
よって、(1)についての主張は採用できない。

(2)について
当業者の技術常識によれば、ガラスの音響透過損失は質量則によって決まるものであって、密度の小さい中間膜は、ガラスに比べて音響透過損失に大きな影響を与えないから、中間膜の厚さが音響透過損失に大きな影響を与えるものとはいえず、場所によって厚みの異なる「楔形」のポリマーシートであっても、「フロントガラス中間層」として用いた場合、一様な厚みを有するポリマーシートと同等な音響透過損失が得られることは、当業者であれば予測し得る事項にすぎない。
よって、引用発明1においても、ヘッドアップディスプレイに用いるため、合わせガラスの中間膜を楔形とした場合には、「5℃のガラス転移温度を有する層(B)」による「遮音性能」と、「楔形」による「視認性」とが同時に得られることは、当業者であれば容易に予測し得る作用効果であるといえるから、(2)についての主張も採用できない。

したがって、当該意見書の主張(1)、(2)はいずれも採用できないから、「第4.3.(2)」で判断したとおり、本願発明1は、引用発明1及び、引用例2-4に記載された周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1-4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明及び拒絶理由について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-26 
結審通知日 2016-07-27 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2008-502034(P2008-502034)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 中澤 登
萩原 周治
発明の名称 音響を低減させる楔形ポリマー中間層  
代理人 松山 美奈子  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  

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