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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60H |
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管理番号 | 1323367 |
審判番号 | 不服2014-26503 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-25 |
確定日 | 2017-01-04 |
事件の表示 | 特願2011-536926号「車両の暖房および/または空調方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日国際公開、WO2010/058125、平成24年 4月19日国内公表、特表2012-509220号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年11月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年11月20日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月26日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成26年12月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出された。その後、当審により平成27年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年6月30日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年6月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める(以下「本願発明」という。)。 「第1熱交換器と、圧力調整器と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆転する手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を暖房および/または空調する方法において、 上記冷却剤が40?75重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、25?60重量%のプロパンとから成ることを特徴とする方法。」 第3 引用例 1 引用例1 当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-112179号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(「・・・」は省略を表す。以下同じ。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、車両用空調装置に係り、特に、室内熱交換器とエンジンの冷却水を熱源とするヒータコアとにより空調を行う車両用空調装置に関する。」 イ 「【0009】 以下、添付図面を参照して本発明の車両用空調装置の実施形態について説明する。 図1は、本発明の第1実施形態による車両用空調装置において、超臨界ヒートポンプサイクルを適用させた場合の全体構成図である。 図1に示すように、本発明の第1実施形態による車両用空調装置1は、熱媒体を圧縮する圧縮機2と、冷房時と暖房時の回路を切り換える四方弁4と、熱媒体と車室内の空気の間で熱交換をする車室内熱交換器6と、熱媒体の流路を絞り減圧する第1電子膨張弁8と、を有する。また、車両用空気調和装置1は、回路を流れる熱媒体の間で熱交換をする内部熱交換器10と、熱媒体の流路を絞り減圧する第2電子膨張弁12と、熱媒体と外気の間で熱交換をする車室外熱交換器14と、流入した熱媒体を気相と液相に分離し、気相の熱媒体を流出させるアキュムレータ16と、を有する。 ここで、本実施形態では、超臨界ヒートポンプサイクルに使用される熱媒体として、高圧側の圧力が臨界圧力を超える超臨界流体である二酸化炭素(CO_(2))を使用している。 【0010】 圧縮機2は、アキュムレータ16から流出した気相の熱媒体を圧縮して圧力を増大させ、熱媒体を四方弁4に送り込む開放コンプレッサであり、その回転数は車両のエンジン回転数と連動している。四方弁4は、4つの流出入口4a、4b、4c、4dを有し、暖房時は流出入口4aと4b、4cと4dがそれぞれ連通し、冷房時は流出入口4aと4d、4bと4cがそれぞれ連通するように切り換えられるようになっている。 また、本実施形態の車両用空気調和装置1では四方弁4を切り換えることによって、熱媒体は、暖房時においては、圧縮機2→車室内熱交換器6→第1電子膨張弁8→内部熱交換器10→第2電子膨張弁12→車室外熱交換器14→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れるようになっている(図1に実線で示す暖房回路参照)。 一方、冷房時においては、熱媒体は、圧縮機2→車室外熱交換器14→第2電子膨張弁12→内部熱交換器10→第1電子膨張弁8→車室内熱交換器6→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れるようになっている(図1に一点破線で示す冷房回路参照)。 【0011】 車室内熱交換器6は、車室内に配置され、隣接して配置されたブロワー20によって生じた気流を受けて車室内熱交換器6の内部を流れる熱媒体と車室内の空気の間で熱交換を行う。この車室内熱交換器6は、暖房時には、圧縮機2によって圧縮されて温度が上昇した熱媒体が流入し車室内の空気に熱を放出する加熱器として機能し、冷房時には、第1電子膨張弁8によって膨張されて温度が低下した熱媒体が流入し車室内の空気から熱を吸収する蒸発器として機能するようになっている。」 ウ 「【0017】 ・・・ 本発明の第1実施形態による車両用空調装置1においては、車両用空調装置1を作動させると圧縮機2が回転し、図2の点Aの状態の熱媒体が圧縮機2に吸入されて圧縮される。 圧縮機2によって圧縮された熱媒体は、圧力P、エンタルピhが上昇し、ほぼ170℃付近にある超臨界状態である点Bの状態になる。圧縮機2によって圧縮された熱媒体は、流出入口4aから四方弁4に流入し、流出入口4bから流出する。四方弁4を通過した熱媒体は、車室内熱交換器6の入口付近では、点B付近の温度約170℃よりもある程度低い温度で車室内熱交換器6内に流入する。車室内熱交換器6内を通過した熱媒体は、車室内の空気に熱を放出することによってエンタルピhが減少し、車室内熱交換器6の出口付近では、ほぼ55℃付近の点Cの状態になり、車室内の空気が暖められる。このとき、熱媒体は超臨界状態にあるため熱媒体の相変化はなく、熱媒体が熱を放出するにつれて熱媒体の温度は低下するようになっている。なお、代替フロン(R134a)を熱媒体として使用した場合は、熱媒体は車室内熱交換器6の通過前後で温度変化がほとんどない(図3参照)。」 エ 「【0029】 上述した本発明の第1及び第2実施形態による車両用空調装置では、ヒートポンプサイクルの一例として熱媒体の高圧側の圧力が熱媒体の臨界圧力を超える超臨界ヒートポンプサイクルを適用させた場合について説明したが、このような超臨界ヒートポンプサイクルに限定されず、熱媒体の高圧側の圧力が熱媒体の臨界圧力を超えないヒートポンプサイクルについても十分に適用可能である。 具体的には、例えば代替フロン(R134a)等を熱媒体とする非超臨界のヒートポンプサイクルにおいて本発明の車両空調装置を適用した場合、本発明の車両空調装置は、上述した実施形態の効果と同様に、冷却水温度が所定温度以下であっても外気温が所定温度以上であれば、エンジン始動時にエンジン冷却水の温度を早急に上昇させると共に、エンジン効率を上昇させ、燃費を向上させることができる。また、空調ダクトを通過する空気の圧力損失が緩和され、乗員フィーリングの悪化を防止することができる。さらに、空調モードがデフモードである場合には、車両のフロントの視界の確保が優先されるため、運転者に対する安全性と即温性を十分に満たすことができる。」 2 引用例1に記載された発明の認定 上記ア、イの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「熱媒体を圧縮する圧縮機2と、冷房時と暖房時の回路を切り換える四方弁4と、熱媒体と車室内の空気の間で熱交換をする車室内熱交換器6と、熱媒体の流路を絞り減圧する第1電子膨張弁8と、回路を流れる熱媒体の間で熱交換をする内部熱交換器10と、熱媒体の流路を絞り減圧する第2電子膨張弁12と、熱媒体と外気の間で熱交換をする車室外熱交換器14と、流入した熱媒体を気相と液相に分離し、気相の熱媒体を流出させるアキュムレータ16と、を有し、 四方弁4を切り換えることによって、熱媒体は、暖房時においては、圧縮機2→車室内熱交換器6→第1電子膨張弁8→内部熱交換器10→第2電子膨張弁12→車室外熱交換器14→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れ、冷房時においては、圧縮機2→車室外熱交換器14→第2電子膨張弁12→内部熱交換器10→第1電子膨張弁8→車室内熱交換器6→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れるようになっており、 熱媒体として、二酸化炭素を使用し 車室内熱交換器6は、車室内に配置され、隣接して配置されたブロワー20によって生じた気流を受けて車室内熱交換器6の内部を流れる熱媒体と車室内の空気の間で熱交換を行う方法。」 3 引用例2 当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特表2008-531836号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項3】 HFC-1234yfと HFC-1234ye、HFC-1243zf、HFC-32、HFC-125、HFC-134、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、HFC-161、HFC-227ea、HFC-236ea、HFC-236fa、HFC-245fa、HFC-365mfc、プロパン、n-ブタン、イソブタン、2-メチルブタン、n-ペンタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、CF_(3)SCF_(3)、CO_(2)およびCF_(3)I からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含むことを特徴とする組成物。」 イ 「【請求項23】 請求項3に記載の組成物であって、 ・・・ 約1重量パーセント?約80重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約20重量パーセントのプロパン; ・・・ からなる群から選択された共沸または擬共沸組成物を含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。」 ウ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、フルオロオレフィンと少なくとも1つの他の成分とを含む、冷凍、エアコン、およびヒートポンプシステムでの使用のための組成物に関する。本発明の組成物は、伝熱流体、発泡剤、エアゾール噴射剤、ならびに火抑制剤および消火剤として、冷却を行うまたは熱を産生させるためのプロセスで有用である。」 エ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 さらなる環境規制は究極的には、ある種のHFC冷媒のグローバルな段階的廃止をもたらすかもしれない。現在、自動車業界は、移動式エアコンに使用される冷媒に対する地球温暖化係数にかかわる規制に直面しているところである。それ故、移動式エアコン市場向けに減少した地球温暖化係数の新たな冷媒を特定する、大きな現在の必要性が存在する。規制が将来より広く適用されれば、冷凍およびエアコン業界のすべての分野に使用できる冷媒に対してさらにより大きい必要性が感じられるであろう。 【0006】 現在提案されているHFC-134aの代替冷媒には、HFC-152a、ブタンもしくはプロパンなどの純炭化水素、またはCO_(2)などの「天然」冷媒が含まれる。これらの提案された代替品の多くは有毒であり、引火性であり、および/または低いエネルギー効率を有する。それ故、新たな代替冷媒が捜し求められつつある。 【0007】 本発明の目的は、低いまたはゼロのオゾン破壊係数および現在の冷媒と比べてより低い地球温暖化係数という要求を満たすために独特の特性を提供する新規な冷媒組成物および伝熱流体組成物を提供することである。」 オ 「【0037】 本発明の組成物は共沸または擬共沸組成物であってもよい。共沸組成物とは、単一物質として挙動する2つ以上の物質の定沸点混合物を意味する。共沸組成物を特徴づける一方法は、液体の部分蒸発または蒸留によって生み出された蒸気が、それがそれから蒸発するまたは蒸留される液体と同じ組成を有する、すなわち、混合物が組成変化なしに蒸留される/還流することである。定沸点組成物は、同じ化合物の非共沸混合物のそれと比べて、それらが最高沸点か最低沸点かのどちらかを示すので、共沸として特徴づけられる。共沸組成物は、システムの効率を低下させるかもしれない、運転中に冷凍またはエアコンシステム内で分別蒸留しないであろう。さらに、共沸組成物は冷凍またはエアコンシステムからの漏洩時に分別蒸留しないであろう。混合物の1成分が引火性である状況では、漏洩中の分別蒸留は、システム内かシステム外かのどちらかで引火性組成物につながり得るであろう。 【0038】 擬共沸組成物(一般に「共沸様組成物」とも言われる)は、本質的に単一物質として挙動する2つ以上の物質の実質的に定沸点の液体混合物である。擬共沸組成物を特徴づける一方法は、液体の部分蒸発または蒸留によって生み出された蒸気が、それがそれから蒸発したまたは蒸留された液体と実質的に同じ組成を有する、すなわち、混合物が実質的な組成変化なしに蒸留される/還流することである。擬共沸組成物を特徴づける別の方法は、ある特定の温度での組成物のバブルポイント蒸気圧および露点蒸気圧が実質的に同じものであることである。本明細書では、組成物の50重量パーセントが蒸発またはボイリングオフなどによって除去された後に、元の組成物と元の組成物の50重量パーセントが除去された後に残る組成物との間の蒸気圧の差が約10パーセント未満である場合に組成物は擬共沸である。 【0039】 特定の温度での本発明の共沸組成物は表3に示される。 【0040】 ・・・ 」 カ 「【0045】 特定の温度での本発明の擬共沸組成物が表5にリストされる。 【0046】 ・・・ 【0047】 ・・・ 」 キ 「【0149】 (実施例1) (蒸気漏洩の影響) 容器に-25℃か、明記される場合には25℃でかのどちらかの温度で初期組成物を装入し、組成物の初期蒸気圧を測定する。初期組成物の50重量パーセントが除去されるまで、温度を一定に保持しながら、組成物を容器から漏洩させ、その時点で容器に残っている組成物の蒸気圧を測定する。結果を表9に示す。 【0150】 ・・・ ・・・ ・・・ 【0167】 元の組成物と50重量パーセントが除去された後に残った組成物との間の蒸気圧の差は、本発明の組成物について約10パーセント未満である。これは、本発明の組成物が共沸または擬共沸であろうことを示唆する。」 第4 本願発明と引用発明の対比 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「車室内熱交換器6」又は「車室外熱交換器14」は、その機能及び構造から、本願発明の「第1熱交換器」又は「第2熱交換器」に相当する。以下、同様にそれぞれ、「第1電子膨張弁8」は「圧力調整器」に、「冷房時と暖房時の回路を切り換える四方弁4」は「冷却剤の流れの方向を逆転する手段」に、「熱媒体」は「冷却剤」に、「圧縮機2」は「圧縮器」に相当する。 イ 引用発明の「四方弁4を切り換えることによって、熱媒体は、暖房時においては、圧縮機2→車室内熱交換器6→第1電子膨張弁8→内部熱交換器10→第2電子膨張弁12→車室外熱交換器14→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れ、冷房時においては、圧縮機2→車室外熱交換器14→第2電子膨張弁12→内部熱交換器10→第1電子膨張弁8→車室内熱交換器6→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2の順に流れる」ことは、「熱媒体」が流れる「圧縮機2→車室内熱交換器6→第1電子膨張弁8→内部熱交換器10→第2電子膨張弁12→車室外熱交換器14→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2」及び「圧縮機2→車室外熱交換器14→第2電子膨張弁12→内部熱交換器10→第1電子膨張弁8→車室内熱交換器6→アキュムレータ16→内部熱交換器10→圧縮機2」を可逆冷却ループと表現できるから、本願発明の「内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて」いることに相当する。 ウ 引用発明の「車室内熱交換器6は、車室内に配置され、隣接して配置されたブロワー20によって生じた気流を受けて車室内熱交換器6の内部を流れる熱媒体と車室内の空気の間で熱交換を行う」ことは、上記(イ)を参照すると、車室内の暖房と冷房を行うことであるから、引用発明の「自動車の客室を暖房および/または空調する」ことに相当する。 2 一致点及び相違点 したがって、両者は、 「第1熱交換器と、圧力調整器と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆転する手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を暖房および/または空調する方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点> 冷却剤が、本願発明では、「40?75重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、25?60重量%のプロパンとから成る」のに対し、引用発明は、二酸化炭素である点。 第5 当審の判断 1 相違点の検討 上記相違点について以下検討する。 引用例2には、段落【0005】に「現在、自動車業界は、移動式エアコンに使用される冷媒に対する地球温暖化係数にかかわる規制に直面しているところである。それ故、移動式エアコン市場向けに減少した地球温暖化係数の新たな冷媒を特定する、大きな現在の必要性が存在する。規制が将来より広く適用されれば、冷凍およびエアコン業界のすべての分野に使用できる冷媒に対してさらにより大きい必要性が感じられるであろう。」、及び段落【0006】に「現在提案されているHFC-134aの代替冷媒には、HFC-152a、ブタンもしくはプロパンなどの純炭化水素、またはCO_(2)などの「天然」冷媒が含まれる。これらの提案された代替品の多くは有毒であり、引火性であり、および/または低いエネルギー効率を有する。それ故、新たな代替冷媒が捜し求められつつある。」と記載されているように、引用例2に記載された技術は、主に自動車用のエアコンにおいて、現在使用されているHFC-134aの代替冷媒として、地球温暖化係数の減少した冷媒を用いることを主な目的とするものであって、請求項3に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを意味する「HFC-1234yf」と「プロパン」とを含む組成物、請求項23に「約1重量パーセント?約80重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約20重量パーセントのプロパン」とを含む組成物を用いることが記載されている。 また、「HFC-1234yf」と「プロパン」との具体的な重量比として、【表8】及び【表28】に、HFC-1234yf51.5重量%とプロパン48.5重量%、HFC-1234yf60重量%とプロパン40重量%、HFC-1234yf重量%40とプロパン60重量%の組成物が記載され、共沸組成物をエアコンシステムに用いること(【0037】)や蒸気漏洩時の蒸気圧(【表28】)が記載されており、当該蒸気漏洩時の蒸気圧が、エアコン使用時のエアコンの性能に影響する事項であることは技術常識である。 そうすると、引用例2には、自動車用のエアコンの冷媒として、現在使用されているHFC-134aに代えて「HFC-1234yf」と「プロパン」とを含む組成物を用いることが記載されていることは明らかである。 そして、引用発明は、熱媒体として、地球温暖化係数の小さい二酸化炭素を用いて車室内の空気との間で熱交換をしているが、一般に空調装置において、使用形態等を考慮して種々の熱媒体を用いることは周知であり、引用例1の段落【0017】、【0029】には、代替フロン(R134a)を用いることが示唆されているところ、引用発明において、地球温暖化係数の小さい他の熱媒体を用いたものも想定でき、その際に、引用例2に記載のHFC-134a(R134aと同じ。)の代替物である「HFC-1234yf」と「プロパン」とを含む組成物を用いて熱交換を行う方法も当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとプロパンとの重量比の範囲は、上記のとおり、引用例2でも検討されているものを含んでおり、通常用いられている範囲において、暖房および/または空調する方法として当然に考慮される冷却効率等を考慮し、適宜決定し得たものである。 請求人は、平成28年6月30日の意見書において、引用例2は、伝熱流体、発泡剤、エアーゾル噴射剤、火抑制剤として、冷却または熱を発生させるプロセスで有用であるとされ極めて広範囲の用途の組成物が記載されており、伝熱流体として実際に作用効果を確認しているのは実施例2?実施例5([表43]?[表51])だけであり、これらの記載の中に、補正した「40?75重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、25?60重量%のプロパンとから成る」組成物の伝熱流体は記載がない旨主張する。 しかし、引用例2は、発明の詳細な説明全体にわたって、組成物をエアコンに用いることを主としていることは明らかであり、HFC-1234yfとプロパンとからなる組成物を用いることも明確に記載されている(上記引用例2の記載事項ア、イ、エ?キ)。ゆえに、請求人の主張は採用できない。 2 本願発明の奏する作用効果 そして、HFC-1234yfの沸点(-29.4℃)及びプロパンの沸点(-42.09℃)が周知であり、HFC-1234yfとプロパンとの組成物の共沸点が十分に低いものであることは予想できるから、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用例2記載の事項から当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものでない。 3 まとめ したがって、本願発明は、引用発明、及び引用例2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび ゆえに、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 まとめ 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-07-28 |
結審通知日 | 2016-08-02 |
審決日 | 2016-08-19 |
出願番号 | 特願2011-536926(P2011-536926) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B60H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 一正 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
山崎 勝司 佐々木 正章 |
発明の名称 | 車両の暖房および/または空調方法 |
代理人 | 越場 隆 |