• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1323443
異議申立番号 異議2016-700212  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-10 
確定日 2016-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5785135号発明「固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法および固体酸化物燃料電池用集電部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5785135号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、4?7〕について、訂正することを認める。 特許第5785135号の請求項4?7に係る特許を維持する。 特許第5785135号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5785135号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年6月14日に特許出願され、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許のうちの請求項2、4?7に係る特許に対し、特許異議申立人馬場資博により特許異議の申立てがなされ、平成28年5月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年7月7日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(7)のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1または2に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1または2に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1または2に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と記載されているのを、「請求項1、3?6のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法」と訂正する。

(6) 訂正事項6
願書に添付した明細書の【0018】及び【0019】を削除する。

(7) 訂正事項7
願書に添付した明細書の【0055】に「鈍角に形成することが好ましく、角部の曲率半径としては、6μm以上に形成しておくことが好ましいことがわかる」と記載されているのを、「鈍角に形成することが好ましいことがわかる」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2?5は、訂正事項1に伴い、引用請求項から請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項6?7は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ そして、訂正事項1?7は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2) 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔2、4?7〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1 請求項2、4?7に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項2、4?7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項2、4?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項2、4?7に係る特許に対して、平成28年5月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

請求項2、4?7に係る発明は、刊行物1に記載された発明、技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされてものである。

刊行物1:特開2010-3529号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)

3 判断
本件訂正請求により、請求項2は削除されたので、取消理由の対象とした請求項2に係る特許は存在しなくなった。
また、本件訂正請求により、請求項4?7は、いずれも請求項2を引用しなくなったことから、請求項4?7に係る特許についての取消理由は解消している。

4 むすび
以上のとおり、取消理由によっては、本件訂正請求によって訂正された請求項4?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件訂正請求により訂正された請求項4?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項2に係る特許は存在しなくなったので、当該請求項2に係る特許については、特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法および固体酸化物燃料電池用集電部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池(以下単にSOFCと呼ぶことがある)用集電部材(以下単に集電部材と呼ぶことがある)の製造方法および固体酸化物燃料電池用集電部材に関する。
【背景技術】
【0002】
集電部材は、SOFCにおいて燃料極および酸素極を接合するためのインターコネクタや、燃料極、酸素極を備えた燃料電池セルどうしを接続するための接続部材として用いられる部材であって、金属基材あるいは金属酸化物基材から形成されているものである。このような集電部材を金属基材から形成する場合、空気極側から燃料極側までの広範囲の酸素分圧下において安定かつ十分な電子伝導性を有し、熱膨張率が電解質の材料とほぼ等しく、かつ、他の電池構成物質と1,273Kにおいても反応しないものでなければならない。そのため、集電部材の製造は、燃料電池セルの製造技術の中で最も重要かつ困難なプロセスの一つとなっている。
【0003】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。
従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物基材が使用されていたが、最近は作動温度が700℃?800℃まで下がっており、金属基材が使用できるようになってきた。金属基材の使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
前記金属基材としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe-Cr-Ni合金や、ニッケル基合金であるNi-Cr合金などが用いられることもある。また、合金ではなく、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr_(2)O_(3)やMnCr_(2)O_(4)の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。
【0006】
そこで、インターコネクタ用基材に高温下でも酸化劣化しにくい金属酸化物材料からなる保護膜を設ける技術が知られている。
インターコネクタの保護膜は、たとえば、ウェットコーティング法あるいは、ドライコーティング法によって形成することができる。ウェットコーティング法としては、スクリーン印刷法、電気泳動(EPD)法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート法等が例示できる。また、ドライコーティング法としては、たとえば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法、電気化学気相成長(EVD)法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法、大気圧プラズマ成膜法、減圧プラズマ成膜法、溶射法等が例示できる。
【0007】
また、SOFC用セルは、その製造工程において、集電部材用の基材と空気極および燃料極との間の接触抵抗をできるだけ小さくするなどの目的で、それらを積層した状態で、作動温度よりも高い1000℃?1250℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある(たとえば、特許文献1、2を参照。)。
【0008】
一方、SOFC用セルで利用される集電部材の基材の表面に、金属酸化物からなる保護膜を形成することによって、金属基材中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制しようとする技術もあった(たとえば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-259643号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/131180号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2007/083627号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べてきたように、Cr被毒、基材の酸化劣化を抑制するため種々の材料が保護膜として用いられている。SOFCの集電部材に用いられる基材はプレス加工等の成型方法により、複雑な形状をしていることが多く、全面に均一な膜厚で、かつ緻密な保護膜できるかがポイントとなる。
【0011】
SOFCは起動停止時に室温から700?800℃の温度変動がある為、各構成部材間の接合部分に熱膨張率の差に応じて、集電部材用の基材と保護膜、保護膜とセルとの接合部分などの電気的接合部分において応力が生じる。この応力が接合部分の密着強度を上回ると接合部分の剥離やクラックなどが生じると考えられる。また、燃料電池の製造時においても、特許文献1のように、集電部材とセルとを接合した状態で焼成処理を行う場合にも、作動温度よりも大きい温度変動が生じる為、大きな応力が接合部分に働き、剥離やクラックなどが生じる恐れがある。それぞれの接合部分において前記保護膜に剥離やクラックなどが発生すると、保護膜の接触抵抗が増大し、燃料電池の劣化を招く恐れがあり、またクラック等からのCr被毒の進行が加速されるおそれがある。
【0012】
しかし、特に複雑形状の基材の表面に前記保護膜を形成すると、たとえば、最も膜厚の厚くなる基材の圧延面と最も薄くなる角部とにおける膜厚の比が大きくなるという実情があり、このような保護膜の膜厚の不均一によって、上述の応力が発生し、燃料電池の劣化、Cr被毒の進行などの問題が発生することが考えられる。そのため、焼成、焼結を行う前後において膜厚比が増加しにくい保護膜の製造方法が求められている。
【0013】
具体的には、湿式法により角部を備えた金属基材の表面に金属酸化物を主成分とする保護膜を直接形成しようとすると、前記金属基材上に供給された金属酸化物材料は、被膜を形成する際の表面張力により、その角部から前記金属基材の面部に向かって引きよせられる。また、前記角部では交差する2面それぞれからの表面張力の影響を受けるため、薄肉になりやすい。そのため、前記角部に残る金属酸化物材料量が少なくなって、前記角部に形成される保護膜の膜厚が薄くなる傾向にあるものと考えられる。このような状況は、乾式法によって被膜を形成する場合であっても、被膜の加熱焼成中に金属酸化物の微粒子自体が流動化して同様な現象を示す場合があって、金属酸化物被膜を形成する工程において一般的に発生するものである。
【0014】
そこで、本発明の目的は、SOFCに用いられる金属基材の表面に、均一な保護膜を簡便に形成することができる技術を提供することにあり、特に、前記金属基材の面部分に形成される保護膜の膜厚と、前記金属基材の角部における最も鋭い部分に形成される保護膜の膜厚との比が小さくすることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的のために鋭意研究したところ、集電部材に用いられる金属基材の形状をあらかじめ適切に加工しておくという着想に至り、前記金属基材の形状を所定の条件を満たすように加工した後、保護膜を形成することにより保護膜を容易に均一形成することができることを明らかにした。本発明は、この知見に基づくものである。
【0016】
〔構成1〕
本発明の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法の特徴構成は、
角部を備えた金属基材の表面に金属酸化物を主成分とする保護膜を形成してある固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法であって、
金属基材をプレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施して、前記金属基材の角部における最も鋭い部分の角度を135°より大きな鈍角に成形した後、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成する点にある。
【0017】
〔作用効果1〕
角部を備えた金属基材の表面を、プレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施すと、前記面取りされた部分に供給された金属酸化物材料は、面取りされた金属基材表面に対する付着力が高められ、その周辺部分に供給された金属酸化物材料の表面張力に引っ張られても面部側に移動しにくい。そのため、前記角部には、充分量の金属酸化物材料が保持された状態で保護膜が形成されやすくなる。
結果、前記保護膜が前記金属基材からのCr飛散を効果的に抑制するとともに、前記保護膜がより均一に形成されることになるため、熱応力等によってもクラックの発生等が抑制され、燃料電池の劣化を抑制することができ、金属基材の角部を面取りする簡便な処理を付加するだけで、長期使用に際しても信頼性の高い燃料電池の製造に寄与することができる。
前記金属基材において、C面取りを行えば、金属基材の角部は、理想的には135°になるが、場合によっては、角度にバラツキを生じ、135°よりも小さな角度の部分が発生することもある。しかし、C面取りを適切に行えば、角部における最も鋭い部分の角度が135°より大きくなるような十分に丸みを帯びた形状に成形することができる。この場合、最も鋭い部分である比較的小さな角度の部分が、熱応力を集中して受けたり、Cr飛散を許してしまう、合金中のCr欠乏による異常酸化が発生しやすい、など弱点となり得るが、この部分が135°よりも大きければ、保護膜の膜厚の膜厚が十分に確保されやすいため、応力が集中したとしても、クラック、ひび割れ等につながりにくく、また、Cr飛散等の問題も、より起きにくい。
【0018】 (削除)
【0019】 (削除)
【0020】
〔構成3〕
また、本発明の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法の異なる特徴構成は、
角部を備えた金属基材の表面に金属酸化物を主成分とする保護膜を形成してある固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法であって、
金属基材をプレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施して、前記面取り加工としてのC面取り加工の施工面の端部に形成される端面角部に電解研磨を施して前記端面角部を丸み付けし、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成する点にある。
【0021】
〔作用効果3〕
角部を備えた金属基材の表面を、プレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施すと、前記面取りされた部分に供給された金属酸化物材料は、面取りされた金属基材表面に対する付着力が高められ、その周辺部分に供給された金属酸化物材料の表面張力に引っ張られても面部側に移動しにくい。そのため、前記角部には、充分量の金属酸化物材料が保持された状態で保護膜が形成されやすくなる。
結果、前記保護膜が前記金属基材からのCr飛散を効果的に抑制するとともに、前記保護膜がより均一に形成されることになるため、熱応力等によってもクラックの発生等が抑制され、燃料電池の劣化を抑制することができ、金属基材の角部を面取りする簡便な処理を付加するだけで、長期使用に際しても信頼性の高い燃料電池の製造に寄与することができる。
C面取り加工の施工面の端部に形成される端面角部に丸み付けする加工をすれば、面取り加工後に生じた前記端面角部や面取り加工に伴って発生した変形部分(いわゆるバリ)を保護膜形成の妨げになりにくい滑らかな形状に変形させることができる。そのため、より一層均一な保護膜を形成しやすくなった。
【0022】
〔構成4〕
また、前記金属基材が断面方形の金属基材であり、
方形の金属基材をプレス加工し、前記金属基材の角部に面取り加工を施した後、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成し、前記金属基材の四辺面に形成される前記保護膜の厚と、前記面取り加工を施した面取り加工面に形成される前記保護膜の膜厚との比が、0.5以上、1以下としてあってもよい。
【0023】
〔作用効果4〕
角部を備えた金属基材の表面を、プレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施すと、前記面取りされた部分に供給された金属酸化物材料は、面取りされた金属基材表面に対する付着力が高められ、その周辺部分に供給された金属酸化物材料の表面張力に引っ張られても面部側に移動しにくい。そのため、前記角部には、充分量の金属酸化物材料が保持された状態で保護膜が形成されやすくなる。
結果、前記保護膜が前記金属基材からのCr飛散を効果的に抑制するとともに、前記保護膜がより均一に形成されることになるため、熱応力等によってもクラックの発生等が抑制され、燃料電池の劣化を抑制することができ、金属基材の角部を面取りする簡便な処理を付加するだけで、長期使用に際しても信頼性の高い燃料電池の製造に寄与することができる。
上記構成によると、基材表面に形成される保護膜の膜厚がほぼ均一と言える状態になり、前記保護膜に熱応力が発生しにくいため、クラック、ひび割れ等につながりにくく、また、Cr飛散等の問題も、より起きにくい。
【0024】
〔構成5〕
また、上記構成において、
前記面取り加工が、C面取り加工若しくはR面取り加工のいずれかであってもよい。
【0025】
〔作用効果5〕
C面取り加工すれば、前記金属基材の角部において小さな領域ではあるが平面部分が形成され、この面と前記金属基材のもとの面部と形成される角度は鈍角となる。前記角部で周辺部分からの表面張力が及びやすく部分が少なくなり、薄肉になりやすい部分が減少する。また、形成される保護膜が金属基材表面に付着しようとする面積が大きくなる。そのため、前記面取りされた後の端面角部において、形成される保護膜は、面取りされる前の角部に形成される保護膜にくらべ、より均一なものとなりやすい。
【0026】
〔構成6〕
また、前記面取り加工が、R面取り加工であってもよい。
【0027】
〔作用効果6〕
上述のような状況は、前記面取り加工としてR面取り加工を採用した場合も同様で、R面取り加工した場合には、金属基材の外表面の面部同士が滑らかに接続されるので、より一層均一な保護膜形成に寄与するものと考えられる。
【0028】
〔構成7〕
また、前記保護膜を、前記金属基材の全表面に電着塗装法により形成してもよい。
【0029】
〔作用効果7〕
前記保護膜は、電着塗装により形成することにより、より簡便に緻密で均一な被膜を形成するのに寄与することができる。
【0030】
【発明の効果】
【0031】
したがって、SOFC用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物の基材の表面に、緻密で膜厚の均一な耐久性の高い保護膜を簡便に形成する提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】固体酸化物燃料電池の概略図
【図2】固体酸化物燃料電池の集電部材の使用形態を示す図
【図3】保護膜を形成した集電部材試験片(A)の断面図
【図4】保護膜を形成した集電部材試験片(B)の断面図
【図5】保護膜を形成した集電部材試験片(C)の断面図
【図6】保護膜を形成した集電部材試験片(D)の断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の固体酸化物燃料電池(SOFC)用集電部材としてのインターコネクタの製造方法およびSOFC用集電部材としてのインターコネクタを説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例は、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0034】
<固体酸化物型燃料電池>
本発明に係るSOFC用集電部材としてのインターコネクタ及びその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオン及び電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
更に、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31又は燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気及び水素を供給するための溝2が形成された一対の電子電導性の合金又は酸化物からなるインターコネクタ1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とインターコネクタ1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とインターコネクタ1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0035】
尚、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、たとえば、上記空気極31の材料としては、LaMO_(3)(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO_(3)のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、更に、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0036】
更に、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、インターコネクタ1の材料としては、フェライト系ステンレス鋼であるFe-Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe-Cr-Ni合金や、ニッケル基合金であるNi-Cr合金などのように、Crを含有する合金が利用されている。
【0037】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルト及びナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたインターコネクタ1は、燃料流路2b又は空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたインターコネクタ1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。尚、かかる積層構造のセルスタックでは、上記インターコネクタ1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0038】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するインターコネクタ1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するインターコネクタ1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、たとえば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO_(2)が電子e^(-)と反応してO^(2-)が生成され、そのO^(2-)が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH_(2)がそのO^(2-)と反応してH_(2)Oとe^(-)とが生成されることで、一対のインターコネクタ1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0039】
<インターコネクタ>
前記インターコネクタ1は、図1、図4に示すように、インターコネクタ用の金属基材11の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0040】
前記保護膜12は、導電性セラミックス材料を含有する塗膜形成用材料を、前記金属基材11に電着塗装することにより保護膜12を厚膜として形成してある。
【0041】
<保護膜>
前記保護膜12は、たとえば、Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼等からなる前記金属基材11の表面に、たとえば、ZnCo_(2)O_(4)等の金属酸化物微粒子と樹脂とを含んでなる被膜を形成し、その被膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜12を形成する焼結工程を行うことにより形成されている。前記被膜を形成するにはアニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を採用することができ、樹脂としてはポリアクリル酸等のアニオン型樹脂を、金属酸化物微粒子との混合比(質量比)で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)?(1.7:1)の割合で含有している混合液を用いることができる。
【0042】
以下に前記保護膜12の具体的な製造方法を詳述するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(電着塗装)
前記金属基材11として、上記Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼等からなる金属材料から試験片(A)?(D)を作成した。
【0044】
(A)エッチング加工により切り出しただけの試験片、
(B)切り出したのちプレス加工し、さらに角部f1をC面取り加工した試験片、
(C)金属材料を切り出したのちプレス加工し、さらに角部g1をC面取り加工し、電解研磨により端面角部g2を鈍角に成形加工した試験片、
(D)金属材料を、切り出したのち角部h1をR面取り加工した試験片
【0045】
また、ZnCo_(2)O_(4)[粒子径0.5μm]等の金属酸化物微粒子を電着液1リットル当り100gになるように分散し、ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂とを含有している混合液を用意した。
【0046】
上記混合液を用いて、上記各試験片(A)?(D)をプラス、対極としてSUS304の極板にマイナスの極性として通電を行うことによって電着塗装を行った。ここでは、(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(1:1)(質量比)とした。これにより、各試験片(A)?(D)の表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
【0047】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、前記混合液を満たした通電槽中に金属基材11を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。
電着塗装条件も特に制限されず、金属基材11である金属の種類、前記混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られるインターコネクタ1の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(前記混合液温度)10?40℃程度、印加電圧10?450V程度、電圧印加時間1?10分程度、前記混合液の液温10?40℃とすればよい。
なお、電着電圧、電着時間を変更することにより電着塗膜の膜厚をコントロールできる。また、基材に対して、種々前処理を行うこともできる。
【0048】
この未硬化の電着塗膜が形成された金属基材11を加熱処理することによって、金属基材11表面に硬化した電着塗膜が形成される。
【0049】
加熱処理は、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、電着塗膜を硬化させる硬化加熱とを含み、予備乾燥後に硬化加熱が行われる。
【0050】
(加熱処理、焼成工程および焼結工程)
前記混合液としてZnCo_(2)O_(4)微粒子:樹脂=1:1(質量比)のものを用いて形成した電着塗膜を、350℃の電気炉に投入し、1hr保持し、前記電着塗膜を乾燥硬化させた。次に500℃まで1hrで昇温し、2hr保持して、前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた(焼成工程)。さらに、1000℃まで2hrで昇温し、2hrその温度で保持して前記電着塗膜中の金属酸化物微粒子を焼結させて(焼結工程)、その後電気炉電源をOFFして徐冷した。
【0051】
焼結工程終了後、得られた試験片の断面観察を行い、保護膜12の形成状態を確認した。結果を図3?図6に示す。図3?6において図3(a)として試料片全体の断面を示し、保護膜12の厚さの評価は、保護膜12を形成した金属基材11の試験片を横断し、面部に相当する図中a,bの保護膜12の厚さの平均(x)を圧延面膜厚、角部に相当するe,f、g、hの保護膜12の厚さの平均(z)をエッジ膜厚として、z/xを求めた。また、これら試験片の最も鋭角に形成された角部の拡大図を図3?6(b)、(c)に示す。この角部における2面が形成する最も鋭い部分の角度図3?6(b)と、曲率半径図3?6(c)とを測定したところ表1に示す関係であった。
なお、角部における2面が形成する角度は、たとえば図5(b)に示すように、その角部g1近傍における、その角部g1を挟んで基材表面に形成される2つの平面g2、g2が成す角度として求められ、曲率半径は、たとえば図5(c)に示すように、その2面g2、g2に対する法線が互いに交差する点からその角部までの距離として求められる。
【0052】
【表1】

【0053】
〔結果〕
上述の結果より、プレス加工により、前記金属基材の角部に面取り加工を施した後、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成した場合、基材を切り出しただけのものにくらべて、保護膜の厚さが均一化していることが読み取れる。また、C面取り加工にくらべ、C面取り加工を施した後、前記C面取り施工面の端部に形成される端面角部に電解研磨を施して前記端面角部を丸み付けしたもののほうが保護膜の均一性が増していることが読み取れ、また、C面取り加工にくらべてR面取り加工を行ったほうが効率良く角部に丸み付けが行えることもわかる。
【0054】
上記で得られた試験片(B)?(D)についてクロム飛散試験を行い、Cr飛散量を測定した。
なお、Cr飛散試験は、前記各試験片を空気極材料(ここでは、LaCoO_(3)系材料を用いた)に埋設し、大気雰囲気中で1000℃?1150℃の焼成温度で2時間焼成処理を行い、次に、作動時を想定して、大気雰囲気中で800℃の作動温度で0.5A/cm^(2)の直流電流を流し続けた状態で200時間保持した。そして、その後に、夫々の試験片について、金属基材と空気極材料との接合部付近の断面のCr分布をEPMA(電子プローブ微量分析)により観察することによって行った。Crの飛散量を定量的に評価するため、空気極材料中に飛散したCrのカウント数を計数した。
【0055】
結果、試験片(B)についてはクロム飛散量が11800ポイントにおよび、比較的多かったが、試験片(C),(D)については、それぞれのクロム飛散量が689ポイント、135ポイントと、非常に少なく、角部の最も鋭角な部分を135°より大きい鈍角に形成することが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、耐久性が高く長期にわたって安定して使用することができるセル接続部材、SOFC用セルを備えた燃料電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 :インターコネクタ
11 :金属基材
12 :保護膜
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :SOFC用セル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角部を備えた金属基材の表面に金属酸化物を主成分とする保護膜を形成してある固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法であって、
金属基材をプレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施して、前記金属基材の角部における最も鋭い部分の角度を135°より大きな鈍角に成形した後、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成する固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
角部を備えた金属基材の表面に金属酸化物を主成分とする保護膜を形成してある固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法であって、
金属基材をプレス加工により成形し、さらに前記金属基材の角部に面取り加工を施して、前記面取り加工としてのC面取り加工の施工面の端部に形成される端面角部に電解研磨を施して前記端面角部を丸み付けし、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成する固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
【請求項4】
前記金属基材が断面方形の金属基材であり、
方形の金属基材をプレス加工し、前記金属基材の角部に面取り加工を施した後、前記金属基材の表面全体に、前記保護膜を形成し、前記金属基材の四辺面に形成される前記保護膜の膜厚と、前記面取り加工を施した面取り加工面に形成される前記保護膜の膜厚との比が、0.5以上、1以下としてある請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
【請求項5】
前記面取り加工が、C面取り加工若しくはR面取り加工のいずれかである請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
【請求項6】
前記面取り加工が、R面取り加工である請求項1に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜を、前記金属基材の全表面に電着塗装法により形成する請求項1、3?6のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-07-28 
出願番号 特願2012-135094(P2012-135094)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 富永 泰規
河本 充雄
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5785135号(P5785135)
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 固体酸化物燃料電池用集電部材の製造方法および固体酸化物燃料電池用集電部材  
代理人 東 邦彦  
代理人 東 邦彦  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 北村 修一郎  
代理人 北村 修一郎  
代理人 特許業務法人R&C  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ