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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1323495
異議申立番号 異議2016-700594  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-06 
確定日 2016-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5840832号発明「照明カバー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5840832号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5840832号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第5840832号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5840832号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成22年8月10日にされた特許出願であって、平成27年11月20日にその特許権の設定登録がされ、平成28年7月6日に特許異議申立人植戸典子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年9月14日付けの取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、同年11月10日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「並びに(C)光拡散剤(C成分)0.005?3重量部を含有し」とあるのを、「(C)光拡散剤(C成分)0.005?3重量部並びに(D)分子中にSi-H基を含有するシリコーン化合物(D成分)0.05?7重量部を含有し」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の照明カバー。」」とあるのを、「請求項1に記載の照明カバー。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の照明カバー。」とあるのを、「請求項1または3に記載の照明カバー。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か
(1)訂正事項1
訂正事項1は、実質的には、訂正前の請求項1を削除して訂正前の請求項2を訂正後の請求項1とするものであって、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、実質的には、訂正前の請求項1を引用する請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、実質的には、訂正前の請求項1を引用する請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か
訂正事項1?4は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1?4は一群の請求項であるから、この訂正は一群の請求項ごとにされている。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5から6項の規定に適合するので、本件訂正の請求による訂正後の請求項1?4について、訂正を認める。

第3 本件特許発明について
本件訂正の請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された以下の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
光源からの光を拡散させるために前記光源を覆うように配置される照明カバーであって、該照明カバーが、粘度平均分子量が1.6×10^(4)?3.0×10^(4)であり、構造粘性指数(N)が1.6?2.5である、(A)分岐率0.6?1.1mol%の分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、および芳香族系イミドのアルカリ(土類)金属塩からなる群より選択される1種以上の有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.005?1.0重量部、(C)光拡散剤(C成分)0.005?3重量部並びに(D)分子中にSi-H基を含有するシリコーン化合物(D成分)0.05?7重量部を含有し、かつ下記式[1]で示される構成単位[1]よりなるケイ素含有重合体を含有しない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物からなることを特徴とする照明カバー。
【化1】

(構成単位[1]において、R^(1)は下記式[2]で示される構成単位[2]、下記式[3-I]で示される構成単位[3-I]および下記式[3-II]で示される構成単位[3-II]からなり、構成単位[2]と(構成単位[3-I]+構成単位[3-II])との割合がモル比で100:0?20:80の範囲である。R^(2)、R^(3)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。j、kは0または1であり、mは1?10の正数である。)
【化2】

(R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。Qは酸素原子または-NR^(10)-(ただしR^(10)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)であり、Zは-C(=O)-または-SO_(2)-である。)
【化3】

【化4】

(式中、Xは、単結合、-C(R^(17))(R^(18))-、-C(=O)-、-SO_(2)-、-S-、-O-、下記式[4-I]および下記式[4-II]で示される基からなる群より選択される少なくとも1つの基である。R^(11)、R^(12)、R^(13)、R^(14)、R^(15)、R^(16)、R^(17)、R^(18)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。pは0?2の整数である。)
【化5】

【化6】

(式中、R^(19)、R^(20)、R^(21)、R^(22)、R^(23)、R^(24)、R^(25)、R^(26)、R^(27)、R^(28)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、A成分100重量部に対し、さらに(E)紫外線吸収剤(E成分)0.01?3.0重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の照明カバー。
【請求項4】
難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、厚さ3.0mmの成形品において、UL94規格の難燃レベル5VAを達成する請求項1または3に記載の照明カバー。」

第4 取消理由の概要
取消理由の概要は、以下の通りである。
本件特許発明1、3、4は、本件特許の出願前の日を優先日とする国際特許出願であって、本件特許に係る出願後に国際公開がされた国際特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る発明者が上記国際特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記国際特許出願の出願人と同一でもないので、本件特許発明1、3、4に係る特許は、特許法184条の13の規定で読み替える同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 取消理由についての判断
1 日本語特許出願
日本語特許出願PCT/JP2011/062137号(国際公開第2011/149030号)(特許異議申立人が提出した特許異議申立書の証拠方法である甲第1号証。以下、「甲1出願」という。)
なお、甲1出願の国際出願日は2011年5月26日(優先日は2010年5月27日)、発明者は河合直之、出願人は出光興産株式会社である。

2 甲1出願の記載事項
甲1出願には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
粘度平均分子量が17,000以上であり、(A-1)分岐状ポリカーボネート10?100質量部及び(A-2)芳香族ポリカーボネート90?0質量部からなる(A)ポリカーボネート100質量部に対し、(B)光拡散剤0.1?5質量部、(C)難燃剤0.01?1.0質量部、(D)ポリテトラフルオロエチレン0?0.5質量部、(E)ポリオルガノシロキサン0?2質量部を含むことを特徴とする難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分が有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩である請求項1又は2に記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(A-1)成分が、下記一般式(I)で表される分岐剤から誘導された分岐核構造を有する分岐状ポリカーボネートである請求項1?6のいずれかに記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
[化1]

[一般式(I)において、Rは水素あるいは炭素数1?5のアルキル基であり、R^(1)?R^(6)はそれぞれ独立に、水素、炭素数1?5のアルキル基あるいはハロゲン原子である。]
【請求項8】
(A-1)成分において、前記一般式(I)で表される分岐剤の使用量が、(A-1)成分の原料である二価フェノール化合物に対して0.01?3.0モル%の範囲である請求項7に記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記一般式(I)で表される分岐剤が1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンである請求項7又は8に記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンの使用量が、(A-1)成分の原料である二価フェノール化合物に対して0.2?2.0モル%の範囲である請求項9に記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
粘度平均分子量が17,000以上22,000未満の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物であって、(A-1)成分において、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンの使用量が、(A-1)成分の原料である二価フェノール化合物に対して0.2モル%以上1.0モル%未満の範囲であり、(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.03?0.5質量部である請求項10に記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1?15のいずれかに記載の難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物を成形加工して得られるポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項17】
成形体が、照明器具用カバーである請求項16に記載のポリカーボネート樹脂成形体。」(請求の範囲、請求項1、3、7?11、16、17)
(2)「(C)成分の難燃剤は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の薄肉難燃性をさらに向上させるために配合するものであり、特に限定されず、公知のものを使用することができるが、有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩(有機アルカリ(土類)金属塩)が好ましい。
また、本発明においては、リン系難燃剤を含まないことが好ましい。
有機アルカリ(土類)金属塩としては種々のものが挙げられるが、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸、又は有機酸エステルのアルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩を使用することができる。
ここで、有機酸又は有機酸エステルは、有機スルホン酸、有機カルボン酸などである。一方、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなど、アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどであり、この中で、ナトリウム、カリウムの塩が好ましく用いられる。また、その有機酸の塩は、フッ素、塩素、臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記各種の有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩の中で、例えば、有機スルホン酸の場合、下記式(1)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく用いられる。
(C_(e)F_(2e+1)SO_(3))_(f) M (1)
式中、eは1?10の整数を示し、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアリカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を示し、fはMの原子価を示す。
これらの化合物としては、例えば、特公昭47-40445号公報に記載されているものがこれに該当する。
上記式(1)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸としては、例えば、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等を挙げることができる。特に、これらのカリウム塩が好ましく用いられる。その他、パラトルエンスルホン酸、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸;2,4,5-トリクロロベンゼンスルホン酸;ジフェニルスルホン-3-スルホン酸;ジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホン酸;ナフタレントリスルホン酸等の有機スルホン酸のアルカリ金属塩等を挙げることができる。
また、有機カルボン酸としては、例えば、パーフルオロ蟻酸、パーフルオロメタンカルボン酸、パーフルオロエタンカルボン酸、パーフルオロプロパンカルボン酸、パーフルオロブタンカルボン酸、パーフルオロメチルブタンカルボン酸、パーフルオロヘキサンカルボン酸、パーフルオロヘプタンカルボン酸、パーフルオロオクタンカルボン酸等を挙げることができ、これら有機カルボン酸のアルカリ金属塩が用いられる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合する(C)成分の量は、(A)成分100質量部に対し、0.01?1.0質量部であり、好ましくは0.03?0.5質量部、より好ましくは0.05?0.2質量部である。」(段落[0031]、[0032])
(3)「さらに、本発明においては、必要に応じ、任意成分としてその他の合成樹脂、エラストマー、熱可塑性樹脂に常用されている添加剤成分を含有させることもできる。この添加剤としては帯電防止剤、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、可塑剤、抗菌剤、相溶化剤及び着色剤(染料、顔料)等が挙げることができる。
上記任意成分の配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。」(段落[0042])

3 甲1出願に記載された発明
上記2(1)の記載を総合すると、甲1出願には、「粘度平均分子量が17,000以上22,000未満であり、(A-1)分岐状ポリカーボネート100質量部からなる(A)ポリカーボネート100質量部に対し、(B)光拡散剤0.1?5質量部、(C)難燃剤である有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.01?1.0質量部、(D)ポリテトラフルオロエチレン0.03?0.5質量部、(E)ポリオルガノシロキサン0?2質量部を含み、(A-1)成分において、分岐剤である1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンの使用量が、(A-1)成分の原料である二価フェノール化合物に対して0.2モル%以上1.0モル%未満の範囲である難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物を成形加工して得られる照明器具用カバー。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

4 甲1発明との対比
(1)本件特許発明1
甲1発明の「照明器具用カバー」は、本件特許発明1の「光源からの光を拡散させるために前記光源を覆うように配置される照明カバー」に相当する。
甲1発明の「分岐状ポリカーボネート100質量部からなる(A)ポリカーボネート」は、本件特許発明1の「(A)分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)」に相当する。
甲1発明の「有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩」は、上記2(2)からみて、本件特許発明1の「(B)パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩からなる群より選択される1種以上の有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)」に相当し、それらの含有量は「0.01?1.0重量部」の範囲で重複一致する。
甲1発明の「光拡散剤」は、本件特許発明1の「(C)光拡散剤(C成分)」に相当し、それらの含有量は「0.1?3重量部」の範囲で重複一致する。
甲1発明の「難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物」は、その組成からみて、本件特許発明1の「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物」に相当し、甲1発明の「難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物」の「粘度平均分子量が17,000以上22,000未満」は、本件特許発明1の「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物」の「粘度平均分子量が1.6×10^(4)?3.0×10^(4)」と、「粘度平均分子量が17,000以上22,000未満」の範囲で重複一致する。
そして、甲1発明は、本件特許発明1と同様に、「式[1]で示される構成単位[1]よりなるケイ素含有重合体を含有しない」と認められる。
以上を総合すると、本件特許発明1と甲1発明の一致点と相違点は以下のとおりである。
(一致点)「光源からの光を拡散させるために前記光源を覆うように配置される照明カバーであって、該照明カバーが、粘度平均分子量が17,000以上22,000未満であり、(A)分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩からなる群より選択される1種以上の有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.01?1.0重量部、並びに(C)光拡散剤(C成分)0.1?3重量部を含有し、かつ下記式[1]で示される構成単位[1]よりなるケイ素含有重合体を含有しない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物からなる照明カバー。
【化1】

(構成単位[1]において、R^(1)は下記式[2]で示される構成単位[2]、下記式[3-I]で示される構成単位[3-I]および下記式[3-II]で示される構成単位[3-II]からなり、構成単位[2]と(構成単位[3-I]+構成単位[3-II])との割合がモル比で100:0?20:80の範囲である。R^(2)、R^(3)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。j、kは0または1であり、mは1?10の正数である。)
【化2】

(R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。Qは酸素原子または-NR^(10)-(ただしR^(10)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)であり、Zは-C(=O)-または-SO_(2)-である。)
【化3】

【化4】

(式中、Xは、単結合、-C(R^(17))(R^(18))-、-C(=O)-、-SO_(2)-、-S-、-O-、下記式[4-I]および下記式[4-II]で示される基からなる群より選択される少なくとも1つの基である。R^(11)、R^(12)、R^(13)、R^(14)、R^(15)、R^(16)、R^(17)、R^(18)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。pは0?2の整数である。)
【化5】

【化6】

(式中、R^(19)、R^(20)、R^(21)、R^(22)、R^(23)、R^(24)、R^(25)、R^(26)、R^(27)、R^(28)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)」

(相違点1)本件特許発明1では、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の構造粘性指数(N)が1.6?2.5であり、分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)の分岐率が0.6?1.1mol%であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
(相違点2)難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、本件特許発明1では、分子中にSi-H基を含有するシリコーン化合物(D成分)を0.05?7重量部含有するのに対して、甲1発明では、(E)ポリオルガノシロキサン0?2質量部含む点。
はじめに、上記相違点1について検討すると、甲1発明では「(A-1)成分において、分岐剤である1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンの使用量が、(A-1)成分の原料である二価フェノール化合物に対して0.2モル%以上1.0モル%未満の範囲である」こと、及び、分岐剤の使用量が分岐ポリカーボネート樹脂における分岐率と数値的にほぼ一致するという技術常識(特許異議申立書21頁5?8行参照)を踏まえると、甲1発明の分岐状ポリカーボネートの分岐率は0.2モル%以上1.0モル%未満であると認められ、本件特許発明1の分岐率と「0.6mol%以上1.0mol%未満」の範囲で重複一致する。
また、本件特許の明細書の記載を参酌すると、構造粘性指数(N)は、ポリカーボネート樹脂(A成分)の分岐率と難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量の両者に連動するものであると認められるところ、上述のように、甲1発明の分岐状ポリカーボネートの分岐率と難燃光拡散ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量は、それぞれ、本件特許発明1の分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)の分岐率と難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量と重複一致するのであるから、甲1発明は本件特許発明1と同様に1.6?2.5の構造粘性指数(N)を有する蓋然性が高いといえる。
次に、上記相違点2について検討すると、甲1発明における「(E)成分のポリオルガノシロキサン」について、甲1には「難燃性発現補助、金型付着低減、高透過率発現、シルバー発生防止のために配合するものであり、特に限定されず、公知のものを使用することができるが、メトキシ基を含有するものが好ましく、特に、フェニル基、メトキシ基及びビニル基を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。」(段落[0036])と記載されているに留まり、本件特許発明1の「分子中にSi-H基を含有するシリコーン化合物」については記載されていないし、当該技術分野における技術常識を参酌したとしても、当該化合物が記載されているに等しいとまではいえない。
そうしてみると、上記相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1と甲1発明は、上記相違点2において実質的に相違するのであるから、本件特許発明1と甲1発明は同一であるとはいえない。

(2)本件特許発明3、4
本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項3、4に係る本件特許発明3、4は、本件特許発明1と同様に、甲1発明と同一であるとはいえない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1、3、4に係る特許は、特許法184条の13の規定で読み替える同法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

第6 結語
上記第5のとおりであるから、取消理由によっては、訂正後の請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許は訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を拡散させるために前記光源を覆うように配置される照明カバーであって、該照明カバーが、粘度平均分子量が1.6×10^(4)?3.0×10^(4)であり、構造粘性指数(N)が1.6?2.5である、(A)分岐率0.6?1.1mol%の分岐構造を有するポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、および芳香族系イミドのアルカリ(土類)金属塩からなる群より選択される1種以上の有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.005?1.0重量部、(C)光拡散剤(C成分)0.005?3重量部並びに(D)分子中にSi-H基を含有するシリコーン化合物(D成分)0.05?7重量部を含有し、かつ下記式[1]で示される構成単位[1]よりなるケイ素含有重合体を含有しない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物からなることを特徴とする照明カバー。
【化1】

(構成単位[1]において、R^(1)は下記式[2]で示される構成単位[2]、下記式[3-I]で示される構成単位[3-I]および下記式[3-II]で示される構成単位[3-II]からなり、構成単位[2]と(構成単位[3-I]+構成単位[3-II])との割合がモル比で100:0?20:80の範囲である。R^(2)、R^(3)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。j、kは0または1であり、mは1?10の正数である。)
【化2】

(R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。Qは酸素原子または-NR^(10)-(ただしR^(10)は水素原子、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)であり、Zは-C(=O)-または-SO_(2)-である。)
【化3】

【化4】

(式中、Xは、単結合、-C(R^(17))(R^(18))-、-C(=O)-、-SO_(2)-、-S-、-O-、下記式[4-I]および下記式[4-II]で示される基からなる群より選択される少なくとも1つの基である。R^(11)、R^(12)、R^(13)、R^(14)、R^(15)、R^(16)、R^(17)、R^(18)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。pは0?2の整数である。)
【化5】

【化6】

(式中、R^(19)、R^(20)、R^(21)、R^(22)、R^(23)、R^(24)、R^(25)、R^(26)、R^(27)、R^(28)は水素原子、フッ素原子、ニトロ基、炭素数1?12の飽和アルキル基、炭素数2?12の不飽和アルキル基および炭素数5?16の置換もしくは非置換アリール基からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、その一部の水素原子がフッ素原子によって置換されていても良い。)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、A成分100重量部に対し、さらに(E)紫外線吸収剤(E成分)0.01?3.0重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の照明カバー。
【請求項4】
難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、厚さ3.0mmの成形品において、UL94規格の難燃レベル5VAを達成する請求項1または3に記載の照明カバー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-18 
出願番号 特願2010-179395(P2010-179395)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
前田 寛之
登録日 2015-11-20 
登録番号 特許第5840832号(P5840832)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 照明カバー  
代理人 為山 太郎  
代理人 為山 太郎  

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