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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1323503
異議申立番号 異議2016-700403  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-09 
確定日 2016-12-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5831488号発明「電池用樹脂シートの加工装置および加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5831488号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第5831488号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5831488号の請求項1、2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成21年3月6日に出願された特願2009-53863号の一部を平成25年4月5日に特願2013-79680号として新たな特許出願としたものであって、平成27年11月6日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人平賀 博により特許異議の申立てがされ、平成28年7月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年10月19日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?4のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため合議体が付与した。以下、同様である。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に係る「前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動し、」を「前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし、」に訂正する。

(2) 訂正事項2
請求項2に係る「前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させること」を「前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させることで前記樹脂シートの張力を一定にすること」に訂正する。

(3) 訂正事項3
請求項2に係る「前記吸着手段に吸着された前記樹脂シート」を「前記吸着段階で吸着された前記樹脂シート」に訂正する。

(4) 訂正事項4
発明の詳細な説明の【0007】の「第一吸着部で樹脂シートを吸着する前に支持部が前記樹脂シートを支持しながら最下点まで移動し、」という記載を「第一吸着部で樹脂シートを吸着する前に支持部が前記樹脂シートを支持しながら最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし、」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0058】、【0059】には、「テンションローラ340を最下点まで下降させる。テンションローラ340の最下点は、第一吸着部300および第二吸着部310と同じ高さ以下の点とする。
本ステップでは、セパレータ350を第二吸着部310で吸着させ、第一吸着部300では吸着させない状態で、テンションローラ340を最下点に位置させる。これにより、セパレータ350の張力を一定にさせた状態とすることができるため、次ステップS306において、しわの発生を抑制しつつ第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させることができる。また、全てのセパレータ350のしわの発生を抑制し、一定品質を保つことができる。」と記載され、また、同【0066】には、「テンションローラは支持部に、セパレータは樹脂シートに、セパレータ巻き出し機構は送り出し手段に、相当する。」と記載されていることから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。
そして、訂正事項1による訂正は、「前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動し」た際に、「前記樹脂シートの張力を一定に」することを限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に関連する、前記(1)で示した、願書に添付した明細書の【0058】、【0059】、【0066】の記載から、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。
そして、訂正事項2による訂正は、「前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させ」た際に、「前記樹脂シートの張力を一定にすること」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
訂正前の請求項2には、「前記吸着手段に吸着された」と記載されているところ、当該記載より前に「吸着手段」という記載はなく、また、当該記載の前に、「吸着段階」と記載されていることからすると、当該「前記吸着手段に吸着された」は、「前記吸着段階で吸着された」の誤記であるといえるから、訂正事項3による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1、2」という。)は、それぞれ、本件訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
吸着する面が水平かつ同じ高さに設定されることで互いに隣接する第一吸着部および第二吸着部で、送り出された樹脂シートを吸着して、前記樹脂シートのしわの発生を抑制する吸着手段と、
前記吸着手段に吸着された前記樹脂シートを前記第一吸着部と前記第二吸着部との間で切断する切断手段と、
前記第一吸着部上の切断された前記樹脂シートを吸着面で吸着し、前記第二吸着部上へ搬送する可動吸着手段と、
前記樹脂シートを支持しながら上下に移動可能な支持部と、
前記支持部を通して前記樹脂シートを前記第一吸着部上へ送り出す送り出し手段とを有し、
前記支持部は、支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動可能であり、
前記吸着手段は、前記切断手段により切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記可動吸着手段により前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし、その後前記第一吸着部に前記樹脂シートを吸着させることにより、前記第一吸着部および第二吸着部で前記樹脂シートを吸着することを特徴とする電池用樹脂シートの加工装置。
【請求項2】
吸着する面が水平かつ同じ高さに設定されることで互いに隣接する第一吸着部および第二吸着部で、送り出された樹脂シートを吸着して、樹脂シートのしわの発生を抑制する吸着段階と、
前記吸着段階で吸着された前記樹脂シートを前記第一吸着部と前記第二吸着部との間で切断する切断段階と、
前記第一吸着部上の前記切断された前記樹脂シートを吸着面で吸着し、前記第二吸着部上へ搬送する搬送段階と、を有し、
前記吸着段階は、前記切断段階で切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記搬送段階で前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着させる前に、前記樹脂シートを支持しつつ前記第一吸着部上へ送り出した支持部を、前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させることで前記樹脂シートの張力を一定にすることを特徴とする電池用樹脂シートの加工方法。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2に係る特許に対して平成28年7月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1、2に係る発明が解決すべき課題は、「電池用セパレータは金属と比較して導電性が低い材料からなるため、巻き出し機構から送り出す工程を含む切断装置では、セパレータは静電気を帯びる。また、電池用セパレータは薄く、しわが発生しやすい。そのため、セパレータを切断するときに、セパレータにしわが発生し、電池を組んだとき電気抵抗が増加するおそれがある。」(【0006】)であるところ、請求項1、2に係る発明は、支持部が、最下点まで移動したときに、セパレータの張力を一定にさせるものであることが特定されていないから、当該支持部は、例えば、樹脂シートを下側から支持するだけのローラー(以下、「受けローラー」という。)をも含み得るものであり、その場合、受けローラーが、最下点まで移動しても、樹脂シートに張力を付与することはできないから、樹脂シートの張力は一定にならないため、樹脂シートのしわの発生を抑制することはできないので、支持部が最下点まで移動したときにセパレータの張力を一定にさせるものであることが特定されていない、請求項1、2に係る発明は、必ずしも、上記課題を解決できるとはいえない。
したがって、請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである。

3 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件訂正後の明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の【0058】には、第一吸着部および第二吸着部と同じ高さ以下の点を最下点とし、テンションローラを最下点まで降下させること、同【0059】には、セパレータを第二吸着部で吸着させ、第一吸着部では吸着させない状態で、テンションローラを最下点に位置させることにより、セパレータの張力を一定にさせた状態とすることができるため、次ステップにおいて、しわの発生を抑制しつつ第一吸着部および第二吸着部にセパレータを吸着させることができること、同【0066】には、テンションシートは支持部に、セパレータは樹脂シートに、それぞれ相当することが記載されている。
そうすると、本件訂正明細書には、樹脂シートを第二吸着部で吸着させ、第一吸着部では吸着させない状態で、支持部を最下点に位置させたときに、樹脂シートの張力を一定にさせた状態となるため、樹脂シートのしわの発生を抑制することができる、すなわち、前記2で示した課題を解決できることが記載されているといえる。

イ 一方、本件発明1は、本件訂正により、「前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」との事項が特定されることとなった。
ここで、上記「一定」とは、「定まった状態にすること」(広辞林<第五版>、1982年9月1日、株式会社三省堂、p.168)との意味であるから、上記「前記樹脂シートの張力を一定にし」は、「前記樹脂シートの張力を一定にさせた状態にし」と同義であるといえる。
そうすると、本件発明1は、樹脂シートを第二吸着部で吸着させ、第一吸着部では吸着させない状態で、支持部を最下点に位置させたときに、樹脂シートの張力を一定にさせた状態となるため、前記アで検討したのと同様に、本件発明1も、樹脂シートのしわの発生を抑制することができる、すなわち、前記課題を解決できるといえる。

ウ また、本件発明2は、本件訂正により、「前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させることで前記樹脂シートの張力を一定にする」との事項を備えることとなったから、本件発明1と同様に、前記課題を解決できるといえる。

エ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成28年10月19日付け意見書の3頁5?19行において、本件訂正により、「支持部」が「前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」となったが、「支持部」は、依然としていわゆる「受けローラ」をも含むものとなっているとともに、「0」よりも大きな張力を付与することを要件としておらず、「支持部」が「前記最下点まで移動」した場合であっても、必ずしも「前記樹脂シートの張力」が「一定」になるとはいえないから、本件発明1、2は、依然としてサポート要件に違反している旨主張している。
ここで、前記イで検討したように、本件発明1の「前記樹脂シートの張力を一定にし」は、「前記樹脂シートの張力を一定にさせた状態にし」と同義であるといえるから、本件発明1の「前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」との事項は、支持部が樹脂シートを支持しながら最下点まで移動することによって、樹脂シートの張力を一定にさせた状態にすることであるといえる。
そうすると、最下点まで移動したときに樹脂シートの張力を一定にさせた状態とすることができない「受けローラ」は、本件発明1の「支持部」に含まれているとはいえないし、上記「樹脂シートの張力を一定にさせた状態」は、樹脂シートに、張力が必ず付与されている状態、すなわち、「0」よりも大きな張力が付与されている状態であるといえる。
また、本件発明2においても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

オ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものではない。

(2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第2項について
(ア) 特許異議申立人は、証拠として特開2005-285583号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2002-225157号公報(以下、「甲第2号証」という。)を提出し、本件発明1、2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであると主張している。

(イ) 甲号証の記載
A 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、「積層型電子部品の製造方法及びその装置」)(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:下線は合議体が付与した。以下、同様である。)。
(甲1-1) 「【0037】
以下、図面を参照して本発明の打ち抜き方法及び打ち抜き装置の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明による積層装置1の構成を示す図である。まず、積層装置1は、セパレータ供給部10と、電極供給部60と、電極位置補正部30と、積層部40と、仮熱圧着部45と、本熱圧着部50と、積層体収容部70とを有する。以下、各要素について説明する。
【0038】
積層装置1において、図中左側下方にあるのは、セパレータ供給部10である。セパレータ供給部10は、リール状のセパレータ形成部材13を配置する装着部11と、リール状のセパレータ形成部材13の一端を引き出しカット機構17に供給する定寸送り機構15と、セパレータ形成部材13を所定の長さに切断しセパレータ片を形成するためのカット機構17と、を備える。なお、リール状のセパレータ形成部材13の幅寸法は、積層体としての必要長さであるので、カット機構17により切断されたセパレータ片は製品寸法となる。」
(甲1-2) 「【0066】
〔変形例2〕
セパレータ供給部の第2の変形例について説明する。図3は、セパレータ供給部の第2の変形例の一部を模式的に示す定寸裁断部の図である。本変形例は、図1に示すセパレータ供給部に吸着ユニット151を設けた構成である。よって、吸着ユニット151を除くセパレータ供給部は、図1のセパレータ供給部と同じ構成であるので、吸着ユニット151について以下に説明する。
【0067】
吸着ユニット151は、セパレータ形成部材177を切断位置に固定するとともに、セパレータ形成部材177から切断される切断片を、アーム機構(図1の符号80参照。)が保持できる位置に移動する機能を有する。
【0068】
吸着ユニット151は、吸引孔171a、171bを備える第1吸着部169a、169bと、吸引孔195、197を備える第2吸着部191と、吸引孔187を備える第3吸着部185と、吸引孔171a、171b、187、195、197で吸引力を発生するための共通のバキューム手段173と、吸引孔171a、171b、187、195、197とバキューム手段173を連通する主管175a、175b、175c、189と、吸引孔171a、171b、187、195、197の開閉を行うための開閉手段(不図示)と、を備える。
【0069】
第1吸着部169a、bは、第1変形例と同様にセパレータ形成部材177を下面側から吸着するように配置されている。さらに、セパレータ形成部材177の長手方向において第1吸着部169aと169bとの間には、カット機構172が配置される。第1変形例では、セパレータ形成部材の上面側にカット機構を配置したが、第2変形例ではセパレータ形成部材177の下面側に配置される。
【0070】
また、第1吸着部169a、bに対向してセパレータ形成部材の上面側に第2吸着部191が配置されている。第2吸着部191は、第1吸着部169a、bの吸引孔171a、171bに対向する位置に吸引孔195、197を備える。また、第2吸着部191は、セパレータ形成部材177の長手方向(矢印199方向)及び垂直方向(矢印198方向)に不図示の駆動手段により移動可能である。さらに、第2吸着部191の内面(セパレータ形成部材177に対向する面)には、凹部192が設けられていて、カット機構172のブレード181の受け台として機能する。
【0071】
第3吸着部185は、切断されたセパレータの下面側を吸引するための吸引孔187と、吸引孔187とバキューム手段173を結ぶ主管189と、から構成されている。切り出されたセパレータの下面が、第3吸着部185の吸着孔187を塞ぐことにより、第3吸着部185上にセパレータが固定される。
【0072】
上記構成の吸着ユニット151を有するセパレータ供給部は、まず、第2吸着部191を移動し(矢印198、199方向)、第2吸着部191とセパレータ形成部材177との間を所定距離の関係とする。第2吸着部191を作動しセパレータ形成部材177を吸着する。セパレータ形成部材177を吸着した第2吸着部191を移動し(矢印198、199方向)セパレータ形成部材177の繰り出し始端を所定量だけ送り出し切断位置に配置する。第2吸着部を不作動とした後、第1吸着部169a、bの吸引力を発生させ、セパレータ形成部材177の下面が吸引孔171a、171bを塞ぎ、セパレータ形成部材177が吸着部169a、b上に固定される。この時、切断が終わるまで第2吸着部191を下降させてセパレータ形成部材177を挟持した状態で維持する。
【0073】
次に、カット機構172のブレード181が矢印183方向(図中上方向)に移動し、所定寸法のセパレータが切断される。そして第1吸着部169の吸引力を解除し、第2吸着部191の吸引力を発生させる。そうすると、吸引孔195、197が塞がれ第2吸着部191に切断されたセパレータと、セパレータ形成部材とが吸着される。
【0074】
次に第2吸着部191が上昇(矢印198方向)、そして右方向(矢印199方向)に移動し、切り出されたセパレータが第3吸着部185に対向する位置に到達すると、第2吸着部191は第3吸着部185との間を所定距離隔てた位置まで下降する(矢印198方向)。第2吸着部191を不作動にするとともに、第3吸着部185の吸引力を発生させセパレータを第3吸着部上に固定する。第3吸着部185に固定されたセパレータはアーム機構80(図1参照。)により次の工程に搬送される。他方、セパレータ形成部材177は第2吸着部191により次の切断位置に合わせて搬送される。そして、第2吸着部191の吸引力を解除することにより、セパレータ形成部材が解放され、第1吸着部169a、bを再度作動させて次の切断工程を繰り返す。」
(甲1-3) 「【図1】


(甲1-4) 「【図3】



B 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、「テープ断ち切り貼り付け装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(甲2-1) 「【0004】図6は、従来のテープ断ち切り貼り付け装置の概略外観構成を示す図である。理解の容易のため、テープユニット部2が正面平面図の状態で、カードテーブル部3が斜視図の状態で図示されている。従来装置1では、テープユニット部2は、テープリール8からテンションローラ9を介してフィルムテープ5を鉛直方向に垂下して繰り出した後、順次配列する第1の吸着コマ31、第2の吸着コマ32、第3の吸着コマ33よってテープが保持されて所定の処理がされる。フィルムテープ5は、片面にヒートシール剤が塗布されているので、装置の部分が当該ヒートシール剤面に物理的接触をしないように、ヒートシール剤面が非吸着面となるようにして繰り出しされる。第2と第3の吸着コマの間には、テープ切断用のカッター刃24が出し入れ自在に装着されていて、テープが第2と第3の吸着コマに吸引保持されている間にフィルムテープを切断するようにされている。切断後のテープ片は第3の吸着コマが吸引して保持した状態で90度回転しながら下降し、カードテーブル上の大判カード原反4に圧着して接着するようにされている。
【0005】カードテーブル部3は、X,Y方向に数値制御されて位置移動するX-Yテーブルであって、大判カード原反4は当該テーブル上にバキュームやクランプ機構等により固定される。カード原反には、所定のカードデザインの絵柄と共に、位置制御のためのマーク(見当トンボ)41が描かれていて、当該マークをCCDカメラ6により観察して位置精度の目視による位置合わせ調整がなされる。なお、各吸着コマはエアーシリンダー7により上下駆動される。」
(甲2-2) 「【図6】


(甲2-3) 「【図7】



(ウ) 甲第1号証に記載された発明
A 前記(甲1-1)には、図1に示す積層装置のセパレータ供給部は、リール状のセパレータ形成部材を配置する装着部と、リール状のセパレータ形成部材の一端を引き出し、カット機構に供給する定寸送り機構と、セパレータ形成部材を所定の長さに切断しセパレータ片を形成するためのカット機構とを備えるものであることが記載されている。

B 前記(甲1-2)の【0066】には、セパレータ供給部の変形例であって、当該変形例は、図1に示すセパレータ供給部に吸着ユニットを設けた構成であって、吸着ユニット151を除くセパレータ供給部は、図1のセパレータ供給部と同じ構成であることが記載されている。

C 前記A及びBの検討事項によれば、積層装置のセパレータ供給部は、リール状のセパレータ形成部材を配置する装着部と、リール状のセパレータ形成部材の一端を引き出しカット機構に供給する定寸送り機構と、セパレータ形成部材を所定の長さに切断しセパレータ片を形成するためのカット機構と吸着ユニットを備えるものである。

D 前記Cにおけるセパレータ供給部の吸着ユニットについて、前記(甲1-2)の【0068】によれば、当該吸着ユニットは、第1吸着部169a、第1吸着部169b及び第2吸着部を備えている。

E 前記(甲1-2)の【0069】によれば、第1吸着部169a及び第1吸着部169bは、セパレータ形成部材を下面側から吸着するように配置され、第1吸着部169a及び第1吸着部169bとの間には、カット機構が配置されている。

F 前記(甲1-2)の【0070】によれば、第2吸着部は、第1吸着部169a及び第1吸着部169bに対向してセパレータ形成部材の上面側に配置され、セパレータ形成部材の長手方向及び垂直方向に移動可能である。

G 前記(甲1-2)の【0072】?【0074】によれば、第1吸着部169a及び第1吸着部169b上に固定されたセパレータ形成部材は、カット機構のブレードによって切断されるものであり、その後、第1吸着部169a及び第1吸着部169bの吸引力を解除し、第2吸着部の吸引力を発生させ、セパレータ形成部材を第2吸着部により、次の切断位置に合わせて搬送すること、すなわち、第1吸着部169a及び第1吸着部169b上に搬送することが記載されている。

H 前記C?Gの検討事項から、甲第1号証には、以下の2つの発明が記載されていると認められる。
「リール状のセパレータ形成部材を配置する装着部と、
前記セパレータ形成部材を下面側から吸着するように配置されている第1吸着部169a及び第1吸着部169bと、
前記第1吸着部169aと前記第1吸着部169bとの間に配置され、前記第1吸着部169a及び前記第1吸着部169b上に固定される前記セパレータ形成部材を切断するブレードを有するカット機構と、
前記第1吸着部169a及び前記第1吸着部169bに対向して前記セパレータ形成部材の上面側に配置され、前記セパレータ形成部材の長手方向及び垂直方向に移動可能であって、前記第1吸着部169b上の切断された前記セパレータ形成部材を吸着し、前記第1吸着部169a上へ搬送する第2吸着部と、
前記セパレータ形成部材の一端を前記第1吸着部169a及び第1吸着部169bに供給する定寸送り機構とを備え、
前記カット機構により切断された前記セパレータ形成部材の、前記第1吸着部169a及び前記第1吸着手段169bでの吸引力を解除し、前記第2吸着手段の吸引力を発生させ、前記セパレータ形成部材を前記第2吸着部により、前記第1吸着部169a及び前記第1吸着部169b上に搬送し、その後、第1吸着部169a及び前記第1吸着部169bで前記セパレータ形成部材を吸引する積層装置のセパレータ供給部。」(以下、「甲1-1発明」という。)

「セパレータ形成部材を下面側から吸着するように配置されている第1吸着部169a及び第1吸着部169bで、定寸送り機構により供給されたセパレータ形成部材を吸着する吸着段階と、
前記吸着段階で吸着された前記セパレータ形成部材を前記第1吸着部169a及び前記第1吸着部169bの間で切断する切断段階と、
前記前記第1吸着部169b上の前記切断されたセパレータ形成部材を第2吸着部で吸着し、前記第1吸着部169a上へ搬送する搬送段階と、を有し、
前記吸着段階は、前記切断段階で切断された前記セパレータ形成部材の、前記第1吸着部169a及び前記第1吸着手段169bでの吸引力を解除し、前記搬送段階で前記第1吸着部169a上へ搬送された前記セパレータ形成部材を、前記第1吸着部169a及び前記第1吸着部169bで吸引するセパレータ形成部材の加工方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)

(エ) 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証の【0004】によれば、テープユニット部2は、テープリール8からテンションローラ9を介してフィルムテープ5を鉛直方向に垂下して繰り出した後、順次配列する第1の吸着コマ31、第2の吸着コマ32、第3の吸着コマ33よってテープが保持され、第2と第3の吸着コマの間には、テープ切断用のカッター刃24が出し入れ自在に装着されていて、テープが第2と第3の吸着コマに吸引保持されている間にフィルムテープを切断するようにされていることが記載されている。

(オ) 対比・判断
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、本件発明1は、「前記樹脂シートを支持しながら上下に移動可能な支持部と、
前記支持部を通して前記樹脂シートを前記第一吸着部上へ送り出す送り出し手段とを有し、
前記支持部は、支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動可能であり、
前記支持部は、支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動可能であり、
前記吸着手段は、前記切断手段により切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記可動吸着手段により前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし、その後前記第一吸着部に前記樹脂シートを吸着させることにより、前記第一吸着部および第二吸着部で前記樹脂シートを吸着すること」との事項(以下、「発明特定事項1」という。)を備えているのに対し、甲1-1発明は、当該発明特定事項1を備えていない点で少なくとも相違する。
そして、甲第1号証及び甲第2号証には、当該発明特定事項1について記載も示唆もないし、当該発明特定事項1により、本件発明1は、「比較的導電性が低いセパレータや樹脂集電体といった樹脂シートをしわの発生を抑えながら切断できるため、電池に組んだときの電気抵抗の増加を抑制することができる。」(【0008】)という顕著な効果を奏するものであるから、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

次に、本件発明2と甲1-2発明とを対比すると、本件発明2は、「前記吸着段階は、前記切断段階で切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記搬送段階で前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着させる前に、前記樹脂シートを支持しつつ前記第一吸着部上へ送り出した支持部を、前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させることで前記樹脂シートの張力を一定にすること」との事項(以下、「発明特定事項2」という。)を備えているのに対し、甲1-2発明は、当該発明特定事項2を備えていない点で少なくとも相違する。
そして、甲第1号証及び甲第2号証には、当該発明特定事項2について記載も示唆もないし、当該発明特定事項2により、本件発明2は、本件発明1と同様の顕著な効果を奏するものであるから、本件発明2も、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(カ) 特許異議申立人の意見について
A 特許異議申立人は、特許異議申立書12頁8?16行において、「甲第2号証の「テンションローラ9」が本件発明1の『支持部』に相当する。尚、本件明細書にいうところの「上」「下」が、甲第2号証の【図6】においては「右」「左」に相当している。そして、甲第2号証の【図6】においては、「テンションローラ9」が最左点に移動した状態、つまり、本件発明1にいうところの『支持部が樹脂シートを支持しながら最下点まで移動』した状態といえる筈である。甲第2号証の【図6】の「テンションローラ9」は、その右端に支点を有するアームに支持されており、その支点を中心としたアームの回動により、【図6】に示されている状態から多少右へ移動可能な筈であり、当該多少右へ移動した位置が上昇した位置といえる筈である。
そして、そのことが甲第2号証の【図7】における「フィルムテープ5」上端部の左右方向の位置として表現されている(【図7】の(A)?(F)において「フィルムテープ5」上端部の左右方向の位置が異なる)ことを考慮すると、甲第2号証の【図6】及び【図7】には、
・「支持部(=テンションローラ9)」が移動可能であること、
・「支持部(=テンションローラ9)」が、吸着する面と同じ高さとなる点を最下点として移動可能であること、
・第一吸着部で樹脂シートを吸着するときには、「支持部(=テンションローラ9)」が前記樹脂シートを最下点で支持していること、が記載されているといえる。」と主張する。
しかし、甲第2号証の【図6】においては、テンションローラ9が、その右側にあるアームに支持されていることは見て取れるものの、当該アームが、その右側の支点を中心として回動することは、甲第2号証には何ら記載も示唆もされていないし、仮に、上記テンションローラ9が、アームの右側の支点を中心とする回動によって左右に移動可能なものであるとしても、甲第2号証には、【図7】において、テンションローラ9がどのように移動するかは、全く記載されていない。
したがって、甲第2号証には、発明特定事項1及び2のいずれも記載されているとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

B 特許異議申立人は、平成28年10月19日付け意見書3頁20行?4頁9行において、甲第2号証の【0026】には、「上述のように、本発明のテープ断ち切り貼り付け装置によれば、フィルムテープの引き出しから切断までの間においてテープのテンションが安定して維持されるので、テープ切断長さにバラツキが生じることがない。」と記載されており、本件発明1、2の「一定」という文言の一般的な意味合いとしては、「安定して維持」と同義であると考えられ、また、しわが発生した場合には、当然に長さにバラツキが生じることから、「長さにバラツキが生じることがない」ことは、「しわの発生を抑制」と同義であるから、甲第2号証には、本件発明1、2の技術的特徴が記載されているといえ、したがって、特許異議申立書に記載されているとおり、本件発明1、2は、甲第1号証と甲第2号証との組合せにより進歩性が否定されるべきである旨主張している。
しかし、仮に、特許異議申立人の上記主張のとおり、本件発明1、2の「一定」が、甲第2号証に記載の「安定して維持」と同義であり、また甲第2号証に記載の「長さにバラツキが生じることがない」ことは、本件発明1、2の「しわの発生を抑制」と同義であるとしても、前記(オ)及び前記Aで検討したように、甲1-1発明は、少なくとも、本件発明1の発明特定事項1を有しておらず、また、甲1-2発明は、少なくとも、本件発明2の発明特定事項2を有しておらず、さらに、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、発明特定事項1及び2について、記載も示唆もされていないから、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明を組み合わせても、発明特定事項1及び2を得ることはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(キ) まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 特許法第36条第6項第2号について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書7頁23行?8頁11行において、訂正前の請求項1、2における「支持部」に関し、もう1つの要件である「吸着手段」と組み合わせたとしても、単に「支持部」を上下させるだけでは「しわの発生を抑制」することはできないことは明らかであるから、「しわの発生を抑制」する上において、「支持部」の技術的意味を理解することはできず、結果として発明が不明確である。
また、「支持部」には、受けローラや、フリーローラが含まれるのか、あるいは、ローラですらない棒状部材や、板状体、ひいては、樹脂シートを上下から挟持する一対のチャック部材のようなものも含まれるのか不明確である旨主張する。
しかし、前記(1)イで検討したように、本件発明1は、樹脂シートを第二吸着部で吸着させ、第一吸着部では吸着させない状態で、支持部を最下点に位置させたときに、樹脂シートの張力を一定にさせた状態となるため、樹脂シートのしわの発生を抑制することができるものである。
また、前記(1)エで検討したように、本件発明1の「前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」との事項は、支持部が樹脂シートを支持しながら最下点まで移動することによって、樹脂シートの張力を一定にさせた状態にすることであるといえるから、本件発明1の「支持部」は、樹脂シートを支持しながら最下点まで移動した際に、樹脂シートの張力を一定にさせた状態にできる部材であれば足りるものであって、樹脂シートを支持しながら最下点まで移動した際に、樹脂シートの張力を定まった状態にすることができない部材(例えば、受けローラ)は、本件発明1の「支持部」に含まれないことは明らかである。
また、本件発明2の「支持部」についても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ) 特許異議申立人は、平成28年10月19日付け意見書の2頁12行?3頁4行において、以下の3点を理由に、本件発明1、2が不明確である旨主張している。
A 本件発明1、2における「樹脂シートの張力を一定に」の「一定」という文言が、そもそも何と何を比較して「一定」であるのか不明である。
B 「前記支持部が・・・前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」に関して「支持部」が「最下点まで移動すること」と、「樹脂シートの張力」が「一定」になることとの因果関係が技術的に理解できない。
C 「一定」が、時系列において張力の変化がない、換言すると、所定の値を維持することを意味するのであれば、その所定の値としては文言上「0」も含まれるはずである(元々「一定に(する)」という技術的意味合いが不明瞭な文言であることに加え、「0」よりも大きな張力を付与することを要件としてないので。)。
しかし、前記(1)エで検討したように、本件発明1の「前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし」との事項は、支持部が樹脂シートを支持しながら最下点まで移動することによって、樹脂シートの張力を一定にさせた状態にすることであって、上記「樹脂シートの張力を一定にさせた状態」は、樹脂シートに、張力が必ず付与されている状態、すなわち、「0」よりも大きな張力が付与されている状態であるといえるから、その張力が「0」であることは含まれない。
また、本件発明2においても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ) まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、不明確であるとはいえない。

ウ 特許法第36条第4項第1号
特許異議申立人は、特許異議申立書8頁13行?9頁7行において、訂正前の請求項1、2においては、「支持部」という上位概念の発明が記載されている一方で、発明の詳細な説明には、一部の下位概念にすぎない「テンションローラ340」のみが記載されており、上位概念である「支持部」に含まれる他の下位概念については、出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に説明されていない。
さらに、訂正前の請求項1では、「前記支持部は、支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動」する点が記載されている(訂正前の請求項2でも同様である。)ところ、「支持部」には、受けローラのようなものが含まれるとすると、当該受けローラを「前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動」させたとしても、「しわの発生を抑制」することなどできないから、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。
また、「支持部」の最下点が、「前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ」であってもよいが、「支持部」として、樹脂シートに張力を生じさせないようなものを用いた場合、そのような「支持部」を「前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ」に移動させたとしても、「しわの発生を抑制」することができるかどうかわからないから、この点においても、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしているとはいえない旨主張する。
しかし、前記イ(ア)で検討したように、本件発明1、2の「支持部」は、樹脂シートを支持しながら最下点まで移動した際に、樹脂シートの張力を一定にさせた状態にできる部材であれば足りるものであって、樹脂シートを支持しながら最下点まで移動した際に、樹脂シートの張力を定まった状態にすることができない部材(例えば、受けローラ)は、本件発明1の「支持部」に含まれないことは明らかであり、一方で、当該「支持部」が、「テンションローラ」に限られるものではないことも明らかであるから、本件訂正明細書の記載は、当業者であれば、本件発明1、2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、本件訂正明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電池用樹脂シートの加工装置および加工方法
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用樹脂シートの加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギを有することが求められている。したがって、全ての電池の中で最も高い理論エネルギを有するリチウムイオン二次電池(一つの二次電池を単電池と称する)を直列に積層した双極型二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
電池用セパレータを切断する技術としては、帯状セパレータの巻き出し機構から巻き出されるセパレータを所定寸法に切断し間欠的に送り出す送り出し機構が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-323116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電池用セパレータは金属と比較して導電性が低い材料からなるため、巻き出し機構から送り出す工程を含む切断装置では、セパレータは静電気を帯びる。また、電池用セパレータは薄く、しわが発生しやすい。そのため、セパレータを切断するときに、セパレータにしわが発生し、電池を組んだとき電気抵抗が増加するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る電池用樹脂シートの加工装置は、吸着手段と、切断手段と、可動吸着手段と、支持部と、送り出し手段とを有する。吸着手段は、吸着する面が水平かつ同じ高さに設定されることで互いに隣接する第一吸着部および第二吸着部で、送り出された樹脂シートを吸着し、樹脂シートのしわの発生を抑制する。切断手段は、吸着手段に吸着された樹脂シートを第一吸着部と第二吸着部との間で切断する。可動吸着手段は、第一吸着部上の切断された樹脂シートを吸着面で吸着し、第二吸着部上へ搬送する。支持部は、樹脂シートを支持しながら上下に移動可能に設けられる。送り出し手段は、支持部を通して樹脂シートを第一吸着部上へ送り出す。さらに、支持部は、支持する前記樹脂シートが第一吸着部および第二吸着部の吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動可能である。また、吸着手段は、前記切断手段により切断された前記樹脂シートの、第一吸着部での吸着が解除された後に、可動吸着手段により第二吸着部上へ搬送された樹脂シートを第二吸着部で吸着させ、第一吸着部で樹脂シートを吸着する前に支持部が前記樹脂シートを支持しながら最下点まで移動することで樹脂シートの張力を一定にし、その後第一吸着部に樹脂シートを吸着させることにより、第一吸着部および第二吸着部で樹脂シートを吸着する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電池用樹脂シートの加工装置によれば、比較的導電性が低いセパレータや樹脂集電体といった樹脂シートをしわの発生を抑えながら切断できるため、電池に組んだときの電気抵抗の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置および加工方法によって加工された樹脂シートが用いられる積層型電池の外観図である。
【図2】図1に示す積層型電池の断面図である。
【図3】本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置の構造を示す説明図である。
【図4】本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法のフローチャートを示す図である。
【図5】本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法を実施する際の樹脂シートの加工装置の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る電池用樹脂シートの加工装置および加工方法について実施形態により詳細に説明する。樹脂シートとしては、導電性がより低い絶縁体からなるセパレータが最適である。そこで、以下、樹脂シートの例として双極型のリチウムイオン二次電池(以下、「積層型電池」と称する)に用いられるセパレータに関して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、樹脂シートは、他の電池に用いられるセパレータや、電池に用いられる樹脂集電体であってもよい。なお、以下参照する図面では、積層型電池の構成要素の形状、厚さ等を誇張しているが、これは発明の理解を容易にするためである。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置および加工方法によって加工された樹脂シートが用いられる積層型電池の外観図である。図2は、図1に示す積層型電池の断面図である。
【0012】
図1に示すように、積層型電池10は、たとえば、長方形状の扁平な形状を有し、その両側部からそれぞれ電力を取り出すための正極タブ110Aおよび負極タブ110Bが引き出される。発電要素120は、積層型二次電池10の外装材(たとえば、ラミネートフィルム)130によって包まれ、その周囲は熱融着されており、正極タブ110Aおよび負極タブ110Bを引き出した状態で密封される。
【0013】
図2に示すように、積層型電池10の発電要素120は、正極活物質層210と、負極活物質層220とが集電体230のそれぞれの面に形成された積層型電池用電極260を複数有する。各積層型電池用電極260は、電解質層240を介して積層されて発電要素120を形成する。
【0014】
電解質層240は、セパレータに液体電解質またはゲル電解質を保持させてなる。セパレータは、正極活物質層210と負極活物質層220の間に介在して両活物質層の接触に伴う短絡を防止する機能と、電解質を保持して導電性を確保する機能と、を有する。セパレータとしては、例えば、上記電解質を吸収保持する樹脂からなる多孔性シートや樹脂フィルム、および不織布を挙げることができる。
【0015】
集電体230は、導電性を有する薄膜であり、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材からなってもよいがこれらに限定されない。例えば、集電体230は、樹脂集電体であってもよい。
【0016】
樹脂集電体は、金属の集電体と比較して導電性が低いため、比較的静電気を帯びやすく、しわが発生しやすい。このため、セパレータと同じように、樹脂集電体の加工に本実施形態を適用することもできる。
【0017】
隣接する正極活物質層210、電解質層240および負極活物質層220は、一つの単電池200を構成する。したがって、積層型電池10は、単電池200が積層されてなる構成を有する。また、各集電体230のそれぞれ対向する面の外周には、隣接する集電体230間を絶縁するためのシール部材250を設ける。
【0018】
次に、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置について説明する。
【0019】
図3は、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置の構造を示す説明図である。本実施形態が適用される電池用樹脂シートにはセパレータおよび樹脂集電体を含む。
【0020】
図3に示すように、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置は、第一吸着部300、第二吸着部310、カッター320、可動吸着部330、テンションローラ340、セパレータ巻き出し機構370、ガイドローラ380、制御部360、からなりうる。
【0021】
第一吸着部300は、面状であり、セパレータ巻き出し機構370から支持部340を通じて送り出されたセパレータ350を吸着する機能を有する。吸着は、例えば、真空吸引によって行うことができる。すなわち、第一吸着部300上に送り出されたセパレータ350と第一吸着部との間の外気を第一吸着部300全面で継続的に吸引することで第一吸着部300とセパレータ350との間を真空に近づける。これにより、第一吸着部300がセパレータ350を吸着してもよい。第一吸着部300は水平に設置することが望ましい。
【0022】
第二吸着部310は、第一吸着部300と同様に面状で、セパレータ350を全面で吸着する機能を有する。第一吸着部300と第二吸着部310とは互いに隣接させて配置する。すなわち、面状を有する第一吸着部300および第二吸着部310を水平かつ同じ高さに設置する。これにより、セパレータ350が第一吸着部300と第二吸着部310にまたがった状態になったときでもセパレータ350の形状を段差のない面状とすることができる。
【0023】
カッター320は、セパレータ350を切断する機能を有する。カッター320は、第一吸着部300および第二吸着部310に対し垂直、かつ、第一吸着部300と第二吸着部310との間、に配置する。そして、カッター320は、垂直下方に移動することでセパレータ350を第一吸着部300と第二吸着部310との間で切断することができる。第一吸着部300と第二吸着部310との間には、カッターの磨耗を防止するためのカッター受け321を設けてもよい。
【0024】
可動吸着部330は、吸着面331、支持体333、支持棒332とからなりうる。可動吸着部330は、吸着面331を第一吸着部300または第二吸着部310と対面させながら吸着面331を垂直方向に移動させることができる。
【0025】
これにより、吸着面331を下降させ、第一吸着部300と共にセパレータ350を挟み込んだ状態とする。この状態で吸着面331を真空引きすることで、接着面331はセパレータ350を吸着することができる。
【0026】
また、吸着面331でセパレータ350を吸着させたまま吸着面331を上昇させることでセパレータ350を上方へ移動させることができる。
【0027】
ここで、可動吸着部330の吸着面331の上昇速度を下降速度より遅くすることが望ましい。これにより、セパレータの応力集中を緩和し、破損を抑制することができる。
【0028】
このような吸着面331の移動は、吸着面331を支持する支持体333と、支持体333を支持する支持棒332と、のいずれか一方に駆動源を、他方に従動体を設けることで実現できる。
【0029】
さらに、可動吸着部330は、吸着面331を水平方向へ移動させることができる。これにより、セパレータ350を吸着させたまま、吸着面331を第一吸着部300上方から第二吸着部310上方まで移動させることができる。このような吸着面331の移動は、吸着面331を支持する支持体333と、支持体333を支持する支持棒332と、のいずれか一方に駆動源を、他方に従動体を設けることで実現できる。可動吸着部330で、吸着させながらセパレータを移動させることで、移動時においてもしわを発生しにくくすることができる。
【0030】
テンションローラ340は、セパレータ350を支持しながら垂直方向に上下に移動することができる。セパレータ350を支持しながら垂直方向に上下に移動させることで、第一吸着部300上の、もしくは、第一吸着部300上から第二吸着部310上にまたがったセパレータ350に生じさせる張力を調整することができる。テンションローラ340は、可動吸着部330の吸着面331と同じ高さを最上点とし、第一吸着部および第二吸着部と同じ高さ以下を最下点として可動可能とする。
【0031】
テンションローラ340を最上点に位置させることにより、可動吸着部330がセパレータ350を吸着させて上方へ移動させた状態でも、セパレータ350を水平に保つことができる。これにより、セパレータ350の張力を一定とすることができるため、しわの発生を抑制しつつセパレータ350を搬送することができる。また、全てのセパレータ350のしわの発生を抑制し、一定品質を保つことができる。例えば、支持部の上昇速度は5mm/sとすることができる。
【0032】
また、セパレータ350を第二吸着部310上まで搬送した後、セパレータ350を第二吸着部310では吸着し、第一吸着部300では吸着しない状態で、テンションローラ340を最下点に位置させることができる。これにより、セパレータ350の張力を一定にさせた状態で第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させることができる。したがって、しわの発生を抑制しつつ第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させることができる。また、全てのセパレータ350のしわの発生を抑制し、一定品質を保つことができる。
【0033】
セパレータ巻き出し機構370は、セパレータ350を連続的に送り出す機能を有する。セパレータ巻き出し機構370は、例えば、セパレータ350を捲装したフープとフープを回転駆動するモータからなりうる。
【0034】
ガイドローラ380は、セパレータ巻き出し機構370から送り出されたセパレータ350の走行を滑らかにするために設ける。
【0035】
制御部360は、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置の構成要素である、第一吸着部300、第二吸着部310、カッター320、可動吸着部330、テンションローラ340、セパレータ巻き出し機構370、ガイドローラ380を制御する。制御部360は、記憶装置を有し、記憶装置に記憶させたプログラムにより該構成要素を制御してもよい。制御部360が制御する各構成要素と制御部360との間に設ける信号線は、図面の簡略化のため省略した。
【0036】
次に、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法について加工装置の動作とともに説明する。
【0037】
図4は、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法のフローチャートを示す図である。図5は、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法を実施する際の電池用樹脂シートの加工装置の動作を示す説明図である。なお、図5においては、本実施形態の理解を容易にするため、樹脂シートの加工装置の各構成要素の寸法を一部誇張している。また、図5においては図の複雑化を回避するため符号の表示を省略した。
【0038】
以下、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工方法について、図4のフローチャートのステップ番号を明示してステップ番号ごとに説明する。
【0039】
[S500]
第一吸着部にセパレータを吸着させる。
【0040】
セパレータ巻き出し機構370から送り出されるセパレータ350を、ガイドローラ380、テンションローラ340を介して第一吸着部300上に設置し、第一吸着部300を真空吸引させることで第一吸着部300にセパレータ350を吸着させる。図5のAに、本ステップを実施したときのセパレータの加工装置の状態を示す。
【0041】
なお、本ステップは、本実施形態を実施した結果として生じる状態である。すなわち、本実施形態は、第一吸着部300および第二吸着部310でセパレータ350を吸着させた状態で、第一吸着部300と第二吸着部310との間でセパレータ350を切断する(後述するステップS507参照)。そして、第二吸着部上310にある切断されたセパレータ350を回収することで、本ステップの状態となる。
【0042】
本ステップにおいては、第一吸着部300と可動吸着部330の吸着面331との距離は狭くする方が望ましい。こうすることで、次ステップにおける可動吸着部の移動距離を短縮できるため、工程時間を短縮し、生産性を向上することができる。例えば、第一吸着部300と可動吸着部330の吸着面331との距離は、10mmとすることができる。
【0043】
[S501]
可動吸着部にセパレータを吸着させる。
【0044】
可動吸着部330を第一吸着部上300に下降させ、可動吸着部330と第一吸着部300とでセパレータ350を挟み込む状態にする。この状態で、可動吸着部330に真空吸引を開始させるとともに第一吸着部300に真空吸引を解除させる。これにより、可動吸着部330にセパレータ350を吸着させることができる。
【0045】
図5のBに、本ステップを実施したときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0046】
[S502]
テンションローラを上昇させる。
【0047】
テンションローラ340を最上点まで上昇させる。テンションローラ340の最上点は、次ステップS503で可動吸着部330を上昇させたときの吸着面331と同じ高さとする。
【0048】
次ステップSで503で可動吸着部を上昇させる前に、テンションローラ340を最上点に位置させることにより、その後、可動吸着部330がセパレータ350を吸着させて上方へ移動させた状態でも、セパレータ350を水平に保つことができる。これにより、セパレータ350の張力を一定とすることができるため、しわの発生を抑制しつつセパレータ350を搬送することができる。また、全てのセパレータ350のしわの発生を抑制し、一定品質を保つことができる。
【0049】
図5のCに、本ステップを実施したときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0050】
[S503]
可動吸着部でセパレータを搬送する。
【0051】
まず、可動吸着部330を、セパレータ350を全面で吸着したまま第一吸着部300の上方へ上昇させる。次に、可動吸着部330をセパレータ350を全面で吸着したまま第二吸着部310の上方へ水平移動させる。その後、可動吸着部330がセパレータ350を吸着したまま、可動吸着部330を第二吸着部上へ下降する。これにより、可動吸着部はセパレータを第一吸着部300上から第二吸着部310上へ搬送する。
【0052】
このように、吸着させながらセパレータ350を移動させるので、移動時においてもしわを発生しにくい。
【0053】
図5のDに、本ステップを実施しているときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0054】
[S304]
第二吸着部にセパレータを吸着させる。
【0055】
前ステップで第二吸着部310上に搬送されたセパレータ350を、第二吸着部310に真空吸引させることで第二吸着部310全面にセパレータ350を吸着させる。なお、本ステップでは、第一吸着部300にはセパレータ350を吸着させない。
【0056】
図5のEに、本ステップを実施したときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0057】
[S305]
テンションローラを下降させる。
【0058】
テンションローラ340を最下点まで下降させる。テンションローラ340の最下点は、第一吸着部300および第二吸着部310と同じ高さ以下の点とする。
【0059】
本ステップでは、セパレータ350を第二吸着部310で吸着させ、第一吸着部300では吸着させない状態で、テンションローラ340を最下点に位置させる。これにより、セパレータ350の張力を一定にさせた状態とすることができるため、次ステップS306において、しわの発生を抑制しつつ第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させることができる。また、全てのセパレータ350のしわの発生を抑制し、一定品質を保つことができる。
【0060】
図5のFに、本ステップを実施したときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0061】
[S306]
第一吸着部にセパレータを吸着させる。
【0062】
前ステップでテンションローラ340を下降させてセパレータ350の張力を一定にした状態のまま、第一吸着部300全面にセパレータを吸着させる。これにより、しわの発生を抑制しつつ第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させることができる。
【0063】
図5のGに、本ステップを実施したときの電池用樹脂シートの加工装置の状態を示す。
【0064】
[S307]
セパレータを切断する。
【0065】
前ステップでしわの発生を抑制しつつ第一吸着部300および第二吸着部310にセパレータ350を吸着させた状態で、第一吸着部300と第二吸着部310との間にカッター320を下降させることでセパレータを切断する。これにより、セパレータ350にしわが発生しないようにセパレータ350を切断できる。そのため、セパレータ350に生じたしわに起因する電池の電気抵抗の増加を抑制することができる。また、セパレータ350に破損やピンホールを発生させずにセパレータ350の加工をすることができる。また、装置によりしわの発生を抑制するため、不純物の混入を防止することができる。
【0066】
以上、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置および加工方法について説明したが、本実施形態の第一吸着部は、本発明の第一吸着部および吸着手段に相当し、第二吸着部は、第二吸着部および吸着手段に相当する。カッターは切断手段に相当する。テンションローラは支持部に、セパレータは樹脂シートに、セパレータ巻き出し機構は送り出し手段に、相当する。
【0067】
<実験結果>
本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置で加工したセパレータを使用した双極型二次電池と、従来の双極型二次電池とにつき、微小短絡試験の比較実験を行った。
【0068】
本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置で加工したセパレータを用いて双極型二次電池を100個作製し、環境温度を20℃として、作製した電池を充放電した。
【0069】
従来の電池用樹脂シートの加工装置で加工したセパレータを用いて双極型二次電池を100個作製し、環境温度を20℃として、作製した電池を充放電した。
【0070】
充放電を行った電池の容量値を計測し、設計値に対し±3%の範囲外の容量値となった電池を不良とし、歩留を求めた。
【0071】
その結果、従来の双極型二次電池の歩留は81%であったのに対し、本実施形態に係る加工装置によるセパレータを使用した電池の歩留は98%であった。
【0072】
本実験により、本実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置で加工したセパレータを使用した双極型二次電池の微小短絡試験における歩留向上効果が実証された。
【0073】
以下に、本発明の実施形態に係る電池用樹脂シートの加工装置および加工方法の効果を示す。
・電池用樹脂シート(セパレータ、樹脂集電体)をしわが発生しないように切断できるため、電池に組んだときの電気抵抗の増加を抑制することができる。
・電池積層工程に組み込むことで、電池の一定品質を保ち、歩留、生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0074】
10 積層型電池、
110A 正極タブ、
110B 負極タブ、
120 発電要素、
130 外装材、
200 単電池、
210 正極活物質層、
220 負極活物質層、
230 集電体、
240 電解質層、
250 シール部材、
260 電極、
300 第一吸着部(第一吸着部、吸着手段)、
310 第二吸着部(第二吸着部、吸着手段)、
320 カッター(切断手段)、
330 可動吸着部、
331 吸着面、
332 支持棒、
333 支持体、
340 テンションローラ(支持部)、
350 セパレータ(樹脂シート)、
360 制御部、
370 セパレータ巻き出し機構(送り出し手段)、
380 ガイドローラ。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着する面が水平かつ同じ高さに設定されることで互いに隣接する第一吸着部および第二吸着部で、送り出された樹脂シートを吸着して、前記樹脂シートのしわの発生を抑制する吸着手段と、
前記吸着手段に吸着された前記樹脂シートを前記第一吸着部と前記第二吸着部との間で切断する切断手段と、
前記第一吸着部上の切断された前記樹脂シートを吸着面で吸着し、前記第二吸着部上へ搬送する可動吸着手段と、
前記樹脂シートを支持しながら上下に移動可能な支持部と、
前記支持部を通して前記樹脂シートを前記第一吸着部上へ送り出す送り出し手段とを有し、
前記支持部は、支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着する面と同じ高さ以下となる点を最下点として移動可能であり、
前記吸着手段は、前記切断手段により切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記可動吸着手段により前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着する前に前記支持部が前記樹脂シートを支持しながら前記最下点まで移動することで前記樹脂シートの張力を一定にし、その後前記第一吸着部に前記樹脂シートを吸着させることにより、前記第一吸着部および第二吸着部で前記樹脂シートを吸着することを特徴とする電池用樹脂シートの加工装置。
【請求項2】
吸着する面が水平かつ同じ高さに設定されることで互いに隣接する第一吸着部および第二吸着部で、送り出された樹脂シートを吸着して、樹脂シートのしわの発生を抑制する吸着段階と、
前記吸着段階で吸着された前記樹脂シートを前記第一吸着部と前記第二吸着部との間で切断する切断段階と、
前記第一吸着部上の前記切断された前記樹脂シートを吸着面で吸着し、前記第二吸着部上へ搬送する搬送段階と、を有し、
前記吸着段階は、前記切断段階で切断された前記樹脂シートの、前記第一吸着部での吸着が解除された後に、前記搬送段階で前記第二吸着部上へ搬送された前記樹脂シートを前記第二吸着部で吸着させ、前記第一吸着部で前記樹脂シートを吸着させる前に、前記樹脂シートを支持しつつ前記第一吸着部上へ送り出した支持部を、前記支持部が支持する前記樹脂シートが前記第一吸着部および前記第二吸着部の前記吸着させる面と同じ高さ以下となる最下点まで前記支持部により前記樹脂シートを支持させながら移動させることで前記樹脂シートの張力を一定にすることを特徴とする電池用樹脂シートの加工方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-21 
出願番号 特願2013-79680(P2013-79680)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮田 透森井 隆信  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 土屋 知久
河本 充雄
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5831488号(P5831488)
権利者 日産自動車株式会社
発明の名称 電池用樹脂シートの加工装置および加工方法  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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