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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G |
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管理番号 | 1323504 |
異議申立番号 | 異議2015-700173 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-11-12 |
確定日 | 2016-11-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5716002号「無機化合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5716002号の明細書及び特許請求の範囲を、平成28年8月31日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第5716002号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5716002号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2006年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月28日、(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2008-518686号の一部を、平成24年11月2日に新たな特許出願(特願2012-242348号)としたものであって、登録後の経緯は以下のとおりである。 平成27年 3月20日 :特許権の設定登録 同年11月12日 :特許異議申立人 中久喜 美和による特許異議の申立て 平成28年 1月21日付け:取消理由の通知 同年 4月19日 :訂正の請求、意見書の提出 同年 5月27日 :特許異議申立人からの意見書の提出 同年 7月20日付け:取消理由(決定の予告)の通知 同年 8月31日 :訂正の請求、意見書の提出 同年10月 7日 :特許異議申立人からの意見書の提出 同年11月 3日 :上申書の提出 第2 訂正請求について 1.訂正の内容 平成28年8月31日付けで訂正請求書が提出されたので、特許法第120条の5第7項の規定により、同年4月19日付け訂正請求は取り下げたものとみなされる。 そして、平成28年8月31日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下(1)?(6)のとおりである。なお、下線部は訂正箇所である。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「化学式LiXNiaCobMncО_(2)」と記載されているのを、「化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)」に訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許明細書【0047】に、「リチウム金属酸化物を20℃/分未満、好ましくは3?20℃/分、更に好ましくは3?14℃/分、より更に好ましくは3?10℃/分、特に好ましくは3?9℃/分、または8℃/分未満の冷却速度で冷却を行う。特に、上記加熱温度から約300℃までの冷却熱処理における冷却速度が、T=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される。」と記載されているのを、「リチウム金属酸化物を、上記加熱温度から約300℃までの冷却熱処理における冷却速度が、T=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却する。」に訂正する。 (3)訂正事項3 本件特許明細書【0072】に、「粉末炭酸リチウム(LiCO_(3))」と記載されているのを、「粉末炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))」に訂正する。 (4)訂正事項4 本件特許明細書【0073】に、「冷却速度は22℃/分であった。」と記載されているのを削除し、「冷却速度は、最初の1時間が4℃/分で、その後室温までの冷却速度は2℃/分であった。」と記載されているのを削除する。 (5)訂正事項5 本件特許明細書【0078】に、「冷却速度は22℃/分であった。また、」と記載されているのを削除する。 (6)訂正事項6 本件特許明細書【0079】に、「冷却速度は、最初の1時間が4℃/分で、その後室温までの冷却速度は2℃/分であった。」と記載されているのを削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正前の本件特許明細書【0013】などにも記載のとおり、訂正前の請求項1に記載された化学式「LiXNiaCobMncО_(2)」は、「Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)」の誤記であることが明らかであり、訂正事項1は、前記明らかな誤記を訂正するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものであると共に、訂正前の本件特許明細書【0013】などに記載された事項でもあるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 本件特許発明は、訂正前の請求項1に、「当該冷却工程が、上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される(・・・Tは温度(℃)、・・・tは冷却時間を示し、・・・、且つ関数は非線形である)冷却熱処理を含む」と記載されているとおり、温度Tが、冷却時間tの非線形の関数に基づいて冷却される冷却工程を含むものである。 一方で、訂正前の本件特許明細書【0047】の、「リチウム金属酸化物を20℃/分未満、好ましくは3?20℃/分、更に好ましくは3?14℃/分、より更に好ましくは3?10℃/分、特に好ましくは3?9℃/分、または8℃/分未満の冷却速度で冷却を行う。」なる記載は、線形での冷却のみを行うものと解されるから、上記本件特許発明と矛盾する。 訂正事項2は、訂正前の本件特許明細書【0047】において、上記本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項2は、本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項2は、本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであり、発明の対象や目的を変更するものではない。 この点について、特許異議申立人は、平成28年8月31日に提出した意見書(B-4)において、本件特許明細書【0047】の「20℃/分未満・・・」なる記載を削除することは、訂正前の本件特許発明の技術的範囲からは外れていた、「加熱温度から約300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却されるものの、20℃/分を超える冷却速度で冷却される場合」も、本件特許発明の技術的範囲に含まれることになるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであると主張している。 しかしながら、T=f*EXP(-R*t)をtで微分して、時間tに対する温度変化、すなわち「冷却速度」(T’とする。)についてみると、T’=-R*f*EXP(-R*t)であり、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、そして冷却時間tは当然にt≧0であり、0<EXP(-R*t)≦1となるから、0>T’≧-10となる。 すなわち、特許異議申立人が主張するような、「加熱温度から約300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却されるものの、20℃/分を超える冷却速度で冷却される場合」は存在しない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できず、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正前の本件特許明細書【0072】に記載された化学式「LiCO_(3)」は、その価数からみて「Li_(2)CO_(3)」の誤記であることが明らかであり、訂正事項3は、前記明らかな誤記を訂正するものである。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4?6について ア 訂正の目的について 上記(2)アで説示したとおり、本件特許発明は、温度Tが、冷却時間tの非線形の関数に基づいて冷却される冷却工程を含むものである。 一方で、訂正前の本件特許明細書【0073】、【0078】、【0079】には、上記(2)アで説示したものと同様に、線形での冷却のみを行うものと解される記載があり、かかる記載は上記本件特許発明と矛盾する。 訂正事項4?6は、それぞれ訂正前の本件特許明細書【0073】、【0078】、【0079】において、上記本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項4?6は、本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項4?6は、本件特許発明と矛盾する記載を削除するものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (5)一群の請求項について 訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は直接又は間接的に請求項1を引用しているから、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、「本件特許発明1?8」という。)は、平成28年8月31日に提出された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 【請求項1】 実質的に単相で、六方晶層状結晶構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない化合物の製造方法であって、当該製造方法は、化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)で表されるリチウム金属酸化物(ただし、上記式中、a、b及びcはそれぞれ独立に0.05以上0.8以下の数であり、0.95≦a+b+c≦1.02、0.98≦x≦1.05、x+a+b+c=2である)を600℃以上に加熱する加熱工程と、当該加熱された化合物を冷却する冷却工程とから成り、当該冷却工程が、上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される(ただし、上記式中、Tは温度(℃)、fは係数、Rは冷却速度、tは冷却時間を示し、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、且つ関数は非線形である)冷却熱処理を含むことを特徴とする化合物の製造方法。 【請求項2】 f=750?850℃、R=0.001?0.009である請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 R=0.002?0.005である請求項1又は2に記載の製造方法。 【請求項4】 R=0.003?0.0044である請求項1?3の何れかに記載の製造方法。 【請求項5】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)で表される化合物を600℃以上に加熱する加熱工程を含む請求項1?4の何れかに記載の製造方法。 【請求項6】 冷却工程がLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)で表される化合物を均一に冷却する工程を含む請求項1?5の何れかに記載の製造方法。 【請求項7】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)で表される化合物が600℃以上の温度で合成される工程を含む請求項1?6の何れかに記載の製造方法。 【請求項8】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)О_(2)で表される化合物を予め合成し、さらに、600℃以上の温度で加熱する工程を含む請求項1?7の何れかに記載の製造方法。 2.当審において通知した取消理由の概要 (1)平成28年4月19日に提出された訂正請求書の、訂正特許請求の範囲に記載された請求項1?8に係る特許に対して、平成28年7月20日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 請求項1に係る特許発明は、「上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される・・・冷却熱処理を含む」ことを特定事項とする。 そして、本件特許明細書【0072】?【0077】の実施例1には、「860℃で20時間焼成した」焼成物の冷却工程において、「温度と時間との記録より、300℃までの冷却はT=814.44*EXP(-0.0031*t)の式に従っていることを確認した」こと、すなわち、f=814.44であることが記載されている。 しかしながら、「tは冷却時間」であるから、t=0、すなわち冷却熱処理の開始時点における温度T、すなわち係数fは、加熱温度と等しいことが当業者の技術常識であり、当該技術常識に照らせば、上記実施例1における係数fは当然に加熱温度である860(℃)であるから、上記本件特許明細書に記載されたf=814.44が誤記であることは明らかである。 同【0078】?【0080】の実施例2においても、「860℃で1時間焼成した」ものであるから、同様にf=860(℃)であることは明らかである。 本件特許明細書に開示された実施例には上記のとおり明らかな誤記があるため、「上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される・・・冷却熱処理」が、本件特許明細書に発明として記載されたものとはいえない。 請求項2?8に係る特許発明についても、上記特定の関数により表される冷却熱処理を含むものであるから、同旨。 (2)特許第5716002号の特許請求の範囲に記載された請求項1?8に係る特許に対して、平成28年1月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 本件特許明細書には、下記(ア)?(ウ)のとおり、技術的に明確でない記載、及び技術的に矛盾した記載があるから、本件特許明細書は、当業者が請求項1?8に係る特許を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 (ア)本件特許明細書には、温度の測定方法について具体的な記載がなく、請求項1に係る特許の「温度」(T)とは、化合物の表面温度若しくは中心温度、炉内温度、又はその他の温度のいずれを意味するのか明らかでない。 (イ)請求項1に係る特許が、非線形の関数に従って冷却熱処理を行うことを特定事項とするのに対し、本件特許明細書には、リチウム金属酸化物を一定の冷却速度で、すなわち線形で冷却するといえる記載があり、請求項1に係る特許と矛盾している。 (ウ)本件特許明細書【0072】の実施例1に記載された化学式から導かれる反応式のモル比と、用いられた原料粉末のモル比とが矛盾している。 イ 請求項1に係る特許において、冷却熱処理の開始時点、すなわちt=0における温度Tは、加熱温度と等しくなるはずであるが、本件特許明細書における実施例1、2の記載は、これと矛盾している。 したがって、請求項1?8に係る特許は、本件特許明細書に発明として記載されたものではない。 3.当審の判断 (1)平成28年7月20日付けで通知した取消理由(決定の予告)に対する当審の判断 平成28年11月3日に特許権者から提出された上申書により、上記取消理由(決定の予告)において指摘した、加熱温度と係数fの不一致について、「冷却の関係式は『温度と時間との記録より』求められるため、その測定の準備に所要の時間が必要となり、その間に高温(860℃)の焼成物の温度が低下することは避けられません。その結果、不一致が生じることは止むを得ないこととなります。」と釈明がなされた。 本件特許明細書における加熱温度と係数fの不一致について、上記のとおり釈明がなされたから、本件特許発明は、本件特許明細書に記載された範囲のものということができ、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。 (2)平成28年1月21日付けで通知した取消理由に対する当審の判断 ア 平成28年4月19日に提出された意見書において、本件特許発明における「温度」は、リチウム金属酸化物粉末の内温度(略中心温度)を指していると釈明がなされた。 イ 本件訂正請求により、本件特許明細書における、リチウム金属酸化物を一定の冷却速度で、すなわち線形で冷却するといえる記載は、明瞭でない記載の釈明を目的として削除された。 ウ 本件訂正請求により、炭酸リチウムの化学式が、誤記の訂正を目的として訂正され、その結果、本件特許明細書【0072】の実施例1に記載された化学式から導かれる反応式のモル比と、用いられた原料粉末のモル比との記載は矛盾のないものとなった。 エ 上記ア?ウにより、本件特許明細書は技術的に明確であり、矛盾のないものとなったから、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。 オ 加熱温度と、t=0における温度Tの不一致については、上記(1)のとおり、平成28年11月3日に提出された上申書により釈明がなされた。 したがって、本件特許発明は、本件特許明細書に記載された範囲のものということができ、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。 (3)取消理由に採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断 ア 特許異議申立人は、特許異議申立書及び平成28年5月27日に提出された意見書において、本件特許発明1?8は、甲1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する、又は、甲1?9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものであると主張する。 甲1号証:特開2002-124261号公報 甲2号証:特開2001-357850号公報 甲3号証:国際公開第2005/008812号 甲4号証:米国特許出願公開第2004/0234854号明細書 甲5号証:再公表特許公報WO2002/086993号 甲6号証:特開2005-158624号公報 甲7号証:特開2001-143706号公報 甲8号証:特開2002-124257号公報 甲9号証:特表2005-502161号公報 イ 甲1号証は、「リチウム二次電池用正極活物質および電池」に関する文献であって、下記の記載がある。 a 「【請求項1】 R-3mの空間群に属した層状岩塩型のリチウム複合酸化物であって、下記一般式(1)で表される組成を有し、 Li_(α)(Ni_(1-x-y)Co_(x)M_(y))O_(β) (1) (式中、x,yは原子比率を表し、0.05≦x≦0.35、0.01≦y≦0.20、MはMn,Fe,Al,Ga,Mgなる群から選ばれる1種以上の元素を表す。またα,βはNi,Co,元素Mの総和を1とした時の原子比率を表し、0<α<1.1、1.9<β<2.1) ・・・リチウム複合酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質。 【化1】(略) (式中、a,cは六方晶系における格子定数であり、・・・)」 b 「【0058】実施例5 Ni、Co及びMnの原子比が78:14:8であるCo、Mn含有β型オキシ水酸化ニッケルと水酸化リチウム1水和物とを、Ni、Co,Mnに対するLiのモル比がLi/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように、窒素中にてメノウ乳鉢でよく混合した。この粉末を密閉容器に入れ、オーブンにて150℃で48時間熱処理した後、容器から粉末を取り出し、管状炉にて流量0.5l/分の酸素気流中で、1℃/分の速度で昇温し、700℃で8時間熱処理した。放冷して取り出し後、乳鉢で粉砕して、平均二次粒子径が約10μmの複合酸化物粉末を得た。複合酸化物粉末X線回折パターンはLiNiO_(2)と同じ空間群R-3mに帰属する回折ピークが見られ、不純物ピークは見られなかった。実施例1と同様にリートベルト解析、電池の充放電試験、及び熱安定性試験を行った。結果を表2に示した。」 ウ 上記摘示箇所a、bより、甲1号証には、「Co、Mn含有β型オキシ水酸化ニッケルと水酸化リチウム1水和物との混合粉末を、700℃で8時間熱処理し、放冷する工程を有する、Li_(1.03)(Ni_(0.78)Co_(0.14)Mn_(0.08))O_(β)で表される組成を有する、六方晶系層状岩塩型のリチウム複合酸化物の製造方法」が記載されているといえる。 エ しかしながら、本件特許発明が、「当該冷却工程が、上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される(ただし、上記式中、Tは温度(℃)、fは係数、Rは冷却速度、tは冷却時間を示し、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、且つ関数は非線形である)冷却熱処理を含む」ものであるのに対し、上記甲1号証に記載の発明は、「放冷する工程を有する」にすぎないから、本件特許発明と同一ではない。 オ 特許異議申立人は、特許異議申立書第8?9頁において、本件特許明細書には、加熱された化合物を冷却する手段について、炉冷により冷却する手段以外に具体的な手段の開示がないから、炉外での放冷ではなく、炉冷により冷却される冷却熱処理を含むことにより、当該冷却工程が、本件特許発明において規定されるパラメータを備えた冷却熱処理がなされるものと考えられる、と主張し、また、同第10頁において、甲1号証の【0058】(上記摘示箇所b)の記載から、甲1号証に記載の製造方法においては、加熱された金属酸化物を炉冷により冷却するものと思料される、と主張している。 カ 上記特許異議申立人の主張について検討すると、まず、炉冷において、周知慣用の制御装置により、炉内の温度プロファイルを任意に制御可能であることは、当業者の技術常識である。 してみれば、単に「炉冷により冷却される冷却熱処理を含む」ことのみでは、ただちに本件特許発明において規定される特定の関数に基づいた冷却熱処理がなされているということはできない。 また、そもそも、甲1号証の摘示箇所bには「放冷して」と記載されるのみであるから、甲1号証に記載の発明が「炉冷」をしているということもできない。 よって、上記特許異議申立人の主張は、いずれも採用できない。 キ 甲2?9号証にも、「当該冷却工程が、上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される(ただし、上記式中、Tは温度(℃)、fは係数、Rは冷却速度、tは冷却時間を示し、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、且つ関数は非線形である)冷却熱処理を含む」ことについて記載されたものはない。 ク 上記のとおりであるから、本件特許発明1?8は、甲1号証に記載された発明ではなく、また、甲1?9号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 4.むすび 以上のとおりであるから、平成28年7月20日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、平成28年1月21日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1?8を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1?8を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 無機化合物 【技術分野】 【0001】 本発明は、リチウム電池およびリチウムイオン二次電池の正極に使用されるリチウム金属酸化物およびその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 LiMO_(2)の化学式で示されるリチウム金属酸化物(Mは遷移金属を表わす)充電可能なリチウム電池およびリチウムイオン二次電池の正極材料として重要である。LiMO_(2)の化学式で示されるリチウム金属酸化物としては、LiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiMnO_(2)等が例示される。最近では、リチウム電池およびリチウムイオン二次電池の正極材料としてLiCoO_(2)が最も商業的に使用されている。 【0003】 LiMO_(2)化合物は、同じ化合物においても異なる結晶構造や結晶相を有することが出来る。例えば、LiCoO_(2)を700℃を超える温度で合成した場合、得られるLiCoO_(2)の結晶構造はα-NaFeO_(2)と類似した六方晶層状構造である。LiCoO_(2)を400℃前後で合成した場合、得られるLiCoO_(2)の結晶構造はLi_(2)Ti_(2)O_(4)と類似した立方晶スピネル類似構造である。 【0004】 上記の2つの構造は、層に垂直な方向に小さな歪みがあることを除いては、基本的に酸素原子の面心立方最密充填構造を有する。更に、上記の2つの構造は、カチオンの配置が異なる。 【0005】 立方晶スピネル類似構造LiCoO_(2)は、700℃を超える温度で加熱することにより六方晶層状LiCoO_(2)に変態することが知られている。そのため、2つの結晶構造間の相変態が可能であり、層構造は単に高温におけるエネルギー的な優位性によって決まるものである。更に、電気化学的な充電によってLiCoO_(2)からLiイオンの50%が除かれた際、層状LiCoO_(2)がスピネル型LiCo_(2)O_(4)に変態することがエネルギー的に有利であることが知られている(例えば非特許文献1?2参照)。 【0006】 スピネル型類似LiCoO_(2)及びスピネル型LiCo_(2)O_(4)の原子配列は、スピネル型類似LiCoO_(2)においてリチウムが八面体16cサイトに配置されていること及びLiCo_(2)O_(4)においてリチウムが四面体8aサイトに配置されていることを除けば、基本的に同一原子配列を有する。 【0007】 六方晶層状LiMO_(2)からスピネル型類似LiMO_(2)への相変態の傾向はLiCoO_(2)に限ったことではない。層状LiMnO_(2)もまた、電気化学的電池の数サイクル中にスピネル型類似LiMnO_(2)へ相変態する。 【0008】 立方晶スピネル型類似LiNiO_(2)は実験的に観測されていないが、Li_(0.5)NiO_(2)(50%脱リチウムLiNiO_(2))は確かにスピネル型LiNi_(2)O_(4)に変態する。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0009】 【非特許文献1】A.van der Ven et al.,Phys,Rev.B 58,2975(1998) 【非特許文献2】H.Wang et al.,J.Electrochem.Soc.,146,473(1999). 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 立方晶スピネル類似構造を有するLiMO_(2)化合物の電気化学的特性は、層状構造を有するそれと比して特に劣っていることが知られている。その上、層状相中または層状相の表面上に立方晶スピネル類似構造相が少量でも存在すると電池性能に悪影響を及ぼすことも知られている。特に、層状結晶構造中に立方晶スピネル類似相が存在すると、充電式リチウム又はリチウムイオン電池の充放電サイクル中のリチウムイオンの拡散の妨げとなる。更に、立方晶スピネル型相はエネルギー的に有利であり、熱力学的な制限のみで大きなスケールの相変態を抑制している。そのため、局所的に存在する立方晶スピネル型相が、LiMO_(2)化合物中に大きな相変態を起こすための核となることが出来る。それ故、粉末X線回折法の様なバルクでの検知技術では検知できないような小さな立方晶スピネル型相の存在であっても、電池のサイクル特性に問題を引き起こす。 【課題を解決するための手段】 【0011】 上記の課題は、本願発明の請求項1?5に記載の化合物、請求項9?16に記載の当該化合物の製造方法、請求項17に記載の当該化合物の使用および請求項6?8に記載の当該化合物から成る物品により解決することが出来る。 【0012】 すなわち、本発明の要旨は、実質的に単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しないリチウム金属酸化物に存する。 【0013】 本発明のリチウム金属酸化物は化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される。式中、a、b及びcはそれぞれ独立に、0.05≦a≦0.8、0.05≦b≦0.8、0.05≦c≦0.8であり、好ましくは0.1≦a≦0.77、0.1≦b≦0.77、0.1≦c≦0.77である。a、b及びcの和は、0.95≦a+b+c≦1.02、好ましくは0.97≦a+b+c≦1.00である。xは0.98≦x≦1.05、好ましくは1.00≦x≦1.03であり、x+a+b+c=2である。 【0014】 より具体的には、aの数値範囲は、0.05≦a≦0.8、好ましくは0.1≦a≦0.77、bの数値範囲は、好ましくは0.02≦b≦0.60、更に好ましくは0.05≦b≦0.50、cの数値範囲は、好ましくは0.05≦c≦0.60、更に好ましくは0.1≦c≦0.50である。a、b及びcの和は、好ましくは0.95≦a+b+c≦1.00、更に好ましくは0.97≦a+b+c≦1.00、xは0.98≦x≦1.05、好ましくは1.00≦x≦1.03であり、x+a+b+c=2である。 【0015】 本発明の化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物は、実質的に単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない。 【0016】 本発明の好ましい実施態様として、化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表されるリチウム金属酸化物であり、上記式中、0.05≦a≦0.8、0.02≦b≦0.60、0.05≦c≦0.60、0.98≦x≦1.05、0.95≦a+b+c≦1.02、x+a+b+c=2であるか、又は0.1≦a≦0.77、0.05≦b≦0.50、0.10≦c≦0.50、1.00≦x≦1.03、0.97≦a+b+c≦1.00、x+a+b+c=2である。 【0017】 更に具体的には、a=0.5、b=0.2、c=0.3又はa=0.77、b=0.13、c=0.1或いはa=0.7、b=0.2、c=0.1である。更に、a=0.25、b=0.25、c=0.5又はa=0.25、b=0.5、c=0.25又はa=0.5、b=0.25、c=0.25又はa=0.475、b=0.05、c=0.475又はa=b=c=0.33等の様にa、b及びcのうち少なくとも2つの数が等しいことが好ましい。 【0018】 ある程度の量のリチウムが遷移金属の結晶層に導入されることが出来る場合において、他の金属に対するリチウムのモル比は、1よりも大きくすることが出来る。遷移金属の存在により、リチウム結晶層におけるリチウムの拡散が妨害されることはないが、リチウム結晶層に遷移金属が存在しないことが好ましい。 【0019】 本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物は、粉末X線回折において、ミラー指数(003)に対応する回折ピークより小さい角度の回折が認められないことが好ましい。更に、粉末X線回折において、ミラー指数(104)に対応する回折ピークとミラー指数(003)に対応する回折ピークとのピーク高さの比が0.4?0.8、好ましくは0.45?0.75、更に好ましくは0.45?0.65、特に好ましくは0.5?0.7であることが好ましい。特に具体的な例として、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表されるリチウム金属酸化物の粉末X線回折における、ミラー指数(104)に対応する回折ピークとミラー指数(003)に対応する回折ピークとのピーク高さの比が0.45?0.65であり、上記式中のa、b及びcが全て0.33の場合、またはピーク高さの比が0.5?0.75であり、上記式中a=0.77、b=0.13及びc=0.1の場合が挙げられる。 【0020】 本発明の好ましい実施態様としては、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物がLiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)、LiNi_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)O_(2)、LiNi_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)O_(2)、LiNi_(0.7)Co_(0.2)Mn_(0.1)O_(2)、LiNi_(0.77)Co_(0.13)Mn_(0.1)O_(2)から選択される。 【0021】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物は、実質的にリチウム金属酸化物化合物の単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない。 【0022】 本発明は、更に、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物(a、b、c及びxは上述と同じで、単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない)から成る正極を有するリチウム電池またはリチウムイオン二次電池を提供する。 【0023】 本発明は、更に、実質的に単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない化合物の製造方法を提供する。当該製造方法は、先ず、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物(ただし、a、b、c及びxは上述と同じ)を600℃以上、好ましくは800℃を超える温度に加熱する。次に、リチウム加熱処理した金属酸化物を冷却速度20℃/分未満、好ましくは10℃/分未満、更に好ましくは8℃/分未満で冷却するか、又は、3?20℃/分の温度、好ましくは3?14℃/分の温度、更に好ましくは3?9℃/分の温度において冷却する。 【0024】 リチウム金属酸化物の製造方法としては、600℃以上の温度、好ましくは800℃を超える温度でリチウム金属酸化物を合成した後に上記の冷却速度で冷却する方法と、予め合成したリチウム金属酸化物を600℃以上の温度、好ましくは800℃を超える温度に加熱した後に上記の冷却速度で冷却する方法とがある。リチウム金属酸化物は均一に冷却することが好ましく、これにより均一な材料を製造することが出来る。 【0025】 好ましい製造方法としては、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物がLiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)であり、リチウム源化合物と混合金属源化合物とを使用して合成する。上記のリチウム源化合物としてはLiCO_(3)及びLiOH・H_(2)Oが挙げられる。上記の混合金属源化合物としては、NiCoMnO_(4)、Ni_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)(OH)_(2)、Ni_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)(OH)_(2)、Ni_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)(OH)_(2)、Ni_(0.7)Co_(0.2)Mn_(0.1)(OH)_(2)及びNi_(0.77)Co_(0.13)Mn_(0.1)(OH)_(2)から成る群から選択される。 【0026】 本発明の上記の特徴および他の特徴ならびに技術的効果は以下の詳細な説明および添付の図面ならびに好ましい及び変更可能な態様により、当業者には容易に理解されるであろう。 【発明の効果】 【0027】 本発明のリチウム金属酸化物は、従来の化合物と比し、電池の電気化学的特性により適したものである。更に、本発明のリチウム金属酸化物は、優れた構造的安定性を有し、電池の充放電サイクル中その構造が維持される。それ故、本発明のリチウム金属酸化物は、充電式リチウム又はリチウムイオン電池に好適に使用できる。 【図面の簡単な説明】 【0028】 【図1】比較例(サンプル1)と実施例(サンプル2)におけるサイクル特性の比較を示す。 【図2】実施例(サンプル2)における粉末X線回折パターン(CuKα線を使用)を示す。 【図3】ニッケル-コバルト-マンガンから成る原料化合物の凝集粒子の形状(図3a)及び米-とうもろこし状形態の一次粒子の形状(図3b)を示す。 【図4】実施例(サンプル2)のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物の凝集粒子の形状(図4a)及び一次粒子の球状形態(図4b)を示す。 【発明を実施するための形態】 【0029】 本発明は、実質的に単相のリチウム金属酸化物化合物で、六方晶層状構造を有し、結晶の表面あるいは結晶中において、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない化合物である。化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)におけるa、b、c及びxは上述の通りである。Ni、Co及びMnの平均的酸化状態は、これらの金属の存在モル量を基本に決定されることは、当業者には容易に理解される。 【0030】 本発明の化合物が実質的に単相で六方晶層状構造を有することは、例えば粉末X線回折パターンにより確認することが出来る。代表的には、本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物の粉末X線回折において、ミラー指数(003)に対応する回折ピークより小さい角度の回折が認められないことにより、実質的に単相であることが確認できる。本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物の粉末X線回折において、ミラー指数(003)に対応する回折ピークより小さい角度の回折が認められないことにより、実質的に単相であることが確認できる。実際、本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物の粉末X線回折において、ミラー指数(003)に対応する回折ピークより小さい角度の回折が認められない。更に、粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数(104)に対応する回折ピークとミラー指数(003)に対応する回折ピークとのピーク高さの比が、通常0.4?0.8、好ましくは0.45?0.75、あるいは0.45?0.65、あるいは0.5?0.75である。更により好ましくは、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表されるリチウム金属酸化物の粉末X線回折パターンにおける、ミラー指数(104)に対応する回折ピークのピーク高さとミラー指数(003)に対応する回折ピークのピーク高さの比が0.45?0.65であり、上記式中のa、b及びcが全て0.33の場合、またはピーク高さの比が0.5?0.75であり、上記式中a=0.77、b=0.13、c=0.1の場合が挙げられる。本発明のLiXNiaCobMncO_(2)で表される化合物の凝集形態は、好ましくは球状である。本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物の一次粒子の形態も、好ましくは球状である。本発明の化合物の凝集粒子が球状であると、優れた充填と高い体積エネルギー密度を達成できる。より具体的には、凝集粒子の球形度は、米国特許第5476530号のカラム7及び8並びに図5に説明される様な、粒子の球形度を示す粒子形状ファクターを求める方法で決定できる。 【0031】 粒子形状ファクターは、線状および球状分析により粒子粉末のSEM写真から決定できる。上記粉末、すなわちSEMによって分析されるサンプルは、微粉末または粗粉末の蓄積や解砕を伴わないで行われるべきである。 【0032】 粒子の大きさは、公知の切片長測定方法によって決定できる。粒子形状を決定するのに必要な粒子の円周の長さUと粒子の面積A(粒子を二次元投影した場合の画像面積)は、粒子の大きさを解して以下の式によって決定できる。 【0033】 dU = U/π dA = (4A/π)1/2 【0034】 粒子形状ファクターfは粒子の面積Aと粒子の円周の長さUとから以下の式により求められる。 【0035】 f = (dA/dU) = (4πA/U2) 【0036】 粒径dUとdAは、実際に測定される粒子の(a)同じ円周Uと(b)同じ面積Aとを有する平面上の投影図に基づく2つの異なる球の粒径を示す。具体的には、dUは円周U=πdUと同一の投影粒子の円周である円の直径を表し、dAは、面積Aと同一の投影粒子の面積である円の直径を表す。基本的な球状粒子におけるfは約1であり、好ましくはf=0.88?1、更に好ましくはf=0.9?1、特に好ましくはf=0.93?1である。本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物の凝集体のfは約1であり、好ましくはf=0.88?1、更に好ましくはf=0.9?1、特に好ましくはf=0.93?1である。 【0037】 本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物のタップ密度は、通常1.8g/cm^(3)より大きく、好ましくは2g/cm^(3)より大きい。本発明の好ましい実施態様としては、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物がLiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)、LiNi_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)O_(2)、LiNi_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)O_(2)、LiNi_(0.7)Co_(0.2)Mn_(0.1)O_(2)、LiNi_(0.77)Co_(0.13)Mn_(0.1)O_(2)から選択される。もちろん、上記に記載の化合物は好ましい事例としているが、それ以外のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で規定される化合物も本願発明範囲である。 【0038】 特に、当業者は容易に理解できるであろうが、上記の化学式で表される他の化合物(すなわち、a、b及びcが上記の好ましい具体例と異なる場合)は、以下に示す熱処理を施すことにより上記好ましい具体例と似た結晶層構造を有することが出来る。それ故、上記一般式で示される本発明の化合物において、結晶内および結晶表面における立方晶相の形成や立方晶相への変態を抑制することが出来、その結果、本発明の化合物をリチウム又はリチウムイオン電池の材料とした際に、その性能を高めることが出来る。 【0039】 表1は、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない本願発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で規定される化合物の追加例を示す。 【0040】 【表1】 【0041】 本発明は、更に、実質的に単相で、六方晶層状構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない化合物の製造方法にも関する。本発明の製造方法によれば、化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表されるリチウム金属酸化物(上記式中、a、b及びcは前述と同じ定義)を600℃以上、好ましくは800℃を超えて加熱することにより得られる。上記リチウム金属酸化物は、原料を上記の温度に加熱することによって合成する方法の他、予め原料から合成した物を上記の温度に加熱することによっても得られる。 【0042】 リチウム金属酸化物は、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する原料化合物をそれぞれ所望とする上記Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化学式の比率を得るための化学量論量混合することによって合成できる。原料化合物(原料)は各元素の純物質であってもよく、また、各元素を含有する代表的な酸化物や塩であってもよく、例えば、酸化物の水和物または非水和物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、フッ化物などが挙げられ、最終生成物であるリチウム金属酸化物の元素欠陥を起こさないものであれば、他の原料化合物を使用することが出来る。リチウム金属酸化物の構成元素は、別々の原料化合物から供給されてもよく、また、同じ原料化合物から2つ以上の構成元素が供給されてもよい。更に、原料化合物は、所望の順序で混合できる。 【0043】 リチウム金属酸化物は、固体反応によって合成することが好ましいが、ゾル-ゲル反応やスプレー乾燥法などの湿式法や、湿式法と固体反応を組合せて原料化合物を反応させることが好ましい。例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンから成る原料化合物を水などの溶媒中で調製し、水酸化物などの密に混合した化合物としてニッケル、コバルト及びマンガンから成る化合物を溶液から沈殿させる方法がある。そして、混合化合物はリチウム源化合物と混合される。他の原料化合物と一緒に原料化合物を懸濁し、得られたスラリーをスプレー乾燥して密に混合した反応混合物を調製することもできる。反応方法は、使用する原料化合物や目的生成物により適宜選択できる。 【0044】 本発明の製造方法の好ましい実施態様としては、リチウム金属酸化物(Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2))は、リチウム源原料化合物とニッケル、コバルト及びマンガン源原料化合物を使用する。リチウム源原料化合物としては、炭酸リチウム及びLiOH・H_(2)Oから成る群より選択され、ニッケル、コバルト及びマンガン源原料化合物としては、NiCoMnO_(4)、Ni_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)(OH)_(2)、Ni_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)(OH)_(2)、Ni_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)(OH)_(2)、Ni_(0.7)Co_(0.2)Mn_(0.1)(OH)_(2)、Ni_(0.77)Co_(0.13)Mn_(0.1)(OH)_(2)等が挙げられる。 【0045】 ニッケル、コバルト及びマンガン源原料化合物は、通常、凝集形態が球状形態であり、一次粒子形態が米-とうもろこし状形態である。ニッケル、コバルト及びマンガン源原料化合物の一次粒子の粒径は、広い粒径分布を有していることが好ましく、2峰性の粒径分布を有していることが更に好ましい。これと似たような粒子およびその製造方法が欧州特許出願公開第1406839号明細書に記載されている。 【0046】 上記の調製した混合物を反応させてリチウム金属酸化物を得る。好ましくは、上記混合物を600?1000℃の温度で充分な時間焼成することにより反応を行うことにより、単相の金属酸化物を得る。焼成の総時間は、通常4?48時間、好ましくは8?36時間、更に好ましくは12?24時間、特に好ましくは16?20時間であり、1段階で焼成しても、2段階以上で焼成してもよい。上記混合物の焼成において、原料化合物を均一に焼成し、本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で示されるリチウム金属酸化物を製造することができるロータリーキルン、固定炉、トンネル型炉などの種々の適当な装置を使用できる。 【0047】 一旦、合成したリチウム金属酸化物が最終的な温度に到達させた後、または予め合成してあるリチウム金属酸化物を再加熱して上記温度に到達させた後、リチウム金属酸化物を、上記加熱温度から約300℃までの冷却熱処理における冷却速度が、T=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却する。ただし、式中、Tは摂氏温度(℃)、fは係数、Rは冷却速度、tは冷却時間(分)を示し、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、且つ関数は非線形である。 【0048】 好ましくはf=750?850℃且つR=0.001?0.009、又は、好ましくはR=0.002?0.005である。特に、R=0.003?0.0044が好ましい。本発明における冷却速度は正確に線形関数となっておらず、上記の様に指数関数である。上記の関数に反映される速度の冷却により、生成物は、実質的に局所的な立方晶スピネル構造が存在せず、すなわち実質的に局所的な複相が存在しない構造を有する。 【0049】 本発明のリチウム金属酸化物を使用することにより、実質的に結晶内および結晶表面に局所的な立方晶スピネル構造などの複相が存在しない構造が、電池の充放電サイクルにおけるリチウムイオンの拡散の妨げとなる更なる相変態の発生を抑制する。このように、六方層晶構造を有する本発明の化合物は、より冷却速度が大きい従来技術の化合物と比較して、より優れより一貫した電気化学的特性を有する。 【0050】 本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で示される化合物の立方晶スピネル類似相の含有量は1%未満、好ましくは0.5%未満、更に好ましくは0.05?0.4%、特に好ましくは0.05%未満である。特に、本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で示される化合物は、完全に立方晶スピネル類似構造相が存在しないことが最も好ましい。本発明において「実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない」とは、立方晶スピネル類似構造相の含有量が0?1%であることを意味する。 【0051】 本発明者等は、冷却速度が20℃/分を超える場合、更に、10℃/分を超える場合、特に8℃/分を超える場合、局所的な立方晶スピネル類似構造相が結晶または結晶表面に形成され、電気化学的特性を悪化させることを見出した。この影響は、線形冷却速度関数として規定されないが、化合物を上記の関数とは実質的に異なるが、指数関数に従う様なより高い冷却速度で冷却する際に見出したものである。 【0052】 加熱工程において、ニッケル、コバルト及びマンガン源化合物の凝集形態が維持されることが好ましい。すなわち、本発明のリチウム金属化合物Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)がニッケル、コバルト及びマンガン源化合物の凝集形態と同じ形態を有することが好ましい。特に、本発明のリチウム金属化合物Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)の凝集形態が球状であることが好ましい。同時に、一次粒子の形態は米-とうもろこし状から球状に変化する。具体的には、加熱の際に、一次粒子の形態が変化しながら、凝集体として知られている二次構造が維持さる。凝集形態が球状であり、一次粒子が米-とうもろこし状から球状に変化するような形態において、総合的には、Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)の凝集形態は、より小さな球体から基本的に構成される球体で、ラズベリー状として観察される。 【0053】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物のタップ密度は、通常加熱中に上昇し、通常1.8g/cm^(3)を超え、好ましくは2g/cm^(3)を超える。本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物のタップ密度は、本発明のLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)化合物を急速に冷却した場合のタップ密度より低いことは意外なことである。 【0054】 加熱工程は酸素雰囲気下で行われる。酸素雰囲気下としては、通常、空気などの酸素含有ガス又は酸素とヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスとの混合ガスを使用する。 【0055】 リチウム金属酸化物化合物は、均一に冷却されることが好ましい。特に、リチウム金属酸化物化合物は、同一の冷却速度で冷却されることが好ましい。例えば、焼成される原料のそれぞれの箇所の冷却速度の差が10%以内となるように冷却することが好ましい。均一冷却は、炉床の高さが低いロータリー焼成炉、固定炉、トンネル型炉などを使用することにより達成できる。均一冷却されて調製された本発明の生成物は、均一に調製されなかったそれと比べ、生成物の物性値の均一性に優れ、その偏差も小さい。 【0056】 本発明は、更に、本発明のリチウム金属酸化物化合物から成る正極を有するリチウム及びリチウムイオン二次電池にも関する。代表的には、本発明のリチウム金属酸化物化合物と炭素質原料とバインダーポリマーとカソードを形成する。リチウム電池の負極は、リチウム金属に対する電気ポテンシャルが約0.0?0.7Vである、リチウム金属、アロイ又はリチウム化および脱リチウム化が可能な材料で構成される。負極の材料としては、H、B、Si、Sn等を含有する炭素質材料、錫酸化物、錫-ケイ素酸化物、錫アロイ等が挙げられる。電池中で、電気絶縁体を使用して、負極は正極材料と分離される。電気化学的電池は、更に電解質を有する。電解質は非水液、ゲル又は固体であり、好ましくはLiPF6等のリチウム塩である。本発明のリチウム金属酸化物化合物を正極に使用する電気化学的電池は、携帯電話の様な携帯電子機器、ラップトップ型コンピューター、電気自動車やハイブリッド自動車等の大型電気機器に好適に使用できる。 【0057】 本発明のリチウム金属酸化物化合物は、電池の充放電サイクルにおいて、リチウムイオンを速やかに拡散させることが出来る。また、本発明のリチウム金属酸化物化合物は、当分野で望まれている初期容量および優れたサイクル特性を有する。 【0058】 例えば、電圧3.0?4.3V対C/3のリチウム定電流における、本発明のLiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の初期容量は、140mAh/gより大きく、好ましくは150mAh/gより大きい。更に、電圧3.0?4.3V対C/3(3時間完全充放電)のリチウム定電流における100サイクル後の本発明のリチウム金属酸化物の容量損失は、25%未満好ましくは20%未満、特に好ましくは10%未満である。 【0059】 本発明は、更に、化学製品、好ましくは本発明の化合物のバッチ、ロット又は出荷品としての製品仕様の作製方法であって、バッチ、ロット、又は出荷品としての少なくとも1つの特性を特定化することを特徴とする製品仕様書の作製方法に関する。製品の物性値は、各バッチ、ロット又は出荷品などにおける化学物質の化学式、分子量、各構成元素の重量比率、融点、沸点などの特性の場合や、各バッチ、ロット又は出荷品などにおける化合物の純度、ロット番号、成分調製、粒径、粒子形態、粒径分布などの特性値の場合がある。 【0060】 特に、上記の方法は、少なくとも1つのバッチ、ロット又は出荷品を特定する工程、バッチ、ロット又は出荷品の物性値とバッチ、ロット又は出荷品の識別情報とを関連付ける工程、少なくとも1つのバッチ、ロット又は出荷品の物性値を選択する工程、バッチ、ロット又は出荷品の識別情報と関連するバッチ、ロット又は出荷品の物性値を製品仕様としてまとめる工程、および、バッチ、ロット又は出荷品の識別情報と一緒に少なくとも1つの物性値を記載した製品仕様書を作成する工程から成る。本発明で、物性値を製品仕様書に記載するとは、製品仕様書のコピーを作成することも含み、また、例えば、コンピューターによるプリントアウトによる印刷や従来の印刷だけでなく、コンピューター画面上に製品仕様書を表示する行為も含む。 【0061】 上記のコンピューター画面上の表示は、バッチ、ロット又は出荷品の物性値とバッチ、ロット又は出荷品の識別情報との関連情報が保存されているコンピューターのデーターベースにアクセス出来るようなコンピュータープログラムによって表示させたり、インターネットのウェブページの手段を使ってウェブブラウザーに表示させるなどの手段がある。 【0062】 別の実施態様としては、製品仕様書の作成として、物性値が化合物のバッチ、ロットまたは出荷品の製品仕様書、発注書、請求書、契約書、権利放棄書またはそれらの組合せ書面に、性状数値が記載されている。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【0063】 本発明の製品仕様書の作成方法の他の実施態様としては、微粒子物質のバッチ、ロット、出荷品としての少なくとも1つの特性を特定化する方法である。特性の特定化は、バッチ、ロット、出荷品の測定または分析によって行われる。測定または分析によって決定される特性が化学物質の性状である場合、化学物質を特定化するためにそのような物性値から成るディレクトリーにアクセスする。そのようなディレクトリーはライブラリーにおける物理的な情報源であったり、電子データーベースであったりする。後者の場合、コンピュータプログラムの手段により化学物質の特定化が行われる。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【0064】 本発明の製品仕様書の作成方法の他の実施態様としては、少なくとも1つの界面電位値によって微粒子物質のバッチ、ロット、出荷品としての特性を特定化する方法である。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【0065】 本発明の製品仕様書の作成方法の他の実施態様としては、微粒子物質のバッチ、ロット、出荷品の、表面積、粒径、構造、空隙率、タップ密度および粒子の形状から選択される少なくとも1つの形態学的数値を特定化する工程を含む。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【0066】 本発明は、更に、製品仕様書を使用した顧客へのビジネス方法であって、当該製品仕様書が化学物質のバッチ、ロットまたは出荷品として要求される内容および/または提供される内容が記載されていることを特徴とするビジネス方法にも関する。 【0067】 上記のビジネス方法は、製品仕様書、好ましくは上記の製品仕様書を顧客に提供する工程、顧客が少なくとも1つのバッチ、ロット又は出荷品の少なくとも1つの所望の物性値を選択する工程、顧客の希望に適う化学物質のバッチ、ロット又は出荷品を識別する工程、バッチ、ロット又は出荷品を選択する工程、および、選択されたバッチ、ロット又は出荷品の発注を出す工程から成る。 【0068】 更に、ビジネス方法は、顧客が選択したバッチ、ロット又は出荷品を顧客に提供する工程を含む。 【0069】 本発明は、更に、少なくとも1つの性状数値を追加することにより化学物質の品質等級、型または品種の製品仕様の記載の更新を行う工程を有する化学物質の品質等級、型または品種の識別の改善方法にも関する。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【0070】 本発明の製品仕様書の作成方法、化学物質の品質等級、型または品種の識別の改善方法および製品仕様書を使用した顧客へのビジネス方法は、製品仕様の記載が、カタログ、ウエブサイト、案内冊子、微粒子材料文献、広告、ラベル又はそれらの組合せであってもよい。好ましくは、化合物または微粒子製品が本発明の化合物または他のニッケル、コバルト又はマンガン化合物である。 【実施例】 【0071】 以下の実施例により本発明について詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0072】 実施例1: タップ密度1.74g/cm^(3)の粉末Ni_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)(OH)_(2)3150gと粒径57μm未満の粉末炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))1362gとを乾燥混合した。得られた混合物を5等分し、300L/時のガス流量で、1000mbarの圧力下、860℃で20時間焼成した。 【0073】 サンプル1は、焼成炉中の焼成物を加熱ゾーンから室温で直接ステンレススチールの皿上に広げて冷却した。サンプル1の焼成物のタップ密度は2.21g/cm^(3)であった。また、温度と時間との記録より、300℃までの冷却はT=830.07*EXP(-0.0345*t)の式に従っていることを確認した。サンプル2は、同様の300L/時のガス流量で、1000mbarの圧力下、860℃で20時間焼成した上記試料の別の部分であるが、焼成後、焼成炉のスイッチを切って冷却した。温度と時間との記録より、300℃までの冷却はT=814.44*EXP(-0.0031*t)の式に従っていることを確認した。サンプル2の焼成物のタップ密度は2.03g/cm^(3)であった。 【0074】 サンプル1及び2をそれぞれ別々の正極材料として別々の電池を組立てた。それぞれの電池は、リチウム金属の負極と、参考のための電極とを有する半電池形態の電池であった。電解質は、混合溶媒としてエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/ジエチルカーボネート(1:1:1)を使用した1MのLiPF_(6)溶液を使用した。正極は、83重量%の活物質、10重量%のカーボンブラック(Carbon Black Super P)及びバインダーとして7重量%のポリテトラフッ化エチレン(PTFE)から成っていた。電池のサイクルテストは、3.0?4.3Vの電圧で、C/3(3時間の完全な充放電)の定電流で、充電および放電を行った。 【0075】 図1にサンプル1とサンプル2とのサイクル特性を示す。図1から明らかなように、サンプル2はサンプル1よりもサイクルにおける容量の維持が優れており、サンプル1に比べてサイクル特性が向上している。 【0076】 本発明の方法で製造したサンプル2に対し、実質的に単相で、六方晶層状構造を有するかを確認するため、更に、Cu-Kα線を使用した粉末X線回折試験を行った。 【0077】 図2から明らかなように、サンプル2は、本発明で要求されるように、ミラー指数(003)に対応する回折ピークより小さい角度の回折ピークが粉末X線回折試験において観察されなかった。図3及び4は米-とうもろこし状の一次粒子形態が球形に変化しながら、球形の凝集体が維持されていることを示している。 【0078】 実施例2: 市販のLiNi_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)O_(2)を860℃で1時間焼成し、焼成炉中の焼成物を加熱ゾーンから室温でステンレススチールの皿上に直接広げて冷却し、サンプル3を得た。温度と時間との記録より、300℃までの冷却はT=823.85*EXP(-0.0401*t)の式に従っていることを確認した。 【0079】 同じバッチのLiNi_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)O_(2)を860℃で1時間焼成し、焼成後、実施例1と同様に焼成炉のスイッチを切って冷却した。温度と時間との記録より、300℃までの冷却はT=813.02*EXP(-0.0034*t)の式に従っていることを確認した。 【0080】 実施例1と同様にサンプル3及び4を用いて電池のサイクルテストを行った。サンプル4を使用した電池は、サンプル3を使用した電池よりもサイクル特性に優れていた。 【0081】 本発明は、上記の記載および図面に基づき当業者に容易に理解されるが、本発明の要旨を超えない範囲において、適宜、当業者が容易に変更および応用が出来ると理解されるべきである。また、上記の記載において引用された文献については、参照により本発明に引用することが出来る。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 実質的に単相で、六方晶層状結晶構造を有し、実質的に局所的な立方晶スピネル類似構造相を有しない化合物の製造方法であって、当該製造方法は、化学式Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表されるリチウム金属酸化物(ただし、上記式中、a、b及びcはそれぞれ独立に0.05以上0.8以下の数であり、0.95≦a+b+c≦1.02、0.98≦x≦1.05、x+a+b+c=2である)を600℃以上に加熱する加熱工程と、当該加熱された化合物を冷却する冷却工程とから成り、当該冷却工程が、上記加熱温度から300℃まではT=f*EXP(-R*t)で示される関数に基づいて冷却される(ただし、上記式中、Tは温度(℃)、fは係数、Rは冷却速度、tは冷却時間を示し、f=600?1000℃、R=0.0009?0.01、且つ関数は非線形である)冷却熱処理を含むことを特徴とする化合物の製造方法。 【請求項2】 f=750?850℃、R=0.001?0.009である請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 R=0.002?0.005である請求項1又は2に記載の製造方法。 【請求項4】 R=0.003?0.0044である請求項1?3の何れかに記載の製造方法。 【請求項5】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物を600℃以上に加熱する加熱工程を含む請求項1?4の何れかに記載の製造方法。 【請求項6】 冷却工程がLi_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物を均一に冷却する工程を含む請求項1?5の何れかに記載の製造方法。 【請求項7】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物が600℃以上の温度で合成される工程を含む請求項1?6の何れかに記載の製造方法。 【請求項8】 Li_(X)Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)O_(2)で表される化合物を予め合成し、さらに、600℃以上の温度で加熱する工程を含む請求項1?7の何れかに記載の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-11-17 |
出願番号 | 特願2012-242348(P2012-242348) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C01G)
P 1 651・ 537- YAA (C01G) P 1 651・ 121- YAA (C01G) P 1 651・ 113- YAA (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 植前 充司 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
中澤 登 永田 史泰 |
登録日 | 2015-03-20 |
登録番号 | 特許第5716002号(P5716002) |
権利者 | 戸田工業株式会社 |
発明の名称 | 無機化合物 |
代理人 | 岡田 数彦 |
代理人 | 岡田 数彦 |