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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1323522 |
異議申立番号 | 異議2016-700769 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-23 |
確定日 | 2017-01-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5875579号発明「インサート成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5875579号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第5875579号に係る出願(特願2013-512413号、以下「本願」という。)は、平成24年4月25日(優先権主張:平成23年4月26日、特願2011-98276号)の国際出願日に出願人ウィンテックポリマー株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりなされたものとみなされる特許出願であり、平成28年1月29日に特許権の設定登録がなされたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成28年8月23日付けで特許異議申立人奥出彩花(以下「申立人」という。)により「特許第5875579号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項9が記載されており、そのうち請求項1には、以下のとおりの記載がある。 「樹脂部材とインサート部材とを備えるインサート成形品であって、 前記樹脂部材は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、数平均分子量2000以上20000以下の(B)ハロゲン化化合物と、(C)酸化アンチモン化合物と、(D)カルボジイミド化合物とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成され、 前記(B)ハロゲン化化合物が、下記式(2)で表される化合物であるインサート成形品。 【化1】 (上記式(2)中の、xは1以上5以下の整数である)」 (以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」ということがある。) 第3 申立人が主張する取消理由 申立人は、本件異議申立書において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)及び(2)が存するとしている。 (1)本件特許の請求項1及び3ないし8に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。) (2)本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。) ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2009-173857号公報 甲第2号証:国際公開第2009/150831号 甲第3号証:阪本薬品工業株式会社がそのホームページ上で公開する「難燃剤」に関する製品情報(URL:http://www.sy-kogyo.co.jp/product/flame-retardants.html) (以下、「甲第1号証」ないし「甲第3号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人が主張する上記取消理由1又は2につきいずれも理由がないから、本件の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、 と判断する。 以下、各取消理由につき詳述する。 1.各甲号証の記載事項及び記載された発明 上記取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1に係る引用発明の認定を行う。 なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。 (1)甲1の記載事項及び記載された発明 ア.甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 (a-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(C)臭素系難燃剤1?100重量部および(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物0.01?10重量部を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項2】 (C)臭素系難燃剤がテトラブロムビスフェノール-A-カーボネートオリゴマー、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマー、ペンタブロモベンジルポリアクリレートから選ばれる1種以上の難燃剤である請求項1に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項3】 (C)臭素系難燃剤が、末端がトリブロモフェノールで封鎖されたブロム化エポキシ樹脂である請求項1に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項4】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートから選ばれる一種以上の芳香族ポリエステル樹脂である請求項1?3に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項5】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂以外の樹脂1?100重量部を配合してなる請求項1?4に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項6】 (B)熱可塑性ポリエステル樹脂以外の樹脂が芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂およびビニル系樹脂から選ばれる一種以上の熱可塑性樹脂である請求項5に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項7】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(E)オレフィン系エラストマー1?50重量部を配合してなる請求項1?6のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項8】 (D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物が、3官能または4官能の多価アルコールを有する請求項1?7のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項9】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(G)エポキシ化合物を0.1?10重量部配合してなる請求項1?8のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。 【請求項10】 請求項1?9のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる機械機構部品、電気電子部品および自動車部品から選ばれた成形品。」 (a-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関し、さらに射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に優れ、機械機構部品、電気・電子部品、および自動車部品として有用な熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。」 (a-3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 以上のように、高度な難燃性と機械特性を維持しながら、かつ射出出成形時の流動性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が求められているが、従来の技術ではこれを十分に満たすことは出来ない。 【0007】 すなわち本発明は、高度な難燃性と機械特性を維持しながら、射出成形時の流動性に優れる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ること、および機械機構部品、電気・電子部品、および自動車部品に有用な成形品を提供することを課題とする。」 (a-4) 「【0011】 本発明で使用する(A)熱可塑性ポリエステル樹脂とは、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体、(ハ)ラクトンから選択された一種以上を主構造単位とする重合体または共重合体である。 【0012】 上記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、・・(中略)・・などが挙げられる。 【0013】 また、上記ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体としては、炭素数2?20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、・・(中略)・・などが挙げられる。 【0014】 (イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレート、ポリへキシレンイソフタレート、・・(中略)・・などの芳香族ポリエステル樹脂、・・(中略)・・などの脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0017】 これらの中で、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体が好ましく、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましく、中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、・・(中略)・・ポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートから選ばれる一種以上の芳香族ポリエステル樹脂が最も好ましい。 【0018】 本発明において、上記(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体中の全ジカルボン酸に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。 ・・(中略)・・ 【0020】 本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基量は、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、30eq/t以下であることがより好ましく、20eq/t以下であることがさらに好ましく、10eq/t以下であることが特に好ましい。0eq/tであってもよい。なお、本発明において、(A)熱可塑性樹脂のカルボキシル末端基量は、o-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。」 (a-5) 「【0040】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(C)臭素系難燃剤1?100重量部配合する。 【0041】 本発明で使用する(C)臭素系難燃剤とは、具体的には、・・(中略)・・テトラブロムビスフェノール-S、トリス(2,3-ジブロモプロピル-1)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリブロモネオペンチルアルコール、ブロム化ポリスチレン、ブロム化ポリエチレン、テトラブロムビスフェノール-A、テトラブロムビスフェノール-A誘導体、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、テトラブロムビスフェノール-A-カーボネートオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(2-ヒドロキシジエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(アリルエーテル)・・(中略)・・などが挙げられる。なかでも、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマー、テトラブロムビスフェノール-A-カーボネートオリゴマー、ブロム化エポキシ樹脂、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが好ましい。 【0042】 また、本発明で使用する(C)臭素系難燃剤は、末端がトリブロモフェノールで封鎖されたブロム化エポキシ樹脂を用いると、特に流動性が良好となるため、好ましい。 【0043】 また、(C)臭素系難燃剤の添加量は、難燃性、加水分解性、および金属汚染の点から、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、1?100重量部であり、好ましくは2?80重量部、より好ましくは3?60重量部である。上記難燃剤は、1種で用いても、2種以上併用して用いてもかまわない。 【0044】 本発明は、上記の臭素系難燃剤の他に無機系難燃剤を配合することができる。無機系難燃剤としては、水酸化マグネシウム水和物、水酸化アルミニウム水和物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ・・(中略)・・などを挙げることができる。中でも、難燃化効率の観点から三酸化アンチモン、五酸化アンチモン好ましい。 【0045】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物0.01?10重量部を配合する。 【0046】 本発明で使用する(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物とは、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂の流動性を向上させるために必要な成分であり、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また、3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物としては、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物などの3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物であれば、いずれでも好ましく用いられる。(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物は、中でも3官能または4官能の多価アルコールを有するものが好ましい。更に好ましくは3官能の多価アルコールを有するものである。これらを用いると、流動性が良好かつ湿熱処理時に成形品表面に、(D)成分が出てくることが少ない。」 (a-6) 「【0060】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、(E)オレフィン系エラストマー1?50重量部を配合する。 【0061】 本発明で用いる(E)オレフィン系エラストマーとは、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/1-オクテン共重合体、エチレン/プロピレン/共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸/グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-マレイミド共重合体、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体などを挙げることができ、これらは各々単独、あるいは混合物の形で用いることができる。 【0062】 (E)オレフィン系エラストマーの配合量は(A)成分100重量部に対し、好ましくは、1?50重量部である。配合量が1重量部未満であると、樹脂組成物の耐冷熱衝撃性が劣り、50重量部を超えると樹脂組成物の機械特性が劣る傾向にある。機械特性と耐冷熱衝撃性の点から、1?40重量部の範囲で配合することが好ましく、1?30重量部の範囲で配合することがより好ましい。」 (a-7) 「【0069】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(F)繊維強化材を1?150重量部配合する。 【0070】 本発明で使用する(F)繊維強化材とは、ガラス繊維、アラミド繊維、および炭素繊維などが挙げられる。上記のガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維でありアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。また、上記のシランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液で使用されていても良い。」 (a-8) 「【0074】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(G)エポキシ化合物を0.1?10重量部配合する。 ・・(中略)・・ 【0079】 また、(G)エポキシ化合物は本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の加水分解性を向上させることに大きな効果があり、(G)エポキシ化合物の配合量は機械特性と耐加水分解性の面から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1?10重量部、好ましくは0.2?9重量部、より好ましくは0.3?8重量部である。 【0080】 本発明においては、さらに耐加水分解性改良を目的に、オキサゾリン化合物、およびカルボジイミド化合物などを配合でき、(G)エポキシ化合物を超えない範囲の配合量で、(G)エポキシ化合物と併用して用いることが好ましい。」 (a-9) 「【0091】 さらに、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品に対して本発明の目的を損なわない範囲で、イオウ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、および帯電防止剤などの公知の添加剤や前記以外の熱可塑性樹脂を1種以上配合された材料も用いることができる。 【0092】 本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる機械機構部品、電気電子部品または自動車部品の成形品とは、本発明の難燃性、機械特性、および射出成形性に優れる特徴を活かした成形品であり、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品の具体的な成形品としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信・電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などの成形品が挙げられる。 【0093】 本発明の特定の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)(A)成分以外の熱可塑性樹脂である芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂およびビニル系樹脂から選ばれる一種以上の樹脂、(C)臭素系難燃剤および(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物、さらには、必要に応じて(E)オレフィン系エラストマー、(F)繊維強化材、(G)エポキシ化合物および(H)フッ素系化合物、さらに必要に応じて繊維強化材以外の無機充填剤、エチレン(共)重合体、耐加水分解性改良材、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはホスファイト系酸化防止剤、滑剤およびさらに必要に応じてその他の必要な添加剤や顔料や染料などの着色剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が調製される。 ・・(中略)・・ 【0096】 かくして得られる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、通常公知の方法で射出成形することによって本発明の成形品が得られる。前記の射出成形方法としては、通常の射出成形方法以外にガスアシスト法、2色成形法、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。」 (a-10) 「【実施例】 【0098】 以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで%および部とはすべて重量%および重量部をあらわし、下記の参考例の樹脂名中の「/」は、共重合を意味する。また、各特性の測定方法は以下の通りである。 【0099】 [参考例] (A)熱可塑性ポリエステル樹脂 <A-1>ポリブチレンテレフタレート樹脂、東レ(株)社製“1100S”を、用いた 用いた(以下、PBTと略す)。(当審注:「用いた」は重複誤記であるものと認める。) <A-2>ポリエチレンテレフタレート樹脂、三井ぺット樹脂(株)社製三井PET“J005”固有粘度が0.63のPETを用いた(以下、PETと略す)。 ・・(中略)・・ 【0101】 (C)難燃剤 <C-1>テトラブロムビスフェノール-A-ポリカーボネートオリゴマー、帝人化成(株)社製“FG-8500”を用いた。 <C-2>テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマー。両末端をトリブロモフェノールで封鎖したもの。阪本薬品工業(株)社製“SR-T3040”を用いた。 <C-3>ペンタブロモベンジルポリアクリレート、ブロモケムファーイースト(株)社製“FR-1025”を用いた。 <C-4>テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマー、両末端を封鎖していないもの。阪本薬品工業(株)社製“SR-T2000”を用いた。 【0102】 (D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物(以下、本発明の多価アルコールと略す) ・・(中略)・・ 【0104】 (E)オレフィン系エラストマー α-オレフィンとα,β-エチレン性不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体 <E-1>エチレン/エチルアクリレート共重合体 三井デュポン(株)製“A709”。 α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体 <E-2>エチレン/メタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体 住友化学(株)製“BF7M”。 <E-3>エチレン/1-ブテン共重合体 三井化学(株)製“タフマー A-4085”。 <E-4>エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体 住友化学(株)製“ETX-6”。 【0105】 (F)繊維強化材 <F-1>繊維径約10μmのチョップドストランド状のガラス繊維、日東紡績(株)社製“CS3J948”を用いた(以下、GFと略す)。 【0106】 (G)エポキシ化合物 <G-1>バーサティク酸グリシジルエステル、ジャパンエポキシレジン社製“カージュラーE10”を用いた。 <G-2>バーサティク酸グリシジルエステル、ジャパンエポキシレジン社製“カージュラーE10”30重量%とビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジャパンエポキシレジン社製“エピコート828”70重量%の混合物。 【0107】 (H)フッ素系化合物 ・・(中略)・・ 【0108】 (I)その他必要に応じて配合する添加剤 <I-1>繊維強化材以外の無機充填剤、タルク、富士タルク社製“LMS-100”を用いた。 <I-2>エチレン(共)重合体、エチレン(約88wt%)/グリシジルメタクリレート(約12wt%)共重合体、住友化学(株)社製“BF-E”を用いた。 <J-1>三酸化アンチモン、日本精鉱(株)社製“PATOX-MK”を用いた。 【0109】 [各特性の測定方法] 本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。 【0110】 (1)射出成形時の流動性 東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の温度条件、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で試験片厚み1/32インチ(0.79mm)の難燃性評価用試験片の射出成形を行い、前記の試験片が充填される成形ゲージ圧力(以下、成形下限圧力と略す。)を求めた。なお、成形下限圧力の値が低い程、流動性に優れる。 【0111】 (2)機械特性 東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で3mm厚みのASTM1号ダンベルの射出成形を行い、ASTMD638に従い、引張強度を測定した。 【0112】 (3)難燃性 前記(1)で得られた試験片厚み1/32インチ(約0.79mm)の難燃性評価用試験片を用い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV-0>V-1>V-2の順に低下しランク付けされる。また、燃焼性に劣り上記のV-2に達せず、上記の難燃性ランクに該当しなかった材料は規格外とした。 【0113】 (4)加水分解性 (株)TABAI ESPEC製HAST CHAMBER EHS-221Mで121℃、100%RHの加水分解処理を100時間した後の引張特性を測定し、耐加水分解性の評価とした。 【0114】 (5)耐湿熱試験 シリンダー温度260℃、金型温度80℃で成形したISO527-1,2に従った試験片を使用し、121℃、100%RH、2atmの環境下で、100時間処理して、成形品表面を目視で観察し、成形品表面に液体が、付着していれば、△。成形品表面に液体がわずかに付着していれば、△?○。成形品表面に液体が付着していなければ、○とした。 【0115】 [実施例1?57]、[比較例1?11] スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)(A)成分以外の熱可塑性樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート及びアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンから選ばれる一種以上の樹脂、(C)臭素系難燃剤、(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物、さらには、必要に応じて(E)オレフィン系エラストマー、(F)繊維強化材、(G)エポキシ化合物および(H)フッ素系化合物、さらに必要に応じて(I)繊維強化材以外の無機充填剤、(J)三酸化アンチモンなどを表1?表4に示した配合組成で混合し、元込め部から添加した。なお、(F)繊維強化材<F-1>GFは、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。 【0116】 さらに、混練温度270℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥後、東芝機械製IS55EPN射出成形機を用い、各種成形品を得た。さらに、前記の測定方法で種々の値を測定し、同じく表1?表6にその結果を示した。 【0117】 【表1】 【0118】 【表2】 【0119】 【表3】 【0120】 【表4】 【0121】 【表5】 【0122】 【表6】 【0123】 表1の実施例1?実施例15から、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に優れる樹脂組成物と言える。 【0124】 表2の実施例16?実施例26から、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に優れる樹脂組成物と言える。 【0125】 また、表3の実施例27?実施例40から、(E)オレフィン系エラストマーを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、及び(F)繊維強化材としてGFを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物においても、射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に優れる樹脂組成物と言える。 【0126】 表4の実施例41?実施例45及び実施例49から、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に優れる樹脂組成物と言える。 【0127】 表4の実施例46、実施例47及び実施例50から、(G)エポキシ化合物を配合した樹脂組成物は、流動性、機械特性および難燃性に優れた性能を維持しながら、さらに加水分解性が改善され、優れていると言える。 【0128】 表5の比較例1?6から、本発明以外の多価アルコール化合物を配合した場合、本発明成分のいずれかを配合しない場合、あるいは特定範囲外の配合量においては、射出成形時の流動性、機械特性および難燃性に課題のある樹脂組成物であることが明らかである。 【0129】 また、(F)繊維強化材のGFを配合した比較例7?比較例11の樹脂組成物は流動性に劣る樹脂組成物と言える。 【0130】 表6の実施例51?実施例57から、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、難燃剤として使用されるテトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーが、末端が封鎖されることにより、流動性がさらに優れる良好になると言える。また、4官能の多価アルコールを有するものを使用することにより、流動性が良好かつ湿熱処理時に成形品表面に、(D)成分が出てくることがないあるいは少ないことがわかる。」 イ.甲1に記載された発明 上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-10)の各記載(特に下線部参照)からみて、 「(A)ポリブチレンテレフタレートである熱可塑性ポリエステル樹脂、(C)末端がトリブロモフェノールで封鎖されたテトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマーである臭素系難燃剤、(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物、(E)オレフィン系エラストマー、(G)エポキシ化合物及び(J)三酸化アンチモンを配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる射出成形品。」 に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 (2)甲2の記載事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 (b-1) 「請求の範囲 [請求項1](A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、 (B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3?1.5当量となる量 (C)繊維状充填剤;20?100重量部 (D)エラストマー;5?15重量部 を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 [請求項2](B)カルボジイミド化合物の分子量が2000以上である請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 [請求項3](B)カルボジイミド化合物が芳香族カルボジイミド化合物である請求項1又は2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 [請求項4](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が0.67?0.90である請求項1?3の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 [請求項5](D)エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマー、グラフト化されたオレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系ゴムが主成分のコアシェルエラストマー及びポリエステル系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上である請求項1?4の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 [請求項6]ISO527による引張り強さが120MPa以上である請求項1?5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。 [請求項7]請求項1?5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を樹脂材料とするインサート成形品。 [請求項8](A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、 (B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3?1.5当量となる量 (C)繊維状充填剤;20?100重量部 (D)エラストマー;5?15重量部 を配合することを含む請求項1?5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法。 [請求項9]ISO527による引張り強さが120MPa以上である請求項1?5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成型することを含む請求項6又は7記載の成形品を製造する方法。」(第19頁?第20頁) (b-2) 「技術分野 [0001]本発明は、高強度で且つ耐ヒートショック性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品に関するものである。」 (b-3) 「発明の概要 [0008]本発明は、上記従来技術の課題に鑑み案出されたものであり、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能を有し、更に高強度であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品の提供を目的とする。 [0009]本発明者らは上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得るため鋭意検討を行った結果、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とし、これに特定量のカルボジイミド化合物、繊維状充填剤及びエラストマーを併用配合した組成物は、機械的物性の大きな低下なしに、耐ヒートショック性および耐加水分解性に極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。 [0010]即ち本発明は、 (A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、 (B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3?1.5当量となる量 (C)繊維状充填剤;20?100重量部 (D)エラストマー;5?15重量部 を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物を成形してなる成形品、特にインサート成形品である。 ・・(中略)・・ [0011]本発明によれば、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供される。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、各種成形品、特にインサート成形品として有用である。」 (b-4) 「[0048]本発明組成物には更にその目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤や耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、エポキシ化合物等を配合してもよい。 特に、帯電防止剤や着色剤、滑剤、可塑剤はカルボキシル基や水酸基、アミノ基を含む場合が多いが、カルボジイミド基と反応する可能性があるため、なるべくこのような官能基を含まないものが望ましい。 ・・(中略)・・ カルボキシル基、水酸基またはアミノ基を含む添加剤は用いないことが望ましい。」 (3)甲3の記載事項 甲3には、「SR-T3040」なる商品名の阪本薬品工業株式会社製の難燃剤が、末端変性型の臭素化ビスフェノールA型エポキシオリゴマーであり、臭素含有量が54%、平均分子量が6000であることが記載されている。 2.対比・検討 (1)対比 本件発明と上記甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、 「樹脂部材を備える成形品であって、 前記樹脂部材は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(C)酸化アンチモン化合物とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成される成形品。」 の点で一致し、下記の5点で相違するものといえる。 相違点1:本件発明では「樹脂部材とインサート部材とを備えるインサート成形品」であるのに対して、甲1発明では「難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる射出成形品」である点 相違点2:本件発明では「数平均分子量2000以上20000以下の(B)ハロゲン化化合物」であり、当該「(B)ハロゲン化化合物が、下記式(2)(式は省略)で表される化合物である」のに対して、甲1発明では「(C)末端がトリブロモフェノールで封鎖されたテトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマーである臭素系難燃剤」である点 相違点3:「樹脂部材」を構成する「ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」につき、本件発明では「(D)カルボジイミド化合物」を含むのに対して、甲1発明ではカルボジイミド化合物を含む点につき特定されていない点 相違点4:本件発明では「多価アルコール化合物」の使用につき特定されていないのに対して、甲1発明では「(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物」を必須に使用する点 相違点5:本件発明では、「(E)オレフィン系エラストマー」及び「(G)エポキシ化合物」の使用につき特定されていないのに対して、甲1発明では、「(E)オレフィン系エラストマー」及び「(G)エポキシ化合物」を必須に含有する点 (2)各相違点についての検討 事案に鑑み、特に、上記相違点3につき検討する。 ア.相違点3について 上記相違点3につき検討すると、甲1には、耐加水分解性改良を目的にカルボジイミド化合物を配合することにつき一応記載されている(摘示(a-8)【0080】)ものの、当該部分(摘示(a-8))の文脈からみて、「(G)エポキシ化合物」の使用が前提になっていることが明らかである。 してみると、甲1発明において、カルボジイミド化合物を配合することは、「(G)エポキシ化合物」と併せて配合・使用することが前提となっているのであるから、「エポキシ化合物」の使用が必須ではなく前提となっていない本件発明を構成するに際して、甲1発明における「エポキシ化合物」を使用せずにカルボジイミド化合物を使用するという技術思想は、甲1に記載・開示されているものとは認められない。 したがって、上記相違点3は、実質的な相違点であるものと認められる。 また、甲2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、耐ヒートショック性及び耐加水分解性の改良のために、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基1に対して、カルボジイミド官能基量0.3?1.5当量となるように分子量2000以上のカルボジイミド化合物を使用することが開示されている(摘示(b-1)及び(b-3)参照)ものの、甲2には、カルボジイミド化合物を使用するにあたり、他の添加剤として、水酸基を有する化合物の使用を避けるべきであることも記載されている(摘示(b-4)参照)から、甲2には、水酸基を有することが明らかな「(D)3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物」を必須に使用する甲1発明に甲2記載の知見を組み合わせることを妨げる阻害要因が存するものと認められる。 してみると、上記相違点3につき、甲1発明に甲2記載の知見を組み合わせることにより、当業者が容易になし得たことということはできない。 よって、上記相違点3は、実質的な相違点であり、甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできない。 イ.相違点1、2、4及び5について なお、上記ア.で検討したとおり、相違点3につき、実質的な相違点であり、甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできないのであるから、相違点1、2、4及び5につき検討することを要しない。 (3)本件発明の効果について 本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(特に【0008】など参照)からみて、「耐ヒートショック性、難燃性、及び、耐加水分解性に優れた樹脂部材と、インサート部材とを備えるインサート成形品」の提供にあるものと認められる。 そこで、本件特許明細書の実施例の記載(【0091】?【0102】参照)を更に検討すると、本件発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるインサート成形品であれば、耐ヒートショック性に優れ、成形物の引張り強度及び引張り伸びの保持率が高い点においても優れると認められるのに対して、本件発明の範囲外のものであれば、上記の点(耐ヒートショック性、成形物の引張り強度及び引張り伸びの保持率)のいずれかの点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。 してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、本件請求項1に記載された事項を具備することにより、「耐ヒートショック性、難燃性、及び、耐加水分解性に優れた樹脂部材と、インサート部材とを備えるインサート成形品」の提供という顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲1発明の効果又は甲1発明に甲1ないし甲3に記載された事項を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。 3.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明又は甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 4.他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし9に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を直接または間接に引用するものであるところ、上記1.ないし3.で説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1発明及び甲1及び甲2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 したがって、本件特許の請求項3ないし9に係る発明につき、いずれも、同一の理由により、甲1に記載された発明であるということはできず、また、本件特許の請求項2ないし9に係る発明につき、甲1に記載された発明又は甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 5.当審の判断のまとめ 以上のとおり、本件の請求項1及び3ないし9に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であるということができず、また、本件の請求項1ないし9に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 よって、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立人が主張する取消理由1及び2はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-12-22 |
出願番号 | 特願2013-512413(P2013-512413) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
守安 智 橋本 栄和 |
登録日 | 2016-01-29 |
登録番号 | 特許第5875579号(P5875579) |
権利者 | ウィンテックポリマー株式会社 |
発明の名称 | インサート成形品 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |