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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特29条の2  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1323526
異議申立番号 異議2016-700704  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-09 
確定日 2017-01-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第5856878号発明「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼および排熱回収器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5856878号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5856878号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年3月14日(優先権主張 平成23年3月29日)に特許出願され、平成27年12月18日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人小松一枝、前田知子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、平成28年9月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月28日に意見書の提出があったものである。

第2 本件発明
特許第5856878号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、
C:0.03%以下、
N:0.05%以下、
Si:0.1%を超え、1%以下、
Mn:0.02%以上、1.2%以下、
Cr:17%以上、23%以下、
Al:0.002%以上、0.5%以下、
Ni、Cu、Moのうち2種または3種を
Ni:0.25%以上、1.5%以下、
Cu:0.25%以上、1%以下、
Mo:0.5%以上、2%以下、
Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、
以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti-8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti-8(C+N)は0以上である。
【請求項2】
質量%で、
C:0.03%以下、
N:0.05%以下、
Si:0.1%を超え、1%以下、
Mn:0.02%以上、1.2%以下、
Cr:17%以上、23%以下、
Al:0.002%以上、0.5%以下、
Ni、Cu、Moのうち2種または3種を
Ni:0.25%以上、1.5%以下、
Cu:0.25%以上、1%以下、
Mo:0.5%以上、2%以下、
Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、
以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti-8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti-8(C+N)は0以上である。
【請求項3】
更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備え、
前記熱交換部が、質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え、1%以下、Mn:0.02%以上、1.2%以下、Cr:17%以上、23%以下、Al:0.002%以上、0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種をNi:0.25%以上、1.5%以下、Cu:0.25%以上、1%以下、Mo:0.5%以上、2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されたフェライト系ステンレス鋼からなるものであることを特徴とする排熱回収器。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti-8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti-8(C+N)は0以上である。
【請求項5】
前記フェライト系ステンレス鋼が、更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項4記載の排熱回収器。」

第2 取消理由の概要
請求項1?5に係る特許に対して、平成28年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第29条第1項第3号
甲第1号証:特開2009-174046号公報
甲第2号証:特開2010-121208号公報

請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である(以下、「取消理由1-1」という。)。
また、請求項1?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である(以下、「取消理由1-2」という。)。
よって、請求項1?5に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 甲号証の記載事項
(1) 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「ろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、排ガス規制がより強化されると共に、炭酸ガス排出抑制に向けた取り組みが進められている。自動車分野においては、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料といった燃料面からの取り組みに加え、軽量化や排気熱を熱回収する熱交換器をとりつけて燃費向上を図ったり、EGRクーラ、DPF(Diesel Particulate Filter)、尿素SCRシステムといった排ガス処理装置を設置したりするといった取り組みを実施している。
【0003】
このうち、EGRクーラは、エンジンの排ガスを冷却させた後、吸気側にもどして再燃焼させることで、燃焼温度を下げ、有害ガスであるNOxを低下させることを目的としている。そのため、EGRクーラの熱交換器部分には熱効率が要求され熱伝導性が良好であることが望まれる。従来、これらの部材には、SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、一般的にろう付け接合により組み立てられている。」

(1b) 「【実施例】
【0041】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、熱延、冷延、焼鈍工程を経て、板厚0.4mmの冷延鋼板を製造した。
この冷延鋼板より、幅50mm、長さ70mmの試験片を切り出した後、エメリー紙にて片面を#400まで湿式研磨を施した。その後、研磨面上に0.1gのNiろうを置き、1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱した後、常温まで冷却し、加熱後の試験片のろう面積を測定した。
・・・
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のろう付けに優れたフェライト系ステンレス鋼は、EGRクーラ、オイルクーラ、自動車や各種プラントで使用される熱交換器類や、自動車尿素SCRシステムにおける尿素水タンク、自動車のフューエルデリバリ系部品など形状が複雑な部品や、小型で精密な部品のようにろう付け接合により製作される部材に好適である。」

(2) 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「EGRクーラ用フェライト系ステンレス鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、環境問題に対する意識の高まりから、排ガス規制がより強化されると共に、炭酸ガス排出抑制に向けた取り組みが進められている。また、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料といった燃料面からの取り組みに加え、軽量化や排気熱を熱回収する熱交換器を取り付けて燃費向上を図ったり、EGR、DPF(Diesel Particulate Filter)、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムといった排ガス処理装置を設置するといった取り組みを実施している。」

(2b) 「【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、優れたろう付け性と排ガス凝縮水に対する耐食性を兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼板を提供できるため、このフェライト系ステンレス鋼板をEGRクーラ、なかでもEGRクーラの熱交換部に好適に用いることが可能である。」

(2c) 「【0022】
こうした点から、Ti、Al量とろうのぬれ広がり性との関係を、表1に記載の16?21Crのフェライト系ステンレス鋼板を用いて、後述する実施例と同一の試験条件にて評価した。表1において、残部はFe及び不可避不純物である。その結果を図1に示す。
【0023】
【表1】



(2d) 「【0058】
本実施例では、下記表2に示す化学組成を有する鋼を溶製し、熱延、冷延、焼鈍工程を経て、板厚0.4mmの冷延鋼板を製造し、ろう付け性と排ガス模擬凝縮水中での耐食性を評価した。
【0059】
【表2】

【0060】
(ろう付け性)
冷延鋼板より、幅50mm、長さ70mmの試験片を切り出した後、エメリー紙にて片面を#400まで湿式研磨を施した。その後、研磨面上に0.1gのNiろうを置き、1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱した。そして、常温まで冷却後、加熱後のろう面積を測定した。その測定結果を表3に示す。」

(2e) 「【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の優れたろう付け性と排ガス凝縮水に対する耐食性とを兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼板は、EGRクーラ部材、なかでもEGRクーラの熱交換部材に好適である。その他、排ガス凝縮水に曝され、ろう付け接合される排ガス経路部材にも好適である。」

2 甲号証に記載された発明
(1) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1b)によれば、発明例1、5、6に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A-1)質量で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、Ti:0.004%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.0010%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(A-2)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、Ti:0.021%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、又は、
(A-3)質量%で、C:0.007%、N:0.009%、Si:0.16%、Mn:0.15%、Cr:20.25%、Al:0.015%、Ni:1.03%、Mo:1.08%、Nb:0.22%、Ti:0.012%、P:0.022%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される
EGRクーラ用、又は、自動車で使用される熱交換器用のろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼。」(以下、「甲1-1発明」という。また、甲1-1発明の(A-1)?(A-3)の成分組成を、それぞれ、「(A-1)?(A-3)成分組成」という。)

「ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備え、前記熱交換部が、
(B-1)質量で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、Ti:0.004%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.0010%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(B-2)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、Ti:0.021%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、又は、
(B-3)質量%で、C:0.007%、N:0.009%、Si:0.16%、Mn:0.15%、Cr:20.25%、Al:0.015%、Ni:1.03%、Mo:1.08%、Nb:0.22%、Ti:0.012%、P:0.022%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施されたフェライト系ステンレス鋼からなるものである
EGRクーラ用、又は、自動車で使用される熱交換器。」(以下、「甲1-2発明」という。また、甲1-2発明の(B-1)?(B-3)の成分組成を、それぞれ、「(B-1)?(B-3)成分組成」という。)

(2) 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記(2b)?(2e)によれば、【表1】のNo.1、4、5及び【表2】のNo.2、4、5、7、11に注目すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(C-1)質量で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、Ti:0.004%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.0010%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-2)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、Ti:0.021%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-3)質量%で、C:0.007%、N:0.009%、Si:0.16%、Mn:0.15%、Cr:20.25%、Al:0.015%、Ni:1.03%、Mo:1.08%、Nb:0.22%、Ti:0.012%、P:0.022%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-4)質量%で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.001%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-5)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-6)質量%で、C:0.008%、N:0.008%、Si:0.22%、Mn:0.21%、Cr:18.25%、Al:0.015%、Ni:0.43%、Cu:0.31%、Nb:0.22%、P:0.024%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(C-7)質量%で、C:0.011%、N:0.014%、Si:0.21%、Mn:0.22%、Cr:22.21%、Al:0.006%、Ni:0.47%、Cu:0.88%、Mo:1.52%、Nb:0.34%、P:0.024%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、又は
(C-8)質量%で、C:0.009%、N:0.013%、Si:0.19%、Mn:0.21%、Cr:19.35%、Al:0.004%、Cu:0.50%、Mo:1.91%、Nb:0.51%、P:0.022%、S:0.0009%、Ca:0.003%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される
優れたろう付け性と排ガス凝縮水に対する耐食性を兼ね備えた、EGRクーラの熱交換部用フェライト系ステンレス鋼。」(以下、「甲2-1発明」という。また、甲2-1発明の(C-1)?(C-8)の成分組成を、それぞれ、「(C-1)?(C-8)成分組成」という。)

「ろう付け接合により組み立てられてなる熱交換部材を備え、前記熱交換部材が、
(D-1)質量で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、Ti:0.004%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.0010%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-2)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、Ti:0.021%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-3)質量%で、C:0.007%、N:0.009%、Si:0.16%、Mn:0.15%、Cr:20.25%、Al:0.015%、Ni:1.03%、Mo:1.08%、Nb:0.22%、Ti:0.012%、P:0.022%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-4)質量%で、C:0.012%、N:0.018%、Si:0.42%、Mn:0.15%、Cr:19.42%、Al:0.025%、Ni:0.32%、Cu:0.42%、Nb:0.39%、P:0.028%、S:0.0015%、Ca:0.001%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-5)質量%で、C:0.016%、N:0.014%、Si:0.25%、Mn:0.18%、Cr:18.23%、Al:0.036%、Cu:0.52%、Mo:1.02%、Nb:0.36%、P:0.029%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-6)質量%で、C:0.008%、N:0.008%、Si:0.22%、Mn:0.21%、Cr:18.25%、Al:0.015%、Ni:0.43%、Cu:0.31%、Nb:0.22%、P:0.024%、S:0.0008%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、
(D-7)質量%で、C:0.011%、N:0.014%、Si:0.21%、Mn:0.22%、Cr:22.21%、Al:0.006%、Ni:0.47%、Cu:0.88%、Mo:1.52%、Nb:0.34%、P:0.024%、S:0.0011%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成、又は、
(D-8)質量%で、C:0.009%、N:0.013%、Si:0.19%、Mn:0.21%、Cr:19.35%、Al:0.004%、Cu:0.50%、Mo:1.91%、Nb:0.51%、P:0.022%、S:0.0009%、Ca:0.003%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施されたフェライト系ステンレス鋼からなるものである
優れたろう付け性と排ガス凝縮水に対する耐食性を兼ね備えた、EGRクーラの熱交換部。」(以下、「甲2-2発明」という。また、甲2-2発明の(D-1)?(D-8)の成分組成を、それぞれ、「(D-1)?(D-8)成分組成」という。)

3 取消理由1-1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1-1発明との対比、判断
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
(ア-1) 本件特許明細書の【0055】には、「なお、不可避不純物のうち、Pについては、溶接性の観点から0.04%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.035%以下である。また、Sについては、耐食性の観点から0.02%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01%以下である。」と記載されているから、甲1-1発明の(A-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」及び(A-3)成分の「P:0.022%、S:0.0008%」は、いずれも、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲1-1発明の(A-2)成分組成及び(A-3)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明1の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明1の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲1-1発明の「EGRクーラ用、又は、自動車で使用される熱交換器用のろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼」は、本件発明1の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明1と甲1-1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点1:本件発明1は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲1-1発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

(イ) 相違点についての判断
甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものである。
一方、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項について、本件特許明細書の【0027】、【0030】には、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するだけでは、形成された酸化皮膜のCr、Nb、Si、Al、Tiのカチオン分率(以下、単に「カチオン分率」ともいう。)の合計が40%以上には到達しないことが記載されている。
また、本件特許明細書の【0061】の【表1】及び【0062】の【表2】における素材例1、【0063】、【0064】の【表3】における実験例18によれば、本件発明1のフェライト系ステンレス鋼の成分組成を有する試験片を、10^(-3)torrに真空引き後昇温し、1100℃にて10分保持後、炉内で常温まで冷却すると、酸化皮膜中のカチオン分率は25%となること、すなわち、酸化皮膜中のカチオン分率は40%以上にはならないことが示されており、この実験例18は、上記本件特許明細書の【0027】、【0030】の記載を裏付けるものである。
そうすると、甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであるとはいえない。
したがって、相違点1は、実質的なものである。

(ウ) 特許異議申立人は、相違点1について、特許異議申立書の27頁7行?28頁下から8行において、本件発明1の元素の中で、カチオン分率の対象となっているCr、Nb、Si、Al、Tiは、自身が酸化されやすい元素であり、その他はこれらよりも酸化されにくい元素であり、N_(2)を導入して10^(-2)?1torrの真空雰囲気でろう付けする場合には、N_(2)の導入に起因して、雰囲気中に不可避に混入する酸素濃度が上昇するから、酸化されにくいその他の元素も酸化皮膜中にカチオンとして含まれやすくなるのに対し、単に10^(-2)torr以下の真空中でろう付けする場合には、N_(2)を導入して10^(-2)?1torrの真空雰囲気でろう付けする場合よりも雰囲気中に不可避に混入する酸素濃度が低くなるため、酸化皮膜の生成量(絶対量)は少なくなるが、このような極めて低酸素の雰囲気では、酸化されにくいその他の元素は酸化皮膜中に入りにくくなり、酸化されやすい元素との酸化度合いの差はより顕著になるから、10^(-2)torr以下の真空中でろう付けする場合には、酸化されやすい元素であるCr、Nb、Si、Al、Tiのカチオン分率が、N_(2)を導入して10^(-2)?1torrの真空雰囲気でろう付けする場合よりも小さくなることはあり得ず、むしろ大きくなることが明らかであり、本件特許明細書の【0030】の説明とは全く反対となり、単に10^(-2)torr以下の真空中でろう付けする場合にも、カチオン分率が40%以上になるのは明らかであるから、甲1-1発明は、「Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜」を有する点においても、本件発明1と一致する旨主張している。
しかし、上記(イ)で検討したように、本件特許明細書の実験例18によれば、本件発明1のフェライト系ステンレス鋼の成分組成を有する試験片を、10^(-3)torrに真空引き後昇温し、1100℃にて10分保持後、炉内で常温まで冷却すると、酸化性皮膜中のカチオン分率は25%となること、すなわち、当該カチオン分率は40%以上にはならないことが示されており、この実験例18は、本件特許明細書の【0027】、【0030】の記載を裏付けるものである。
そして、上記実験例18の熱処理条件は、甲1-1発明の「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱」との熱処理条件とほぼ同じ条件であるところ、特許異議申立書には、これらの熱処理条件によって形成される酸化皮膜中のカチオン分率が40%以上となることを裏付ける証拠や実験データは何ら示されていないから、特許異議申立人の上記主張は、証拠又は実験データに基づくものではない。
したがって、甲1-1発明は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」とはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 小括
以上から、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。

(2) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲1-1発明との対比、判断
本件発明2と甲1-1発明とを対比する。
(ア-1) 前記(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲1-1発明の(A-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」及び(A-3)成分の「P:0.022%、S:0.0008%」は、いずれも、本件発明2の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲1-1発明の(A-2)成分組成及び(A-3)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明2の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明2の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲1-1発明の「EGRクーラ用、又は、自動車で使用される熱交換器用のろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼」は、本件発明2の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明2と甲1-1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点2:本件発明2は、「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲1-1発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

(イ) 相違点についての判断
甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、本件発明2のように、「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理」されるものではない。
また、前記(1)ア(イ)で検討したように、甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであるとはいえない。
したがって、相違点2は実質的なものである。
よって、本件発明2は、甲1-1発明であるとはいえない。

(3) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2の全ての発明特定事項を有しているから、前記(1)又は(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3と甲1-1発明とは、少なくとも前記相違点1又は相違点2で相違しており、これら相違点は、いずれも実質的なものである。
したがって、本件発明3は、甲1-1発明であるとはいえない。

(4) 本件発明4について
ア 本件発明4と甲1-2発明との対比、判断
本件発明4と甲1-2発明とを対比する。
(ア-1) 前記(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲1-2発明の(B-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」及び(B-3)成分の「P:0.022%、S:0.0008%」は、いずれも、本件発明4の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲1-2発明の(B-2)成分組成及び(B-3)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明4の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明4の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲1-2発明の「EGRクーラ用、又は、自動車で使用される熱交換器」は、本件発明4の「排熱回収器」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明4と甲1-2発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点3:本件発明4は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成され」ているのに対し、甲1-2発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

(イ) 相違点についての判断
相違点3は、前記相違点1と同じ内容であるところ、甲1-2発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」と同様に、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲1-2発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるもの」であるとはいえない。
したがって、相違点3は実質的なものである。
よって、本件発明4は、甲1-2発明であるとはいえない。

(5) 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の全ての発明特定事項を有しているから、前記(4)で検討したのと同様の理由により、本件発明5と甲1-2発明とは、少なくとも前記相違点3で相違しており、この相違点は、実質的なものである。
したがって、本件発明5は、甲1-2発明であるとはいえない。

(6) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明ではない。

4 取消理由1-2について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2-1発明との対比、判断
本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
(ア-1) 前記3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明の(C-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(C-3)成分組成の「P:0.022%、S:0.0008%」、(C-5)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(C-6)成分組成の「P:0.024%、S:0.0008%」、及び、(C-7)成分組成の「P:0.024%、S:0.0011%」は、いずれも、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲2-1発明の(C-2)成分組成、(C-3)成分組成、(C-5)成分組成、(C-6)成分組成及び(C-7)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明1の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明1の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲2-1発明の「EGRクーラの熱交換部用フェライト系ステンレス鋼」は、本件発明1の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明1と甲2-1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点4:本件発明1は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲2-1発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

(イ) 相違点についての判断
相違点4は、前記相違点1と同じ内容であるところ、甲2-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」と同様に、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるもの」であるとはいえない。
したがって、相違点4は実質的なものである。
よって、本件発明1は、甲2-1発明であるとはいえない。

(2) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲2-1発明との対比、判断
本件発明2と甲2-1発明とを対比する。
(ア-1) 前記3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明の(C-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(C-3)成分組成の「P:0.022%、S:0.0008%」、(C-5)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(C-6)成分組成の「P:0.024%、S:0.0008%」、及び、(C-7)成分組成の「P:0.024%、S:0.0011%」は、いずれも、本件発明2の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲2-1発明の(C-2)成分組成、(C-3)成分組成、(C-5)成分組成、(C-6)成分組成及び(C-7)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明2の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明2の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲2-1発明の「EGRクーラの熱交換部用フェライト系ステンレス鋼」は、本件発明2の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明2と甲2-1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点5:本件発明2は、「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲2-1発明は、かかる事項を有していない点。

(イ) 相違点についての判断
甲2-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、本件発明2のように、「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理」されるものではない。
また、前記(1)ア(イ)で検討したように、甲2-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるもの」であるとはいえない。
したがって、相違点5は実質的なものである。
よって、本件発明2は、甲2-1発明であるとはいえない。

(3) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2の全ての発明特定事項を有しているから、前記(1)又は(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3と甲2-1発明とは、少なくとも前記相違点4又は相違点5で相違しており、これら相違点は、いずれも実質的なものである。
したがって、本件発明3は、甲2-1発明であるとはいえない。

(4) 本件発明4について
ア 本件発明4と甲2-2発明との対比、判断
本件発明4と甲2-2発明とを対比する。
(ア-1) 前記3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲2-2発明の(D-2)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(D-3)成分組成の「P:0.022%、S:0.0008%」、(D-5)成分組成の「P:0.029%、S:0.0011%」、(D-6)成分組成の「P:0.024%、S:0.0008%」、及び、(D-7)成分組成の「P:0.024%、S:0.0011%」は、いずれも、本件発明4の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲2-2発明の(D-2)成分組成、(D-3)成分組成、(D-5)成分組成、(D-6)成分組成及び(D-7)成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明4の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明4の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 甲2-2発明の「EGRクーラの熱交換部」は、本件発明4の「排熱回収器」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明4と甲2-2発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点6:本件発明4は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成され」ているのに対し、甲2-2発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

(イ) 相違点についての判断
相違点6は、前記相違点1と同じ内容であるところ、甲2-2発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、甲2-1発明と同様に「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気で10分加熱するNiろう付けが施される」ものであって、単に10^(-2)torr以下の真空中で熱処理するものであるから、前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2-2発明の「フェライト系ステンレス鋼」は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるもの」であるとはいえない。
したがって、相違点6は実質的なものである。
したがって、本件発明4は、甲2-2発明であるとはいえない。

(5) 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の全ての発明特定事項を有しているから、前記(4)で検討したのと同様の理由により、本件発明5と甲2-2発明とは、少なくとも前記相違点6で相違しており、この相違点は、実質的なものである。
したがって、本件発明5は、甲2-2発明であるとはいえない。

(6) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明ではない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1-1) 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由1-1」という。)。

(1-2) 本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由1-2」という。)。

(2) 本件発明1、2、4は、甲第5号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、本件発明1、2、4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2」という。)。

[証拠方法]
甲第3号証:「溶接学会誌」、第61巻(1992)第4号、p.67-74
甲第4号証:「溶接技術」、2001年4月号、p.93-99
甲第5号証:特願2010-22367号(特開2011-157616号公報)

2 甲号証の記載事項
(1) 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「ろう付技術の現状と課題」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「5.Ni基ろうによる熱交換器等の製造」(70頁13行)

(3b) 「・・・ろう付雰囲気は真空または窒素ガスを使用した減圧キャリアガス雰囲気である。・・・」(71頁右欄6?7行)

(3c) 「

」(71頁)

(2) 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、「雰囲気ろう付けの実際」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「3.1 水素ガス(H_(2))
ろう付雰囲気ガスの代表成分であり、根幹を成すガスである。高温における酸化物還元力(酸化物より酸素を取り除く作用)は最大で,無酸化還元雰囲気の根底を成している。
その還元作用は次式による。
MmOn+nH_(2)→mM+nH_(2)O
表の大部分の雰囲気に含まれており,その含有量により鉄,銅,ニッケルおよびその合金,ステンレス鋼など広範囲な用途に利用されている。」(93頁右欄13?22行)

(4b) 「4.1 連続式水素雰囲気ろう付装置(連続式水素炉)
強い還元性を持つ水素ガスをろう付雰囲気に使用する装置として,連続式水素炉がある。
純度(通常は露点で換算する)の良い水素ガス雰囲気を使用すると,ステンレス鋼の無酸化光輝ろう付が可能であり,雰囲気ろう付の最大の特徴を引き出せる。・・・」(95頁右欄22?28行)

(4c) 「5.3 ニッケルろう
耐熱,耐酸化用肉盛合金から発展してきたろうで,硬度は高い(MHv600以上)が,高温強度,耐酸化性,耐食性が優れている。ステンレス鋼の接合に多用され色調も類似している。水素ガスと真空雰囲気が主流であるが,アンモニア分解ガスやアルゴンガス雰囲気での使用も可能である。」(97頁右欄10?16行)

(3) 本件特許に係る出願の優先日前に出願された甲第5号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「ろう付け用フェライト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【実施例】
【0022】
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000?1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。なお、比較鋼17はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304Lである。
【0023】
【表1】

【0024】
得られた鋼材を用いてろうのぬれ拡がり性を評価した。50mm×50mmの平板の上に、0.1gのろうをφ6mm(面積28mm^(2))の範囲に塗布し、下表の水素雰囲気の条件でろう付け処理を行った。
【0025】
【表2】



(5b) 「【産業上の利用可能性】
【0027】
以上説明したように、本発明を用いることで、NiろうやCuろう付け性が良好なフェライト系ステンレス鋼が提供できる。この鋼を用いることにより、オーステナイト系ステンレス鋼を部材に用いていた従来の熱交換器部材に比べ材料コストの低い熱交換器が実現される。」

3 申立理由1-1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1-1発明との対比・判断
(ア) 前記第3 3(1)ア(イ)で検討したように、本件発明1と甲1-1発明とは、相違点1で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
本件特許明細書の【0022】、【0027】、【0030】、【0059】?【0068】によれば、本件発明1の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」は、相違点1に係る発明特定事項である「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
ところで、同【0030】によれば、本件発明1における成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼のろう付け時に、N_(2)を含む環境で、1000?1200℃、10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気において、5?30分間保持すれば、その表面に形成される酸化皮膜中のカチオン分率を40%以上とすることができるものと認められる。
そして、甲第3号証の前記(3a)?(3c)、及び、甲第4号証の前記(4a)?(4c)によれば、Niろう付け時の雰囲気として、N_(2)を含む1torr以下の雰囲気やH_(2)雰囲気は、一般的なものであるといえる。
しかし、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証には、甲1-1発明における成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼について、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することで、その表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiのカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜を形成することによって、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するようにすることは、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明において、フェライト系ステンレス鋼に施すろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明1が、相違点1に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明に基づいて、あるいは、甲1-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲1-1発明との対比・判断
(ア) 前記第3 3(2)ア(イ)で検討したように、本件発明2と甲1-1発明とは、相違点2で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明2の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」は、相違点2に係る発明特定事項である「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、前記(1)ア(イ)で検討したように、甲1-1発明において、フェライト系ステンレス鋼に施すNiろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明2が、相違点2に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明2は、甲1-1発明に基づいて、あるいは、甲1-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明3について
ア 本件発明3と甲1-1発明との対比・判断
前記第3 3(3)で検討したように、本件発明3と甲1-1発明とは、少なくとも前記相違点1又は相違点2で実質的に相違している。
そうすると、前記(1)及び(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3は、甲1-1発明に基づいて、あるいは、甲1-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明4について
ア 本件発明4と甲1-2発明との対比・判断
(ア) 前記第3 3(4)ア(イ)で検討したように、本件発明4と甲1-2発明とは、相違点3で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
相違点3は、前記相違点1と同じ内容であるところ、前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明4の「排熱回収器」は、相違点3に係る発明特定事項である「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、前記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲1-2発明においても、フェライト系ステンレス鋼に施すNiろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明4が、相違点3に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明4は、甲1-2発明に基づいて、あるいは、甲1-2発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 本件発明5について
ア 本件発明5と甲1-2発明との対比・判断
前記第3 3(5)ア(イ)で検討したように、本件発明5と甲1-2発明とは、少なくとも前記相違点3で実質的に相違している。
そうすると、前記(4)で検討したのと同様の理由により、本件発明5は、甲1-2発明に基づいて、あるいは、甲1-2発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 申立理由1-2について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2-1発明との対比・判断
(ア) 前記第3 4(1)ア(イ)で検討したように、本件発明1と甲2-1発明とは、相違点4で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
相違点4は、前記相違点1と同じ内容であるところ、前記3(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明1の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」は、相違点4に係る発明特定事項である「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、前記3(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明においても、フェライト系ステンレス鋼に施すNiろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明1が、相違点4に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明1は、甲2-1発明に基づいて、あるいは、甲2-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲2-1発明との対比・判断
(ア) 前記第3 4(2)ア(イ)で検討したように、本件発明2と甲2-1発明とは、相違点5で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
相違点5は、前記相違点2と同じ内容であるところ、前記3(2)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明2の「排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼」は、相違点5に係る発明特定事項である「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、前記3(2)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明において、フェライト系ステンレス鋼に施すNiろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明2が、相違点5に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明2は、甲2-1発明に基づいて、あるいは、甲2-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明3について
ア 本件発明3と甲2-1発明との対比・判断
前記第3 4(3)アで検討したように、本件発明3と甲2-1発明とは、少なくとも前記相違点4又は相違点5で実質的に相違している。
そうすると、前記(1)及び(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3は、甲2-1発明に基づいて、あるいは、甲2-1発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明4について
ア 本件発明4と甲2-2発明との対比・判断
(ア) 前記第3 4(4)ア(イ)で検討したように、本件発明4と甲2-2発明とは、相違点6で実質的に相違している。

(イ) 相違点についての判断
相違点6は、前記相違点4と同じ内容であるところ、前記3(4)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明4の「排熱回収器」は、相違点6に係る発明特定事項である「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」との事項を有することで、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、前記3(4)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2-2発明においても、フェライト系ステンレス鋼に施すNiろう付けの雰囲気として、「1100℃、5×10^(-3)torrの真空雰囲気」に代えて、N_(2)を含む10^(-2)?1torr以下の雰囲気もしくはH_(2)雰囲気とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明4が、相違点6に係る発明特定事項を有することにより奏する上記効果は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載からは予測し得ない効果である。
したがって、本件発明4は、甲2-2発明に基づいて、あるいは、甲2-2発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 本件発明5について
ア 本件発明5と甲2-2発明との対比・判断
前記第3 4(5)アで検討したように、本件発明5と甲2-2発明とは、少なくとも前記相違点6で実質的に相違している。
そうすると、前記(4)で検討したのと同様の理由により、本件発明5は、甲2-2発明に基づいて、あるいは、甲2-2発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 申立理由2について
(1) 甲第5号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
甲第5号証の前記(5a)、(5b)によれば、【表1】の発明鋼9に注目すると、甲第5号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量で、C:0.012%、N:0.012%、Si:0.24%、Mn:0.19%、Cr:18.03%、Al:0.022%、Ni:0.93%、Mo:1.09%、Nb:0.40%、Ti:0.015%、P:0.037%、S:0.001%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
水素雰囲気で保持時間10分Niろう付けが施される
熱交換器用のろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼。」(以下、「甲5-1発明」という。)

「ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備え、
前記熱交換部が、質量で、C:0.012%、N:0.012%、Si:0.24%、Mn:0.19%、Cr:18.03%、Al:0.022%、Ni:0.93%、Mo:1.09%、Nb:0.40%、Ti:0.015%、P:0.037%、S:0.001%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
水素雰囲気で保持時間10分Niろう付けが施されたフェライト系ステンレス鋼からなるものである熱交換器。」(以下、「甲5-2発明」という。)

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲5-1発明との対比、判断
本件発明1と甲5-1発明とを対比する。
(ア-1) 前記第3 3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲5-1発明の成分組成の「P:0.037%、S:0.001%」は、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲5-1発明の成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明1の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明1の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 以上から、本件発明1と甲5-1発明は、以下の2点で相違し、その余の点で一致する。

相違点7:本件発明1は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲5-1発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

相違点8:フェライト系ステンレス鋼について、本件発明1は、「排熱回収器用」であるのに対し、甲5-1発明は「熱交換器用」である点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点8について検討する。
本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」の用途は、「排熱回収器」であって、前記4(1)ア(イ)で検討したように、本件発明1は、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、甲5-1発明の「フェライト系ステンレス鋼」の用途は、「熱交換器」であるところ、当該「熱交換器」は、本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」の用途である「排熱回収器」の上位概念の機器であって、必ずしも排ガス凝縮水を用いるものとはいえない(逆に、「排熱回収器」は、「熱交換器」の下位概念の機器である。)。
そうすると、甲5-1発明における「フェライト系ステンレス鋼」の用途を、「熱交換器」の下位概念の機器である、「排熱回収器」とすることによって、本件発明1の上記効果である、「排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有する」という新たな効果を奏するものといえる。
したがって、相違点8は、甲5-1発明における、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5-1発明と同一であるとはいえない。

(3) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲5-1発明との対比、判断
本件発明1と甲5-1発明とを対比する。
(ア-1) 前記第3 3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲5-1発明の成分組成の「P:0.037%、S:0.001%」は、本件発明2の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲5-1発明の成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明2の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明1の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 以上から、本件発明2と甲5-1発明は、以下の2点で相違し、その余の点で一致する。

相違点9:本件発明1は、「N_(2)を含む10^(-2)?1torrの真空雰囲気もしくはH_(2)雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲5-1発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

相違点10:フェライト系ステンレス鋼について、本件発明1は、「排熱回収器用」であるのに対し、甲5-1発明は「熱交換器用」である点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点10について検討する。
相違点10は、前記相違点8と同じ内容であるから、前記(2)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、相違点10も、甲5-1発明における、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないから、実質的な相違点である。
したがって、相違点9について検討するまでもなく、本件発明2は、甲5-1発明と同一であるとはいえない。

(4) 本件発明4について
ア 本件発明4と甲5-2発明との対比、判断
本件発明4と甲5-2発明とを対比する。
(ア-1) 前記第3 3(1)ア(ア-1)で検討したのと同様の理由により、甲5-2発明の成分組成の「P:0.037%、S:0.001%」は、いずれも、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。
そして、甲5-2発明の成分組成のうち、S及びP以外の各元素の含有量は、いずれも、本件発明4の各元素の含有量の数値範囲に含まれているとともに、本件発明1の(式1)及び(式2)を満たしている。

(ア-2) 以上から、本件発明4と甲5-2発明は、以下の2点で相違し、その余の点で一致する。

相違点11:本件発明4は、「表面に、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものである」のに対し、甲5-2発明は、かかる事項を有しているかどうか不明である点。

相違点12:本件発明1は、「排熱回収器」であるのに対し、甲5-2発明は「熱交換器」である点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点12について検討する。
本件発明4は、「排熱回収器」であって、前記4(4)ア(イ)で検討したように、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有するという効果を奏するものである。
一方、甲5-2発明は、「熱交換器」であるところ、当該「熱交換器」は、本件発明4の「排熱回収器」の上位概念の機器であって、必ずしも排ガス凝縮水を用いるものとはいえない(逆に、「排熱回収器」は、「熱交換器」の下位概念の機器である。)。
そうすると、甲5-2発明の「熱交換器」を、当該「熱交換器」の下位概念の機器である「排熱回収器」とすることによって、本件発明4の上記効果である「排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を有する」という新たな効果を奏するものといえる。
したがって、相違点12は、甲5-2発明における、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、相違点11について検討するまでもなく、本件発明4は、甲5-2発明と同一であるとはいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4は、甲第5号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではない。

第5 むすび
したがって、請求項1?5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-28 
出願番号 特願2012-57362(P2012-57362)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 16- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 静野 朋季  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河野 一夫
河本 充雄
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5856878号(P5856878)
権利者 新日鐵住金ステンレス株式会社
発明の名称 排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼および排熱回収器  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 増井 裕士  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  

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