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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規)  C04B
管理番号 1323527
異議申立番号 異議2016-700578  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-27 
確定日 2017-01-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5888844号発明「セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び低減装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5888844号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5888844号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成22年9月29日に特許出願され、平成28年2月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人林愛子及び鈴木友子によりそれぞれ特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5888844号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
特許異議申立人林愛子は、主たる証拠として特開2007-98343号公報(以下、「刊行物1」という。)、従たる証拠として「循環型社会の未来を支えるセメント工場(19)、セメント・コンクリート、社団法人セメント協会、2007年8月、第726号、第4-6頁」(以下、「刊行物2」という。)、及び、特開昭61-125450号公報(以下、「刊行物3」という。)を提出し、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、また、特許異議申立人鈴木友子は、主たる証拠として特開2004-244308号公報(以下、「刊行物4」という。)、及び、従たる証拠として刊行物2を提出し、請求項1、3に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、従たる証拠として特開平6-330200号公報(以下、「刊行物5」という。)を提出し、請求項2、4に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
また、特許異議申立人鈴木友子は、セメント製造設備の運転開始時のごく僅かな期間においてセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物を低減させることができるに過ぎないとして、請求項1ないし4に係る特許は産業上利用することができる発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書の規定を満たさないものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.各刊行物の記載について
(1)刊行物1
刊行物1には、次の事項が記載されている。

ア 「本実施の形態において、セメント製造装置は、例えば、乾燥機1、粉砕機2、プレヒータ3、仮焼炉4、ロータリーキルン5、クリンカクーラ6、仕上げミル7、及び2台の集塵機11,14により構成されている。」(【0021】)

イ 「乾燥機1は、セメント原料を乾燥し、粉砕機2は、セメント原料を粉砕するものであり、乾燥機1と粉砕機2は兼用機であってもよい。」(【0022】)

ウ 「その後、上記したように4段目サイクロン3dから排ガス路10内に流入した排ガスは、熱源となるために、粉砕機2又は乾燥機1を通過し、通常、80?150℃の温度で集塵機11内に流入する。…」(【0039】)

エ 「…セメント製造装置の排ガス中においてダイオキシン類等の残留性有機汚染物質が生成されるのを、簡易且つ熱エネルギー消費量の少ない方法によって抑制し、排ガスを浄化することのできるセメント製造装置の排ガス処理方法及び処理システムを提供することを目的とする。」(【0008】)

(2)刊行物2
刊行物2には、次の事項が記載されている。

ア 「現在は,1973(昭和48)年に稼動したNSP式キルン1基の運転となっており,年間220万tのセメントを生産しています。原料ミルは竪型ローラミルが3基,仕上げミルはチューブミル9基を有し,うち1基に予備粉砕機を設置しています。」(4頁左欄11?15行目)

(3)刊行物3
刊行物3には、次の事項が記載されている。

ア 「…同一系統として並列的に運転される複数の粉砕系の各粉砕量がそれぞれ最大となるようミルの各設定値を可変制御する粉砕系の運転制御装置…」(1頁左欄11?13行目)

イ 第3図に、以下の図が記載されている。


(4)刊行物4
刊行物4には、次の事項が記載されている。

ア 「…なお、本明細書中において、セメント製造装置とは、例えば、乾燥機1、粉砕機2、原料供給路3、サスペンションプレヒータ4、ロータリーキルン5、仮焼炉6(ただし、仮焼炉6は省略してもよい。)、仕上げミル7を含むもの(ただし、乾燥機1と粉砕機2は兼用機でもよい。)を意味する。」(【0020】)

イ 「このように分解されずに排ガス中にわずかに残存するダイオキシン類は、排ガスの温度の低下に伴い、排ガスに含まれるダストの表面に吸着される。そして、ダイオキシン類を吸着したダストは、煙道途中に設置された電気集塵機等の集塵機、乾燥機、粉砕機等の装置によって、排ガスから分離され捕集される。…」(【0003】)

ウ 【図1】に、以下の図が記載されている。


(5)刊行物5
刊行物5には、次の事項が記載されている。

ア 「…図3において、破砕6はインベラブレーカおよび振動スクリーン、乾燥破砕7はインパクトドライヤおよび振動スクリーン、坪量8、9はベルトフィーダ、混合10はパンペレタイザ、▲か▼焼11はロータリーキルン、そして、ホットチャージ12はコンテナによって、各々実施される。」(【0006】)

5.各刊行物に記載の発明について
(1)刊行物1
刊行物1には、上記4(1)ア?エによれば、プレヒータ、ロータリーキルン、セメント原料を粉砕する粉砕機を備えるセメント製造装置において、プレヒータの4段目サイクロンから排ガス路内に流入した排ガスを粉砕機に導入する方法の発明、および、プレヒータ、ロータリーキルン、セメント原料を粉砕する粉砕機を備え、プレヒータの4段目サイクロンから排ガス路内に流入した排ガスが粉砕機を通過するようにしたセメント製造装置の発明が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2
刊行物2には、上記4(2)アによれば、NSP式キルン1基の運転に対し、原料ミルは竪型ローラミル3基を有するという技術的事項が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3
刊行物3には、上記4(3)ア?イによれば、複数のミルを並列的に運転するという技術的事項が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4
刊行物4には、上記4(4)ア?ウによれば、サスペンションプレヒータ、ロータリーキルン、粉砕機を備え、サスペンションプレヒータから粉砕機へ排ガス路があるセメント製造装置の発明、および、当該セメント製造設備において排ガスを粉砕機へ流す方法の発明が記載されているものと認められる。

(5)刊行物5
刊行物5には、上記4(5)アによれば、乾燥破砕にインパクトドライヤを使用するという技術的事項が記載されているものと認められる。

6.判断
(1)第29条第2項について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と刊行物1又は刊行物4に記載された発明とを対比すると、当該刊行物1又は刊行物4のいずれにも、「該プレヒータ及びロータリーキルンを含む一系列の原料焼成工程に対して、二系列以上の原料粉砕工程を並列して設け、該原料粉砕工程のうち、少なくとも一系列以上の原料粉砕工程を常時稼動させて、該稼動している原料粉砕工程に該原料焼成工程で発生する排ガスを導入し、稼動していない該原料粉砕工程には該排ガスを導入しないこと」(以下、「発明特定事項1」という。)が記載されていない。
また、発明特定事項1は、刊行物2、3、5のいずれにも記載されていない。
してみると、本件特許発明1は、上記刊行物1又は刊行物4に記載された発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、刊行物5に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、当業者が容易になし得るものではない。

ここで、特許異議申立人林愛子は、本件特許発明1と刊行物1に記載された発明とを対比し、発明特定事項1の「該原料粉砕工程のうち、少なくとも一系列以上の原料粉砕工程を常時稼動させて」の部分は、少なくとも一系列以上の原料粉砕工程を常時稼動させることは、運転計画で適宜選択可能な稼動条件に過ぎず、また、発明特定事項1の「稼動していない該原料粉砕工程には該排ガスを導入しない」の部分は、稼動していない原料粉砕工程に排ガスを導入しないのは、通常の手段(慣用手段)であるので、それらの部分が刊行物1に記載された発明との相違点でないと主張しているので、その点について検討する。
すると、二系列以上の原料粉砕工程を並列して設けていない刊行物1に記載された発明において、「該原料粉砕工程のうち、少なくとも一系列以上の原料粉砕工程を常時稼動させ」ることが、選択可能とはいえない。また、「稼動していない該原料粉砕工程には該排ガスを導入しない」ことが、本件特許の出願時において、通常の手段(慣用手段)であることは、刊行物1ないし5から確認できないし、仮に、通常の手段(慣用手段)であるとしても、二系列以上の原料粉砕工程を並列して設けていない場合の「常時稼動」との両立は不可能である。
そうであるから、かかる主張は採用できない。したがって、かかる主張を根拠の一つとする進歩性の否定は、成り立たない。

また、特許異議申立人鈴木友子は、本件特許発明1と刊行物4に記載された発明とを対比し、刊行物4に記載されていない発明特定事項1を細分し、「該原料粉砕工程のうち、少なくとも一系列以上の原料粉砕工程を常時稼動させて」の部分は、周知の技術に過ぎず、また、「稼動していない該原料粉砕工程には該排ガスを導入しない」の部分は、周知の技術に過ぎないと主張をしているので、その点について検討する。
すると、それらの周知の技術とされる事項が、本件特許の出願時において、周知であると刊行物1ないし5から直ちにはいえないから、かかる主張は採用できない。
したがって、かかる主張を根拠の一つとする進歩性の否定は、成り立たない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記アと同様の理由により、上記刊行物1又は刊行物4に記載された発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、刊行物5に記載された技術的事項を合わせたとしても、当業者が容易になし得るものではない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と刊行物1又は刊行物4に記載された発明とを対比すると、当該刊行物1又は刊行物4のいずれにも、「該一系列の原料焼成装置に対して二系列以上の原料粉砕装置を並列して備え、少なくとも一系列以上の原料粉砕装置は常時稼動させるセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置であって、
該原料焼成装置で発生する排ガスを、稼動している該原料粉砕装置に導入し、稼動していない該原料粉砕装置には排ガスを導入しないように、バイパス手段を設けること」(以下、「発明特定事項2」という。)が記載されていない。
そして、発明特定事項2は、刊行物2、3、5にも記載されていない。
したがって、本件特許発明3は、上記刊行物1又は刊行物4に記載された発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、刊行物5に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、当業者が容易になし得るものではない。
また、特許異議申立人林愛子、及び、鈴木友子が、援用する本件特許発明1についての主張は、上記アに記載した理由により、採用できない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3を更に減縮したものであるから、上記ウと同様の理由により、上記刊行物1又は刊行物4に記載された発明及び刊行物2、3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、刊行物5に記載された技術的事項を合わせたとしても、当業者が容易になし得るものではない。

オ 小括
以上のとおり、請求項1ないし4に係る発明は、刊行物1又は刊行物4に記載された発明及び刊行物2、3、5に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)第29条第1項柱書について
第29条第1項柱書の産業上の利用可能性の要件について検討すると、本件特許発明1ないし4は、人間を手術、治療又は診断する方法の発明でない。
また、本件特許発明1ないし4は、個人的にのみ利用される発明でなく、学術的、実験的にのみ利用される発明でないから、業として利用できない発明にも該当しない。
そして、本件特許明細書の【0038】?【0043】に記載された具体例において、16週間後までの煙突排ガス中のPCB濃度を低減させることが示されていることからみて、本件特許発明1ないし4は、実際上、明らかに実施できない発明にも該当しない。
したがって、本件特許発明1ないし4が、「セメント製造設備の運転開始時のごく僅かな期間においてセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物を低減させることができるに過ぎない」ものであるとしても、産業上利用することができる発明でないとはいえない。

7.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-16 
出願番号 特願2010-218003(P2010-218003)
審決分類 P 1 651・ 1- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 宮澤 尚之
瀧口 博史
登録日 2016-02-26 
登録番号 特許第5888844号(P5888844)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び低減装置  
代理人 杉村 純子  
代理人 田村 爾  

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