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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) H02M
管理番号 1323543
判定請求番号 判定2016-600026  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 判定 
判定請求日 2016-06-10 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2733817号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号説明書に示す「放電管用インバーター回路」は、特許第2733817号特許発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、「イ号図面ならびにその説明書に示す放電管用インバーター回路は、特許第2733817号発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。」ものである。

2 手続の経緯
平成 5年 8月30日 出願
平成10年 1月 9日 特許登録
平成10年 9月30日 特許異議申立
平成11年 6月22日 特許異議決定(訂正を認める。特許第2733817号の請求項1に係る特許を維持する。)
平成28年 6月10日 本件判定請求
平成28年 7月29日 本件判定請求の手続補正(翻訳文、宣誓書の追加)
平成28年 8月19日 請求人手続補正書(翻訳文誤記修正)
平成28年 9月16日 判定請求答弁書

第2 特許第2733817号の発明
本件特許第2733817号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、次のとおりのものである。(なお、便宜上、構成要件に分説し、符号A?Eを付加した。)
「A.連続した一本の棒状コアと、一次巻線と、二次巻線を有し、
B.該一次巻線と二次巻線は該棒状コアのまわりに、該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回され、
C.その結果、該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合部分と該一次巻線と磁気的に疎結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有する、
D.漏洩磁束型の昇圧トランスの疎結合部分より生じる誘導性出力と二次側回路に生じる寄生容量との間で構成する共振回路の一部としたこと
E.を特徴とする放電管用インバーター回路。」
(以下、順に「構成要件A」?「構成要件E」という。)

第3 イ号製品
1 請求人の主張
請求人は、「(4)イ号の説明」を
「a.連続した一本の棒状コアと、U字状の外部コアと、一次巻線と、二次巻線を有し、
b.該一次巻線と二次巻線は該棒状コアのまわりに、該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回され、
c.二次巻線と直列に接続されたデカップリングコンデンサを有さず、該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合部分と該一次巻線と磁気的に疎結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有する、
d.漏洩磁束型の昇圧トランスの疎結合部分より生じる誘導性出力とLCDパネルに搭載された放電管に生じる寄生容量との間で構成する共振回路の一部とした、
e.放電管用インバーター回路。」
としている。

2 被請求人の主張
被請求人は、「(4)イ号の説明」について特段主張していない。

3 当審の認定
(1)甲第1号証イ号図面の図1は「CIUH8D45にLCDパネルを接続した回路図」(甲第1号証「説明書」)であって、図1には、「CIUH8D45」回路(図において左方の破線枠内の回路)を使用した放電管点灯回路が掲載され、同じく図2(A)には、CIUH8D45回路のトランスT1部分の図が、同じく図2(B)には、CIUH8D45回路のトランスT1部分の写真が、同じく図3(A)には、CIUH8D45回路の写真が、同じく図3(B)には、CIUH8D45回路のMP1010部分の仕様(january2001)が掲載されるとともに、以下の事項が示されている。
ア.図2(B)の写真には棒状コア、一次巻線、二次巻線との説明が付された部材が写り込んでおり、さらに、これに相当するものは、図2(A)も同じ説明が付された部材が示されている。
イ.図2(B)の写真には棒状コア上方に、棒状コアの両端部に接合する棒状コアと同様の色合いのU字形の部材が写り込んでおり、さらに、図2(A)にも示されている。
ウ.一次巻線、二次巻線との説明が付された部材は、棒状コアとの説明が付された部材のまわりに、該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回されている。
エ.図1の回路図では、T1の二次巻線とDT1間で、T1の二次巻線とDT1とに直列に接続されたコンデンサは記載されていない。
オ.図2(A)(B)の二次巻線との説明が付された部材は、一次巻線近傍の部分と一次巻線から離れた部分とを有する。
カ.図1の回路図では、トランスT1の二次側が巻線SW1とコイルLe1の直列体として記載されており、トランスT1のLe1部分より生じる出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路が構成されている。
キ.放電管DT1とLCD FRAME GNDとの間にはコンデンサCs1が構成されている。
ク.トランスT1のLe1部分の出力側には、図3(A)で共振コンデンサC11との説明が付されたC11が接続されている。

(2)上記(1)を踏まえれば、「イ号図面」から以下の事項が認識できる。
・CIUH8D45回路のトランスT1は、連続した一本の棒状のIコアと、このIコアの両端部に接合するUコアと、一次巻線と、二次巻線を有する。
・一次巻線と二次巻線は棒状コアのまわりに、該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回されている。
・二次巻線と直列に接続されたデカップリングコンデンサを有さない。
・二次巻線は一次巻線近傍の部分と一次巻線から離れた部分とを有する。
・CIUH8D45回路が、トランスT1の出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路の一部となっている。

(3)イ号製品(物件)の構成の認定
上記(2)をふまえ、イ号製品の構成を次のとおりに認定する。なお、その構成を、構成a.?構成e.に分説する。
「a.連続した一本の棒状のIコアと、このIコアの両端部に接合するUコアと、一次巻線と、二次巻線を有し、
b.該一次巻線と二次巻線は該棒状コアのまわりに、該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回され、
c.二次巻線と直列に接続されたデカップリングコンデンサを有さず、該二次巻線は該一次巻線近傍の部分と該一次巻線から離れた部分とを有する、
d.トランスT1の出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路の一部とした、
e.CIUH8D45回路。」

第4 判断
1 本件特許発明の構成要件とイ号製品の構成との対比・判断
構成要件A?Cは、いずれも漏洩磁束型の昇圧トランスを特定する技術的事項であって、構成要件Dの漏洩磁束型の昇圧トランスを修飾するものであるから、併せて検討する。

(1)構成要件A?Dの解釈
ア.本件明細書の記載の参酌
特許請求の範囲欄における「連続した一本の棒状コア」と記載されている点について、「昇圧トランス」に「一本の棒状コア」を組みあわせの構成の一つとして含んでいれば足りるのか、「一本の棒状コア」のみを構成とするものでなければならないかは、その記載からは直ちに明らかであるとはいえない。そこでこの点について、本件明細書のその他の部分の記載を参照すると、
(a)発明が解決しようとする課題の欄に、「また、従来の放電管用インバーター回路ではコアにEI型或いはEE型の形状を採用しているが、該コア形状ではコアの体積がそのインバーター回路全体に占める割合が大きくその回路の小型化の障害となっている。しかし、閉塞磁束型のトランス構造を採用する限り、昇圧トランスの小型化には限界がある。そこで、コア形状と磁気回路を見直すことによって昇圧トランスの小型化を実現する必要がある。」(【0007】)、
(b)作用の欄には、「漏洩磁束型トランスはトランス自体に電流制限効果があり、その出力は誘導性となるためにチョークコイルと同様の効果があるが、これをさらに進めてコア材を棒状とし、昇圧トランスの形状を棒状の漏洩磁束型トランスとすることにより極端な漏洩磁束効果を持たせると、一次巻線近傍の二次巻線は漏洩磁束トランスとしての効果を有し」(【0010】)、
(c)実施例の欄には、「図4及び図5は昇圧トランス1を極端な漏洩磁束型とした場合の外形を示しており、昇圧トランス1は円柱状の形状としてある。その他、角柱状などに形成することもできる。丸棒状コア11の一方の終端に昇圧トランス1のベース巻線12を巻き、隣接して一次巻線であるコレクター巻線13を巻く。さらに、その隣に巻く二次巻線14は、一次巻線の近傍15より巻き始め」(【0015】)と、「昇圧トランス1の形状は直径4.8mm、長さ35mmとなり、従来のEE型或いはEI型のコアの昇圧トランスを用いた同仕様のインバーター回路に比べて非常に小型なものとなる。また、昇圧トランスの組立は、巻線後にボビンに丸棒状コア11を挿入するだけなので量産上も有利な形状となる。」(【0017】)
という記載がある。
これら(a)から(c)の記載に照らすと、本件特許発明における「昇圧トランス」は、「連続した一本の棒状コア」に巻線を施し、磁路の両端を解放したものであって、その中心コアの周辺に磁路を形成するコア部を備えたものを含まないものを指し、このような構成によって、昇圧トランスは、極端な漏洩磁束型になり、非常に小型化することができたと解される。
そうすると、「連続した一本の棒状コア」とは連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきである。

イ.出願経過の参酌
(a)出願当初の「特許請求の範囲」は、「放電管用インバーター回路の二次側回路を高周波の給電回路とし、二次側回路に生ずる寄生容量を誘導性バラスト或は漏洩磁束型トランスの誘導性出力との間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする放電管用インバーター回路。」と記載され、「連続した一本の棒状コア」部分は記載されていなかった。
(b)平成8年6月4日、拒絶理由通知が発せられ、同通知により、審査官から、二次側回路の寄生容量や、トランスのリーケージインダクタンスを共振回路の一部とする共振形インバータは周知であり、このような周知の共振形インバータを放電管の点灯に使用することは、広く行なわれている旨を指摘された。
(c)これに対して、請求人(出願人)は、特許請求の範囲(請求項1)を「放電管用インバーター回路の二次側回路を高周波の給電回路とし、昇圧トランスを棒状の漏洩磁束型とし、二次側回路に生ずる寄生容量を漏洩磁束型トランスの誘導性出力との間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする放電管用インバーター回路。」とし、「トランスを棒状の漏洩磁束型とし」との記載を加える補正を行った。さらに、請求人(出願人)は、上記手続補正と同時に提出した意見書において、「漏洩磁束型トランスはトランス自体に電流制限効果があり、その出力は誘導性となるためにチョークコイルと同様の効果があるが、これをさらに進めてコア材を棒状とし、昇圧トランスの形状を棒状の漏洩磁束型卜ランスとすることにより極端な漏洩磁束効果を持たせると、一次巻線近傍の二次巻線は漏洩磁束トランスとしての効果を有し、同時に一次巻線から遠端の二次巻線はチョークコイルとしての効果を有する」旨を述べた。
(d)平成9年7月15日、拒絶理由通知が発せられ、同通知により、審査官から、漏洩磁束型のトランスを用いて、寄生容量を考慮した公知技術(米国特許第4698741号)の存在を指摘された。上記米国特許第4698741号は、気体放電装置用の高効率高圧電源に関する発明であり、その特許明細書には、「The core material is a ferrite typically of the type that has been used in television fly-back circuits for many years.」、「The core should preferably incorporate one or more air gaps totalling between about 0.1 and 0.2 inches thereby providing a leakage inductance which serves to lower the terminal output voltage as the load is increased (decreased resistance).」[「コア材料は、通常、何年もテレビのフライバック回路に使用されている種類のフェライトである。」、「このコアは好ましくは、合計で約0.1インチから0.2インチの1つまたは複数の空気ギャップを組み込み、それにより負荷が大きくなる(抵抗が小さくなる)際に端子出力電圧を低下させる働きをする漏れインダクタンスを形成する。」]との記載がある。
(e)これに対し、請求人(出願人)は、平成9年9月2日、特許請求の範囲(請求項1)を、特許公報に記載のとおりに補正した。
(f)上記(a)から(e)の出願経過及び(b)(d)の公知技術に照らすならば、本件特許発明の「連続した一本の棒状コア」(構成要件A)とは、中心コアの周辺に磁路を形成するコアを設けたものを排除すると解すべきである。

ウ.判定請求書の主張について
(ア)請求人は、判定請求書第7頁「(ア)平成13年(ワ)第7153号の判決について」において、
(a)「本件特許発明においては、この『隣接して並置された関係に巻回され』ということが重要であってこの構成を便宜的に明白にするための構成が『連続した一本の棒状コア』である。」
(b)「巻数を変えないのであれば、外部コアは漏洩磁束を増加させる。外部コアが存在しても本件特許発明を実施していることになる。」
(c)「本件特許発明における小型化がかかる単純な理由によって実現されたというのは大きな誤解であって、第6号証に『トランスのサイズは原理的に(中略)小型にできます』とあるように、『二次側回路が高周波の給電回路』になるからこそ小型化できるのである。その小型化の効果は、『外部のコアがなくなった分その物理的サイズだけ小さくなった』というレベルを遥かに超えている。」
旨主張している。
しかし、
(A)上記「ア.」に記載したように、本件特許発明における「昇圧トランス」は、「連続した一本の棒状コア」に巻線を施し、磁路の両端を解放したものであって、その中心コアの周辺に磁路を形成するコア部を備えたものを含まないものを指し、このような構成によって、昇圧トランスは、極端な漏洩磁束型になり、非常に小型化することができたと解されるものであって、「連続した一本の棒状コア」としたことを便宜的なこととはいえない。
(B)上記「ア.」で、本件特許発明における「昇圧トランス」は、「連続した一本の棒状コア」に巻線を施し、磁路の両端を解放したものであって、その中心コアの周辺に磁路を形成するコア部を備えたものを含まないものとしたのは、本件明細書の記載に基づいて判断したのであって、請求人が主張するように「外部コアが存在しても本件特許発明を実施していることになる。」とはいえない。
(C)高周波給電回路による小型化は、本件明細書でも【従来の技術】として扱われている様にに従来からなされていたことである。
本件明細書の上記「ア.」「(a)」?「(c)」の記載は、「連続した一本の棒状コア」に巻線を施し、磁路の両端を解放したものとすることにより、従来の高周波給電回路による小型化よりも、さらに、小型化できたと解されるものであって、請求人の主張する高周波給電回路による小型化で否定される様なものではない。
なお、甲第6号証は、本件特許の出願後の平成11年の文献であって、本件出願書類ではない。

(イ)請求人は、判定請求書第12頁「(イ)明細書及び出願経過の参酌について」において、
(d)「出願人(請求人)は、『トランスを棒状の漏洩磁束型とし』との発明構成要件を追加した際、『一次巻線から遠端の二次巻線はチョークコイルとしての効果を有する』との意見を述べた際、その他出願経過のいかなる場面においても、『外部コアを設けたものを含まない』との主張をしていない。一次巻線および二次巻線によって形成される磁束が所定の要件を満たすことを主張したのみである。とくに本発明は平成6年特許法改正の前に出願されたものであって、旧特許法第36条第5項第2号には、特許請求の範囲は『特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ』を記載するとされていたのであるから外部コアを含む場合も含まない場合も『発明の構成に欠くことができない事項のみ』の記載であるならば中心コアだけを記載しなければならないと解釈され、また実施例も請求項にしたがって記載されたものである。」
旨主張している。
しかし、
(D)まず、旧特許法第36条第5項第1号では「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」とされているが、発明の詳細な説明には、請求人が主張する外部コアに関して、従来技術としての「EI型」「EE型」以外、本件特許発明のコアとしての外部コアは、何ら記載されていない。
そして、前記「ア.」に記載したように、本件明細書の記載によると、「連続した一本の棒状コア」とは連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきものであって、請求人の主張は採用できない。

エ.小括
(ア)以上をふまえると、本件特許発明の昇圧トランスに係る「連続した一本の棒状コアと、一次巻線と、二次巻線を有し」(構成要件A)たとの構成は、連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し、棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきものである。
(イ)また、本件特許発明の「該一次巻線と二次巻線は該棒状コアのまわり」は、構成要件Aの「連続した一本の棒状コア」のまわりと解すべきものである。
(ウ)また、本件特許発明の「その結果、該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合部分と該一次巻線と磁気的に疎結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有する」(構成要件C)の「密結合」及び「疎結合」は、「その結果、・・密結合部分と・・疎結合部分とを有する」(「その」は、構成要件A,Bを示す。)と記載されているように、構成要件A,Bの構成を前提とした「密結合」及び「疎結合」と解すべきものである。
(エ)また、本件特許発明の「漏洩磁束型の昇圧トランスの疎結合部分」は、「一次巻線から離れた疎結合部分」であるので、「漏洩磁束型の昇圧トランスの疎結合部分より生じる誘導性出力」(構成要件D)は、構成要件AからCの構成を前提とした「漏洩磁束型」の昇圧トランス、すなわち、連続した一本の棒状コアのみからなるコアの「漏洩磁束型」の昇圧トランスの「疎結合部分より生じる誘導性」出力と解すべきものである。

(2)イ号製品の構成a?cを有するトランスT1が、本件特許発明の構成要件A?Cを有する漏洩磁束型の昇圧トランスを充足するかについて
イ号製品の構成a?cは、構成dのトランスT1を修飾し、本件特許発明の構成要件A?Cのは、構成要件Dの漏洩磁束型の昇圧トランスを修飾するので、イ号製品の構成a?cを有するトランスT1が、本件特許発明の構成要件A?Cを有する漏洩磁束型の昇圧トランスを充足するかについて検討する。

イ号製品の昇圧トランスの「連続した一本の棒状のIコアと、このIコアの両端部に接合するUコアと、一次巻線と、二次巻線を有し」た構成は、コアが「連続した一本の棒状のIコア」と「このIコアの両端部に接合するUコア」とで構成されるものであって、連続した一本の棒状コアのみからなるものではないから、イ号製品の構成aは、本件特許発明の構成要件Aといえるものではない。そして、イ号製品の一次巻線、及び二次巻線の「該棒状コアのまわりに」巻回されは、構成aの「連続した一本の棒状のIコアと、このIコアの両端部に接合するUコアと、一次巻線と、二次巻線を有」するトランスT1の「連続した一本の棒状のIコア」のまわりに巻回されるものであって、連続した一本の棒状コアのみからなる昇圧トランスの棒状コアのまわりに巻回されるものではないから、イ号製品の構成bは、本件特許発明の構成要件Bといえるものではない。さらに、イ号製品の「該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合部分と該一次巻線と磁気的に疎結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有する」構成における、「該一次巻線近傍の部分」及び「該一次巻線から離れた部分」は、一次、二次巻線と連続した一本の棒状コアのみからなるトランスを前提とした「密結合」及び「疎結合」といえるものではないから、イ号製品の構成cは、本件特許発明の構成要件Cといえるものではない。

そうすると、イ号製品の構成a?c、及びa?cを有するトランスT1は、本件特許発明の構成要件A?C、及びA?Cを有する漏洩磁束型の昇圧トランスといえるものではないので、イ号製品の構成a?cを有するトランスT1は、本件特許発明の構成要件A?Cを有する漏洩磁束型の昇圧トランスを充足しない。

(3)イ号製品の構成dが本件特許発明の構成要件Dを充足するかについて
ア.イ号製品構成dのトランスT1は、二次側が巻線SW1とコイルLe1の直列体として表されるものであって、甲4号証の仕様書に
「Leakage(4-5):240mH±25%
TURNS AND WIRE
1-3 4-5
TURNS 24T ・・・ 2400T T」
と記載されている。
しかし、イ号製品の「トランスT1の出力」は、本件特許発明の構成要件Aとは異なる構成aの「連続した一本の棒状のIコアと、このIコアの両端部に接合するUコア」とからなるコアを有した昇圧トランスの出力である。
さらに、イ号製品の構成dのトランスT1の出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路は、請求人の提出した各証拠を見ても、コイルLe1とコンデンサCs1とで共振するものであるとの確認ができず、構成dの「トランスT1の出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路」が、トランスT1の「誘導性出力と二次側回路に生じる寄生容量との間で構成する共振回路」であるといえるものでもない。
そうすると、イ号製品の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。
イ.判定請求書の主張について
請求人は判定請求書第16頁「○3dとDの関係」において、「二次側回路に設けられたLCDパネルには寄生容量Cs1が当然に生じる。・・・
イ号は、一次側回路において、MP1010を用いることで強制的に共振させている。・・・
なお、一次側回路における共振がない場合であっても、二次回路側には、誘導性出力と寄生容量Cs1との間で当然に共振が発生する。」旨主張しているが、甲第1号証翻訳文には、「図4aに、電圧源がRCL(抵抗・コンデンサ・コイル)共振回路を駆動するMP1010の駆動ステージを示す。共振周波数は、共振回路の要素(直列コンデンサCs、並列コンデンサCp、トランスの2次側漏れインダクタンスL、冷陰極蛍光管)によって決定される。」と記載され、甲第1号図3(A)には、イ号図面のC11に対応して「共振コンデンサC11」と記載されており、誘導性出力と二次側回路に生じる寄生容量Cs1とで構成される共振回路は記載されていないという他なく、請求人の上記主張は採用できない。

(4)イ号製品の構成eが本件特許発明の構成要件Eを充足するかについて
イ号製品の構成eにおける「CIUH8D45回路」は、そのトランスT1の出力がLCDパネルに搭載された放電管DT1に接続される回路を構成したものであるので、本件特許発明の「放電管用インバーター回路」に相当するから、イ号製品の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

第5 むすび
上記「第4 (6)」で述べたように、イ号製品の構成は本件特許発明の構成要件Eは充足するものの、本件特許発明の構成要件A?Dを充足していない。
したがって、イ号製品の構成は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2016-12-22 
出願番号 特願平5-237342
審決分類 P 1 2・ - ZB (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 功  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
中川 真一
登録日 1998-01-09 
登録番号 特許第2733817号(P2733817)
発明の名称 放電管用インバーター回路  
代理人 金子 宏  
代理人 アイアット国際特許業務法人  

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