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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G |
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管理番号 | 1323859 |
審判番号 | 不服2015-3682 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-26 |
確定日 | 2017-01-10 |
事件の表示 | 特願2012-502639「塩素の少ないポリビフェニルスルホン-ポリマーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日国際公開、WO2010/112508、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-522856〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年3月30日(パリ条約に基づく優先権主張 2009年4月3日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年12月2日に特許協力条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正に係る補正書の翻訳文が提出され、平成25年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月30日付けで拒絶査定がされ、平成27年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?17に係る発明は、平成26年4月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1、請求項13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明13」という。)は、次のとおりである。 「 【請求項1】 工程(a)による、少なくとも1の芳香族ジヒドロキシ化合物からなる成分(a1)と(a2)4,4′-ジクロロジフェニルスルホンとの反応を含み、その際、この成分(a1)は4,4′-ジヒドロキシビフェニルを含み、かつ、この反応は成分(a1)のモル過剰でもってN-メチルピロリドンを含む溶媒中で実施され、その際、成分(a2)に対する成分(a1)のモル比が1.005?1.08であり、変換率(U)が少なくとも95%である、ポリビフェニルスルホン-ポリマーの製造方法。 【請求項13】 800ppm未満の有機的に結合した塩素の含有量を有するポリビフェニルスルホン-ポリマー。」 第3 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由の理由1の概要は、請求項1、請求項13に係る発明は、引用文献1(特開平3-95220号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものを含むものである。 第4 当審の判断 1.刊行物 刊行物:特開平3-95220号公報(平成25年12月18日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献1) 2.刊行物の記載事項 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-95220号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示ア」?「摘示エ」という。)が記載されている。なお、以下において、丸付きの1、丸付きの2の文字をそれぞれ「1」、「2」と記す。 ア 「有機極性溶媒中で、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン、二価フェノール化合物および無水アルカリ金属化合物、または、4,4′-ジクロルジフェニルスルホンおよび二価フェノールのアルカリ金属二塩を加熱、攪拌してポリエーテルスルホンを製造する際に、 「1」ポリエーテルスルホンを含有している80?100℃の反応溶液の粘度が1?100CPに達するまで加熱、攪拌して重縮合反応を行った後、濾過あるいは遠心分離してアルカリ金属塩化物を分離する第1工程と、 「2」上記工程で得られた濾過液に無水アルカリ金属化合物を添加し、再度、加熱、攪拌して重縮合反応を続ける第2工程と、 からなることを特徴とする高分子量のポリエーテルスルホンの製造方法。」(特許請求の範囲) イ 「従って、第1工程では、粘度が急激に増加する前に、比較的粘性が小さい80?100℃で粘度1?100CP、好ましくは1?70CPの反応溶液を濾過あるいは遠心分離によって、反応溶液中の無機固体を短時間で簡単に分離する。この時点での4,4′-ジクロルジフェニルスルホンの反応率がほぼ100%であるように、あらかじめ決めた必要量の有機極性溶媒を反応開始時に使用する。」(第3頁左上欄第20行?右上欄第8行) ウ 「実施例1?5 表1に示されているような添加量で、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、共沸脱水用トルエン、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)、ハイドロキノン(HQ)、4,4′-ビフェノール(BP)、および無水炭酸カリウムを使用して、重合温度約180℃、1時間攪拌を続け、ポリエーテルスルホン反応溶液を調製した。得られた反応溶液の80℃における粘度(CP)を第1表に示す。 次に、ポリエーテルスルホン反応溶液を、80℃に保たれた圧濾過装置使用して、3kg/cm^(2)、約30分間で濾過した。濾過液に無水炭酸カリウムを初期仕込み量の1/100添加し、再度、約180℃、3時間攪拌を続け、その後、108?143℃で222gのクロロメタンを40分間吹き込んだ。 反応後、メタノール60lと水30lの混合液中に、上記反応溶液を注ぎ、攪拌しながらポリエーテルスルホンを析出させた。析出固体を水洗し、90℃で減圧乾燥してポリエーテルスルホンの粉末を得た。得られたポリエーテルスルホンの還元粘度η_(sp/c)(NMP,0.5g/dl,30℃)を第1表に示す。」(第3頁右下欄第6行?第4頁左上欄第6行) エ 第1表として、以下の表が記載されている。 3.引用文献に記載された発明 引用文献には、摘示ア?エ、特に摘示アの記載と、摘示ウ、エにおける実施例5の記載とから、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認める。 「溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)62.9l中で、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)14987g、4,4′-ビフェノール(BP)10000gおよび無水炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))8165gを加熱、攪拌してポリエーテルスルホンを製造する際に、 ポリエーテルスルホンを含有している80?100℃の反応溶液の粘度が1?100CPに達するまで加熱、攪拌して重縮合反応を行った後、濾過あるいは遠心分離してアルカリ金属塩化物を分離する第1工程と、 上記工程で得られた濾過液に無水炭酸カリウムを添加し、再度、加熱、攪拌して重縮合反応を続ける第2工程と、 からなる、還元粘度η_(sp/c)(NMP,0.5g/dl,30℃)が0.54である高分子量のポリエーテルスルホンの製造方法。」 4.本願発明と引用発明との対比・判断 (1)本願発明1について 本願発明1と引用発明Aとを対比する。 引用発明Aにおける「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」、「4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)」、「4,4′-ビフェノール(BP)」は、それぞれ、本願発明1における「N-メチルピロリドン」、「成分(a2)」である「4,4′-ジクロロジフェニルスルホン」、「成分(a1)」である「4,4′-ジヒドロキシビフェニル」に相当する。また、引用発明Aにおいて4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)と4,4′-ビフェノール(BP)から製造される「ポリエーテルスルホン」は、本願発明1において4,4′-ジクロロジフェニルスルホンと4,4′-ジヒドロキシビフェニルから製造される「ポリビフェニルスルホン-ポリマー」に相当する。 また、14987gの4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)(分子量:287)に対する、10000gの4,4′-ビフェノール(BP)(分子量:186)のモル比は1.03であるから、引用発明Aにおける4,4′-ビフェノール(BP)の比率は本願発明1にいう「モル過剰」、「モル比が1.005?1.08」であるといえる。 さらに、引用発明Aにおけるポリエーテルスルホンの製造方法は、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)と4,4′-ビフェノール(BP)を重縮合反応させており、本願発明1にいう「工程(a)による、少なくとも1の芳香族ジヒドロキシ化合物からなる成分(a1)と(a2)4,4′-ジクロロジフェニルスルホンとの反応を含」むものであるといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明Aとは、 「工程(a)による、少なくとも1の芳香族ジヒドロキシ化合物からなる成分(a1)と(a2)4,4′-ジクロロジフェニルスルホンとの反応を含み、その際、この成分(a1)は4,4′-ジヒドロキシビフェニルを含み、かつ、この反応は成分(a1)のモル過剰でもってN-メチルピロリドンを含む溶媒中で実施され、その際、成分(a2)に対する成分(a1)のモル比が1.005?1.08である、ポリビフェニルスルホン-ポリマーの製造方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点1> 本願発明1においては「変換率(U)が少なくとも95%である」と特定されているのに対して、引用発明Aにおいてはこのような特定がなされていない点。 相違点1について検討する。 引用文献には、第1工程で反応溶液中の無機固体を分離する際、4,4′-ジクロルジフェニルスルホンの反応率がほぼ100%であるようにする旨記載されており(摘示イ)、引用発明Aにおいて第2工程で重縮合反応を続けると、4,4′-ジクロルジフェニルスルホンの反応はほぼ100%からさらに完全に進行すると認められる。ここで変換率(U)に関して、出願当初明細書には「変換率Uとは本発明の範囲内では、反応した反応基(すなわち、ヒドロキシ-及び塩素基)のモル割合が理解される。」との記載があり、審判請求書で「95%の変換率(U)は、反応混合物中に5%の反応基のみが存在することを意味するものであります。」とする。そうしてみると、引用発明Aで4,4′-ジクロルジフェニルスルホンの反応が進めば、混合物中の未反応基が減少することは明らかであるから、引用発明Aで4,4′-ジクロルジフェニルスルホンの反応が100%近くまで進んだ状態の変換率(U)の数値は少なくとも95%となるものと認められる。 この点に関し、請求人は審判請求書において、「引用文献1に記載の4,4′-ジクロロジフェニルスルホンの反応率は、本願請求項1に記載の少なくとも95%の変換率(U)とは著しく異なります」として、「二量体形成の間に1つのヒドロキシ基は1つの塩素基と反応するため、二量体形成後の反応混合物は、重縮合開始時の反応混合物中に存在していた反応基のなお50%を二量体形成後に含みます。したがって、4,4′-ジクロロジフェニルスルホンの反応率が約100%であった場合でも、変換率(U)はなお50%に過ぎません。変換率(U)を増加させるためには、二量体は相互に反応して、三量体及びオリゴマーを形成する必要があります。」と主張している。 しかしながら、請求人の主張は、引用発明Aにおける第1工程について言及するに留まるものであって、引き続く第2工程においてさらに重縮合反応を続けることによって、還元粘度η_(sp/c)(NMP,0.5g/dl,30℃)が0.54という高分子量のポリエーテルスルホンを製造するものであるから、引用発明Aにおいて、4,4′-ジクロロジフェニルスルホンの反応が二量体形成で留まるはずはなく、変換率(U)が50%で止まるものとは認められない。また、請求人の主張によれば、変換率(U)が少なくとも95%であるとは、各々10分子以上の4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)及び4,4′-ビフェノール(BP)が重縮合反応すれば満たされることになるが、当該高分子量のポリエーテルスルホンを製造する引用発明Aにおいて、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)及び4,4′-ビフェノール(BP)は各々10分子以上が重縮合反応しているものと認められる。 したがって、変換率(U)に関する請求人の主張を参酌しても、引用発明Aにおいて変換率(U)の数値は少なくとも95%となるものと認められる。 そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。 よって、本願発明1は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本願発明13について 引用文献には、製造方法である引用発明Aの方法で製造されるポリエーテルスルホンの物としての次の発明(以下、「引用発明B」という。)も記載されていると認められる。 「溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)62.9l中で、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)14987g、4,4′-ビフェノール(BP)10000gおよび無水炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))8165gを加熱、攪拌してポリエーテルスルホンを製造する際に、 ポリエーテルスルホンを含有している80?100℃の反応溶液の粘度が1?100CPに達するまで加熱、攪拌して重縮合反応を行った後、濾過あるいは遠心分離してアルカリ金属塩化物を分離する第1工程と、 上記工程で得られた濾過液に無水炭酸カリウムを添加し、再度、加熱、攪拌して重縮合反応を続ける第2工程と、 から製造される、還元粘度η_(sp/c)(NMP,0.5g/dl,30℃)が0.54である高分子量のポリエーテルスルホン。」 そこで、本願発明13と引用発明Bとを対比する。 上記第4 4.(1)においてすでに検討したように、引用発明Bにおける「ポリエーテルスルホン」は、本願発明13における「ポリビフェニルスルホン-ポリマー」に相当する。 そうすると、本願発明13と引用発明Bとは、 「ポリビフェニルスルホン-ポリマー。」 の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点2> 本願発明13においては「800ppm未満の有機的に結合した塩素の含有量を有する」と特定されているのに対して、引用発明Bにおいてはこのような特定がなされていない点。 相違点2について検討する。 引用発明Bにおけるポリエーテルスルホンは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で、4,4′-ジクロルジフェニルスルホン(DPS)14987gと4,4′-ビフェノール(BP)10000gを重縮合反応して製造されている。一方、本願明細書には、「過剰量の成分(a1)の使用は、特に高い変換率でポリマーに結合した塩素の含有量を減少させることに寄与する。」(【0015】)、「意外なことに、溶媒としてN-メチルピロリドンを含むようなものが使用される場合に、ポリマーに結合した塩素の特に低い含有量が見出されることが見出された。溶媒としてN-メチルピロリドンのみが特にとりわけ好ましい。」との記載がある(【0017】)。してみると、引用発明Bにおけるポリエーテルスルホンは、過剰量の4,4′-ビフェノール(BP)、及び溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用するという、ポリマーに結合した塩素の含有量を減少させる条件で製造されているから、引用発明Bでの有機的に結合した塩素の含有量も、本願発明13と同様、800ppm未満であるとすべきである。 そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。 よって、本願発明13は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1、13、すなわち平成26年4月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、13に係る発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-10 |
結審通知日 | 2016-08-15 |
審決日 | 2016-08-26 |
出願番号 | 特願2012-502639(P2012-502639) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 阪野 誠司、佐藤 のぞみ |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
西山 義之 守安 智 |
発明の名称 | 塩素の少ないポリビフェニルスルホン-ポリマーの製造方法 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |