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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1323862
審判番号 不服2015-14153  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-28 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2012-531603号「冬用空気入りタイヤ用トレッド」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日国際公開、WO2012/029125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年8月31日を国際出願日とする出願であって、平成26年6月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月2日に意見書が提出され、平成27年3月30日付けで拒絶査定がされ、平成27年7月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成28年1月13日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年7月28日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年7月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年7月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「タイヤ周方向に延びる少なくとも一本の周方向溝と、タイヤ横方向に延びる複数の横方向溝と、これらの周方向溝及び横方向溝によって区切られた複数のブロックと、を有する冬用空気入りタイヤ用トレッドであって、
前記横方向溝により形成される周方向エッジと、
前記周方向エッジに対しほぼ平行に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを有し、その底部に拡幅部を有する少なくとも1つの細い切れ込みと、
ブロックの接地面に開口し、タイヤ内径方向に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを有し、少なくとも二つの小穴からなる少なくとも1つの一連の小穴と、がそれぞれ形成された周方向に並ぶブロックを有し、
前記少なくとも1つの一連の小穴は、前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成されていることを特徴とする冬用空気入りタイヤ用トレッド。」

(補正後の請求項1)
「タイヤ周方向に延びる少なくとも一本の周方向溝と、タイヤ横方向に延びる複数の横方向溝と、これらの周方向溝及び横方向溝によって区切られた複数のブロックと、を有する冬用空気入りタイヤ用トレッドであって、
前記横方向溝により形成される周方向エッジと、
前記周方向エッジに対しほぼ平行に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを有し、その底部に拡幅部を有する少なくとも1つの細い切れ込みと、
ブロックの接地面に開口し、タイヤ内径方向に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを有し、少なくとも二つの小穴からなる少なくとも1つの一連の小穴と、がそれぞれ形成された周方向に並ぶブロックを有し、
前記少なくとも1つの一連の小穴は、前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成され、
前記少なくとも1つの一連の小穴が間に形成された前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みとの間隔が8.0mm?14.0mmであり、前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の直径が1.0mm?3.0mmであり、前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の隣接する小穴の間隔が3.0mm?6.0mmであることを特徴とする冬用空気入りタイヤ用トレッド。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
上記補正において、「前記少なくとも1つの一連の小穴が間に形成された前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みとの間隔が8.0mm?14.0mmであり、」という事項は、補正前の特許請求の範囲における「請求項1又は請求項2」を引用する「請求項3」に記載された事項であり、「前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の直径が1.0mm?3.0mmであり、」という事項は、同「請求項1乃至3の何れか1項」を引用する「請求項4」に記載された事項であり、「前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の隣接する小穴の間隔が3.0mm?6.0mmである」という事項は、同「請求項1乃至4の何れか1項」を引用する「請求項5」に記載された事項である。
以上のことから、本件補正は、補正前の請求項5に係る発明から、請求項1、3、4を直列に引用する場合以外の選択的事項を削除したものといえるので、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として示され、本願の国際出願日前に頒布された特開2006-7796号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)

a 「【請求項1】
トレッド部に多数個のブロック陸部を区画形成するとともに、該ブロック陸部に、さらに小区分する複数本のサイプを配設することによって、前記ブロック陸部を複数個の小陸部に細分化してなる空気入りタイヤにおいて、
前記小陸部の少なくとも1個は、その区分幅中央領域に複数個の小穴を有することを特徴とする空気入りタイヤ。」

b 「【0002】
従来の冬用タイヤでは、・・・」

c 「【0016】
図1に示すタイヤは、トレッド部1に多数個のブロック陸部2を区画形成するとともに、ブロック陸部2に、さらに小区分する複数本のサイプ3を配設することによって、ブロック陸部2を複数個の小陸部4に細分化してなる。」

d 「【0021】
この発明では、図6(b)に示すように、小陸部4の区分幅中央領域cの圧縮剛性を低減するため、小陸部4の区分幅中央領域cに複数の小穴5を設けている。これにより、小陸部4の区分幅中央領域cの圧縮剛性のみを低下させつつ、エッジ部分6での圧縮剛性を増加させることができる。小穴5はサイプ3と比較して、小陸部4の倒れ込み方向での曲げ剛性に与える影響を最小限にできるため、過度の倒れ込み変形による接地面積の減少を防ぐことができる。また、小穴5が接地域内の水膜を吸い上げるため、排水効果も向上させることができる。このようにして、この発明のタイヤのブロック陸部2は、エッジ圧を増加させてエッジ効果を高めるとともに、接地面積の減少を抑え、排水効果を高めることができる結果、従来のタイヤに比べて氷上性能を格段に向上させることができるのである。」

e 「【0032】
実施例1?3のタイヤは、タイヤサイズが195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤであり、それぞれ図2(実施例1)、図3(実施例2)及び図4(実施例3)に示す形状のブロック陸部を、図1に示すように配置してなる。このブロック陸部は、タイヤ周方向長さが40mm、タイヤ幅方向長さが30mm、高さが9mmであり、タイヤ幅方向に沿って延びる深さ7.5mmのサイプを8mm間隔で4本配設してなる。実施例1及び3のタイヤの各小陸部には、直径1mm、深さ6mmの小穴を、区分幅中心位置を結んだ仮想線上に等間隔で6個配置した。・・・」

(イ)刊行物1に記載された発明
a 【図1】の記載及びタイヤの技術常識からみて、「タイヤ周方向に延びる周方向溝」といえるものが三本あること、「タイヤ横方向に伸びる横方向溝」といえるものが複数あることが看取でき、そして、「ブロック陸部2」は、これら周方向溝及び横方向溝によって区切られていることが看取できる。また、「ブロック陸部2」は、周方向に並んでいることも看取できる。

b そして、「ブロック陸部2」における複数の「エッジ部分6」のうち、横方向溝に接する2箇所の「エッジ部分6」は、横方向溝により形成されるものといえる。(下記「参考図」参照。刊行物1の【図2】に「横方向溝により形成されるエッジ部分6」との説明文と引出線を当審で付加した。)

[参考図]



c また、「小穴5」は、「ブロック陸部2」の接地面に開口し、タイヤ内径方向に延びているといえる。

d 【図1】、【図2】の記載及び上記(ア)dから、「ブロック陸部2」には、6個の小穴5からなる5つの一連の小穴が形成されているといえる。

e 上記(ア)及び(イ)a?dから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「タイヤ周方向に延びる三本の周方向溝と、タイヤ横方向に延びる複数の横方向溝と、これらの周方向溝及び横方向溝によって区切られた多数個のブロック陸部2と、を有する冬用空気入りタイヤのトレッド部1であって、
前記横方向溝により形成されるエッジ部分6と、
タイヤ幅方向に沿って延びると共に前記ブロック陸部2の高さが9mmに対し7.5mmの深さを有する4本のサイプ3と、
ブロックの接地面に開口し、タイヤ内径方向に延びると共に6mmの深さを有し、5個全ての小陸部4に設けた6個の小穴5からなる5つの一連の小穴と、がそれぞれ形成された周方向に並ぶブロック陸部2を有し、
前記6個の小穴5からなる5つの一連の小穴は、各小陸部4に形成され、且つ、各小陸部4の区分幅中心位置を結んだ仮想線上に形成され、
前記6個の小穴5からなる5つの一連の小穴を構成する小穴5の直径が1mmであり、前記6個の小穴5からなる5つの一連の小穴を構成する小穴5の隣接する小穴5の間隔を等間隔に配置した冬用空気入りタイヤのトレッド部1。」

(ウ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献5として示され、本願の国際出願日前に頒布された特開平9-94828号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a 「【0023】
図1に示されるように、スタッドレス空気入りタイヤ10は、左右一対のサイドウォール(図示省略)に跨がる円筒状のトレッド12を備えている。トレッド12には、タイヤ周方向に沿って形成された複数の主溝14と、タイヤ幅方向に沿って形成された複数のラグ溝16と、が形成されており、これにより複数のブロック18が区画形成されている。これらのブロック18には、タイヤ幅方向に沿って延びる横サイプ20が形成されている。」

b 「【0025】
図3には、横サイプ20の断面形状が示されている。この図に示されるように、横サイプ20は、細長い矩形断面形状とされたサイプ基部20Aと、このサイプ基部20Aに連続して形成されフラスコ断面形状とされたサイプ底部20Bと、によって構成されている」

c 「【0032】
さらに、ブレード28にフラスコ部28Bを設けたことにより、成形後のブロック18の横サイプ20にもフラスコ断面形状のサイプ底部20Bが形成されるので、スタッドレス空気入りタイヤ10の氷上性能を良好に維持することができる。すなわち、横サイプ20に複数のサイプ折れ曲がり部22を形成した場合に
は、横サイプ20のエッジ部が接触して排水性が低下する。このため、氷雪路面上での摩擦係数μが低下し、氷上性能が低下する可能性がある。しかし、本実施形態では、横サイプ20のサイプ底部20Bの断面形状をフラスコ形状としたので、サイプ底部20Bからの排水性を向上させることができる。このため、氷雪路面上での摩擦係数μを高めることができ、氷上性能を良好に維持することができる。」

d 「【0034】
なお、本実施形態によれば、横サイプ20のサイプ底部20Bの断面形状をフラスコ形状としたことにより、サイプ底部20Bに作用する応力を分散させることができる。このため、本実施形態によれば、サイプ底部20Bに亀裂が発生するのを防止することもできる。」

イ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明との対比
a 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「周方向溝」は本願補正発明の「周方向溝」に相当し、以下同様に、「横方向溝」は「横方向溝」に、「ブロック陸部2」は「ブロック」に、「冬用空気入りタイヤのトレッド部1」は「冬用空気入りタイヤ用トレッド」に、「横方向溝により形成されるエッジ部分6」は「周方向エッジ」に、「サイプ3」は「細い切れ込み」に相当する。

b 引用発明の「三本の周方向溝」という事項は、本願補正発明の「少なくとも一本の周方向溝」という事項を充足し、以下同様に、「多数個のブロック陸部2」という事項は、後者の「複数のブロック」という事項を、「タイヤ幅方向に沿って延びる」という事項は、「周方向エッジに対しほぼ平行に延びる」という事項を、「4本のサイプ3」という事項は、「少なくとも1つの細い切れ込み」という事項を、「6個の小穴5からなる5つの一連の小穴」という事項は、「少なくとも二つの小穴からなる少なくとも1つの一連の小穴」という事項を充足するといえる。

c 上記ア(ア)e及び【図2】の記載より、「ブロック陸部2」は直方体として形成されているといえるので、引用発明の「ブロック陸部2の高さ」は、相対的にみれば「周方向溝の深さ」に相当するといえる。したがって、引用発明の「サイプ3」が「前記ブロック陸部2の高さが9mmに対し7.5mmの深さを有する」という事項は、本願補正発明の「細い切れ込み」が「前記周方向溝の深さ以下の深さを有し」という事項を充足するといえる。
同様に、引用発明の「一連の小穴」が「6mmの深さを有し」という事項は、本願補正発明の「一連の小穴」が「前記周方向溝の深さ以下の深さを有し」という事項を充足するといえる。

d 引用発明の「前記6個の小穴5からなる5つの一連の小穴は、各小陸部4に形成され、且つ、各小陸部4の区分幅中心位置を結んだ仮想線上に形成され」という事項と、本願補正発明の「前記少なくとも1つの一連の小穴は、前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成され」という事項とは、「前記少なくとも1つの一連の小穴は、前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成されるものを含み」という限度で一致するといえる。

e そうすると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「タイヤ周方向に延びる少なくとも一本の周方向溝と、タイヤ横方向に延びる複数の横方向溝と、これらの周方向溝及び横方向溝によって区切られた複数のブロックと、を有する冬用空気入りタイヤ用トレッドであって、
前記横方向溝により形成される周方向エッジと、
前記周方向エッジに対しほぼ平行に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを少なくとも1つの細い切れ込みと、
ブロックの接地面に開口し、タイヤ内径方向に延びると共に前記周方向溝の深さ以下の深さを有し、少なくとも二つの小穴からなる少なくとも1つの一連の小穴と、がそれぞれ形成された周方向に並ぶブロックを有し、
前記少なくとも1つの一連の小穴は、前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成されるものを含む冬用空気入りタイヤ用トレッド。」

[相違点1]
「少なくとも1つの細い切れ込み」に関し、本願補正発明が「その底部に拡幅部を有する」ものであるのに対し、引用発明では拡幅部に相当する事項を有していない点。

[相違点2]
「少なくとも1つの一連の小穴」に関し、本願補正発明が「前記周方向エッジの所定の近傍領域に形成され、且つ、前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みの中間部に形成されている」のに対し、引用発明では「各小陸部4に形成され、且つ、各小陸部4の区分幅中心位置を結んだ仮想線上に形成され」ている点。

[相違点3]
「周方向エッジ」と「少なくとも1つの細い切れ込み」の「間隔」に関し、本願補正発明が「前記少なくとも1つの一連の小穴が間に形成された前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みとの間隔が8.0mm?14.0mmであり」というものであるのに対し、引用発明では当該間隔が明らかでない点。

[相違点4]
「小穴の直径」に関し、本願補正発明が「1.0mm?3.0mm」であるのに対し、引用発明では「1mm」である点。

[相違点5]
「小穴の隣接する間隔」に関し、本願補正発明が「3.0mm?6.0mm」であるのに対し、引用発明では「小穴5の間隔を等間隔に配置した」ものであるが具体的な数値が明らかでない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)[相違点1]について
上記ア(ウ)より、刊行物2には、「スタッドレス空気入りタイヤ10のトレッド12(冬用空気入りタイヤ用トレッド)において、横サイプ20(細い切れ込み)のサイプ底部20Bをフラスコ形状(拡幅部)とした」技術的事項が記載されているといえる。そして、サイプ底部20Bをフラスコ形状としたことの目的は、サイプ底部20Bからの排水性向上と、サイプ底部20Bに作用する応力を分散させ亀裂が発生することを防止するためのものといえる。
引用発明においても、サイプ3の排水性向上や亀裂防止を図った方が望ましいのは自明の課題であって、引用発明の「サイプ3」(細い切れ込み)に対し、刊行物2に記載の技術的事項を適用することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(イ)[相違点2]について
本願の請求項1の記載において、「少なくとも1つの一連の小穴」は「周方向エッジの所定の近傍領域」のみに形成する限定はないことから、相違点2は、引用発明との実質的な相違点とはいえない。
また、本願の明細書に記載される「第1実施形態」(【図1】?【図3】に係る例)、「第2実施形態」(【図4】に係る例)、「第3実施形態」(【図5】に係る例)は、「一連の小穴6、6a、6b」が「周方向エッジの所定の近傍領域」にのみ形成されていることから、「少なくとも1つの一連の小穴」は「周方向エッジの所定の近傍領域」のみに形成することを意図していると解釈した場合について以下検討する。
刊行物1の段落【0017】には、「小陸部4の少なくとも1個(図1及び2では5個全て)は、その区分幅中央領域cに複数個(図1及び2では6個)の小穴5を有する」との記載があり、当該記載から「複数個の小穴5」は必ずしも全ての「小陸部4」に設けなくてもよいことが理解できる。そして、その場合、「複数個の小穴5」はブロック陸部2のエッジ圧を高めてエッジ効果を向上させることを目的として設けられるものであるから、エッジ効果を奏する上で重要となる、横方向溝に接する「小陸部4」に設けるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
したがって、引用発明も、相違点2に係る本願補正発明の事項を有しているか、あるいは、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(ウ)[相違点3]について
上記ア(ア)eに「このブロック陸部は、タイヤ周方向長さが40mm」、「サイプを8mm間隔で4本配設してなる」との記載がある。このことから、「横方向溝により形成されるエッジ部分6」と当該エッジ部分6に隣接する「サイプ3」との間隔を2箇所分足した値は、(40mm-8mm×3)=16mmということになる。ここで、刊行物1には「横方向溝により形成されるエッジ部分6」と当該エッジ部分6に隣接する「サイプ3」の間隔を、その2箇所で変えることの記載はなく、図面を参酌しても特にそれらの長さを変えて記載はされていないことから、それらは同じ間隔を有していると解するのが自然である。
してみると、引用発明における「横方向溝により形成されるエッジ部分6」と当該エッジ部分6に隣接する「サイプ3」との間隔は、本願補正発明の「前記少なくとも1つの一連の小穴が間に形成された前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みとの間隔」に相当し、当該間隔は(16mm÷2)=8mmということになり、本願補正発明の「8.0mm?14.0mm」という数値範囲を充足するものになるので、相違点3は、引用発明との実質的な相違点とはいえない。
仮に、刊行物1の記載からでは、上記の「同じ間隔」とまでは解せないとしても、自動車のタイヤであれば前進後進により回転方向が変わるものであり、また、刊行物1には装着に際し回転方向の指定することの記載はないことからも、いずれに回転する場合にも同様の特性を発揮できるように、「同じ間隔」の「8mm」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、上限値を14.0mmとしたことについても、本願の明細書等を参酌しても特段その値に臨界的意義があるものとも認められず、所望とする小陸部4の剛性等の条件に応じて当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明も、相違点3に係る本願補正発明の事項を有しているか、あるいは、引用発明において、相違点3に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(エ)[相違点4]について
引用発明の「1mm」は、本願補正発明の「1.0mm?3.0mm」という数値範囲を充足するものであるので、相違点4は、引用発明との実質的な相違点とはいえない。
また、上限値を「3.0mm」としたことについても、本願の明細書等を参酌しても特段その値に臨界的意義があるものとも認められず、直径が3.0mmの場合、開口面積は約7.07mm^(2)であるから、刊行物1の段落【0030】に記載される好ましい開口面積の範囲としての「0.2?10mm^(2)」、より好ましい範囲としての「0.7?5mm^(2)」からみて、格別のこととはいえず、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明も、相違点4に係る本願補正発明の事項を有しているか、あるいは、引用発明において、相違点4に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(オ)[相違点5]について
引用発明は、「小穴5の間隔を等間隔に配置した」ものであるが、ブロック陸部2の幅方向の端部とそれに隣接する小穴5との間隔も含めて等間隔に配置したのか、あるいは、ブロック陸部2の幅方向の端部とそれに隣接する小穴5との間隔は、小穴5同士の間隔とは別の値としているのか明らかでない。
しかしながら、刊行物1の段落【0026】には「より好適には、小穴5の配置間隔を3?6mmとする」との記載があり、例えば、ブロック陸部2の幅方向の端部とそれに隣接する小穴5との間隔も含めて等間隔に配置したものであっても、あるいは、ブロック陸部2の幅方向の端部とそれに隣接する小穴5との間隔は、小穴5同士の間隔とは別の値としていたものでも、上記数値範囲の上限値付近を除いたものであれば、その数値範囲内でとり得るものと解され、【図2】に係る「実施例1」において、あえて好適な数値範囲外とすることの合理的な理由は見当たらない。
したがって、相違点5は、引用発明との実質的な相違点とはいえない。
また、下限値を3mm、上限値を6mmとしたことについて検討しても、本願の明細書等を参酌しても特段その値に臨界的意義があるものとも認められず、ブロックの大きさや所望とする剛性等の条件に応じて適宜決定し得たことであり、引用発明においてそのような値とすることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明も、相違点5に係る本願補正発明の事項を有しているか、あるいは、引用発明において、相違点5に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(カ)作用効果についての検討
引用発明は、小穴5を設けたことにより、刊行物1の段落【0021】に記載の「小穴5はサイプ3と比較して、小陸部4の倒れ込み方向での曲げ剛性に与える影響を最小限にできるため、過度の倒れ込み変形による接地面積の減少を防ぐことができる」及び「小穴5が接地域内の水膜を吸い上げるため、排水効果も向上させることができる」という作用効果を奏するものであるが、これらは本願明細書の段落【0044】に記載される「一連の小穴を形成する場合、細い切れ込みを形成する場合よりも、ブロック剛性の低下を抑制して、ブロック全体として高いブロック剛性を確保することができる」ということ、及び、段落【0046】に記載される「その内部に、ブロックと氷の間に存在する水膜を取り込み、ブロックと氷との直接接触を促す効果を発揮し」ということと格別相違するものではない。
また、刊行物2に記載の技術的事項において、「サイプ底部20」を「フラスコ形状」としたことにより、刊行物2の段落【0034】に記載の「サイプ底部20Bに作用する応力を分散させることができる。このため、本実施形態によれば、サイプ底部20Bに亀裂が発生するのを防止することもできる」という作用効果を奏するものであるが、これは本願明細書の段落【0071】に記載の「応力集中の抑制」というものと格別相違するものではない。なお、刊行物2に直接的な記載はないものの、「放熱」についても、そのような作用効果を奏することは、構成上自明といえる。
そして、引用発明の「サイプ3」(細い切れ込み)に刊行物2に記載の技術的事項を適用した場合、局所的にブロック剛性が低下するものとなるので、それにより「小穴5」(小穴)の吸い上げ効率やエッジ圧力が高まることは、当業者であればその構成から予測可能なことといえる。

(キ)審判請求書及び上申書における主張の検討
請求人は、審判請求書において、「本発明者らは、上記のように、小穴を設ける目的とサイプの底部に拡幅部を設ける目的とが背反するにも関わらず、つまり阻害要因が存在するにも関わらず、あえて、小穴での氷上性能を向上させるために、新請求項1に係る発明のように、細い切れ込みの底部に拡幅部を形成することにより、拡幅部の周辺の剛性を局部的に低下させ、その局部的にブロック剛性が低下された範囲に、一連の小穴を配置して、一連の小穴に働くエッジ圧力を高め、ブロックと氷との直接接触を促進して氷上性能を向上させるようにしたのである。」と主張し、上申書においても同様趣旨の主張をしている。
しかしながら、刊行物1において、「小穴5」を設ける理由は、段落【0002】、【0004】に記載されるように、サイプの配設本数を増やすととした場合ブロック剛性を低下させてしまい接地面積の減少とドライ路面でのハンドリング性能や摩耗性能の低下を招くという従来技術の問題点に鑑み、それら問題点を防止することのためである。そして、サイプではなく「小穴5」を設けることにより、段落【0021】に記載されるような、小陸部4の倒れ込み方向での曲げ剛性に与える影響を最小限にできるという作用効果を得ているものである。
ここで、氷路面で用いる冬用空気入りタイヤであるなら、ブロック剛性は高ければ高いほど望ましいというものではなく、適度な剛性が求められるのは自明のことであり、引用発明も氷路面とドライ路面の走行性能の両立を図るため、適度なブロック剛性を得るものといえるから、「小穴を設ける目的」と「サイプの底部に拡幅部を設ける目的」は、「阻害要因」になるという程のものではない。
したがって、ブロック剛性の過度の低下とならない範囲で、引用発明に刊行物2に記載の技術的事項を適用して、サイプ3の排水性向上や亀裂防止を図ることは、当業者であれば容易に想到し得たことであるので、上記主張は採用できない。

エ まとめ
以上検討したとおり、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりである。

第4 刊行物とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項は、上記「第2 2(2)ア(ア)、(ウ)」に記載したとおりであり、その刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載の技術的事項は、上記「第2 2(2)ア(イ)、ウ(ア)」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「前記少なくとも1つの一連の小穴が間に形成された前記周方向エッジと前記少なくとも1つの細い切れ込みとの間隔が8.0mm?14.0mmであり、前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の直径が1.0mm?3.0mmであり、前記少なくとも1つの一連の小穴を構成する小穴の隣接する小穴の間隔が3.0mm?6.0mmである」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)ウ」で述べたとおり、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-12 
結審通知日 2016-08-15 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2012-531603(P2012-531603)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60C)
P 1 8・ 575- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
島田 信一
発明の名称 冬用空気入りタイヤ用トレッド  
代理人 西島 孝喜  
代理人 松下 満  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 井野 砂里  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  

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