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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1323864
審判番号 不服2015-19504  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-29 
確定日 2017-01-31 
事件の表示 特願2011-173328「画像形成装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日出願公開、特開2013- 37197、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年8月8日に出願された特許出願であって、原審において平成27年1月21日付けで拒絶理由が通知され、同年3月26日に手続補正がされた後、同年7月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。原査定の謄本の送達(発送)日 同年8月4日。)がされ、これに対して、同年10月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されて明細書、及び特許請求の範囲を補正する手続補正がされ、その後、当審において平成28年10月7日付けで拒絶理由が通知され、同年12月9日に手続補正書が提出されて、明細書、及び特許請求の範囲を補正する手続補正がされたものである。

第2 本件出願の発明
本件出願の請求項1、2に係る発明(以下「本願発明1、2」という。)は、平成28年12月9日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
トナー供給ローラおよびクリーニングローラを熱プレス処理する工程を含む画像形成装置の製造方法であって、
前記トナー供給ローラおよびクリーニングローラが、シャフトの外周に、同一配合のポリウレタンフォームよりなる弾性層を有するものとし、
前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記クリーニングローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上20%以下とするとともに、
前記ポリウレタンフォームの前記熱プレス処理前の平均セル径を、モールドを用いた製法の場合は210?270μmの範囲とし、自由発泡を用いた製法の場合は340?520μmの範囲とすることを特徴とする画像形成装置の製造方法。
【請求項2】
トナー供給ローラおよび転写ローラを熱プレス処理する工程を含む画像形成装置の製造方法であって、
前記トナー供給ローラおよび転写ローラが、シャフトの外周に、同一配合のポリウレタンフォームよりなる弾性層を有するものとし、
前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記転写ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上30%以下とするとともに、
前記ポリウレタンフォームの前記熱プレス処理前の平均セル径を、モールドを用いた製法の場合は210?270μmの範囲とし、自由発泡を用いた製法の場合は340?520μmの範囲とすることを特徴とする画像形成装置の製造方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
本特許出願の下記の請求項に係る発明は、次記の通り、日本国内又は外国において、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明又はその出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の電子的技術情報に掲載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。このため、下記の請求項に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・刊行物等一覧
特開2001-281984号公報(引用例1)
特開平11-230157号公報(引用例2)
特開平9-297512号公報(引用例3)
・請求項1-5
・引用文献等 1-3
(請求項1に係る発明について)
出願人は平成27年3月26日付け手続補正書により請求項1について補正を行うとともに、意見書において、『引用例1,2には、ローラが熱プレス処理されていること、および、ポリウレタンフォームの具体的な平均セル径について何らの開示も示唆もなく、また、引用例3においても、ポリウレタンフォームの具体的な平均セル径については何らの開示も示唆もなく、さらに、これら引用例1?3のいずれにおいても、同一配合のポリウレタンフォームに処理を施すことで、異なるローラとして使い分けるとの本願発明の技術思想について何らの開示もされていない』と主張している。

そこで、上記主張について以下検討する。

引用文献1(引用例1)には、軸体の外表面を覆う発泡フォームに同一の材料が使用されたクリーニング部材700と供給ローラ200を有する画像形成装置が記載されている(特に段落【0001】、【0025】を参照されたい。)。
引用文献2(引用例2)には、トナー供給ローラや転写ローラ、クリーニングローラへ用いられるウレタンスポンジロールを発泡成形により形成し、ウレタンスポンジ層の平均セル径を50?800μm程度の範囲において、サイズを適宜選択することが記載されている(特に段落【0001】、【0028】、【0046】-【0048】、【0057】、【0058】を参照されたい。)。
また、引用文献3(引用例3)には、ポリウレタンフォームローラに熱プレス処理を施すことが記載されている(特に段落【0026】を参照されたい。)。
そして、引用文献1及び引用文献2、3は画像形成装置という共通の技術分野に属しているので、引用文献1の画像形成装置に、引用文献2、3の技術を適用することは、当業者において容易である。そして、ウレタンフォームをモールドにより成形することや、自由発泡により成形することは従来周知であり、ポリウレタンフォームの平均セル径が、モールドを用いた製法により得られた場合に210?270μmの範囲であり、自由発泡を用いた製法により得られた場合に340?520μmの範囲とする値に臨界的意義が認められないため、そのような値を用いることは、当業者が必要に応じて適宜設定することであり、設計事項である。
したがって、出願人の上記主張は、受け入れることができない。

(請求項2-5に係る発明について)
・備考
引用例3の段落0026には、ポリウレタンフォームローラの硬度を調整するために熱プレス処理を施すことが、記載されている。
引用例3の段落0016には、ポリウレタンフォームローラの硬度等の観点から、熱プレス処理により圧縮率を適宜変更することが、記載されており、引用例1記載の現像装置、又は、引用例2記載のプリンターにおいて、熱プレス処理における圧縮率をどの程度とするかは、必要に応じて当業者が適宜選択すべきことである。

2.原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項
ア.引用例1
引用例1には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真により画像形成を行う複写機、プリンタ、ファクシミリ等に利用可能な現像装置であって、特に、トナー層規制ブレードへの固着トナーをクリーニングすることが可能な現像装置に関するものである。」
「【0009】
【発明の実施の形態】本発明現像装置に使用されるクリーニング部材の構造としては、例えば、金属製、樹脂製等の軸体の周りに、弾性部材などを嵌着等の手段で設けた構造とすることが好ましい。クリーニング部材の形状は、例えば円筒形状、回転ラセン形状等とすることが好ましい。また、クリーニング部材の外表面は、例えば軸方向に並行の溝を切った形状、ラセン状に溝を切った形状、ブラシを設けた形状、パドルを設けた形状、パッドを設けた形状等とすることができる。クリーニング部材の外表面の材質としては、例えば、ウレタン、シリコン、NBR(ニトリル-ブタジエンゴム)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム)等の発泡フォームとすることが好ましい。外表面にパドルを設けた形状の場合も、上記と同様の材質とすることができる。また、外表面にブラシを設けた形状の場合には、ブラシの材質として、例えば、ナイロン、レーヨン等の化学繊維を使用することが好ましい。さらに、外表面にパッドを設けた形状の場合、パッドの材質としては、例えば、ウレタン、シリコン等の弾性ゴム部材、フェルト等の軟弾性部材を採用することが好ましい。」
「【0025】
【実施例】次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制約されるものではない。
実施例1
図1は、本発明の現像装置の一実施例を示す概略断面図であり、また、図2(a)は、本実施例で使用するクリーニング部材700の形状を示す概略図である。クリーニング部材700は、金属の芯金や樹脂等からなる軸体701の外表面が発泡フォームで被覆された直径12mm程度のスポンジローラであり、非クリーニング動作時には上方に退避している。本実施例では、発泡フォームとして供給ローラ200と同一の材料を使用したが、これに限るものではない。」
また、上記の記載からみて、実質的に「現像装置の製造方法」が示されているといえる。

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「電子写真により画像形成を行う現像装置に使用されるクリーニング部材を、軸体の周りに、弾性部材を嵌着等の手段で設けて外表面が発泡フォームで被覆された円筒形状のスポンジローラとし、
発泡フォームの材質として、ウレタンを用い、
供給ローラにも同一の材料の発泡フォームを使用する、
画像形成を行う現像装置の製造方法。」

イ.<引用例2>
引用例2には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【技術分野】本発明は、ウレタンスポンジロール及びその製造方法に係り、特に複写装置、画像記録装置、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置におけるトナー供給ロール、現像ロール、クリーニングロール、転写ロール等として好適に用いられ得るウレタンスポンジロールと、それを有利に製造し得る方法に関するものである。」
「【0022】すなわち、図3の(a)において、ウレタンスポンジロール32は、回転軸となる芯金34と、その周りに一体的に形成された、独立気泡型の発泡体構造の所定厚さのウレタンスポンジ層36とから構成されている。なお、このような構成のウレタンスポンジロール32は、有利には、芯金34の存在下において、最終ロール形状を与える成形キャビティ内でのウレタンスポンジ原料の発泡成形操作によって得られ、そしてそれによって、所定硬度のウレタンスポンジ層36が、芯金34の周りに、所定厚さにて、一体的に形成されるのである。」
「【0029】そして、このような本発明に従うウレタンスポンジロール32において、ウレタンスポンジ層36を構成する各セル38の平均セル径であるセルサイズ(D)は、開口部40の開口径よりも大きいものであって、一般に10?1000μm程度、好ましくは50?800μm程度とされることとなる。なお、このようなセルサイズの範囲において、ウレタンスポンジロール32の用途に応じて望ましいセルサイズが適宜に決定されるものであり、例えば、トナー供給ロールやクリーニングロールにあっては、好適には100?500μm程度のセル径(D)が採用され、また現像ロールや転写ロールにあっては、50?250μm程度のセル径(D)が採用される。また、かかるウレタンスポンジ層36は、例示の如き各セル38が相互に独立した独立気泡型の構造であっても、また各セル38が相互に連通せる連続気泡型の構造であっても、何等差支えないが、特に、独立気泡型の構造が有利に採用されるのである。」
「【0035】すなわち、かかる手法は、最終ロール形状を与える成形キャビティ内でのウレタンスポンジ原料の発泡成形操作によって、目的とするウレタンスポンジロールを製造するに際して、そのような成形キャビティにおけるロール外周面を形成する型内面に、ウレタンスポンジロール32の凹凸表面構造を与える溝部32に対応した凸条を形成し、且つ表面粗さ:Rzが5?20μmとなるように調整してなると共に、そのような型内面に、シリコーン系若しくは弗素系離型剤からなるコーティング層を設けてなる成形型を用いて、ウレタンスポンジ原料の発泡成形を行なう方法であり、かかる成形型の成形キャビティ内に、芯金34を配置すると共に、ウレタンスポンジ原料を導入して発泡成形せしめることにより、かかる芯金34の周りに、所定のウレタンスポンジ層36を形成せしめる一方、該ウレタンスポンジ層36の表面にスキン層を形成し、更に表層部に位置するセル38、換言すれば表面セルのそれぞれを外部に開口せしめる開口部40を、表面のスキン層を貫通するように形成すると同時に、ウレタンスポンジ層36の外表面に、型内面の軸方向の凸条を転写せしめて、ロール軸方向に直線的に或いは螺旋状に延びる溝部42を形成せしめるようにするのである。」
「【0041】すなわち、図6(a)において、成形型50は、ウレタンスポンジロール32のウレタンスポンジ層36の軸方向長さに略等しい長さのパイプ52と、該パイプ52の両端に取り付けられて、それぞれの端部を形成するキャップ54、54とから構成されており、パイプ52内に芯金34をセットせしめた状態下において、該パイプ52の両端をキャップ54、54にて閉塞すると共に、それらキャップ54、54にて、芯金34を支持せしめることによって、パイプ52内に、目的とするウレタンスポンジロール32の最終ロール形状(外径を与える成形キャビティ:56)が形成されるようになっている。」
「【0043】また、かかる本発明に従うウレタンスポンジロール32の製造に際して、上述の如き成形型50の成形キャビティ56内に導かれて、発泡成形操作によって、所定のウレタンスポンジ層36を与えるウレタンスポンジ原料は、従来と同様な液状のものであって、型内で発泡硬化する、従来から公知の反応性原料(ポリオール成分とポリイソシアネート成分との配合物)の何れもが、特に限定されることなく、適宜に選択使用されることとなる。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「画像形成装置におけるトナー供給ロール、現像ロール、クリーニングロール、転写ロール等として好適に用いられ得るウレタンスポンジロールを有利に製造し得る方法であって、
ウレタンスポンジロール32は、回転軸となる芯金34と、その周りに一体的に形成された、独立気泡型の発泡体構造の所定厚さのウレタンスポンジ層36とから構成されていて、
ウレタンスポンジロール32において、ウレタンスポンジ層36を構成する各セル38の平均セル径であるセルサイズ(D)は、トナー供給ロールやクリーニングロールにあっては、好適には100?500μm程度のセル径(D)が採用され、また現像ロールや転写ロールにあっては、50?250μm程度のセル径(D)が採用され、
成形型50は、ウレタンスポンジロール32のウレタンスポンジ層36の軸方向長さに略等しい長さのパイプ52と、該パイプ52の両端に取り付けられて、それぞれの端部を形成するキャップ54、54とから構成されており、パイプ52内に芯金34をセットせしめた状態下において、該パイプ52の両端をキャップ54、54にて閉塞すると共に、それらキャップ54、54にて、芯金34を支持せしめることによって、パイプ52内に、目的とするウレタンスポンジロール32の最終ロール形状(外径を与える成形キャビティ:56)が形成され、
ウレタンスポンジロール32の製造に際して、成形型50の成形キャビティ56内に液状のウレタンスポンジ原料を導いて、発泡成形操作によって、型内で発泡硬化させる
ウレタンスポンジロールを有利に製造し得る方法。」

ウ.<引用例3>
引用例3には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複写機、プリンター等の電子写真装置又は静電記録装置等における、現像剤搬送ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、現像ローラ、クリーニングローラ、給紙ローラ等のローラ及びその製造方法に関する。」
「【0015】以下、本発明のローラ及びその製造方法について図面を用いて更に詳しく説明する。図1は、本発明のローラの製造方法の一例を示す概略図である。まず、図1(a)はシャフト2の外周に予め弾性層3を有したローラ1を示している。また、必要に応じてシャフト2と弾性層3との図示しない接着層を設けてもよい。さらに、ここでは弾性層3が予めローラ形状にしたものを例示したが、場合によっては発泡体のブロックを切り出した多角形の形状でも良い。
【0016】次に、図1(b)は図1(a)のローラをこのローラの外径よりも小さい内径を有する円筒状部材4に圧入して弾性層を圧縮する工程を示している。・・・また、円筒状部材4の内径は、特に限定されず、目的とするローラの硬度等の観点から、挿入する弾性層をどの程度圧縮するかによって適宜変更し得るものであるが、弾性層の最大厚みを100とした場合、得られたローラにおける弾性層の厚みが50?95%程度になるように設定することが好ましい。さらに、圧入する手段としては、特に限定されず、公知の方法が使用できる。
【0017】次に、図1(c)は図1(b)で円筒状部材4にローラ1を挿入した状態でその外周を加熱する工程を示している。ここで、加熱する方法としては、特に限定されず、公知の方法が使用できる。また、加熱温度としては、特に限定されず、使用する発泡体の材料によって適宜変更し得るが、ウレタンフォームである場合には150?250℃が好ましい。
【0018】最後に、図1(d)は図1(c)での加熱終了後に冷却されて円筒状部材4からローラ1’を取り出す工程を示している。」
「【0025】
【実施例】以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例)長さ250mm、直径6mmのシャフトの外周に、長さ210mm、厚み6mmの弾性層(材料:ポリウレタンフォーム[ポリオール:エステル系]、硬度[アスカ-C硬度]15°、セル数50個/インチ)を有するローラを作成した。
【0026】このローラを長さ250mm、内径15.5mmのパイプ(材料:アルミニウム製)に圧入し、加熱手段として、加熱炉を使用して185℃、30分間加熱し、室温で冷却後に外径が15mmのローラを得た。得られたローラの硬度[アスカ-C硬度]は16°、表面のセル数は150個/インチ、内部のセル数は60個/インチであった。
【0027】次に、このローラを現像供給ローラとしての性能を評価するために、画像形成装置に組み込み実機による評価を行ったところ、2000枚プリント後も現像装置内に発泡体等の異物はなく、十分な現像剤の搬送量を確保していることが確認された。」

上記の記載事項を総合すると、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「電子写真装置又は静電記録装置等における、現像剤搬送ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、現像ローラ、クリーニングローラ、給紙ローラの製造方法であって、
シャフト2の外周に予め弾性層3を有したローラ1をこのローラの外径よりも小さい内径を有する円筒状部材4に圧入して弾性層を圧縮する工程と、
円筒状部材4にローラ1を挿入した状態でその外周を加熱する工程と、
加熱終了後に冷却されて円筒状部材4からローラ1’を取り出す工程と、を含み、
円筒状部材4の内径は、弾性層の最大厚みを100とした場合、得られたローラにおける弾性層の厚みが50?95%程度になるように設定し、
具体的な一例として、長さ250mm、直径6mmのシャフトの外周に、長さ210mm、厚み6mmの弾性層(材料:ポリウレタンフォーム)を有するローラを作成し、このローラを長さ250mm、内径15.5mmのパイプ(材料:アルミニウム製)に圧入して、185℃、30分間加熱し、室温で冷却後に外径が15mmの、現像供給ローラを得る、
電子写真装置又は静電記録装置等に用いられるローラの製造方法。」

(2)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
後者の「画像形成を行う現像装置」は、その機能からみて、前者の「画像形成装置」に相当し、以下同様に、「クリーニング部材」は「クリーニングローラ」に、「供給ローラ」は「トナー供給ローラ」に、「軸体の周りに」は「シャフトの外周に」に、「弾性部材」は「弾性層」に、「(材質として、ウレタンを用いる)発泡フォーム」は「ポリウレタンフォーム」に、「同一の材料の」は「同一配合の」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「トナー供給ローラおよびクリーニングローラを備える画像形成装置の製造方法であって、
前記トナー供給ローラおよびクリーニングローラが、シャフトの外周に、同一配合のポリウレタンフォームよりなる弾性層を有するものとする
画像形成装置の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本願発明1は、「トナー供給ローラおよびクリーニングローラを熱プレス処理する工程」を含み、「前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記クリーニングローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上20%以下とする」のに対し、引用発明1は、トナー供給ローラ(供給ローラ)およびクリーニングローラ(クリーニング部材)を熱プレス処理することについて明らかでない点。
[相違点2]本願発明1は、「前記ポリウレタンフォームの前記熱プレス処理前の平均セル径を、モールドを用いた製法の場合は210?270μmの範囲とし、自由発泡を用いた製法の場合は340?520μmの範囲とする」のに対し、引用発明1は、ポリウレタンフォーム(材質として、ウレタンを用いる発泡フォーム)の平均セル径について明らかでない点。

(3)判断
上記の相違点1について検討する。
引用発明3に係る「クリーニングローラ」、「現像剤搬送ローラ」は、それぞれ本願発明1の「クリーニングローラ」、「トナー供給ローラ」に相当する。
また、引用発明3において、これらのローラを「シャフト2の外周に予め弾性層3を有したローラ1をこのローラの外径よりも小さい内径を有する円筒状部材4に圧入して弾性層を圧縮する工程」と、「円筒状部材4にローラ1を挿入した状態でその外周を加熱する工程」と、「加熱終了後に冷却されて円筒状部材4からローラ1’を取り出す工程」とで製造するとしているのは、本願発明1の「トナー供給ローラおよびクリーニングローラを熱プレス処理する工程」に相当する。
更に、引用発明3において、「長さ250mm、直径6mmのシャフトの外周に、長さ210mm、厚み6mmの弾性層(材料:ポリウレタンフォーム)を有するローラを作成し、このローラを長さ250mm、内径15.5mmのパイプ(材料:アルミニウム製)に圧入して、185℃、30分間加熱し、室温で冷却後に外径が15mmの、現像供給ローラを得る」としており、この場合、厚み6mmの弾性層を4.5mmに圧縮したことになり、圧縮率は25%となる。
したがって、引用発明3は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である「トナー供給ローラ(現像供給ローラ)およびクリーニングローラを熱プレス処理する工程」を開示している。
しかしながら、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である「前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記クリーニングローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上20%以下とする」点は、引用発明3に開示あるいは示唆されていない。
また、引用発明2にも、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は開示あるいは示唆されていない。
そして、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

次に、上記相違点2について検討する。
引用発明2では、「ウレタンスポンジロール32において、ウレタンスポンジ層36を構成する各セル38の平均セル径であるセルサイズ(D)は、トナー供給ロールやクリーニングロールにあっては、好適には100?500μm程度のセル径(D)が採用され、」とし、また、「成形型50の成形キャビティ56内に液状のウレタンスポンジ原料を導いて、発泡成形操作によって、型内で発泡硬化させる」としている。
また、引用発明2の「トナー供給ロール」、「クリーニングロール」は、それぞれ本願発明1の「トナー供給ローラ」、「クリーニングローラ」に相当し、同様に、「ウレタンスポンジ層36」は「ポリウレタンフォーム」に、相当する。
また、引用発明2において、「成形型50の成形キャビティ56内に液状のウレタンスポンジ原料を導いて、発泡成形操作によって、型内で発泡硬化させる」としているのは、「モールドを用いた製法」といえる。
したがって、引用発明2は、モールドを用いた製法によるポリウレタンフォーム平均セル径を100?500μm程度とすることを開示しているといえる。
しかしながら、引用発明2のポリウレタンフォーム平均セル径(100?500μm程度)は、ポリウレタンフォームの熱プレス処理前の平均セル径ではないから、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を開示あるいは示唆したものとはいえない。
また、引用発明3にも、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項開示あるいは示唆されていない。
そして、上記相違点1に係る本願発明2の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

(4)小括
したがって、本願発明1は、引用発明1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明2は、「トナー供給ローラおよび転写ローラを熱プレス処理する工程を含む画像形成装置の製造方法」に関して、「前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記転写ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上30%以下とするとともに、」「前記ポリウレタンフォームの前記熱プレス処理前の平均セル径を、モールドを用いた製法の場合は210?270μmの範囲とし、自由発泡を用いた製法の場合は340?520μmの範囲とする」ことを発明特定事項とするものであるが、このような発明特定事項も、上記(1)?(3)のとおり、引用発明1ないし3に開示あるいは示唆されていない。
したがって、本願発明2は、引用発明1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審で指摘した拒絶理由について
1.当審で指摘した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


・請求項1について
(1)請求項1の発明は、「画像形成装置」という物の発明であるが、当該請求項には、「トナー供給ローラおよびクリーニングローラが、熱プレス処理されており、」「前記トナー供給ローラおよび該クリーニングローラの、前記熱プレス処理における圧縮率が5%以上20%以下であり、」という、その物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者において不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
したがって、請求項1に係る発明は明確でない。

(2)請求項1では「前記トナー供給ローラおよび該クリーニングローラの、前記熱プレス処理における圧縮率が5%以上20%以下であり、」としている。
しかし、本願の発明は、それぞれのローラ種ごとに熱プレス処理における圧縮率を変化させることによって、同一配合の材料で異なるローラ種に対応した要求性能を実現させようとするものであると解される(【0064】参照)。
したがって、上記のように、トナー供給ローラおよびクリーニングローラという異なるローラ種に対して、共通の「圧縮率が5%以上20%以下」とする記載は、発明を明確にしたものとはいえない。例えば、「トナー供給ローラの熱プレス処理における圧縮率が5%以上10%以下であり、クリーニングローラの熱プレス処理における圧縮率が10%以上20%以下」のように、表1、表3に示されている実験結果に対応した、ローラ種ごとの適切な圧縮率を明らかにするような記載にする必要があると考えられる。

(3)請求項1の「前記ポリウレタンフォームの平均セル径が、モールドを用いた製法により得られた場合に210?270μmの範囲であり、自由発泡を用いた製法により得られた場合に340?520μmの範囲である」という記載があるが、この記載中の「平均セル径」が、熱プレス処理の前のものか、後のものかが明確ではない。

・請求項2について
請求項2にも、請求項1と同様に、製造方法を含んだ物の発明が記載されており、請求項2に係る発明も明確とはいえない。また、請求項2に記載されている「平均セル径」も、熱プレス処理の前のものか、後のものかが明確ではない。

2.当審で指摘した拒絶理由についての判断
平成28年12月9日に提出された手続補正書によって、補正前の請求項1、2に係る「画像形成装置」の発明を、上記のとおり「画像形成装置の製造方法」と補正すると共に、請求項1において、「前記トナー供給ローラの前記熱プレス処理における圧縮率を5%以上10%以下とし、前記クリーニングローラの前記熱プレス処理における圧縮率を10%以上20%以下とする」点が明確にされた。また、補正後の請求項1、2において、「平均セル径」が熱プレス処理の前のものであることも明確にされた。
これにより、当審で指摘した拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-17 
出願番号 特願2011-173328(P2011-173328)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齋藤 卓司神田 泰貴  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 黒瀬 雅一
畑井 順一
発明の名称 画像形成装置の製造方法  
代理人 本多 一郎  

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