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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1323889
審判番号 不服2015-17990  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-02 
確定日 2017-01-11 
事件の表示 特願2012-538053「腎損傷および腎不全の診断および予後診断のための方法ならびに組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日国際公開、WO2011/057147、平成25年 3月21日国内公表、特表2013-510322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年11月5日(パリ条約による優先権主張日:平成21年11月7日,同月9日;米国)を国際出願日として出願された外国語特許出願であって、平成26年6月10日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年5月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年10月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年10月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成26年12月24日付けの手続補正により補正されたもの。)を全文にわたって補正するものであって、本件補正前の請求項1の記載を補正する補正事項をその一部に含むものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、次の(1)及び(2)のとおりのものである。
(1)本件補正前の請求項1(下線は、本件補正により削除された記載事項を示す。)
「【請求項1】
アッセイ結果を提供するために、対象から取得した体液試料において、カテプシンB、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV、および可溶性ネプリライシンからなる群から選択される1種類以上のバイオマーカーを検出するがビクニンを検出しないように構成された1つ以上のアッセイ法を行うこと、かつ前記アッセイ結果(複数可)と前記対象の腎臓の状態とを相関させることを含み、
前記相関ステップが、前記アッセイ結果(複数可)に基づいて、腎臓の状態の1つ以上の将来的な急性の変化の可能性を前記対象に割り当てることを含む、前記対象の腎臓の状態の将来的な急性の変化の可能性を評価する方法。」

(2)本件補正後の請求項1(下線は、本件補正による補正箇所を示す。)
「【請求項1】
アッセイ結果を提供するために、対象から取得した尿試料において、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIVを検出するように構成されたアッセイ法を行うこと、かつ前記アッセイ結果と前記対象の腎臓の状態とを相関させることを含み、
前記相関ステップが、前記アッセイ結果に基づいて、前記尿試料を取得する時点から72時間以内の将来的な急性腎損傷の可能性を前記対象に割り当てることを含む、前記対象の腎臓の状態の将来的な急性の変化の可能性を評価する方法。」

2 補正についての検討
(1)上記請求項1の補正のうち、本件補正前の請求項1の「カテプシンB、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV、および可溶性ネプリライシンからなる群から選択される1種類以上のバイオマーカーを検出するがビクニンを検出しないように構成された1つ以上のアッセイ法を行うこと」を「可溶性ジペプチジルペプチダーゼIVを検出するように構成されたアッセイ法を行うこと」とする補正は、本件補正前の請求項1の「アッセイ法」が「ビクニンを検出しないように構成された」との特定事項を削除するものであって、それにより、本件補正前の請求項1の「アッセイ方法」がビクニンを検出しないものに特定されていたものから、本件補正による補正後の請求項1の「アッセイ方法」は「ビクニンを検出する」ものを含むものとなるから、当該補正は、発明特定事項をさらに限定するものに該当せず、また、当該補正により、ビクニンを検出しないものからビクニンを検出するものにその包含する発明態様が変更するものとなっているから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとはいえない。
また、この補正は、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえず、同項第3号及び4号に規定する事項を目的とするものにも該当しない。

(2)審判請求人の補正についての説明について
ア 審判請求人は、本件補正についての「補正の根拠」について、審判請求書の「3.(b)補正の根拠の明示」の欄において以下のように説明している。

「 本審判請求書と同時に提出した手続補正書における補正内容(下線部は補正箇所を示す)は、以下の通りである。なお、補正前の特許請求の範囲における請求項を旧請求項と称し、補正後の請求項を新請求項と称する。旧請求項と新請求項の対応は下記表の通りである。「無」とは、旧請求項に対応する新請求項が無いこと、あるいは、新請求項に対応する旧請求項が無いことを意味する。
--------------------------------
旧請求項 新請求項
--------------------------------
1-41 1-41
42 無
43-48 42-47
--------------------------------
・ 特許請求の範囲全体において、「体液試料」を「尿試料」に限定した。
・ 請求項1において、「バイオマーカー」について「可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV」を残し、「カテプシンB」、「可溶性ネプリライシン」を削除した。
・ 請求項1において、「相関ステップが、前記アッセイ結果(複数可)に基づいて、腎臓の状態の1つ以上の将来的な急性の変化の可能性を前記対象に割り当てることを含む」との記載を、「相関ステップが、前記アッセイ結果に基づいて、前記尿試料を取得する時点から72時間以内の将来的な急性腎損傷の可能性を前記対象に割り当てることを含む」に補正した。併せて請求項7の「およそ30日、21日、14日、7日、5日、96時間」の記載を削除した。
・請求項4において請求項1に記載のアッセイ結果を、「さらにカテプシンBの測定濃度、可溶性ネプリライシンの測定濃度、のうちの少なくとも1つまたは2つを含む」ものに補正した。旧請求項43、44、48(新請求項42、43、47)についても同様に補正した。
・請求項5を請求項4のみに従属させる補正を行った。
・請求項14?16に記載の「時間以内に」の誤記を「時間以内の」に補正した。
・旧請求項43、44(新請求項42、43)を、請求項1?41のいずれか1項の従属
項とした。
・旧請求項42は削除した。
以上の請求項は適切に番号付けした。当該補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、又は誤記の訂正にあたり、新規事項の追加には該当しない。 」

イ 上記説明には、上記の本件補正前の請求項1の「アッセイ法」が「ビクニンを検出しないように構成された」との特定事項を削除する補正については、何ら明示的に説明しておらず、また、当該補正の目的については、記載も示唆もされていない。

3 補正の却下の決定の結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正(平成27年10月2日付けの手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし48に係る発明は、平成26年12月24日付けの手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1ないし48に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項44に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項44】
対象の腎臓の状態の将来的な急性の変化の可能性を評価するための、カテプシンB、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV、可溶性ネプリライシンからなる群から選択される1種類以上の腎損傷マーカーを検出するように構成された1つ以上のアッセイを行うための試薬を含むキットであって、前記試薬が1つ以上の結合試薬を含み、その各々が前記腎損傷マーカーの1つに特異的に結合する、キット。」

2 引用例及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされた国際公開第2008/154238号(以下、「引用例」という。)には、腎臓疾患に対する予測診断について、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付与。「・・・」は省略箇所があることを示す。)
ア 「 1. A method for identifying whether a subject has kidney disease or is at an increased risk for developing kidney disease, the method comprising determining the level of bikunin and the level of a kidney cell death marker in a biological sample obtained from the subject and determining whether a subject has kidney disease or is at an increased risk for developing kidney disease based on the levels of bikunin and the kidney cell death marker in the biological sample.
2. The method of claim 1 wherein the kidney cell death marker is a membrane bound kidney cell protein, a brush border membrane protein or an intra cellular protein of the kidney, or a combination thereof, that is released into the urine as a result of kidney cell death
・・・
4. The method of claim 1 wherein the kidney cell death marker is adenosine deaminase binding protein.
・・・
11. The method of claim 10 wherein the biological sample is urine.
・・・
22. A kit for comprising a means for measuring adenosine deaminase binding protein (ADBP-26) and bikunin in a biological sample; and optionally instructions for use and interpretation of the kit results.
23. The kit of claim 22 wherein the kit is for identifying whether a subject has kidney disease or an increased risk for developing kidney disease.」(第26頁?第28頁 請求の範囲)
(当審訳:
1. 対象が腎疾患を有するか否か、または腎疾患を発症するリスクが高いか否かを特定するための方法であって、対象から得られた生体試料におけるビクニンのレベルおよび腎細胞死マーカーのレベルを決定し、そして、その生体試料中のビクニンおよび腎細胞死マーカーのレベルに基づき、対象が腎疾患を有するか否か、または腎疾患を発症するリスクが高いか否かを決定することを含む方法。

2. 腎細胞死マーカーが、腎細胞死の結果尿中に放出される、膜結合腎細胞タンパク質、刷子縁膜タンパク質もしくは腎臓の細胞内タンパク質、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
・・・
4.腎細胞死マーカーが、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
・・・
11.生体試料が尿である、請求項10に記載の方法。
・・・
22. 生体試料におけるアデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADBP-26)およびビクニンを測定するための手段;ならびに場合により使用およびキット結果の解釈のための説明を含むキット。
23. 対象が、腎疾患を有するか否か、または腎疾患を発症するリスクが高いか否かを特定するための、請求項22に記載のキット。)

イ「 I. Introduction
[0015] The present inventors have discovered that bikunin induces kidney cell death and further, in order to appropriately identify subjects that have kidney disease or are at an increased risk of developing kidney disease, levels of both bikunin and a kidney cell death marker should be measured. By measuring levels of both bikunin and a kidney cell death marker, the inventors have found that it is possible to group subjects into those having bikunin induced inflammatory cell death, non-inflammatory cell death, or bikunin induced inflammation without cell death. Treatment regimens can then be tailored to the subject depending on the cause of the inflammation and/or cell death.」(第3頁12行?21行)
(当審訳: I.序
[0015]本発明者等は、ビクニンが腎細胞死を誘発すること、さらに、腎疾患を有するまたは腎疾患を発症するリスクが高い対象を適切に特定するためには、ビクニンおよび腎細胞死マーカーの両レベルを測定すべきであることを発見した。ビクニンおよび腎細胞死マーカーの両レベルを測定することにより、本発明者等は、対象を、ビクニン誘発性炎症性細胞死、非炎症性細胞死、または細胞死を伴わないビクニン誘発性炎症を有する対象にグループ分けできることを見いだした。その結果、炎症および/または細胞死の原因に応じて対象の治療内容を仕立てることができる。)

ウ「 A. Membrane bound kidney cell proteins
[0034] The most widely used example of a kidney cell marker is adenosine deaminase binding protein (“ADBP- 26”). This membrane bound kidney cell protein is a 120,000 dalton surface glycoprotein found on the brush border of the kidney proximal tubular epithelial cell. It is also known as Type-2 transmembrane glycoprotein ecto-Peptidase, DPPIV dipeptidyl peptidase, ADBP- 26 adenosine deaminase binding protein. This trans-membrane glycoprotein exhibits serine dipeptidyl peptidase activity (DPPIV) and participates in the final stages of protein reabsorption in the kidney by hydrolysis of proline containing peptides. Therefore it is expressed in normal cell function.」(第7頁1行?10行)
(当審訳: A.膜結合腎細胞タンパク質
最も広く使用されている腎細胞死マーカーの例は、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(“ADBP-26”)である。この膜結合腎細胞タンパク質は、腎臓の近位尿細管上皮細胞の刷子縁に見いだされる120000ダルトンの表面糖タンパク質である。これは、2型膜貫通糖タンパク質エクトペプチダーゼ、DPPIVジペプチジルペプチダーゼ、ADBP-26アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質としても知られている。この膜貫通糖タンパク質は、セリンジペプチジルペプチダーゼ活性(DPPIV)を示し、プロリン含有ペプチドの加水分解により腎臓におけるタンパク質再吸収の最終段階に参加している。したがってこれは正常な細胞機能において発現される。)

エ「IV. Detection Methods
[0042] Any method of detecting and measuring bikunin and the kidney cell death markers of the present invention can be used in the present invention. A variety of assays for detecting bikunin and the kidney cell death markers are well known in the art and include, for example, enzyme inhibition assays, antibody stains, latex agglutination, and immunoassays, e.g., radioimmunoassay.
[0043] Immunoassays that determine the amount of a protein in a biological sample typically involve the development of antibodies against the protein. The term "antibody" herein is used in the broadest sense and refers to, for example, intact monoclonal antibodies, polyclonal antibodies, multispecific antibodies (e.g., bispecific antibodies), and to antibody fragments that exhibit the desired biological activity (e.g., antigen-binding). The antibody can be of any type or class (e.g., IgG, IgE, IgM, IgD, and IgA) or sub-class (e.g., IgGl , IgG2, IgG3, IgG4, IgAl and IgA2).」(第9頁1行?14行)
(当審訳: IV.検出方法
[0042] 本発明のビクニンおよび腎細胞死マーカーを検出し測定する任意の方法を本発明で使用することができる。ビクニンおよび腎細胞死マーカーを検出するための様々なアッセイが当分野でよく知られており、例えば、酵素阻害アッセイ、抗体染色法、ラテックス凝集法、およびイムノアッセイ、例えばラジオイムノアッセイが包含される。
[0043] 生体試料中のタンパク質量を測定するイムノアッセイは、典型的には当該タンパク質に対する抗体の作製を含む。本明細書における「抗体」という語は最も広い意味で使用され、例えば無傷のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および、所望の生物活性(例えば抗原結合)を示す抗体フラグメントを指す。抗体は、任意の型またはクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、およびIgA)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)であってよい。)

オ「 [0068] In certain embodiments, the present invention provides methods for determining whether a surgical patient is at an increased risk for developing acute renal failure. Acute renal failure (ARF) occurs in approximately 10 % of patients undergoing cardiac bypass surgery. The occurrence of acute renal failure in the post-operative period is associated with a very high mortality such as with patients undergoing bypass surgery found a rate of ARF requiring dialysis of 1.1% with an associated mortality of 63.7% (・・・). ARF is also associated with post-operative infection, and sepsis (・・・) Clinical variables and biomarkers can determine the increased risk for ARF in patients undergoing bypass surgery (・・・). In the highest risk group, ARF occurs in 20-25% of patients. Serum creatinine measurement is currently the most common method to measure acute renal failure.
[0069] In certain embodiments of the present invention, the levels of bikunin and a kidney cell death marker in a subject, i.e., a surgical patient, will be determined in order to determine whether the subject will progress to acute renal failure. By measuring the levels of bikunin and the kidney cell death marker, it can be determined, for example, whether the subject is free from kidney inflammation and kidney cell death or whether the subject has one of bikunin induced inflammatory kidney cell death, non-inflammatory kidney cell death, or bikunin induced inflammation. A subject that is free from kidney inflammation and kidney cell death will have a very low to negligible risk of progressing to acute renal failure while a patient having bikunin induced inflammatory kidney cell death, non-inflammatory kidney cell death, or bikunin induced inflammation will have a higher risk of progressing to acute renal failure. Subjects having bikunin induced inflammation will be more likely to progress to renal failure if the bikunin induced inflammation is paired with kidney cell death.」(第15頁10行?第16頁2行)
(当審訳: [0068] ある態様では、本発明は、外科患者が急性腎不全を発症するリスクが高いか否かを決定する方法を提供する。急性腎不全(ARF)は、心バイパス手術を受けた患者のおよそ10%に起こる。術後期間における急性腎不全の発症は極めて高い死亡率に関連しており、例えばバイパス手術を受けた患者の透析を要するARF率は1.1%であり、関連する死亡はその63.7%である(Chertow et al., Am J Med 1998;4:343-348)。ARFはさらに、術後感染および敗血症とも関連している(Thakar et al. Kidney Int 2003;64:239-246)。臨床的変数およびバイオマーカーが、バイパス手術を受けた患者における増大したARFリスクを決定できる(Loef BG, et al. J Am Soc Nephrol 2005;16:195-20)。最高リスク群では患者の20-25%にARFが起こる。血清クレアチニン測定が急性腎不全を測定するための現在最も一般的な方法である。
[0069] 本発明のある態様では、当該対象が急性腎不全に進行するか否かを決定するために、対象、即ち外科患者におけるビクニンおよび腎細胞死マーカーのレベルを決定する。ビクニンおよび腎細胞死マーカーのレベルを測定することにより、例えば、対象に腎炎および腎細胞死が無いかどうか、または対象が、ビクニン誘発性炎症性腎細胞死、非炎症性腎細胞死、もしくはビクニン誘発性炎症のうち1つを有するかどうかを決定できる。腎炎および腎細胞死の無い対象は急性腎不全に進行するリスクが極めて低いか無視できるが、ビクニン誘発性炎症性腎細胞死、非炎症性腎細胞死、またはビクニン誘発性炎症を有する患者は、急性腎不全に進行するリスクがより高い。ビクニン誘発性炎症を有する対象は、このビクニン誘発性炎症が腎細胞死と組み合わさる場合に腎不全に進行する可能性がより高い。)

カ「 Example 3 - Levels of bikunin and ADBP-26 in surgical patients
[0087] A clinical study was done for a group of patients undergoing cardiac bypass surgery to determine the time course of ADBP-26 and bikunin appearance in the urine in patients at risk for acute renal failure (as defined by a 30% rise in serum creatinine) following cardiac bypass surgery and measured for at least 3 days during the course of the surgery.・・・・
[0088] All samples were examined for the biomarkers and patients were considered of low risk if the urine Bik, urine ADBP-26 and serum creatinine was normal. 」(第23頁1行?13行)
(当審訳: 実施例3-外科患者におけるビクニンおよびADBP-26のレベル
[0087] 心バイパス手術後の急性腎不全(血清クレアチニンの30%上昇により定義する)のリスクがある患者において、ADBP-26およびビクニンの尿中出現の時間経過を決定するため、心バイパス手術を受ける患者群について臨床試験を実施し、手術の過程で少なくとも3日間測定した。・・・
[0088] 全試料のバイオマーカーを調べ、尿中Bik、尿中ADBP-26および血清クレアチニンが正常ならば患者を低リスクとみなした。)

(2)引用例に記載された発明
ア 上記(1)アに摘示した請求項22及び23の記載によれば、引用例には、「生体試料におけるアデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADBP-26)およびビクニンを測定するための手段を含み、対象が、腎疾患を発症するリスクが高いか否かを特定するためのキット」が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)ウには、「アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADBP-26)」が、「DPPIVジペプチジルペプチダーゼ」すなわち「ジペプチジルペプチダーゼIV」としても知られている腎細胞死マーカーである旨記載されており、当該記載によれば、上記アの「アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADBP-26)」は、「ジペプチジルペプチダーゼIV」であることが理解できる。

ウ 上記(1)エには、ビクニンおよび腎細胞死マーカーを検出し測定する任意の方法を使用することができること、引用例に記載のビクニンおよび腎細胞死マーカーを検出するためのアッセイとして、イムノアッセイが包含される旨記載されており、当該記載によれば、上記アのキットには、イムノアッセイ用が包含され得ることが理解できる。
そして、ある物質をイムノアッセイにより検出し測定するための手段として、測定しようとする対象物質に特異的に結合する「抗体」を用いることは、本願優先権主張日前に既に技術常識であることからすれば、引用例に記載の「ビクニンおよび腎細胞死マーカーを検出するためのイムノアッセイ用のキット」が、ビクニン及び腎細胞死マーカーに「特異的に結合する抗体」、すなわち「結合試薬」が含まれる試薬を含むものであることは当業者にとって明らかである。

エ 上記(1)オには、引用例記載の方法が、「外科患者が急性腎不全を発症するリスクが高いか否かを決定する方法を提供する」ものであることが記載され、また、対象、すなわち外科患者が急性腎不全に進行するか否かを決定するために、対象におけるビクニンおよび腎細胞死マーカーのレベルを決定するものであることが記載されており、引用例1のキットが、このような用途に用いられ得るものであることが理解できる。

オ 以上のことからすれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「生体試料におけるビクニン及び腎細胞死マーカーであるジペプチジルペプチダーゼIVを検出するためのイムノアッセイ用のキットであって、ビクニン及びジペプチジルペプチダーゼIVに特異的に結合する結合試薬を含む試薬を含み、対象が、急性腎不全を発症するリスクが高いか否か、あるいは、急性腎不全に進行するか否かを決定するためのものであるキット。」

3 本願発明と引用発明との対比,検討
(1)引用発明における「対象が、急性腎不全を発症するリスクが高いか否か、あるいは、急性腎不全に進行するか否かを決定するため」というキットの使用目的は、「対象の腎臓の状態の将来的な急性の変化の可能性を評価するための」という本願発明のキットの使用目的に相当するものである。

(2)引用発明の「生体試料におけるビクニン及び腎細胞死マーカーであるジペプチジルペプチダーゼIVを検出する」ことは、引用例の「生体試料」に「尿」が含まれるものであること(上記2(1)ア請求項11の記載、同カの実施例3における尿中のADBP-26(ジペプチジルペプチダーゼIV)と尿中ビクニンの濃度レベルを測定しているとの記載参照)からみて、引用発明において検出される対象である「ジペプチチジルペプチターゼIV」が「可溶性」であることは技術的に自明のことといえる。
してみると、引用発明の「生体試料におけるビクニン及び腎細胞死マーカーであるジペプチジルペプチダーゼIVを検出する」ことは、本願発明の「カテプシンB、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV、可溶性ネプリライシンからなる群から選択される1種類以上の腎損傷マーカーを検出するように構成された1つ以上のアッセイを行うための試薬を含むキット」に、「可溶性ジペプチジルペプチダーゼIVの腎損傷マーカーを検出するように構成されたアッセイを行うための試薬を含むキット」である点で相当するものといえる。

(3)引用発明の「ビクニン及びジペプチジルペプチダーゼIVに特異的に結合する結合試薬を含む試薬」は、ビクニン及びジペプチジルペプチダーゼIVにそれぞれ特異的に結合する2つの抗体が含まれるものであることは明らかであるところ、ここでの「ジペプチジルペプチダーゼIVに特異的に結合する抗体」である「結合試薬」は、本願発明の「前記腎損傷マーカーの1つに特異的に結合する」「1つ以上の結合試薬」に相当するものといえる。
そして、本願発明の試薬には「1つ以上の結合試薬」であって「その各々が前記腎損傷マーカーの1つに特異的に結合する」ものが含まれることが特定されているのみであって、本願発明の試薬に当該「1つ以上の結合試薬」以外の「結合試薬」を含む態様が排除されるものではない。
してみると、引用発明の「ビクニン及びジペプチジルペプチダーゼIVに特異的に結合する結合試薬を含む試薬」は、本願発明の「試薬」が「前記試薬が1つ以上の結合試薬を含み、その各々が前記腎損傷マーカーの1つに特異的に結合する」ことに相当するものといえる。

(4)上記(1)ないし(3)の対比を踏まえると、本願発明と引用発明とは、
「対象の腎臓の状態の将来的な急性の変化の可能性を評価するための、可溶性ジペプチジルペプチダーゼIVである腎損傷マーカーを検出するように構成されたアッセイを行うための試薬を含むキットであって、前記試薬が1つ以上の結合試薬を含み、その各々が前記腎損傷マーカーの1つに特異的に結合する、キット。」である点で一致し,相違するところはない。

4 小括
してみると、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上検討したように、本願発明(請求項44に係る発明)は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
い。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-10 
結審通知日 2016-08-16 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2012-538053(P2012-538053)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 57- Z (G01N)
P 1 8・ 572- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
尾崎 淳史
発明の名称 腎損傷および腎不全の診断および予後診断のための方法ならびに組成物  
代理人 高岡 亮一  

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