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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C06B
管理番号 1323908
審判番号 不服2015-10712  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-05 
確定日 2017-01-12 
事件の表示 特願2011- 54585「発熱組成物、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月20日出願公開、特開2012-180259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成23年3月11日(優先権主張 平成22年3月19日、日本国 平成23年2月10日、日本国)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおり。

平成26年 6月20日付け 拒絶理由通知
平成26年 8月25日 意見書及び手続補正書提出
平成27年 3月11日付け 拒絶査定
平成27年 6月 5日 本件審判請求及び手続補正書提出
平成27年 8月17日付け 前置報告
平成27年10月22日 上申書提出
平成28年 6月 8日付け 審尋

なお、上記平成28年6月8日付け審尋に対して、請求人からは何の応答もない。

第2 平成27年6月5日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成27年6月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

平成27年6月5日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、上記平成26年8月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので、本件補正前の請求項6についての補正を含むところ、本件補正前の請求項6に対応する本件補正後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1) 補正前

「【請求項6】
(A2)平均粒径0.1?5.0μmのボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、平均粒径1?10μmの5-アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるペレット状の発熱組成物であって、
含有水分比率が0.7質量%以下であり、
発熱量が6400J/g以上であり、
-40℃における着火時間が1.1ミリ秒以下であることを特徴とする発熱組成物。」

(2) 補正後

「【請求項1】
(A2)平均粒径0.1?5.0μmのボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、平均粒径1?10μmの5-アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるペレット状の発熱組成物であって、
前記5-アミノテトラゾールの含有比率が0.01質量%以上5質量%未満であり、
含有水分比率が0.7質量%以下であり、
発熱量が6400J/g以上であり、
-40℃における着火時間が1.1ミリ秒以下であることを特徴とする発熱組成物。」

2 補正の適否

本件補正のうち、特許請求の範囲の本件補正後の請求項1に係る上記補正は、「5-アミノテトラゾール」の含有比率について、「0.01質量%以上5質量%未満」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

(1) 引用文献記載の事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願日(優先日)前に頒布された刊行物である特開2005-219987号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の「伝火薬成形体」が記載されている(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】
次の(a)、(b)、(c)の各成分を含み、発熱量が4500J/g以上であり、1?10mmに分級され、更に嵩密度が0.90?1.20g/cm^(3)である伝火薬成形体。
(a)金属粉末
(b)含窒素有機化合物
(c)酸化剤

・・・(中略)・・・

【請求項4】
金属粉末がボロン、アルミニウム、マグネシウム、マグナリウム、シリコン、チタン、水素化チタン及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1種以上である請求項1?3のいずれか一項に記載の伝火薬成形体。
【請求項5】
前記含窒素有機化合物がテトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、ヒドラジン誘導体及び金属錯体より選ばれた少なくとも1種以上である請求項1?4のいずれか一項に記載の伝火薬成形体。
【請求項6】
前記酸化剤が硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1?5のいずれか一項に記載の伝火薬成形体。
【請求項7】
前記テトラゾール誘導体を3?20重量%、前記ボロンを5?30重量%、前記硝酸カリウムを50?85重量%、成形用バインダーを2?15重量%用いる請求項1?6のいずれか一項に記載の伝火薬成形体。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、伝火薬は、ガス発生剤の着火遅れがない様に、燃焼速度の速いものが要求されており、ガス発生剤の変化、特に着火性の悪いガス発生剤に対しては、使用薬量を増加させることで、確実な着火を確保してきた。その場合、伝火薬は発生熱量が多いため、ガス発生器内の冷却部材への負荷が大きくなり、使用冷却部材の増加、しいてはガス発生器の総重量増加となり、好ましくない。また、伝火薬は燃焼後、その大部分が固体残渣なり、使用量が多い場合には、最悪、ガス発生器からの流出残渣となってバッグ損傷となる可能性がある。
【0008】
本発明は、反応性の悪い(着火性の悪い)ガス発生剤に対し、伝火薬の燃焼速度を調整することにより、少量で確実にガス発生剤の燃焼を開始させる伝火薬成形体及びこれを有するガス発生器を提供することを目的とする。」

ウ 「【発明の効果】
【0011】
従来の伝火薬は、ガス発生剤の着火性確保のために顆粒状で燃焼速度が速いことを特徴としていたが、本発明では、伝火薬を成形体とし、燃焼速度を従来の伝火薬よりも遅くすることで、燃焼時間を長くし、使用薬量を増加させることなく、着火性の悪いガス発生剤の燃焼を確実に開始させることができる。また、本発明の伝火薬成形体を使用した場合には、自動車乗員保護装置用ガス発生器に要求される低温環境下でのガス発生剤への着火性において、良好な着火性を示した。」

エ 「【0012】
本発明は、(a)金属粉末、(b)含窒素有機化合物、(c)酸化剤の各成分を含み、発熱量が4500J/g以上であり、1?10mmに分級され、更に嵩密度が0.90?1.20g/cm^(3)である伝火薬成形体に関する。
【0013】
本発明の伝火薬成形体では、少なくとも1種以上の金属粉末が使用される。本発明において使用可能な金属粉末は、熱粒子となりうるものであれば特に限定されるものではなく、金属単体の粉末のみならず合金の粉末なども採用することができる。
【0014】
金属粉末の具体例としては、例えばボロン、アルミニウム、マグネシウム、マグナリウム、シリコン、チタン、水素化チタン、ジルコニウムが挙げられ、取り扱い危険性の低さや価格の安さから、特にボロンが好ましい。金属粉末の伝火薬成形体への含有量(割合)は多くなるほど発熱量は増加し、金属熱粒子も多くなる。その含有量は、5?30重量%が好ましく、より好ましくは、16?25重量%である。含有量が5重量%以下である場合には、発熱量の低下、金属熱粒子の減少を招き、また、30重量%以上である場合には、伝火薬成形体中で使用される酸化剤量が減少し、着火能力が低下する。
【0015】
本発明の伝火薬成形体では、ガス発生剤の燃料成分として使用される含窒素有機化合物が使用される。本発明では、伝火薬に含窒素有機化合物を添加することで、燃焼により火炎を発生させ、金属成分由来の金属粒子との両方で着火性能を向上させることができるものである。この含窒素有機化合物としては、例えば一般的にエアバッグ用ガス発生剤に燃料成分として使用可能なテトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、ヒドラジン誘導体又は金属錯体などを用いることができ、含窒素有機化合物の伝火薬成形体への含有量(割合)は、金属粉末、酸化剤、添加剤の種類、酸素バランス等により異なるが、好ましくは30?70重量%、更に好ましく35?60重量%である。
【0016】
テトラゾール誘導体としては、テトラゾール、5-アミノテトラゾール、ビテトラゾール又はビテトラゾールジアンモニウム塩等を用いるのが好ましい。中でも、5-アミノテトラゾールは、含窒素有機化合物成分の中で、安定性、安全性を含めて極めて取り扱いが容易であり、価格も安価であって、含窒素有機化合物の中でより好ましい物質である。

・・・(中略)・・・

【0020】
含窒素有機化合物の伝火薬成形体中への含有量(割合)は、3?25重量%が好ましく、より好ましくは、5?15重量%の範囲である。含窒素有機化合物の含有量が、25重量%以上含有する場合は、ガス発生剤の発熱量低下、及び金属熱粒子の減少、すなわち、着火力不足を招き、また、3重量%以下である場合には、ガス流不足により着火力低下となる。
【0021】
含窒素有機化合物の50%粒径は、大きすぎると伝火薬成形体とした場合の強度が低下し、また、小さすぎると粉砕に多大なコストを必要とするため、5?80μmが好ましく、さらに好ましくは、10?50μmである。なお、本明細書において50%粒径とは個数基準50%平均粒径を示すものである。
【0022】
本発明の伝火薬成形体では、酸化剤が使用される。この酸化剤としては、例えば硝酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩、金属酸化物、金属過酸化物等が挙げられる。中でも安全性、安定性、価格の観点より、硝酸塩が好ましく、具体的には硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなるものがよい。特に、硝酸カリウムは、吸湿性がないことや取り扱いが容易であることより好ましい。酸化剤の伝火薬成形体中への含有量(割合)は、50?85重量%が好ましく、より好ましくは60?80重量%である。その含有量が、50重量%以下の場合、酸素供給量が不足して不完全燃焼になり、有害な一酸化炭素を生成する。85重量%以上では、有害な窒素酸化物を発生する。

・・・(中略)・・・

【0024】
本発明の伝火薬成形体の発熱量は、該組成物中の金属粉末の含有量に比例して増大するが、伝火薬成形体を組み込んだガス発生器が問題なく作動するためには、通常、4500J/g以上、好ましくは、6000J/g以上であることが必要である。伝火薬成形体の発熱量は、ガス発生剤への着火性能に、直接的に影響するため、発熱量は多い方がよいが、ガス発生器内に組み込まれた冷却部品等への影響を考慮し、7500J/g以下にするのがより好ましい。

・・・(中略)・・・

【0029】
本発明の伝火薬成形体の形状は、通常、粉状、顆粒状のように表面積の小さいものでなければよく、具体的には、丸薬、錠剤、ペレット、クリンカ、ブリケット、単孔円筒状、多孔円筒状等が挙げられる。形状がペレットの場合、本発明の伝火薬成形体の直径は、1?10mmが好ましく、1?8mmがより好ましく、また、その長さは、1?10mmが好ましく、1?8mmがより好ましい。
【0030】
本発明の伝火薬成形体に使用される各成分の粒径について説明する。各成分の好ましい粒径は、含窒素有機化合物では50%粒径が1?30μm、酸化剤では50%粒径が20?100μm、金属粉末では50%粒径が0.5?20μmであり、より好ましくは、含窒素有機化合物では50%粒径が10?20μm、酸化剤では50%粒径が40?70μm、金属粉末では50%粒径が1?15μmである。
【0031】
本発明の伝火薬成形体は、少なくとも1種の成形用バインダ-を含有することができる。成形用バインダ-は、伝火薬成形体の燃焼性に大幅な悪影響を与えないものであれば何れでも使用可能である。
【0032】
本発明の伝火薬組成物は、少なくとも1種の成形用バインダ-を含有することができる。成形用バインダ-は、伝火薬の燃焼性に大幅な悪影響を与えないものであれば何れでも使用可能であり、成形用バインダ-としては、例えばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース、グアガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、澱粉等の高分子バインダ-、ステアリン酸塩等の有機バインダ-、二硫化モリブデン、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、カオリン、シリカ、アルミナ等の無機バインダ-等を挙げることができる。中でも、耐熱性、成形性の観点よりヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、酸性白土、カオリン、合成ヒドロキシタルサイトを用いることが好ましく、これらを2種以上組み合わせることにより、更に効果的である。ニトロセルロースは、例えば亜硝酸イソアミルに溶解して用いることができる。

・・・(中略)・・・

【0037】
次に、本発明の伝火薬成形体における各成分の好ましい組合せについて説明する。金属粉末としてはボロン、含窒素有機化合物としては5-アミノテトラゾールを用いるのがもっとも好ましく、酸化剤としては硝酸カリウムを用いるのがもっとも好ましい。成形用バインダーとしては、A)ヒドロキシプロピルセルロース、B)ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、C)酸性白土、カオリン、合成ヒドロキシタルサイトが好ましく、成形用バインダー中で、A)成分が30?70重量%、B)成分が0?35重量%、C)成分が0?40重量%であることが好ましい。そして、各成分の好ましい組成比は、5-アミノテトラゾールが3?20重量%、ボロンが5?30重量%、硝酸カリウムが50?85重量%、成形用バインダ-が2?15重量%であり、より好ましくは、5-アミノテトラゾールが5?15重量%、ボロンが10?20重量%、硝酸カリウムが65?80重量%、成形用バインダ-が2?10重量%である。そして、この組成比の範囲において、その発熱量が少なくとも4500J/g以上が好ましく、さらに好ましくは6000J/g以上に調整される。」

オ 「【0038】
次に、本発明の伝火薬成形体の製造法について説明する。本発明の伝火薬成形体は、圧縮成形、押出成形等の何れの方法にても実施可能である。なお、成形後に80?110℃で熱処理を行うことで、伝火薬成形体を充分に乾燥させ、水分に起因する着火遅れの防止や耐環境性の向上の果たすことができる。

・・・(中略)・・・

【0040】
押出成形を行う場合、同様に各成分をスパイラルミキサーに計り取り、外割りで8?25重量%の水或いは有機溶媒(好ましくは、アセトン、トルエン、シクロペンタノン、酢酸エチル、酢酸イソアミル等)、若しくはアルコール(好ましくはエタノ-ル)-水(好ましくはイオン交換水)混合溶媒を加え、十分に混練し、粘性を有する湿薬にする。その後、真空混練押出成形機を用いて、所望の形状に押出成形し、適宜切断した後、熱処理を行い、分級し、得られた押出成形体を伝火薬成形体として用いる。」

カ 「【0073】
実施例1
ボロン微粉末:12.0重量部をスパイラルミキサーに計り採り、エタノール:3.0重量部/イオン交換水:15.0重量部のエタノール水を加えて混合してスラリー状とした。別途、5-アミノテトラゾール(50%粒径、15μm):11.0重量部、硝酸カリウム(50%粒径、60μm):70.5重量部、酸性白土(50%粒径、17μm):1.5重量部、ヒドロキシプロピルセルロース{商品名;メトロ-ズ 90SH-100000(信越化学工業株式会社製)}:3.0重量部、ポリビニルピロリドン{商品名;ルビスコ-ル K90(BASF製)}:2.0重量部をV型混合機により乾式混合した。次に、この混合物をスパイラルミキサーにて混練し、湿状混練薬とした。この混練薬を真空混練押出機に投入し、直径1.8mmのダイスを通して押出成形し、長さ2.5mm(成形体表面積:19.2mm^(2)/個)で切断を行った。これを55℃で8時間、続いて110℃で8時間乾燥させ、目開き1mmの篩及び2.8mmの篩を用いて分級し、粉状、異形品を除去し、目開き1mmの篩上に、本発明の伝火薬成形体を得た。

・・・(中略)・・・

【0078】
伝火薬成形体の発熱量の測定及び燃焼速度の測定
実施例1、2、及び3、比較例1、2で得られた各伝火薬を用いて、これらの発熱量、嵩密度及び燃焼速度を測定し、比較した。表1に、発熱量、嵩密度及び燃焼速度の結果をまとめた。

・・・(中略)・・・

【0080】
発熱量測定
発熱量はボンブカロリーメーターにより測定を行った。SUS製の密閉容器中に、実施例1、2、及び3、比較例1、2で得られた各伝火薬を1.0g計量し、ニクロム線を接触させた状態で蓋を閉じた。これを断熱容器中に水が満たされている中に投入し、ニクロム線を通電させて着火させ、組成物を完全燃焼させた。上昇した水の温度と比熱から発熱量を計算した。

・・・(中略)・・・

【0082】
表1
形状 嵩密度[g/cm^(3)] 発熱量[J/g] 燃焼速度[m/秒]
実施例1 ペレット状 1.12 6000 226
実施例2 ペレット状 0.98 6400 142
実施例3 ペレット状 1.03 5900 240
比較例1 顆粒状 0.74 6700 620
比較例2 顆粒状 0.70 6400 747
【0083】
比較例1、2の顆粒状伝火薬に比べ、成形された実施例1、2、及び3の伝火薬成形体は燃焼速度が遅いことがわかる。この結果は伝火薬の燃焼時間を長くし、着火性を改善するという本発明の目的にあった伝火薬であると言える。また、何れの伝火薬においても、発熱量については同等である。これら伝火薬を用いて、以下の60Lタンク試験によりガス発生剤に対する着火性能を確認した。
【0084】
伝火薬のガス発生剤に対する着火性の測定(60Lタンク試験より)
図1に示されるガス発生器1を用いて、60Lタンク試験を行い、伝火薬のガス発生剤に対する着火性を検討した。今回は低温環境下での着火性を確認する為に、このガス発生器1を-40℃で4時間放置した後に、内容積60リットルの密閉容器に取り付け、ガス発生器1を作動させ、圧力を測定した。ここで、図2に示すように、P_(1)は容器内の最大到達圧力、t_(1)は点火装置への通電からガス発生器の作動に至るまでの時間、t_(2)はガス発生器の作動から圧力P_(1)が得られるまでの時間を表す。伝火薬の着火性能は低温試験の場合、t_(1)の時間が10ms以内であることが求められ、この範囲を越える場合、ガス発生器は作動遅れを発生し、十分な性能を発揮しない。ここでは、点火器への通電からガス発生器の作動に至るまでの時間t_(1)を示した。
【0085】
60Lタンク試験結果を表2にまとめた。尚、伝火薬の使用量は1.1gとした。
また、60Lタンク試験で用いたガス発生器1内のガス発生剤は、硝酸グアニジン(50%粒径、10μm):40.6重量部、硝酸ストロンチウム(50%粒径、13μm):25.0重量部、塩基性硝酸銅(50%粒径、5μm):25.0重量部、酸性白土(50%粒径、17μm):5.0重量部および燃焼触媒としてグラファイト(50%粒径、5μm):0.5重量部、ヒドロキシプロピルセルロース:2.3重量部、ポリビニルピロリドン:1.6重量部をV型混合機により乾式混合した。次に、混合粉末をスパイラルミキサーに移し、エタノール:3.0重量部/イオン交換水:13.0重量部のエタノール水を加えて混練し、湿状混練薬とした。この混練薬を真空混練押出機に投入し、直径2.0mmのダイスを通して押出成形し、薬厚6.5mmで切断を行った。これを55℃で8時間、続いて110℃で8時間乾燥させ、ガス発生剤錠剤を得た。このガス発生剤を図1で示されるガス発生器1に35g充填し、前記テストに用いた。
【0086】
表2
伝火薬 t_(1) t_(2) P_(1)
形状 直径 長さ [mm] [mm] [kPa]
実施例1 ペレット状 1.8mmx2.5mm 6.1 66.8 144
実施例2 ペレット状 6.0mmx2.0mm 6.7 69.6 154
実施例3 ペレット状 1.8mmx2.5mm 5.8 65.3 148
比較例1 顆粒状 14.2 101.5 127
比較例2 顆粒状 1.8 圧力上昇なし
【0087】
上記60Lタンク試験による表2、図3の結果から、成形体とし、燃焼速度を遅くした本発明の伝火薬成形体に関しては、着火遅れもなく、良好な燃焼特性を示した(実施例1、2及び3)。また、燃焼速度の速い顆粒状伝火薬を用いた場合には着火遅れが発生した(比較例1)、また、比較例2の顆粒状伝火薬の場合には、試験数を重ねて行くうちに、ガス発生剤の燃焼が開始されないものが発生してきた。今回実施した60Lタンク試験より、ガス発生剤の燃料成分に着火性の悪い硝酸グアニジンを用い、更に-40℃という過酷な低温環境下においても、本発明の伝火薬成形体の良好な着火性を示すことが確認できた。顆粒状伝火薬においても、使用薬量を増量することで、着火性を改善することはできるが、伝火薬の燃焼により、発生する熱量、及び燃焼残渣の点から、ガス発生器にとっては好ましくない方向である。実施例1?3から明白なように、本発明の伝火薬成形体を使用することにより、少ない薬量で確実な着火性能を持つガス発生器を提供することが可能となる。」

キ 「【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】60Lタンク試験で使用したガス発生器の構造を示す要部断面模式図である。
【図2】本発明の伝火薬成形体を用いたガス発生器を作動して得られた60Lタンクテストの燃焼状態を、時間と圧力の関係で示すグラフである。
【図3】本発明の伝火薬成形体を用いたガス発生器における60Lタンク試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 ガス発生器
2 点火器
3 伝火薬
4 ガス発生剤
5 フィルタ押え部材
6 上蓋
7 点火手段
8 燃焼室
9 冷却フィルタ部材
10 下蓋
11 ガス放出孔
12 ラプチャ-部材
13 内筒体
14 フランジ
15 伝火孔
P_(1) 最大到達圧力
t_(1) 作動開始までの時間
t_(2) 作動からP_(1) に到るまでの時間
【図1】


【図2】

【図3】



ク 上記摘記事項カのうち、【0073】の実施例1から、ボロン微粉末、硝酸カリウム、ヒドロキシプロピルセルロース{商品名;メトロ-ズ 90SH-100000(信越化学工業株式会社製)}、50%粒径15μmの5-アミノテトラゾール、並びにエタノール:3.0重量部/イオン交換水:15.0重量部のエタノール水を混合した混合物を乾燥させてなる伝火薬剤成形体であって、その形状は、同じくカの【0082】の表1からみて、「ペレット状」であることがわかり、また、その発熱量が6000J/gであることがわかる。

上記摘記事項ア?キの記載、及び上記認定事項クを整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ボロン微粉末、硝酸カリウム、ヒドロキシプロピルセルロース{商品名;メトロ-ズ 90SH-100000(信越化学工業株式会社製)}、50%粒径15μmの5-アミノテトラゾール、並びにエタノール:3.0重量部/イオン交換水:15.0重量部のエタノール水を混合した混合物を乾燥させてなるペレット状の伝火薬剤成形体であって、
発熱量が6000J/gである伝火薬剤成形体。」

(2) 対比・検討

引用発明の「ボロン微粉末」と、本件補正発明の「ボロン」とは、「ボロン」である点で一致する。
また、引用発明の「硝酸カリウム」は、引用文献の上記摘記事項アの【請求項6】、同じくエの【0022】【0037】によれば、「酸化剤」として用いられていることから、本件補正発明の「(B)酸化剤」に相当する。
また、引用発明の「ヒドロキシプロピルセルロース{商品名;メトロ-ズ 90SH-100000(信越化学工業株式会社製)}」が、引用文献の上記摘記事項エの【0032】、【0037】によれば、「成形用バインダ-」として用いられており、しかも、「ヒドロキシプロピルセルロース」がセルロース系水溶性ポリマーの結合剤であることは、当業者に顕著であるから、引用発明の「ヒドロキシプロピルセルロース{商品名;メトロ-ズ 90SH-100000(信越化学工業株式会社製)}」と、本件補正発明の「(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤」とは、「セルロース系水溶性ポリマーの結合剤」である点で一致する。
また、引用発明の「エタノール:3.0重量部/イオン交換水:15.0重量部のエタノール水」は、水である「イオン交換水」が過半数の重量部を占めていることから、水を主成分とするといえ、また、本願明細書の【0027】によれば、「水を主成分とする溶剤とは、水のみからなる溶剤、又は構成成分の50質量%以上が水である溶剤であって、残余の成分として一種若しくは二種以上の水溶性有機溶剤(例えば、メタノールやエタノール等のアルコール系有機溶剤、アセトン等のケトン系有機溶剤)を含有する溶剤を意味する。」とのことであるから、本件補正発明の「水を主成分とする溶剤」に相当する。
また、引用発明の「伝火薬剤成形体」が発熱組成物からなることは、当業者に顕著であるから、引用発明の「伝火薬剤成形体」は、本件補正発明の「発熱組成物」に相当する。
さらに、本願明細書の【0018】によれば、「本明細書における平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定された粒度分布から得られたメジアン径を意味する。」とのことであり、ここで、「メジアン径」が「50%粒径(平均粒径)」であることは当業者に顕著である。したがって、引用発明の「50%粒径」は、本件補正発明の「平均粒径」に相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>

「ボロン、酸化剤、セルロース系水溶性ポリマーの結合剤、5-アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるペレット状の発熱組成物である発熱組成物。」

<相違点1>

ボロンの平均粒径について、本件補正発明では、「0.1?5.0μm」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定を有していない点。

<相違点2>

5-アミノテトラゾールの平均粒径について、本件補正発明では、「1?10μm」と特定しているのに対して、引用発明では、「15μm」と特定している点。

<相違点3>

5-アミノテトラゾールの含有比率について、本件補正発明では、「0.01質量%以上5質量%未満」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定を有していない点。

<相違点4>

発熱組成物の含有水分比率について、本件補正発明では、「0.7質量%以下」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定を有していない点。

<相違点5>

発熱組成物の発熱量について、本件補正発明では、「6400J/g以上」と特定しているのに対して、引用発明では、「6000J/g」と特定している点。

<相違点6>

発熱組成物の-40℃における着火時間について、本件補正発明では、「1.1ミリ秒以下」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(3) 検討

上記(2)の相違点1?6について、順に検討する。

<相違点1>について

ボロンの平均粒径(50%粒径)について、引用文献の上記摘記事項エの【0030】によれば、「各成分の好ましい粒径は、含窒素有機化合物では50%粒径が1?30μm、酸化剤では50%粒径が20?100μm、金属粉末では50%粒径が0.5?20μmであり、」と記載されており、ここで、当該「金属粉末」が「ボロン」を指すことは、同じくエの【0037】から明らかである。
したがって、引用文献には、ボロンの平均粒径(50%粒径)を「0.5?20μm」と設定できることが示唆されており、ボロンの平均粒径(50%粒径)について、本件補正発明と引用文献に記載された事項とは、「0.5?5.0μm」とする点で重複するものである。
そうすると、ボロンの平均粒径(50%粒径)について、本件補正発明のように、「0.1?5.0μm」と特定することは、引用文献に記載されている上記摘記事項エの記載を参考にするならば、当業者が容易になし得たことである。
一方、本件補正発明は、ボロンの平均粒径について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0034】に、「第2実施形態の発熱組成物においては燃料成分として(A2)ボロンが含有される。このボロンは、好ましくは平均粒径0.1?100μmの範囲、より好ましくは0.1?50μmの範囲、さらに好ましくは0.1?5.0μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。」と記載されているだけであって、本件補正発明で特定する「0.1?5.0μm」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされておらず、さらに、本件補正発明に対応する実施例を参照しても、同じく【0057】?【0060】の「<試験2-1.着火性能に関する試験>」、「<試験2-2.発熱性能に関する試験>」として、平均粒径が「0.9μm」のボロン粉末を使用したものしか存在しない。そして、この技術的な理由(意義)の点について、平成28年6月8日付け審尋(以下、単に「審尋」という。)を通知し(下記審尋の第1の1参照。)、指定期間を指定して回答する機会を与えたが、何等の応答もない。
よって、当該数値範囲に臨界的意義を認めることはできず、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。


<相違点2>について

5-アミノテトラゾールの平均粒径(50%粒径)について、引用文献の上記摘記事項エの【0021】によれば、「含窒素有機化合物の50%粒径は、大きすぎると伝火薬成形体とした場合の強度が低下し、また、小さすぎると粉砕に多大なコストを必要とするため、5?80μmが好ましく、」と記載されており、ここで、当該「含窒素有機化合物」が「5-アミノテトラゾール」を指すことは、同じくエの【0016】から明らかである。
したがって、引用文献には、5-アミノテトラゾールの平均粒径(50%粒径)を「5?80μm」と設定できることが示唆されており、5-アミノテトラゾールの平均粒径(50%粒径)について、本件補正発明と引用文献に記載された事項とは、「5?10μm」とする点で重複するものである。
そうすると、5-アミノテトラゾールの平均粒径(50%粒径)について、本件補正発明のように、「1?10μm」と特定することは、引用文献に記載されている上記摘記事項エの記載を参考にするならば、当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。
一方、本件補正発明は、5-アミノテトラゾールの平均粒径について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0035】に、「また、第2実施形態の発熱組成物においては第2の燃料成分として5-アミノテトラゾールが含有される。5-アミノテトラゾールはボロンとともに発熱組成物中に含有されることにより、発熱組成物の着火性能の向上に寄与する。5-アミノテトラゾールは、好ましくは平均粒径0.1?100μmの範囲、より好ましくは1?50μmの範囲、さらに好ましくは1?10μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。」と記載されているだけであって、本件補正発明で特定する「1?10μm」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされていず、さらに、本件補正発明に対応する実施例を参照しても、同じく【0057】?【0060】の「<試験2-1.着火性能に関する試験>」、「<試験2-2.発熱性能に関する試験>」として、平均粒径が不明である5-アミノテトラゾールを使用したものしか存在せず、この技術的な理由(意義)の点について、審尋を通知し(下記審尋の第1の2参照。)、指定期間を指定して回答する機会を与えたが、何等の応答もない。
よって、当該数値範囲に臨界的意義を認めることはできず、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。

<相違点3>について

5-アミノテトラゾールの含有比率について、引用文献の上記摘記事項エの【0020】によれば、「含窒素有機化合物の伝火薬成形体中への含有量(割合)は、3?25重量%が好ましく、」と記載されており、ここで、当該「含窒素有機化合物」が「5-アミノテトラゾール」を指すことは、同じくエの【0016】から明らかである。
したがって、引用文献には、5-アミノテトラゾールの含有比率を「3?25質量%」と設定できることが示唆されており、5-アミノテトラゾールの含有比率について、本件補正発明と引用文献に記載された事項とは、「3?5質量%」とする点で重複するものである。
そうすると、5-アミノテトラゾールの含有比率について、本件補正発明のように、「0.01質量%以上5質量%未満」と特定することは、引用文献に記載されている上記摘記事項エの記載を参考にするならば、当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。
一方、本件補正発明は、5-アミノテトラゾールの含有比率について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0035】に、「発熱組成物中における5-アミノテトラゾールの含有比率は、好ましくは0.01質量%以上5質量%未満であり、より好ましくは3?4.5質量%である。」と記載されているだけであって、本件補正発明で特定する「0.01質量%以上5質量%未満」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされていず、さらに、本件補正発明に対応する実施例を参照しても、同じく【0057】?【0060】の「<試験2-1.着火性能に関する試験>」、「<試験2-2.発熱性能に関する試験>」として、含有比率が「4.0質量%」の5-アミノテトラゾールを使用したものしか存在しないことから、当該数値範囲に臨界的意義を認めることはできない。
よって、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。

<相違点4>について

発熱組成物の含有水分比率について、引用文献の上記摘記事項オの【0038】によれば、「本発明の伝火薬成形体は、圧縮成形、押出成形等の何れの方法にても実施可能である。なお、成形後に80?110℃で熱処理を行うことで、伝火薬成形体を充分に乾燥させ、水分に起因する着火遅れの防止や耐環境性の向上の果たすことができる。」と記載されており、水分に起因する着火遅れを防止するために、伝火薬成形体(発熱組成物)を充分に乾燥させる旨示唆されており、そして、引用発明の伝火薬成形体(発熱組成物)においても、同じく上記摘記事項カの【0073】によれば、「110℃で8時間乾燥」させていることから、水分に起因する着火遅れの防止を行うために充分に乾燥していると推認でき、そうであるからには、引用発明の伝火薬成形体(発熱組成物)は、その含有水分比率は0.7質量%以下のゼロに近い値であると解するのが自然であり、上記相違点4にかかる含有水分比率が「0.7質量%以下」は、実質的に相違点とはいえないものである。
仮にそうとまでいえないとしても、発熱組成物の含有水分比率について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0038】に、「第2実施形態の発熱組成物は、組成物中の含有水分比率が0.7質量%以下(0.01?0.7質量%の範囲)となるように調整されている。含有水分比率を0.7質量%以下に設定することにより、着火性能や発熱性能といった燃焼性能を好適に確保することができる。」と記載されているだけであって、本件補正発明で特定する「0.7質量%以下」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされてなく、引用文献には、着火遅れが水分に起因することが明記されていることから、理想状態である水分比率ゼロに近似するように調整することや、許容し得る水分比率の上限を確認し定めることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。

<相違点5>について

発熱組成物の発熱量について、引用文献の上記摘記事項エの【0024】によれば、「本発明の伝火薬成形体の発熱量は、該組成物中の金属粉末の含有量に比例して増大するが、伝火薬成形体を組み込んだガス発生器が問題なく作動するためには、通常、4500J/g以上、好ましくは、6000J/g以上であることが必要である。伝火薬成形体の発熱量は、ガス発生剤への着火性能に、直接的に影響するため、発熱量は多い方がよいが、ガス発生器内に組み込まれた冷却部品等への影響を考慮し、7500J/g以下にするのがより好ましい。」と記載されており、発熱組成物(伝火薬成形体)の発熱量について、ガス発生剤への着火性能を向上させるために、発熱量は多ければ多いほどよく、また、具体的な数値として、「6000J/g以上」が好ましい旨示唆されている。
したがって、発熱組成物の発熱量について、本件補正発明と引用文献に記載された事項とは、「6400J/g以上」とする点で重複するものである。
そうすると、発熱組成物の発熱量について、本件補正発明のように、「6400J/g以上」と特定することは、引用文献に記載されている上記摘記事項エの記載を参考にするならば、当業者が容易になし得たことである。 一方、本件補正発明は、発熱組成物の発熱量について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0060】に、「【表5】

表5に示すように、燃料成分としてボロン粉末を含有させた場合にも、高い発熱量を得ることができることが分かる。とくに、ボロン粉末を14質量%以上含有する試験例22及び23においては、6400J/g以上の高い発熱量を得ることができた。」と記載されているだけであって、試験例22、試験例23の他に、発熱量が5433J/gである試験例21でさえも、「高い発熱量」と認識しているのであり、発熱組成物にボロンを含有させた場合の発熱量を、本件補正発明で特定する「6400J/g以上」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)がなされていないことから、当該数値範囲に臨界的意義を認めることはできない。
よって、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。

<相違点6>について

上記相違点1?5についての検討のとおり、本件補正発明の成分組成は、引用発明から容易想到のものである。そうすると、この容易想到と認められる発熱組成物は、本件補正発明と成分組成が一致することから、その特性、特に、「-40℃における着火時間」についても本件補正発明と一致すると解するのが自然である。仮にそうとまでいえなかったとしても、引用文献では、低温(-40℃)環境下における着火性の試験・検討もなされており(上記摘記事項カ参照。)、発熱組成物(伝火薬成形体)において、-40℃での着火時間の上限を好適化すること(「1.1ミリ秒以下」と特定すること)は、当業者が適宜なし得ることである。
また、この点により、本件補正発明が格段の作用効果を奏したものとはいえない。
なお、本件補正発明は、発熱組成物の-40℃における着火時間について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0058】に、「表4に示すように、含有水分比率が0.7質量%以下である試験例17及び18は、着火時間が1.1ミリ秒以内であり、着火性能に優れていることが分かる。一方、含有水分比率がそれぞれ0.96質量%及び2.07質量%である試験例19及び20は着火時間が1.1ミリ秒を超えており、試験例17及び18と比較して着火性能が低下していることが分かる。」と記載されているだけであって、本件補正発明で特定する「1.1ミリ秒以下」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされていず、さらに、平成27年6月5日に提出された審判請求書の第6?8頁には、「1.1ミリ秒以下」と定める根拠が説明されているが、データ数が「4」しかないことから、この技術的な理由(意義)の詳細について、審尋を通知し(下記審尋の第1の3参照。)、指定期間を指定して回答または追加の試験例を実施する機会を与えたが、何等の応答もなく、当該数値範囲に臨界的意義を認めることはできない。

<作用効果>について

相違点1?6の組み合わせに基づき、本件補正発明が奏する効果についても、引用発明、引用文献に記載されている事項から、当業者が予測し得る範囲内のものであるにすぎず、格別なものではない。

なお、平成27年10月22日に提出された上申書第3頁によると、請求人は、「また、本願の請求項1に係る発明では、水に不溶性のボロンや5-アミノテトラゾールを特定の平均粒径とすることで、水を主成分とする溶媒を用いての成形性を確保し、乾燥後の水分含有比率を0.7質量%以下とすることで、十分な発熱量を確保している。水に不溶性の燃焼成分の粒径を揃えることで、各成分と溶媒との馴染みやすさを実現して、製造時の取り扱いを容易にしつつ優れた着火性能の燃焼組成物が得られるものである。」と述べており、「ボロンや5-アミノテトラゾールの平均粒径」と「各成分と溶媒との馴染みやすさ」との間に何らかの作用効果の関連性を主張しているところ、当審においては、当該関連性の技術的意味が不明なため、上記審尋を通知し(下記審尋の第2参照。)、指定期間を指定して回答する機会を与えたが、何等の応答がないこともあり、当該関連性の技術的意味を認めることはできない。

(4) 小括

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているものではない。

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[平成28年6月8日付け審尋(発送日:平成28年6月14日)の写し]

審 尋

・・・(中略)・・・

この審判事件について、下記の点に対する回答書を、この審尋の発送の日から60日以内に提出して下さい。



第1 請求項1、3について

1 請求項1、3の「(A2)平均粒径0.1?5.0μmのボロン」について

(1) 本願明細書【0034】には、「第2実施形態の発熱組成物においては燃料成分として(A2)ボロンが含有される。このボロンは、好ましくは平均粒径0.1?100μmの範囲、より好ましくは0.1?50μmの範囲、さらに好ましくは0.1?5.0μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。」と記載されていますが、「平均粒径0.1?100μmの範囲」、「0.1?50μmの範囲」、「0.1?5.0μmの範囲」が、それぞれ好ましいとする具体的な理由(特に、「0.1?5.0μmの範囲」が「さらに好ましく」の点)について、説明して下さい。

(2) 本願明細書【0057】?【0060】には、ボロンを用いた試験例17?23が記載されていますが、平均粒径が0.9μmのボロン粉末を使用したものしかありません。
例えば、平均粒径が0.1μm未満や6μm、9μm、51μm、99μm、及び100μmより大きいボロン粉末を使用した試験例等の必要性について検討して下さい。

2 請求項1、3の「平均粒径1?10μmの5-アミノテトラゾール」について

(1) 本願明細書【0057】?【0060】には、5-アミノテトラゾールを用いた試験例17?23がありますが、当該「5-アミノテトラゾール」の粒径が不明ですので、具体的な値を説明して下さい。

(2) 本願明細書【0035】には、「また、第2実施形態の発熱組成物においては第2の燃料成分として5-アミノテトラゾールが含有される。5-アミノテトラゾールはボロンとともに発熱組成物中に含有されることにより、発熱組成物の着火性能の向上に寄与する。5-アミノテトラゾールは、好ましくは平均粒径0.1?100μmの範囲、より好ましくは1?50μmの範囲、さらに好ましくは1?10μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。そして、発熱組成物中における5-アミノテトラゾールの含有比率は、好ましくは0.01質量%以上5質量%未満であり、より好ましくは3?4.5質量%である。」と記載されていますが、「平均粒径0.1?100μmの範囲」、「1?50μmの範囲」、「1?10μmの範囲」が、それぞれ好ましいとする具体的な理由(特に、「1?10μmの範囲」が「さらに好ましく」の点)について、説明して下さい。

(3) 本願明細書【0057】?【0060】には、5-アミノテトラゾールを用いた試験例17?23が記載されていますが、5-アミノテトラゾールの平均粒径は、不明です。
例えば、平均粒径が0.1μm未満や11μm、15μm、51μm、99μm、及び100μmより大きい5-アミノテトラゾールを使用した試験例等の必要性について検討して下さい。

3 請求項1、3の「『-40℃における着火時間が1.1ミリ秒以下である』『発熱組成物』」について

(1) 本願明細書【0058】には、「【表4】

表4に示すように、含有水分比率が0.7質量%以下である試験例17及び18は、着火時間が1.1ミリ秒以内であり、着火性能に優れていることが分かる。一方、含有水分比率がそれぞれ0.96質量%及び2.07質量%である試験例19及び20は着火時間が1.1ミリ秒を超えており、試験例17及び18と比較して着火性能が低下していることが分かる。」と、また、平成26年8月25日付け意見書第3頁第3?5行には、「[表4]に示される、含有水分比率に対する着火時間の変化は、含有水分比率の低下に応じて連続的に推移するものではなく、特定の含有水分比率を境に階段状に変化しています。」と、さらに、平成27年6月5日に提出された審判請求書第6頁下から第8行?第7頁第4行には、「本願の出願当初の段落[0058]の[表4]には、含有水分比率を0.22質量%、0.65質量%とした試験例17、18では、-40℃における着火時間がそれぞれ0.96秒(当審注:「0.96ミリ秒」の誤記と認定する。)、0.90秒(当審注:「0.90ミリ秒」の誤記と認定する。)であるのに対し、含有水分比率が0.7質量%を超える試験例19、20では、-40℃における着火時間がともに1.34秒(当審注:「1.34ミリ秒」の誤記と認定する。)という結果が示されている。これら結果を下の[参考図]に示すと、水分含有比率が0.7質量%を変曲点として-40℃における着火時間の挙動が大きく異なることがわかる。

[参考図]含有水分比率と着火時間との関係を示す図。

これは、水分含有比率を0.7質量%以下と規定している本願発明1に特有の効果であると言え、-40℃における着火時間は、発熱組成物の水分含有比率に単に比例するものではなく、特定の値を境として大きく変動することを示すものである。」(当審注:下線は当審において付記したものです。以下同じ。)と、それぞれ記載されています。そして、上記[参考図]より、0.7質量%が変曲点であるならば、その時の着火時間が1.1ミリ秒であることに基いて、請求項1の「1.1ミリ秒」の根拠としています。
しかしながら、当審においては、表4及び[参考図]のデータ数が「4」しかないため、「0.7質量%を変曲点」とするかどうか、「階段状に変化」する、または、「挙動が大きく異なる」のかどうか、一概に断定することができないと考えています。
そこで、「含有水分比率」について、例えば、0.7、0.8、0.9、1.5等である試験例を加えた上で、各着火時間がどのように変化するのか説明して下さい。

第2 平成27年10月22日に提出された上申書について

上記上申書第3頁第10?12行には、「水に不溶性の燃焼成分の粒径を揃えることで、各成分と溶媒との馴染みやすさを実現して、製造時の取り扱いを容易にしつつ優れた着火性能の燃焼組成物が得られるものである。」と、また、同頁第19?21行には、「引用例Aでは、水に不溶性の燃焼成分を、水系の溶媒に馴染みやすくするとの技術思想が存在しないのであるから、燃焼成分の粒径を小さくして所定範囲に揃える構成とするべき動機づけを見出すことができない。」と、それぞれ記載されています。

1 「揃える」について

当審においては、上記「粒径を揃える」、「粒径を小さくして所定範囲に揃える」の技術的意味(特に、「揃える」の点。)が不明ですので、それぞれ説明して下さい。

2 「馴染み」について

当審においては、各成分と溶媒とが馴染みやすいのかどうかについて、どのような指標に基いて上記上申書で述べているのか不明ですので、具体的な実験例(例えば、平均粒径が、0.1μm、1.0μm、10μm、100μm等)の必要性について検討して下さい。

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[付言]

本願は、平成27年10月22日に提出された上申書によると、本件補正後の請求項1の記載を下記の補正案のとおりとすると述べているので、念のため、この補正案に係る発明(以下、「本件補正発明’」という。)について更に検討する。

「[請求項1]
(A2)平均粒径0.1?5.0μmのボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶
性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、平均粒径
1?10μmの5-アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物
を乾燥させてなるペレット状の発熱組成物であって、
前記(A2)ボロンの含有比率が14質量%以上50質量%以下であるとともに、前記
5-アミノテトラゾールの含有比率が0.01質量%以上5質量%未満であり、
含有水分比率が0.7質量%以下であり、
発熱量が6400J/g以上であり、
-40℃における着火時間が1.1ミリ秒以下であることを特徴とする発熱組成物。」(当審注:下線部は請求人によるものであり、本件補正発明との差異を表すものである。)

本件補正発明’と引用発明とを対比すると、一致点は、上記2の(2)で述べたものと同一であり、また、相違点も上記2の(2)で述べた相違点1?6のほかに下記点で相違する。

<相違点7>

ボロンの含有比率について、本件補正発明’では、「14質量%以上50質量%以下」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定を有していない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1?6については、同じく上記2の(3)で述べたとおりであり、相違点7について検討する。

<相違点7>について

ボロンの含有比率について、引用文献の上記摘記事項エの【0014】によれば、「金属粉末の伝火薬成形体への含有量(割合)は多くなるほど発熱量は増加し、金属熱粒子も多くなる。その含有量は、5?30重量%が好ましく、より好ましくは、16?25重量%である。」と記載されており、ここで、当該「金属粉末」が「ボロン」を指すことは、同じくエの【0037】から明らかである。
したがって、引用文献には、ボロンの含有比率を「5?30質量%」と設定できることが示唆されており、ボロンの含有比率について、本件補正発明’と引用文献に記載された事項とは、「14?30質量%」とする点で重複するものである。
そうすると、ボロンの含有比率について、本件補正発明’のように、「14?50質量%」と特定することは、引用文献に記載されている上記摘記事項エの記載を参考にするならば、当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。
一方、本件補正発明’は、ボロンの含有比率について、本願明細書を参照するに、本願明細書の【0034】に、「発熱組成物中におけるボロンの含有比率は、好ましくは10?50質量%であり、より好ましくは14?50質量%である。」と記載されているだけであって、本件補正発明’で特定する「14?50質量%」と定めることの技術的な理由(意義)についての記載(説明)はなされていず、さらに、本件補正発明’に対応する実施例を参照しても、同じく【0060】に、「表5に示すように、燃料成分としてボロン粉末を含有させた場合にも、高い発熱量を得ることができることが分かる。とくに、ボロン粉末を14質量%以上含有する試験例22及び23においては、6400J/g以上の高い発熱量を得ることができた。」旨記載されているだけであって、ここからは、発熱量を「6400J/g以上」にするには、ボロン粉末を14質量%以上含有させればよいことが解るだけであって、しかも当該発熱量を「6400J/g以上」にすることについては、上記2の(3)の「<相違点5>について」で述べたとおりであり、当該数値範囲(「14?50質量%」)に臨界的意義を認めることはできない。
また、この点により、本件補正発明’が格段の作用効果を奏したものとはいえない。

したがって、本件補正発明’としても、引用発明及び引用文献の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、本件補正発明’は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているものではない。

3 補正の却下の決定のまとめ

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について

1 本件発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成26年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項6に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2の1の(1)に示したとおりのものであり、再掲すると以下のとおりである。

「【請求項6】
(A2)平均粒径0.1?5.0μmのボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、平均粒径1?10μmの5-アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるペレット状の発熱組成物であって、
含有水分比率が0.7質量%以下であり、
発熱量が6400J/g以上であり、
-40℃における着火時間が1.1ミリ秒以下であることを特徴とする発熱組成物。」

2 引用文献・引用発明

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の2の(1)に示したとおりである。

3 判断

本件発明は、前記第2で検討した本件補正発明の発明特定事項である、「5-アミノテトラゾール」の含有比率について、「0.01質量%以上5質量%未満」とするとの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記第2の2の(3)に記載したとおり、引用発明及び引用文献の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結語

以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-09 
結審通知日 2016-11-15 
審決日 2016-11-28 
出願番号 特願2011-54585(P2011-54585)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
國島 明弘
発明の名称 発熱組成物、及びその製造方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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