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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J |
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管理番号 | 1324031 |
審判番号 | 不服2016-8824 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-14 |
確定日 | 2017-02-13 |
事件の表示 | 特願2011-265025「記録媒体に印刷するためのインクプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日出願公開、特開2012-121326、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成23年12月2日(パリ条約による優先権主張2010年(平成22年)12月3日、独国)の出願であって、平成26年8月22日付けで手続補正書が提出され、平成27年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月5日付け(謄本送達日同月15日)で拒絶査定がなされた。これに対し、同年6月14日付けで審判請求書が提出されると同時に、同日付けで手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年6月14日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)の適否 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に「脱気されることになるインクが供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部(34)を介して前記中間インク容器(30)に案内する、脱気装置(26)」とあるのを、「脱気されることになるインクが中間インク容器(30)から脱気流出部(33)を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部(34)を介して前記中間インク容器(30)に案内する、脱気装置(26)」と補正するものである。(下線は、補正した箇所を明らかにするために当審にて付した。) 2 補正の適否の判断 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「脱気されることになるインクが供給され」ることについて、「脱気されることになるインクが中間インク容器(30)から脱気流出部(33)を介して供給され」ることに限定するものであって、補正前の請求項1ないし5に記載された発明と補正後の請求項1ないし5に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された、請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。 (1)補正発明 補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、以下のとおりのものである。 【請求項1】 記録媒体(10)に印刷するためのインクプリンタにおいて、 前記記録媒体(10)にインク滴を加圧して吐出する少なくとも1つのプリントヘッド(12)と、 インク貯蔵容器(14)と前記プリントヘッド(12)との間に介在し、インクを前記プリントヘッド(12)に必要に応じて供給する中間インク容器(30)と、 脱気されることになるインクが中間インク容器(30)から脱気流出部(33)を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部(34)を介して前記中間インク容器(30)に案内する、脱気装置(26)と、を備え、 前記脱気流入部(34)から流れるインクがまず、上方から見て前記中間インク容器(30)の中央に向かって且つ前記中間インク容器(30)の底部(45)に向かって所定の傾斜角度(α)を成して流出して、前記底部(45)によって変向され、次いで前記中間インク容器(30)の容器壁(46)によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記中間インク容器(30)の領域の内側において底部(45)に対して間隔を持って前記底部(45)に向かって傾いて配置されており、これによりインク流が前記中間インク容器(30)において形成され、前記インク流により前記中間インク容器(30)内においてインクの混合が行われることを特徴とする、記録媒体に印刷するためのインクプリンタ。 (2)刊行物 ア 引用文献1 原査定の理由で引用された特開2007-21723号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。 (ア) 「【0002】 記録媒体に対して印字ヘッドからインクを吐出し画像を形成するインクジェット画像形成装置は、複数のノズルを高密度に配置した小型の印字ヘッドにより高精度な画像を形成することができる。さらに、印字ヘッドを複数個並べて配置し各ヘッドに異なる複数色のインクを供給することで、安価で小型な構成でカラー画像が得られる。あるいは、略一列状に並べて幅広の大判の記録媒体に印字できるなど、多くの利点を持っている。」 (イ) 「【0017】 インクタンク1にはインクが充填されており、液送ポンプ2で吸い上げられ脱気装置3に送られる。次に脱気装置3内部の構成の一例を図2で説明する。」 (ウ) 「【0022】 脱気装置を通過したインクは印字ヘッド6にインクを供給するためにサブタンク4に貯留される。一方、印字ヘッドにより画像を印字するためのデータ、及び、そのために印字ヘッドを駆動し、制御するために、ヘッド供給ポンプ5及び、印字ヘッド駆動基板9、液給送ポンプ2、8、は電送ケーブルにより駆動制御部10に接続されている。駆動制御部は印字データの送り込み、印字ヘッドの駆動制御のためにPC11に接続されている。(図8)」 (エ) 「【0029】 図4はインクタンクより印字ヘッドにインクを供給するインク流路と独立してインクタンク内のインクを脱気する脱気装置及びインク送液手段を備えたことを特徴とするインクジェット画像形成装置のインク流路の概略図である。印字ヘッドへのインク供給の流れは先述した実施例1と同じである。インクタンク内のインクの脱気について下記で説明する。 【0030】 インクタンク内のインクは液送ポンプ2・1によりインクタンクよりくみ上げられる。このとき、インク内の溶存酸素濃度を検知する検知部20を通過して送られる。 【0031】 検知部20は、脱気装置制御部21に検知したデータを送る。脱気装置制御部21には所定の溶存酸素濃度を維持するプログラムが組み込まれており、検知部20を通過するインクの溶存酸素濃度が所定の値を超えている時は、脱気装置3の真空ポンプ13を作動させ、脱気装置3を通過するインクから溶存酸素を吸引していく。 【0032】 溶存酸素濃度が低下したインクは、インクタンク1に戻る。このようにして、インクタンク内のインクが検知部20を通過する時の溶存酸素濃度が所定の値まで降下するまで液送ポンプ2・1はインクを脱気装置3に送りつづけ、脱気装置3は真空ポンプを作動しつづけて脱気作業を継続する。(図7) 【0033】 以上により、インクタンク1より印字ヘッド6につながるサブタンク4にインクを供給する液送ポンプ2は、溶存酸素濃度が所定の値より低い濃度のインクを印字のために供給することが可能となる。」 上記(ア)ないし(エ)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「記録媒体に対して印字ヘッドからインクを吐出し画像を形成するインクジェット画像形成装置であって、 インクタンク1にはインクが充填されており、 印字ヘッド6にインクを供給するためにサブタンク4を備え、 液送ポンプ2は、インクタンク1より印字ヘッド6につながるサブタンク4にインクを供給し、 インクタンクより印字ヘッドにインクを供給するインク流路と独立してインクタンク内のインクを脱気する脱気装置及びインク送液手段を備え、 インクタンク内のインクの脱気については、インクタンク内のインクは液送ポンプ2・1によりインクタンクよりくみ上げられ、 脱気装置3は通過するインクから溶存酸素を吸引し、 溶存酸素濃度が低下したインクは、インクタンク1に戻る、 インクジェット画像形成装置。」 イ 引用文献2 原査定の理由で引用された特開2010-214721号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器であって、 前記液体を収容する液体収容部と、 前記液体を前記液体噴射装置へ供給するための液体供給口と、 前記液体収容部に収容されている液体を前記液体供給口を介して前記液体噴射装置へ供給する供給ポンプと、 を備える液体収容容器。 【請求項2】 請求項1記載の液体収容容器であって、更に、 前記供給ポンプと前記液体供給口との間に設けられ、前記液体の圧力を調整する圧力調整手段を備える、 液体収容容器。 【請求項3】 請求項2記載の液体収容容器であって、更に、 前記圧力調整手段と前記液体収容室を接続し、前記圧力調整手段から前記液体収容室に前記液体を戻すための接続手段を備える、 液体収容容器。 【請求項4】 請求項3記載の液体収容容器であって、 前記接続手段は、前記接続手段を介して前記液体収容部内に戻された液体によって前記液体収容部内の液体の攪拌を促す位置に設けられている、 液体収容容器。」 (イ) 「【請求項6】 請求項4記載の液体収容容器であって、 前記液体収容部は、開口部を有し、 前記接続手段の前記液体収容部側の端部は、前記開口部に接続されているとともに、前記液体収容容器が前記液体噴射装置に装着された状態で鉛直下方に延伸するように形成されている、 液体収容容器。」 (ウ) 「【0002】 インクジェットプリンタなどの液体噴射装置に装着される液体収容体として、例えば、インクジェットプリンタに搭載されるインクカートリッジが利用されている。従来、インクを供給するためのインク供給ポンプは液体噴射装置に設けられており、インク供給ポンプを駆動してインクカートリッジから液体噴射装置へインクの供給が行われている。」 (エ) 「【0031】 図3及び図4に示すように、カートリッジ本体10は、空気室100と、インク収容室110と、供給ポンプ120と、バッファ室130と、圧力調整弁140と、インク供給口150と、インクを流通させるための連通部160?163と、バッファ室130とインク収容室110とを連通して接続する連通部170とを備える。空気室100とインク収容室110とを仕切る仕切板105の鉛直方向下方に、空気室100とインク収容室110とを連通する開口部107が形成されている。供給ポンプ120とバッファ室130は連通部161によって連通されており、バッファ室130と圧力調整弁140とは連通部162によって連通されており、圧力調整弁140とインク供給口150とは連通部163によって連通されている。連通部163は、連通孔163a、163b、溝163cおよび連通路163dとから構成されている。溝163cはカートリッジ本体10の背面側に形成されている。カートリッジ本体10の背面側にフィルムが貼り付けられることにより、溝163cは密封された空間となり、連通孔163aから連通孔163bにインクを流通させることができる。インクは、圧力調整弁140から連通孔163aを介して溝163cを流れ、連通孔163bを介して連通路163dを通りインク供給口150に供給される。連通部160、161,162および163は、インクを流通させるための流路として機能するので、以降、実施例では、連通部160、161,162および163をインク流路160、161,162および163と呼ぶ。第1実施例において、インク収容室110、供給ポンプ120、は、それぞれ、特許請求の範囲の「液体収容部」、「供給ポンプ」にあたる。また、バッファ室130および圧力調整弁140は、特許請求の範囲の「圧力調整手段」に当たる。」 (オ) 「【0034】 バッファ室130は、供給ポンプ120および圧力調整弁140と接続されており、供給ポンプ120から供給されたインクを一時的に貯蔵する。バッファ室130内に貯蔵されているインクは、圧力調整弁140を介してインク供給口150へ供給される。また、バッファ室130は、連通部170を介してインク収容室110と接続されており、バッファ室130内に貯蔵されているインクのうち、圧力調整弁140へ供給されないインクは、連通部170を介してインク収容室110へ戻される。このように、連通部170は、圧力調整弁140を通過しないインクをインク収容室110へ再度戻すバイパスの機能を有している。よって、以降、実施例では、連通部170をバイパス流路170と呼ぶ。第1実施例におけるバイパス流路170は、特許請求の範囲における「接続手段」に当たる。」 (カ) 「【0064】 図10は、変形例(1)におけるカートリッジ本体10aの内部構成を例示する斜視図である。カートリッジ本体10aにおいて、インク導入口114の位置およびバイパス流路170aの形状以外は、第1実施例のカートリッジ本体10と同一の構成である。カートリッジ本体10aにおいて、インク導入口114は、インク導出口112よりも鉛直上方に形成されている。バイパス流路170aは、インク導入口114に接続されている一端が、カートリッジ本体10aの鉛直下方、すなわち、底面11に向かう方向(矢印R10)に延伸するように形成されている。このように形成することにより、バイパス流路170aからインク収容室110内へ戻されたインクは底面11に向かって流動し、同時に供給ポンプ120によって矢印R11に示すように、インク導出口112からインクが導出され流動している。従って、変形例(1)のカートリッジ本体10aによれば、インク収容室110内のインクを流動させ、矢印R12に示すように、インク収容室110内のインクを攪拌することができる。」 (キ) 【図10】より、バイパス流路170aのインク収容室110側の端部であるインク導入口114からインク収容室110内へ戻されたインクは、インク収容室110の底面11に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、底面11によって変向され、次いでインク収容室110の容器壁によって変向され、インク導入口114は、インクで満たされているインク収容室110の領域の内側において底面11に対して間隔を持って配置されていることが見て取れる。 (ク) 上記(ウ)ないし(オ)の記載から、上記(ア)、(イ)の「液体」には「インク」が含まれることは自明である。 上記(ア)ないし(ク)を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「インクジェットプリンタにインクを供給するインクカートリッジであって、 前記インクを収容するインク収容室と、 前記インクを前記インクジェットプリンタへ供給するためのインク供給口と、 前記インクカートリッジに収容されているインクを前記インク供給口を介して前記インクジェットプリンタへ供給する供給ポンプと、 前記供給ポンプと前記インク供給口との間に設けられ、前記インクの圧力を調整する圧力調整手段と、 前記圧力調整手段と前記インク収容室を接続し、前記圧力調整手段から前記インク収容室に前記インクを戻すためのバイパス流路を備え、 前記バイパス流路は、前記バイパス流路を介して前記インク収容室内に戻されたインクによって前記インク収容室内のインクの攪拌を促す位置に設けられ、 前記インク収容室は、開口部を有し、 前記バイパス流路の前記インク収容室側の端部は、前記開口部に接続されているとともに、前記インクカートリッジが前記インクジェットプリンタに装着された状態で鉛直下方に延伸するように形成され、 前記バイパス流路の前記インク収容室側の端部であるインク導入口から前記インク収容室内へ戻されたインクは、前記インク収容室の底面に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底面によって変向され、次いで前記インク収容室の容器壁によって変向され、前記インク導入口は、インクで満たされているインク収容室の領域の内側において前記底面に対して間隔を持って配置されている、 インクカートリッジ。」 (3)対比 補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「記録媒体に対して印字ヘッドからインクを吐出し画像を形成するインクジェット画像形成装置」は、補正発明の「記録媒体(10)に印刷するためのインクプリンタ」に相当する。 引用発明1の「インクジェット画像形成装置」において、「印字ヘッド」が「インク滴を加圧」することは技術常識であるから、引用発明1の「記録媒体に対して」「インクを吐出」する「インクヘッド」は、補正発明1の「前記記録媒体にインク滴を加圧して吐出する少なくとも1つのプリントヘッド」に相当する。 引用発明1の「インクタンク」は、補正発明の「インク貯蔵容器」に相当する。 引用発明1の「サブタンク4」は、「印字ヘッド6にインクを供給する」ものであって、なおかつ「インクタンク1」より「インクを供給」されるものであるから、補正発明の「インク貯蔵容器と前記プリントヘッドとの間に介在し、インクを前記プリントヘッドに必要に応じて供給する中間インク容器」に相当する。 引用発明1の「通過するインクから溶存酸素を吸引」する「脱気装置3」は、「インクタンク内のインクは液送ポンプ2・1によりインクタンクよりくみ上げられ」、「インク」が「通過し」、「溶存酸素濃度が低下したインクは、インクタンク1に戻る」ものであるから、補正発明の「脱気されることになるインクが脱気流出部を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部を介して案内する、脱気装置」に相当する。 以上より、補正発明と引用発明1とは、 「記録媒体に印刷するためのインクプリンタにおいて、 前記記録媒体にインク滴を加圧して吐出する少なくとも1つのプリントヘッドと、 インク貯蔵容器と前記プリントヘッドとの間に介在し、インクを前記プリントヘッドに必要に応じて供給する中間インク容器と、 脱気されることになるインクが脱気流出部を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部を介して案内する、脱気装置と、を備える、 記録媒体に印刷するためのインクプリンタ。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 補正発明は、脱気されることになるインクが「中間インク容器」から脱気流出部を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部を介して前記「中間インク容器」に案内する、脱気装置を備え、 「前記脱気流入部から流れるインクがまず、上方から見て前記中間インク容器の中央に向かって且つ前記中間インク容器の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記中間インク容器の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記中間インク容器の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されており、これによりインク流が前記中間インク容器において形成され、前記インク流により前記中間インク容器内においてインクの混合が行われる」のに対し、 引用発明1は、脱気されることになるインクが「インク貯蔵容器」から脱気流出部を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部を介して前記「インク貯蔵容器」に案内する、脱気装置を備え、 「前記脱気流入部から流れるインクがまず、上方から見て前記中間インク容器の中央に向かって且つ前記中間インク容器の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記中間インク容器の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記中間インク容器の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されており、これによりインク流が前記中間インク容器において形成され、前記インク流により前記中間インク容器内においてインクの混合が行われる」ものではない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 引用発明2の「底面」、「インク導入口」は、それぞれ補正発明の「底部」、「方向付与部」に相当する。 引用発明2の「インクカートリッジ」の「インク収容室」と、補正発明の「中間インク容器」とは、「インクの容器」である点で共通する。 引用発明2の「バイパス流路」と、補正発明の「脱気流入部」とは、インクの容器にインクを流入させる「流入部」である点で共通する。 引用発明2の「前記バイパス流路の前記インク収容室側の端部であるインク導入口から前記インク収容室内へ戻されたインクは、前記インク収容室の底面に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底面によって変向され、次いで前記インク収容室の容器壁によって変向され、前記インク導入口は、インクで満たされているインク収容室の領域の内側において前記底面に対して間隔を持って配置されている」ことと、補正発明の「前記脱気流入部から流れるインクがまず」、「前記中間インク容器の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記中間インク容器の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記中間インク容器の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されて」いることとは、「流入部」から流れるインクがまず、「インクの容器」の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記「インクの容器」の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている「インクの容器」の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されている点で共通する。 引用発明2の「インク収容室内に戻されたインクによって前記インク収容室内のインクの攪拌を促す」ことと、補正発明の「インク流が前記中間インク容器において形成され、前記インク流により前記中間インク容器内においてインクの混合が行われる」こととは、インク流が「インクの容器」において形成され、インク流により「インクの容器」内においてインクの混合が行われる点で共通する。 以上より、上記相違点に関し、引用発明2は、以下の点を備えている。 「流入部」から流れるインクがまず、「インクの容器」の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記「インクの容器」の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記「インクの容器」の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されており、これにより前記インク流が「インクの容器」において形成され、前記インク流により前記「インクの容器」内においてインクの混合が行われる点。 しかしながら、上記相違点に係る補正発明の発明特定事項に関し、引用発明2は、以下の点を備えていない。 脱気されることになるインクが「中間インク容器」から脱気流出部を介して供給されて、かつ、該インクを脱気後に脱気流入部を介して前記「中間インク容器」に案内する、脱気装置を備え、 前記「脱気流入部」から流れるインクがまず、「上方から見て前記中間インク容器に向かって」且つ前記「中間インク容器」の底部に向かって所定の傾斜角度を成して流出して、前記底部によって変向され、次いで前記「中間インク容器」の容器壁によって変向されるように、少なくとも1つの流れ方向付与部が、インクで満たされている前記「中間インク容器」の領域の内側において底部に対して間隔を持って前記底部に向かって傾いて配置されており、これによりインク流が前記「中間インク容器」において形成され、前記インク流により前記「中間インク容器」内においてインクの混合が行われる点。 上記の点のうち、本件補正発明が備える、「脱気流入部」から流れるインクによりインクの混合が行われる点について検討すると、仮に引用発明1に引用発明2を適用しても、引用発明1の「インクタンク」に「バイパス流路」を備えるものが構成されるに過ぎず、インク流によりインクの混合が行われるための流路を「脱気流出部」とすることまでは、導き出すことはできない。 また、流れるインクが「上方から見て」「中央」に向かう点について検討すると、この点が設計的事項であるとする根拠はない。そして、これにより補正発明が奏する効果について、本願明細書の段落【0055】には以下の記載がある。 「【0055】 図4,5に示すように、流入する脱気されたインクにより生成された流れは、まずほぼ半径方向内方にほぼ中心軸線48を通って(円筒状の中間インク容器30における水平方向の軸線:中間インク容器30の中心軸線45により示してある図5参照)方向付けられていて、かつ下方に方向付けられている主流42である。底部45及び/又は容器壁46における変向後に、インクは上方に実質的に2つの部分流43になって流れる。主流42が依然として層状に流れている一方で、部分流43は一層乱れて上方に向かう。したがって、中間インク容器30内の全てのインクを混合する全体流が形成される。」 この記載から、流れるインクが「上方から見て」「中央」に向かうことにより、補正発明は、「インクにより生成された流れは、容器壁における変向後に、2つの部分流になって流れ、全てのインクを混合する全体流が形成される。」という顕著な効果を奏するものである。 したがって、補正発明が備える流れるインクが「上方から見て」「中央」に向かうことについて、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到し得たということはできない。 また、平成28年8月8日付けの前置報告において引用された特開2005-59476号公報、特開2005-262876号公報、特開平11-42795号公報、特開2006-281532号公報についてみても、「脱気流入部」から流れるインクによりインクの混合が行われる点、及び流れるインクが「上方から見て」「中央」に向かう点を開示していない。 よって、補正発明は、当業者が引用発明1及び2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおり、補正発明は、当業者が引用発明1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、他に補正発明を拒絶すべき理由を発見しない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合する。 3 本件補正の適否のまとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3 原査定の理由について 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するものであるから、本願請求項1ないし5に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、上記第2の2のとおり、補正発明は、当業者が引用発明1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、補正発明を引用する請求項2ないし5に係る発明は、補正発明をさらに限定したものであるから、補正発明同様に、当業者が引用発明1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本願については、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-30 |
出願番号 | 特願2011-265025(P2011-265025) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B41J)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藏田 敦之 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
植田 高盛 吉村 尚 |
発明の名称 | 記録媒体に印刷するためのインクプリンタ |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 上島 類 |
代理人 | 二宮 浩康 |