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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H01L 審判 全部無効 特174条1項 H01L 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 H01L 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1324049 |
審判番号 | 無効2013-800114 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-06-28 |
確定日 | 2017-02-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2780618号発明「窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認めない。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 事案の概要 本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第2780618号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。 第2 手続の経緯 1 設定登録の経緯 本件特許は、平成5年11月6日に出願され、平成9年10月20日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について手続補正がなされ、平成10年5月15日にその設定登録がなされたものである。 2 本件審判の経緯 平成25年 6月28日 審判請求 平成25年 9月20日 審判事件答弁書提出(被請求人) 平成25年 9月20日 訂正請求書提出(被請求人) 平成25年11月29日 審判事件弁駁書提出(請求人) 平成26年 4月28日 口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成26年 4月28日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成26年 5月13日 口頭審理 平成26年 6月27日 上申書(請求人) 第3 訂正請求についての当審の判断 1 訂正請求の内容 平成25年9月20日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書(以下「本件特許明細書」という。)についてするものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(下線は、平成25年9月20日付けの訂正請求書に添付した明細書のとおりである。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、 「前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、」 とあるのを、 「前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から窒化ガリウム系化合物半導体層を貫通しない深さで第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、」 と訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、 「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、」 とあるのを、 「第一の割り溝の一部領域に、電極が形成できる平面であって、かつ前記線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成する工程と、」 と訂正する。 (3) 訂正事項3 発明の詳細な説明の段落【0007】において、 「 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明の窒化物半導体チップの製造方法は、サファイア基板上に窒化物半導体を積層したウエハーから窒化物半導体チップを製造する方法を改良したものである。本発明の製造方法は、ウエハーの窒化物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、前記第一の割り溝、および前記第二の割り溝に沿って前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする。」 とあるのを、 「 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明の窒化物半導体チップの製造方法は、サファイア基板上に窒化物半導体を積層したウエハーから窒化物半導体チップを製造する方法を改良したものである。本発明の製造方法は、ウエハーの窒化物半導体層側から窒化ガリウム系化合物半導体層を貫通しない深さで第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部領域に、電極が形成できる平面であって、かつ前記線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成する工程と、ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、前記第一の割り溝、および前記第二の割り溝に沿って前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする。」 と訂正する。 2 訂正請求に関する被請求人の主張の概要 (1) 訂正事項1について ア 訂正事項1は、第一の割り溝の深さを特定していなかった、ないしは明確にしていなかったところ、第一の割り溝の深さを、窒化ガリウム系化合物半導体層を貫通しない深さに、限定ないし明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない(訂正請求書4頁11行ないし5頁2行)。 イ 訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0016】、【0018】、【0019】の記載、及び願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)の図1、図4に基づくものである。 (ア) 【0016】にて説明されている図1及び図4には、エッチングにより線状に形成される第一の割り溝(図1における符号11)の深さを、窒化ガリウム系化合物半導体層(図1及び図4において、符号2及び3で表される層を合わせた層)を貫通しないような深さとすることが記載されている。 (イ) 実施例1について、【0018】の記載によれば、厚さ6μmの窒化ガリウム系化合物半導体層を構成していることは明らかで、【0019】には、第一の割り溝の深さを2μmとすることが記載されているから、第一の割り溝の深さが窒化ガリウム系化合物半導体層を貫通していないことは明らかである。 (ウ) 以上のとおりであるから、訂正事項1は、本件明細書または本件図面に記載した事項の範囲内の訂正である(訂正請求書5頁3行ないし7頁16行)。 (2) 訂正事項2について ア 訂正事項2は、線状に形成される第一の割り溝と電極が形成できる平面との関係を特定または明確にしていなかったところ、電極が形成できる平面が第一の割り溝の一部領域に形成されること、および電極が形成できる平面が線状にエッチングされた部分とは別の平面であることを特定事項として追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない(訂正請求書7頁21行ないし8頁15行)。 イ 訂正事項2は、本件明細書の【0016】及び本件図面の図4に基づくものである。 図4には、【0016】に「図4は、図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であり、第一の割り溝11の形状を示していると同時に、チップ形状も示している。 この図では、p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成し、さらにp型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状としており、この切り欠いた部分にn層の電極を形成することができる。」と記載のとおり、p型層3を所定の線幅W1でエッチングして形成された、第一の割り溝と共に、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状が示されている。 さらに、図4には、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状が、線幅W1の第一の割り溝の一部領域に、線幅W1の第一の割り溝とへ別の平面を形成していることが示されている。このように、本件明細書及び本件図面には、第一の割り溝の一部領域に、電極が形成できる平面であって、かつ前記線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成する工程が記載されている(訂正請求書8頁16行ないし9頁下から6行)。 以上のとおりであるから、訂正事項2は、本件明細書または本件図面に記載した事項の範囲内の訂正である(訂正請求書9頁下から5行ないし3行)。 ウ 口頭審理陳述要領書の主張 (ア) 訂正後の請求項1に「第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部領域に電極が形成できる平面であって、かつ前記線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成する」と明確に記載されているところ、「共に・・・形成する」とは、両者がエッチングにより同時に形成されるとの意味であるから、両者が垂直方向に見て同一の平面であることは明らかである(口頭審理陳述要領書9頁下から6行ないし10頁3行)。 (イ) 訂正事項2に係る訂正の目的は、第一の割り溝と電極が形成できる平面との水平方向の位置関係を特定ないし明確化することにある。すなわち、電極が形成できる平面が第一の割り溝の一部領域に形成されること、及び電極が形成できる平面が線状にエッチングされた部分とは別の平面、すなわち水平方向に見て異なる位置を占める平面であることを特定事項として追加することにより、電極が形成できる平面が線状にエッチングされた部分の(水平方向に見た)平面の一部分に完全に取り込まれてしまうような位置関係にないことを明らかにしようとしたものである(口頭審理陳述要領書11頁下から6行ないし12頁5行)。 (ウ) 訂正事項2にいう「前記線状にエッチングされた部分とは別の平面」の意義は、「水平方向に見て別の平面」の意味であるところ、両者が水平方向に見て別の平面を成す例は、本件明細書の段落【0016】及び図4に明記されているから、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書及び本件図面に記載された事項の範囲内のものである(口頭審理陳述要領書12頁14行ないし19行)。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正との整合を図るため、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない(訂正請求書10頁7行ないし12頁5行)。 3 訂正請求に関する請求人の主張の概要 本件訂正のうち、訂正事項2にかかる訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であり、本件明細書又は本件図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない(弁駁書5頁下から4行ないし末行)。 (1) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であること 訂正前は、「線状にエッチングにより形成」された一部に「電極が形成できる平面を形成」していたのに、本件訂正により、「線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成」することになっており、「電極を形成できる平面」の位置が変わってしまっている。 第一の割り溝の線幅がW1であることを、被請求人自らが認めており、訂正前の「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程」というものは、線幅W1の第一の割り溝の一部に電極が形成されることを意味している。他方で、訂正後は、電極を形成する平面は、線幅W1の第一の割り溝とは別の平面である。 したがって、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であることは明らかである(弁駁書6頁1行ないし7頁11行)。 (2) 本件明細書又は本件図面に記載した事項の範囲内の訂正ではないこと 本件明細書の【0016】及び本件図面の図4には、線幅W1の第一の割り溝とは別の領域に(一部領域ではない)、電極が形成できる平面であって、かつ前記線状にエッチングされた部分とは別の平面を形成する工程が記載されているにすぎない。「第一の割り溝の一部領域」に「電極が形成できる平面」は、図4にも【0016】にも記載されていない。 よって、訂正事項2は、本件明細書又は本件図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない(弁駁書7頁12行ないし8頁5行)。 4 訂正請求に関する当審の判断 (1) 被請求人は、訂正事項2に係る訂正の根拠として、本件特許明細書の段落【0016】及び図4を挙げている。 ア 【0016】は次のものである。 「【0016】図4は、図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であり、第一の割り溝11の形状を示していると同時に、チップ形状も示している。この図では、p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成し、さらにp型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状としており、この切り欠いた部分にn層の電極を形成することができる。」 イ 図4は次のものである。 ウ 【0016】で言及されている図1は、次のものである。 エ 【0016】の記載によれば、図4は「図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図」であり、本件明細書の「【0012】【作用】本発明の製造方法の作用を図面を元に説明する。図1ないし図4は本発明の製造方法の一工程を説明する図である。図1はサファイア基板1の上にn型窒化物半導体層2(n型層)と、p型窒化物半導体層3(p型層)とを積層したウエハーの模式断面図である。」との記載によれば、図1は、「n型層とp型層とを積層したウエハーの断面図」である。 訂正請求書8頁16行以下の記載(上記2(2)イ参照。)によれば、被請求人は、「電極が形成できる平面」とは、「『p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状』の『部分』」であると主張しているものと認められるところ、平面図である図4を見ても、平面に垂直な方向から見た位置関係は把握できないから、「線幅W1の第1の割り溝」と、「『p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状』の『部分』」と解される「電極が形成できる平面」とが、同じ面にあるのか、または別の面にあるのかを把握できない。 また、断面図である図1を見ると、線幅W1の第1の割り溝11は示されているが、「p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状の部分」は示されていないから、両者が同じ面にあるのか、または別の面にあるのかを把握できない。 よって、被請求人が訂正事項2に係る訂正の根拠とする本件特許明細書の記載及び図面からは、「電極が形成できる平面」(p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状の部分)が、「『所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成』された『第1の割り溝』の『線状にエッチングされた部分』」のなす平面とは別の平面であるか否か判断できない。 (2) 一方、本件明細書には、被請求人が「電極が形成できる平面」であると主張する「p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状の部分」が示された図4について、【0016】以外に次のア及びイの記載がある。 ア 「【0012】【作用】本発明の製造方法の作用を図面を元に説明する。図1ないし図4は本発明の製造方法の一工程を説明する図である。・・・この図では、第一の割り溝はp型層3をエッチングして、n型層2を露出するように形成しており・・・」 イ 「【0019】次にこのp型GaN層の上に、フォトリソグラフィー技術によりSiO_(2)よりなるマスクをかけた後、エッチングを行い、図4に示す形状で第一の割り溝を形成する。」 ウ 上記ア及びイの記載によれば、「第1の割り溝」と「電極が形成できる平面」(p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状の部分)とは、マスクを介してp型GaN層をn型層2が露出するまでエッチングして形成されるのであるから、p型GaN層上面から同じ深さにエッチングされた、同じ面上に形成されるものと解される。 してみると、上記記載を訂正事項2に係る訂正の根拠としても、「電極が形成できる平面」は、「『所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成』された『第1の割り溝』の『線状にエッチングされた部分』」のなす平面と同じ平面であって、別の平面ではないといえる。 (3) 上記(1)及び(2)によれば、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正とは認められない。 よって、訂正事項2を含む本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので認められない。 第4 本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められないので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれを、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、本件特許明細書の各請求項に記載された、次のとおりのものと認められる。 「 【請求項1】 サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において、 前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、 前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、 前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする窒化ガリリム系化合物半導体チップの製造方法。 【請求項2】 前記第二の割り溝を形成する前に、前記ウエハーのサファイア基板側を研磨して、サファイア基板の厚さを200μm以下に調整する工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法。 【請求項3】 前記第二の割り溝を形成する工程において、第一の割り溝の底部と第二の割り溝の底部との距離を200μm以下に調整することを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法。 【請求項4】 前記第二の割り溝をスクライブにより形成することを特徴とする請求項1または2に記載の窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法。」 第5 請求人の主張の概要 請求人の主張の概要は、次のとおりである。 1 無効理由 (1) 無効理由1 本件発明1ないし本件発明4は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-129658号公報)に記載された発明と同一、または甲第1号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明1ないし本件発明4についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 (審判請求書2頁15行ないし20行) (2) 無効理由2 本件発明1ないし本件発明4は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(実開平5-59861号公報)に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明1ないし本件発明4についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 (審判請求書2頁21行ないし3頁3行) (3) 無効理由3 本件特許の請求項1?4に記載されている事項は、平成9年10月20日付けの手続補正書により新たに加えられた新規事項であるため、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当するから無効とすべきである。 (審判請求書3頁3行ないし7行) 2 甲号証 請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開平5-129658号公報 甲第2号証:実開平5-59861号公報 甲第3号証:特開昭62-105446号公報 甲第4号証:特開昭53-115191号公報 甲第5号証:特開平5-166923号公報 甲第6号証:異議の決定(平成11年異議第73221号) (以上、審判請求書に添付して提出。) 甲第7号証:「集積回路技術のすべて」 甲第8号証:「固体発光素子とその応用」 甲第9号証:「Definition of scribe line」と題するウエブサイト 甲第10号証:特開昭58-60558号公報 甲第11号証:特開平2-144932号公報 甲第12号証:特開昭62-14441号公報 甲第13号証:特開平4-56250号公報 甲第14号証:平成12年4月30日付意見書 (平成11年異議第73221号のもの) 甲第15号証:特開平3-218625号公報 (平成11年異議第73221号の乙2) 甲第16号証:Fabrication of Properties of GaN P-N Junction LED (平成11年異議第73221号の乙3) 甲第17号証:実開平6-38265号公報 (平成11年異議第73221号の乙4) (以上、審判事件弁駁書に添付して提出。) 甲第18号証:「レーザ微細加工のプロセスと実用例」 (東京地裁平成25年(ワ)第7478号の甲第19号証) 甲第19号証:「LED革新のための最新技術と展望」 (東京地裁平成25年(ワ)第7478号の甲第20号証) (以上、上申書に添付して提出。) 3 請求人の主張の要点 請求人の主張の要点は、以下のとおりである。 ただし、上記第4のとおり、本件訂正は認められないので、本件訂正が認められたことを前提とする主張は省いた。 (1) 無効理由1について ア 審判請求書の主張(審判請求書5頁1行ないし13頁13行) (ア) 甲第1号証には、その【0001】、【0017】、【0031】?【0033】、図11?図13の記載によれば、次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されている。 「サファイア基板1上に、AlNから成るバッファ層2、GaNから成る高キャリヤ濃度n^(+)層3、GaNから成る低キャリヤ濃度n層4a、GaNから成るi層5の多層構造のウエーハから窒化ガリウム系化合物半導体発光素子(発光ダイオード10b)を作製する方法において、 前記ウエーハに対して太い刃物(例えば、250μm厚)を用いたダイシングによりi層5から低キャリヤ濃度n層4a、高キャリヤ濃度n^(+)層3、バッファ層2、サファイア基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて切り込みを入れるとともに、ハーフカットの切り込み部分に電極を形成する面を形成し、 細い刃物(例えば、150μm厚)を用いたダイシングにより、格子状に第2の電極8が形成された切り込みが入れられている部分において、サファイア基板1を格子状に切断する ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」 (イ) 本件発明1では、第一の割り溝をエッチングにより形成するのに対して、甲1発明では、第一の割り溝に相当する切れ込みをダイシングにより形成する点で、一応相違する可能性がある。 しかしながら、甲第1号証の【0023】?【0025】、図6及び図8には、甲1発明と異なる他の実施例において、第2の電極8のAl層8aが形成される「切り込み」を、ダイシングにより形成するのではなく、反応性エッチングにより形成することが記載されている。 したがって、上記可能性がある点は相違点ではなく、本件発明1は、甲1発明と同一である。 仮に相違点であるとしても、甲1発明において、第2の電極8が形成された「切り込み」を、ダイシングにより形成するのではなく、反応性イオンエッチングにより形成することは、当業者にとって極めて容易である(当審注:「当業者が上記他の実施例についての記載に基づいて容易に想到し得る。」との主旨と解される。)。 (ウ) さらに、本件発明1における「分離」と、甲1発明における「ダイシング」による「切断」とが相違点であるとしても、本件特許出願当時、半導体素子において、基板側に細い溝を形成してチップを分離することは周知技術(甲第3?5号証)であるから、甲1発明において、サファイア基板側から細い溝を形成して、チップを分離することは極めて容易である。 イ 上申書の主張 (ア) 相違点1について(上申書6頁6行ないし15行) 甲1発明において、第2の電極8のAl層8aが形成される「切り込み」を、ダイシングにより形成するのではなく、反応性イオンエッチングにより形成することも、甲1に記載されているに等しいといえる。・・・そうすると、甲1発明では、エッチングにより線状に形成された部分と同一の平面に電極が形成できるように露出させている以上、・・・相違点ではなく一致点である。 (イ) 相違点2について(上申書6頁下から5行ないし末行) 甲1には、サファイア基板側から第二の割り溝を形成することも、「ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成し、前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する」ことも記載されている。 (2) 無効理由2について ア 審判請求書の主張(審判請求書15頁14行ないし22頁19行) (ア) 甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が開示されている。 「サファイア基板1上にn型層2及びp型層3を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製する方法において、 前記ウエハーのp型層3側から所望のチップ形状で線状にドライエッチングすると共に、n型層の上部に電極を形成する面を形成し、 前記ウエハーの前記エッチング部の線と合致する位置で、エッチング部の線幅よりも細い線幅で、 前記エッチング部に沿って、ダイシングソーで前記ウエハーをチップ状にカットする ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」 (イ) 本件発明1では、第二の割り溝をウエハーのサファイア基板側から形成する工程を具備するのに対し、甲2発明では、かかる工程があるか不明である点で相違する。 上記(1)ア(ウ)のとおり、本件特許出願当時、半導体素子において、基板側に細い溝を形成してチップを分離することは、周知技術(甲第1、3?5号証)であった。 そして、甲第5号証に記載されているとおり、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、ウエハーの基板側からスクライブすることは行われていた。 そうすると、甲2発明において、ウエハーの半導体層側に形成された溝に一致させるように、基板側に細い溝を形成してチップを分離する上記周知技術を適用し、サファイア基板側に溝(例えば、上述の甲第5号証に記載されている基板側をスクライブすること)を形成して、チップを分離することは極めて容易である。 イ 上申書の主張 (ア) 相違点1について(上申書22頁下から3行ないし末行) 被請求人は、甲2の図9のエッチング溝を円弧状のエッチング部であると誤導しようとしているが、下図の赤矢印のエッチング溝が、スクライブラインであることは明らかである。 (イ) 相違点2について(上申書25頁18行ないし20行) 甲2段落【0020】の「ダイシングソーでカット」という記載から、当然に「フルカット」と理解するものではなく、ハーフカットしたうえで割ることも理解できる。 (3) 無効理由3について ア 審判請求書の主張(審判請求書24頁22行ないし26頁下から3行) 本件特許出願については、平成9年10月20日付けの手続補正書により、請求項1?4に記載された発明に、「前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、」という構成が追加された。 しかしながら、以下の(ア)及び(イ)のとおり、出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)には、該構成は記載されていなかった。 (ア) 当初明細書には、第一の割り溝は、エッチングにより、所定のチップ形状になるように線状に形成されると記載されており(段落【0008】及び【0012】)、まず、n層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝を形成し、さらに、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることが記載されているにすぎない(段落【0016】)。すなわち、線状の第一の割り溝を形成するという工程の後に、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることが記載されているに過ぎないのである。すなわち、当初明細書には、線状の第一の割り溝を形成するという工程と共に、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることは記載されていない。 (イ) 当初明細書の段落【0016】には、図4について、「p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成し、さらにp型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状としており、この切り欠いた部分にn層の電極を形成することができる。」と記載されているように、線状の第一の割り溝とは別に、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることが記載され、第一の割り溝ではない、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた部分にn層の電極を形成することが記載されているのみである。したがって、当初明細書には、「第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程」は記載されていなかったのである。 イ 上申書の主張(上申書37頁11行ないし13行) 当初明細書の【0016】に、「形成方法」について、「さらに」という記載がある以上、第一の割り溝11の形成と、切り欠いた部分の形成とが別工程であることは明らかである。 第6 被請求人の主張の概要 被請求人の主張の概要は、次のものである。 「本件訂正は認められるべきである。 本件訂正が認められないとしても、無効理由1ないし3は成り立たない。」(調書記載のとおり。) 2 乙号証 被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。 乙第1号証:日本経済新聞、1993年12月1日 乙第2号証:富士ハイテック株式会社、ウエブページ写し (http://fuji-hitech.jp/prod/diamond/diamond01.html) 乙第3号証:株式会社ディスコ、ビトリファイドボンドブレード VT07/12シリーズカタログ 乙第4号証:特開2009-43913号公報 乙第5号証:「発光ダイオードとその応用」、西澤潤一監修、スタンレー 電気技術研究所編、産業図書株式会社、昭和63年4月14 日発行、66-69頁 乙第6号証:特開昭62-272583号公報 乙第7号証:特開2005-47194号公報 (以上、審判事件答弁書に添付して提出。) 3 被請求人の主張の要点 被請求人は、審判事件答弁書において、もっぱら訂正が認められることを前提とした主張をなし、口頭審理陳述要領書において、もっぱら訂正が認められないことを前提とした主張をなしている。 しかしながら、上記第4のとおり、本件訂正は認められない そこで、口頭審理陳述要領書の主張を中心にまとめると、被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。 (1) 無効理由1について ア 甲第3?5号証のいずれにも、電極形成用の平面をエッチングにより形成すると同時に形成した第一の割り溝と、基板裏面に形成した第二の割り溝とに沿ってチップを分離することは記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明に甲第3?5号証を組み合わせても、本件発明を容易に想到し得ない。 (口頭審理陳述要領書20頁7行ないし12行。審判事件答弁書12頁20行ないし23行にも同様の記載がある。)。 イ 甲1の図12(b)に示されるとおり、半導体層2?5の側面は、あくまで「側面」であって、「平面」には該当しないから、甲1発明は、第一の割り溝の一部領域に電極が形成できる「平面」を形成するものではない。 (口頭審理陳述要領書23頁下から7行ないし下から4行。審判事件答弁書15頁下から5行ないし下から3行にも同様の記載がある。) ウ ダイサーはAlなどの金属である電極8とサファイア基板1の両方を同時に切断できるが、同じことを、へき開や「割れ」を利用して結晶を分離する方法であるスクライバーで行うことはできない。サファイア基板は割ることができるが、金属は展延性があるため「割る」ことができない。 (口頭審理陳述要領書28頁下から12ないし下から3行。審判事件答弁書20頁下から5行ないし21頁1行にも同様の記載がある。) (2) 無効理由2について ア 甲第2号証には、ペレットチェックのためにp型層をチップ形状にエッチングすることが開示されているに過ぎず、甲第3?5号証にも通常のダイサーとスクライバーによるチップ化技術が開示されているに過ぎないから、本件発明による教示なしに、甲第2号証と甲第3?5号証とを組み合わせて半導体層側からはエッチングによる第一の割り溝を電極形成平面と共に形成し、サファイア基板からはスクライバーなどによって第二の割り溝を形成し、第一の割り溝と第二の割り溝に沿ってチップ分離を行うという発想に至ることが当業者に容易であったとは言えない。 (口頭審理陳述要領書30頁下から5行ないし31頁3行。審判事件答弁書23頁4行ないし11行にも同様の記載がある。) イ 甲2発明に甲第3?5号証記載の技術を組み合わせたとしても、本件発明の重要な特徴である、第一の割り溝の線幅W1を第二の割り溝の線幅W2よりも広くするという特徴は導かれず、それによって割断線の僅かな曲がりによる動作不良の発生を抑制するという技術思想は、当業者と謂えども容易に想到し得るものではない。 (口頭審理陳述要領書31頁4行ないし8行。審判事件答弁書23頁12行ないし16行にも同様の記載がある。) (3) 無効理由3について ア p型層3をエッチングするに際し、エッチングマスク形状を適宜選択することにより、線状部分と半弧状に切り欠いた部分を同時にエッチングすることは容易に実施できる。さらに、これらの部分を別個に形成しなければならない事情は、当初明細書等において見当たらない。 (口頭審理陳述要領書50頁下から2行ないし51頁7行。審判事件答弁書43頁下から9行ないし末行にも同様の記載がある。) イ 請求人は、当初の明細書の【0016】における「さらに」という表現が時間の推移を含む語であり、その前後に記載されている第一の割り溝の形成と、p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることとが、同時にではなく、別個の工程としてこの順に行われると誤解している。 当初明細書の【0016】は「図4は、図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であり、第一の割り溝11の形状を示していると同時に、チップ形状も示している。」という説明で始まるとおり、「さらに」は単なる付加を意味し、【0016】は、p型層3においてエッチングにより取り除かれる部分の形状が、n層の電極が形成できる線幅の割り溝(すなわち線状)に加えて、隅部が半弧状に切り欠いた形状を有することを説明するものである。 (口頭審理陳述要領書51頁11行ないし52頁7行。審判事件答弁書44頁4行ないし末行にも同様の記載がある。) ウ 当初明細書の【0016】及び図4に記載されているように、線状の第一の割り溝とは別の平面として電極形成平面を形成することも、「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」ことに該当する。そして、当該記載は、当初明細書から変更されていない。 (口頭審理陳述要領書52頁下から1行ないし53頁3行。審判事件答弁書45頁下から4行ないし46頁5行にも同様の記載がある。) 第7 無効理由3についての当審の判断 事案にかんがみ、まず、無効理由3について検討する。 1 当初明細書の【0012】及び【0019】の記載によれば、第1の割り溝1と電極が形成できる平面を、マスクを介してp型GaN層をn型層2が露出するまでエッチングして形成する手順が記載されている(上記「第3 4 (1) イ」参照。)。 2 同【0012】で言及されている図4を見ると、n型層2が、p型層3で覆われずに露出した部分は、線幅W1の線状部分と、該線状部分につながった半弧状部分からなっている。この、第1の割り溝11に対応する線状部分と、電極が形成できる平面に対応する半弧状部分がつながった形状の開口を有する1つのマスクを用意すれば、1回のエッチングで、第1の割り溝11と電極が形成できる平面とを、半導体層の同じ深さにある1つの平面上に形成できるところ、敢えて、第1の割り溝11用のマスクと電極が形成できる平面用のマスクの2つのマスクを用意し、第1の割り溝11を形成するエッチングと電極が形成できる平面を形成するエッチングの、2回のエッチングを行ったり、これら2つのエッチングで半導体層をエッチングする深さを変えて、異なる深さの2つの平面上に第1の割り溝11と電極が形成できる平面とを形成する積極的な動機は認められない。 3 上記2によれば、上記1の手順は、「第1の割り溝11に対応する線状部分と、電極が形成できる平面に対応する半弧状部分がつながった形状の開口を有する1つのマスクを介して、p型GaN層をn型層2が露出するまで所定の深さまでエッチングして、第一の割り溝に対応する線状部分をエッチングにより形成すると同時に、前記第一の割り溝に対応する線状部分につながる、電極が形成できる平面に対応する半弧状部分を、前記エッチングにて形成する工程」であるか、少なくとも、該工程であってもよいものと認められる。 該工程は、平成9年10月20日付けの手続補正書により、本件特許明細書の請求項1の記載に新たに加えられた事項である「前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程」に含まれるといえる。 4 請求人の主張について (1) 当初明細書には、「第一の割り溝を所望のチップ形状で線上にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程」が記載されていなかったとの主張について、「第一の割り溝を線状に形成」(当初明細書段落【0012】)」の「線状」との用語は、「第一の割り溝」の形状が、一定幅で一方向に延びる完全な「線」(矩形)の形状であることを指すのではなく、概ね線形の「溝」といえる形状であって、「線」以外の形状の部分、例えば「半弧状部分」を含む形状であってもよいことを指すと解することもできる。 また、当初明細書の「【0016】・・・p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成し、さらにp型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状としており」との記載が、 ア 「『p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成』する工程の後に続けて、『p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状と』する工程を実施すること。」 を指すのか、 イ 「『p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエッチングして、第一の割り溝11を形成』する工程において、同時に『p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状と』する手順も実施すること。」 を指すのかは、かならずしも明らかでないところ、当初明細書には、上記イを行う実施形態が記載されていることは、上記3のとおりである。 よって、請求人の上記「第5 3 (3) ア」の主張は採用できない。 (2) 「さらに」なる語の一般的な意味だけからは、当初明細書の【0016】の記載が、上記(1)のアを指すものと決めることはできない。 よって、請求人の上記「第5 3 (3) イ」の主張は採用できない。 5 上記1ないし4によれば、該事項を付加する補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内のものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 よって、本件発明1ないし本件発明4についての特許は、同法第123条第1項第1号に該当せず、請求人の主張する無効理由3によって無効とされるべきものではない。 第8 無効理由1についての当審の判断 1 甲第1号証の記載事項及び甲1発明の認定 (1) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、次のア及びイの記載がある。 ア 「【請求項1】 n型の窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(X)Ga_(1-X)N;0≦X<1)から成るn層と、前記n層に接合するp型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(X)Ga_(1-X)N;0≦X<1)から成るi層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、 前記i層の表面に形成された透明導電膜から成る第1の電極と、 前記i層の側から前記n層に接続するように形成された第2の電極と から成り前記i層の側から外部に発光させることを特徴とする半導体発光素子。」 イ 「【0032】又、図11に示すように、発光ダイオード10bを、チップの中央に透明導電膜から成る第1の電極7を形成し、その周辺にn^(+) 層3に接続された第2の電極8を形成することで製造しても良い。この時、第2の電極8の最下層であるAl層を反射膜とすることができるので、発光効率を向上させることができる。 【0033】このような発光ダイオード10bは、図12、図13に示す工程で製造することができる。図12の(a) に示すように、サファイヤ基板1上に、上述した製造方法により、順次、AlNから成るバッファ層2、高キャリヤ濃度n^(+) 層3、低キャリヤ濃度n層4a、i層5を製造した。次に、図12の(b) に示すように、図12の(a) の多層構造のウェーハに対して太い刃物(例えば、250μm 厚)を用いたダイシングによりi層5から低キャリヤ濃度n層4a、高キャリヤ濃度n^(+) 層3、バッファ層2、サファイヤ基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて切り込みを入れた。 【0034】次に、図7及び図8に示したのと同じ工程により、ITOから成る第1の電極7と、第2の電極8のAl層8aを、図13の(c) に示すように形成した。さらに、図9に示す工程により、取出電極9のNi層9b、Au層9c及び第2の電極8のNi層8b、Au層8cを形成した。 【0035】次に、図13(d) に示すように、細い刃物(例えば、150μm 厚)を用いたダイシングにより、格子状に第2の電極8が形成されてた切り込みが入れられている部分において、サファイヤ基板1を格子状に切断した。このようにして、図11に示す構造の発光ダイオード10bを製造することができる。」 上記記載における【0035】の「格子状に第2の電極8が形成されてた」は、「格子状に第2の電極8が形成された」の誤記と認める。 ウ 上記イの記載で言及されている図11ないし図13は、次のものである。 【図12】 【図13】 (2) 甲1発明の認定 ア 上記(1)アによれば、上記(1)イにおける「高キャリヤ濃度n^(+)層3」、「低キャリヤ濃度n層4a」及び「i層5」は、GaN系半導体から成ると解される。 イ 上記(1)イの【0034】及び【0035】の記載及び上記(1)ウの図13(c)によれば、上記(1)の【0033】にいう「『太い刃物(例えば、250μm 厚)を用いたダイシング』による『i層5から低キャリヤ濃度n層4a、高キャリヤ濃度n^(+) 層3、バッファ層2、サファイヤ基板1の上面一部まで』の『所謂ハーフカット』による『格子状』の『切り込み』」には、最初にAl層8aが形成され、次にNi層8bが形成されて該切り込みが埋まり、次に該Ni層8b上にAu層8cが形成されると認められる。 上記(1)イの【0035】の記載及び上記(1)ウの図13(d)によれば、同【0035】にいう「第2の電極8が形成された切り込みが入れられている部分」すなわち該切り込みがAl層8aとNi層8bで埋められた上にAu層8cが形成された部分が、細い刃物(例えば、150μm 厚)を用いダイシングにより切断されると認められる。 ウ 上記(1)及び上記ア及びイによれば、甲第1号証には、次の発明(以下、新たに「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「サファイア基板1上に、AlNから成るバッファ層2、GaN系半導体から成る高キャリヤ濃度n^(+)層3、GaN系半導体から成る低キャリヤ濃度n層4a、GaN系半導体から成るi層5の多層構造のウエーハから窒化ガリウム系化合物半導体発光素子(発光ダイオード10b)を作製する方法において、 太い刃物(例えば、250μm 厚)を用いたダイシングにより、前記i層5から前記低キャリヤ濃度n層4a、前記高キャリヤ濃度n^(+)層3、前記バッファ層2、前記サファイア基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて切り込みを入れ、 前記切り込みに、最初にAl層8aを形成し、次にNi層8bを形成して前記切り込みを埋め、次に前記Ni層8b上にAu層8cをして、前記Al層8aと前記Ni層8bと前記Au層8cとからなる第2の電極8を形成し、 前記第2の電極8が形成されて埋められた、前記切り込みが入れられていた部分において、細い刃物(例えば、150μm 厚)を用いたダイシングにより、前記サファイア基板1を格子状に切断する、 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」 2 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (1) 甲1発明の「サファイア基板1」、「AlNから成るバッファ層2、GaN系半導体から成る高キャリヤ濃度n^(+)層3、GaN系半導体から成る低キャリヤ濃度n層4a、GaN系半導体から成るi層5の多層構造のウエーハ」、「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子(発光ダイオード10b)を作製する方法」及び「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法」は、それぞれ、本件発明1の「サファイア基板」、「窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー」、「窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法」及び「窒化ガリリム系化合物半導体チップの製造方法」に相当する。 (2) 甲1発明の「太い刃物(例えば、250μm 厚)を用いたダイシングにより、i層5から低キャリヤ濃度n層4a、高キャリヤ濃度n^(+)層3、バッファ層2、サファイア基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて切り込みを入れ、前記切り込みに、最初にAl層8aを形成し、次にNi層8bを形成して前記切り込みを埋め、次に前記Ni層8b上にAu層8cをして、前記Al層8aと前記Ni層8bと前記Au層8cとからなる第2の電極8を形成し、前記第2の電極8が形成されて埋められた、前記切り込みが入れられていた部分において、細い刃物(例えば、150μm 厚)を用いたダイシングにより、前記サファイア基板1を格子状に切断する」工程は、「ウエハーをチップ状に分離する工程」である点で、本件発明1の「ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する工程」と共通している。 (3) 上記(1)及び(2)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。 <一致点> 「サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において、 前記ウエハーをチップ状に分離する工程を備えた、 窒化ガリリム系化合物半導体チップの製造方法。」 <相違点> 「ウエハーをチップ状に分離する工程」について、本件発明1は、「ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する工程」と特定されているのに対して、甲1発明は、該特定を有しない点。 3 相違点についての判断 上記<相違点>について検討する。 (1) 甲1発明において、「『ハーフカット』による『切り込み』」は、その後金属で埋められて第2の電極8を形成するのであるから、その形状から「溝」とはいえても、ウエハーを割るために用いられる「割り溝」ではない。 (2) 甲1発明において、ダイシングによりサファイア基板1を切断してウエハーをチップ状に分離する工程を、スクライブ等で割ることによりウエハーをチップ状に分離する工程に置き換える積極的な動機は見出せない。 また、金属は展延性があるから、甲1発明の、金属からなる「第2の電極8」は、サファイア基板と一緒に割っても分離し難いものと認められるから、上記置き換えを行うことは考えにくい。 (3) 甲1発明の「切り込み」は、「ダイシングにより、サファイア基板1を格子状に切断する」前の段階で、「Al層8aとNi層8bとAu層8cとからなる第2の電極8」で埋められており、仮に「切り込み」を「第一の割り溝」とみたとしても、「切り込み」には電極が形成済みであり、「第一の割り溝の一部に電極を形成する面」といえるものが存在しない。 (4) 上記(1)ないし(3)によれば、甲1発明が本件発明1の上記<相違点>に係る構成を備えたものである、または、甲1発明において、本件発明1の上記<相違点>に係る構成を備えることを、当業者が甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて容易に想到し得た、とは認められない。 したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であるとも、甲1発明、甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。 4 本件発明2ないし本件発明4について 本件発明2ないし本件発明4は、それぞれ、本件発明1が記載された請求項1を引用する請求項2ないし請求項4に記載された発明であり、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が、甲1発明と同一であるとも、甲1発明、甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない以上、本件発明2ないし本件発明4が、甲1発明と同一であるとも、甲1発明及び甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。 5 無効理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明4についての特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、かつ同法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもないので、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。 第9 無効理由2についての当審の判断 1 甲第2号証の記載事項及び甲2発明の認定 (1) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、次のアないしウの記載がある。 ア 「【請求項1】 絶縁性基板の上に一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体がn型およびp型、あるいはn型およびi型に積層され、n型層およびp型層、あるいはn型層およびi型層にそれぞれ電極が設けられた構造を有する窒化ガリウム系化合物半導体素子において、 前記p型層あるいはi型層の窒化ガリウム系化合物半導体層の一部がエッチングされてn型層を露出しており、さらにp型層あるいはi型層表面に、その層と電気的に接続された線状の電極が設けられていることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体素子。 【請求項2】前記p型層は円弧状にエッチングされていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体素子。」 イ 「【0010】 本考案の一実施例を示す窒化ガリウム系化合物半導体素子の平面図を図1に表す。この窒化ガリウム系化合物半導体素子はサファイア基板1上にn型層2、およびp型層4を順に積層した後、エッチングによりp型層3の一部を取り除き、n型層2を露出させ、n型層2の上部とp型層3の上部とに電極を蒸着により設けたものである。しかもp型層3を円弧状にエッチングすることにより、p型層の面積を無駄なく確保しており、さらにp型層3の表面にp型層3と電気的に接触した線状電極6を設けることにより、電流がp型層に均一に広がる様になっている。」 ウ 「【0015】 【実施例】 以下、一実施例に基づき、図面を参照しながら本考案を詳説する。 サファイア基板1上にTMG(トリメチルガリウム)-アンモニアを用いMOCVD法により、厚さ3μmのn型GaN層2、および厚さ0.5μmのp型GaN層3を順に積層した。その断面図を図4に示す。 【0016】 次にp型層3の上にプラズマCVD法を用い、保護膜としてSiO_(2)膜を厚さ1μmで形成した。その断面図を図5に示す。 【0017】 SiO_(2)層を形成した後、さらに フォトリソグラフィーによりポジ型フォトレジストを形成し、露光してパターニングを施した。その断面図を図6に示す。 【0018】 次に、フォトレジストのパターニングが終了したウエハーをフッ酸に浸漬し、SiO_(2)層をフォトレジストと同様のパターンにエッチングした。ウエハーを水洗した後、アセトンで洗浄することによりフォトレジストを剥離した。その断面図を図7に示す。 【0019】 パターニングの施されたSiO_(2)層が現れたウエハーのp型層3をドライエッチングした。その断面図を図8に示す。 【0020】 残留するSiO_(2)層を、前述のフッ酸溶液に浸漬することによって除去した後、蒸着およびリフトオフ法により、図9に示すように、p型電極5(線状電極6)とn型電極4を付け、ペレットチェックをウエハー状態で行った後、ダイシングソーでカットして本考案の青色発光素子を得た。なお、p型電極5および線状電極6はフォトレジストをp型層上に形成した後、蒸着によって同時に形成した。」 エ 上記イで言及されている図1は、次のものである。 オ 上記ウで言及されている図9は、次のものである。 カ 上記ウには、「図9に示すように、p型電極5(線状電極6)とn型電極4を付け」とあるものの、図9には、p型電極5、線状電極6及びn型電極4が示されていない。しかし、図2には、p型電極5、線状電極6及びn型電極4が示されている。そこで、以下に図2を掲げる。 (2) 甲2発明の認定 ア 請求人は、甲第2号証には、以下の発明(甲2発明)が記載されていると主張する(上記「第5 3 (2) ア (ア)」参照。) 「サファイア基板1上にn型層2及びp型層3を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製する方法において、 前記ウエハーのp型層3側から所望のチップ形状で線状にドライエッチングすると共に、n型層の上部に電極を形成する面を形成し、 前記ウエハーの前記エッチング部の線と合致する位置で、エッチング部の線幅よりも細い線幅で、 前記エッチング部に沿って、ダイシングソーで前記ウエハーをチップ状にカットする ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」 これに対して、審判答弁書の21頁15行ないし22頁下から2行の記載等で、被請求人は、甲2発明の認定について、「甲2発明における『ウエハーのエッチング部の線と合致する位置で、エッチング部の線幅よりも細い線幅で、前記エッチング部に沿って、ダイシングソーで前記ウエハーをチップ状にカットする』との構成のうち、『ウエハーのエッチング部の線と合致する位置で、エッチング部の線幅よりも細い線幅で』との構成は甲第2号証に記載されておらず、甲第2号証の記載から当業者に自明な事項でもない。」旨を主張する。 そこで、まず、被請求人の上記主張について以下検討する。 イ 甲第2号証における、エッチング後のダイシングに関する記載は、【0020】の以下の(ア)の記載のみである。 (ア) 「図9に示すように、p型電極5(線状電極6)とn型電極4を付け、ペレットチェックをウエハー状態で行った後、ダイシングソーでカットして本考案の青色発光素子を得た。」 (イ) 上記(ア)の記載からは、図9に示された発光素子の、エッチングにより形成された、p型層3からn型層2に至る凹部の幅と、ダイシングの幅の大小関係は不明である。 また、図9における点線が、ダイシングの位置を示すものか否かは不明であるから、図9を見ても、ダイシングの位置が、ウエハーのエッチング部の線と合致する位置にあるか否かは把握できない。 上記によれば、被請求人の上記主張は妥当なものと認められる。 ウ 上記イで検討したとおり、図9における点線が、ダイシングの位置を示すものか否かは不明であるが、図1、図2及び図9を合わせて見れば、図9に示されたウエハーは、エッチング部の位置で、エッチング部に沿って、ダイシングソーでチップ状にカットされて、図1及び図2に示される半導体チップになるものと解される。 また、請求人と被請求人は、エッチング部のどの位置で(図9の点線の位置か溝の中央寄りか)ダイシングされるかについては争っているが、エッチング部の位置で、エッチング部に沿って、ダイシングされる点は争っていないと認められる。 エ 上記ウに鑑み、上記(1)の記載を含む甲第2号証には、請求人のいう甲2発明のダイシングの位置と線幅についての認定を改めた次の発明(以下、新たに「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「サファイア基板1上に、n型層2及びp型層3を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製する方法において、 前記ウエハーのp型層3側から所望のチップ形状で線状にドライエッチングすると共に、n型層の上部に電極を形成する面を形成し、 前記ウエハーの前記エッチング部の位置で、 前記エッチング部に沿って、ダイシングソーで前記ウエハーをチップ状にカットする、 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」 2 本件発明1と甲2発明との対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (1) 甲2発明の「サファイア基板1」は、本件発明2の「サファイア基板」に相当し、以下、同様に、 「n型層2及びp型層3を積層したウエハー」は、「窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー」に相当し、 「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法」は、「窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法」に相当し、 「ウエハーをチップ状にカットする」は、「ウエハーをチップ状に分離する」に相当する。 (2) 甲2発明の「ウエハーのp型層3側から所望のチップ形状で線状にドライエッチングすると共に、n型層の上部に電極を形成する面を形成し」との事項は、線状の凹部が溝といえることから、「ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、該溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」点で、本件発明1の「ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」と共通している。 (3) 上記(1)及び(2)によれば、本件発明1と甲2発明とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点’>で相違する。 <一致点> 「サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において、 前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、該溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、 前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備する窒化ガリリム系化合物半導体チップの製造方法。」 <相違点’> 本件発明1は、「ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と、前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備する」と特定されるのに対して、甲2発明は、該特定を有しない点。 3 相違点’についての判断 上記<相違点’>について検討する。 (1) 甲第2号証には、サファイア基板1の厚さについての記載はない。サファイア基板1が厚ければ、スクライブ溝を形成して割ることはできないか、割れたとしても、サファイア基板1の厚さ方向に対して斜めに割れた際に、n型層2及びp型層3を積層した部分に割れ面が達して該部分を損傷するおそれがある。 してみると、甲2発明における「ウエーハのエッチング部」は、ウエハーのサファイア基板1側から「ウエーハのエッチング部」と合致する位置で(第二の)割り溝を形成し、「ウエーハのエッチング部」及び前記(第二の)割り溝に沿って、ウエハーをチップ状に分離するための「(第一の)割り溝」として用いることができるものであるかは、定かでない。 また、上記損傷するおそれがあることは、甲2発明における「ダイシング」を2つの割り溝を用いる分離に置き換えることの阻害要因といえる。 (2) 半導体発光素子をスクライブで分離することが記載された刊行物として請求人が提示した甲第3?5号証のうち、半導体発光素子が窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であるものは、甲第5号証のみである。 ア 甲第5号証には、次の(ア)ないし(エ)の記載がある。 (ア) 「【請求項1】 サファイア基板上に一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(0≦X≦1)で表されるGa_(X)Al_(1-X)N(0≦X≦1)系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断する方法において、 前記サファイア基板の厚さを100?250μmとし、さらに、前記ウエハーの基板側、もしくは窒化ガリウム系化合物半導体層側、またはその両側をスクライブして切断することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体ウエハーの切断方法。」 (イ) 「【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らはその結晶型が六方晶系でへき開性がないため、ダイサーでしかチップ状に切断できなかった窒化ガリウム型化合物半導体ウエハーでも、基板の厚さを最適化することにより、スクライバーで簡単に切断できることを見いだし本発明を成すに至った。」 (ウ) 「【0010】基板を100μm?250μmにするには研磨器を用いて研磨することにより実現できる。研磨して基板を薄くする時期は窒化ガリウム層を成長させる前でもよいし、成長させた後でもよい。」 (エ) 「【0020】 【発明の効果】以上述べたように、本発明の切断方法によると、へき開性を有していないため従来、ダイサーでしか切断できなかった窒化ガリウム系化合物半導体ウエハーを歩留良く切断できる。また、ダイサーで切断するのと比較して、ダイサーは刃の回転によりウエハーを削り取って切断するのに対し、スクライバーはウエハー表面、裏面等から傷をつけて、その箇所から押し割るだけであるので作業工程の時間が短くて済み、しかもスクライバーの刃はダイサーの刃に比較して非常に細いため、切断した際に削り取る体積が少なくて済むことにより、小さいサイズのチップを得る場合、単位面積あたりの収率も向上する。」 (オ) 上記(ア)ないし(エ)の記載によれば、甲第5号証には、へき開性を有していないため、従来ダイサーでしか切断できなかった窒化ガリウム系化合物半導体ウエハーを、基板の厚さを研磨して薄くすることで、スクライブにより切断する発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 イ 甲2発明の「『ウエハーのp型層3側から所望のチップ形状で線状にドライエッチングすると共に、n型層の上部に電極を形成する面を形成し』た『前記ウエハーのエッチング部』」は、「ウエハーがチップに分離される際の境界」及び「電極を形成する面」として機能するものであって、そもそもウエハーをチップに分離するための「割り溝」ではない。 よって、当業者が、甲2発明に甲5発明を適用し、甲2発明における「ウエハーのエッチング部の位置で、前記エッチング部に沿って、、ダイシングソーでウエハーをチップ状にカットする」手順を、「サファイア基板を研磨してスクライブにより切断できる厚さまで薄くした上で、ウエハーのエッチング部の位置で、前記エッチング部に沿って、スクライブにより前記ウエハーをチップ状にカットする」手順に置き換えるを想到し得たとしても、甲2発明における「ウエハーのエッチング部」を「第一の割り溝」とした上で、「ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成し、前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する」ことまで想到し得たとはいい難い。 (3) 上記(1)及び(2)によれば、甲1発明において、本件発明1の上記<相違点’>に係る構成を備えることを、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 よって、本件発明1は、当業者が甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものとは認められない。 4 本件発明2ないし本件発明4について 本件発明2ないし本件発明4は、それぞれ、本件発明1が記載された請求項1を引用する請求項2ないし請求項4に記載された発明であり、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない以上、本件発明2ないし本件発明4が、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないことは明らかである。 5 無効理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明4についての特許は 、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないので、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。 第10 むすび 以上のとおり、請求人が主張する無効理由によっては、本件発明1ないし本件発明4についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-03 |
結審通知日 | 2014-09-05 |
審決日 | 2014-09-19 |
出願番号 | 特願平5-300940 |
審決分類 |
P
1
113・
55-
YB
(H01L)
P 1 113・ 121- YB (H01L) P 1 113・ 856- YB (H01L) P 1 113・ 113- YB (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 時男、吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
吉野 公夫 |
特許庁審判官 |
江成 克己 星野 浩一 |
登録日 | 1998-05-15 |
登録番号 | 特許第2780618号(P2780618) |
発明の名称 | 窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法 |
代理人 | 玄番 佐奈恵 |
代理人 | 宮原 正志 |
代理人 | 古城 春実 |
代理人 | 加治 梓子 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 早田 尚貴 |
代理人 | 牧野 知彦 |
代理人 | 吉村 誠 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 黒田 健二 |
代理人 | 言上 惠一 |
代理人 | 高橋 綾 |
代理人 | 田村 啓 |