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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1324118
審判番号 不服2015-19578  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-30 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 特願2012-531317「測位システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日国際公開、WO2011/039042、平成25年 2月28日国内公表、特表2013-506818、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月10日(パリ条約による優先権主張 2009年(平成21年)9月30日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 4月30日付け:拒絶理由の通知
平成26年11月 7日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 1月21日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成27年 4月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 7月 7日付け:平成27年4月27日の手続補正について
の補正却下の決定、拒絶査定
平成27年10月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年 7月21日付け:当審拒絶理由の通知
平成28年10月26日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年10月26日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項7】
測位システムにおいて、複数のチップを含む繰り返し疑似乱数(PRN)符号を用いて形成される伝達メッセージを、基準時刻と同期化する方法であって、
前記伝達メッセージと前記基準時刻との間のタイミングバイアスを判定する段階と、
後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップの数を変更する段階と
を含み、
前記伝達メッセージが、第1の場所から第1のシュードライトにより送信され、
前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージにより提供されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所から遠く離れた第2の場所から第2のシュードライトにより送信され、
前記伝達メッセージと前記基準時刻との間の前記タイミングバイアスが、前記第1の場所及び前記第2の場所から遠く離れた第3の場所で、前記第1のシュードライトから前記伝達メッセージを受信するとともに前記第2のシュードライトから前記さらなる伝達メッセージを受信する前記監視及び制御局により判定され、
加えられるか、または取り除かれるべきチップの数は、前記タイミングバイアスに基づき前記監視及び制御局により計算され、
加えられるか、または取り除かれるべき前記チップの数および前記タイミングバイアスが、前記第3の場所の前記監視及び制御局から前記第1の場所の前記第1のシュードライトに、前記第1のシュードライトの前記伝達メッセージへの包含のために送信される
ことを特徴とする方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
[理由1]
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2009-150906号公報
刊行物2:特表2008-512960号公報

刊行物1には、擬似乱数符号を用いた伝達メッセージのチップの数を変更(回転)することにより同期を行う測位システムが記載されている(【発明を実施するための最良の形態】、【0041】-【0045】等を参照。)。また、シュードライトを用いる点も(当審注:「用いる点はも」との記載は「用いる点も」の誤記と認定した。)記載されている(【0029】等を参照。)。さらに、チップの削減、追加のどちらにより調整するかは、当業者が適宜選択し得ることであり、複数のスーパーフレームからなる周知のメッセージ構造において、スーパーフレームの後半部分のチップ数を削減することに格別の困難は認められない。

例えば、刊行物2に記載の発明のように(図1、6-9、【0035】、【0091】、【0115】、【0126】等を参照。)、メッセージの送信(位置配置ビーコン)、基準時刻の送信(位置配置ビーコン)、タイミングのズレの判定(移動デバイス)と、3地点の装置でそれぞれ担うように構成し得る点は周知であり、刊行物1のチップ数の変更により同期を行う測位システムにおける同期の前提となる各装置のタイミングのズレを把握するために、刊行物2に例示される周知の3地点の装置の役割分担を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。その際には、位置配置ビーコンが基準時刻と同期すべき点が記載されているところ、位置配置ビーコン間のタイミングのズレも当然に補償しなければならないことは明白であるから、移動デバイスからタイミングのズレを位置配置ビーコンに送信するように構成することにも格別の困難は認められない。

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、「実質的に」という記載があるが、程度を曖昧にする表現であるので、発明の範囲が不明確である。

請求項6には、「前記現在の時刻tにおける前記タイミングバイアスの変化率であるタイミングドリフト」、「前記現在の時刻tにおける前記タイミングドリフトの変化率であるタイミング加速度」という記載があるが、「変化率」とは、「変化後/変化前」、「変化後-変化前/経過時間」を通常意味するが、補正の根拠とする【0075】-【0077】の(式8)-(式10)から解する限り、「変化率」とは言えず、「導関数」と表現すべきであるため、発明が不明確である。

2 原査定の理由の判断
(1)[理由1]について
ア 刊行物の記載事項
(ア)刊行物1(特開2009-150906号公報)の記載事項
刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【0001】
本発明は、概括的には、移動式装置に関する正確な位置判定を行うためのシステム及び方法に関する。特に、本発明は、正確な到着時間位置判定システムに適用される。本発明は、送信器ビーコンの間の物理的接続、各送信器に接続されている原子時標準の必要性、又は、差分修正技術の必要性の様な先行技術の要件には制約されない。」

「【0022】
本発明の上記目的は、基準座標システムに対して既知の位置に配置されている位置判定ユニット装置を含んでいて、基準座標システムに対して既知の位置に配置されている基準送信器から1つ又は複数の基準位置判定信号を受信する位置判定システムによって実現される。基準送信器は、他の位置判定ユニット装置、広域増強システム(WASS)衛星、大域航行衛星システム(GNSS)衛星、疑似衛星、又はタイミング情報を組み込んでいる何らかの他の信号、を含んでいる。受信された基準位置判定信号は、それぞれ、搬送波成分、擬似乱数コード成分、及びデータ成分を有しているのが望ましい。位置判定ユニット装置は、受信した基準位置判定信号とその既知の位置に応えて、固有の位置判定信号を生成する。固有の位置判定信号は、受信した位置判定信号の1つ又は複数の搬送波成分に時系列的に同期化された搬送波成分と、受信した位置判定信号の1つ又は複数の擬似乱数コード成分に時系列的に同期化された擬似乱数コード成分と、受信した位置判定信号の1つ又は複数のデータ成分に時系列的に同期化されたデータ成分とを有している。位置判定ユニット装置が基準送信器に時系列的に同期化されると、ネットワークに入っている他の位置判定ユニット装置は、その固有の送信された位置判定信号を基準位置判定信号として使用することができる。時系列的に同期化された位置判定ユニット装置の地理的分散は、位置判定信号の、時間一貫性のあるネットワークを作る。それによって、本発明の方法は、非常に正確な時間ベースを実質的な地理領域に亘って伝播させる固有の能力を有することになる。」

「【0024】
位置判定ユニット装置が少なくとも1つの基準送信器に時系列的に同期化する上記方法を、以後「タイムロック」と呼ぶ。」

「【0029】
基準位置判定信号は、基準送信器から無線周波数(RF)搬送波を介して送信される。基準位置判定信号は、位置判定ユニット装置、広域増強システム(WAAS)衛星、大域航行衛星システム(GNSS)衛星、疑似衛星、又は有効な源の何らかの組み合わせを含む、何らかの有効な時間源から生成することができる。図2では、基準送信器202から既知の距離に配置されている位置判定ユニット装置201は、基準送信器202が送信する基準位置判定信号203を受信する。基準位置判定信号203は、搬送波成分、固有擬似乱数コード成分、及びデータ成分を有している。位置判定ユニット装置201には、位置受信器204と同時配置された送信器205が組み込まれている。位置受信器204は、視界内の全ての基準位置判定信号からの位置判定信号203と、その同時配置されている送信器205からの位置判定信号とを受信することができる。位置判定ユニット装置201は、受信した基準位置判定信号203に応えて、いわゆる従属位置判定信号206をその送信器205から送信し、それは位置判定ユニット装置位置受信器204に受信される。従属位置判定信号206は、搬送波成分、固有の擬似乱数コード成分、及びデータ成分を有している。位置判定ユニット装置位置受信器204は、基準送信器202からの基準位置判定信号203と、同時配置されている送信器205からの従属位置判定信号206を受信し、同時にサンプル採取する。次に、受信した基準位置判定信号203と受信した従属位置判定信号206の間の送信時間差が計算される。好適な実施形態で用いられている送信時間の差は、
(a)基準位置判定信号203の搬送波成分から求められた積分搬送波位相(ICP)測定値と従属位置判定信号206を比較して、搬送波周波数の差を求める段階と、
(b)基準位置判定信号203からの航行データ成分と従属位置判定信号206を復調して比較し、粗い送信時間の差を求める段階と、
(c)基準位置判定信号203の擬似乱数コード成分から求められた擬似範囲測定値と従属位置判定信号206を比較し、コード擬似範囲の差を求める段階と、
(d)基準位置判定信号203の搬送波成分から求められた瞬間搬送波位相測定値と従属位置判定信号206を比較し、搬送波位相の差を求める段階と、
によって求められる。
【0030】
従属位置判定信号206を基準送信器202の時間ベースに正確に時間同期化するには、基準送信器アンテナ207と位置判定ユニット装置位置受信器アンテナ208の間の信号伝播遅延を考慮しなければならない。基準送信器のアンテナ207から位置判定ユニット装置位置受信器アンテナ208までの、メートルでの既知の地理的距離209は、経過時間=距離/光速の式によって単一の経過時間に変換できる。位置判定ユニット装置201には、制御(steering)される送信器時計210が組み込まれており、位置判定ユニット装置のCPU211によって周波数調整することができる。制御される送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置のCPU211によって、基準位置判定信号203と、位置判定ユニット装置受信器204によって測定される従属位置判定信号206との間の時間差から決定され、基準位置判定信号の経過時間209によってオフセットされる。これにより、従属位置判定信号206は、基準送信器202の時間ベースと時系列的同期化される。」

「【0032】
位置判定ユニット装置の制御状態
好適な実施形態では、位置判定ユニット装置は、以下の制御状態を使って、基準送信器にタイムロックする。」

「【0041】
状態8:基準/従属コードロック
状態7の基準/従属周波数ロックが実現されると、基準位置判定信号203と従属位置判定信号206の間の時間差を正確に測定し、時間バイアスを削除することができる。基準/従属コードロックは、位置判定ユニット装置の制御される送信器時計210が必要な時間の量だけ回され、基準及び従属位置判定信号をPRNコードと整列させたときに実現される。経過時間値209は、測定された基準とスレーブの時間差をオフセットし、基準信号伝播遅延の影響を排除するのに用いられ、計算された時間差は、次に時計修正値として位置判定ユニット装置の制御される送信器時計210に適用される。時計修正は、周波数追跡システム(FTS)を係合させ、追加の周波数オフセットを所定の期間に対し制御される送信器時計210へ適用することによって実現される。この追加の周波数オフセットは、従属位置判定信号206が、基準送信器202の時間ベースと時間の一貫性が保てるようになるまで、回転できるようにする。この時間の回転が完了すると、制御ループが再係合される。代わりに、コードロックは、位置判定ユニット装置送信器205のPRNコード生成器を、周波数ロックを維持しながら必要量のコード位相(チップ)だけ回転させることによって、実現させることもできる。
コードロックはPRNコードの精度に基いており、PRNコードは本来的にノイズが多い。好適な実施形態では、静止位置判定ユニット装置は、PRNコードのノイズにフィルターを掛け、副搬送波サイクルレベルにする。」

「【0074】
位置判定ユニット装置の送信器
位置判定ユニット装置の送信器は、従来型のGPSの疑似衛星と多くの類似点を有し、主要且つ重要な1つの改良点が制御される送信器時計である。好適な実施形態では、制御される送信器時計は、直接デジタル合成(DDS)技法を使ってデジタルドメインで生成される。DDS技術は、ミリヘルツの精度まで周波数制御することのできる、デジタル的に生成される発振器を作り、送信器時計を、入ってくる基準信号に正確に「従属」させることができるようにする。送信器には、少なくとも1つの無線周波数(RF)搬送波生成器と、少なくとも1つの擬似乱数番号(PRN)コード生成器も組み込まれている。RF搬送波生成器は、正弦波無線周波数波で、望ましくは2.4GHzのISM帯域で送信される搬送波成分を作り、PRNコード生成器は、同じ搬送波周波数で送信される他の擬似乱数コードシーケンスの中で識別できる固有のコードシーケンスを備えたコード成分を作る。複数のコードを複数の周波数上で生成していわゆる「ワイドレーン」を作ることができ、そうすれば、搬送波整数サイクルの曖昧性を移動する位置受信器で解明することができる。好適な実施形態では、位置判定ユニット装置の送信器は、時分割多重アクセス(TDMA)方式でパルス状に駆動されるので、強力なCDMA位置判定信号は、同じ搬送波周波数で送信される弱いCDMA位置判定信号を妨害しない。この現象は「近/遠問題」として知られており、当該技術では周知である。」

a 刊行物1には、「移動式装置に関する正確な位置判定を行うためのシステム」(【0001】)において、「位置判定ユニット装置が少なくとも1つの基準送信器に時系列的に同期化する・・・(略)・・・方法」(【0024】)が記載されている。

b 刊行物1の「基準送信器は、・・・(略)・・疑似衛星・・・(略)・・・を含んでいる」(【0022】)、「基準位置判定信号は、基準送信器から・・・(略)・・・送信される」(【0029】)との記載より、刊行物1には、「基準位置判定信号は、疑似衛星を含む基準送信器から送信される」ことが記載されているといえる。

c 刊行物1の「位置判定ユニット装置201には、・・・(略)・・・送信器時計210が組み込まれており、・・・(略)・・・送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置のCPU211によって、基準位置判定信号203と、位置判定ユニット装置受信器204によって測定される従属位置判定信号206との間の時間差から決定され、基準位置判定信号の経過時間209によってオフセットされる。これにより、従属位置判定信号206は、基準送信器202の時間ベースと時系列的同期化される」(【0030】)との記載について、「時系列的同期化される」こととは「時系列的に同期化される」ことといえ、また、「Aに組み込まれたB」とは「AのB」といえるとともに、「位置判定ユニット装置201には、・・・(略)・・・送信器205が組み込まれている」(【0029】)、「基準送信器202からの基準位置判定信号203」および「送信器205からの従属位置判定信号206」(【0029】)との記載を踏まえれば、刊行物1には、「位置判定ユニット装置201の送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置201のCPU211によって、基準送信器202からの基準位置判定信号203と、位置判定ユニット装置201の送信器205からの従属位置判定信号206との間の時間差から決定され、基準位置判定信号の経過時間209によってオフセットされ、従属位置判定信号206は、基準送信器202の時間ベースと時系列的に同期化される」ことが記載されているといえる。

d 刊行物1には、「基準位置判定信号203は、・・・(略)・・・固有擬似乱数コード成分・・・(略)・・・を有し」(【0029】)、「従属位置判定信号206は、・・・(略)・・・固有の擬似乱数コード成分・・・(略)・・・を有している」(【0029】)ことが記載されている。

e 刊行物1の「位置判定ユニット装置は、以下の制御状態を使って、基準送信器にタイムロックする」(【0032】)との記載について、「位置判定ユニット装置が少なくとも1つの基準送信器に時系列的に同期化する上記方法を、以後「タイムロック」と呼ぶ」(【0024】)および「状態8:基準/従属コードロック」(【0041】)との記載を踏まえれば、刊行物1には、「位置判定ユニット装置は、基準/従属コードロックの制御状態を使って、少なくとも1つの基準送信器に時系列的に同期化する」ことが記載されているといえる。

f 刊行物1の「基準/従属コードロックは、位置判定ユニット装置の・・・(略)・・・送信器時計210が必要な時間の量だけ回され、基準及び従属位置判定信号をPRNコードと整列させたときに実現される。・・・(略)・・・時計修正は、・・・(略)・・・追加の周波数オフセットを所定の期間に対し・・・(略)・・・送信器時計210へ適用することによって実現される。この追加の周波数オフセットは、従属位置判定信号206が、基準送信器202の時間ベースと時間の一貫性が保てるようになるまで、回転できるようにする。・・・(略)・・・代わりに、コードロックは、位置判定ユニット装置送信器205のPRNコード生成器を・・・(略)・・・必要量のコード位相(チップ)だけ回転させることによって、実現させることもできる」(【0041】)との記載について、「以下の制御状態」(【0032】)および「状態8:基準/従属コードロック」(【0041】)との記載を踏まえれば、「基準/従属コードロック」とは、「基準/従属コードロックの制御状態」といえ、また、「位置判定ユニット装置送信器205」とは、「位置判定ユニット装置201の送信器205」といえ(【0029】)、さらに、「PRNコード生成器は、・・・(略)・・・他の擬似乱数コードシーケンスの中で識別できる固有のコードシーケンスを備えたコード成分を作る」(【0074】)ものであって、位置判定ユニット装置201の送信器205のPRNコード生成器が作る「他の擬似乱数コードシーケンスの中で識別できる固有のコードシーケンスを備えたコード成分」とは、位置判定ユニット装置201の送信器205からの従属位置判定信号206の「固有の擬似乱数コード成分」に対応するものであるといえ、加えて、「PRN」は「擬似乱数」といえるから、刊行物1には、「基準/従属コードロックの制御状態は、位置判定ユニット装置201の送信器時計210が必要な時間の量だけ回され、基準位置判定信号203及び従属位置判定信号206を擬似乱数コードと整列させたときに実現され、時計修正は、追加の周波数オフセットを所定の期間に対し送信器時計210へ適用することによって実現され、追加の周波数オフセットは、従属位置判定信号206が、基準送信器202の時間ベースと時間の一貫性が保てるようになるまで、回転できるようにし、代わりに、位置判定ユニット装置201の送信器205の擬似乱数コード生成器であって、固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量のコード位相(チップ)だけ回転させることによって、実現させることもできる」ことが記載されているといえる。

したがって、上記aないしfを総合すると、刊行物1には以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「移動式装置に関する正確な位置判定を行うためのシステムにおいて、位置判定ユニット装置201が少なくとも1つの基準送信器202に時系列的に同期化する方法であって、
基準位置判定信号203は、疑似衛星を含む基準送信器202から送信され、
位置判定ユニット装置201の送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置201のCPU211によって、基準送信器202からの基準位置判定信号203と、位置判定ユニット装置201の送信器205からの従属位置判定信号206との間の時間差から決定され、基準位置判定信号203の経過時間209によってオフセットされ、従属位置判定信号206は、基準送信器202の時間ベースと時系列的に同期化され、
基準位置判定信号203は、固有擬似乱数コード成分を有し、
従属位置判定信号206は、固有の擬似乱数コード成分を有し、
位置判定ユニット装置201は、基準/従属コードロックの制御状態を使って、少なくとも1つの基準送信器202に時系列的に同期化し、
基準/従属コードロックの制御状態は、位置判定ユニット装置201の送信器時計210が必要な時間の量だけ回され、基準位置判定信号203及び従属位置判定信号206を擬似乱数コードと整列させたときに実現され、時計修正は、追加の周波数オフセットを所定の期間に対し送信器時計210へ適用することによって実現され、追加の周波数オフセットは、従属位置判定信号206が、基準送信器202の時間ベースと時間の一貫性が保てるようになるまで、回転できるようにし、代わりに、位置判定ユニット装置201の送信器205の擬似乱数コード生成器であって、固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量のコード位相(チップ)だけ回転させることによって、実現させることもできる
方法。」

(イ)刊行物2(特表2008-512960号公報)の記載事項
刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【0030】
システム100の実施例では、第一の通信システムは既存の通信システムであり、位置配置信号は既存の通信信号に加えて同報される。図1にはわずか三つの位置配置信号しか示されていないが、多数のビーコンがシステムに含まれ、あらゆるある瞬間において移動デバイス110は全てまたは未満の位置配置ビーコン120a?120nを受信する能力を有する。例えば、第一の通信システムはテレビ放送システム、ラジオ放送システム、または無線ローカルエリア・ネットワークであり、且つ既存の放送アンテナは位置配置ビーコン120a?120nとして構成される。システム100の他の実施例では、一以上の位置配置ビーコン120a?120nは衛星ビーコン、航空機搭載ビーコン、または他のいくつかの非地上ビーコンである。」

「【0035】
一実施例では、30メートルの精度に位置決めを許容することが望ましい。この精度レベルを達成するために、位置配置ビーコン120a?120n伝送の間のタイミング誤差は100ナノ秒以下に保持されなければならない。しかしながら、これは測定誤差のような他の誤差の源、及び精度の位置希釈化(PDOP)に起因する誤差のような配置が引起こす誤差増加を考慮していない。従って、伝送誤差を相互に対して50ナノ秒以下に維持することがシステム100にとって望ましい。これが実用的でなければ、勿論、究極の精度はそれに応じて基準化するであろう。誤差が一定であれば、GPS位置配置及び時間帯(time-of-day)の解がMS内で利用可能であると仮定して、そのような誤差を決定するために移動デバイス110を利用することによって、位置配置ビーコン120a?120nのタイミング誤差を較正することが可能である。従って、時間に対する伝送タイミングまたはビーコン同期の変化を最小にすることが重要である。」

「【0115】
巡回プレフィックスを適用した後、位置配置ビーコンはブロック730に進み、位置配置信号を時間基準に同期させる。前に論じたように、位置配置ビーコンはタイミング誤差に起因する位置誤差を最小にするように同期されなければならない。位置配置ビーコンはGPS時間基準または他の時間基準といった外部のタイミング基準に同期される。位置配置ビーコンのタイミングは他の位置配置ビーコンに関して固定され、且つ100nsec以内に、好ましくは50nsec以内に正確でなければならない。」

a 刊行物2の「既存の放送アンテナは位置配置ビーコン120a?120nとして構成される。システム100の他の実施例では、一以上の位置配置ビーコン120a?120nは衛星ビーコン、航空機搭載ビーコン、または他のいくつかの非地上ビーコンである」(【0030】)との記載より、刊行物2には、「一以上の位置配置ビーコン120a?120nは、放送アンテナ、衛星ビーコン、航空機搭載ビーコン、または他のいくつかの非地上ビーコンである」ことが記載されているといえる。

b 刊行物2には、「位置配置ビーコンはGPS時間基準または他の時間基準といった外部のタイミング基準に同期される」(【0115】)ことが記載されている。

c 刊行物2には、「移動デバイス110を利用することによって、位置配置ビーコン120a?120nのタイミング誤差を較正することが可能である」(【0035】)ことが記載されている。

したがって、上記aないしcを総合すると、刊行物2には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物2に記載の技術」という。)。

「一以上の位置配置ビーコン120a?120nは、放送アンテナ、衛星ビーコン、航空機搭載ビーコン、または他のいくつかの非地上ビーコンであり、
位置配置ビーコンはGPS時間基準または他の時間基準といった外部のタイミング基準に同期され、
移動デバイス110を利用することによって、位置配置ビーコン120a?120nのタイミング誤差を較正することが可能である、
技術。」

イ 本願発明についての対比
(ア)本願発明と引用発明とを対比する。

(イ)引用発明の「移動式装置に関する正確な位置判定を行うためのシステム」、「擬似乱数コード」、「従属位置判定信号206」、「時間ベース」、「時間差」、「コード位相(チップ)」および「基準位置判定信号203」は、それぞれ、本願発明の「測位システム」、「疑似乱数(PRN)符号」、「伝達メッセージ」、「基準時刻」、「タイミングバイアス」、「チップ」および「さらなる伝達メッセージ」に相当する。

(ウ)引用発明は、「従属位置判定信号206は、基準送信器202の時間ベースと時系列的に同期化され」、「従属位置判定信号206は、固有の擬似乱数コード成分を有」するものであるところ、「固有の擬似乱数コード成分」が「複数のチップ」を含むことを示す記載(固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量のコード位相(チップ)だけ回転させる)がある一方で、「固有の擬似乱数コード成分」が「繰り返し」の符号であることは明示されていないものの、例えばC/Aコードで知られるように、測位システムにおいて、複数のチップを含む所定の周期の疑似乱数を繰り返してなる符号、すなわち、複数のチップを含む繰り返し疑似乱数符号を用いることは一般的であるから、本願発明とは、「測位システムにおいて、複数のチップを含む繰り返し疑似乱数(PRN)符号を用いて形成される伝達メッセージを、基準時刻と同期化する方法」である点で共通する。

(エ)引用発明は、「基準/従属コードロックの制御状態を使って、少なくとも1つの基準送信器202に時系列的に同期化し」、「基準/従属コードロックの制御状態」は、「追加の周波数オフセットを所定の期間に対し送信器時計210へ適用することによって」、「時計修正」を実現し、「追加の周波数オフセットは、従属位置判定信号206が、基準送信器202の時間ベースと時間の一貫性が保てるようになるまで、回転できるようにし、代わりに、位置判定ユニット装置201の送信器205の擬似乱数コード生成器であって、固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量のコード位相(チップ)だけ回転させることによって、実現させることもできる」もの、すなわち、基準送信器202に時系列的に同期化するため、固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量のコード位相(チップ)だけ回転させるものを含み、また、「同期化する」こととは、「その後の時間差を減らす」ことといえるから、「後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップの数を変更する」本願発明とは、「後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップを変更する」点で共通する。

(オ)引用発明において、位置判定ユニット装置201が、ある場所に配置されることは明らかであるから、「位置判定ユニット装置201に組み込まれた送信器205からの従属位置判定信号206」を有する引用発明と、「前記伝達メッセージが、第1の場所から第1のシュードライトにより送信され」る本願発明とは、「前記伝達メッセージが、第1の場所から第1の装置により送信され」る点で共通する。

(カ)刊行物1の「基準送信器は、他の位置判定ユニット装置、・・・(略)・・・疑似衛星・・・(略)・・・を含んでいる」(【0022】)との記載より、引用発明の基準送信器202と位置判定ユニット201とは、異なる装置であって異なる場所に配置されることは明らかであって、引用発明の「疑似衛星」は、本願発明の「シュードライト」に対応するから、「基準位置判定信号は、疑似衛星を含む基準送信器から送信され」る引用発明と、「前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージにより提供されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所から遠く離れた第2の場所から第2のシュードライトにより送信され」る本願発明とは、「前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージにより提供されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所とは異なる第2の場所からシュードライトにより送信され」る点で共通する。

(キ)引用発明は、「位置判定ユニット装置201の送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置201のCPU211によって、基準送信器202からの基準位置判定信号203と、位置判定ユニット装置201の送信器205からの従属位置判定信号206との間の時間差から決定され」るものであって、所定の装置が修正値の決定のために時間差を判定しているといえるから、上記(オ)および(カ)(「前記伝達メッセージが、・・・(略)・・・第1の装置により送信され」、「前記さらなる伝達メッセージが・・・(略)・・・シュードライトにより送信され」る点で共通すること)も踏まえれば、「前記伝達メッセージと前記基準時刻との間のタイミングバイアスを判定」し、「前記伝達メッセージと前記基準時刻との間の前記タイミングバイアスが、前記第1の場所及び前記第2の場所から遠く離れた第3の場所で、前記第1のシュードライトから前記伝達メッセージを受信するとともに前記第2のシュードライトから前記さらなる伝達メッセージを受信する前記監視及び制御局により判定され」る本願発明とは、「前記伝達メッセージと前記基準時刻との間のタイミングバイアスを判定」し、「前記伝達メッセージと前記基準時刻との間の前記タイミングバイアスが、前記第1の装置から前記伝達メッセージを受信するとともに前記シュードライトから前記さらなる伝達メッセージを受信する装置により判定され」る点で共通する。

(ク)すると、本願発明と引用発明とは、次の一致点および相違点を有する。

<一致点>
「測位システムにおいて、複数のチップを含む繰り返し疑似乱数(PRN)符号を用いて形成される伝達メッセージを、基準時刻と同期化する方法であって、
前記伝達メッセージと前記基準時刻との間のタイミングバイアスを判定する段階と、
後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップを変更する段階と
を含み
前記伝達メッセージが、第1の場所から第1の装置により送信され、
前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージにより提供されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所とは他の第2の場所からシュードライトにより送信され、
前記伝達メッセージと前記基準時刻との間の前記タイミングバイアスが、前記第1の装置から前記伝達メッセージを受信するとともに前記シュードライトから前記さらなる伝達メッセージを受信する装置により判定される
方法。」

<相違点>
【相違点1】
本願発明は、後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおける「チップの数を変更する」とともに、「加えられるか、または取り除かれるべきチップの数は、・・・(略)・・・前記監視及び制御局により計算され、加えられるか、または取り除かれるべき前記チップの数および前記タイミングバイアスが、前記第3の場所の前記監視及び制御局から前記第1の場所の前記第1のシュードライトに、前記第1のシュードライトの前記伝達メッセージへの包含のために送信される」のに対し、引用発明は、基準/従属コードロックの制御状態を使って、少なくとも1つの基準送信器202に時系列的に同期化するため、固有の擬似乱数コード成分を作る擬似乱数コード生成器を必要量の「コード位相(チップ)だけ回転させる」ものであって、「位置判定ユニット装置201の送信器時計210への修正値は、位置判定ユニット装置201のCPU211によって」決定される点。

【相違点2】
本願発明は、伝達メッセージを送信する第1の「シュードライト」を有するのに対し、引用発明は、従属位置判定信号206を送信する位置判定ユニット装置201を有しているものの、「位置判定ユニット装置201が疑似衛星(シュードライト)であるか否かが明確でない」点。

【相違点3】
本願発明は、第2のシュードライトがさらなる伝達メッセージを送信する第2の場所が、第1の場所から「遠く離れ」ているのに対し、引用発明は、疑似衛星を含む基準送信器202と位置判定ユニット201とは、異なる装置であって異なる場所に配置されることは明らかであるものの(上記(カ))、疑似衛星を含む基準送信器202が基準位置判定信号203を送信する基準送信器202が配置される場所が、位置判定ユニット装置201が配置される場所から「遠く離れているか否かが明確でない」点。

【相違点4】
本願発明は、タイミングバイアスが「前記第1の場所及び前記第2の場所から遠く離れた第3の場所で」、「前記監視及び制御局」により判定されるのに対し、引用発明は、時間差が「位置判定ユニット装置201のCPU211」により判定される点。

ウ 本願発明についての判断
(ア)相違点1について検討する。

(イ)刊行物1には、後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおける「チップの数を変更する」とともに、「加えられるか、または取り除かれるべきチップの数は、・・・(略)・・・前記監視及び制御局により計算され、加えられるか、または取り除かれるべき前記チップの数および前記タイミングバイアスが、前記第3の場所の前記監視及び制御局から前記第1の場所の前記第1のシュードライトに、前記第1のシュードライトの前記伝達メッセージへの包含のために送信される」という点は、開示されていない。また、上記の点は、刊行物2にも開示されておらず、周知技術であるともいえない。
よって、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明、刊行物2に記載の技術および周知技術から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(ウ)したがって、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

エ 本願発明についての小括
上記「ウ 本願発明についての判断」において示したとおり、本願発明は、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

オ 本願の請求項1ないし6に係る発明について
本願の請求項1に係る発明は、「測位システムにおいて・・・(略)・・・伝達メッセージを、基準時刻と同期化する方法」の発明である本願発明を、「測位データを含む伝達メッセージを送信するように構成された送信機を備える測位システム」である「物の発明」とし、「監視及び制御局が、前記伝達メッセージを基準時刻と比較するように構成され」る点を限定するものであるところ、本願の請求項1に係る発明において、伝達メッセージと基準時刻との間の「タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップの数を変更する」こととは、本願発明の「伝達メッセージを、基準時刻と同期化する」ことに対応するから、本願の請求項1に係る発明は、測位システムが「測位データを含む伝達メッセージを送信するように構成された送信機を備える」点、および、監視及び制御局が「前記伝達メッセージを基準時刻と比較するように構成され」る点について、本願発明をさらに限定したものといえる。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、本願発明と同様に、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願の請求項2ないし6に係る発明は、本願の請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2ないし6に係る発明は、本願発明および本願の請求項1に係る発明と同様に、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)[理由2]について
ア 請求項1の「実質的に」との記載について
平成28年10月26日の手続補正により補正された請求項1には、「実質的に」との記載はない。
よって、請求項1について、程度を曖昧にする表現があるため発明の範囲が不明確である、とはいえない。

イ 請求項5(原査定時の請求項6に対応)の「変化率」との記載について
平成28年10月26日の手続補正により補正された請求項5には、「変化率」との記載はなく、代わりに「導関数」と記載されている。
よって、請求項5について、「変化率」とは言えず「導関数」と表現すべきであるため発明が不明確である、とはいえない。

(3)小括
上記「(1)」および「(2)」で述べたとおり、本願発明および本願の請求項1ないし6に係る発明は当業者が引用発明に基づいて容易に発明することができたとはいえず、また、本願の請求項1および5に係る発明は明確でないとはいえない。
よって、原査定の[理由1]および[理由2]によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 平成28年7月21日付け当審拒絶理由について
1 平成28年7月21日付け当審拒絶理由の概要
[理由1]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)伝達メッセージを基準時刻と同期化する(チップの数を変更する)主体について
・請求項:1-6
・備考:
請求項1の「監視及び制御局が、前記伝達メッセージを基準時刻と同期化するように構成され、(中略)前記システムが、後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップの数を変更するように構成され」という記載によっては、監視及び制御局において、チップの数を変更する(チップスリッピング)といった同期化処理を行うものとして理解することができるが、本願の発明の詳細な説明には、監視及び制御局が「同期化されることを保証するための同期化データを生成する」(段落【0029】参照)ことが記載されているものの、監視及び制御局がチップの数を変更する(チップスリッピング)といった同期化処理を行うことは記載されていない。

・請求項:7
・備考:
請求項7の「測位システムにおいて、複数のチップを含む繰り返し疑似乱数(PRN)符号を用いて形成される伝達メッセージを、基準時刻と同期化する方法であって、(中略)後に続く疑似乱数(PRN)符号の前記タイミングバイアスが減らされるように、前記伝達メッセージにおけるチップの数を変更する」という記載によっては、測位システムを構成する監視及び制御局においても、チップの数を変更する(チップスリッピング)といった同期化処理を行い得るものとして理解することができるが、本願の発明の詳細な説明には、監視及び制御局が「同期化されることを保証するための同期化データを生成する」(段落【0029】参照)ことが記載されているものの、監視及び制御局がチップの数を変更する(チップスリッピング)といった同期化処理を行うことは記載されていない。

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)基準時刻の提供元について
・請求項:1-7
・備考:
請求項1の「監視及び制御局が、前記伝達メッセージを基準時刻と同期化するように構成され、(中略)前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージに基づき定義されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所から遠く離れた第2の場所から第2のシュードライトにより送信され、(中略)前記伝達メッセージと前記基準時刻との間の前記タイミングバイアスが、前記第1の場所及び前記第2の場所から遠く離れた第3の場所で、前記第1のシュードライトから前記伝達メッセージを受信するとともに前記第2のシュードライトから前記さらなる伝達メッセージを受信する前記監視及び制御局により判定される」という記載によっては、基準時刻自体の提供元が、監視及び制御局であるかのようにも(例えば、「さらなる伝達メッセージ」について、基準時刻自体ではなく、監視及び制御局が基準時刻を新たに算出するためのSeed(数値生成の元となるもの)のようなものとして理解することもできる。)、また、第2のシュードライトであるかのようにも読めるため、基準時刻自体の提供元が不明確である。

2 平成28年7月21日付け当審拒絶理由の判断
(1)[理由1]について
平成28年10月26日の手続補正により、請求項1に係る発明が、「監視及び制御局が、前記伝達メッセージを基準時刻と比較するように構成され」、「加えられるか、または取り除かれるべきチップの数は、前記タイミングバイアスに基づき前記監視及び制御局により計算され、加えられるか、または取り除かれるべき前記チップの数および前記タイミングバイアスが、前記第3の場所の前記監視及び制御局から前記第1の場所の前記第1のシュードライトに、前記第1のシュードライトの前記伝達メッセージへの包含のために送信される」ものであることが明確となり、また、本願発明についても同様に、「加えられるか、または取り除かれるべきチップの数は、前記タイミングバイアスに基づき前記監視及び制御局により計算され、加えられるか、または取り除かれるべき前記チップの数および前記タイミングバイアスが、前記第3の場所の前記監視及び制御局から前記第1の場所の前記第1のシュードライトに、前記第1のシュードライトの前記伝達メッセージへの包含のために送信される」ものであることが明確となり、いずれの発明においても、監視及び制御局において、チップの数を変更する(チップスリッピング)といった同期化処理を行うものは排除され、請求項1に係る発明および本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえるようになった。

(2)[理由2]について
平成28年10月26日の手続補正により、請求項1および7の「前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージに基づき定義されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所から遠く離れた第2の場所から第2のシュードライトにより送信され」との記載が「前記基準時刻が、さらなる伝達メッセージにより提供されるとともに、前記さらなる伝達メッセージが前記第1の場所から遠く離れた第2の場所から第2のシュードライトにより送信され」と補正され(下線は強調のために当審にて付した。)、基準時刻自体の提供元が第2のシュードライトであることが明確となった。

(3)小括
上記「(1)」および「(2)」で述べたとおり、平成28年10月26日付けの手続補正により、平成28年7月21日付け当審拒絶理由の[理由1]および[理由2]は解消した。
そうすると、もはや、平成28年7月21日付け当審拒絶理由の[理由1]および[理由2]によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由および当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-20 
出願番号 特願2012-531317(P2012-531317)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01S)
P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 高橋 克
清水 稔
発明の名称 測位システム  
代理人 実広 信哉  
代理人 佐伯 義文  

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