• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1324156
審判番号 不服2015-4613  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-10 
確定日 2017-01-18 
事件の表示 特願2012-518693「マルチプルチャンバマスク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年1月13日国際公開、WO2011/003130、平成24年12月13日国内公表、特表2012-531977〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)7月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年(平成21年)7月6日、オーストラリア国)を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 1月 5日 国内書面提出
平成25年 7月 2日 出願審査の請求及び手続補正書の提出
平成26年 5月 2日付け 拒絶理由通知
同年10月 9日 意見書及び手続補正書の提出
同年10月31日付け 拒絶査定(謄本の送達 11月11日)
平成27年 3月10日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の
提出
同年 6月22日 前置審査報告
同年10月20日 上申書の提出
平成28年 2月23日付け 当審による拒絶理由通知
同年 7月28日 意見書及び手続補正書の提出



第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年7月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「気体供給源;
音を減衰させる複数の開口を備える気体排出口;
前記気体供給源及び患者と通じる第1チャンバ;
前記患者から離間して配置され、前記第1チャンバと通じ、前記気体排出口を介して大気と通じる第2チャンバ;及び
前記第1チャンバと前記第2チャンバとを画定し、音を減衰させる複数の開口を備える隔壁;を含むことを特徴とするマスク。」



第3 当審拒絶理由
平成28年2月23日付けで当審より通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、引用文献1(米国特許公開第2008/0168991号明細書)に記載の発明及び引用文献3(特開2004-535226号公報)等に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
よって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



第4 引用文献
1 引用文献1
当審の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許公開第2008/0168991号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(参考訳及び下線は、理解の便のため、当審で付与した。)

ア [0001]-[0002]
「The invention concerns a ventilator, which has a forehead support connected with a ventilator mask, where the ventilator mask is provided with a connection for a ventilator hose, and where the forehead support is coupled with the ventilator mask by a spacing element.」
「A typical use of devices of this type is in connection with respiratory air supply systems used in CPAP therapy (CPAP=continuous positive airway pressure). They can also be used in bilevel ventilation, APAP ventilation, home ventilation, and hospital emergency ventilation.」
(参考訳:本発明は、人工呼吸器マスクに接続された額部支持体を有し、該人工呼吸器マスクが人工呼吸器ホースの接続を備えている場合、該額部支持体はスペーシング要素によって人工呼吸器マスクに結合されている、人工呼吸器に関する。
このタイプの装置の典型的な使用では、CPAP療法(CPAP=持続気道陽圧)で使用される呼吸気体供給システムが接続されている。バイレベル人工呼吸、APAP人工呼吸、在宅人工呼吸、および病院での緊急人工呼吸にも用いることができる。)

イ [0081]
「FIG. 1 shows an embodiment in which a ventilator mask 1 is coupled with a forehead support 3 by a spacing element 2. A ventilator hose 4 opens into the ventilator mask 1.」
(参考訳:図1は、スペーシング要素2によって額部支持体3に結合されている人工呼吸器マスク1の実施形態を示している。人工呼吸器ホース4は、人工呼吸器マスク1内に開口している。 )

ウ [0083]
「The spacing element 2 has an outer wall 10 that bounds a cavity 11, which opens into an interior space 12 of the ventilator mask 1. In the embodiment shown in FIG. 1, the cavity 11 opens into an interior space 13 of the forehead support in its expanded area facing away from the ventilator mask 1. The forehead support 3 consists essentially of a body 14 and a cushion 15.」
(参考訳:スペーシング要素2は、人工呼吸器マスク1の内部空間12内に開口している空洞11を画定する外壁10を有している。図1に示す実施形態では、空洞11は、人工呼吸器マスク1から反対側に面する拡張領域に存在する額部支持体の内部空間13に開口している。額部支持体3は、基本的には本体14とクッション15とからなる。)

エ [0087]
「The principal flow directions of the respiratory gas are indicated in FIG. 1 by flow arrows. In particular, the drawing shows that a large portion of the exhaled respiratory gas is discharged from the forehead support 3 in a direction away from the patient 7. Optimum discharge of the respiratory gas can be achieved by suitable predetermination of the discharge openings in the area of the forehead support 3.」
(参考訳:呼吸ガスの主要な流れ方向は、図1にて流れの矢印により示されている。特に、吐き出された呼吸ガスの大部分が額部支持体3から患者7から離れる方向に排出されることを該図は示している。呼吸ガスの最適な排出は、額部支持体3の領域に複数の排出口の適切な事前決定によって達成することができる。)

オ [0089]-[0090]
「The embodiment in FIG. 2 also provides for the placement of discharge openings 29 in the area of the cushion 15 of the forehead support 3. In the embodiment according to FIG. 2, discharge openings 30 are also provided in the area of the body 14 of the forehead support 13.」
「In the embodiment according to FIG. 2, additional discharge openings 32 of the forehead support 3 are located in an upper region of the body 14, and the size of the discharge openings 32 can be preset by closure elements 31 that can be turned.」
(参考訳:図2の実施形態では、額部支持体3のクッション15の領域における複数の排出口29の配置を提供する。図2記載の実施形態では、額部支持体13の本体14の領域に複数の排出口30が設けられている。
図2記載の実施形態では、額部支持体3の追加の複数の排出口32は、本体14の上部領域に配置されており、排出口32の大きさは、回転させることができる閉鎖要素31によって予め設定することができる。)

カ [0103]
「FIG. 16 shows an embodiment in which a throttle element 44 is installed in the spacing element 2. The throttle element 44 produces a well-defined discharge resistance for the exhaled respiratory gas and guarantees that a sufficient ventilation pressure can develop in the ventilator mask 1. In the embodiment illustrated in FIG. 16, the throttle element 44 consists of a plurality of lips arranged one behind the other, which separate individual chambers 45 from each other. The chambers 45 are connected with each other only by individual overflow openings 46. In addition to helping produce the necessary ventilation pressure, this arrangement can also improve the level of sound damping.」
(参考訳:図16はスペーシング要素2に装着されているスロットル要素44の実施形態を示している。スロットル要素44は、吐き出された呼吸ガスの明確に定義された排出抵抗を生成し、十分な呼吸圧力が人工呼吸器マスク1に展開されることができることを保証する。図16に示す実施形態において、スロットル要素44は、個々のチャンバ45を互いに分離する1列に配置された複数のリップから構成される。チャンバ45は、個々のオーバーフロー開口部46のみで互いに連結されている。必要な呼吸圧力の生成を助けることに加えて、この構成は音響減衰のレベルを向上させることができる。)

キ [0107]
「In the embodiment in FIG. 20, the throttle element 44 according to FIG. 16 is installed in the spacing element 2 as a removable throttle module 48. This makes it possible to supply a variety of different throttle modules 48, which are inserted in the spacing element 2 according to the individual practical requirements of each case.」
(参考訳:図20の実施形態では、図16に記載のスロットル要素44は、着脱自在なスロットルモジュール48としてスペーシング要素2に装着される。これは、それぞれの個々の実用性を考慮してスペーシング要素2に挿入される、種々の異なるスロットルモジュール48の提供を実現する。)

ク [0110]
「In the embodiment in FIG. 24, the throttle module 48 has an insert that consists of a porous material with an internal porosity of up to 4,500m^(2)/g.」
(参考訳:図24の実施形態では、スロットルモジュール48は、内部空隙率4,500m^(2)/gまでの多孔質材料からなるインサートを有している。)

ケ [0112]
「FIG. 26 shows an embodiment in which the throttle module 48 has a smaller number of flow paths 49 than the throttle module 48 shown in FIG. 25, although the flow paths 49 have larger cross-sectional areas than those in the embodiment of FIG. 25.」
(参考訳:図26は、図25に示すスロットルモジュール48よりも少ない数の流路49を有するスロットルモジュール48の実施形態を示しており、もっとも該流路49は図25の実施形態のそれに比べて大きい断面積を有しているものである。)

コ [0115]
「The embodiment according to FIG. 30 shows another realization of the throttle module 48 with the use of a porous material, for example, a sintered material.」
(参考訳:図30に記載の実施形態は、多孔質材料、例えば、焼結材料を用いたスロットルモジュール48の他の実現例を示している。)

サ FIG.1



FIG.1からは、人口呼吸器マスク1の内部空間12内に患者7の鼻が存在していることが看取でき(上図における箇所Aを参照)、言い換えれば、内部空間12は患者7と通じていることが認められる。
また、額部支持体3の内部空間13と患者7との間には、クッション15が存在することも看取でき(上図における箇所Bを参照)、言い換えれば、クッション15が存在することにより、内部空間13は患者7から離間して配置されていることが認められる。

シ 呼吸ガス排出口
上記摘記事項エ及びオから、呼吸ガスは、額部支持体3に設けられた複数の排出口29,30,32より排出されるといえるから、これらの排出口を総称して「呼吸ガス排出口」と呼ぶことができる。また、引用文献1に記載の人工呼吸器マスク1は、患者7が生活する通常空間で使用されるものと認められるから、呼吸ガス排出口より排出された呼吸ガスは、通常生活空間、つまり大気中へ排出されると認められる。よって、摘記事項ウを併せて考慮すれば、額部支持体3の内部空間13は、呼吸ガス排出口を介して大気と通じていると認められる。

ス スロットル要素44、スロットルモジュール48
上記摘記事項カから、スロットル要素44は、音を減衰させる機能を有するといえる。また、上記摘記事項キから、スロットルモジュール48は、スロットル要素44と代替可能なものであることが認められ、代替物である以上、程度の差はあるとはいえ、同様の作用・効果を奏するものであると認められる。よって、FIG.20、FIG.24、FIG.26及びFIG.30にそれぞれ記載のスロットルモジュール48も音を減衰させる機能を有するものと認められる。
また、上記摘記事項ウ及びFIG.1の図示から、内部空間12、空洞11及び内部空間13は、互いに空間的に連結されていることが認められ、上記摘記事項カ及びFig.16から、空洞11にスロットル要素44が存在し、当該スロットル要素44により、内部空間12、空洞11及び内部空間13とが空間的に区切られている、つまり画定されているといえる。よって、以上を総合すれば、スロットル要素44(又はその代替物であるスロットルモジュール48)は、内部空間12及び空洞11の一部と、内部空間13及び空洞11の他部とを画定していると認められる。

セ 引用発明
上記摘記事項ア?コ及び認定事項サ?スから、技術常識を踏まえると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「呼吸気体供給システム;
複数の排出口29,30,32からなる呼吸ガス排出口;
前記呼吸気体供給システム及び患者7と通じる内部空間12及び空洞11の一部;
前記患者7から離間して配置され、前記内部空間12及び空洞11の一部と通じ、前記呼吸ガス排出口を介して大気と通じる内部空間13及び空洞11の他部;及び
前記内部空間12及び空洞11の一部と前記内部空間13及び空洞11の他部とを区切りかつ画定し、音を減衰させる多孔質材料からなるスロットルモジュール48;を含む人工呼吸器マスク1。」


2 引用文献3
当審の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-535226号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、理解の便のため、当審で付与した。)

ア 段落【0001】
「本発明は、単ーアームの圧力支援(プレッシャーサポート)システムに使用される排気口組立体、特に小型化できかつ騒音低減機能及びガス拡散能力を向上する排気口組立体に属する。また、本発明は、前記排気口組立体を使用する圧力支援システムに属する。」

イ 段落【0035】
「図3?図9に示す実施の形態では、排気構造体は、排気部材64を直接貫通する所定の直径を有する複数の孔82を含み、排出気体の連続流を排気口組立体から周辺大気に矢印Fに示すように放出できる。」

ウ 段落【0036】
「本発明の実施の形態では、排気口として比較的多くの孔82を設けて、大気に放出する排気流に伴う騒音を最小化することができる。より詳細には、比較的多くの孔を設けることにより、単一の孔を通過する流量が相対的に低下し、1つの排気路を通過する流量が低減するほど、排気路から放出する気体の騒音もより小さくなるであろう。また、本実施の形態によるの排気口は、比較的広い領域にわたり周辺大気に排気流Fを放散するため、比較的直進し又は集中する排気流に伴う不快な前記効果を回避できる。」

エ 段落【0040】
「本発明では、各孔82は、導管内部から周辺大気に向けてほぼ直線的な流路であることを企図する。更に本発明では、各孔82の直径は、流路の全長を通じて比較的一定であることを企図する。しかしながら、例えば導管の内部から外部に向けて縮径する孔82の他の形態も企図できる。ほぼ円形状の孔82を図示するが、本発明は、正方形、長円形、三角形等の他の形態に孔を形成できることも企図する。更に、複数の孔82を全て同じ形態、大きさ又は直径に形成する必要はない。」



第5 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明における「呼吸気体供給システム」、「内部空間12及び空洞11の一部」、「内部空間13及び空洞11の他部」、「人工呼吸器マスク1」は、本願発明における「気体供給源」、「第1チャンバ」、「第2チャンバ」、「マスク」にそれぞれ相当する。
また、本願発明における「複数の開口を備える気体排出口」なる発明特定事項は、排出口が開口を備えるという点で不明瞭であり、また「気体排出口」は発明の詳細な説明に記載されていないのでその詳細が不明瞭である。本願に係る国際出願(PCT/AU2010/000842)では「a gas output」とされていることから、気体が排出される箇所を意味するものと考えることができる。してみれば、当該「複数の開口を備える気体排出口」とは、「複数の開口からなる気体排出箇所」を意味するものとみなすことができる。そうすると、引用発明における「複数の排出口29,30,32からなる呼吸ガス排出口」は、本願発明における「複数の開口を備える気体排出口」に相当する。
さらに、引用発明におけるスロットルモジュール48は、空間を区切る、つまり仕切っているのであるから隔壁の役割を果たしており、引用発明における「スロットルモジュール48」は、本願発明における「隔壁」に相当する。

2 一致点及び相違点
上述の対比から、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
〔一致点〕
「気体供給源;
複数の開口を備える気体排出口;
前記気体供給源及び患者と通じる第1チャンバ;
前記患者から離間して配置され、前記第1チャンバと通じ、前記気体排出口を介して大気と通じる第2チャンバ;及び
前記第1チャンバと前記第2チャンバとを画定し、音を減衰させる隔壁;を含むことを特徴とするマスク。」

〔相違点〕
[相違点1]
本願発明は、気体排出口に備えられた複数の開口が「音を減衰させる」ものであるのに対し、引用発明は、呼吸ガス排出口の複数の排出口29,30,32が音を減衰させるものであるかが不明である点。
[相違点2]
本願発明は、隔壁が「複数の開口を備える」ものであるのに対し、引用発明は、スロットルモジュール48が多孔質材料からなるものであって、「複数の開口を備える」ものではない点。



第6 判断
上記の各相違点について検討する。
1 相違点1
引用文献1に記載された、額部支持体3に設けられた複数の排出口29,30,32についてさらに検討する。引用文献1のFIg.2?4を参照すれば、少なくとも、排出口29が上面に5個、排出口30が左右各2個、計4個、排出口32が左右上下に2個、計4個設けられていることが看取され、総計として排出口29,30,32は、少なくとも13個設けられているものと認められる。してみれば、上記第4 2 摘記事項ウの「排気口として比較的多くの孔82を設けて、大気に放出する排気流に伴う騒音を最小化することができる。より詳細には、比較的多くの孔を設けることにより、単一の孔を通過する流量が相対的に低下し、1つの排気路を通過する流量が低減するほど、排気路から放出する気体の騒音もより小さくなるであろう。」との記載からして、排出口がそれよりも少数(例えば、2?4個程度)設けられている場合に比して、より多数の排出口が設けられている引用発明では、複数の排出口29,30,32により音が減衰されているものと認められる。

したがって、引用発明の呼吸ガス排出口の複数の排出口29,30,32は、程度は別として「音を減衰させる」ものであると認められるから、排出口の機能に関して、本願発明と異なるところはなく、本相違点1は、実質的な相違点ではない。


2 相違点2
引用文献1には、スロットルモジュール48の他の実施形態として、複数の開口を備えるものが記載されている(Fig.25?Fig.27参照)。また、多数の孔を形成したものにより消音化を図ることは、周知技術である(例えば、引用文献3(上記第4 2 摘記事項ウ)参照)。
してみれば、引用発明におけるスロットルモジュール48として複数の開口を備えるものを用いることは、同一文献内に開示された複数の実施形態からの選択にすぎないから、当業者が容易になし得たことである。そして、そのような複数の開口を備えるものが音を減衰させる作用・効果を奏することは、上記「1 相違点1」でも述べたように、上記周知技術からみて、当業者が当然に認識し得たことである。

3 請求人の意見
請求人は、平成28年7月28日付け意見書において、「引用文献1には、音を減衰させるバッフルが記載されていません。引用文献1は一続きであって並列的なものではない単一の開口を開示しており、これが音を減衰させる壁に相当すると解釈されています。しかし、この内部の壁は音を減衰させる性質を有する複数の開口を開示していません。引用文献1に記載の開口の大きさは十分に音を減衰させるには大きすぎるものです。」(3-3-1.請求項1)と主張しているので、当該意見について検討する。

まず、請求人の当該意見は、本件発明の「音を減衰させる複数の開口」のうち、気体排出口に備えられたものについて述べられているのか、隔壁に備えられたものについて述べられているのかが不明瞭である。また、引用文献1に関しても、具体的にどの実施例のどの部位について述べているかが不明瞭である。よって、当該意見が何を対象としたものであるかは直ちに明らかとすることができない。

仮に、請求人の本意見とは、(ア)FIG.16やFIG.20に記載されたスロットル要素44やスロットルモジュール48は、その流路方向に沿って単一とみなせる(一続きとなっており、また、並列的ではない)オーバーフロー開口部46を備えるものであるから、「複数の開口部」には当たらない、また、(イ)スロットル要素44やスロットルモジュール48として開示されたものは、その開口の大きさが大きいため、本願発明のように十分に音を減衰するものではない、と解釈し得るかもしれないので、これらの事項を前提とした上でさらに検討する。
(ア)確かに、FIG.16やFIG.20に記載されたスロットル要素44やスロットルモジュール48は、複数ではない単一の開口部であると考えられるものである。しかしながら、拒絶理由通知においても示し、上記「2 相違点2」でも述べたとおり、引用文献1には、複数の開口部からなるものが開示されている(Fig.25?Fig.27参照)のであるから、請求人の上記意見は採用できない。
(イ)引用文献1に記載されたスロットル要素44やスロットルモジュール48が音を減衰するものであることは、上述(上記第4 1 認定事項ス参照)のとおりである。そして、本願発明においては、「音を減衰させる複数の開口」とのみ特定されており、音の減衰の程度や開口の大きさ及び形状については、一切特定されていないのである。してみれば、請求人の上記意見は、減衰の作用効果の軽重を指してしたものとみた場合、違いがあるかもしれないが、特許請求の範囲の記載に基づき対比した場合にことさら相違を形成しないものであるから、採用の限りでない。


4 小括
以上より、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明及び引用文献3等に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。



第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-22 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-06 
出願番号 特願2012-518693(P2012-518693)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 玲子  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
落合 弘之
発明の名称 マルチプルチャンバマスク  
代理人 木村 満  
代理人 桜田 圭  
代理人 森川 泰司  
代理人 美恵 英樹  
代理人 毛受 隆典  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ