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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G11B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G11B |
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管理番号 | 1324191 |
審判番号 | 不服2015-22272 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-17 |
確定日 | 2017-02-14 |
事件の表示 | 特願2010-262328「一体型リードサスペンションを有する磁気記録ディスクドライブ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-123988、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年11月25日(パリ条約による優先権主張 2009年12月10日 アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年11月5日付け 拒絶理由の通知 平成27年2月26日 意見書、手続補正書の提出 平成27年7月31日付け 拒絶査定 平成27年12月17日 審判請求書、手続補正書の提出 平成28年1月15日 前置報告 平成28年10月11日付け 当審における拒絶理由の通知 平成28年11月24日 意見書、手続補正書の提出 平成28年12月7日 手続補正書の提出 第2 本願の請求項1-10 平成28年12月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-10の記載は以下のとおりである(以下、補正後の請求項1-10をそれぞれ「補正後の請求項1」、「補正後の請求項2」等という。なお、下線は、平成28年12月7日付け手続補正書で審判請求人により付されたものである。)。 「【請求項1】 ソース電圧Vsを有する書き込みドライバ回路と書き込みヘッドとを有する磁気記録ディスクドライブにおける、前記書き込みドライバ回路を前記書き込みヘッドに電気的に接続するための一体型リードサスペンションであって、 前記書き込みドライバ回路に接続するための、固定の特性インピーダンスを有する可撓ケーブル部と、 前記書き込みヘッドに接続するための、固定の特性インピーダンスを有するジンバル部と、 前記可撓ケーブル部と前記ジンバル部とを接続し、N個のセグメント(Nは2以上の整数)を有する伝送線とを有し、 前記N個のセグメントの各々は、特性インピーダンスを有し、 前記Nは、3以上の整数であり、 各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、 前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならず、 前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの信号は、低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅において伝送され、 前記N個のセグメントの前記特性インピーダンスにより、前記所定の周波数帯域幅にわたる周波数における前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの前記信号について平坦な群遅延が得られ、 前記平坦な群遅延とは、前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延が、前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージを超えて逸脱せず、 前記所定の周波数帯域幅は、約0.1GHz?3.0GHzであり、 前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延は、0.1GHzにおける前記群遅延の10パーセント以下である一体型リードサスペンション。 【請求項2】 前記N個のセグメントは、同じ長さを有する請求項1に記載の一体型リードサスペンション。 【請求項3】 前記N個のセグメントは、異なる長さを有する請求項1に記載の一体型リードサスペンション。 【請求項4】 前記伝送線は複数の導電性トレースを備え、 第1のセグメントの前記トレースの幅は、前記第1のセグメントに接続された第2のセグメントの前記トレースの幅と異なる請求項1に記載の一体型リードサスペンション。 【請求項5】 各セグメントの前記トレースの幅は、前記各セグメントに接続されたセグメントの前記トレースの幅と異なる請求項4に記載の一体型リードサスペンション。 【請求項6】 磁気記録ディスクドライブにおける書き込みドライバ回路を書き込みヘッドに電気的に接続するための一体型リードサスペンションであって、 前記書き込みドライバ回路に接続するための、固定の特性インピーダンスを有する可撓ケーブル部と、 前記書き込みヘッドに接続するための、固定の特性インピーダンスを有するジンバル部と、 前記可撓ケーブル部と前記ジンバル部とを接続する複数の導電性トレースと、各々が特性インピーダンスを有するN個のセグメント(Nは2以上の整数)とを有し、前記各々のセグメントの前記トレースの幅は、前記各々のセグメントに接続された前記セグメントの前記トレースの幅と異なる伝送線とを備え、 前記Nは、3以上の整数であり、 各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、 前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならず、 前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの信号は、低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅において伝送され、前記N個のセグメントの前記特性インピーダンスにより、前記所定の周波数帯域幅にわたる周波数における前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの前記信号について平坦な群遅延が得られ、前記平坦な群遅延とは、前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延が、前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージ以内であり、 前記所定の周波数帯域幅は約0.1GHz?3.0GHzであり、 前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延は、0.1GHzにおける前記群遅延の10パーセント以内である一体型リードサスペンション。 【請求項7】 磁気記録ディスクドライブの書き込みドライバ回路を前記磁気記録ディスクドライブの誘導書き込みヘッドに電気的に接続する一体型リードサスペンションの特性インピーダンスを最適化するための方法であって、ソース電圧Vsの前記書き込みドライバ回路から抵抗器Rhに表される損失を有する前記誘導書き込みヘッドへの信号は、所定の周波数帯域幅において伝送され、前記一体型リードサスペンションは、前記書き込みドライバ回路に接続された固定の特性インピーダンスを有する可撓ケーブル部と、前記書き込みヘッドに接続された固定の特性インピーダンスを有するジンバル部と、前記可撓ケーブル部と前記ジンバル部とを接続し、かつそれぞれ特性インピーダンスを有する複数N個のセグメントを含む固定長伝送線とを含み、 前記方法は、 各整数N=2?N=K(Kは3以上の整数)について、平坦な群遅延を有する最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの各々の特性インピーダンスZ01?Z0Nの組を決定するステップと、 それぞれ得られた前記最大の周波数帯域幅のうち、最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの特性インピーダンスZ01?Z0Nを選択するステップとを含む方法であって、 前記Nは、3以上の整数であり、 各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、 前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならないことを特徴とする方法。 【請求項8】 前記N個のセグメントについて前記最大の周波数帯域幅が得られる特性インピーダンスの前記組を決定するステップは、K=N+1個のセグメントについての前記最大の周波数帯域幅がK=N個のセグメントについての前記最大の周波数帯域幅未満であるときに前記決定を終了させるステップを含む請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記N個のセグメントについて前記最大の周波数帯域幅が得られる特性インピーダンスの前記組を決定するステップは、Kが所定の限界値に等しいときに前記決定を終了させるステップを含む請求項7に記載の方法。 【請求項10】 前記書き込みドライバ回路からの前記信号についての前記所定の周波数帯域幅は、約0.1GHz?3.0GHzであり、 前記平坦な群遅延とは、前記群遅延が、0.1GHzにおける前記群遅延の10パーセント以内である請求項7に記載の方法。」 第3 当審における拒絶理由及び原査定の理由の概要 1 当審における拒絶理由の概要 「1.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 3.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1について (1)請求項1には、「前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの信号は、低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅において伝送され、前記N個のセグメントの前記特性インピーダンスにより、前記所定の周波数帯域幅にわたる周波数における前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの前記信号について平坦な群遅延が得られ、前記平坦な群遅延とは、前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延が、前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージを超えて逸脱しない」との事項が記載されているが、「低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅」、「前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージ」が何ら特定されておらず、上記事項により「一体型リードサスペンション」(物の発明)としてのどのような構造、機能等を特定しようとするものかが明確でない。 請求項1を引用する請求項2?5及び請求項7についても同様である。 (2)請求項9において、「固定長伝送線」と「セグメント」との関係が不明確である。 (3)請求項9に係る発明は、「特性インピーダンスを最適化するための方法」であって、「各整数N=2?N=K(Kは3以上の整数)について、平坦な群遅延を有する最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの各々の特性インピーダンスZ01?Z0Nの組を決定するステップ」(以下、「ステップ1」という。)と、「前記最大の周波数帯域幅が得られるNの値を選択するステップ」(以下、「ステップ2」という。)とを含んでいるが、「前記最大の周波数帯域幅が得られるNの値を選択するステップ」が何を意味するのかが不明である。また、最終的に、最適な特性インピーダンスがどのように選ばれるのかも不明である。 具体的には、ステップ1で、N=2?Kのそれぞれについて、「平坦な群遅延を有する最大の周波数帯域幅」を求め、そのときのN個のセグメントの各々の特性インピーダンスの組を決定しているが、ステップ2の「前記最大の周波数帯域幅が得られるNの値」とは、ステップ1の何の値を指すのかが不明であり、かつ、ステップ2により、なぜ最適な特性インピーダンスが得られるのかが不明である。 (なお、詳細な説明の段落23、段落28及び段落29によれば、N=2?N=Kについてそれぞれ得られた前記最大の周波数帯域幅のうち、最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの特性インピーダンスZ01?Z0Nを選択するのではないか?) 請求項9を引用する請求項10-12についても同様である。 (4)請求項10の「前記周波数帯域幅」は、請求項9の「前記誘導書き込みヘッドへの信号」の「所定の周波数帯域幅」を指すのか、「平坦な群遅延を有する最大の周波数帯域幅」を指すのかが不明確である。 (正しくは、「前記N個のセグメントについて前記最大の周波数帯域幅が得られる特性インピーダンスの前記組を決定するステップは、K=N+1個のセグメントについての前記最大の周波数帯域幅がK=N個のセグメントについての前記最大の周波数帯域幅未満であるときに前記決定を終了させるステップ」ではないか?) 請求項11の「前記周波数帯域幅」についても同様である。 ●理由2及び3について ・請求項:1-5、7 ・引用文献: 1.Designing Disk Drive Interconnects to Obtain a Desired Transmitted Write Current Waveform、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS、その他、2002.01.発行、Vol.38, No.1、pp.55-60 備考: 引用文献1(原査定の引用文献1。特に、p55左欄第21行?27行、右欄第1行?第8行及び第19行?第30行、p56右欄下から第15行?第13行、p57左欄第5行?第10行及び下から第8行?第7行、p58右欄下から第4行?p59左欄最下行、図1、図2及び表1参照)参照。 上記引用文献1の「C.Further Constraints on Interconnect Optimization」欄(p58右欄下から第4行?p59左欄最下行)で検討した2つの場合の特性インピーダンスとして、引用文献1の表1(Fig9及びFig10の欄参照)には、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)にいう「前記Nは、3以上の整数であり、各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならず」に相当するものが記載されている。 また、請求項1では「平坦な群遅延が得られ」ることは特定しているものの、「低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅」、「前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージ」については何ら特定されていないところ、引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)においても、引用発明が使用する周波数帯域幅では、群遅延は許容し得る範囲にあるものと考えられるから、引用発明も、「前記N個のセグメントの前記特性インピーダンスにより、前記所定の周波数帯域幅にわたる周波数における前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの前記信号について平坦な群遅延が得られ、前記平坦な群遅延とは、前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延が、前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージを超えて逸脱しない」ものといえる。 したがって、この出願の請求項1に係る発明の発明特定事項と引用文献1に記載された発明の特定事項との間に差異はない。 請求項2-5及び請求項7に係る発明についても、同様である。 なお、引用文献1には、引用文献1に記載されたサスペンションが、ジンバル部等を有する一体型リードサスペンションであることについて明示の記載はないものの、この点は、当業者に自明である。 また、仮に自明でないとしても、この点は当業者が容易に想到し得ることである。」 2 原査定の理由の概要 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 請求項:1-5 引用文献等:1 備考: 引用文献1には、ディス駆動装置の書き込みドライバと書き込みヘッドを接続するための連結基板接続線路について、長さの等しい複数の区間に分割してそれぞれの区間における特性インピーダンスを最適化することが記載されている。 そして、請求項1-5に係る発明は引用文献1に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のものである。 (請求項3について) 長さの等しい複数の区間について、k番目の区間とk+1番目の区間の特性インピーダンスが同じ場合、長さが2倍の区間が存在していると解釈できることは当業者にとって自明な事項である。 (請求項4,5について) 引用文献1には、長さの等しい複数の区間それぞれについて、銅線の幅を変えることにより特性インピーダンスを変えることが記載されている。 請求項:6,8 引用文献等:1及び2 備考: 引用文献2には、ケーブルの特性インピーダンスに基づいてケーブル伝送信号の群遅延量が定まること、群遅延特性による波形歪みを補正することが記載されている。 そして、引用文献1に記載された技術において引用文献2の記載を参酌して、電気信号の波形歪みを補正することは当業者が容易に想到し得ることである。 請求項:7,9 引用文献等:1-3 備考: 引用文献3には、200MHz以上の高周波記録動作において、電気配線の特性インピーダンスを調整して波形歪みを抑えることが記載されている。 そして、請求項7,9に係る発明は引用文献1-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のものである。 請求項:10-13 引用文献等:1-3 備考: 引用文献1には、連結基板接続線路の各区間の特性インピーダンスを最適化する方法として、初めに、分割区間数を最小値に設定して特性インピーダンスの最適化を行い、理想信号波形に対する誤差を求めること、当該誤差が微少となるまで分割数のインクリメントと特性インピーダンスの最適化を繰り返すことが記載されている。(図2等) (請求項11,12について) 分割数を増やしても誤差が縮まらない場合に分割数のインクリメントを中止すること、最大分割数をあらかじめ規定することは当業者であれば容易に想到し得ることである。 拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。 引 用 文 献 等 一 覧 1..Designing Disk Drive Interconnects to Obtain a Desired Transmitted Write Current Waveform,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2002年1月,Vol. 38, No.1,pp.55-60(特に、p.57の左欄の下から第8?7行、図1、図2等参照) 2.特開平04-072904号公報(第2ページ左上欄第2-3行、右下欄第7-10行等参照) 3.特開2000-268336号公報(段落0015,0031,0032,0038,0039,0044等参照)」 第4 当審の判断 1 当審における拒絶の理由について (1)補正後の請求項1-6について 補正後の請求項1及び6は、平成27年12月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び7に、それぞれ当審における拒絶理由の対象となっていない同請求項6及び8の発明特定事項(補正後の請求項1及び6の下線部参照)を加えたものである。 また、補正後の請求項2-5は、補正後の請求項1の従属項である。 したがって、補正後の請求項1-6についての当審における拒絶理由1-3は解消した。 (2)補正後の請求項7-10について 平成28年12月7日付けの手続補正により、平成27年12月17日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項9-12は、補正後の請求項7-10のとおり補正され、明確になった。 したがって、補正後の請求項7-10についての当審における拒絶理由1は解消した。 2 原査定の理由について (1)補正後の請求項1-6について ア 原査定の引用文献1に記載された発明 原査定の引用文献1には、以下の記載がある。 (ア)「Disk drive data rates have been increasing steadily to keep up with increasing linear bit density, disk rotational speeds, and high-speed applications. To achieve data rates greater than 1 Gb/s, recent demonstrations [1] and modeling [2], [3] have pointed to the importance of simultaneously optimizing the components of the write channel front-end: write head, suspension interconnect, and write driver.」(p55左欄第21行?27行) (当審訳:「増加する線形ビット密度、ディスク回転速度およびハイスペック適用についていくために、ディスクドライブのデータレートは着実に増加している。1Gb/sよりも速いデータレートを達成するために、最近のデモンストレーション[1]およびモデリング[2][3]は、書き込みヘッド、サスペンション相互接続、書き込みドライバで構成される書き込みチャンネルフロントエンドの同時最適化の重要性を指摘している。」) (イ)「We will now state the interconnect design problem: we seek an impedance profile Z(x) and a driver resistance Rd that minimize the error between a desired transmitted waveform (current into write head) and the actual transmitted waveform for some fixed load impedance (Fig.1). Our definition of “error” will be described momentarily. Converting to an optimization problem, we approximate the impedance profile Z(x) with N piecewise constant segments Z n (n=1,…,N). The problem is now to divide the interconnect into enough segments so that the optimization is adequate while optimizing these N segments simultaneously. The interconnect length and propagation delay are also fixed (by suspension mechanical design considerations).」(p55右欄第19行?第30行) (当審訳:「それでは、相互接続設計の問題について述べる。我々は、求められる送信波形(書き込みヘッドへの電流)といくつかの固定負荷インピーダンス用の実際の送信波形の間でのエラーを最小化するインピーダンスプロフィールZ(x)およびドライバ抵抗Rdを求める(図1)。我々の定義する「エラー」については後ほど説明する。最適化問題に切り替え、インピーダンスプロフィールZ(x)をN区分一定セグメントZn(n=1,…,N)と共に見積もる。これらのNセグメントを同時に最適化する一方で、最適化が適切であるように相互接続を十分なセグメントに分割することが、ここで問題になる。相互接続時間と伝播遅延もまた固定される(サスペンション機械設計結果により)。」) (ウ)「A. Write Head The critical model used for the write head is a DC resistance RDC and a parallel RL netwoek Rm and L(shown in Fig.1).」(p56右欄下から第15行?第13行) (当審訳:「A.書き込みヘッド 書き込みヘッドに使ったサーキットモデルは、DC抵抗RDCおよび平行RLネットワークRmおよびL(図1に表示)である。」) (エ)「C. Further Constraints on Interconnect Optimization Because of the numerous mechanical constraints on suspension interconnect geometry, it is unlikely that one would encounter the broad impedance design range that we have been considering. It is therefore of interest to consider alternative situations where there are more stringent constraints on the interconnect impedance. We consider two cases: 1)one large (propagation delay =t d /4 ) narrow trace region (Z=150--190 Ω) located at the write head; 2)several short (propagation delay =t d /16 ) narrow trace regions (Z=150--190 Ω) spaced nonperiodically along the interconnect length. The constrained regions are indicated in the impedance profiles shown in the Appendix. Fig.9 shows the optimized waveforms for no overshoot and 50% overshoot for a 1-turn and 5-turn head with the large narrow-trace region. The region near the head generally needs low impedance to achieve the overshoot; forcing this region to have high impedance causes the optimized waveform to suffer. The difference between optimized waveforms for the 1-turn and 5-turn heads is not significant. However, the high-impedance sections do not deform the waveforms as badly for the multiple small-constrained regions, as shown in Fig.10. The optimized waveform for the 1-turn head is able to approach its specified overshoot, although its settling time is larger than for the unconstrained regions.」(p58右欄下から第4行?p59左欄最下行) (当審訳:「C.相互接続に関するさらなる制約 サスペンション相互接続配列に関する多くの機械的制約のために、我々が考察している幅広いインピーダンス設計の範囲に遭遇する見込みはない。それ故に、相互接続インピーダンスに関してさらに厳しい制約がある代替の状態を検討することは興味深い。我々は2つの場合を検討した。 1)書き込みヘッドに設置された1つの大きい(伝播遅延 =td/4)狭トレース領域(Z=150-190Ω) 2)相互接続の長さに沿って非周期的に間隔を空けた、いくつかの短い(伝播遅延 =td/16)狭トレース領域(Z=150-190Ω) 制約領域は、付録に示されるインピーダンスプロフィールの中に表示されている。図9は、オーバーシュートなしおよび大きい狭トレース領域を伴う1ターンおよび5ターンヘッド用の50%オーバーシュート用の最適波形を示す。ヘッド近くの領域は通常、オーバーシュートを達成するために低インピーダンスを必要とする。この領域に高いインピーダンスを強制することは、最適波形の悪化を引き起こす。1ターンと5ターンヘッド用の最適波形の違いは、少ない。しかし、図10に示されるように高インピーダンスセクションは、波形を多数の小さい制約領域ほどひどくは変形させない。1ターンヘッド用の最適波形は、制御時間は非制限領域よりも長いが、特定のオーバーシュートに近づくことができる。」) (オ)図1 (カ)表1 上記図1及び表1も参照すれば、引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)は、以下のとおりである。 「ディスクドライブにおける、書き込みヘッド、サスペンション相互接続、書き込みドライバで構成される書き込みチャンネルフロントエンドにおいて、 書き込みヘッドに使ったサーキットモデルは、DC抵抗RDCおよび平行RLネットワークRmおよびLを有し、 求められる送信波形(書き込みヘッドへの電流)といくつかの固定負荷インピーダンス用の実際の送信波形の間でのエラーを最小化するインピーダンスプロフィールZ(x)に関して、 インピーダンスプロフィールZ(x)をN区分一定セグメントZn(n=1,…,N)としたとき、これらのNセグメントを同時に最適化する一方で、最適化が適切であるように相互接続を十分なセグメントに分割したものであって、 1)書き込みヘッドに設置された1つの大きい狭トレース領域を有し、1ターンヘッド用のオーバーシュートなしの場合であって、インピーダンスプロフィールが、Z1=180Ω、Z2=165Ω、・・・、Z4=108Ω、Z5=114Ω、・・・、Z25?32(大きい狭トレース領域インピーダンス)=150Ωである、又は、 2)相互接続の長さに沿って非周期的に間隔を空けた、いくつかの短い(伝播遅延 =td/16)狭トレース領域を有し、1ターンヘッド用のオーバーシュートなしの場合であって、インピーダンスプロフィールが、Z1=179Ω、Z2=142Ω、・・・、Z4=77Ω、Z5(短い狭トレース領域)=150Ωである、 書き込みチャンネルフロントエンド。」 イ 対比、判断 引用発明1は、相互接続部分のNセグメントのインピーダンスプロフィールが、少なくとも「Z1=180Ω、Z2=165Ω、・・・、Z4=108Ω、Z5=114Ω、・・・、Z25?32(大きい狭トレース領域インピーダンス)=150Ω」又は「Z1=179Ω、Z2=142Ω、・・・、Z4=77Ω、Z5(短い狭トレース領域)=150Ω」の連続するセグメントを有するから、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)にいう「前記可撓ケーブル部と前記ジンバル部とを接続し、N個のセグメント(Nは2以上の整数)を有する伝送線」であって、 「前記N個のセグメントの各々は、特性インピーダンスを有し、 前記Nは、3以上の整数であり、 各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、 前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならず」に対応する構成を有するといえる。 しかしながら、本願発明1と引用発明1とは、少なくとも以下の点で相違する。 [相違点] 本願発明1では、「前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの信号は、低周波数と高周波数との間の所定の周波数帯域幅において伝送され、 前記N個のセグメントの前記特性インピーダンスにより、前記所定の周波数帯域幅にわたる周波数における前記書き込みドライバ回路から前記書き込みヘッドへの前記信号について平坦な群遅延が得られ、 前記平坦な群遅延とは、前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延が、前記低周波数における前記群遅延の所定のパーセンテージを超えて逸脱せず、 前記所定の周波数帯域幅は、約0.1GHz?3.0GHzであり、 前記所定の周波数帯域幅にわたる前記群遅延は、0.1GHzにおける前記群遅延の10パーセント以下である」のに対し、引用発明1では、その点が定かでない点。 そこで、上記相違点について検討するに、本願発明1は、「所定の周波数帯域幅にわたる群遅延」に着目し、該「群遅延」が「0.1GHzにおける前記群遅延の10パーセント以下」になるよう各セグメントの特性インピーダンスを最適化したものであるが、引用文献1-3には、そのような技術的思想は記載も示唆もないから、上記相違点に係る構成が、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 したがって、本願発明1は、当業者が引用文献1-3に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、補正後の請求項2-5は、補正後の請求項1の従属項であるから、補正後の請求項2-5に係る発明についても、同様に、当業者が引用文献1-3に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 補正後の請求項6に係る発明についても同様である。 (2)補正後の請求項7-10について ア 原査定の引用文献1に記載された発明 原査定の引用文献1の記載(上記2(1)ア参照)によれば、原査定の引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)は、以下のとおりである。 「ディスクドライブにおける、書き込みヘッド、サスペンション相互接続、書き込みドライバで構成される書き込みチャンネルフロントエンドのインピーダンスプロフィールZ(x)を最適化するための方法であって、 書き込みヘッドに使ったサーキットモデルは、DC抵抗RDCおよび平行RLネットワークRmおよびLを有し、 求められる送信波形(書き込みヘッドへの電流)といくつかの固定負荷インピーダンス用の実際の送信波形の間でのエラーを最小化するインピーダンスプロフィールZ(x)に関して、 インピーダンスプロフィールZ(x)をN区分一定セグメントZn(n-1=1,…,N)としたとき、これらのNセグメントを同時に最適化する一方で、最適化が適切であるように相互接続を十分なセグメントに分割したものであって、 1)書き込みヘッドに設置された1つの大きい狭トレース領域を有し、1ターンヘッド用のオーバーシュートなしの場合であって、インピーダンスプロフィールが、Z1=180Ω、Z2=165Ω、・・・、Z4=108Ω、Z5=114Ω、・・・、Z25?32(大きい狭トレース領域インピーダンス)=150Ωである、又は、 2)相互接続の長さに沿って非周期的に間隔を空けた、いくつかの短い(伝播遅延 =td/16)狭トレース領域を有し、1ターンヘッド用のオーバーシュートなしの場合であって、インピーダンスプロフィールが、Z1=179Ω、Z2=142Ω、・・・、Z4=77Ω、Z5()=150Ωである、方法。」 イ 対比、判断 引用発明2は、相互接続部分のNセグメントのインピーダンスプロフィールが、少なくとも「Z1=180Ω、Z2=165Ω、・・・、Z4=108Ω、Z5=114Ω、・・・、Z25?32(大きい狭トレース領域インピーダンス)=150Ω」又は「Z1=179Ω、Z2=142Ω、・・・、Z4=77Ω、Z5(短い狭トレース領域)=150Ω」の連続するセグメントを有するから、請求項7に係る発明(以下、「本願発明2」という。)にいう「前記可撓ケーブル部と前記ジンバル部とを接続し、かつそれぞれ特性インピーダンスを有する複数N個のセグメントを含む固定長伝送線」を含み、「前記Nは、3以上の整数であり、 各々のセグメントは、少なくとも3個の異なった特性インピーダンスを有し、 前記可撓ケーブル部から前記ジンバル部への連続するセグメントの特性インピーダンスは、連続的に小さくならない」ものといえる。 しかしながら、本願発明2と引用発明2とは、少なくとも以下の点で相違する。 [相違点] 本願発明2では、「各整数N=2?N=K(Kは3以上の整数)について、平坦な群遅延を有する最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの各々の特性インピーダンスZ01?Z0Nの組を決定するステップと、 それぞれ得られた前記最大の周波数帯域幅のうち、最大の周波数帯域幅が得られるN個のセグメントの特性インピーダンスZ01?Z0Nを選択するステップ」とを含むのに対し、引用発明2では、その点が定かでない点。 そこで、上記相違点について検討するに、本願発明2は、「平坦な群遅延を有する」ことに着目して各セグメントの特性インピーダンスを最適化するものであるが、引用文献1-3には、そのような技術的思想は記載も示唆もないから、上記相違点に係る構成が、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 したがって、本願発明2は、当業者が引用文献1-3に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、補正後の請求項8-10は、補正後の請求項7の従属項であるから、補正後の請求項8-10に係る発明についても、当業者が引用文献1-3に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、当審における拒絶理由及び原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-30 |
出願番号 | 特願2010-262328(P2010-262328) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(G11B)
P 1 8・ 537- WY (G11B) P 1 8・ 121- WY (G11B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ゆずりは 広行、深沢 正志 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
北岡 浩 吉田 隆之 |
発明の名称 | 一体型リードサスペンションを有する磁気記録ディスクドライブ |
復代理人 | 青稜特許業務法人 |