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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N |
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管理番号 | 1324194 |
審判番号 | 不服2016-2069 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-10 |
確定日 | 2017-02-14 |
事件の表示 | 特願2011-287972「物品輸送システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日出願公開、特開2013-137226、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年12月28日を出願日とする出願であって、平成27年8月13日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。 これに対して、平成28年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出され、当審において同年11月1日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出された。 第2 本願発明 本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年12月19日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「 【請求項1】 発振周波数データおよび異常発生フラグを蓄積でき、ネットワークを介してクラウドに接続されたサーバーと、前記ネットワークを介して前記サーバーに接続され、測定対象物を取り扱う少なくとも1つの固定端末装置と、前記測定対象物に取り付けられた環境測定ユニットと、前記測定対象物と共に移動する移動端末装置と、を有し、前記測定対象物を運送する物品輸送システムであって、 前記環境測定ユニットは、 前記測定対象物の周囲環境の腐蝕性に応じて発振周波数が変化するQCMセンサーと、 前記QCMセンサーの発振周波数を計測する周波数計測部と、 前記計測された発振周波数データを処理して前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕性を判断する演算処理ユニットと、 前記計測された発振周波数データ、および、前記演算処理ユニットによる異常発生フラグを格納する記憶部と、 通信相手が前記移動端末装置の場合は、常に前記異常発生フラグを送信でき、かつ、通信相手が前記固定端末装置の場合は、前記計測された発振周波数データおよび前記異常発生フラグを送信できる無線通信ユニットと、を備え、 前記演算処理ユニットは、 前記環境測定ユニットを、腐蝕性物質を含まない環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第1腐蝕速度と、 前記環境測定ユニットを、腐蝕が発生するような環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第2腐蝕速度と、 前記環境測定ユニットを、前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕を判断するために、実際に設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第3腐蝕速度と、を使用して前記異常発生フラグを立てる処理を行い、 前記演算処理ユニットは、 前記第1腐蝕速度をR_(0)とし、前記第2腐蝕速度をR_(C)とし、前記第3腐蝕速度をR_(t)とし、前記測定対象物に応じて予め設定された安全係数をFとしたとき、式(R_(t)-R_(0))>(R_(C)-R_(0))/Fが成り立つときに、前記異常発生フラグを立てる、 ことを特徴とする物品輸送システム。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2002-048797号公報 引用文献2:特開平7-225184号公報 引用文献3:特開2011-204031号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2010-267302号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:国際公開第2011/075119号(周知技術を示す文献) 引用文献1に記載された発明において、無線通信手段にどのような信号を送信させるかは、当業者が適宜選択しうる事項であって、送信先が、移動端末装置の場合には、アラームを発生させる信号を送信し、集中監視装置等の場合には、周波数カウンタ(周波数測定器)14によって測定された周波数データとアラームを発生させる信号を送信するよう構成することに格別の困難はない。 また、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載のようにして、アラームを発生させて異常を知らせるよう構成することは、当業者が容易に想到できたことである。 物品輸送システムにおいて、情報の伝達、管理等にクラウドを利用することは、引用文献3の段落[0002]、[0022]-[0023]、引用文献4の段落[0034]、引用文献5の第8頁第9-24行等に記載のように、周知の技術であり、引用文献1に記載の発明において、測定対象を、クラウドを利用する物品輸送システムにより運送される荷物とすることは、周知のシステムへの適用にすぎない。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術、及び、引用文献3-5に記載された周知技術より、当業者が容易に想到し得たものである。 2 原査定の理由の判断 (1) 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 ア 引用文献1の記載事項 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、参考のために当審が付与した。)。 (ア) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、有害化学物質監視装置に係り、特に、測定環境中における有害化学物質の種類と濃度を同時に監視するに好適な有害化学物質監視装置に関する。」 (イ) 「【0029】 【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示す有害化学物質監視装置のブロック構成図である。図1において、有害化学物質監視装置は、圧電素子としての水晶振動子10、発振器12、周波数カウンタ14、パーソナルコンピュータ(計算機)16、ディスプレイ18を備えて構成されている。 【0030】水晶振動子10は、図2に示すように、円盤形状に形成された水晶基板20、一対の金属薄膜22、24を備えており、水晶基板20は直径8mmのもので構成されている。水晶基板20の両面には直径4.5mm×厚さ500nmで円盤状に形成された金属薄膜22、24が蒸着されている。各金属薄膜22、24の端部には電極26、28が接続されており、各電極26、28には銀分散電導性接着剤によってリード線30、32が接続されている。各リード線30、32はリード線支持部34の孔内に挿入されて支持された状態で発振器12に接続されている。そして各金属薄膜22、24には、測定対象となる化学物質として、例えば、ダイオキシンを監視する場合、ダイオキシンに特定的に結合する抗体として、例えば、PCB、DDT、ビスフェノールAなどの抗体が形成(付着)されるようになっている。 【0031】発振器12は、例えば、10MHzの周波数で発振し、この発振に伴う電気信号をリード線30、32を介して水晶振動子10の金属薄膜22、24に印加するように構成されており、水晶振動子10は発振器12からの電気信号にしたがって発振するようになっている。抗体が付着された水晶振動子10が測定環境中で発振すると、水晶振動子10は、抗体の付着量(質量)に比例して、一定の周波数で発振する。このとき、測定対象となる化学物質(抗原)と抗体とが反応すると、反応生成物により水晶振動子10の質量が変化する。この質量の変化は、前記(1)式にしたがって、水晶振動子10の周波数の変化と関係付けられる。 【0032】水晶振動子10の周波数の変化は、周波数カウンタ(周波数測定器)14によって測定されるようになっている。すなわち、周波数カウンタ14は発振器12の出力信号を取り込み、その信号の周波数の時間的な変化を測定し、その測定結果をパーソナルコンピュータ16に出力するようになっている。 【0033】パーソナルコンピュータ16は、濃度演算器および推定演算器として構成されており、周波数カウンタ14の測定結果から測定環境中で抗体と反応した化学物質の質量の変化を前記(1)式にしたがって求め、この質量の変化を基に測定環境中における化学物質の濃度を算出するようになっている。さらに、この算出結果をディスプレイ(表示器)18の画面上に表示させるようになっている。測定対象となる化学物質、例えば、ダイオキシンの濃度を算出する場合、パーソナルコンピュータ16のメモリには、指定の抗体と反応する化学物質の質量の変化と濃度との関係を示す検量線に関するデータが格納されており、パーソナルコンピュータ16は、指定の抗体と反応した化学物質の質量の変化を求めた後、化学物質の質量の変化と検量線に関するデータに従って化学物質の濃度を算出することができる。さらに金属薄膜22、24に形成した抗体によって測定対象となる化学物質の種類を特定することができる。 【0034】したがって、本実施形態によれば、測定環境中における化学物質の濃度と種類を同時にかつ迅速に監視することができる。 【0035】また、パーソナルコンピュータ16のメモリに予め有害化学物質の種類と濃度についてのデータを予め格納しておき、メモリに格納されたデータと周波数カウンタ14の測定結果に基づいて、パーソナルコンピュータ16において測定環境中における化学物質の種類と濃度を推定し、推定結果をディスプレイ18の画面上に表示する構成を採用することもできる。 【0036】さらにパーソナルコンピュータ16の推定演算による推定演算値が限界値を超えたときに警報器(図示省略)から警報を発生させて、操作員などに異常を報知することもできる。なお、周波数カウンタ14とパーソナルコンピュータ16との間は、GP-IBの規格に基づいたデータ転送が行われるようになっている。」 (ウ) 「【0070】次に、監視装置の具体的な適用方法を以下に示す。図12には、有害化学物質を排出する被監視対象装置に監視装置を配置した場合の実施形態である。 【0071】図12において、基本形では、被監視対象装置136内にデータ収集装置として環境監視装置一式を包含し、データを装置内のメモリに蓄え、装置自身でデータ処理を実行して、有害化学物質の排出濃度が一定値を超えたときにアラームを発生させて異常を知らせることができる。さらに、このアラームによって装置自身の運転をコントロールすることにより、装置からの排出量を一定値以下に抑制することも可能になる。」 (エ) 「【0080】図16は、複数の監視エリアを集中監視するためのシステムを示す構成図である。 【0081】図16において、被監視エリアは、図15に示したブロックを単位とし、複数の監視ブロックのデータをLANやBUSなどの通信手段を経由して集中監視装置に伝送し、システム全体の有害化学物質の排出状況を監視して異常検出を行う。さらに、得られた情報に基づいて、システム内の有害化学物質の発生を予測し、システムからの排出量を未然に抑制することも可能になる。具体的には、大規模な生産設備や処理施設で有害化学物質の発生源が各所に分散しなおかつ全体として一つのシステムを形成するような場合に有効である。 【0082】図17は、複数の監視エリアを無線を用いて集中監視するためのシステムを示す構成図である。図17におけるシステムにおいては、図15においてシステム間を有線で接続することが困難あるいは不経済である監視エリアを無線で接続し、システム全体を監視することが有効である場合に採用するシステムである。具体的には、廃棄物処理設備など遠隔地にある設備を含む大規模システムで有効に機能することができる。ここで、無線接続として、無線による電話回線も利用できる。さらに、データの送信は常時行わず、必要なときにのみ接続することにより、無線リソースの占有を回避する方法も可能である。 【0083】図18は、データベースを用いた環境監視・排出量予測システムの構成図である。図18におけるシステムにおいては、図16および図17において、データの蓄積や解析、データの参照を行うことにより、有害化学物質の排出予測を行うシステムである。この場合データベースには、環境条件と環境を欠く設備の運転状況に関わる情報を蓄積し、各システムから時々刻々得られるデータを解析し、システムからの有害化学物質の排出量を予測し、必要な警告を発する。さらに、自動的に排出量の抑制を実施する制御モードに遷移する機能を有し、有害化学物質の異常排出を未然に防止することも可能になる。」 (オ) 図17には、以下の図面が示されている。当該図17及び上記(エ)の記載事項より、「複数の監視エリア」のそれぞれに有害物質を監視するための「測定器」が設けられていることが視認される。 ![]() イ 引用文献1の記載事項の整理及び引用文献1に記載された発明の認定 (ア) 上記ア(オ)の「有害化学物質」を「監視」するための「測定器」が、上記ア(イ)に記載された、「有害化学物質」を「監視」するための「圧電素子としての水晶振動子10、発振器12、周波数カウンタ14」を含むものであることは明らかである。 (イ) 上記ア(ア)?(オ)の記載事項及び上記(ア)で整理した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「複数の監視エリアを無線を用いて集中監視するためのシステムであって、 被監視エリアは、ブロックを単位とし、複数の監視ブロックのデータをLANやBUSなどの通信手段を経由して集中監視装置に伝送し、システム全体の有害化学物質の排出状況を監視して異常検出を行い、監視エリアを無線で接続し、システム全体を監視し、データの送信は常時行わず、必要なときにのみ接続することにより、無線リソースの占有を回避するものであり、複数の監視エリアのそれぞれに有害物質を監視するための測定器が設けられ、 測定器は、圧電素子としての水晶振動子10、発振器12、周波数カウンタ14を含み、水晶振動子10は、円盤形状に形成された水晶基板20、一対の金属薄膜22、24を備えており、各金属薄膜22、24には、測定対象となる化学物質として抗体が形成(付着)されるようになっており、発振器12は、発振に伴う電気信号をリード線30、32を介して水晶振動子10の金属薄膜22、24に印加するように構成されており、水晶振動子10は発振器12からの電気信号にしたがって発振するようになっており、抗体が付着された水晶振動子10が測定環境中で発振すると、水晶振動子10は、抗体の付着量(質量)に比例して、一定の周波数で発振し、測定対象となる化学物質(抗原)と抗体とが反応すると、反応生成物により水晶振動子10の質量が変化し、この質量の変化は、水晶振動子10の周波数の変化と関係付けられ、水晶振動子10の周波数の変化は、周波数カウンタ(周波数測定器)14によって測定されるようになっており、周波数カウンタ14は発振器12の出力信号を取り込み、その信号の周波数の時間的な変化を測定するものであり、 有害化学物質の排出濃度が一定値を超えたときにアラームを発生させて異常を知らせるものである、 システム。」 ウ 引用文献2の記載事項 引用文献2には、次の事項が記載されている。 (ア) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、腐食性ガスの有無を判定する腐食性ガス判定装置に関する。」 (イ) 「【0025】水晶振動子式の腐食性ガスセンサ1で捉えることのできる腐食性ガス9には以下のようなものがある。 ・塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)、三臭化リン(PBr_(3) )など、ハロゲン(F、Cl、Br、I、At)が化合物として含まれているガス ・硫化水素(H_(2) S)、アンモニア(NH_(3) )など、その他亜鉛(Zn)に反応しやすいガス 次に、図3は前記腐食性ガスセンサ1を用いた腐食性ガス判定装置のブロック図である。 【0026】図3において、10は腐食性ガス判定装置を示し、腐食性ガス判定装置10は、水晶振動子式の腐食性ガスセンサ1と、発振手段としての発振回路7と、サンプリング手段としての振動数データ入力部11と、振動数差検出手段としての振動数差検出部12と、腐食性ガス判断手段としての腐食性ガス判断部13と、参照周波数補正手段としての参照振動数補正部14と、参照振動数設定手段としての参照振動数設定部15と、警報出力部16により構成される。 【0027】水晶振動子式の腐食性ガスセンサ1は、発振回路7によって固有振動数で発振している。腐食性ガスセンサ1で検出した検出振動数は発振回路7を介して振動数データ入力部11に与えられる。振動数データ入力部11は腐食性ガスセンサ1からの検出振動数を所定周期、例えば5秒周期でサンプリングしてデジタル振動数データに変換して出力する。 【0028】振動数データ入力部11でサンプリングされ、且つデジタルデータに変換された振動数データは、振動数差検出部12に与えられ、振動数差検出部12でそのときの検出振動数F_(n)と後の説明で明らかにする参照振動数設定部15により設定されている参照振動数F_(r)との振動数差ΔFを検出する。振動数差検出部12で振動数差ΔFの検出に用いられる参照振動数F_(r)は、参照振動数演算部50によって作り出される。この参照振動滓演算部50は、参照振動数補正部14及び参照振動数設定部15から構成される。 【0029】参照振動数補正部14は振動数差検出部12を介して検出振動数F_(n)と参照振動数F_(r)との振動数差ΔFが得られる毎に次式によって参照振動数F_(r)を更新する。 F_(r1)=(F_(n)-F_(r))×K+F_(r) ・・・(1) 但し、F_(n)は今回の検出周波数 F_(r)は今回の参照振動数 F_(r1)は次回の参照振動数 Kは参照振動数の補正係数 この(1)式の意味するところは、振動数差検出部12により得られた検出振動数F_(n)と参照振動数Frとの振動数差ΔFに予め定めた1より小さい係数、例えば3/100=0.03を参照振動数の補正係数Kとして演算し、元の参照振動数F_(r)に加え合わせるものである。このように参照振動数補正部14で補正された参照振動数F_(r1)は参照振動数設定部15により次回の参照振動数として設定される。」 (ウ) 「【0035】例えば、日常的に予想される振動数の低下速度と腐食性ガスによる振動数低下速度との限界値を-1[Hz/sec]とすると、低下速度-1[Hz/sec]の振動数差ΔFの収束値を下回る、例えばFs=-200[Hz]に閾値を設定すればよい。勿論、検出感度を更に高くしたいときには閾値Fsを限界値となる-1[Hz/sec]の収束値により近づければ良い。一方、検出感度を下げる場合には更に低い閾値Fsを設定すればよい。」 (エ) 「【0039】従って、図6に示す異なる振動数低下率(直線F11等)と参照振動数の補正係数Kにより異なる判断時間や発報の有無との関係(曲線A?C)から図3の実施例における参照振動数補正部14での補正係数Kを決めることができる。例えば、日常的に予想される振動数の低下速度と腐食性ガスによる振動数低下速度との限界値を-1.0[Hz/sec]とした場合には、低下速度-1.0[Hz/sec]では警報を発しないK=0.05以上に補正係数を設定すればよい。」 (2)本願発明と引用発明との対比・判断 ア 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア) 引用発明の「集中監視するためのシステム」は、「複数の監視ブロックのデータをLANやBUSなどの通信手段を経由して集中監視装置に伝送」するものであって、「複数の監視ブロック」を繋ぐネットワークを形成することが明らかであるから、引用発明の当該「複数の監視ブロック」を繋ぐネットワークが、本願発明の「クラウド」に相当し、引用発明の「複数の監視ブロック」を繋ぐネットワークに接続され、「データ」が「伝送」される「集中監視装置」が、本願発明の「ネットワークを介してクラウドに接続されたサーバー」に相当する。 (イ) 引用発明の「監視エリア」における監視対象は、本願発明の「測定対象物」に相当し、引用発明の「監視エリア」に設けられた「測定器」は、本願発明の「測定対象物に取り付けられた環境測定ユニット」に相当する。 (ウ) 引用発明の「集中監視するためのシステム」と、本願発明の「前記測定対象物を運送する物品輸送システム」とは、「システム」という点で共通する。 (エ) 引用発明の「測定器」の「水晶振動子」は、「測定対象となる化学物質」が「付着」することで「質量が変化」し、その「発振」「周波数」が「変化」するものであり、この「化学物質」が「監視エリア」という環境の「有害物質」であって、当該環境の腐蝕性を示すものであることは明らかであるから、引用発明の当該「測定器」の「水晶振動子」が、本願発明の「前記測定対象物の周囲環境の腐蝕性に応じて発振周波数が変化するQCMセンサー」に相当する。 (オ) 引用発明の「周波数カウンタ」は、「水晶振動子」の「周波数の変化」を測定するものであるから、本願発明の「前記QCMセンサーの発振周波数を計測する周波数計測部」に相当する。 (カ) 引用発明の「システム」が「異常検出を行う」ことは、本願発明の「異常発生フラグを立てる」ことに相当するから、引用発明の「システム」が「有害化学物質の排出状況を監視して異常検出を行」うことと、本願発明の「システム」の「環境測定ユニット」が「前記計測された発振周波数データを処理して前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕性を判断する演算処理ユニット」を備え、当該「演算処理ユニット」が、「前記環境測定ユニットを、腐蝕性物質を含まない環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第1腐蝕速度と、前記環境測定ユニットを、腐蝕が発生するような環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第2腐蝕速度と、前記環境測定ユニットを、前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕を判断するために、実際に設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第3腐蝕速度と、を使用して前記異常発生フラグを立てる処理を行い」、さらに、「前記第1腐蝕速度をR_(0)とし、前記第2腐蝕速度をR_(C)とし、前記第3腐蝕速度をR_(t)とし、前記測定対象物に応じて予め設定された安全係数をFとしたとき、式(R_(t)-R_(0))>(R_(C)-R_(0))/Fが成り立つときに、前記異常発生フラグを立てる」こととは、「システム」が「前記計測された発振周波数データを処理して前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕性を判断する演算処理」を行い、「異常発生フラグを立てる」点で共通する。 (キ) したがって、本願発明と引用発明とは、 (一致点) 「ネットワークを介してクラウドに接続されたサーバーと、測定対象物に取り付けられた環境測定ユニットと、を有するシステムであって、 前記環境測定ユニットは、 前記測定対象物の周囲環境の腐蝕性に応じて発振周波数が変化するQCMセンサーと、 前記QCMセンサーの発振周波数を計測する周波数計測部と、を備え、 前記計測された発振周波数データを処理して前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕性を判断する演算処理を行い、異常発生フラグを立てる、 システム。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「システム」について、本願発明は、「測定対象物を運送する物品輸送」のシステムであるのに対して、引用発明は、「複数の監視エリアを」「集中監視する」システムである点。 (相違点2) 「サーバー」について、本願発明は、「発振周波数データおよび異常発生フラグを蓄積でき」るものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を有するかどうか不明である点。 (相違点3) 「システム」が有する「装置」について、本願発明は、「前記ネットワークを介して前記サーバーに接続され、測定対象物を取り扱う少なくとも1つの固定端末装置」及び「前記測定対象物と共に移動する移動端末装置」を有するものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を有しない点。 (相違点4) 「前記計測された発振周波数データを処理して前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕性を判断する演算処理い、異常発生フラグを立てる」ことについて、本願発明は、この演算を「環境測定ユニット」が有する「演算処理ユニット」で行うものであり、「前記演算処理ユニットは、前記環境測定ユニットを、腐蝕性物質を含まない環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第1腐蝕速度と、前記環境測定ユニットを、腐蝕が発生するような環境に予め設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第2腐蝕速度と、前記環境測定ユニットを、前記測定対象物の前記周囲環境の腐蝕を判断するために、実際に設置したときの前記QCMセンサーの時間に対する発振周波数の変化から求めた第3腐蝕速度と、を使用して」前記異常発生フラグを立てる処理を行い、さらに、「前記演算処理ユニットは、前記第1腐蝕速度をR_(0)とし、前記第2腐蝕速度をR_(C)とし、前記第3腐蝕速度をR_(t)とし、前記測定対象物に応じて予め設定された安全係数をFとしたとき、式(R_(t)-R_(0))>(R_(C)-R_(0))/Fが成り立つときに」、前記異常発生フラグを立てるものであるのに対して、引用発明は、システムのどこでどのように演算処理を行うものであるのか不明である点。 (相違点5) 「環境測定ユニット」について、本願発明は、「前記計測された発振周波数データ、および、前記演算処理ユニットによる異常発生フラグを格納する記憶部」と、「通信相手が前記移動端末装置の場合は、常に前記異常発生フラグを送信でき、かつ、通信相手が前記固定端末装置の場合は、前記計測された発振周波数データおよび前記異常発生フラグを送信できる無線通信ユニット」とを備えているのに対して、引用発明は、「システム」における「監視ブロック」と「集中監視装置」の「伝送」が「データの送信は常時行わず、必要なときにのみ接続することにより、無線リソースの占有を回避する」ものである点。 イ 判断 上記(相違点3)及び(相違点5)を検討する。 引用文献2には、水晶振動子式の腐食性ガスセンサを用いて、腐食性ガスによる振動数低下速度を求める際に、閾値を設定することが記載されているものの(上記(1)ウを参照)、「固定端末装置」及び「移動端末装置」に関する構成、並びに、「移動端末装置」には「常に異常発生フラグを送信」し、「固定端末装置」には「発振周波数データおよび異常発生フラグ」を送信することは記載されていない。 また、引用文献3(特開2011-204031号公報(段落[0002]、[0022]-[0023]))、引用文献4(特開2010-267302号公報(段落[0034]))、引用文献5(国際公開第2011/075119号(第8頁第9行?第24行))にも、クラウドを利用した物流管理支援システムが記載されているが、「固定端末装置」及び「移動端末装置」に関する構成、並びに、「移動端末装置」には「常に異常発生フラグを送信」し、「固定端末装置」には「発振周波数データおよび異常発生フラグ」を送信することは記載されていない。 なお、周知技術に関して当審で参考にした以下の文献にも、「固定端末装置」及び「移動端末装置」に関する構成、並びに、「移動端末装置」には「常に異常発生フラグを送信」し、「固定端末装置」には「発振周波数データおよび異常発生フラグ」を送信することは記載されていない。 例えば、特開2005-071295号公報(請求項5、段落[0024]-[0031]、[0049]、[0053]、[0063]、図1)には、トラックにより運送される荷物にセンサを取り付けておき、センサのデータはトラックに設けられたセンサステーションを介してネットワークに伝送され、伝送されたデータを用いて物流の状況を管理する技術が記載されており、「大気中の腐食性物質を高感度で検出できる環境モニタリング装置を開発、富士通株式会社 プレスリリース(技術)、2011年7月25日掲載、URL: http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/07/25-1.html」には、環境モニタリング装置であって、腐蝕性物質を検出するQCMセンサーを利用し、測定したデータを無線で送信すること、精密機器の運送環境モニタリングを行うこと、及び、電波状況が悪くなって通信が途切れた場合でも、その間の測定データをセンサー・ユニットが記憶し、電波状況が回復したときに読み取るようにすることが記載されているものの、これらの文献にも、「固定端末装置」及び「移動端末装置」に関する構成、並びに、「移動端末装置」には「常に異常発生フラグを送信」し、「固定端末装置」には「発振周波数データおよび異常発生フラグ」を送信することは記載されていない。 すなわち、引用文献2?5及び当審で参考にした上記文献には、上記(相違点3)及び(相違点5)に関する構成は記載されていない。 したがって、引用発明において、引用文献2に記載された技術及び引用文献3?5等に記載された周知技術を採用しても、上記(相違点3)及び(相違点5)に関する構成とはならない。 また、引用発明において、当該(相違点3)及び(相違点5)に関する構成を採用することは、単なる設計的事項ともいえない。 ウ 小括 よって、本願発明は、その余の相違点について検討するまでもなく、当業者が引用発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3?5等に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3?5等に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願の請求項2?5係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3?5等に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 (1) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 発明の詳細な説明には、美術品や精密機器等の腐蝕環境に弱い物品(測定対象物)を運送する運送途中において、測定対象物が腐蝕環境に曝されていても、そのことを即座に検出することが難しく、早急な対応策を取ることが困難であること、及び、測定対象物の腐蝕等が発生した場合、どの過程で腐蝕を受けたのかを知ることが難しく、責任の所在が曖昧になる、という課題(段落【0008】-【0009】)を解決するために、環境測定ユニット(QCMセンサーユニット)により腐蝕が発生していると判断した場合、移動端末装置に対しては、「常に」異常発生フラグを送信できるようにし、「クラウド」に接続された「サーバー」に対しては、計測された発振周波数データと異常発生フラグを随時送信し、これを蓄積することしか記載されていない(段落【0025】、【0028】-【0030】、【0039】、【0041】-【0043】、図1)。 しかしながら、本願の請求項1には、「環境測定ユニット」の「通信相手」である「移動端末装置」について、どのような場合に無線通信を行うものであるのかが特定されていないし、「基地局」及び「クラウド」が、「発振周波数データ」及び「異常フラグ」をどのように扱うのかも特定されていない。 請求項1に従属する請求項2?5も、同様である。 したがって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。 (2) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ア 請求項1には、「ネットワークを介してクラウドに接続された少なくとも1つの基地局」と記載されているが、「クラウド」が何を行うものであるのかが記載されておらず、発明が技術的に不明確である。 請求項1に従属する請求項2?4においても、同様である。 イ 請求項1には「基地局」と記載されているが、当該「基地局」が具体的にどのようなものであるのかが明確ではない。また、当該「基地局」と「運送」される「測定対象物」との関連性も明確ではない。特に、無線通信の技術分野において、「基地局」とは、携帯電話と直接交信する携帯電話網の末端装置を意味することが多いため、無線通信に関する請求項1に係る発明における「基地局」においても、そのような携帯電話網の末端装置を含むものなのかどうかが、請求項1の記載のみでは不明確である。 請求項1に従属する請求項2、4?5も同様である。 したがって、請求項1?5に係る発明は、明確でない。 2 当審拒絶理由の判断 (1) 上記1(1)の拒絶理由について 平成28年12月19日に提出された手続補正書によって、請求項1において、「サーバー」が、「発振周波数データおよび異常発生フラグを蓄積でき、ネットワークを介してクラウドに接続され」るものとして特定され、「環境測定ユニット」の「無線通信ユニット」が、「通信相手が前記移動端末装置の場合は、常に前記異常発生フラグを送信でき、かつ、通信相手が前記固定端末装置の場合は、前記計測された発振周波数データおよび前記異常発生フラグを送信できる」ものとして特定された。 したがって、上記1(1)の拒絶理由は解消した。 (2) 上記1(2)の拒絶理由について 平成28年12月19日に提出された手続補正書によって、請求項1において、「サーバー」が、「発振周波数データおよび異常発生フラグを蓄積でき、ネットワークを介してクラウドに接続され」るものとして特定され、「基地局」が、「測定対象物を取り扱う」「固定端末装置」と補正された。 したがって、上記1(2)の拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-31 |
出願番号 | 特願2011-287972(P2011-287972) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 北川 創 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
田中 洋介 信田 昌男 |
発明の名称 | 物品輸送システム |
代理人 | 伊坪 公一 |
代理人 | 河野 努 |
代理人 | 宮本 哲夫 |
代理人 | 青木 篤 |