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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1324226
審判番号 不服2015-4358  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-05 
確定日 2017-01-24 
事件の表示 特願2013-553606「高分子複合材料」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日国際公開、WO2012/112398、平成26年 2月27日国内公表、特表2014-505158〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年2月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月14日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月3日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年8月7日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成26年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月16日付けで拒絶査定がされ、同年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、同年9月10日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成27年3月5日付けの手続補正の内容
平成27年3月5日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年12月19日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
65?90質量パーセントの漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維と、熱可塑性ポリマーとを含む組成物。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
65?90質量パーセントの漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維と熱可塑性ポリマーとを含み、該パルプ繊維が熱可塑性ポリマー中に均一に分散されている組成物。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、「65?90質量パーセントの漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維と」の後の「、」を削除し(以下、「補正1」という。)、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「熱可塑性ポリマーとを含む組成物」を「熱可塑性ポリマーとを含み、該パルプ繊維が熱可塑性ポリマー中に均一に分散されている組成物」とする(以下、「補正2」という。)ものである。
そして、補正1は、特許法第17条の2第5項第4号に規定される明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、補正2は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「熱可塑性ポリマーとを含む組成物」をさらに限定するものであり、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2及び4号に掲げる事項を目的とするものである。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載等
ア 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2000-239528号公報(以下、「引用文献」という。)には、「成形用材料、成形物及び写真感光材料用容器」に関して、次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1c」という。)がある。

1a 「【0035】本発明においては、植物繊維と、該植物繊維よりも低含有量で、ハロゲン原子を含有しない熱可塑性樹脂との混合物を主成分とするものであって、即ち植物繊維の割合が多く、該熱可塑性樹脂はハロゲン原子を含せず、且つ成形用材料或いは成形物が前記諸特性を満足することにより、優れた成形用材料或いは成形物とすることができることを見出したものである。又、この成形用材料或いは成形物を写真感光材料用容器として用いた場合、写真特性に悪影響が無く、廃棄時には、焼却処理が容易な包装材料とすることができる。」

1b 「【0036】本発明の植物繊維とは植物の持つ繊維のことで、植物を直接乾燥させた物や一般にはパルプとして販売されるものを示す。パルプの製造方法としては、クラフトパルプ化法、サルファイトパルプ化法、アルカリパルプ化法等のケミカルパルプ化法があり、多段漂白法により漂白される。また、パルプ或いはそのようなパルプが公知の架橋反応やマーセル化反応の如く化学的に処理されたパルプでもかまわない。前記パルプ製造法に使用される原料としては、松、杉、ヒノキ等の針葉樹材、ブナ、シイ、ユーカリ等の広葉樹材、亜麻、楮、ミツマタ、竹、バカス、等の非木材繊維等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、森林資源に関わる地球環境問題の提議などで、紙資源の再利用が活発化しており新聞、週刊誌、雑誌、広告チラシなど、家庭、会社や駅で集められたものや、製本・印刷工場で発生する截落および損紙などから、離解、粗選、熟成、脱墨、精選、漂白などの各工程により古紙パルプとして再生されたものを用いても良い。」

1c 「【0038】本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、ハロゲン原子を含有せず、熱をかけることにより流動性が得られる樹脂であり、具体的には天然ゴム、アクリレートゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ネオプレンゴム、エピクロルヒドリン、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、ウレタンエラストマー等のエラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリブテン、耐衝撃性ABS樹脂、ポリウレタン、ABS樹脂、セルロースアセテート、アミド樹脂、ニトロセルロース、ポリスチレン、エポキシ樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、耐衝撃性アクリル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、等が挙げらる。熱可塑性樹脂としては、焼却時炭酸ガスや水以外の有毒ガスの発生の可能性が低いポリエチレン樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、等が好ましい。ポリエチレンの中では、エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましく、密度が0.86?0.94g/cm^(3)、メルトインデックスが0.01?40g/10min、DSCの融点の主ピークの値が50?115℃の範囲であり、特に好ましくはメタロセン触媒を重合触媒としたエチレン-α-オレフィン共重合体である。更に好ましくは、密度が0.89?0.92g/cm^(3)、メルトインデックスが5?25g/10min、メタロセン触媒を重合触媒として得られる、α-オレフィンが4-メチルペンテン、1-ヘキセン、あるいは1-オクテン1とエチレンとの共重合体であり、その共重合比は9?30重量%のエチレンと残りがα-オレフィンの共重合したものが好ましい。植物繊維と熱可塑性樹脂の混合比率は、射出成形性、強度、硬度の面から植物繊維の混合比率は50?90重量%が好ましく、特に55?75重量%が好ましい。植物繊維と熱可塑性樹脂からなる混合成形物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えばパルプや古紙等をせん断機で粉砕したものと熱可塑性樹脂をその熱可塑性樹脂の融点+10℃以上の温度で充分に混合し、所望の成形品に成形する。」

イ 引用文献の記載事項
記載1aないし1cから、引用文献には、次の事項(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2c」という。)が記載されていると認める。

2a 記載1aによると、引用文献には、植物繊維と、該植物繊維よりも低含有量で、ハロゲン原子を含有しない熱可塑性樹脂とを含む成形用材料が記載されている。

2b 記載1bの「本発明の植物繊維とは植物の持つ繊維のことで、植物を直接乾燥させた物や一般にはパルプとして販売されるものを示す。パルプの製造方法としては、クラフトパルプ化法、サルファイトパルプ化法、アルカリパルプ化法等のケミカルパルプ化法があり、多段漂白法により漂白される。」及び「前記パルプ製造法に使用される原料としては、松、杉、ヒノキ等の針葉樹材、ブナ、シイ、ユーカリ等の広葉樹材、亜麻、楮、ミツマタ、竹、バカス、等の非木材繊維等が挙げられるが、特に限定されるものではない。」によると、引用文献には、植物繊維として、ケミカルパルプ化法であるクラフトパルプ化法で製造され、漂白された、針葉樹材または広葉樹材を原料とする植物繊維が記載されている。

2c 記載1a及び1cの「植物繊維と熱可塑性樹脂の混合比率は、射出成形性、強度、硬度の面から植物繊維の混合比率は50?90重量%が好ましく、特に55?75重量%が好ましい。植物繊維と熱可塑性樹脂からなる混合成形物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えばパルプや古紙等をせん断機で粉砕したものと熱可塑性樹脂をその熱可塑性樹脂の融点+10℃以上の温度で充分に混合し、所望の成形品に成形する。」によると、引用文献には、50?90重量%の植物繊維と熱可塑性樹脂とを含み、植物繊維が熱可塑性樹脂中に充分に混合されている成形用材料が記載されている。

ウ 引用発明
したがって、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「50?90重量%のケミカルパルプ化法であるクラフトパルプ化法で製造され、漂白された、針葉樹材または広葉樹材を原料とする植物繊維と該植物繊維よりも低含有量で、ハロゲン原子を含有しない熱可塑性樹脂とを含み、該植物繊維が熱可塑性樹脂中に充分に混合されている成形用材料。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「50?90重量%」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「65?90質量%」と、「65?90質量%」の範囲で重複する。
また、引用発明における「ケミカルパルプ化法であるクラフトパルプ化法で製造され、漂白された、針葉樹材または広葉樹材を原料とする植物繊維」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維」に相当し、以下、同様に、「該植物繊維よりも低含有量で、ハロゲン原子を含有しない熱可塑性樹脂」は「熱可塑性ポリマー」に、「成形用材料」は「組成物」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、
「65?90質量パーセントの漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維と熱可塑性ポリマーとを含む組成物。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。

<相違点>
本願補正発明においては、「該パルプ繊維が熱可塑性ポリマー中に均一に分散されている」のに対し、引用発明においては、「該植物繊維が熱可塑性樹脂中に充分に混合されている」点(以下、「相違点」という。)。

(3)相違点についての判断
そこで、相違点について検討するに、引用発明における「該植物繊維が熱可塑性樹脂中に充分に混合されている」は、植物繊維が熱可塑性樹脂中に充分に混合されている以上、植物繊維が熱可塑性樹脂中に均一に分散されていることは明らかである。
したがって、相違点は実質的な相違点とはいえない。

仮に、相違点が実質的な相違点であるとしても、植物繊維を熱可塑性樹脂に混合する際に、植物繊維の偏在を抑え、均一に分散するように混合することは、本願の優先日前に周知(必要であれば、下記ア及びイを参照。以下、「周知技術」という。)であるから、引用発明において、周知技術を適用し、植物繊維が熱可塑性樹脂中に均一に分散されているようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。

ア 特開2010-241986号公報の記載
本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2010-241986号公報には、「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に関して、図面とともに次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)。

・「【0009】
以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。
1.熱可塑性樹脂組成物の製造方法
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び植物繊維を粉砕してなる粉砕繊維を含有し、熱可塑性樹脂と粉砕繊維との合計を100質量%とした場合に、粉砕繊維が50?95質量%であり、植物繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする裁断工程と、裁断繊維を粉砕して所定寸法の粉砕繊維とする粉砕工程と、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備える方法により製造することができる。」

・「【0022】
[2]工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、裁断装置30(詳しくは図2、3参照)により植物繊維を裁断して裁断繊維とする裁断工程と、粉砕装置40(詳しくは図4、5参照)により裁断繊維を粉砕して粉砕繊維とする粉砕工程と、この粉砕繊維と熱可塑性樹脂とを、混合装置1(詳しくは図6、7参照)により混練し、混合する混合工程とを備える。また、粉砕繊維は、そのまま熱可塑性樹脂に混合してもよいが、ペレタイザ50(詳しくは要部を記載した図8参照)により所定の形状及び寸法を有する繊維ペレットとし、この繊維ペレットを熱可塑性樹脂に混合してもよい。
【0023】
裁断工程と粉砕工程とは、図1のように、裁断装置30と粉砕装置40とを並べて配置し、連続的に裁断し、粉砕することが好ましい。即ち、裁断装置30と粉砕装置40とを、架台60の所定位置に配置し、裁断装置30により裁断されてなる裁断繊維を、ダクト71内を搬送させてサイクロン81内に投入し、ロータリーバルブ811を開として粉砕装置40に投入し、粉砕して粉砕繊維とする。この粉砕繊維は、そのまま熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよく、ペレット化してから熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよい。ペレット化する場合は、図1のように、粉砕繊維をダクト72内を搬送させてサイクロン82内に投入し、ロータリーバルブ821を開としてペレタイザ50に投入し、ペレット化することができる。このように、ペレット化も、裁断及び粉砕と連続的に実施することが好ましい。」

・「【0046】
(b)粉砕繊維のぺレット化
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、粉砕繊維を熱可塑性樹脂と混合する前にペレット化してもよい。この粉砕繊維のペレット化工程に用いるペレット化装置も特に限定されないが、前記の熱可塑性樹脂組成物のペレット化工程と同様に前記のローラーディスクダイ式成形機を用いることができる。このように粉砕繊維のペレット化工程を備えることで、粉砕繊維と熱可塑性樹脂との嵩密度の差を小さくすることができ、作業性が向上し、混合の際の材料の偏在を抑えることもでき、粉砕繊維と熱可塑性樹脂とが相互により均一に分散した熱可塑性樹脂組成物とすることができ、熱可塑性樹脂成形体の機械的強度をより向上させることができる。」

イ 国際公開第2009/116501号の記載
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2009/116501号には、「熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法」に関して、図面とともに次の記載がある。

・「[0013]上記植物性材料(混合前の植物性材料)の形状は特に限定されず、繊維状、粉末状(粒状及び球状等を含む)、チップ状(板状及び薄片状等を含む)及び不定形状(粉砕物状等を含む)などの形態が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよいが、特に上記植物性材料として植物性繊維が含まれることが好ましい。即ち、本方法では植物性材料として植物性繊維のみを用いること、又は、植物性繊維と非繊維質の植物性材料(以下、単に「非繊維質植物性材料」という)とを併用すること、が好ましい。」

・「[0043]本方法では、上記混合工程及び上記ペレット工程以外に他の工程を備えることができる。他の工程としては、混合工程前に用いる植物性材料を押し固めて原料ペレットを調製する工程が挙げられる。
即ち、植物性材料を押し固めて原料ペレットを得る原料ペレット作製工程と、
原料ペレットと前記熱可塑性樹脂(1?30質量%の酸変性熱可塑性樹脂を含む)とを溶融混合装置により混合する混合工程と、
上記混合工程で得られた混合物を、押し固めてペレットを得るペレット化工程と、をこの順に備える熱可塑性樹脂組成物の製造方法とすることができる。
この原料ペレット作製工程においても上記ペレット化工程と同様に上記ローラーディスクダイ式成形機500を用いることができる。
このように原料ペレット作製工程を備えることで、植物性材料と熱可塑性樹脂との間の比重差を小さくでき、作業性が向上され、混合の際の材料の偏在も抑制でき、植物性材料と熱可塑性樹脂とが相互に均一に分散された熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。更に、得られる成形体は高い機械的強度を有する。」

(4)請求人の審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書において、実験成績証明書を添付した上で、「添付の実験成績証明書からも明らかなように、本願発明によれば、繊維の塊がほとんどない状態で大量のパルプ繊維を熱可塑性ポリマーに均一に分散させることができております。上述したように、従来は、極性の高い植物繊維を非極性のポリマーマトリックスに配合することは困難なことと考えられていたところ(引用文献1の段落0004参照)、本願発明では、大量のパルプ繊維を熱可塑性ポリマーに均一に分散させることに成功しております。」旨主張する。
そこで、検討する。
まず、実験成績証明書において、「(実施例の樹脂組成物の調整)」として示されたものは、パルプ繊維の配合率が70質量%の樹脂組成物を得た後、さらにポリプロピレンで希釈し、パルプ繊維含量が37質量%まで希釈した樹脂組成物について、繊維の塊がほとんどないことを示したものであり、パルプ繊維含量が65?90質量パーセントの樹脂組成物について、繊維の塊がほとんどないことを示したものではない。
また、実験成績証明書において、「(実施例の樹脂組成物の調整)」として示されたものと「(比較例の樹脂組成物の調整)」として示されたものを対比しているが、「(実施例の樹脂組成物の調整)」として示されたものは、マスターバッチのペレットをポリプロピレンとともにツインスクリューミキサーに投入してパルプ繊維含量を37質量%まで希釈したものであって、「(比較例の樹脂組成物の調整)」として示されたものよりも、より希釈・混練されているものである。
したがって、実験成績証明書において、「(実施例の樹脂組成物の調整)」として示されたものが、「(比較例の樹脂組成物の調整)」として示されたものと比較して、繊維の塊がないからといって、本願補正発明において、繊維の塊がほとんどないことを示したことにはならない。
さらに、実験成績証明書には、「なお、上記実験では、撮影の都合上、パルプ繊維の塊が確認しやすい条件にするため、実施例のマスターバッチのペレットを希釈してから撮影しておりますが、希釈前のマスターバッチの状態でも、パルプ繊維の塊がほとんどないものと合理的に考えられます。」と記載されているが、本願明細書に「ポリマーの量が少ないということは、繊維を高分子マトリックス中に分散させることがより難しくなることを意味する。ポリマーの量が少ないということは、繊維を高分子マトリックス全体に均一に分散させることがより難しくなることを意味する。」(段落【0020】)と記載されているように、ポリマーの量により繊維を高分子マトリックス全体に均一に分散することができるかどうかが左右されるから、希釈後の状態でパルプ繊維の塊がほとんどないからといって、希釈前のマスターバッチの状態でパルプ繊維の塊がほとんどないことにはならないので、実験成績証明書の上記記載は直ちには肯認することはできない。
よって、実験成績証明書によっては、本願補正発明において、繊維の塊がほとんどなく、大量のパルプ繊維を熱可塑性ポリマーに均一に分散させることに成功していることを確認することはできず、請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
または、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし19に係る発明は、平成26年12月19日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 引用文献の記載等
引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2 2-2(1)ア(ア)、(イ)及び(ウ)のとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明を対比するに、両者の間には、上記第2[理由]2 2-2(2)と同様の相当関係があるから、両者は、
「65?90質量パーセントの漂白されたクラフト化学木材パルプ繊維と、熱可塑性ポリマーとを含む組成物。」
である点で一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-09-02 
審決日 2016-09-13 
出願番号 特願2013-553606(P2013-553606)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 加藤 友也
橋本 栄和
発明の名称 高分子複合材料  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 中村 充利  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  

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