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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1324229 |
審判番号 | 不服2015-17343 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-24 |
確定日 | 2017-01-24 |
事件の表示 | 特願2013- 94602「試薬管及び試薬収容システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 5日出願公開、特開2013-172730〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年(平成20年)7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年7月13日 米国、2007年11月14日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-517005号の一部を平成25年4月26日に新たな特許出願としたものであって、平成25年5月27日に手続補正がなされ、平成26年9月9日付けで拒絶理由が通知され、同年12月16日付けで意見書が提出されたが、平成27年5月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし34に係る発明は、平成25年5月27日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし34に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 管ホルダストリップ内に挿入可能な試薬管であって、 管本体を有し、前記管本体は、頂部と、底部と、内面を有し、前記管本体の頂部、底部及び内面は、液体を収容するように構成された容積部を定め、 さらに、前記管本体の頂部のところで半径方向に延びるリップを有し、前記リップは、管ホルダストリップ内に挿入した後の試薬管を保持するために、管ホルダストリップの協働構造部と係合してロックするように構成され、 さらに、半径方向に延び且つ前記試薬管の内面の底部の中心に配置された凸状の隆起部のパターンを有し、前記隆起部は、前記管本体の内面の底部から垂直方向に延び、前記隆起部のパターン及び前記隆起部は、前記試薬管内に収容された液体の実質的に全てをピペット操作することを可能にするように構成される、試薬管。」 第3 引用例 1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-361421号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 (引1-1)「【技術分野】 【0001】 容器 技術分野 この発明は、厳密な定量精度が要求される分析検査に好適な容器に係り、特に、容器の内底面にピペットチップの先端部が当接しても該容器内の試料をほぼ全量吸引することができると共に、容器内に吸引した試料を吐出するときの試料の拡散を平均化して撹拌効率を大幅に向上させることができる容器に関する。 【背景技術】 【0002】 周知のように、分析精度をハイレベルで保持するためには、分注装置による定量精度を厳密に維持する必要があるが、従来の容器の場合、内底部が平面的に形成され、或は、断面形状が半円形または略U字状に形成されているため、分注装置のピペットチップ先端部を容器の内底部に当接させた状態では試料・試薬の吸引・吐出ができず、その結果、上記ピペットチップの先端部は必ず容器の内底部から若干浮かせた状態で試料・試薬の吸引を行なわなければならないため、容器側には常に僅かな試料・試薬が残留することとなり、これを補うためには、実際の吸引量より多めの試料・試薬をピペットチップで吸引・吐出しなければならず、容器内に吸引されない試料・試薬が残ってしまうことはやむを得ず、その結果、厳密な定量分析を行なうことができない、という問題を有していた。 このような問題を解決するための従来の手段としては、例えば、第16図に示すように、ピペットチップ1の先端部2を斜めにカットし、該ピペットチップ1の先端部2を容器3の内底部4に当接させた状態のまま試料Sの吸引・吐出ができるように構成したものや、第18図に示すように、ピペットチップ1の下端部に1個以上の横穴5を開設したものも提案されており、ピペットチップ1の先端開口部が容器3の内底部4によって閉塞されないような工夫が施されている。 しかしながら、ピペットチップ1の先端部2を斜めにカットした場合であっても、斜めにカットされた先端開口部の上端部よりやや下方の水位Wから下の部分を完全に吸引することができず、また、吸引された試料・試薬を容器3内に吐出した場合には、第17図に示すように、容器3の一方側が吐出圧力によって撹拌されるが、上記斜めにカットされた先端部の開口側と反対側は、試料・試薬の吐出圧力の影響を直接受けないため、撹拌効率が低く、このため、均一な撹拌効果、即ち、均一な反応状態を得にくく、さらには、ピペットチップの成形も難しくなりコスト高となる、という問題を有していた。 同様に、ピペットチップ1の下端部に横穴5を開設したものも、該横穴5の開設部位から下方部分の液体Sを吸引することができず、また、吸引した液体を吐出するときも、上記横穴5の開設方向からしか液体が吐出されないので、均一な撹拌効果が得にくく、しかも、1個以上の横穴5を開設する、という工程が加わるので、成形が複雑化してコスト高となる、という問題を有していた。 また、ピペットチップの先端部を容器の内底部から浮かせた状態で液体を吸引し吐出する場合、該ピペットチップの外表面に試料・試薬が滴着し易く、この滴着した試料・試薬によって試料濃度が変動するため、高精度な分析結果が得にくい、という問題も有していた。」 (引1-2)「【課題を解決するための手段】 【0004】 上記目的を達成するため、第一の発明は、容器本体の内底部は、その中央近傍に該容器内に挿脱される液体吸排ラインの先端部の口径よりも幅狭の空隙部を形成するとともに、容器壁から該空隙部の縁に至る一様な下がり勾配の傾斜面が形成され、該空隙部は、上記液体吸排ラインの先端部が上記内底部に当接しても、該液体吸排ラインの先端部から液体を全量吸引し吐出できる形状に形成されたものである。 これによって、容器内の試料・試薬を吸引・吐出するときに、液体吸排ラインの先端部を閉塞することなく、定量吸引・定量吐出を行なうように構成することで、分注装置による確実な分注・撹拌作業を行なうことができる。さらに、本発明によれば、容器内の全量を吸引できるので、試料・試薬の余剰分を必要とせず、全量を定量として取り扱うため、全量を対象とした高精度な検査を実現することができる。 しかも、構成が簡単であるため、廉価に提供することもできる。 第二の発明は、第一の発明において、前記空隙部は、前記液体吸排ラインの口径よりも長い寸法の断面略凹状に形成された溝である。 この溝の深さは特に限定はないが、全量吸引を達成するためには、該溝の深さを浅く形成するのが望ましい。 これによって、第一の発明で奏する効果をより一層徹底することになる。 第三の発明は、第二の発明において、前記溝は、放射状に形成された複数条の溝である。 「放射状」には、星状や、クロス状、三叉路状の形状等も含む。 第四の発明は、第一の発明において、前記空隙部は、前記液体吸排ラインの先端部の口径よりも幅狭の複数個の凹凸で形成されているものである。 第五の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかにおいて、前記空隙部は、容器本体の内底部中心に向かって下がり勾配で形成されているものである。 この発明によって、容器内の液体をほぼ全量、確実に吸引させることができる。 第六の発明は、第一の発明乃至第五の発明のいずれかにおいて、前記容器本体は、複数個の液体等の収容部が列状に配列されたカートリッジまたはマイクロプレートで構成されているものである。 本発明によれば、容器を高密度に集積することによって、省空間を実現し、且つ内容物の移動距離を短縮して、高速に且つ機敏な動作で、省エネルギで効率良く処理を行うことができる。また、収容部を高密度に集積することによって、簡単な構造で、製造しやすく、安価な容器を提供することができる。 また、カートリッジやマイクロプレートに、測定用収容部等を集積しているので、1つの容器で、処理をその完了まで一括して行うことができるので、機械的な駆動を削減して、処理を効率的且つ迅速に行うことができる。 第七の発明は、第六の発明において、前記収容部は、夫々楕円形の平面形状を有して構成されたものである。 この発明にあっては、略楕円形に形成されているので、液体を吐出したときに液体の流れが不規則となって撹拌効率が向上される。 この発明において、容器は、断面略凹状に形成された単体の容器で構成し、或は、容器本体に複数個の液体収容部を直列に配列したカートリッジ容器またはマイクロプレートで構成してもよく、カートリッジ容器またはマイクロプレートとした場合であっても、上記液体収納部を、平面形状が夫々楕円形となるように構成するのが望ましい。 第八の発明は、第六の発明又は第七の発明のいずれかにおいて、前記各収容部は、処理の内容に応じて定まる種々の形状又は容量を有するものである。 これによって、必要な処理を1つの容器内で全て間に合わせることができるように構成することができるので、効率良く且つ迅速に処理を行うことができる。」 (引1-3)「【発明を実施するための最良の形態】 【0005】 以下、添付図面に示す実施例に基づき、この発明を詳細に説明する。 図1乃至図6は、この発明の第1実施例に係る容器を示しており、この実施例に係る容器10は、ガラスやプラスチック等で一体形成された容器本体11と、この容器本体11の一端に形成された摘み12とを有して構成されてなるカートリッジ容器で構成されており、上記容器本体11には、複数個(図示の例では9個)の液体収容部13A乃至13Iと、測定用容器14を着脱自在に保持する容器保持穴13Jと、が形成されている。 ・・・ 上記9個の液体収容部13A乃至13Iは、平面形状が略楕円形に形成されていると共に、各底部15が断面略V字状(図示の例では交差角度が90°)に形成され、かつ、図1に示すように、上記各底部15の内底部15aには、断面略凹状の1条の溝16が各内底部15aの傾斜面に沿って形成されている。 この溝16は、その幅寸法dが、図8と第9図に示すように、ピペットチップ21の先端部22の口径寸法Dよりも小さく形成されている(D>d)と共に、該溝16の長さは、上記先端部22の口径寸法よりも長く形成されているので、ピペットチップ21の先端部22が上記各内底部15aに当接しても、図8に示すように、各液体収容部13A乃至13I内に収容された試料・試薬が、該溝16を流れて全量吸引することができ、この種の装置における厳密な定量性を確実に保証することができ、また、試料・試薬の無駄も排除することができる。 ・・・ 図10は、この発明の第2実施例に係る容器10の液体収容部13の平面図であり、この実施例では、前記第1実施例の溝16と同様に形成されてなる溝16Aを放射状に形成することで、液体収容部13内の試料・試薬の全量吸引・吐出をより迅速に、かつ、確実に行なうように構成されている他は、他の構成・作用は、前記第1実施例と同様であるので、その詳細な説明をここでは省略する。 図11は、この発明の第3実施例に係る容器10の液体収容部13の平面図であり、この実施例では、前記第1・第2実施例の溝16,16Aに代えて多数の突起または凹孔16Bを形成し、これら各突起または凹孔16B間の寸法をピペットチップ21の先端部22の口径寸法よりも小さく、かつ、ピペットチップ21の先端部22の開口寸法よりも若干大きく形成することで、試料・試薬の全量吸引・吐出を実現できるように構成した他は、他の構成・作用は、前記第1実施例と同様であるので、その詳細な説明をここでは省略する。 ・・・ 尚、以上説明した実施例において、上記各容器10は、直列状に液体収容部13A乃至13Iを設ける場合のみならず、マイクロプレート状に形成する場合のみならず、ループ状又はジグザグ状等の列状に構成されてもよい。或は、単体の容器を上記液体収容部と同様に構成してもよい。」 (引1-4)【図1】 「 」 (引1-5)【図8】 「 」 (引1-6)【図10】 「 」 (引1-7)【図11】 「 」 2 引用例1に記載された発明の認定 (引1-3)に 「単体の容器を上記液体収容部と同様に構成してもよい」と記載されていることから、引用例1には、第1実施例及び第2実施例に係る容器の液体収容部と同様な構成を有する単体の容器が記載されているものと認められる。 よって、上記(引1-1)ないし(引1-7)の記載から、引用例1には、 「 平面形状が略楕円形に形成されていると共に、底部が断面略V字状に形成され、底部の内底部には、断面略凹状の溝が内底部の傾斜面に沿って放射状に形成され、この溝は、その幅寸法dが、ピペットチップの先端部の口径寸法Dよりも小さく形成されている(D>d)と共に、該溝の長さは、上記先端部の口径寸法よりも長く形成されているので、ピペットチップの先端部が上記内底部に当接しても、収容された試料・試薬が、該溝を流れて全量吸引することができるように構成されており、該溝を放射状に形成することで、試料・試薬の全量吸引・吐出をより迅速に、かつ、確実に行なうように構成されている、単体の容器。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 3 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-329693号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 (引2-1) 「【0008】前記カートリッジラック6は、その下面域の前後面を僅かに傾斜したテーパー面に形成され、前記ラック装着部41に対して着脱自在、即ち嵌着自在に構成されており、複数に独立させてパーティション配列させたカートリッジ容器5のセット部61、61、・・・が都合6列設けられていると共に、該カートリッジラック6を、前記ラック装着部41から取り外した状態でカートリッジ容器5の抜き差し操作が行うことができるようになっている。なお、例示したカートリッジ容器5は、予め試薬が投入された都合10個の子容器51、51、・・・が基面部52の下面域に一列に配設された樹脂一体成形品であり、前記基面部52の表面に遮光フィルムが貼着されて試薬を密封構成してなる公知のものである。また、単体容器を用いる場合には、夫々がセット可能な複数のセット孔71が形成されたセットプレート7を用いるようにする。」 (引2-2) 【図2】 「 」 4 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平11-515106号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 (引3-1) 第6頁13?18行 「 本発明のもう1つの構成によれば、保持フレーム内 に受容された容器が固定される。これによって、容器が間違って保持フレームから落下しないこと、かつ回転運動を負荷する際に容器が常にフレーム内の同一の箇所にとどまることが保証される。有利に固定は弾性的にばね作用する(wegfedernd)係止突起によって行うことができ、これはきわめて迅速で簡単な取扱いを保証する。」 (引3-2) 第8頁下から3行?第9頁18行 「 図示の試薬容器18は保持フレーム26から形成されており、保持フレームは全部で4つの容器28,30,32,34を受容し、容器は試薬容器12,14,16よりも小さな容積を持つ。容器28?34はほぼ円筒形の形状を有し、かつ上面で同様に保護されたゴム 円形部材21で閉鎖されている。ここでは容器28?34は保持フレーム26内の対応する室内に挿入されている。 全容器28?34が回転可能に保持フレーム26内に受容され、容器34は下面に成形されたギアリング36を備える。・・・ 第4図に示されているように、容器34は容器の縁上へ係合した2つの係止突起37,38(当審注:「係止突起37,38」は「係止突起37,39」の誤記と認める。)によって保持フレーム26内に固定されている。係止突起の柔軟な構成に基づき容器34は第4図に示された位置へ押込む、またはここから取り出すことができる。」 (引3-3) 【図2】 「 」 (引3-4) 【図4】 「 」 第4 本願発明と引用発明との対比 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「単体の容器」は、「試料・試薬が」「収容され」るものであり、「試薬が」「収容され」る場合には、試薬管ということができるものである。 よって、引用発明の「単体の容器」は、本願発明の「試薬管」に相当する。 (2)引用発明の「単体の容器」は「底部」及び「内底部」を有するものであり、引用発明の「単体の容器」が、本願発明の「管本体を有し、前記管本体は、頂部と、底部と、内面を有し、前記管本体の頂部、底部及び内面は、液体を収容するように構成された容積部を定め」る構成に相当する構成を備えたものであることは、明らかである。 (3) ア 引用発明の「内底部」は、本願発明の「内面の底部」に相当する。 イ 引用発明の「断面略凹状の溝」と、本願発明の「凸状の隆起部」とは、内面の底部から垂直方向に変位した変位部である点において共通する。 ウ 引用発明の「放射状に形成され」ることは、本願発明の「半径方向に延び」、「パターンを有」することに相当する。 エ (引1-6)の【図10】を参酌するに、引用発明の「内底部の傾斜面に沿って放射状に形成され」た「断面略凹状の溝」は、「単体の容器」の「内底部」の中心に配置されているといえる。 オ 引用発明の「断面略凹状の溝」は、「内底部の傾斜面に沿って」「形成され」ていることから、「内底部」に対して垂直方向にへこんでいること、すなわち、「内底部」から垂直に延びていることは明らかである。 カ 上記アないしオを踏まえると、引用発明の「底部の内底部には、断面略凹状の溝が内底部の傾斜面に沿って放射状に形成され」ていることと、本願発明の「半径方向に延び且つ」「試薬管の内面の底部の中心に配置された凸状の隆起部のパターンを有し、前記隆起部は、」「管本体の内面の底部から垂直方向に延び」ているものであることとは、「半径方向に延び且つ試薬管の内面の底部の中心に配置された内面の底部から垂直方向に変位した変位部のパターンを有し、前記変位部は、管本体の内面の底部から垂直方向に延び」ているものである点において共通する。 (4)上記(3)イ及びウを踏まえると、引用発明の「溝は、その幅寸法dが、ピペットチップの先端部の口径寸法Dよりも小さく形成されている(D>d)と共に、該溝の長さは、上記先端部の口径寸法よりも長く形成されているので、ピペットチップの先端部が」「内底部に当接しても、収容された試料・試薬が、該溝を流れて全量吸引することができるように構成されており、該溝を放射状に形成することで、試料・試薬の全量吸引・吐出をより迅速に、かつ、確実に行なうように構成されている」ことと、本願発明の「隆起部のパターン及び前記隆起部は、」「試薬管内に収容された液体の実質的に全てをピペット操作することを可能にするように構成される」こととは、内面の底部から垂直方向に変位した変位部のパターン及び前記変位部は、試薬管内に収容された液体の実質的に全てをピペット操作することを可能にするように構成されることである点において共通する。 2 一致点及び相違点 してみると、本願発明と引用発明とは、 「 試薬管であって、 管本体を有し、前記管本体は、頂部と、底部と、内面を有し、前記管本体の頂部、底部及び内面は、液体を収容するように構成された容積部を定め、 さらに、半径方向に延び且つ前記試薬管の内面の底部の中心に配置された内面の底部から垂直方向に変位した変位部のパターンを有し、前記変位部は、前記管本体の内面の底部から垂直方向に延び、前記変位部のパターン及び前記変位部は、前記試薬管内に収容された液体の実質的に全てをピペット操作することを可能にするように構成される、試薬管。」 の発明である点で一致し、次の2点で相違する。 (相違点1) 内面の底部から垂直方向に変位した変位部が、本願発明は、「凸状の隆起部」であるのに対し、引用発明は、「断面略凹状の溝」である点。 (相違点2) 試薬管が、本願発明においては、「管ホルダストリップ内に挿入可能」であり、「管本体の頂部のところで半径方向に延びるリップを有し、前記リップは、管ホルダストリップ内に挿入した後の試薬管を保持するために、管ホルダストリップの協働構造部と係合してロックするように構成され」ているのに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。 第5 当審の判断 1 上記各相違点について検討する。 (1)相違点1について (引1-3)の「図11は、この発明の第3実施例に係る容器10の液体収容部13の平面図であり、この実施例では、前記第1・第2実施例の溝16,16Aに代えて多数の突起または凹孔16Bを形成し、これら各突起または凹孔16B間の寸法をピペットチップ21の先端部22の口径寸法よりも小さく、かつ、ピペットチップ21の先端部22の開口寸法よりも若干大きく形成することで、試料・試薬の全量吸引・吐出を実現できるように構成した」との記載によれば、試料・試薬の全量吸引・吐出を実現するために重要な事項は、ピペットチップ先端部の周囲に存在する液体が内底部を流れてピペットチップ内に吸引されるような流路を確保すべく、ピペットチップ先端部の口径寸法に応じた寸法の凹凸形状を内底部に形成することであり、その凹凸形状は、凹部を形成することに限定されず、凸部を形成することでもよいことが理解できる。 してみると、引用発明において、試料・試薬の全量吸引・吐出を実現するために内底部の傾斜面に沿って放射状に形成するものを、断面略凹状の溝に代えて凸部、すなわち凸状の隆起部とし、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について ピペットにより分注を行う分析装置において、複数の液体収容部を一体に形成したカートリッジ容器と、複数の容器収容部を有する管ホルダストリップの各容器収容部に単体の容器を挿入してなる複数の容器を有する管ホルダストリップとが、同等に用いられていることは、引用例2にカートリッジ容器に代えて単体容器がセット可能な複数のセット孔が形成されたセットプレートを用いることが記載されているように、本願優先日前において周知な事項である(以下「周知技術1」という。)。 (引1-3)には、第1ないし3実施例がカートリッジ容器として記載され、単体の容器をそれらの液体収容部と同様に構成してもよいと記載されていることから、上記周知技術1を踏まえると、引用発明である単体の容器は、複数の容器収容部を有するプレートの容器収容部に挿入して使用することも想定したものであるといえる。 また、管ホルダストリップの容器収容部に挿入して用いる容器において、その本体頂部のところで半径方向に延びるリップを形成することも、(引3-4)に例を見るように、本願優先日前において周知な事項である(以下「周知技術2」という。)。 なお、(引3-4)においては、リップの途中から上方に延び、容器の中心軸に向かって湾曲した部分を有しているが、当該部分は容器を閉鎖するゴム円形部材21を係止するために必要となる部分であり、ゴム円形部材21を用いない容器においては、当該部分を必要とせず、リップは本体頂部のところで半径方向に延びる部分のみでよいことは明らかである。 よって、引用発明において、管ホルダストリップの容器収容部に挿入して用いるために、単体の容器の頂部のところで半径方向に延びるリップを形成することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のうち、「リップは、管ホルダストリップ内に挿入した後の試薬管を保持するために、管ホルダストリップの協働構造部と係合してロックするように構成され」ていることは、専ら管ホルダストリップの協働構造部の構造によりロックされる構成を包含するものであり、リップの形状・構造等に関して何ら特定を加えるものとはいえない。 仮に、そうとはいえないとしても、引用例3に容器の縁(本願発明の「リップ」に相当。)上に係止突起(本願発明の「協働構造部」に相当。)を係合させて容器を保持フレーム内に固定(本願発明の「ロック」に相当。)し、容器が保持フレームから落下しないようにすること(以下「引用例3技術」という。)が記載されていることから、引用発明において単体の容器の頂部のところで半径方向に延びるリップを形成する際、引用例3技術に基づき、当該リップが係止突起に係合できるように構成することに、格別な困難はない。 してみると、引用発明において、上記周知技術1及び2、又は、上記周知技術1及び2並びに引用例3技術に基づき、単体の容器の頂部のところで半径方向に延びるリップを形成し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。 2 本願発明の奏する作用効果 本願発明によってもたらされる効果は、引用例1ないし3の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。 3 まとめ 以上のとおりであり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2、又は、引用発明、周知技術1及び2、並びに引用例3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、請求人は、審判請求書の請求の理由(3)(カ)において、「突起を採用した場合、ピペットチップの先端部は内底部から浮かせた状態になるのに対し、引用文献1(当審注:本審決における引用例1)の4頁34?37行には、「また、ピペットチップの先端部を容器の内底部から浮かせた状態で液体を吸引し吐出する場合、該ピペットチップの外表面に試料・試薬が滴着し易く、この滴着した試料・試薬によって試料濃度が変動するため、高精度な分析結果が得にくい、という問題も有していた。」と記載されています。従って、突起を採用した場合、全量吸引・吐出ができないことになります。」と主張しているが、上記引用文献1の記載は、突起を設けていない従来技術における問題点を指摘したものであって、突起を設けた場合には、ピペットチップの先端部は内底部から浮かせた状態とはなるが、突起に当接させた状態で液体の吸引・吐出を行うこととなり、ピペットチップの外表面に試料・試薬が滴着するといった問題の発生が防止されることは明らかであるから、上記請求人の主張は採用することができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-24 |
結審通知日 | 2016-08-29 |
審決日 | 2016-09-12 |
出願番号 | 特願2013-94602(P2013-94602) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷 潮 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
田中 洋介 渡戸 正義 |
発明の名称 | 試薬管及び試薬収容システム |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 松下 満 |
代理人 | 井野 砂里 |
代理人 | 倉澤 伊知郎 |
代理人 | 渡邊 徹 |